『朝田さぁ。こういうのには興味ある? 兄貴の部屋にあったんだけどさー』  
 
 言いつつ、遠藤は詩乃の目の前に週刊誌をひろげた。  
 開かれたページには、裸体をさらし陰部と乳房を丸出しにした女性が、男性とセックス  
をしている写真があった。脚を大きく広げ、男を受け入れ、恍惚の表情を浮かべる女性…  
…。  
 いまならシノンも、遠藤とそのとりまきが、ウブな詩乃の反応を、陰で笑うために持ち  
込んだものだと理解できる。  
 が、当時の詩乃にとって、写真は衝撃的だった。  
 父親は詩乃が物心つく前に亡くなっているし、育ての親となった祖父と一緒にお風呂へ  
入ったのは遠い昔のこと。さらには、同性、異性に関わらず人との関わりを持ってこなか  
った詩乃は、自分でもよく知らない場所に、そそり立つ卑猥なものを差し込まれる女性の  
絵は、凄まじいものに映ってしまったのだ。  
 
『うわ、朝田顔まっかじゃん。ウブすぎー』  
 
 顔を赤らめうつむく詩乃を、本を見せた張本人たちが無遠慮に笑った。詩乃は嘲笑がお  
さまるまで、顔を隠し続けた。羞恥心が主な理由ではない。恐怖心で蒼白となるのを、他  
人にみられたくなかった。  
 ファーストインパクトが強すぎたせいか、詩乃はその手の雑誌から目をそらし続けてき  
た。GGOにログインしてからは、銃への恐怖を克服すべく時間をつかっていたので、性  
に関する知識は周囲よりも幼く、つたない。  
 
 そんなシノンの目の前にはいま、唇を重ねる二人の少女の姿が実像を持つ。  
 
「んっ、んん――!」  
 
 わずかに窓が開いているのか、カーテンが風で揺れ、外から差し込んでくるやわらかい  
陽光がゆらゆら揺らぎながら、寝室を照らし出す。  
 そして光は、ベッドの上で唇を交わす妖精を包み、水色とピンク色の髪を透かしていた。  
 
「んっ――! んっ、んんっ……んっ……ぁっ」  
 
 メタリックピンクの髪をふりふり、リズベットが悲鳴をあげる。  
 呆然とするシノンの目の前で、アスナはリズベットの上体を片腕で起こし、やや上をむ  
いた唇をついばんでいた。  
 
「むっ、むぐっ……んんっ!!」  
 
 桜色の唇と唇が、互いの弾力を引き受けて歪む――。  
 リズベットは目を見開きながら、アスナのキスをうけとめていた。  
 
「むぐ……んっ……んんっ……あ……うぅ……」  
「んんっ……んっ……リズぅ……」  
 
 アスナは水色のロングヘアをゆらゆら揺らし、白のチュニックと揃いのスカート。リズ  
ベットはメタリックピンクのショートヘアに、檜皮色のバフスリーブ。同色のフレアス  
カートを装備している。  
 その髪と髪がふれあう距離で、美少女二人が深く唇を重ねる姿は、清潔な白いシーツを  
背景とした一つの絵画のようだった。  
 ぴちゃ、ぴちゃ、互いの舌を打つことで生まれる淫音も、アスナの瞳からながれる一筋  
の透明な涙も、背筋を震わせるリズベットの姿にも、いやらしさが微塵もない。  
 いつの間にか、シノンは二人のやりとりに目を引きつけられていた。普段は意識などし  
たことのない下腹部のあたりが切なくなり、じわ……と潤むのを感じた。  
 
