ルナのことを好きになったのはいつからだったのだろう。最初は―――正直苦手だった。うざったかった。  
綺麗事ばかり吐く偽善者―――ひどい時にはそんなことを思ったりした。どうせいつか化けの皮が剥がれる。  
そんなことを思いながら、俺はどこか冷めた目で彼女を見ていた。  
 
 でも、違った。どんなに苦しいときでも、ルナはいつも見てる方が呆れるくらいみんなに対して真っ直ぐで、  
正直で―――それは他人に対して心を閉ざしていた俺に対しても同じだった。そしてそれはゆっくりだが、  
確実に俺の心を温かくしていってくれた。闇の中を彷徨っていた俺を光の中へ導いてくれたのは紛れもなく彼女。  
でも、そんな彼女も実は俺と同じような闇を彷徨っていて、強さの裏にはちょっとつつけばアッサリ壊れてしまう  
ような脆さも存在している。全く対に思える俺と彼女は、実は非常に似ている人間だったのだ。  
 
 ルナは、彼女は、俺を闇の中から救い出してくれた。今度は俺の番だ。ルナを闇の中から救い出してあげたい、  
そして護ってあげたい。他の誰でもない、この俺の手で、だ。そう思った瞬間、彼女のことがたまらなく愛おしく思えた。  
ルナのことが好きになったのだ。……正直、最初はそんな自分に戸惑っていたし、この俺がそんなことありえない、  
などという気持ちもなくはなかったが、でもこれが人を好きになることなのだと認識したとき、そんな気持ちも消えていった。  
   
 ルナは俺が護る。そして俺は、ルナを護るための特別な存在でありたい―――  
 
 でも、それはただの自惚れだった。  
 
「なぁなぁ、ルナもベルのこと好きなのかよォ!」  
 ……空気の読めないヤツだ。ハワードのことをこれほど忌々しいと思ったことはない。脱獄囚に捕まった時だって、  
こんな気持ちにはならなかった。だが、この際そんなことはどうでもいい。ハワードのからかいに対するルナの答えに  
俺はショックを受けた。  
「………好きだよ」  
 ―――ルナはそう言った。  
 
 いや、わかっている、わかっているのだ。ルナは『仲間』としてベルのことを好きだと言ったということは。  
ルナにとっては、ベル、ハワード、メノリ、シャアラ、シンゴ、チャコ、アダム、そして俺、みんな大切な  
『仲間』。早くに両親を失い、ずっと孤独だったルナにできた、家族同然の『仲間』なのだ。そして、彼女の  
心を密かに蝕んでいた闇から彼女を救い出し、護ったのは『俺』でもなんでもない、『仲間』なのだ。  
 
 もちろん、『俺』も『仲間』の一人であることは間違いない。でもそれは、俺はルナにとって『仲間』  
ではあるが、それ以上の特別な存在ではないということであり、ルナにとって特別な存在でありたいと  
思っていた俺の願いは叶わないということであった。  
 
――――結局、俺はルナにとって『特別な存在』などではなく『仲間』でしかないのだ。  
 
…………そんなこと、初めっからわかりきっていたことじゃないか。俺はどうかしていた。自惚れていたんだ。  
ちょっとルナとの絡みが多くなっただけで、調子に乗っていたんだ―――  
 
 でも、俺はルナにとって特別な存在ではないということを思い知らされたとき、どうしようもないほどに胸が苦しくなった。  
 
 その夜は、やっぱり眠れなかった。昼間のことを思い出しただけで、ルナのことを考えただけで、  
とてつもなく胸が苦しい。  
 
(クソッ………)  
 
 俺はひとり、みんなが眠る部屋から抜け出して外に向かった。  
 
 ひんやりとした空気が俺を包む。空にはこの星の衛星――地球でいうのなら月――が出ており、  
思いのほか明るかった。そんな中、俺は昼間魚を釣った川岸のところまで歩いていき、そこで腰をおろした。  
 
(ルナ…………)  
 
 目を閉じても、浮かんでくるのはルナの笑顔ばかり。それが頭に焼き付いて離れない。自分はルナにとって  
特別な存在になれない―――それがこんなに苦しいことだったとは…………人を好きになるということが  
こんなに苦しいものだなんて思いもしなかった。いっそのこと、ルナのことが嫌いになれたらどんなに楽だろう。  
でも、そんなことはできなかった。  
 
(どうすればいい?俺は一体どうすれば――――)  
 
 そのときだった。  
 
「わっ!!」  
「うお?!」  
 
 背後からいきなり大きな声が響き渡り、周囲に対して全く無警戒だった俺はいきなりのことに激しく驚いた。  
 
「あはははっ、大成功!カオルにでもこんなことが通用するのね」  
 
 ルナだ。ルナが俺の後ろからそっと忍び寄ってきて、俺を驚かせたのである。そこには、  
俺の頭に焼き付いて離れない、いつものように屈託のないルナの笑顔があった。  
 
 ―――途端に胸が今まで以上に締め付けられるような感覚を覚える。今俺に向けられているこの笑顔も、  
俺に対してだけのものじゃない。みんなに対しても同じ。決して俺だけのものにはならないのだ………  
 
