年をまたいで、
「あけましておめでとうございます」
などと言い合うと、上着を羽織ってまだ暗い夜へ、和人と直葉は足を踏み出した。一月の深々と冷え込む寒さが、服の隙間からふたりを襲う。
「うっ、やっぱり夜は寒いな。息も盛大に白い」
「マフラー持ってきたけど、ふたり用じゃないから……どうする?」
ひとりならたっぷりと余裕を持って巻けるが、ふたりではそうもいかない。
和人は兄らしく格好つけようとも思ったが、冬の厳しさが首筋を撫でると、だんだんとその気も萎えてくる。
「よし、くっつけくっつけ。身を寄せ合って生きていこうぜ」
「あはは。うん、それじゃ横に並んで……できた」
寸足らずのマフラーをふたりで巻き、腕を組みながら、ふたりは夜の道を進んでいく。この時間に起きていることはめずらしくはないが、夜に出歩くということは、ほとんどない。
新鮮な気分を味わいながら歩いていると、すこしずつ人の姿が増えてきた。近くにある神社へ初詣をしようとする参拝客たちだ。
その中には和人と直葉のような、中学生から高校生ほどの者も少なくない。大人になるほど、深夜にわざわざ行こう、と思うことは少なくなるからだろう。
直葉の友人もいたようで和人との状態をからかわれたりもしたが、曲解することなく受け取ってくれ、その場はおとなしく済んだ。
近所にあってこじんまりとした神社前に着くと、さすがに人が多くなっていた。この神社ではサービスをしていて、零時から二時までに来ると、甘酒を貰えるのだ。
ふたりで甘酒を入った湯飲みを受け取ると、立ち上る湯気をあごにあて、ぬくもりと香りをじっくりと楽しんだ。
すこしとろりとした濃いめの甘酒で、少量のしょうがが風味を良くしている。
「ああ……うまい。普段はべつになんとも思わないのに、なんでだろうな」
「うん。なんていうか、こんなに寒いから美味しいのかも。染みこむっていうのかな」
「あ、わかる。やっぱり苦労して手に入れたレアアイテムほど感慨深いっていうか」
「もう、こんな時にまでゲームにつなげなくても……」
「んむ、そうだな。それじゃ、そろそろお願いでもしに行こうか」
空になった湯飲みを配布所の台に置いて返すと、ふたりはぞろぞろと進んでいる列の最後尾に着いた。
人数が少ないせいか、あっという間に出番が回ってきた。和人がポケットを掻き回して五円玉を二枚取り出し、一つを直葉の手に握らせた。
「ご縁がありますようにって言うけどさ、五円で願いを聞いてくれるほど、神様って寛大かな」
「寛大だから、神様になれたんじゃない? それか、とってもシャレが好きなのかも」
「あー。おせちとかもそんな感じだしなぁ。なるほど」
直葉の思いつきのような解釈に数度うなずくと、ふたりして五円玉を放り込み、鈴を鳴らした。手水もないような小さな神社だから、きちんとした作法ではない。
二拝二拍だけで済まし、列を抜けた。
「うー……寒いなー。帰ったら風呂入り直そうかな」
「いいね。そうしよう。あたしが先でいい?」
「なんなら一緒って手もあるけど」
にやつきながら、和人は挑発する。
「いいよ、オッケー」
それを挑発しかえすように、余裕の笑みを混ぜ、直葉は快諾した。予想外の反撃に和人は、
「ほう、言ったな。それじゃ一丁、どれだけ成長したのかを確かめてやろうじゃないか」
事も無さげに返した。これにはさすがの直葉も寒さではなく、顔を赤らめた。
「ば、ばか!」
ばかとは言ったが、いやだ、とも、一緒に入らないとも、直葉は言わなかった。