フラグ建築職人の朝は早い。
日が上り始めたころに職人は起きる。
―どうしてこんなに早く?
職人「義妹の従姉妹が朝稽古するので。
俺が付き合わないと布団を剥ぎに来るんですよ」
―辛くはないんですか?
職人「まぁ、最初は嫌でしたよ(笑)
でもスグの笑顔を見るうちにどんどん苦にならなくなっていったんです」
そういいながら義妹の背中に冷水の雫を注ぎ込み
「ぴゃーーーーー!!」と可愛い悲鳴を上げさせている。
何気ないフラグ立ての一つでも職人技が光る。
―いつもはこんな風にフラグ立てを?
職人「いろいろですね。ペットの蘇生を助けたり、素材を探しに冬山で同衾したり」
職人「ですが後者は初心者にはお勧めできませんね。
裏ページでエロパロSSを書かれちゃう時もあるんですよ(笑)」
―女の子とフラグを立て始めたきっかけは?
職人「有名ギルドの副団長に兎シチューを作ってもらいました。
今は俺の恋人になってます」
職人は学校に向かう。
途中で眼鏡をかけた美少女が職人に声を掛けた。
なんと職人の学校ではない他校の生徒である。
―この少女は?
職人「BoBで友達になった子ですよ。
洞窟の中で抱き合ったり、バギーに二人乗りでターミネーターから逃げ回ったり大変でした。
しまいにはリアルでも襲われそうになって彼女の家に行くとパンt・・・」
華麗に右ストレートを職人の頬にめり込ませると、美少女は顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
セクハラめいた発言で少女を巧みに操る様は、まさに職人技である。
4限目のチャイムが鳴り響き、昼休みに入る。
数分後、職人に変化が
―どうしたんですか?
職人「アスナが来たみたいです。今日は煮込みハンバーグと高菜ご飯ですね」
すると教室の扉が開き、朝とは別の美少女が入ってきた。
両手に大きい弁当箱と小さい弁当箱の包みを持っている。
どうやら恋人と昼食を取るようだ。
―よくメニューが分かりましたね
職人「アスナの弁当の匂いはすぐ分かります。遮蔽物があっても200mまでなら余裕ですね」
人間離れした匠の業こそが職人の職人たる所以である。
放課後、帰宅した職人はALOにダイブする。
―VRMMOでもフラグ立てを?
職人「むしろVRで立てることの方が多いですよ。
この前はシルフとケットシーの領主さん達にリアルで飲まないかと誘われました」
―行ったんですか?
職人「俺は未成年なんで食事会にしてもらいましたけどね。
酔ったサクヤさんが脱ぎ始めて大変でした」
職人は一切妥協しない。
どうやらこれからパーティを組んで狩りに出かけるようだ。
職人のプレイヤーホームに5人ものプレイヤーが集まる。
なんと全員女性である。
―男性はいないのですか?
職人「一応俺がいますけど(笑)
野郎連中はどいつも仕事持ちなんで、夜遅くないとINしないんですよ。
なので夕方はいつも彼女らと狩りに行ってます」
狩りが始まると、職人の顔つきが変わる。
鬼のようにMobを切り倒していたかと思うと、少女らが危なくなると一瞬でフォローを入れる。
吊り橋効果と王子様効果を兼ねた匠のフラグ乱立だ。
―女性を助ける時は異様に強いですね
職人「ゲームとはいえ仲間が死んでしまうのは嫌なんですよ」
イケメンがそんな調子なもんだからフラグが立つのは自明の理である。
午前0時。
職人がようやくログアウトした。
大きな欠伸をする職人。
―随分遅くまでかかりましたね。
職人「ホームの揺り椅子で、娘のユイとアスナの三人でいっしょにくっついて、ゴロゴロしながら寝落ちするのが日課なんです。
今日は今度の週末どうするか話してたら遅くなりました」
―週末は何を?
職人「うちでバーベキューやることになりました。クラインが日曜出勤でエギルが店番らしいので、また男は俺一人ですね。
女性陣は8人ほど来るみたいなので肩身狭くなりそうです」
そう言いつつ、職人の顔は晴れやかだった。
イケメン顔でイケメンな表情をする彼の顔はまさにフラグ建築職人のそれであった。
職人「では、明日もスグの稽古に付き合わなきゃならないんで休みますね」
職人の長い一日が終わった。