「ね?怒っちゃった?……ごめんね」  
 
 俺が黙っているのを見て気分を害したのだと受け取ったのか、ルナは一応俺に謝った。  
 
「い、いや……そんなんじゃない……大丈夫だ」  
 
 ルナは、俺の右に腰を下ろした。  
 
「そう…ならよかった………で、カオルはどうしたの?こんなところに一人で」  
 
 まさか、お前のことを考えていたなどということは出来ないだろう。  
 
「ちょっと…眠れなくてな………ルナは?」  
「目が覚めたらカオルが居なかったから……心配になって外に出てみたのよ」  
 
 それだって、『仲間』を気にかけての行動であり、『俺』個人に対しての感情からの行動じゃない。  
ベルでも、ハワードでも、シンゴにでも同じ事をするはずだ。そのことがますます俺を苦しくさせる。  
 
「………みんなは?」  
「ぐっすり眠ってるわ。きっと相当疲れてたのね。まあ10日もかけて大陸に渡って来たんだし、無理もないよね」  
 
 瞬間、俺は驚愕した。今俺の頭をよぎった考えに対して、だ。みんなはよく眠っている。それにここは無人惑星だし、  
今何をやったって誰にも気づかれることはない。そう……彼女を俺のものにしたって………彼女を、ルナを俺のものに――――  
 
 そこで俺は我に帰った。  
 
 ―――違う。何をバカなことを考えているんだ、俺は。わかっているじゃないか。そんなことをすれば彼女は傷つくし、  
そもそもそんなことは俺の望むことじゃない。違うんだ……でも…このままでは彼女は……  
 
「カオルは疲れてないの?」  
「あ…ああ、俺は大丈夫だ。ルナこそ疲れていないのか?」  
 
 胸の内を悟られないよう、平静を装って話す。  
 
「わたし?わたしも大丈夫よ……ね、星がとっても綺麗ね」  
 
 そう言って、ルナは満天の星を見上げた。大気がきれいなこの惑星では、夜になると空一面に星が広がり、  
まるで星が手に取れるかのような感覚を覚える。だが、今の俺は星どころじゃない。  
 
(…ルナ…っ……!!)  
 
 俺の中で、抑えられないどす黒い欲望がもの凄い勢いで広がっていくのがわかった。手に入れられないものだからこそ、  
ますますそれが欲しくなる。  
 
 彼女が―――欲しい―――  
 
 ―――ダメだ。これ以上二人きりで居たらおかしくなる。いつ彼女を傷つけるようなことをしてしまうかわからない。  
 俺は黒い欲望に支配されそうになりながらも、残った理性で必死にそれを抑えようとする。  
 
「ルナ…っ……船に戻ってくれっ…」  
 
 やっとのことで言葉を紡ぎだす。俺がどこかに行けばいいじゃないか。そう思った。でも、  
今身体を動かしたら何をしてしまうかわからない。  
 
「え?どうして?」  
 
 ルナは空に向けていた顔をこちらに向ける。だが、今の俺にはそんなことでさえ刺激が強すぎる。  
歯を食いしばり、必死で自分を抑えようとする。  
 
「早く戻ってくれ、でないと俺は……っ」  
 
 その途端、ルナは心配そうな顔になった。俺の顔が相当苦しそうだったらしい。  
 
「ど、どうしたの、いきなり……何かあったの?」  
「…………っ」  
「ね、何かあったのなら話してみて?わたしたちは『仲間』でしょ―――――?」  
 
 
 ―――俺の中で何かが弾けた。全身の血が沸騰するかのような、そんな感触。残った理性が全て砕け散り、  
欲望が俺の全身を支配した。  
 
ルナッ………もう……ダメだ―――――  
 
 瞬間、俺は何かに吸い寄せられるかのように彼女の肩を掴んで地面に押し倒した。  
 
「きゃっ!!!」  
 
 いきなり自分を襲う衝撃に悲鳴を上げるルナ。あっけないほど簡単に彼女の身体は大地に張り付いた。  
 
「あぅぅ……」  
 
 いきなりのことだ。俺に押し倒されたなんてわからないだろう。  
 
「いった〜い………ど、どうしたの?一体何が―――」  
 
 反射的に閉じてしまった目をうっすらと開ける。ここに至って、ルナはようやく自分が押し倒されたことに  
気がついたようだ。そして俺の目に宿る狂気の光にも―――  
 
「カ……カオル……?」  
 
 いつもと明らかに違う俺の様子に、ルナは本能的にたじろいでいるようだった。  
 
「俺のせいじゃない……」  
「え………?」  
 
「ルナが悪いんだ……ルナが…ルナが俺の気持ちに気付かないからっ…」  
「な…なに言ってるの…?」  
 
 そうだ、全部ルナが悪いんだ。好きなのに――こんなに好きなのに―――なぜ俺の気持ちに  
気付いてくれない―――!?  
 
