早朝。
学校に登校する前にアイテムの整理をしておきたくて、あたしはALOにロ
グインした。
昨日、アインクラッド第二十二層のログハウスからログアウトしていたので、
同じ場所にあたしは降り立った。
「……あれ、キリト?」
まだ朝の六時なので誰もログインしていないと踏んでいたあたしは、テーブ
ルに座っていたキリトに声をかける。
「うわっ!!」
キリトがあわてたように目の前にあったスクリーンを、消去しようとしたの
が見えた。
どういうわけか、それにあやしい気配を感じてしまったあたしは、
「キリト……それ、没収!」
「え……」
表示されていた画像に驚愕する。
「なに、これ……」
そこに写っていたのはアスナの、あたしの親友の艶姿だった。
「……」
尋ねると、顔面を蒼白にしたキリトが口をぱくぱくしていた。いつものひょ
うひょうとした態度はどこにいったのか、あわあわしている。一睨みしたあと
写真に目をもどす。
でも……これ……すごい……。
なんというか、同姓のあたしから見ても、すごい、としかいいようのない画
像だ。
まず、どれもアスナの顔がとろけきっている。
それなりにつき合いの深いあたしでも、写真の表情は――見た
ことがない。
なにかに耐えるように目をつむり、頬を林檎のように赤く染めるアスナもい
れば、だらしなく口の端から唾液を垂らし惚けているアスナもいた。
写真に共通することといえば、一つも写真に目線を向けていないこと、被写
体であるアスナの脇にはキリトらしい人物が写っていること、さらに全部裸だ
ということ。
「……」
「あの、リズ……?」
キリトがそばにいるのに、迷わず見入ってしまう。同姓に興味のないあたし
でも引きつけられる、その艶姿。
とたん、頭にいろいろひらめいた。
この写真でキリトはなにをしようとしていたのか。
答えは一つしかない。
あたしは写真を一枚残らず、削除した。
「うおっ!」
「うおっ! じゃなぁぁいっ!」
悲鳴を無視して、キリトをにらみつける。
「こ、こんな画像! シリカやリーファに見られたらどうすんの! 盗撮でし
ょ、これ!」
あたしだって、こんなにドキドキしているのに……。
「やぁ……あんまりアスナと二人になる時間もなくて……写真だけでもと…
…」
「それでこの盗撮写真を――使おうとしたと。しかもこれ、SAOの時のやつ
でしょ! なんで持ってるの!」
「ちょ、ちょっと眺めてただけだって! まさかこんな朝早くリズが来るなん
て予想できないし! それにSAO時代だってスクリーンショットはあっただ
ろ! あれってナーヴギア内に保存される情報だからALOでも使えるんだ
よ!」
「なら自宅で鑑賞してればいいじゃない!」
「……スグの部屋がすぐ隣でさ。しかも薄いんだよ、壁が……」
「言い訳しないっ! それにわざわざここで、その、しようとすること……」
だめだ。どうしてもその行為に言及するときに語尾が小さくなってしまう。
普段はアスナのお姉さんを気取っているけれど、そちらの知識はほぼ皆無。ど
うしたって気恥ずかしい。
たしかにキリトの言い分はもっともだ。SAOでは当たり前にできていたこ
とが現実にもどった瞬間、できなくなる。たとえば移動は転移門ではなく交通
機関を使わなければならないし、家族がいて門限がある。
恋人同士のふたりが二人きりになるタイミングは激減しているはずだし、ま
してや――、二人きりでなければできない行為などさらに機会を減らしている
に違いない。
とはいえ、暴挙に出ようとしたのはキリトだから、今回は仕方ないよね。
「とにかくっ! こんな誰が来てもおかしくないところでしない! マナーで
しょ! するなら……その……ひとりでいるときにしなさい……あたしも、そ
の……ごめん」
「いや、こっちこそ、ごめん……」
やけに素直にあやまるキリトに、ちょっと言い過ぎたかなぁ、いや間違った
ことはいっていないと自己分析しながらも、その落ち込み具合が少し気になっ
てしまった。
おやつを取られた小さな男の子のように切なげなキリトの表情に、胸がざわ
つく。
――あたしはまだ、キリトのことを愛している。だから、そんな表情をして
