インターミッション 〜シンチャ〜  
 
「さあ、これでよし。チャコ、どう?」  
工具を片手にシンゴが聞いた。  
「お、だいぶようなったわ。シンゴ、ありがとさん」  
 
「今度からは我慢しちゃだめだよ」  
丁寧にフタを閉め、その上をそっと撫でる。  
「チャコはみんなに心配かけまいと、抱え込みすぎだ」  
チャコはポンポンと埃を払い、作業台代わりの岩から飛び降りた。  
「シンゴはうちのこと買いかぶりすぎや」  
「チャコ…」  
「わかったわかった。今度からシンゴにはちゃんと相談する」  
「約束だよ?」  
二人が指切りをしていると、スターホールの前を影がよぎった。  
 
「お、ルナとカオルや」  
「おーい、お帰りー!」  
ルナが気づいて、二人に手を振り返した。  
「なんや、けったいなもん持っとるな」  
 
「ああ、やどり木じゃないかな。ほら、入り口に飾ってる」  
「チッスをしたい男女がその下に集うという、あれか」  
「チャコにかかると身も蓋もないな」  
シンゴがクックッと笑う。  
「チャコはいないの?今夜キスしたい男の子は」  
「ななな、なにゆうてんねん!」  
ポカポカ叩かれ、シンゴは声を上げて笑った。  
 
「この中にはいないよなぁ」  
「あ、あたり前や!」  
「チャコは大人の女性だから、ガキは相手にしないよな」  
「…え?」  
 
「なんでもないなんでもない!あっ、カオルー、今度は森に行くのー?  
 アハハ、あの二人はほんとに働き者だなぁ。ね、チャコ」  
「あ、ああ」  
チャコはシンゴの横顔をまじまじと見つめていた。  
 
 
 
カオス@森の中  
 
「くっ」  
ベルは汗だくになってもみの木の周りを掘っていた。  
すでに数十センチほど掘り下げてある。  
「意外と…根が深いな…」  
息を切らし、額の汗を袖で拭う。  
 
「ベルー!どこだー!」  
聞き慣れた声がして顔を上げた。  
「ハワード!ここだよ!」  
数時間の孤独から解放され、笑顔で呼びかける。  
手を振っていると、やがてハワードが現れた。  
「ずいぶん奥まで来たなー。探したぞ」  
 
「手伝いに来てくれたの?」  
うれしそうなベルにそっけなく言う。  
「洞窟からメノリに追い出されたんだよ。  
 そしたら、外にいたシャアラがお前を手伝えってさ」  
それを聞いてベルの頬が緩む。  
ハワードに用を言いつけるなんて、シャアラも強くなったものだ。  
 
「掘って」  
シャアラの顔が浮かんだ。  
「掘って持ってきてよぉ」  
 
「ああ、掘るよ、シャアラ」  
「なに言ってるんだ、ベル?」  
 
「あ、カオル」  
シャアラに頼まれてベルを手伝うべく森に入ったルナは、  
木陰に身を隠すようにしゃがんでいるカオルの背中を見つけた。  
「どうしたの?あなたもベルの手伝…」  
「しっ!」  
いきなり雪の中に押し倒される。  
「声を出すな」  
カオルは真剣な顔で言うと、そっと起きあがって様子を見た。  
特に問題はなかったらしく、安堵のため息をつく。  
 
「なに?危険な生き物でもいたの?」  
ルナは伏せたまま、小声で囁いた。  
「ああ…、そんなところだ」  
カオルの目が泳ぐ。  
二人は身をかがめたまま、茂みの向こうに移動した。  
「ここまでくれば、…安全だろう」  
大きな倒木の陰に並んでよりかかる。  
 
「大丈夫かしら。ベルもこの辺にいるはずなのに」  
「それは大丈夫だ。俺が保証する」  
カオルが再び遠い目をした。  
「手伝わなくていいのかしら」  
「いまは動かない方がいい。薪でも集めながら一度戻るか…」  
「だったら、少しここにいましょう。スターホールまで結構距離あるし」  
カオルを見上げてニコッと笑った。  
「あの枝で、リース作ったら素敵だと思わない?」  
 
 
「シャアラ、料理を手伝おうか?」  
「ありがとうメノリ。でもいいわ」  
メノリは複雑な表情をした。  
「私が手を出さない方がいいか…」  
「違うの。ちょっとアダムを見てほしくて。  
 なんだか今日は落ち着かないみたい。危なっかしいわ」  
 