「カオル…?………!!……まさか…!!」  
 
 こういうことに関しては鈍いルナも、ようやく俺の言っていることを理解したようだった。  
そしてこれから何が起こるかも。でも、もう手遅れだ。俺は荒い息を吐きながら、彼女との距離を縮めていく  
 
――――彼女を俺のものにするために―――  
 
「ちょっ…嘘でしょ!?…や、やめてっ!!」  
 
 恐怖の色がルナの顔に浮かぶ。  
 
「ルナっ…!!」  
「放して!!やめ―――むぐぅ!!」  
 
 俺は、一気にルナの唇を奪った。  
 
「んっ……んんっ…むっ…んぅっ……!」  
 
 俺の下でルナが暴れ出す。無駄だ。俺とルナとでは身体能力のケタが違いすぎる。力を込め直して  
ガッチリ押さえ込むと、ルナは身動きすらできずに喘ぐことしかできなかった。  
 
「…ふ…ぅん……ぷはぁっ、やめてぇ……っ!!」  
 
 俺が唇を離した途端、ルナが悲痛な表情で叫び声を上げる。だが、ここは船からそこそこ離れているし、  
なおかつ気密性の高い船の中でぐっすりと眠っているみんなに声が届くはずはない………無意識のうちに  
俺はそんな計算をしていたのである。そしてルナの表情と叫び声は、俺の欲情をいっそう煽る結果となった。  
 
「ルナッ……好きだ……好きなんだ、ルナのこと……!!」  
 
 俺はそう言うと、間髪入れずにもう一度ルナの唇にむしゃぶりついた。  
 
「やっ―――む…っ……んん……」  
 
(ルナ、ルナ…っ!!)  
 
 自分の下で喘ぐ少女への征服感に酔いしれそうになる。だが、そのときだった。  
 
 
ガリッ―――  
 
「っ―――!!」  
 
 いきなり唇に激痛が走り、俺は反射的に身を引いてしまう。瞬く間に口の中に広がる血液の味。  
―――噛まれたのだ。ルナの激しい拒絶―――――そして、俺が一瞬怯んだ隙に、  
ルナは信じられないような力で下から俺を突き飛ばし、起き上がって脱兎の如く逃げ出した。  
 
 
 
―――逃がさない――――  
 
 
 
 身体の中から湧き上がって来る激情に身を任せ、俺は本能のままにルナを追いかけた。おもしろいほど  
簡単にルナとの差は縮まっていって、そして俺はまるでチーターが獲物を捕らえるかの如く、ルナに後ろから  
飛び付いて地面に押し倒した。  
 
「あうっ―――!!」  
 
 うつぶせに押し倒したルナをすぐさま地面から引き剥がし、ひっくり返して仰向けにする。飢えた獣が生肉を  
丸呑みするかのように、俺はルナの身体に覆いかぶさっていった。  
 
―――俺のモノ、彼女は俺のモノだ。他の男には絶対渡さない。ルナの心も、身体も、全部………  
 
――――オレダケノモノニシテヤル――――  
 
 
 今度は首筋に顔を埋め、唇を落とす。ルナの香りがする。これだ。口の端から垂れる血もそのままに、  
俺は夢中になってその香りを貪った。  
 
「ルナっ、好きで好きでたまらないんだ……俺を…受け入れてくれ……!!」  
「いやぁっ……!!放してぇっ!!お願い!もうやめてェェ―――――っ!!」  
 
 ―――――ルナの瞳から、涙が零れた。キラキラと光りながら、次から次へと溢れ出してくる。  
 
………今までどんなに苦しいことがあっても、どんなに辛いことがあっても、決して涙を見せることのなかったルナが、  
涙を見せている………?  
 
 それを見た瞬間、俺の動きが止まった。あれほど昂ぶっていた気持ちが一気に冷め、  
代わって罪悪感の波が押し寄せてくる。  
 
「…俺………」  
 
 ルナを押さえつけていた力が弱まる。  
 
「……俺……は………」  
 
 傷つけた。彼女を傷つけたのだ。彼女を護りたい、そう思いながら、結局は俺が彼女を  
傷つけているではないか。さっきまでの俺はただただ欲望に溺れた醜い雄に違いなかった。  
俺のしたことがどれだけルナに恐怖を与えたのか、それを考えただけで吐き気がしてくる。  
 
―――なんでこんなこと………俺は最低の人間だ………  
 
 そう、俺は自分の欲望の追及のみを考え、相手のことを考えられない最低の人間だ。そして、  
そんな最低の人間は、次の瞬間にルナの渾身の平手打ちを喰らっても仕方なかった。  
 