 ――やっ……なんで……。  
 
 シノンははっとして、脚をすりあわせる。自分の反応に戸惑っているうちに、アスナは  
最後にひときわ大きな水音をさせたあと、リズベットをキスから解放した。  
 
「んんっ――!」  
 
 唇と唇の間に、透明な橋がかかって、落ちる。  
 リズベットがあえぎながら、いまにもキスを再開しそうなアスナに言う。  
   
「ふあ……ああ……はあ……あ、あんた! アスナ……どうしちゃったの……」  
 
 リズベットは目の端に涙をためて頬を紅潮させている。自ら上体を起こし、ベッドの上  
でシノンに足をむけて崩した人魚座りになると、アスナの瞳をのぞき込んだ。  
 シノンは二人の様子にはらはらしながら、見守る。いまだ胸の奥には正体不明のぐずぐ  
ずとした感情が渦巻いていた。  
 キスの余韻に酔っているかのように、アスナは目元をゆるめ、濡れた唇をみだらに輝か  
せている。その色っぽい姿のまま、しなだれかかるようにリズベットの肩へ指を置く。  
 涙目でリズベットをみつめて……。  
   
「リズ……」  
「な、なに……やっぱり調子が悪――」  
「もっと、ちょうだい……」  
「へ? あ、ちょ……むうぅぅ!」  
 
 再びキスが始まり、リズベットは手足をびくっ、とふるわせた。  
 
「んぐっ――んっ、んんっ!」  
 
 眉をきゅっと寄せて、くぐもった悲鳴をあげるリズベットをよそに、アスナはリズベッ  
トの胸元を留めるリボンを指で抜きとり、その下にある小さいボタンをつぷつぷはずして  
いく。  
 
「ちょ、んっ……なにしてっ――! ああっ――!」  
 
 リズベットの短い悲鳴が響いた。  
 アスナは果実の薄皮を剥くように、リズベットの肩から服をおろした。  
 リズベットとのキスを続けながら、アスナの手が布をつまんだまま下がり続ける。  
 まばゆく輝く白い肩が露出する。リズベットの首筋から続く鎖骨は、なめらかで美しい  
曲線を描いていた。  
 
「やっ……いやぁ……!」  
 
 と――いままでアスナのなすがままになっていたリズベットが首を力なく左右にふった。  
すでに胸元はあらわになっている。  
   
「ね、ねえ、アスナ。落ち着いて! むぐっ……!」  
 
 アスナはもう一度、リズベットをキスで釘付けにしたあと、そっと服をつかまえている  
指先をおろした。布切れとかした服が肌の上をすべって、落ちる。  
 
「あ……」  
「んつ……リズ、ブラしてないんだ」  
 
 あっけないほど簡単に、リズベットが守ろうとしていた双丘がさらされた。トップとア  
ンダーで釣り合いがとれ、ふっくりふくらんだ乳房の先には、赤みを持つ乳首が、乱れた  
呼吸と一緒に上下している。  
   
「だ、だってブレストプレートしているときには邪魔だし……」  
 
 かあー、とリズベットの顔が赤一色にそまった。  
   
「やっ、ちょ……みないで!」  
 
 胸元までをも真っ赤にしたリズベットはきゅっと目をつぶる。唇が小さくふるえていた。  
 
「……だーめ。隠しちゃ、だめ」  
 
 幼い子供か――妹に言い聞かせるかのように、アスナはリズベットの髪をくしゃくしゃ  
となでつけながら、繊細な指先がリズベットの腕から衣服を抜き、さらに理想的に膨らん  
でいる乳房の上をやさしく撫でる。  
 
「あんっ……んっ……やだ……っ!」  
   
 わずかな刺激にもリズベットの背筋は、びくびくとふるえた。  
 やがて……アスナの指先は、天頂にふれ、刺激でわずかに勃起しはじめていたピンクの  
先端を摘む。人差し指と親指が、羽毛のように優しくリズベットの乳首をつつっ、となぞ  
った。  
 
「……あぁ……んっ……」  
 
 瞳に涙をためて目を見開いたリズベットは、縋るようにアスナの瞳を見つめる。  
 
――かわいい。リズ、あんなにかわいい顔できるんだ……  
 
 あまりにも愛らしい表情を浮かべるリズベットに、シノンは素直な感想を抱きかけ……、  
途中でいま自分が抱きかけていた感想の危うさに気がついた。  
 
 ――だ、だめ……止めないと……でも……  
 
 気持ちとは裏腹にシノンは、一歩も動けなかった。手を出したらいけない気さえしてい  
る。もっと二人の姿を見ていたい気もしている。  
 
「ふふ、柔らかい。リズの胸、私よりも大きくて……」  
 
 アスナはほほえみを崩さず、乳房から手を離してリズベットの脚にふれた。めくりあげ  
あれたスカートの裾から、ふとももがまろびでる。生気あふれる健康的なふとももを、ア  
スナは指先でなでまわした。  
   