「アダム、ちょっと来い」  
「メノリ!」  
森から出てきたアダムが、メノリに走り寄る。  
「あっちでクリスマスの話を聞かせてやる」  
手を引いてスターホールに戻ろうとすると、入り口でアダムが立ち止まった。  
「どうした?」  
 
「メノリちょっと座って」  
「ん?こうか?」  
メノリがしゃがむと、アダムはメノリの口に自分の額を押しつけた。  
「ブッ」  
メノリは口を押さえて尻餅をつく。  
「あの下では、好きな女の子にキスをしてもいいんでしょ?」  
(ルナの教え方がまずかったな…)  
 
「いいか、アダム。キスというのはこうするんだ」  
メノリはアダムの細い肩をつかみ、引き寄せた。  
「目を閉じろ、アダム」  
自分も目を閉じ、そっと唇と唇を重ねる。  
 
「…なにやっとんねん、メノリ」  
「うっわー、大胆だねー」  
 
「チャコ、シンゴ!」  
顔面蒼白になるメノリ。嬉しそうなアダム。  
「ちっ、違っ!私は、正しい知識を教えようとだな!」  
「甘酸っぱいのぉ〜」  
「初恋の味は何味だった、アダム〜」  
「メノリの味だったよ〜」  
「違うと言ってるだろうが!」  
 
「にぎやかねぇ」  
鳥の下ごしらえをしながら、シャアラはニッコリ笑った。  
 
 
「おい、よせ…」  
倒木に腰掛けたカオルが周囲を気にした。  
「んっ…カオルが始めたくせに…」  
ルナはその脚の間に跪き、股間に頭を潜り込ませている。  
そのオレンジ色の髪に触れながら、カオルはもと来た方に目を凝らす。  
木は密に生えていて、人の気配はない。  
カオルはルナの肩をつかんで離し、自分も倒木の陰に入った。  
「仕方のないやつだ」  
 
「んあっ!」  
「大声を出すな」  
耳元で囁き、唇を塞ぐ。  
二人分のコートの上で、ルナはカオルを受け入れていた。  
浅黒い腰の両脇で、肌色の足が揺れる。  
「背中…冷たくないか…?」  
「大丈夫…。カオルこそ…寒くない?」  
半袖のカオルを気遣う。  
「いや…」  
実際、寒くなかった。  
それどころか、汗ばんでさえいた。  
 
「う…あ…」  
「くっ、ルナ」  
「カオル…」  
思うように声を出せないのが辛く、指を噛む。  
カオルはその指をそっと口から外し、ルナを抱きしめた。  
「すまなかった…」  
「んっ、んあっ、…え?」  
「声を出してくれ…お前の…声が聞きたい…」  
「はぁっ、カオル…ああっ」  
「ルナ…」  
「あっ、ああっ、わたし、もう」  
ルナは背中を反らしていやいやをするように首を振った。  
脚がピンと伸び、腰がガクガクと震える。  
膣内の激しい収縮に、カオルの目が眩んだ。  
「あ…あぁ…」  
 
ルナが脱力したのを見て、カオルは体を離した。  
カオルズスピアーの先からはカウパー線液が滴っている。  
カオルは肩で息をしながら、ルナを見下ろした。  
「ごめん…先に…」  
「いや、いい」  
ルナは汗で額に張り付いた髪を払い、カオルににじり寄った。  
「うっ…」  
「ああ…カオルの味がする…」  
「う…あ…」  
カオルはルナの髪に指を触れ、頭をつかんだ。  
 
 
 
「ふー、やっと堀れた」  
近くの手頃な木を切ってソリを作る。  
「天使達のゆりかご」さえ無事なら、シャアラは気にしないだろう。  
「さあハワード、帰るよ」  
「ふぇ?」  
ベルはソリにもみの木を乗せ、ハワードを小脇に抱えると意気揚々と帰途についた。  
バサバサバサ…  
少し離れた茂みから鳥が飛び立つ音がした。  
「もう夕方だな」  
 
 
「おーい、飾り付け終わったでー」  
「バイオリンの準備もできたぞ」  
 
「うん、ごちそうももうすぐできるわ!」  
「うわー、すごいや。シャアラ、これもう運んでいい?」  
「お願い、シンゴ」  
特製ローストトビハネを運ぶシンゴに笑いかけ、シャアラは空を見上げた。  
「まあ、もう日が暮れるのね。…ベルは大丈夫かしら?」  
 
