「はあっ……はあっ……はあっ…」  
 
 少女の荒い呼吸音が、静寂な森に響き渡る。なんとか呼吸を整えようとするが、体力が限界に  
近づいている身体は、彼女にそれを許さなかった。さっき受けた電撃の影響なのか、身体は痛みと  
痺れに支配され、思うように動いてくれない。そんな彼女を嘲笑うかのように、森の木や草は、  
少女の身体に傷を刻んでいく。  
 
 それでも、今彼女にできることは、ただ走ることだけだった。  
 
「あうっ!!」  
 
 足元の石につまずき、転倒する。限界は確実に近づいていた。しかし、ともすればそのまま  
地面にはりついてしまいそうになる身体を、彼女は必死に叱咤する。  
 
「う……ぅ…」  
 
 何とか身体を起こし、霞がかったような頭で、呆然と少女は考えた。  
 
――――どうして、こんなことに………  
 
 ハワードが脱獄囚たちに捕まった。姿勢制御ユニットを勝手に持ち出して、脱獄囚たちの  
乗ってきた船に乗せてくれるよう、交渉をしに行ったらしい。そんなことをすればどうなるか、  
結果は火を見るよりも明らかなのに、どうして?  
 
 ルナにはわかっていた。ハワードは、みんなのことを考えてあんな行動を起こしたのだと。  
むろん、こんな勝手な行動をしたのは許せないし、非常に腹立たしい。もし、脱獄囚の手から  
彼を救い出したら、うんと叱ってやろうとは思う。でも、彼は彼なりにみんなのことを考えて  
くれていたということも事実である。この惑星に漂着した当初は、他人のことなどまるで考えず、  
自分のことしか考えられなかったハワードが、少しずつだけど変わり始めている。そのことが、  
ルナにとっては少しだけ嬉しかった。  
 
(待っててね、ハワード。必ず助け出すから………)  
 
「―――――ルナ?」  
 
 突然、後ろから声をかけられた。カオルだ。  
 
「こんなところにいたのか」  
「カオル………」  
 
 ルナは、眠れない夜を遺跡の外で過ごしていた。脱獄囚たちとの決戦を明朝に控え、遺跡には  
緊張した空気が張り詰めている。カオルも眠れないのだろう。  
 
「……怖いか?」  
「え?」  
 
 怖くないはずがない。何しろ相手は、人を殺すことなどなんとも思っていない人間だ。  
もし失敗すれば、命の危機は免れない。  
 
「……大丈夫だ。みんなも、ルナも……俺が守る…」  
「カオル……」  
「きっとうまくいく………みんなで生きて帰ろう、ルナ……」  
「うん……」  
 
 そう、信じられる仲間がいる。きっとうまくいく。そして、もう一度みんなで心の底から  
笑える日が来る……………このとき、ルナはそれを信じていた。  
 
――――――でも、その先に待っていたのは、最悪の結末だった。  
 
 作戦は失敗…………。驚くほどあっさりこちらの策は見破られて、そしてまず、人質となっていた  
ハワードが射殺された。殺しても死なないと思っていたハワードが、一瞬で殺られるその光景を、  
ルナたちは信じることができなかった。  
 
「ルナ!」  
 
 目の前の惨状に呆然自失としていたルナが、ベルの声で我に返ったときにはもう遅かった。  
脱獄囚の一人、ジルバの繰り出した電磁ウィップは鮮やかにルナの身体を絡め取り、次の瞬間、  
ルナは電撃の餌食となった。  
 
「うああぁぁああぁあぁぁあああ――――――っっ!!!」  
 
 耳を覆いたくなるような、そんな悲鳴が惨劇の舞台となった滝に響き渡る。  
 
「ルナっ?!くそっ!!」  
 
 瞬時に弓を引き絞り、カオルはジルバの手元に向けて矢を放つ。矢はジルバの手元から電磁ウィップを  
跳ね飛ばした。激痛から解放されるルナ。しかし、彼女の危機はまだ終わっていない。  
 
「ルナっ!危ない!!」  
 
 カオルの声で意識を取り戻したとき、ルナの目が捉えたもの、それは黒服の男――ブリンドー――が  
こちらにレーザーガンの銃口を向けている光景だった。  
 避けられない―――――恐怖が全身を支配したのに、なぜか頭はそのことを冷静に弾き出していた。  
 
(殺される!!)  
 
 ルナはただ目を瞑ることしかできず、そして次の瞬間、ルナに向けてレーザーが放たれた…………  
 
 
 ………遠くから、自分を呼ぶ声がするような気がした。恐る恐る、目を開いてみる。そこにある  
光景は、もうこの世のものではないはず。だって、わたしは死んだはずなんだから………  
 
 でも、そこにあったのは、カオルの顔だった。  
 
「か……お……る……?」  
「ルナっ……大丈夫……か…?」  
 
 ルナは死んでなどいなかった。レーザーがルナを直撃する寸前、カオルがルナの身体を抱きかかえて  
岩陰に飛び込んでいたのだった。だが………  
 
「ぐ…っ………う…」  
「カオルっ?!」  
 
 カオルは傷を負っていた。ルナを助けに飛び込んだときに、レーザーが左のわき腹をかすったのだ。  
傷口からは血が溢れ出し、カオルの顔は苦痛にゆがんでいる。  
 
バシュウッ!  
 