「な、なにするの……?」  
「……えっちなこと、っていったらどうする?」  
「――!」  
 
 アスナがなにをするつもりか理解したのか、再びリズベットが首をふった。その合間も、  
アスナの指はつつっ、とふとももを上下する。  
 
 
「ちょ、くすぐったい……は、はずかし――」  
「でも……リズ、かわいい……」  
「あうっ」  
 
 アスナはあわててスカートを直そうとするリズベットの手を押さえ、今度は手のひらで  
ふとももをなでまわす。  
 アスナの手がたおやかにうごくたびに、スカートの檜皮色が、リズベットのふとももの  
上をさらさらすべった。  
 
「ここも、ね。もっとかわいいところ、見せて……」  
 
 くっ、とリズベットが脚を閉じる。  
   
「や、やめて…!…指……やだ…こわいっ!」  
「大丈夫……」  
 
 アスナは慈愛の笑みをうかべたまま、ふたたびリズベットの唇をうばった。  
 
「むうっ! んっ、ふっ……んっ……ぅぅ…」  
 
 キスにとかされてしまったのか、シノンから見てもリズベットの両足からあきらかに力  
がなくなっていった。険しかった表情がほんのすこしずつではあるが、ゆるみはじめてい  
る。  
   
「……むっ……んっ……はぅ……」  
 
 おとなしくなりはじめたリズベットを、満足げに見つめ返し、アスナはほほえんだ。  
 アスナの手首あたりにかかったスカートは、手の動きによって、さらさらともちあげら  
れていき――。  
 やがてリズベットの片脚すべてが露わになった。  
 脚を人魚座りにしているせいで、片脚の稜線を追うように裾が翻る。小さなリボンのつ  
いたショーツ――がシノンの視界にさらされた。  
 
 恭しくのびたアスナのはショーツをつまみ上げ……ゆっくりとおろしはじめる。  
   
「むぐっ!」  
 
 リズベットが慌ててアスナの手首のあたりをつかむが……力がはいっていない。アスナ  
はそのまま白いショーツを時間をかけて膝下まで抜いてしまった。  
 ちゅる……。とリズベットの唇から赤々と濡れかがやく舌が、引き抜かれる。  
 
「あう……んっ……ふぁ……ああ……」  
「リズ……ここ……いいよね……。下着、とっちゃおうね……?」  
「う……」  
 
 くっ……と息をのんだリズベットは、それでも小さく、アスナにうなずき返していた。  
 アスナは答えるように、手をのばしてリズベットの片脚から下着を引き抜き、脚の付け  
根から膝上までの脚線を指先でなぞった。  
 
「ふあっ! あ、アスナぁ……や、やめて……」  
 
 リズベットが上半身を起こし、アスナの指の行方をとらえて目を伏せた。目尻に浮かぶ  
涙が、陽にてらされて、宝石のようにきらきらと光る。  
 
「んっ……大丈夫……リズ……気持ちいいこと、しよ……」  
 
 甘いささやきが散らばる。  
 シノンは目をそらすことができない。その合間にも、アスナはリズベットに唇を落とし  
ていた。ちゅぱ、ちゅぱと水音がなる。  
 普段はハンマーを握るリズベットのしなやかな指先が、白いシーツをつかんでいた。   
 
「うう……」  
 
 ほとんど涙声でリズベットがうめいた。  
 
 ――リズ……。  
   
 シノンは衣服の胸元を握りしめる。胸の奥が切ない。  
 水色の長い髪を、裸の上半身たらし、愛おしげな表情でリズベットに唇を落とすアスナ  
の姿も、あらわにされた脚部に羞恥を感じ、目をふせるリズベットの姿も、シノンの胸を  
きゅうっと締めつける。  
 
 無意識にそんな言葉が脳裏に浮かんだ。  
 
 ――も、もしかして、仲良くしている二人がうらやましい、とか……?  
   