いる彼を見るとどうしても力になってあげたくなる。
男の子のその衝動はどこまで切ないものなのか、あたしにはわからない。
わからないけれど、つい――彼を慰めたくなってしまった。
「……すっきりしたいなら、て、手伝ってあげようか――!?」
「え……」
「あたしでも……その、手伝うくらいなら、できると思うけど……」
「……うん」
キリトが切なそうな顔しながら、うなずいた。
正直、あたしもあたしだけど、コンマ数秒で承知するほうもするほうだと思
った。
――――――
切り株でできた椅子の上に座るキリトの、膝と膝の間にひざまずく。
「う……わ……」
黒いズボンを消したキリトの下半身から、あんまりにもグロテスクなものが
そそり立っていて、あたしは思わず悲鳴を上げてしまった。
小柄なスプリガンが持つにはあまりにも不釣り合いなイチモツがあたしの前
に飛び出している。見るのはもちろんはじめてだ。
「うわ……」
「あんまりじろじろ見るなよ……」
「仕方ないでしょ、はじめて見るんだし……うわ……」
あたしはこの時ほどアミュスフィアの解像度を恨めしく思ったことはない。
キリトのそれの周囲を静脈がはいまわり、きのこのカサのようにくびれる先
端がリアリティを伴って目の前にある。
少なくとも妖精に生えていていいものじゃない気がした。
アスナ――いつも、こんな大きいので、エッチしてるんだ……それで、あん
なにエッチな顔で、キリトに……
さきほど消去した画像を思い出す。
アスナのとろけた表情。
あれはこの杭のようなものに貫かれて浮かべたものなのか、と考えが至った
瞬間、心臓がばくばくと音をたてはじめた。
「こんなの……アスナは大丈夫なの? 無理させてない?」
「さ、さっきアスナの写真を見ただろ……」
「そ、それもそうだけど……本当にこんなの……入っちゃうんだ……」
あたしとアスナのアバターはSAO時代のものをコンバートしているから、
実際の身長、体重をそこそこ再現している。
だからおそらく、あそこの大きさもそれほどたいしてかわらないはず……。
なのに、アスナの体にこれがくいこみ、あまつさえ快楽をあたえるというの
がにわかには信じられなかった。
しかし、いつまでもぼうっとしているわけにはいかない。
そんな凶悪なものでも愛しているキリトの一部だと思うことにして、おそる
おそる、それを握り込む。
当たり前だけれど、普段触れること多い鍛冶用のハンマーとは全くちがう手
触りだ。外側は柔らかいのに握り込んでみると芯がある。
いちど大きく深呼吸したあと、あたしはキリトに言った。
「じゃ、するけど……いい?」
「……お願いします」
グロテスクにくびれたそれを、指で包んで上下にしごく。
「んっ……」
キリトが女の子みたいな声を出した。
予想外の声にあたしは目を丸くして、キリトを見上げた。キリトはどこか呆
けた表情であたしを眺めている。
なんだか嬉しくなった。ドラゴンの巣での一夜以来、ひさしぶりに素のキリ
トの顔を見た気がした。
「このままでいい……?」
キリトはあたしの質問にこくっ、と頷いた。どこか幼いその仕草に胸がざわ
めく。あたしは夢中でキリトのそれに奉仕をはじめた。
ときおりキリトから「もうちょっとゆっくり……」とか「痛い」とか指示と
いうよりも懇願がとんできて、何様のつもりなんだー、なんて思う。けれどわ
たしは、とりあえずいわれたとおりにやってみる。
すると、とたんに可愛い喘ぎ声をあげるキリトが可愛くてしかたがない。あ
たしは夢中で指を動かした。ときおり指の中のキリトがひくひく、苦しげにう
ごめく。
キリト……かわいい……
口には出せないことを頭で思い浮かべながら、「キリト……どう、出そ
う?」と聞いてみる。
「もうっ……んっ……ちょっとかな……」
「……ん。出そうになったら言ってね」
キリトがかすれた声で言った。
あたしはあれっと思った。キリトの言葉にほんの少し違和感を感じる。
何かを我慢しているかのようなニュアンスがあったのだ。
ふと、SAOにとらわれる前に見てしまった男女の睦みあいのデータファイ
ルを思い出す。
あたしのつたない知識の中ではそれが精いっぱいだったけど……その中の一