「―――――?!」  
 
 ブリンドーのレーザーガンを受け、背後の岩がまるでアイスのように溶ける。脱獄囚たちは、  
すぐそこまで迫ってきていた。  
 
「逃げるんだルナ!俺が何とか時間を稼ぐ。お前は行け!」  
「でも……」  
「いいから行け!!」  
 
(みんな……どうなっちゃったんだろう……)  
 
 脳裏に浮かんでくるのは、仲間たちのことばかり。  
 
(ハワード……)  
 
 いつも場を明るくしてくれた。何が起こっても、何とかなるんじゃないか、そう思わせて  
くれる存在だった。でも、彼はもういない。  
 
(メノリ、ベル……)  
 
 二人はどうなったのだろうか。うまく逃げ切れたのだろうか。それとも、もう………  
 
(カオル……)  
 
 自分を逃がすために脱獄囚と戦っている彼はどうなったのだろうか。いくら彼でも、あの状況を  
突破できるとは思えない。容易に考えられる最悪の状況を、ルナは必死に否定した。  
 
 仲間との記憶が甦る。今まで、ずっと一人だった。母の病死、そして父の事故死………  
心の闇に幾度も飲み込まれそうになりながらも、それでもルナは必死に生きてきた。でも、  
この星で大切な仲間ができた。どれだけルナの心が癒されたかわからない。仲間と一緒なら、  
どんな困難でも乗り越えられそうな気がした。みんなが傍にいてくれるだけでよかった。  
絶対に失いたくない、本当に大切な仲間………  
 
 でも、ある日突然現れた理不尽な力によって、仲間を奪われ、傷つけられ………ルナの心は  
ズタズタに引き裂かれた。  
 
(みんな………!)  
 
 いつの間にか溢れ出した涙が、頬を伝っておちていく。森の静寂が、ますますルナの  
恐怖心を煽り立てる。  
 
(こわい……助けて……みんな…助けて…!)  
 
 
 
「―――――へぇ、こんなところにいやがったのかい……」  
 
 ルナの思考はそこで途切れ、彼女の身体は、一気に凍りついた…………  
 
 
「ったく、ガキ共が。手間かけさせやがって……」  
 
 三人の脱獄囚のゾクリとするような視線に晒され――――まるで金縛りにでもあったかのように、  
ルナは動くことができない。  
 
「でも、鬼ごっこはもう終わりよ♪」  
 
 逃げなくては…………そうわかっているのに、身体はただガタガタと震えているだけで、  
動いてはくれない。何とかこの絶望的な状況から逃れる術を考えなくてはいけないのに、  
何も考えることができない。  
 
「なんだ?ずいぶんと震えてるじゃねえか」  
「あ〜らホント、かわいそうにねぇ〜♪」  
「ガーッハッハッハッ」  
 
 獲物をいたぶるような、下卑た笑い声が辺りに響き渡る。当然、今のルナにそれを封じる手段など  
あるはずもなく―――――身体中を這い上がって来る嫌悪感に、全身から気持ち悪い汗がじわじわと  
吹き出し始める。  
 
(いや…っ…………)  
 
 捕まればどうなるか。そんなものは容易に想像がつく。あいつらのオモチャにされ、  
散々嬲り尽くされた後、虫ケラ同然無残に殺されるのだ。  
 
 
………そんなのいやっ……わたしはまだ、死にたくないっ…………  
 
 
 ルナの中で、何かが弾けた。  
 
 
「…いっ……やあぁあああぁ―――――――っっ!!」  
 
「おらっ!おとなしくしねえか!!」  
「やあぁ―――っ!!やめてっ!!放してぇっ!!」  
 
 逃げ出そうとしたルナを、ボブがあっさりと押さえ込む。それでも必死に抵抗を続けるルナだが、  
ルナとボブとではあらゆる身体能力のケタが違いすぎる。程なく、ルナは地面に押し倒された。  
 
「おい、二人とも手伝ってくれや」  
「ああ」  
「まったく……男と女の修羅場は見苦しいわねぇ」  
「あああっ!いやああぁっ!!」  
 
 ボブに下半身と両手を拘束され、ブリンドーがルナの頭をガッチリ抱え込んだ。これで、  
ルナは全く身動きが取れない。何とかその拘束から逃れようと、なおも必死の抵抗を続けるルナ。  
しかし、それは、もはや抵抗と呼べる代物ですらなかった。  
 それでもそのわずかな抵抗が煩わしくなったのか、突然ジルバがルナの頬を張った。  
 
「ぎゃあぎゃあ五月蝿いわね。静かにおし!」  
 
 ジルバが、ナイフを取り出した。キラリと光るその刃は、ルナは更なる恐怖へと突き落とす。  
ナイフの刃が、ルナの左頬にピタリと当てられた。嬲るような視線でルナを見つめるジルバ。  
微かな笑みを浮かべているが、その目は全く笑っていない。その目の奥に狂気の光を感じ、  
ルナの身体をなんとも耐え難い悪寒が突き抜ける………  
 
「――――ひっ!!や…やめ……」  
「へぇ……あんた結構かわいい顔してるじゃない。そのカワイイお顔に化粧をしてあげるよ。  
綺麗な赤ぁ〜い化粧をねぇ……」  
 
 ナイフの刃先がルナの頬をすべり始め、赤い軌跡を残す。恐怖のあまり、ルナは目を瞑る。  
だが、そのことは自分の身体を切り込まれている感触を、より一層際立たせることになって………  
 