 無意識に浮かんだ言葉を、改めて意識したとたん、現実世界においてきたままの心臓が、  
大きく跳ねた。  
 
 心をあずけられる友人を求めていたシノンにとって、二人は間違いなく『親友』だ。そ  
の二人が、親しい人にしか許さない行為をしている。シノンはごくと喉をならしつつも、  
二人の姿から目が離せなかった。  
   
「んちゅ……んっ……リズ……」  
 
 ふとももをなでていたアスナの指が、スカートの内側に進入した。  
 
「あ……そこ……だめぇ……っ!」  
 
 飛び退くように身体をふるわせたリズベットを、片手で優しく抱き寄せる。それはどこ  
か逃げ出そうとする獲物をとらえる仕草にも似ている。  
 その手の知識にうとくとも、リズベットのスカートの内側で行われていることを、シノ  
ンはおぼろげに察した。  
 
「あ、んっ……んっ……ふっ……ん、んんっ……」  
「リズのえっちな顔、いいなぁ……」  
 
 腕の動きが激しくなった。遠慮をなくしていくアスナの手が、よりはげしく檜皮のス  
カートを揺らす。それにまじって、くちゅ……という水音もきこえはじめた。  
   
「やっ、んっ……んっ、んんぅ――! や、だぁ――! もうだめっ! アスナ! も、  
もうっ!」  
「うん……いいよ、リズ」  
 
 リズベットの背に手を這わせたままアスナは、リズベットの胸元に口を寄せた。スリッ  
トをなぶられることで揺れる乳房の先端を、桜色のリップが甘く包んだ。  
   
「あっ、やっ、それだめぇぇ!」  
 
 アスナの舌が、勃起した乳首の先をころがす。両乳房を交互に唇を寄せるアスナの責め  
に、リズベットはとうとう陥落した。  
 
「んっ、ふあっ、あああぁぁぁぁ!」  
 
 唇をかみしめつつリズベットが、大きく背をそらした。むき出しの鎖骨が、カーテンか  
らの光にさらされる。唇が空気をもとめるようにふるえた。  
   
「んっ……んっ……ああぁ」  
 
 ひときわ熱い吐息を散らし、がく、と脱力するリズベットをアスナが優しく支えた。  
 もてあそんでいたリズの乳房からアスナが口を離した。おわんの形を下白い乳房がゆれ  
る。綺麗な桜色の先端はアスナの唾液でぬらぬら輝き、花のつぼみのような尖りをもって  
いた。  
 アスナが微笑んだ。  
 
「ちょっとは楽になった……?」  
 
 リズベットは夢みるように目元をぼんやりとさせたまま、おずおずと言う。  
 
「楽に、ってそれは……その……うん……よかったけど……」  
 
 もうちょっとやり方ってものをね、と続けたリズベットの頬は赤かった。  
 
「強引すぎ……」  
「うん……ごめんね。でもリズが我慢していたの、わかっちゃったし……」  
「だ、だからっていきなり、女の子どうしで……その」  
「イヤだった?」  
 
 アスナの声のトーンがすこし落ち込んだ。どこかすがるような目線で、アスナはリズベ  
ットを見つめている。目の端には、小粒の、涙。  
 う――、と小さく呻いたリズベットは、数秒アスナから視線をそらし……。間近にいる  
シノンでさえ聞きこぼしてしまいそうなほど、小さく「イヤ……じゃなかったけど」言っ  
た。  
 
 ――リズ……。  
 
 シノンは複雑な心境を抱いていた。あれだけ、混乱していたリズベットが、アスナの真  
意を理解したとたん、打ち解けてしまった。  
 
 ――そうよね。だってあの二人はもうずっと……。  
   
 アスナとリズベットはSAOにとらわれていたころからの親友だと、シノンは二人から  
聞いている。アスナが愛剣を鍛冶職のリズベットに預け、そこから始まった友誼は、SA  
Oクリアのその時まで続いた。現実世界で再会してからも二人はより強く絆を結び、今に  
いたる。  
 