 
「ああっ…、んっ!」  
「うっ…く…」  
「ああん!あうっ!うぅっ!」  
「う…」  
倒木の陰では、四つんばいになったルナをカオルが後ろから貫いていた。  
まだ若いとはいえ、カオルズスピアーは十分な長さを持つ。  
それで奥を滅茶苦茶に突かれ、ルナの目に涙が溢れた。  
「んぁっ!ぐっ!ああっ!」  
耐えきれず、手探りで掴むものを探す。  
が、手に触れるのは雪ばかりだった。  
 
「ルナ…もう…」  
「待って、私も…っ!」  
そのとき、ルナの指に木の枝のようなものが触れた。  
無我夢中でそれをつかみ、歯を食いしばる。  
「くっ…」  
声を漏らしながらも、カオルが腰の動きを早めた。  
「あっ、あんっ、あっ、ああっ」  
「ルナ…ルナ…」  
「…カオル!」  
 
二人は大きく肩で息をしながら、並んでへたり込んだ。  
「はぁっ、はぁっ、カオル、すごかったわ…」  
「…」  
どちらからともなく指を絡ませる。  
「ところでルナ、お前そっちの手になにか持ってるぞ」  
「え?…アハハ、やだ、抜いちゃったんだわ」  
放り投げようとして、木になにかついているのに気づいた。  
「ん?これ…」  
カオルものぞき込む。  
「実だな」  
ルナはおそるおそるつまんで、口に含んだ。  
「どうだ?」  
「…クランベリーに似てるわ。ジャムにしたらおいしそう」  
二人は顔を見合わせ、ルナが吹きだした。  
「これで気が楽になったわ。おみやげが出来て良かった!」  
「チャコが喜ぶな」  
「さ、帰りましょう」  
「ああ」  
 
二人は腰を上げ、木の実を集めて帰途についた。  
まだ暮色の残る空には、星がまたたきはじめていた。  
 
 
クリスマス・イヴ  
 
「あー、お腹いっぱいだあ!」  
「ハワード、食べ過ぎで体型変わってるぞ」  
ひっくり返ったハワードに、メノリが呆れたように言った。  
 
「シャアラの肉料理は絶品だったなあ」  
「肉料理と言えばシャアラだよね」  
「お肉おいしかった〜」  
「ふふっ、シンゴ、ベル、アダム、ありがとう。  
 でも、これも皆が材料を狩って来てくれたからよ」  
シャアラの成長ぶりにみな微笑む。  
 
「今日はデザートもあったしな」  
メノリが笑顔を向けると、チャコもうなずいた。  
「ああ、久しぶりの糖分や。五臓六腑にしみわたったで、ルナ」  
「カオルのおかげよ。ね?」  
「あ? …ああ」  
 
「みな、楽しんでくれ」  
メノリがバイオリンを取り出し、陽気な旋律を奏で始めた。  
ハワードがシャアラの手を取り、ベルがアダムと踊る。  
シンゴとチャコがはやし立て、ルナが場を盛り上げる。  
シャアラによる自作ポエムの発表やクリスマスキャロルの男声合唱など、  
数々の出し物も披露され、楽しいイヴの夜は更けていった。  
 
 
「ふう、ちょっと踊りすぎちゃったみたい」  
シャアラは火照った頬を冷まそうと、外に出た。  
「なんてきれいな星空なの…」  
扉によりかかって、うっとりと見上げる。  
きらめく星空に、さっき踊ったハワードの笑顔が浮かんだ。  
「やだ、私ったら…」  
(気になってるのはベルのはずなのに…)  
余計熱くなった頬を押さえ、シャアラは目を閉じた。  
 
「う〜、やっぱりトイレが外って冬はキツいよなあ…」  
ハワードはかじかんだ手に息を吹きかけた。  
「あれ?あいつ、外でなにやってんだ?」  
やどり木の飾られた入り口に、シャアラがたたずんでいる。  
(シャアラのやつ…。ハッ、まさか、僕を待ってた?)  
近づいても気づかず、うっとりと上を向いて目を閉じたままだ。  
(確か、やどり木の下にいる男女にはキスする義務があるんだよな…)  
メノリにそれは違うと散々言われた気もするが。  
 
(しかし、男としてこの場合、やっぱりやらねばならん気がする)  
息を詰めて顔を近づけ、そっと唇を重ねた。  
(うわ、やわらか…)  
シャアラの目がパッチリと開く。  
「きゃああ!」  
 
「どうした!」  
コンマ1秒でカオルが飛び出してきた。続いてルナも顔を出す。  
「シャアラ、ハワード!どうしたの?」  
外には、何故か雪の中に尻餅をついたハワードとシャアラがいた。  
「なんでもないわ!ちょちょちょっと滑って転んだだけよ!」  
「そそそそそうそう、なんでもないんだ転んだんだ」  
「そう、ならいいけど…」  
カオルとルナが顔を引っ込めたあと、二人は改めて真っ赤になった。  
 