「っ――――!!……ぁ、……ぃぁ……」  
 
 ルナの頬に刻まれた一本の赤い線は、やがて形を崩し、生暖かい液体となってルナの頬を伝わっていく。  
その感覚に、ルナの身体が強張った。  
 
「わかったかい?今、あんたの命はあたし達の手の中にあるのよ……その気になれば、あんたを  
殺すなんて簡単……わかったら素直におとなしくしていることね」  
「そうそう、このコワーイお姉さんに逆らったら、あとでどうなっても知らないぜぇ…」  
 
 完全に恐怖のどん底に突き落とされたルナ。だがこれは、今から始まる惨劇のショーの、  
ほんの前座にすぎなかった。ブリンドーが、恐怖で目を硬く閉じているルナに問いかける。  
 
「さて嬢ちゃん、こっちとしてはあんたに聞きたいことは一つだ。他のガキ共の居場所を教えな。  
……そうすれば楽に殺してやる」  
 
 あまりにもあっさりとした口調だった。この男は、人を殺すということがどんなことなのか、  
本当にわかって言っているのだろうか?  
 
「……い、…や……」  
 
 仲間の居場所など、言えるはずがない。ルナの拒絶を聞いたブリンドーの顔が、わずかに  
ゆがんだように見えた。  
 
「ふーん、そうかい………苦しんで死にたいってこったな。ま、恨むなら自分の選択を恨めや。  
…ボブ!!やれ!!」  
「おおうっ!!待ってましたぁ!!」  
 
 ルナの上に跨っていたボブが、唐突にルナのTシャツに手をかけ、そして………  
 
 ビッ ビリッ ビリリリッ ブチッ  
 
「――――――っ?!いやあぁあぁぁ!!やめてぇっ!!」  
 
 面白いほど簡単にルナのTシャツは引き裂かれ、あっという間に素肌が外気に晒される。  
シャツの下から顔からのぞかせたブラジャーも力ずくで引き千切られ、ルナが上半身の全てを  
さらけ出されるのに、10秒とかからなかった。  
 
「おらおらっ!次は下だぜ!!」  
「ッ――――!!」  
 
 ルナのスカートに手をかけるボブ。今まさに、ルナの聖域を守る最後の砦が陥落しようとしていた。  
声にならない声を上げ、最後の抵抗をしようとするルナ。だが、全ての抵抗は無意味だ。  
 
「ぅおらぁっ!!」  
 
 ボブのパワーの前に、タイトスカートは豪快に破られ、もはや紙の盾同然となったパンツも  
毟り取られる。14才の少女の一糸纏わぬ姿が、脱獄囚たちの好奇の目に晒された。  
 
「ほぉ……ガキのくせに、なかなかいい身体してるじゃねぇか!」  
「ま、あたしには敵わないけどねえ」  
「ヒひぁっ……こりゃあいいぜぇ……ぅおおおおおおっっ!!」  
 
 獣のような咆哮を上げるや否や、ボブはルナの豊かな乳房にむしゃぶりついていった。  
 
「あぁああぁ―――――っっ!!やめてェェ―――――ッッ!!」  
 
 あまりのおぞましさに、我を忘れて恐怖の叫び声を上げるルナ。だが、そんな必死の叫び声も、  
脱獄囚たちにとってはこの惨劇に彩りを添えるものでしかなかった。  
 
「ひぅ……っ、……んんっ、くっ……――――っ!!んあぁあぁあああっ!!」  
 
 ボブのごつい手がルナの左の乳房を乱暴に揉み込み、右の乳房には吸い付かれる。苦痛の色が  
ルナの顔に浮かぶ。乳首に刺激―――ほとんどは痛みだったが―――を与えられるたび、  
ルナの身体は激しく跳ねた。たちまち乳房が涎にまみれ、ルナが拒絶で激しく首を振り出す。  
顔には汗がにじみ始め、上気した頬に鮮やかなオレンジ色の髪が張り付くと、それはまたボブの、  
そしてブリンドーの欲情を爆発的に煽った。  
 
「ああああああ……もう我慢できねぇ、このまま犯してやる!!」  
 
 ガチャガチャ………  
 
 ボブがズボンに手をかけ、ベルトを外す。獰猛な猛獣を収めていたオリの鍵が、今外された。  
 
「…はぁっ……はぁ……う……ぅ…」  
 
 激しい責めから解放され、ルナは僅かに安堵する。……しかし、それは本当に僅かな間。  
恐る恐る目を空けたルナの視界に飛び込んできたもの、それは…………  
 
「ひっ……!!」  
 
――――まさに、『凶器』。そう形容するのが相応しい、いや、そうとしか形容しようがない。  
今まで女性の淫液を吸い尽くし、ドス黒くなっているそれは、まるでビール瓶が股間にそびえ  
立っているようだった。既に先端からは先走り汁が滲み出している。  
 ルナも、年頃の女の子だ。それなりの性知識も持っている。だが、男性器の持つもう一つの顔を  
目にするなど、むろん初めてである。  
 ボブの凶器を目にして凍りつくルナに、ジルバが笑いかける。  
 
「アハハハハ!!そういえば言ってなかったね。ボブは異常な性欲の持ち主でねぇ、一日に七、八発は  
射精しないと気がすまないのさぁ!……今まで強姦で殺された女は数知れないよ」  
 