ぱぁんっ  
 
「ハアッ……ハア………」  
「……………」  
 
 ルナと目を合わせることができない。あまりに無責任な自分の行動に、俺はこの世から  
消えてしまいたい気分になった。だが、そんな術はない。  
 
「……最低っ………」  
 
 その声には涙が混じっていて、それだけ言うと、ルナは俺を突き飛ばし、全速力で逃げていく。  
俺はそこに尻もちをついたまま、どうすることもできなかった。  
 
 もう、俺にはルナのことを好きだなんていう資格はない。護るなんていう資格もない。もちろん、  
彼女の傍に居るという資格も………  
 
 その後、俺はみんなと同じ部屋に戻ることもできず、結局操縦室で夜を明かした。もちろん、  
ほとんど眠れなかった。操縦室に差し込んでくる朝の光がまぶしい。だが、今の俺にはそんなものさえ鬱陶しく思えた。  
 
「ああ、こんなところにいたの、おはよう、カオル」  
 
 ベルだ。手には水と朝食を持っている。……昨夜の出来事を知ったら、ベルはどう思うのだろうか。  
そんなことを考えた途端、ベルに対しても罪悪感のようなものを感じ、俺はまともにベルと顔を  
合わせることができなかった。  
 
「……ああ、おはよう」  
「随分と早起きだね、こんなに朝早くから」  
 
 どうやら、ベルは俺が早起きして操縦室に居たものだと勘違いしているらしい。  
 
「…まあな」  
「いよいよ今日からメインコンピューターを目指して大陸内部へ進んでいくことになるね」  
 
 ……そうだった。ルナのことばかりを考えていて、そっちのことが頭からスッポリ抜け落ちていた。  
俺たちの目標は生きてコロニーに帰ること。そしてそのためには、とりあえずこの星を管理する  
メインコンピューターに辿り着かねばならない。  
 
「いろいろと大変だろうけど、頑張ろう。頼りにしてるよ、カオル」  
「…ああ………」  
 
 平静を装っていたつもりだったのだが、俺の変調をベルは敏感に感じ取ったようだ。  
 
「…どうかしたの?」  
「え?」  
「いや……なんかいつもより元気がないみたいだからさ」  
「…そんなことはない…大丈夫だ…」  
「そう、ならいいけど…」  
 
 ……気が重い。もうすぐみんなで集まる時間だ。当然、ルナとも顔を合わせることになる。  
どんな顔をしてルナに接すればいいのか、わからない。怖かった。時間が止まってほしい。  
 でもそれは決して叶わないことで、ついにルナが操縦室に入ってきた。シャアラ、メノリ、アダムも一緒だ。  
 
「おはよう、みんな!!」  
 
 ルナは明るい顔でそう言った。いつものように一点の曇りもない笑顔――――  
 
「さ、いよいよ大陸よ。メインコンピューター目指して頑張りましょう」  
 
 今後の相談が始まる。とりあえず、食料と水はあと三、四日分は残っている。しばらくは川を遡って行き、  
食料と水を確保しながらメインコンピューターを目指すのがいいだろうということになった。その間もルナは  
至って普通で、いつもと何ら変わりはない――――少なくとも、みんなにはそう見えただろう。  
 
 だが、俺は気付いていた。ルナは、操縦室に入ってきたときから決して俺と目を合わせようとはせず、  
決して俺に近づこうとはしない。―――当然だ。昨夜、あんなことをしたのは俺なのだから。全て自業自得。  
そして、昨夜の出来事はやっぱり夢ではなかったのだ、ということを改めて認識させられる。  
 
 自分には、もはや彼女のことを好きという資格はないのだ。でも、やっぱり彼女のことが好きで―――  
胸が、苦しい。今更ながら、あんなバカなことをした自分の浅はかさが悔やまれる。  
 
―――と、そのときだった。  
 
「ねぇ、ルナァ」  
 
 退屈してきたのか、アダムが操縦席の傍に立っていたルナに、後ろから突然しがみついた。  
アダムはいつものように、ただルナに甘えたかっただけで、他意はなかったに違いない。そして、  
いつものルナなら「あらあら」とでも言ってアダムを受けとめただろう。だが……  
 
「―――ッ!!やめてっ!!」  
 
 いつものルナからは考えられないような、鋭く、そして刺々しい口調。ルナは反射的にアダムを振り払っていた。  
 
「あっ」  
 
 アダムは、その場に尻もちをついてしまった。  
 
「…ルナ……?」  
 
 アダムを含め、みんなが怪訝そうな顔でルナを見る。それはそうだろう。ルナはアダムを、目に入れても痛くないほど、  
というのは言い過ぎかもしれないが、とてもかわいがっており、気にかけていた。突然後ろからしがみつかれたくらいで  
怒るはずはない。  
 
「あ…………」  
 
 一瞬、ルナは泣きそうな顔になったが、すぐに笑顔を取り戻してアダムに謝った。  
 
「ご……ごめんね、アダム。ちょっと驚いちゃって……」  
「う…うん……」  
 
 
 
―――その様子を、俺は苦々しい思いで見ていた。ルナには、俺に後ろから押し倒されたときの恐怖が染み付いているのだ…と。  
一見、いつもと変わらないように見えたのも、ただルナが無理をしているだけだったのだ。俺がルナにつけてしまった傷は、  
とてつもなく大きい……。  
 