枚に、男性に奉仕する構図があった。
その……勃起したそれを口で刺激している図をあたしは何故か詳細に思い出
してしまった。
「キリト……、痛かったらごめんね」
一言ことわりをいれてから、あたしは真上からそれを口に含んだ。
さすがに当たるといたいだろうな、と思って上唇と下唇で前歯を隠し、くわ
えてみる。
「うおっ! くっ……リズ……」
キリトが悲鳴をあげたのが聞こえる。
でもそれは無視した。痛みを感じてるわけじゃなさそうだった。
髪留めのないほうの前髪が落ちてきたので、あいてるほうの手で押さえる。
とりあえず口に含んだキリトの性器を、あたしは舌を動かして舐めてみた。
あたしは舌先をつるん、としたキリトの先端に舌を当てる。上唇でキリトの
性器のへこんだところを押さえて、下唇を同じくらいのところで押さえて――
ちゅ、ちゅる……。ちゅる……。ちゅ……。
「んっ――!」
口の中で性器が跳ねた。あわててキリトを上目づかいに見てみると――。
とんでもなく色っぽい顔をしていた。申し訳なさそうに眉をひそめ、唇をか
みしめて、あたしが舌を舐めまわすたびにひくひくと全身を揺らしてくれる。
キリト、感じてくれてる――口の中、気持ちいいんだ……。
そう思った瞬間、私は何度か触れたことのある自分の溝から、何かが流れ出
ていくのをかんじた。決して不快ではない、下腹部がきゅうっと切なく疼く。
あたし……キリトの性器をなめているだけで……感じてる……?
ちがう。たぶん、体が期待している。
口でしゃぶってるそれを……そこに、くちゅって、して、と――。
そこをいれて、ぐちゃぐちゃに、して、と――。
「んんっ!」
自分の吹っ飛んだ考えに思わず顔をひいてしまった。
ぬぽん。キリトの性器がはずれた。ごめん――と謝ろうとしたところで、キ
リトが全身を震わせているのがわかった。
「い、いまの……リズ……いまの……」
想像のはしたなさに、顔をひいてしまっただけなのだけれどキリトは感じた
らしい。
「わかった……。いまのが、いいんだ……?」
「ああ……すごい気持ちよかった」
「……じゃ、もういっかい、やってあげる……」
あたしはひとまずさっきの恥ずかしい妄想を忘れることにした。
もう一度、性器を口に含もうとして……。
「キリト。ほかになにか、注文ある?」
「ちゅうもん……」
寝言のような口調にぼんやりキリトが言う。
「……大丈夫。リズのやってくれるの、すごい気持ちいい……」
「そう……じゃ、このまま……」
あたしはキリトをもう一度口に含んだ。さっきよりもっと深く。
「ぁぁう……んっ……」
あたしはキリトが喘ぐのに気を良くして、奉仕をはじめた。キリトが気持ち
よくなってくれるようにと心から願いながら。
キリトの性器に舌をあてながら、上下に動く。
舌でぼっこりふくらんだ尿管のあたりを掬うように舐める。舌先が性器のカ
サの裏側をすべるとキリトの身体が小さく震えた。
やりかたは間違ってない、ようなので、あたしはしばらくその上下を続けた。
じゅる……じゅる……じゅる……
えっちな音があたしとキリトの性器からながれた。
ときどき、あたし自身がまぶした唾液をじゅる、じゅると吸い上げるとキリ
トの性器がビクビクうごめく。キリトのそれが舌の上を一往復するたび、あた
しの体温があがっていく。生々しくて熱い性器の熱が、舌先を通じてうつって
くる。
あたしは舌の先端に少しだけ力をいれみた。
にゅるん、と舌がそれをすべって、それが抜かれた瞬間、先端に触れてしま
った。
なんだか塩辛い味がする。
ん……なんかさっきとはちがう味……おしっこじゃないよね……
あたしはもっとそれを味わおうと、切れ込みの入ったそこをくすぐった。
くすぐってしまった。
キリトの性器が元気よく持ち上がったまま、ふるえだした――。
「う、うわ……リズっ!」
「どうふぃたの――!! う、わ――!!」
口の奥でキリトが暴れまわっている。そして先端から何かが粘性の液体が発
射されるのを感じた。
「ぐ、うっ!」
何かをおしだすようなキリトのうめき声。あたしはとっさに、キリトの性器
をくわえた。
にがいっ!?