――――いや………  
 
「おい!何だよその言い方!!それじゃまるでオレ様が悪いヤツみてぇじゃねぇか」  
 
――――いや…だ……  
 
「何言ってんだよ、俺たちゃ、立派な犯罪者だぜ!!」  
 
――――こわい…っ……たすけて………おねがい…  
 
「おお、そうだった。ガーッハッハッハッ!!…さぁて……それじゃ、頂くとするかな」  
 
 必死に身体をよじり、何とか凶器から逃げ出そうとするルナ。しかし、それは脱獄囚たちを  
喜ばせるだけだった。脚を掴まれ、思い切り広げられる。オレンジ色の茂みの奥に眠る、  
ルナの秘所が顕わになった。  
 
「ひぁ!!」  
「なんだ…ちっとも濡れてねえじゃねえか………」  
「ボブ、どうせならいきなり突っ込んでやれ。その方が面白いだろ」  
「おお、そりゃあいいぜぇ」  
「!!」  
 
 ボブの凶器がルナの秘裂にあてがわれる。『死』が脳裏に浮かび―――  
 
 
――――やめて……もうやめて………いやっ…死にたくない!!  
 
 
―――――その瞬間、あまりにも非情な運命の時は訪れた………  
 
 
 
「!!!グギャアァァアアひィぎぃいぃあァアあ――――――――――――――ッッ!!」  
 
 
 
「うぁっ!!いぁいっあぁああっ!!ぎぃやっぁぁゃやあぁぁ……………!」  
 
 あまりの激痛に身体を仰け反らせたルナの口から、聞くに堪えない痛々しい絶叫が迸る。  
ボブは肉棒を力ずくで強引にルナの中へとねじ込ませ、その先にある抵抗を一瞬にしてねじ伏せ  
―――――ルナの処女はあまりにもあっさりと、そしてこれ以上ない乱暴な方法で散らされた。  
 
 
――――たすけて……たすけて………だれか、たすけて………  
 
 
………その奥でなおも続く惨劇。粘膜が裂け、破瓜の血も吐き出さぬうちに、少女の秘裂は  
新たな血を吐き出す。熱く焼けた鉄棒の容赦ない蹂躙に、未発達の骨盤は軋みの声を上げる。  
あまりに激しすぎる突き上げは内臓を圧迫し、たちまちのうちに嘔吐感を少女にもたらした。  
 
「ぐぅおおぉっ!!もうダメだ、出る!!」  
 
 
――――わたし……は……  
 
 
 ボブの肉棒がただでさえ狭いルナの膣の中で一層大きく膨れ上がり――――射精が開始される。  
自分の中に激しく解放された欲望を感じ、ルナは心の底から絶望の叫び声を上げた………  
 
 
――――…みん……な………  
 
 
 ボブの肉棒がルナの胎内から引きずり出される。ゴボッ、という音とともに、収まりきらなかった  
精液――ピンク色に色づけられた――が溢れ出し、汚されてしまったという現実をルナに突き付けた。  
 
 陵辱は続く。一度では到底満足できないボブは、再度ルナの胎内を蹂躙し、無抵抗なのを  
いいことに、たっぷりとその欲望を吐き出していった。  
 ブリンドーは己の肉棒を咥えさせ、思う存分ルナの口内を犯した。男の精をルナが吐き出すと、  
乱暴に髪をつかんで地べたに顔を押し付け、吐き出した精液を無理矢理舐めさせた。  
 ジルバは電磁ウィップでルナをいたぶり続け、さらにはボブから借りたバイブでお尻の穴を責めた。  
 
 全てを奪い、全てを陵辱しつくした地獄の饗宴は二日続き、そしてその後、ルナは姿勢制御  
ユニットと引き換えに解放された。生きたまま仲間たちの手に戻されたのは、見せしめの意味で  
あったことは言うまでもない。  
 
―――――そして、ルナの本当の地獄は、ここから始まる………  
 
 
どさっ  
 
 姿勢制御ユニットと引き換えに解放されることになったルナは、全裸のまま森の中に捨てられた。  
崩れるようにその場に倒れるルナ。もはやルナの身体からは生気が失せ、その表情は人形となんら  
変わりはない。今のルナは文字通り、ただ「生きているだけ」だった。  
 
「ま、そのうち他のガキ共が助けに来てくれるだろうから、おとなしく待ってるんだね」  
「……………」  
 
 ルナは反応しない。いや、反応することができない。食事や水も与えられず、睡眠もほとんど  
取らせてもらえなかった。脱獄囚たちの容赦ない陵辱に、『希望』はとうの昔に消え失せ―――――  
『希望』が砕けた瞬間、抵抗する気すらなくなり、あとは陵辱の痛みにただ身体を委ねるだけだった。  
ルナの肉体は疲弊しきり、気力も尽きた。涙も、とうに枯れ果ててしまった。  
 
 冷たい土の上に投げ出され、肉体と精神の疲労から、ルナはまもなく気を失った………  
 
 
 
「はあっ…はあっ……ルナ………くそ!」  
 
 カオルは、森の中を信じられないスピードで走っていた。  
 
 あの時―――――ルナを助ける際に脇腹に傷を受け、さらにその後の戦いでジルバの毒針銃に撃たれ、  
川に転落、そのまま下流に流された。脱獄囚たちは、カオルは死んだものだと思い、ルナを追ったのだ。  
 
 しかし、カオルは生きていた。ひどい怪我をしたものの、彼は執念で生き延びた。  
なんとか川から上がり、遺跡を目指した。途中、力尽きて倒れてしまったが、仲間によって発見され、  
遺跡に収容、ポルトの持っていた解毒剤で一命を取り留めたのである。  
 
