『結婚』して以来、アスナがこれほどキリトのことが分からなくなったのは  
初めてだった。  
 アスナの胸深くにキリトの一言が突き刺さっている。  
 
「SAOには排泄は無いが、果たしてアナルセックスはサポートされてるんだ  
ろうか…」  
 
 思い出した瞬間、がつんと手に持っていた包丁が手元の玉ねぎを粉砕した。  
それどころではない、包丁はまな板まで真っ二つにしている。  
 料理スキルマスターの腕が泣く荒れっぷりにアスナは目じりに涙をうかべた。  
 結局そのあともたびたび調理に失敗し、昼食の卓にあがったのは火力調整を  
失敗した目玉焼きに買い置きしておいた普通の食パン。  
 だが、キリトは落ち込むアスナの頭を一回だけぽん、と叩くといつも通り美  
味しそうに朝食を食べつくした。アスナは目じりに涙をためながら「ごめん  
ね」と心の中でキリトに謝った。  
 
 アルゲードに買い出しに行ってくる、と告げたキリトの背中を見送り一人で  
寝室に閉じこもる。  
 本当はキリトの新しいセーターの作成やら食材の準備やら掃除やらやること  
はたくさんある。だが、心の中を整理する時間がほしかった。  
 手早くベッドメイクを済ませ、その上にごろんと横になって朝のやりとりを  
思い出す。  
 
 なぜキリトは「SAOには排泄は無いが、果たしてアナルセックスはサポー  
トされてるんだろうか…」とつぶやいたのだろうか。  
 
 たった一つだけアスナには心あたりがある。『結婚』を行ってからなん  
ども自問自答している乙女の悩み。  
 もしかしたら彼は営みに満足していないのではないか。  
 朝方いきなり貫かれた時、苦もなくキリトを受け止められたのは、最初のこ  
ろよりも「ゆるく」なったからではないかと、アスナは思っていた。だからこそ  
朝あんな話をしてきたのではないかと疑っている。  
 理性の奥深いほうでは――アバターである肉体がそんな変化をするわけはな  
いと理解しているがどうしても確かめずにはいられない。なにせ一度交わると  
現実では考えられないほどの回数を交わりあっているのだ。もしかしたらとい  
う感情が働くのも無理はなかった。  
 
 現実では容易に得られるのかもしれない性奉仕の方法や手順なども、情報から  
隔離されたSAO内では親しい人間に聞くしかない。しかし『結婚』をおこなうSAO  
プレイヤーは希少で、アスナが悩みを相談できる人間は一人もいなかった。  
「はぁ……お尻、かぁ……」  
 正直なところアスナもキリトの問いに対して明確な回答が出せない。排泄の  
心配がない、逆説的に考えれば排泄行為ができないSAOで、そこがどのよう  
に機能するのかアスナにもよくわからない。ただアバターに付随するオブジェ  
クトとして、後ろの嵌りの感覚はある。その感覚がなければ、たとえば椅子に  
すわるときでもなんでも、落着かなくて仕方がないはずだ。  
「できるのかなぁ……さすがに自信ないよ……キリト君……」  
 つぶやきながら、つい二時間ほど前まで睦みあっていたベッドの上を布団の  
うえをごろごろと転がる。  
 そしてもし仮に今日、キリトが後ろの嵌りでやらせてくれと真摯に依頼して  
きたら、その時はその時はどう答えればいいのか。  
 アスナはもう三週ほどベッドの端から端へごろごろ転がり、がばっと起き上  
がった。そして寝室の隅にある姿見をベッドの脇に移動させる。  
 寝室のドアの施錠を確認してから、一度大きく深呼吸し、愛娘ユイの魂たる  
ペンダントを両手で握りしめて目をつむる。  
「ユイちゃん……ママ、頑張るからね」  
 アスナの孤独な戦いがはじまった。  
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  
 
 アスナはまず姿見に自分が映っているのを確認して、それからベッドに腰か  
けた。  
 血盟騎士団を退団しキリトの妻となってから通している色を抑えたロングス  
カートをそろそろとたくしあげる。いっそ装備を解除してしまおうとも考えた  
が、なにかの用事でキリトが帰ってきた時に言い訳の仕様がない。  
 アスナはスカートのちょうど真ん中のあたりを口に含み、それから下着の装  
備を解除する。これなら例え寝室の鍵をいきなり開けられても、すぐにごまか  
しが利く、はず。  
 
 めくりあげられたスカートから、まるで乳白石を磨いたような滑らかで美し  
い両足がまろびでていた。緩く開かれた脚と脚の付け根から、先ほどまでキリ  
トにむさぼられていたサーモンピンクの粘膜が露出している。  
 アスナは羞恥に顔を赤くしながらも、脚と脚の間から手をのばし、たどたど  
しく手つきで肉ひらに触れる。まだキリトと最初に睦みあってから実はまだそ  
れほど日がたっていない。それを表すような幼い、まだ性に触れたばかりの手  
つきはまだまだ危うく、初々しい。  
 それでもやっと人さし指と中指で秘裂を広げた。  
 くぱぁ……と愛液で潤っていた秘裂が開かれる。そして――予想だにしない  
ものが、そこからこぼれていった。  
「んっ!」  
 布をくわえているせいで嬌声がくぐもる。  
 わずかな刺激で膣道がきゅっと狭まり、まだ残っていたキリトの精子がこぽ  
こぽと圧力にしたがって流れだしたのだ。  
 肉のカーテンを伝ったそれは、やはり重力に徐々に流れていき、ベッドの  
シーツをよごしていく。  
「ぅぅ……んっ……んっ……」  
 下着をつける時にも十分に処理したにもかかわらず、流れ続ける精子の量に  
顔が赤くなるのをアスナは感じた。  
 どれほど注ぎ込まれているのかもう検討もつかない。  
 精液と自信の愛液で指先を汚しながら、中指をごく浅く秘裂に差し込んでみ  
た。  
「んんぅ……!」  
 蕩けるような刺激にアスナは整った眉を寄せる。さいわいさっき心配したよ  
うな「ゆるく」なっている感じはない。  
 それ以上触れているとまた別の感情が生まれてきてしまいそうだったので、  
アスナはそこから手をどけた。  
「んっ……」  
 安堵で脚から力が抜け、まるで座ることを覚えたばかりの赤ん坊のように両  
足をなげだす。  
 秘裂からはまだまだどぷどぷ、白いものが流れ出てた。  
 一度全部ふき取ってしまおうかと考えて、やめた。  
 秘裂から流れ落ちる粘性の白いしずくは、いまから冒険をしなければならな  
いお尻の穴の方へ流れていく。いまきれいにしたところでまた――と思い、あ  
きらめる。  
 