 俺の苦悩はますます深まるばかりで、その日は結局ルナと一言も言葉を交わせないまま終わってしまった。  
 
 
 次の日も同じだった。朝からルナとは喋るどころか、目を合わせることすらなく………  
一度だけ、一緒に操縦室の当番をする時間帯が予定されていたのだが、その時間に操縦室に現れたのはシャアラだった。  
 
「…ルナは……?」  
「うん…ちょっと気分が悪いから当番代わってほしいって……大丈夫かしら」  
「そうか………」  
 
 避けられている――――。すぐにわかったが、どうしようもない。  
 
 ずっとこのままなのだろうか。俺は苦悩を抱えたまま、ルナは傷ついたまま。この先ずっと  
このままだったら――――想像するだけで恐ろしかった。  
 
 ………このままではいけない。このままでは、ルナにとっても、俺にとっても、  
マイナスのことが続くばかりだ。……俺の心は決まった。  
 
 ルナに、謝ろう――――  
 
 謝っても、ルナは許してはくれないかもしれない。いや、許してはくれないだろう。それでも――――  
俺はルナに謝る義務があるのだ。  
 
 
 
『今夜、話がしたい。船の外で待ってる』  
 
 紙切れに、あえてこれだけを書いて、俺はこっそりとルナのベッドの中にそれを隠した。…来てくれるだろうか………  
正直、警戒して来てくれない可能性の方が大きいだろう。もし、そうなったら………。  
 その先を考えるのが恐ろしくもあり、また面倒でもあって、どうにでもなれという半分投げやりな気持ちで  
俺はその場を後にした。  
 
 夕方、オリオン号は適当な場所を選んで着陸した。みんなで夕食をとる。ルナはもうアレを見たのだろうか――――  
気が気ではなかったが、俺は努めて冷静に振舞った。チラチラとルナを見るが、やっぱりルナは俺と目を合わせてはくれなかった。  
 
 みんなが寝静まった頃、俺は音を立てないように船を出た。適当な場所を見つけ、そこに腰を下ろす。  
ただルナが来てくれることだけを信じて。  
 
 そして―――――  
 
「……カオ…ル………?」  
 
 ………来た。  
 
 来てくれたのだ。あんなひどいことをしたのに、もしかしたらまた同じ目に遭うかもしれないのに。  
それでも、ルナはもう一度俺を信じてここにやって来てくれたのだ。  
 
―――もう絶対に裏切ってはいけない。  
 
 まだ俺のことが怖いのか、ルナは俺からやや距離を置いて立ち止まった。俺が顔を向けると、ルナは慌てて顔を背けた。  
その顔には、やっぱり少しどこか怯えたような、そんな表情があって。  
 
(自業自得……だよな……)  
 
 それでも、俺はルナに謝らなければいけない。少々の沈黙の後、俺は意を決して言葉を切り出した。  
 
「ルナ………」  
「…………」  
「…すまなかった…………一昨日のこと…」  
「…………」  
 
 ルナはうつむいたまま、ただ黙って俺の言葉を聞いている。だが、俺はそのまま続けた。  
 
「俺は……俺、自分のことしか考えられなくて……」  
「…………」  
「ルナを傷つけてしまって………ルナの言った通り、最低の人間だ……俺は……」  
「…………」  
「許してもらおうとは思ってない………あれだけの酷いことをしたんだから……」  
「…………」  
 
 あれだけの酷いこと………。浅ましい欲望に負け、俺のことを心配してくれたその行動を利用するという  
卑怯なことをし、ルナを無理矢理自分のものにしようとした。拒絶を繰り返すルナを全く無視し、ただただ自分だけを  
彼女に押し付けた。そして、彼女に深い傷をつけてしまったのだ。………こんなことをして許してもらえるはずがない。  
 
「………それから……俺の言ったことは全て忘れてくれ……」  
「…………」  
「もう俺に……ルナのことを好きだなんていう資格はないから……」  
「…………」  
「…本当に…すまなかった……」  
 
 ………これで言うべきことは全て言った。もう、これ以上はどうしようもない。俺は、船に戻ろうと歩き始めた。  
もう、これで終わりだ。これが彼女との最後なんだ……と。そんなことを考えながら俺はルナの横を通り抜けた。  
 
 だが、そのときだった。  
 
ガシッ―――――  
 
「――――!?」  
「…………」  
 
 いきなり、ルナが俺の腕を掴んだのだ。突然のことに俺は驚く。そして、ルナはやや震えた声でこう言った。  
 
「……ごめん……なさい……」  
「…………?」  
 
 ルナの口から出たのは、謝罪の言葉。間違いなく、謝罪の言葉だった。………なぜ?どうして?  
……彼女が俺に謝る道理など、どこにもないはずなのに……  
 
 困惑する俺をよそに、ルナは続けた。  
 
「……わたし、本当は知ってた……」  
「…何をだ?」  
 
「…カオルの気持ち……本当は気付いてたの…」  
「………!!」  
「でも…わたしはみんなのリーダーで……一人だけ特別にするわけにはいかなくて……」  
 
 ここまできて、俺はようやくルナが何を言おうとしているのかを理解した。  
 
「だから…ずっと気付かない振りをしてきた……」  
「…………」  
「でも、それが…っ……ここまでカオルを苦しめていたなんて、追い詰めていたなんて……わたし知らなくて……」  
「…ルナ………」  
「…ごめんなさい……」  
「…もういい……もういいんだ……」  
「私の方こそ…許してくれる?」  
「ああ」  
 