 彼が意識を取り戻したのは、その日の夕方だった。彼が意識を取り戻して初めにしたこと、  
それはルナの安否の確認だった。しかし、彼女は未だに戻っていないという。結局その日、  
ルナは戻らないまま………  
 ハワードは殺され、そして誰も口にはしなかったものの、ルナの辿った運命も容易に想像され、  
遺跡は沈黙に包まれた。もはや、彼らにできることは、宇宙船を修理してこの星を脱出すること  
――――それだけだった。  
 
 しかし、次の日の夕方、状況は一変する。脱獄囚たちから通信機を使った連絡が入り、  
ルナと引き換えに姿勢制御ユニットを持って来いという。………もう、これ以上の抵抗は不可能だった。  
傷は治っていない、しかも病み上がりだったが、カオルは強硬に脱獄囚たちとの直接の接触役を引き受け  
――彼らは殺したと思っていたカオルが生きていることに驚きはしたが――そして姿勢制御ユニットと  
引き換えに、ルナの放置場所を聞き出すことに成功した。  
 
――――ゲームはルールを守らないと面白くないからねぇ、あの娘はあっちの森の中に  
捨ててきたわよ。早く行ってあげないと、死んじゃうんじゃないの♪  
 
――――ま、あの嬢ちゃんがどうなってるか、その目でしっかりと見るんだな、ガハハハハハ!!  
 
 先ほど聞いた、脱獄囚たちの言葉が、最悪の響きを伴って頭の中に甦る。  
 
 どのくらい走ったかわからない。苦しい。傷も浅くなく、毒の影響も抜け切っていない。  
一歩一歩を踏み出すごとに、カオルの体は悲鳴を上げた。それでも、ただただ大切な人を  
失う恐怖に突き動かされ、彼は走った。そして――――  
 
「――――ッ!!ルナ!!」  
 
 ついに、見つけた。そこには、心の底から待ち望んだ彼女の姿があった。しかし、あまりに  
変わり果てた彼女の姿に、カオルは声を失った。  
 
「ル……ナ………」  
 
 ルナは何も纏わず、仰向けの状態で土の上に転がされていた。乱れて汚れた髪。薄汚れた身体。  
秘裂からは大量の白い粘液が溢れており、あの独特の匂いが漂っている。男であるカオルは、  
それが何を意味しているのか、一瞬で理解した。身体中に擦り傷や切り傷、噛み傷があり、  
さらには電磁ウィップで打たれたのか、ミミズ腫れができている。そして、そのひどく傷ついた身体中に  
精液がまぶされ、彼女の受けた陵辱のひどさを物語っていた。  
 ピクリとも動かず、生きているのか、死んでいるのかさえわからない。カオルはルナの両肩を掴み、  
揺さぶった。  
 
「ルナ!ルナ!!しっかりしろ!!ルナァッ!!」  
 
 生きていてくれ、ルナ――――彼はただひたすら、それを願い、そして彼の願いが通じたのか、  
ルナはうっすらと目を開けた。生きている――――想像していた最悪の事態を免れ、思わず  
カオルは安堵する。  
 
 しかし、虚ろな表情だったルナが、みるみるうちにその表情を恐怖のそれに変え、突然  
――力ない声だったが――叫び出し、暴れ出した。  
 
「いやあぁ…っ……も…ゆるし……や、あぁっ……!!」  
「ルナッ?!」  
「ぅぁ…やめ………ぇ……!」  
 
 反射的に、カオルはルナを抱きしめた。  
 
「ルナッ!俺だ!カオルだ!!しっかりしろ、ルナ!!」  
 
 途端にルナの動きが止まる。  
 
「……か…お……る…?」  
「そうだ、俺だ!」  
「…―――!!……あな…た……し…ん……――っ!!ぅっ!……う…ぅ…」  
「生きてる。俺も、お前も、生きてる。もう、大丈夫だ………」  
 
 
―――――何が「もう大丈夫」だ。俺は守るといった。彼女を必ず守ると、そう誓った。  
……でも、守れなかった。陵辱の限りを尽くされ、全てを奪われ、人としての尊厳ですら  
踏み躙られたルナ。俺は、彼女を守れなかったのだ。本当なら、彼女に触れる資格すらない…………。  
 
 それでも、ひたすらカオルはルナを抱きしめ続けた。今はそれだけが彼女にしてやれる  
唯一のことだったからだ。  
 
「…カオ……ル………わ…た…し………」  
「いい!何も言うな!何も………」  
 
 ルナの目からは、とうに枯れ果てたはずの涙が溢れ出し―――彼女はただ声を上げて泣いた………  
 
 
 何とか殺されることなく、脱獄囚たちの魔の手から救出されたルナ。カオルによって遺跡まで運ばれ、  
仲間のもとへと帰ることができた。しかし、ルナはもう以前の面影を留めておらず…………  
あまりに悲惨なその姿に、ある者は絶句し、またある者は泣き叫んだ。カオルはいたたまれなくなって  
遺跡を飛び出し、そして、ただひたすら己の無力を呪った。  
 
 ルナが救出されてから二日が経った。脱獄囚たちの動向はあれ以後つかめない。食料集め以外は  
遺跡から絶対に出ないように、との厳命がメノリから下され、彼らは息を詰めた生活を強いられていた。  
 そして、ひとつの不可解な事実がまた彼らを悩ませた。あれほどひどかったルナの外傷が、  
今はもうほとんど癒え切っているのである。しかし、当のルナは一日中虚ろな表情で座ったまま過ごしており、  
食事にもほとんど手をつけていない。  
 