 ――そうだ。二人がうらやましいんだ。だって二人とも、あの頃から知り合いで……な  
にもかも、知っていて……。だからあんな風にお互いに……  
 
 すこしずつ胸にたまり始める、黒い感情からシノンは、意識をそらせなくなった。  
 
 ――じゃあ、邪魔かな、私……。  
 
 ぎゅっと、と目を閉じる。二人の仲むつまじい姿をそれ以上見ていたくない。  
 二人と友人でありたい、と魂は叫ぶのに、感情は正反対へ向かおうとしていた。  
 
「シノン……?」  
「っ――」  
 
 ゆがんだ視界で目を見開くと、いつの間にかアスナとリズベットがシノンの顔をのぞき  
込んでいた。頬が熱くなる。  
 
「な、なんでもない……あの、ちょっと、風にあたってくる」  
   
 シノンはベッドにおいていた膝を浮かせた。  
 二人の姿から視線をきり――。  
 
「え? あ、ちょっと待って! シノのん!」  
「わっ……」  
 
 中途半端に膝を立たせていたシノンは、そのままアスナに腕をひかれてベッドに倒れ込  
んだ。ちょうど、アスナとリズベットの中間に。  
 ばふん。柔らかなベッドに着地する。  
 シノンが呆然としていると左隣から、リズベットがため息をついた。  
 
「アスナ。あんたいつの間に、そんな馬鹿力を……」  
「ち、ちがうよ! 体術スキルのせいで、基礎筋力が上乗せされていて……」  
「ああ……」  
 
 慌てたようにアスナが弁解する。  
 が、シノンはそれどころではなかった。逃げ出そうとした二人の間に、どう言うわけか  
身体を横たえている……。  
 
「え、えっと……その……」  
 
 まさに借りてきた猫状態で混乱する、シノンの二の腕に、なにか柔らかいものが、ふに  
ふに、と直接当たった。  
 
「り、リズ……胸、あたってる……」  
「当ててんの、っていったらどうする?」  
「……どうしよ」  
 
 へにゃ、とシノンは耳を倒した。予想外の展開に、いままで澱んでいた感情まで、吹き  
飛んでしまったようだった。  
 
「ふふ。じゃあ、わたしも……」  
 
 アスナの声が艶っぽくなった。瞬間、シノン脳裏に先ほどの光景がフラッシュバック。  
 左右の腕から俊敏にぬけだしつつ、シノンは後ずさった。といっても、ベッドの枕元ま  
で移動しただけだ。ほかに逃げ道は――ない。  
 
「あ、あの! わ、わたしは、その……そういうのは、遠慮――! アスナやリズみたい  
にできない――。」  
「シノン」  
 
 ちゅる  
 
「へ、きゃあ、あ、ああっ……!」  
 
 いつの間にか半裸のリズベットに手首のあたりをとられていた。  
 指から伝わる、心の核になる部分を直接舐めとられるかのような愛撫にシノンは悲鳴を  
あげた。  
 
「り、リズっ――さ、さっきいきなりされて、困ってたでしょ……?」  
「んっ……だめ……あたしもスイッチはいっちゃったかも……ああ、いまなら、アスナの  
気持ちが少しわかるかも……」  
 
 うわずった声をあげたシノンを、リズベットはぼんやりと見つめ返す。金属光沢をもつ  
ピンクの髪をゆらして、どこか幼さを感じさせる頬をぽうっ、と赤く染めている。  
 よくパーティを組む男陣にずばずば強気にモノを言うリズベットはそこにはなく。甘い  
お菓子を口に含んでいるかのように幸せそうに微笑み、ちゅぱちゅぱとシノンの指を口に  
含んだり、また出したり……。思わず指をしゃぶられていることすら忘れて、シノンはリ  
ズベットのあまりにも愛らしい表情に見とれてしまった。  
 と――。  
 
「シノのん……こっちも…………」  
 
 ちゅる。  
 
「ひっ――!」  
 
 今度はリズベットに吸われている方とは逆の――左手をとっていたアスナがシノンの指  
に舌をはわせる。リズベットとは違いシノンの指を口には含まず、とがらせた舌先でシノ  
ンの指をくすぐるようになめていた。時折ちゅる、と唇で指を吸っている。  
 目を妖しくとろけさせ頬をゆるませるアスナの姿は、同姓のシノンをゾクリとさせる色  
気に満ちていた。水色の髪が滴るように鎖骨のあたりを流れて、盛り上がった胸元におち  
ていき、シノンの指をくすぐるたびに淡く波立つ。  
 
