捕まってしまった。
川へ飛び込もうとした瞬間、足下に銃弾が飛ぶ。
驚いている間に脱獄囚の一人にあっけなく自分のその長い髪を掴まれた。
仲間はとうに逃げてしまっていただろうか。多分まだ、私が捕まっている事には気付いてないのだろう。
「嬢ちゃん、おいたが過ぎるんじゃないの?これ以上私達を怒らせると、その綺麗な顔をずたずたに引き裂いてやるわよ」
さらに強い力で髪を引っ張られて、苦痛に顔を顰める。
どうしようもなく怖かった。いつもなら威厳のある声も言葉も、喉元が熱くて苦しくてでそうにはなかった。泣いて許してくれる相手ではないという事は分かっているのに、泣いてしまえば怖がっている事がバレてしまうというのに、それでも涙は止まらなかった。
「泣いても許しやしないよ」
「…ジルバ、コイツを連れていこう。きっとさっきの坊主みたいに助けにくるはずだ」
助けなんてくるはずがない。
仲間から嫌われているのはわかっている。偉い事ばかり言って、たいした事をしていない私など。それよりも、再度危険を侵してまで助けにくるなんて私が許さない。私が死んで皆が助かるのならば、喜んでこの命を差し出そう。
それでも身体はその考えを否定しているかのように、弱々しく震えていた。ジルバがこちらの様子を見てにやりと笑ったのを感じた。どうしようもなく怖い。
「さぁ突っ立ってないでいくよ、嬢ちゃん」
ただその言葉に従う事しかできなく、メノリは震える足でなんとか歩き出した。
どれくらい寝ていたのだろう。もしかしたら寝ていたのではなく、気を失っていただけかもしれない。
ぼーっとする頭をなんとか奮い起こし、メノリはようやくこの状況に気付いた。
両手は後ろに一つに縛られ、柔らかい地面の上に寝ている。嫌、寝ているのは地面ではなく見慣れたベッドの上だった。
ここはみんなの家だ。その事に気付いて、なんとか足と腹筋を使って上半身を上げる。暗くて、自分以外に誰がいるかも検討がつかない。
「お目覚めかい、嬢ちゃん」
聞こえてきた声に、ああ人がいたのかとまるで人事のように思った。起きてばかりで脳が動いていないのかもしれない。そういえばまだ少し頭がぼーっとする。
「可愛い顔してよくやるもんだよ」
相手は声からして女だろう。向かいのベッドに腰掛けているのか、声はそこから聞こえてくる。
「生意気なガキ共のくせに」
「……」
「でもアタシはあんたみたいな娘で遊ぶのが好きなんだ」
目が大分慣れてきた。髪の長い女(多分、話に聞いていたジルバという奴だろう)が、じっとこちらを見据えていた。今更になって高まる心臓の音がやかましくて仕方がない。
ふっとジルバが立ち上がり、私の隣に座った。ジルバが座った分だけ、ベットが沈む。
「アンタみたいな娘って、大抵初めてもまだだからねぇ」
(わ―――)
悲鳴を上げる間もなく、身体は静かに押し倒された。
まるで何をされるのか考える隙を与えないかのように、ジルバは私に唇を押し付けた。