 そして、今夜もルナは悪夢にうなされていた。  
 
「…はあっ……は、っ……う、うぅっ………」  
 
『オラ!!中に出すぞ』  
『い…ぁ…、やめてぇ……!…いや、ああぁ……!!』  
『ダメだ!!嬢ちゃんが孕むまで犯してやるぜえっ!!』  
 もう何度目かわからない精液を胎内に受け、ルナは呻く。  
『…いっ!……ぅ…ぁぁぁ、ぁ………』  
『まあ、よかったわねえ、いっぱい出してもらって♪もう妊娠したんじゃないのぉ…』  
 ジルバの言葉が、ボロボロになったルナの心をさらに踏み躙る。  
 
「く、はっ……や……ぁ……ぁぁ…」  
「ルナ……ルナ!」  
 
『おい!もっと舌を使え!舐めるんだよ!!』  
『―――んんっ!ん、んふぅっ!ぐ、んんっ!!』  
『全部飲めよ、この淫乱メス豚がぁっ!』  
『―――――んグゥッ?!』  
 喉に直接精液を浴びせられ、驚いたルナは思わずブリンドーの肉棒を噛んでしまう。  
『ぐおっ?!』  
 ブリンドーが己の肉棒を走った激痛に、思わず身を引き、口の中から肉棒を引き抜く。まだ射精の  
真っ最中だったそれは、ビクボクと震えながらルナの顔に精液を浴びせ、少女の顔を汚したそれは  
ボタボタと地面へと滴り落ちる。  
『ゲホッゲホッ!!………うげっ…げぇ……ぇっ…』  
 ルナは咽せながら、必死になって精液を吐き出す。地面に吐き出されたそれは、人間の汚らしさを  
象徴しているように、ルナには思えた。そして、その汚らしさの塊とも思える男は、乱暴にルナの髪を掴み、  
地面に顔を押し付けた。  
『このクソガキ!歯を立てるなって言ったろ!吐き出してんじゃねぇ!舐めろや!!』  
『きゃ…!!あ、あんっ!』  
 
「…ひ…う、あ……やぁ……」  
「ルナ!」  
 
『ほら、こっちの穴にも入れてやるよ』  
『ひっ?!やめ……ぎぁっ!が、がぁぁ…ギィィッ!!』  
 少女の哀願の声は、自身の悲鳴によって掻き消される。  
 
「ルナッ!!」  
「――――ッ?!わあっ!!」  
 
 途端に、ルナの意識が現実へと引き戻された。――――まただ。眠りに入るたびに悪夢が甦り、  
彼女の肉体と精神を確実に蝕んでいく。もう、彼女にとって、眠りは安息のときではない。  
 
「はあっ…はあっ……はあ………はあ……」  
「……………」  
 
 カオルとシャアラが心配そうな顔で自分の顔を覗き込んでいるが、罪悪感を感じる余裕はない。  
眠りについたと思えば悪夢にうなされ、仲間によってその悪夢から覚まされる。そんなことが、  
もう何度続いただろうか。肉体、精神とも疲労の極みに達し、ルナはやつれ、思考力は確実に  
奪われていった。  
 ふと、ルナはひどく喉の渇きを覚えた。そんな彼女の心を読み取ったかのように、カオルが水を差し出す。  
 
「…………」  
 
 ルナは無言で渡された水を手に取り、口にする。しかし―――水が喉に達した瞬間、ルナの脳裏に  
悪夢が甦る。ブリンドーに精液を無理矢理飲まされた、あの感覚。途端に、強烈な吐き気がこみ上げ、  
ルナの身体は反射的に水を吐き戻してしまう。  
 
「―――ヴッ?!ゲェッ!!げほっ……げ、えっ……」  
「ルナッ?!」  
 
「…はあ……はあ……うぅ……う………」  
「…………」  
 
 ポロポロとルナの虚ろな瞳から涙が零れ落ちる。カオルは、丁寧にそれを拭ってやった。  
それでもルナの涙は止まらず、次々と溢れ出る新しい雫がハンカチを濡らしていく。と、  
急にシャアラが立ち上がり、外へ飛び出していった。しかし、ルナは微かに視線を動かしただけで、  
反応しない。  
 
「…………」  
「………シャアラ……」  
 
 一瞬戸惑ったものの、カオルはシャアラを追う。遺跡の外に出ると、そこには泣いているシャアラがいた。  
 
「……………」  
「もういやっ!あたしいやっ!」  
「……………」  
「ハワードは殺されて……ルナはあんなにやつれて……あんなに苦しんで……もう見てられないわ!」  
 
 かける言葉が見つからない。こんな時、どう言葉をかければよいのか、カオルにはわからなかった。  
そうこうしているうちに、シャアラの怒りの矛先がカオルに向いた。  
 
「どうして……どうしてルナを…ハワードを守ってくれなかったの!?」  
「シャアラ……」  
「みんなのこと、しっかり守ってくれるんじゃなかったの!?」  
「っやめてくれ!!」  
 
 自分に向かってきたシャアラを、カオルは反射的に突き飛ばしてしまう。  
シャアラは、その場に尻餅をついた。  
 
「……あ………」  
「…………」  
 
 シャアラの目にははっきりと憎悪の色が篭っていて――――仲間の絆すら崩れかけていることを実感し、  
カオルは逃げるようにしてその場を立ち去った。  
 しかし、遺跡の中に戻ったとき、そこにあるべきはずのルナの姿が消えていた。  
 
「ルナ……?」  
 
 
(ルナ、一体どこへ………?)  
 