――――ああ、結局、俺もルナもバカだったんだ。何も知らなかったんだ。それが互いを傷つける結果となって…………  
でも、この瞬間、俺たちはようやくお互いをわかりあうことができた。  
 
「それから……もう一つ、気付かない振りをしてたもの……」  
「…………」  
「わたし自身の気持ち……」  
 
 俺はルナを真っ直ぐ見つめ、ルナは俺を真っ直ぐ見つめる。そして……  
 
「仲間としてじゃなくて………一人の男の人として…」  
「………」  
 
「カオルのこと……大好きだよ……」  
「…ありがとう……ルナ……」  
 
 天にも昇るような気持ちだ。俺はルナを強く強く抱き締めた。俺はルナを護る。  
もう絶対にルナを悲しませるようなことはしない。そして何があろうと、誰であろうと、ルナに悲しい思いを  
させるようなこともさせない。絶対に俺が護ってみせる――――そんな思いが胸に溢れた。  
 
 そして――――何かに吸い寄せられるかのように、俺たちは唇を重ね合わせる。  
 
 この前のキスとは違って、ものすごく甘い味のキス―――――  
 
 ………その後、どうなったかはよく憶えていない。気がついたときには、俺たちは横になって重なり合っていて――――激しく愛し合っていた。  
 
「ん…っ……ルナっ…」  
「む…ふぅ……っ…カオ…ル…すきっ…」  
 
 お互いの唇を激しく貪り合う。俺はルナを求め、ルナは俺を求める。俺たちは、ただお互いを求め合う獣に成り果てていた。  
 
「―――!!あんっ!!」  
 
 ルナの胸に、俺の手が触れたのだ。突然の甘い刺激に、悩ましい声をあげるルナ。  
 
「ぁぁぁ……カオル……」  
「大丈夫…やさしくする……」  
「ん……」  
 
 服の裾を掴み、ゆっくりと捲り上げる。ルナの素肌が少しずつ少しずつ剥き出しになっていく。ルナの肌はとても白くて美しくて――――  
その白さと闇とのコントラストが、美しさをより一層際立たせている。  
 やがて、ルナのブラジャーが顕わになった。  
 
「ルナの身体……すごく綺麗だ……」  
「あぁ……そんなこと言わないで……恥ずかしいよぉ……」  
 
 俺はもう一度ルナの胸に触れた。今度は、大きく包み込むように。  
 
「――はぁんっ!!くはぁっ……んっ…」  
「…ルナ、気持ちいいか」  
「ああぁぁ…ぃぃ…気持ちいいよ、カオル……」  
 
 ルナの胸を顕にしようと、俺はゆっくりとルナのブラジャーをずり上げていく。やがて、  
肌色ではない部分が現れ始め、次には胸の先の突起が顔を覗かせる。そこは激しい興奮により、  
もうすっかり突き上がっていた。  
 誘うような、いやらしいその乳首をパックリと咥えこむ。今にもポロリと取れてしまいそうなそこを、  
舌でコロコロと転がし、つつき、甘噛みをする。もう片方の乳首は親指と人指し指で摘み、こねくり回して刺激を与える。  
 
「――――ぁあぁんっ!!あ、あ、あ、あ、あ、あっ……」  
 
 爆発的な快感に襲われ、激しく悶えることしかできないルナ。ルナの身体は非常に感じやすいようだ。  
なおも乳首に激しい攻撃を加えた。その快感は、確実にルナを高みに追いやっていく。  
 
「くぁんっ、ふぁっ、あ、ぁあっ、あ、あっ」  
「んっ……んっ」  
「んぁあっ、くあっ―――もう……イ…く…ぅぅ」  
「んっ…イクのか」  
「ぁんっ、イッちゃう……あ、はあっ、あっ、あっ」  
 
 指で挟んでいた乳首を強く押し潰し、口に含んでいた乳首を少し強めに噛む。  
 
「―――――ッ!!ぁああぁあぁぁ―――――っ!!」  
 
 激しく身体を震わせ、ルナは絶頂に達した。  
 
 
「はあ…っ……はあ………」  
 
 絶頂を極めたルナの身体から力が抜けた。……熱病に冒されたような虚ろな表情。乱れた髪が汗で頬に貼りついているさま。  
汗でしっとりとした身体に脱がせていない部分のTシャツがピッタリとくっついている。そんなルナの姿はあまりにも淫らで、  
あまりにも美しかった。  
 