「あ、アスナ! やめて……くすぐったい!」  
「だめ。シノン、反応がかわいいんだもん……」  
「うそ……うそ……やだ……っ! いやぁ……!」  
 
 シノンは背筋にはしるぞくぞくとした快感に耐えられず二人から手を引こうとしたが、  
もし口や唇を怪我させてしまったら……と考えると乱暴に手を引くのもためらわせてしま  
う。  
 
 そのうちリズベットが手の甲をなめあげはじめた。  
 シノンはまつげをふるわせながら、背筋をひくつかせる。  
 
「あうっ、んっ……リズ、アスナぁ……もう、ゆるして……」  
 
 髪色の違う美少女が、恭しく青い髪の美少女の手をとり、その手をなめとっていく。  
 手を握る、という行為に無類の感動を覚えたのはつい最近のことだ。アスナの手は暖か  
くて、強くて、体温はしんしんと染みる。  
 
「くっ……ふっ……うううぅ……」  
 
 ぺちゃぺちゃと指先を舐められ、心の芯を溶かされていく道の感覚に、シノンは悲鳴を  
上げながら夢中になっていく。  
 さらに、シノンの視線の外からリズベットが、しっぽをつかんだ。  
 
「――っ?」  
 
 シノンは自分のしっぽを眺める。  
 アスナはいまだにシノンの指先を舌でくすぐってくる。丁寧になめあげる様は、どこか  
男性への奉仕にも煮ている。  
 そのアスナはリズベットがつかんだ水色のしっぽを視界に入れると、いたずらっぽくほ  
ほえんだ。  
 最後にちゅっ、とシノンの指にキスをしたあと唇をはなした。  
 
「あ……」  
 
 シノンを夢中にさせていた、アスナの舌の感触が遠ざかる。あまやかな感触が遠ざかる。  
それを惜しい、と感じてしまうほどシノンはアスナとリズベットからもたらされる体温か  
ら、快楽と安堵を得ていたからだ。  
   
 が――。シノンの心配は杞憂だった。  
   
「シノのん……しっぽ……」  
「――!」  
 
 言葉とともに、アスナがシノンのしっぽに指を添えた。  
 
「あ、アスナ……それ、だめ……」  
 
 ぷるぷると首を振る。  
 指だけでもあれほどかんじてしまうのに、それ以上に敏感なしっぽを刺激されたらどう  
なってしまうのか――シノンは震撼する。  
 
 ――で、でも……でも、キスも、指も、気持ちよくて……  
 
 このままアスナとリズベットに身をまかせてしまいたい気持ちもある。しかし、それを  
口に出すのをシノンはためらっていた。心底「嫌」なわけではなかった。  
 もっとさわってほしい。体温を交わし合いたい。が、羞恥心がジャマをして素直になれ  
ない。  
   
 ――でも……さっきの二人みたいになれるなら……。  
 
 シノンは一度唇をかんだあと、アスナとリズベットにつぶやいた。  
 
「アスナ……さわって…ううん。さわってほしいの……リズとアスナに、気持ちよくして  
ほしいの……さっき、二人がしていたみたいに」  
 
 アスナとリズベットは、照れたように頬を赤らめつつ――大きくうなずいた。  
 
 
 
「じゃあ……」  
「いただきます……」  
   
 二人はシノンのしっぽの左右に唇を這わせて、  
   
 
 かぷぅ……  
 
 甘く、噛んだ。  
   
   
 
――――  
 
 
「んんっ……お兄ちゃん……ちゃんとゴムしなきゃだめだよ……。赤ちゃんできちゃう  
よー」  
「キリトさんそっちでも、いいですよ。キリトさんがしたいなら、そっちでえっちしても  
……いいですよ」  
 