 ルナの行く場所など、ここ以外にどこにもありはしない。しかも、こんな時間だ。それなのに、  
一体彼女はどこへ――――?  
 漠然とした不安はやがて質量を伴ったかのように、カオルの胸に重くのしかかってくる。  
その瞬間、一つの予感が頭をかすめ――――恐怖に駆られたカオルは、弾かれたように  
遺跡を飛び出した。  
 
(くそっ、しまった……ルナから目を離すべきじゃなかったのに……)  
 
 カオルは走った。むろん、ルナが今どこにいるかなどわかりはしない。しかし、まるで何かに  
引き寄せられているかのように、カオルは走った。  
 
 そして―――程なくしてルナは見つかった。川辺に一人立ち尽くしている。最悪の予感が外れ、  
カオルは安堵した。しかし、ルナの喉もとで月明かりを受け、キラリと光るものを見た瞬間―――――  
 
「っよせ!!ルナッ!!」  
 
「やめろルナ!!お前何を―――」  
「放して!!放してぇっ!!」  
 
 自殺―――――今まさにルナがしようとしていたことは、カオルが思い浮かべた最悪のものだった。  
あと何秒か遅かったら、おそらく黒曜石のナイフは、ルナの喉もとに突き刺さっていたことだろう。  
そこまで追い詰められていたのかと、それに気がつかなかった自分に腹が立って仕方がない。  
 手首を掴み上げ、暴れるルナの動きを封じた。体の弱りきったルナは、カオルの相手ではない。  
が、ルナはなおも激しく抵抗する。  
 
「やめるんだルナ!!こんなことして何になる?!」  
「いや!いやあっ!もういやああぁ―――――――!!」  
 
 ルナの瞳から涙が盛り上がり、やがてそれはキラキラと光りながら零れ落ちていく。二人は、  
地面へと倒れ込んだ。それでも、ルナは抗うのをやめようとはしない。  
 
「わたしなんかもう……生きてる価値なんか――――」  
「ルナ!!」  
「あう――――っ!?」  
 
 ルナの次の言葉は、もう二度と離さないといわんばかりに、強く強くルナを抱きしめるカオルによって塞がれた。  
そして次第に、ルナの身体からは力が抜けていく。  
 
「…あ………う……」  
 
 ルナの身体から抵抗の気配が消えたところで、カオルは切り出した。  
 
「ルナ……落ち着くんだ……」  
「…………」  
「…ルナ………」  
「…………わからないわ……みんなにはわからない…」  
 
 ルナの瞳は深い悲しみに満ちていて、涙も止まらない。辛いだろう。絶対に失いたくない仲間が  
殺され、自身もあらんかぎりの暴虐を尽くされ、そして今なお、ひどい後遺症に悩まされている。  
もう何もかも――命すら――投げ出して絶望したくなる気持ちは、痛いぐらいによくわかる。  
 
「…わたしは……もう………」  
「それでも――――」  
 
 
「生きるんだ、ルナ!」  
「―――――――ッ!!」  
 
 血を吐くようなカオルの叫びに、ルナの心は強烈な衝撃を受けた。ルナの脳裏に甦る、  
幼いときの記憶。そして、最後に父が遺した言葉。  
 
『どんな苦しいことがあっても、辛いことがあっても、負けるな。最後まで、生きるんだ』  
 
(…お父…さん……)  
 
『生きるんだ、ルナ!!』  
 
(…わたし………)  
 
「…ルナ……お前が絶望したくなる気持ちはよくわかる。もう、全てを投げ捨てたくなる気持ちも  
よくわかる……」  
 
 カオルの脳裏にも、かつてのある光景が甦った。自分の命と引き換えに宇宙に散っていった、ルイ。  
その後、周りからは、ただひたすら心の傷に塩を塗り込むようなことばかりを言われ、いつしか  
カオルは絶望し、養成学校を去った。それからは、自分の命なんか、もうどうなったっていいと、  
いつ死んでしまってもかまわないと、そう思っていた。でも彼は変わった。今、目の前にいる少女によって。  
 
「……………」  
「だが……お前にもいるんだろ?…自分の命を犠牲にしてまでお前を守り、『生きろ』って…  
そう教えてくれた人がいるんだろう?その人が守ってくれた命を、お前は今ここで捨てるのか……?」  
 
 乾いた砂に水が染み込んでいくように、カオルの言葉一つ一つがルナの心に深く染み込んでいく。  
 
「死ぬことより苦しいかもしれない。それでも、お前も、俺も、生きなくちゃならないんだ。  
自分のためにも、彼らのためにも……逃げるな、ルナ……」  
「カオル……」  
「お前は一人じゃない。俺もいる。みんなもいる。お前と共に生きてくれる仲間がいる。それは  
『希望』だ…………全部お前が俺に教えてくれたことじゃないか…」  
 
 『生きろ』。その言葉を胸に深く刻みながら、ルナはこれまで生きてきた。でも、かつてない  
心の闇に飲み込まれそうになったとき、ルナは混乱のあまり、その言葉を見失った。それは、  
14才の少女には無理のないことだったのかもしれない。でも、この人がもう一度教えてくれた。  
どんなことがあっても、わたしは生きなければならないと――――  
 