「はあ……はあ……カオ…ル…」  
「…ルナ……いいか……?」  
 
 ルナは、その質問の意味を瞬時に理解したようだ。  
 
「いい…よ…………やさしくしてね…」  
 
 ルナのタイトスカートに手をかけ、ゆっくりと引きずりおろしていく。足の先からスカートを引き抜く。  
顕わになったルナの下着は既に愛液でグチョグチョに濡れており、下着としての用を成していなかった。  
 
「ルナ……すごい濡れてるぞ……」  
「言わないで……恥ずかしいってば……」  
 
 下着に手をかけ、ずり下ろす。徐々にルナの秘所が顕わになっていく。下着の中から開放された女の匂いが俺を強烈に煽り立てた。  
 ルナの下着を足の先から引き抜き、俺も着ているものを脱ぐ。俺のペニスも激しくそそり立っており、暴発寸前である。  
先端からは既に先走り汁が滲み出ている。  
 
「本当に……いいんだな?ルナ……」  
「…きて……カオルなら……いい」  
 
 ルナが、虚ろな表情で、でもしっかりとした目で俺を見つめ、頷く。数秒の間、俺とルナは真剣な眼差しで見つめ合った。  
 
「いくぞ、ルナ……愛してる…」  
「わたしも……すき…」  
 
 愛液でヌラヌラと妖しく光るルナの秘裂をめがけ、俺のペニスが接近していく。はじめてということもあり、  
また、暗闇の中ということもあって、すんなり挿入とはいかない。何度目かの挑戦で、ようやく俺のペニスが  
ルナの割れ目に埋没していった。ゆっくりと、慎重に腰を押し出していく。  
 
「―――っは!!あ、ああ……カオルが…挿入ってくる……」  
「ル…ナッ!」  
 
 腰を進めていくと、抵抗があった。これは一体………?その抵抗が煩わしくなり、俺は少し強めに腰を突き出した。  
何かを突き破るような感触―――まさか………  
 
「――――!!!あぁうっ!!」  
 
 途端に、ルナの顔に苦痛の表情が浮かんだ。処女膜を突き破ったのだと、俺はここに至ってようやく理解した。  
 
「ルナ、お前……初めてだったのか……」  
「はあっ……はあ……わたし…まだ14よ……初めてに……はあっ……決まってるでしょ……う…ぁぁ」  
 
 女性なら、遅かれ早かれ破瓜の痛みは体験することになる。そうわかってはいるのだが、やはりルナが痛がっているのを見ると、  
なんだか悪いことをした気になってくる。  
 
「ルナ……すまない……痛かったな…」  
「だ…大丈夫……大丈夫だから……ね…いいよ、続けて……」  
 
 俺は気を取り直し、挿入を再開した。初めてなだけに、ルナの中はとてもきつく、なかなか  
奥に進むことができない。それでも、ゆっくり確実に腰を押し進め、遂にルナの最奥に達することができた。  
先端に何か堅いものが当たる。  
 
「ルナっ……全部、入ったぞ……」  
「…あぁ…熱ぃ……これが…カオルのぉ………」  
「動いていいか…?」  
「………ゆっくり…ね……」  
 
 俺は、ゆっくりとピストン運動を開始した。  
 
「あっ…う……あ………あんっ!!」  
「ルナっ、ルナの中……すごくいいっ…!」  
 
 きゅうきゅうとルナの中が締まり、俺のペニスを激しく、だが気持ちよく締めつける。  
恐ろしいほどの快感が背筋を走り、脳を直撃した。ドロドロのルナの膣の中で、溶けてしまいそうな、  
そんな感覚を覚える。  
 
「くっ……あ…ルナッ……!」  
「ん、はあっ!!あ、あっ、カオ…ルっ……―――!!うぁあぁぁあっ!!」  
 
 さっきまで苦痛に満ちていたルナの表情が、徐々にとろけて快感のそれに変わっていく。  
 
「よ…し、もっと思い切り動くぞ……」  
「ああ……カオル……ほしいっ!!」  
 
「んっ、ひぁっ……く、あぁああっ!!……あ、はっ、あぁっ!!」  
「は、ふっ…ル、ナ、ぁあっ!!」  
「ああぁぁっ!!あ、あ、カオッ、ルッ、んはっ、あふっ、おかしくなるゥっ!!」  
 
 俺も、ルナも、狂ったように激しく腰と腰を打ちつけ合う。じゅぶじゅぶといやらしい水音が暗闇に響き渡り、  
俺のペニスとルナの膣との隙間からは愛液が飛び散っている。  
 
「…はっ……ル、ナ」  
「はああっ、あくっ、あ、あ、ま、た……イ、――――ぁああんぁんあァ――っ!!」  
「――――!!ぐおおっ………ぐっ…うぎっ…」  
 
 またルナがイッた。もう何度目だろうか。途端にもの凄い締めつけが俺のペニスを襲う。一気に射精感が高まるが、  
少しでも長くルナの中を味わいたくて、ここで出してなるものかと必死に堪えた。ペニスと膣の隙間から  
おびただしい量の愛液が噴出していく。  
 