 
やがて、アダムが目をこすりはじめ、ハワードがイビキをかき、  
誰からともなく目配せをして、ベッドにと移動していった。  
 
(あれ?僕どうしてこんなところにいるんだろう)  
シンゴはいつのまにか、ベルが掘ってきたクリスマスツリーの前に立っていた。  
「あ、チャコ」  
ツリーの根元では、幹に背をもたれかかるようにしてチャコが寝ている。  
「もう、こんなところで寝たら冷えるよ」  
かがんでチャコを抱き上げようとした瞬間、あたりがまばゆい光に包まれた。  
 
「あ…!」  
みるみるうちに、ツリーに見事な飾り付けが施されていく。  
「みんな、みんな!起きて!見てごらんよ!」  
振り返って叫んでも、誰も起きてこない。静まりかえっている。  
「なんや、うるさいな…」  
「チャコ!見てよこれ!すごいよ!…って、チャコ!?」  
 
ツリーの根元にいるのは、ピンクの服を着た17、8歳に見える女性だった。  
「なに騒い…、って、うわ、なんやねん、これ!」  
「チャコ、チャコなの!?」  
「うちや。…たぶん」  
「チャコ…」  
シンゴはおそるおそる手を伸ばし、頬に触れる。  
「あったかいよ」  
「これ…、どうなってんやろ…」  
チャコとおぼしきツリ目の女性は、困った顔をして小首を傾げている。  
その様子がたまらなく可愛くて、シンゴの胸はうずいた。  
 
「なあ、シンゴ?」  
白い手が、頬に触れたシンゴの手に重ねられる。  
シンゴは赤面し、慌てて手を引いた。  
「どうした?」  
「え、いや…、だって、チャコ、大人で、綺麗で、可愛くて…」  
シンゴはしどろもどろになりながらうつむいた。  
「こんな人のメンテナンスしたと思うと、胸がドキドキする…」  
「アホ…」  
 
チャコはシンゴに近づき、顔をのぞきこんだ。  
「あのな、これ、うちらへのプレゼントかもしれん」  
「だれからの?」  
「決まっとるやろ。サンタさんや」  
「…チャコ」  
「なんでもいいんや。ただ、わかっとるのは…うちらは今だけ、  
 今までしたくてもできなかったことが出来るっちゅうことや」  
「それって…」  
「わかるか?」  
「うん。…でも」  
「迷ったら後悔する。うちはそう思う」  
 
 
いつのまにか現れたベッドの上で、チャコは服を脱いだ。  
頭のネコミミだけはとれないとみえてそのままだ。  
シンゴも服を脱いでチャコにのしかかる。  
「…なんだか、お母さんに甘える子供みたいだ」  
「そんなことないで。セクシーないい男や」  
微笑むチャコが、シンゴのメガネを外す。  
「キスするときは外すもんやで?」  
「んっ」  
舌を絡ませながら、シンゴの感じやすいところに触れる。  
「あ…」  
シンゴの手が、おずおずとチャコの形のいい乳房を揉み始める。  
 
「いいんだね」  
白い脚に手を当て、ぐっと開いてシンゴが言った。  
「もちろんや」  
チャコは優しく微笑む。  
シンゴは反り返った陰茎に手を添え、ピンクの茂みに押し当てた。  
「ぬるぬるしてよくわかんないよ」  
「ん、そのまま下に…」  
「あ…、これ?」  
「そこや、思い切ってええで…」  
「入ってく…でも、きついよ」  
「うちは平気やから、もっと体重乗せて…」  
「いくよ…っ」  
 
(うちも処女やったんや…)  
痛みを堪えながらチャコは苦笑した。  
シンゴは挿入後すぐに果てたが、さすがの若さで復活し、  
正常位で1回、騎乗位で2回、バックで2回射精した。  
 
「チャコって、やっぱり経験豊富なの?」  
「そんなわけないやろ」  
「だって、すごく気持ちよかったよ」  
「知識だけは豊富やからなぁ」  
チャコは照れたように笑い、シンゴの髪を撫でた。  
疲れ果てたシンゴはすぐに寝息を立てる。  
チャコも瞼が重くなってきたのを感じた。  
目覚めたら、元のロボットに戻っているだろう。  
でも…  
「誰か知らんが、ありがとさん…」  
 
スターホールの外には、粉雪が散り始めていた。  
 
 
  <完>  
 
 

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