性器が何かを噴射している。あたしの口の中を暴れまわって、頬の内側や喉
の奥にまで、苦い液体がぶちまけられていく。
それに舌がちりちりするほどの苦み。舌が燃えているのかと思ってしまうほ
どの、苦み。
キリトが……犯してる……口の中、犯されちゃってる……
……どれくらいの時間がたったのかわからないくらい長く、キリトはあた
しの口に吐き出し続けた。
「リズ……ごめん……」
「んっ……ぐ……ごく……」
せき込みそうになりながら、喉の奥まで犯してきたキリトの精液を飲み込ん
だ。
まだまだ口には残っていそうだったけど、とりあえず一度キリトの性器から
口をはなした。
亀の頭みたいな性器の先端と、あたしの舌の間に白い糸の橋ができて、ぼつ
っ、と落ちていった。
あたしは荒い息を整えてから、キリトを見上げる。本当に申し訳なさそうな
キリトの顔をみた。でも、顔からはさっきのせつない表情はなくなっていた。
いちおうは満足してくれたのを感じて安心する。
けど、まあ……感想だけキリトに伝えよう。
「キリト……これ、にがい……。アスナにも、こんなことさせてるなんて…
…」
「……してもらったことないよ」
「へ……?」
何を?と聞き直そうとして、言葉の意味に気がついた。唖然とする。
「は、初めてだったの……こういうの」
「あ、ああ……。アスナにもしてもらったことない……」
「……」
何か大変なことをしでかしてしまった気がする。
ようするにキリトのそこの味を……はじめて感じたのは、あたしだというこ
と?
その事実だけで、スカートの中のそこが潤むのを感じた。自分で確認するの
がこわいくらい、そこは濡れてしまっているはずだ。
「リズ」
キリトに呼びかけられて頭をあげる。触れるか触れないかの、羽先のように
やさしく、あたしは頭をなでられた。
「んっ……」
キリトの指が髪をすいていく感覚が甘くて、あたしは思わず喘いでしまった。
大好きな人が満足してくれた、という嬉しさに胸がどこかにいってしまいそう
だった。
ときめく――というのは、きっとこういうことなのだろう。
だからあたしは――リズベットは褒めてもらいたくてもっと気持ちよくなっ
てほしくてキリトを見上げて言ってしまった。
「……たまになら、いいよ」
「え?」
「その……た、たまになら……いいわよ、こういうこと……してあげても。あ、
あくまで! アスナの体に負担をかけたくないだけ……それだけだからね…
…」
「あ、ああ……」
「じゃ、今日はこれでおしまい!」
あたしは車座になっていた脚をのばして、キリトに目線を合わせた。
「あとで、また朝学校で会おっ!」
言っている途中で恥ずかしくなって、あたしはキリトに背を向けて手早く、
ログアウトボタンに指を走らせる。システムコールが表示されログアウトが
開始される。
「リズ。ありがとうな……」
最後の最後にものすごくずるい――全部をゆるしていまいたくなるような、
淡い言葉を背中に浴びながら、あたしは逃げるようにALOからログアウトし
た。
――――――
現実にもどっても、のどと舌に苦みが残っていた。物理的に何もおこってい
ないのだから、それは間違いなく勘違いで実際には何も含んでいない。
でも、熱くて、大きく、人間の器官とは思えないぐらい弾力があった、キリ
トのそれの感覚は舌でも口でもなくて脳の奥深くにきざまれていて――。
気がつくとあたしは、自分の唇を指先でなぞっていた。
キリト……気持ちよさそうだったなぁ……
もっとうまくできれば、またあんなキリトの可愛い表情を見れ――
「――!」
頬をたたいて、そこから先の思考を停止させる。
そのまま、いそいそと洗面所に向かい冷たい水で顔をあらう。
なんどもなんども、気が済むまで顔をあらって、タオルで顔を拭き、やっと、
一息ついた。
「……よしっ!」
やってしまったことは仕方ない。
とりあえず学校で和人に会って、おはよう、といつも通りに言おうと心にき
めて、あたしはぱんぱんっ、と頬をたたいてシャワーを浴びるべくお風呂場
に向かった。