 
 ヨツンヘイムからこっち、背負いっぱなしだったリーファとシリカをベッドに寝かせる。  
 
「ど、どんな寝言だよ……」  
 
 妖しい寝言をつぶやいていた二人の妹分は、吐息もやすらかにベッドへと埋もれた。や  
っぱり疲れているのかもしれない。ブレストプレートの類は、とりはずしているので、寝  
苦しくはないはずだ。  
 俺はそのまま二人にシーツを掛け、となりのベッドを見やった。  
 ユイがひとりでシーツをかぶっている。アスナの姿はない。  
 リビングにもいなかったので、おそらくは隣の部屋にいるのだろう。続いてウッドログ  
でくまれた壁をみやるが、あいにくと隣の寝室からは何の物音もしない。ログでくまれた  
壁は、見た目とは違い完全な防音を実現している。もちろん「部屋」と「部屋」が、シス  
テム的に区切られているせいだ。  
 
「時間的にリズとシノンも戻ってきているよな。ということは」  
 
 その先を考え俺は、仮想の肺に息をためこんだあと、大きく吐き出し隣の寝室へ向かう。  
 歩きながら、考える。  
 現実の俺はベッドに体を横たえたままなのだから、現実の「体力」ゲージは一ドットも  
消費していない。くたびれてきたのは、主に精神のほうだった。  
 アスナから始まり、次にユイ、さらには妹分のシリカとリーファ。ぼちぼちメンタルの  
方がきつくなってきた。俺はあと何回エッチすればいいのか……。  
 ……クラインあたりに聞かれたら、首をはねられそうだな、という自覚はあった。  
 この状況を楽しむ余裕はないが、行為自体は、病みつきになってしまうほど気持ちがい  
い。  
 
「――いや、もしかしたらもう取り返しのつかないところまで、来てしまっているんじゃ  
……」  
 
 状況を楽しみはじめている自分に戦慄する。  
 リーファがヨツンヘイムでつぶやいたとおり、すこしずつハードルが下がってき来てい  
るのかもしれない。  
 むむっ、とうなりつつ、SAOではアスナと一緒につかっていた寝室の扉をあけた。  
 
 寝室には、なんだかすごい光景が広がっていた。  
 
 
「アスナ……リズ……シノン……なにやっているんだ……?」  
「あ、き、キリトっ! た、助けて……お、おぼれちゃう……」  
 
 ケットシーのシノンがそう叫んだ。  
 ――助けてって言われても。  
 アスナとリズにサンドイッチされているシノンがいる。アスナ以外、誰かしら衣服をみ  
だしている。  
 
「んっ……あ、キリト君、おかえりなさい」  
「ひぅっ!」  
 
 状況に対してやや場違いな「おかえり」を口にしたアスナがくちゅ、とシノンの首筋を  
すいあげる。青い髪のケットシーが飛び上がった。  
 
「ん……おかえり、キリト」  
「ふあっ!」  
 
 そして、今度はリズが、あひる座りになったシノンのスリットに指をはわせた。ふあっ、  
と普段なら絶対に聞くことができない声を出したシノンは、二人から離れようともじもじ  
している。  
 
「やっ、アスナもリズも落ち着いてっ! た、助けて、キリトっ!」  
「ええー。シノのんがいっぱい気持ちよくして、っていったんでしょ……?」  
 
 ぷく、と頬を膨らませるアスナに、シノンは獣耳をしゅん……とうなだらせてから、答  
える。  
   
「だ、だってこんなに……こんな風に気持ちいいなんて知らなくて……キリトも来たし、  
い、一旦やめて……!」  
「「だーめ」」  
 
 シノンの懇願にいっさい耳をかさず、アスナとリズは幸せそう表情でシノンをいじめつ  
づける。  
 二人があんまりにも楽しそうに、シノンをかわいがっているから、止めていいのか、止  
めない方がいいのか、迷う。  
 いくつか浮かんだ選択肢のうち、黙って記録結晶を使いこの光景を永久保存する、とい  
う行為が正解な気がしないでもなく――。  
 
「き、キリト――!」  
 
 いまにも泣き出しそうな悲鳴を上げるシノンに苦笑しつつ俺は、三人に近づいた。  
 
 
 

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