「んはっ……んっ……キリト君、だしすぎだよぉ……」  
 スカートの裾を口から離し、まだまだ流れ出てきそうな結合のあかしを愛お  
しくおもいながら体勢を変える。  
 四つん這いになったアスナは少し体をひねり、そこがちゃんと鏡にうつって  
いるかどうか確認する。もちろん、スカートは下腹部のあたりまで引き上げて  
ある。  
 鏡をみると、白桃を二つぱっくり割ったような桃尻の間に、菊座が写ってい  
た。微妙に菊座の表面が潤っているのは、秘裂から流れ出たキリトの精液のせ  
いだ。  
 鏡を凝視しながら指をうごかして、恐る恐る菊座に触れる。自分の体のなか  
でほとんど意識をしたことのない器官に触れるのは抵抗があったが、試しに中  
指でつついてみると、意外にはっきりと感触が帰ってきた。どこか懐かしい感  
覚感覚がする。  
「ぅぅ……んっ……」  
 入口をくすぐるとわずかに、ほんのわずかに快感がはしる。それは少なくと  
も二年間近く忘れてた生理現象の感覚だった。  
「んっ……んっ……これ……」  
 無意識に吐息をもらしながら、ふにふにと入口をノックする。しばらく、菊  
座のシワのあたりを上下させたり、たまに押し込んだりしてみる。  
「……はぅ……んっ……ぅっぅ……んっ……うぅ……」  
 すると本当にわずかではあるが、刺激したあたりが熱を持ちはじめている。  
 膣道を刺激されるのとは違う、ただ熱さとして感じる快感にアスナはすでに  
酔い始めていた。  
 
「あ…ぁぁ……」  
 夢中になりかけている自分に気がつき、アスナはあわてて手を止めた。  
 そして同時に、体の芯の部分をなぶる怖さを思い知った。  
 キリトのものをうけとめてしまったら――間違いなく正気ではいられないと、  
アスナは直感した。  
「………………………」  
 しばらくしてアスナは後始末のために起き上がった。  
 キリトが求めてきても――そのときはちゃんと断ろうと心に決めて。  
 
 後始末をして――秘裂から垂れ流れる精液を今度こそ全部ふき取って――ス  
カートを直し、アスナはいつも通りの生活を続けた。  
 手早く部屋内の掃除をしたあと、衣服の作成に取り掛かる。綿の塊を材料に  
して特定の手順を守り、キリトのセーターを編んでいく。  
 レイピアしか握ったことのなかった指先が今は夫のセーターを編むために動  
いている不思議に、アスナは胸がくすぐられる感覚をおぼえる。  
「……ふう」  
 スキル値が低いせいで、決してよい仕上がりとはいかないが、精根こめて作  
った衣類だ。きっとキリトは喜んで着てくれるに違いない。  
 出来上がったセーターをぎゅう、と抱きしめたあとアイテムウィンドウを呼  
び出して、セーターを格納する。  
 『結婚』によって共通化されたアイテム欄は、キリトとの絆のあかしだ。呼  
び出すたびにささやかな幸せを感じ、うっとりするのが常だった。  
 キリトが釣りや採集で取得したアイテムもここに放り込まれてくるため、実  
はキリトが帰ってくる前に釣果やら採取の成果を事前に知ることができている  
のだが、そのことにキリトはまだ気づいていないらしい。どう考えても近場の  
湖にはいない時間に、大ぶりの魚が追加されたりしているとつい噴き出してし  
まう。  
 今日はアルゲードで衣服の材料と果物を少々見つくろってくるはずだ。アイ  
テム欄をスクロールしてみると確かに、上質な木綿とはじまりの街でしか入手  
できない5コルの実が格納されていた。よしよし、とキリトの頭をなでまわし  
たところで、  
「……あれ?」  
 見たことのないアイテムが追加されているのに気がついた。  
「ディル……ドー? それに、粘塊……ポーション?」  
 聞き覚えのないアイテムにアスナは目を瞬かせたのち、思い切ってアイテム  
を実体化させる。  
 二つのアイテムを実体化させて、後悔して、実体化を解除して、それからア  
イテムウィンドウを消去した。  
 
 キリトはやっぱり、アスナに望んでいる。  
 アスナは目の端に涙がたまるのを感じる。さっき確信してしまったのだ。体  
の芯、として機能するうしろの穴でのセックスなんて、怖くて、できない、と。  
 指で触れていただけでもおかしくなりそうだったのに、キリトを受け入れたら  
、どうなるのか。  
 
 怖くて、できない。でもキリトは明らかにそれを望んでいて――。  
 
「キリト君のばか……」  
 
 愛しいキリトがどこか別の場所に行ってしまったような気がした。  
 
 

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