 ルナの締めつけに耐え切った俺は、再び攻撃を開始した。ルナの膣を削り取るように、抉るように、  
高速で腰を打ちつける。絶頂感から開放されたばかりのルナは、俺のペニスが与える凄まじい快感に、  
再び身を悶えさせ、激しく喘ぐ。  
 
 そして、俺もそろそろ限界を迎えようとしていた。  
 
(もう…ダメだ……そろそろ限界……)  
 
「ルナっ……俺も…もう…っ…イク……」  
 
 そう言って、俺はルナの中からペニスを引き抜こうとした。が、ルナの中がぎゅっと締まり、  
俺のペニスを逃がすまいとする。  
 
「だめぇ…っ……なかで…っ」  
「バ…カ…っ………妊娠…したらぁっ……!!」  
「カオルのならいいのっ……ほしいぃっ!!」  
 
――――もうダメだ。堪えきれない。こうなったら一か八かだ。  
 
「わかった……中で…いくぞっ…」  
「う…うんっ!!はぁんっ……カオルッ……わたしを…護ってねっ……ずっと…っ」  
 
 一瞬、ルナの瞳に正気の光が戻ったように見えた。その瞳は、強く、強く、俺に訴えかけている。  
――――護って……わたしを護って……と。  
 
「ああっ…絶対…護る!!なにがあっても……」  
「やく、そく…ね……――――!!んぁあぁっ…もうイくぅっ!!」  
 
 俺はとどめを刺しにいった。一気に腰を押しつけ、ルナを最奥まで貫き、子宮を抉るようにして押し上げると、  
ルナは俺より一足早く絶頂に達した。  
 
「んぁあぁあああぁ―――――――――――ッッ!!!」  
 
 身体を弓なりに仰け反らせ、ルナは絶頂を駆け抜けていく。強烈な締めつけに、今度は俺は我慢せず、一気に堤防を開放した。  
一滴も逃すまいと、ルナの膣が俺のペニスを締めつけ続ける。ルナの子宮口に精液を浴びせ、次いで膣の中を一気に精液で満たしていく。  
 
「あ、あっ、あああぁぁ―――――っ?!!」  
 
 子宮口に俺の精液を浴び、イッたばかりのルナがまた絶頂を迎える。俺が精液を噴出し、子宮口に浴びせる度にルナは絶頂に達しているようだ。  
絶頂を迎え、それを駆け抜ける前に次の絶頂―――。そのため、俺の射精が終わるまで、ルナは一瞬たりとも絶頂の快感から逃れられずに悶え、喘いだ。  
 
「ぁぁぁぁ……カオル…」  
「ル……ナ…」  
 
 お互いの名を呼び、俺たちは気を失った。  
 
 
 ルナの中に行き場を失った精液が、ペニスと膣の隙間から溢れ出していく。  
 
 
 俺が目を覚ましたときには、すでに空が白み始めていた。………危ない。あともう少し遅れていたら、  
誰かに発見された可能性が高い。そんなことになったらどうなるか、想像に難くない。  
 
 ルナを起こし、急いで服を着る。なんだか急に恥ずかしさがこみ上げてきた。ルナも同じみたいで、  
顔を赤くしながら服を着ていた。服を着て、川の水で顔を洗ってとりあえず一安心だ。俺とルナは船に向かって歩き出す。  
自然と手は繋がれていた。  
 
「ルナ……」  
「なぁに?」  
「お前の言ったことは正しい……」  
「え?」  
「お前は俺たちのリーダーだから……誰か一人だけの特別な存在にはなれない……」  
「……………」  
「俺も、ルナにとって特別な存在になることはできない……」  
「カオル……」  
「今は全員でコロニーに帰るために、一つに結束しなくてはならないんだ」  
「……そうね…」  
「こんな関係でいたら、みんなの結束を崩す原因になりかねない」  
 
「でも……もしルナが俺たちのリーダーでなくなる日が来たら……」  
「………」  
「もし、全員揃って無事にコロニーに帰れたら……」  
「………」  
「ルナにとって特別な存在になりたい……ずっと一緒にいたい…」  
 
 ―――うん、と満面の笑みでルナが頷いてくれた。この笑顔―――何があっても絶対に護り切ってみせる。  
 
「そうか………ありがとう」  
「…うん……」  
 
「あ―――こないなとこにおったんか、二人とも。なにやっとんねん、朝早くから外に出たりして」  
 
 スリープモードから目覚めたチャコが船のハッチから飛び出してきた。とっさの言い訳が浮かばず、空気の読めないペットロボットめ……  
と心の中で悪態をついたが、ルナがうまい具合にフォローしてくれた。  
 
「え?…ああ、朝日が綺麗だなって……」  
「ああ、ほんまやな。これ見たら今日も一日頑張ろうって気になるわな……」  
 
 事実、いつの間にか出ていた朝日は綺麗だった。未来へ繋がる希望の光――――まさにそう形容するのがふさわしいと、わたしには思えた。  
 
(チャコ…お父さん……わたし、もう一人じゃないよ……。みんなっていう家族がいる。それに……特別な人もできたから……)  
 
 
 
終わり  
 

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