「…ごめん…なさい………ありがとう……」  
「…よ……し……」  
 
 ルナのその言葉で全てを悟り、安心したのかカオルは目を閉じる。  
 
「わたし…もう、逃げないから……頑張るから……」  
「………………」  
「カオル……?」  
 
 自分を抱きしめていてくれたカオルの力が抜け、身体が重くのしかかってくる。ふと手を伸ばすと、  
そこにベットリとした感触があった。  
 
「え――――?」  
 
 顔を上げたルナの先には、カオルが脇腹から血を流している光景があった。二人が地面に倒れ込んだときに、  
偶然にもナイフが彼の身体を深々と切り裂いていたのである。彼の顔からは血の気が失せ、傷口からの出血は  
ひどいものになっていた。  
 
「カオル?!しっかりして!!くっ――――」  
 
 死なせない。絶対に死なせるものか――――疲労困憊の身体にムチを打って、ルナはカオルを担ぎ、  
必死に遺跡を目指した。  
 
 
 カオルが目を覚ましたとき、真っ先に目に入ったのは、自分の隣で穏やかに眠るルナの姿だった。  
 
「…俺は……一体…?」  
「よかった……もう安心だぁ…」  
 
 あの後、なんとか遺跡までたどり着くことができたルナとカオル。すぐに治療が開始された。  
しかし、出血量が多く、カオルは危険な状態に陥り、輸血が必要となった。チャコの血液検査の結果、  
カオルと血液型が一致したのは、偶然にもルナだけだった。遺跡に僅かに残っていた医療システムと、  
シンゴ、ポルト、チャコの機転により、輸血をすることができた。ルナは全く躊躇することなく、  
ギリギリまで自分の血液を分け与えたという。  
 
「ルナが………!」  
「そうや、ルナがカオルを助けたんやで」  
 
 そして今、カオルにはルナの血液が流れている。  
 
「ほんと、危なかったんだよ」  
「もしルナがいなければ、お前は今頃……」  
「…そう、か……」  
 
 ルナに、救われたか…………そこまで考えたところで、カオルは自嘲気味に笑った。  
 
 
 
 結局、俺はルナにはかなわない、ということだな………  
 
 
 
 それから、数日が経った日のこと――――森の中で、脱獄囚たちの死体が発見された。なぜ、  
死んでしまったのかはわからない。何かに襲われたのか、はたまた事故死か。真相は闇の中だ。  
しかし、渡したはずの姿勢制御ユニットは、見つけることができなかった。結局、この星から  
脱出する望みは絶たれたのだ。  
 
 それでも、ルナたちに悲観の色はなかった。生きている限り、『次』がある。『希望』があるからだ。  
みんなの気遣いと本人の努力もあり、ルナはなんとか元気を取り戻していた。  
 
 遺跡の外に佇むカオル。と、そこにシャアラが現れた。  
 
「カオル………」  
「…………」  
「……ルナを、助けてくれたのね………ありがとう……」  
「……シャアラ…」  
 
「それから……ハワードもきっと、あたし達のこと、見守ってくれてると思う」  
「…………」  
 
「ねえ、二人とも。何してるの?」  
 
 後ろから、声がかかった。ルナだ。  
 
「ううん、何でもないわ。あたし、行くね」  
 
 そう言うと、シャアラは遺跡の中へ戻っていく。その場には、カオルとルナの二人が取り残された。  
 
「カオル……」  
「…………」  
 
 あのとき――――彼女を守ると、そう誓った。でも、守れなかった。ルナは脱獄囚たちにこれ以上ない  
陵辱を受け、身も心もボロボロにされた。あの悪夢のような惨劇の責任は、間違いなく彼女を守れなかった  
自分にもある。  
 
 ルナの自殺を防ぎ、結果としてルナを心の闇から救い出すことに成功した。それでも、カオルは自分を  
許すことができなかった。彼女と共に生きていく――――カオルの心は、どこかでそれを否定していた。  
それが、とてつもなく苦しかった。自分は彼女の傍にいてはいけない人間だったのかもしれない…………  
 
「…俺は……お前を守れなかった………」  
 
 呟くような声で、カオルは自分を呪った。しかし、そんなカオルの心を見透かしたかのように、ルナが言う。  
 
「でも……あのときのわたしを助けてくれたのは、紛れもなくカオルよ」  
「ルナ……!」  
 
 自分に向けられたやわらかな笑顔が、とても眩しかった。それがどれだけ、今のカオルの心を  
救ったか、わからない。  
 
「ありがとう……今こうしていられるのは、カオルのお陰――――」  
 
 ルナの言葉は、そこで途切れた。カオルが、ルナを強く抱きしめたのだ。  
 
「ルナッ……!…俺は………」  
「カオル……」  
 
 ルナが愛おしくて愛おしくてたまらかった。思わずカオルの手がルナの頭に伸び、やさしくなでてやる。  
サラサラとした感触が、とても心地よかった。ルナが安心したように、ゆっくりと目を閉じる。  
 今、腕の中にあるこの温もりを、カオルは噛み締める。今度こそ、もう絶対に失うまいと、彼は固く心に誓った。  
 
「必ず生きて帰ろうね……この星から。……ハワードのためにも」  
「ああ」  
 
 どんな困難にぶつかっても、決して『希望』を失わずに、彼らは今日も生きていく。そんな彼らを、  
暖かい陽射しが柔らかく包んでいた―――――  
 
おわり  
 

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