「き、キリト君のせいだよー! へんな宝箱あけちゃうから!」  
「アスナだって賛成してただろ!」  
 アスナの手をつかみながら薄暗いダンジョンを疾駆する。  
 背後からはがらがらという崩落音。  
 宝箱あけたらモンスターが! なんてトラップは上層ではあたりまえなのだが、こんな低層の、しかも俺たちのホームの真横でみつかった洞穴ダンジョンに、  
こんな性悪なトラップが仕掛けられているとは夢にも思わなかった。  
 足場崩壊トラップ――。俺とアスナが全力疾走している理由がこれだ。  
 地面がつぎつぎと崩壊し、その下の暗闇にがれきと化した床がばらばらと落ちていく。  
 あれに巻き込まれたら、黒鉄宮の俺たちの名前に横線が引かれ、「落下死」という死因が刻まれることだろう。  
「そんな! 行き止まりだよ!」  
「げっ――!」  
 アスナの叫びに視線を前方に投げると行きには無かった壁が、出口への道を塞いでいる。  
 俺はがりがりと足裏で地面を削りブレーキをかけながら、地面と同じ材質で構成されているだろう壁に、片手剣を一閃した。  
 もしやと思って攻撃してみたのだが壁は非破壊オブジェクトだった。壁を切りつけた反動で生じる手首の痛みに顔をしかめつつ、視界の隅に表示されているフィールドステータスを確認した。  
 ここが結晶無効化空間であることを示す、大きな「結」の文字の上にバッテンが乗ったマークが点滅していた。  
 この「結晶無効化」の表示があるせいで、結晶系アイテムは使用不可となっている。そのため転移結晶による離脱もできない……。  
 アスナが眼前の壁を睨みつつ、愕然とした表情で呟く。  
「どうしよう……こんな、こんなの、ないよ……みんなに申し訳なくて……」  
「まあそうだよな……宝箱のトラップで落下死ってかなり申し訳ないな、いろいろ……」  
 俺はアスナを視線で励ましてから、崩壊の足音に耳を傾けた。おそらくあと三十秒もしないうちに俺とアスナがいる足場も壊れてしまう。そうなれば脱出の手だてはない。  
 まさに絶対絶命――自分が死ぬ恐怖よりも、愛するアスナを失う恐怖に抗いつつ、俺は脱出方法の模索をはじめる。そして、ぴかっ、ごろごろごろ! と右脳にアイデアがひらめいた。  
「ハラスメントコードの転送を利用すれば――」  
「は、ハラスメントコード?」  
 アスナが泣き出しそうな顔をしながら、俺の言葉を反復する。俺はうなずきながら、アスナのおっぱいを右手でわしづかみにした。  
「んぅっ!」  
 場違いに色っぽい声を出したアスナにどぎまぎする。そのまま麻のセーターに包まれたおっぱいをもみほぐしながら、早口で緊急離脱の方法を説明する。  
「アスナ、この感触、もしかしていまノーブラ!?」  
「――本気で怒るよっ!」  
 俺のセクハラ発言がアスナの逆鱗に触れたのか、繋いでいた手を思い切り払われてしまった。  
 あ、しまった、間違えたと思っても後の祭り。  
 俺はぶんぶん首を横に振りながら真摯にアスナを見つめた。  
 
 「アスナ……いま俺はいまアスナにセクハラしてるから、アスナの前に俺へのハラスメント警告がでてるはずだ。  
今はこれを利用するしかない! アスナもどこでもいいから俺にセクハラしてくれ!  
一緒に黒鉄宮へ転送されたら「軍」に事情を話して出してもらおう! 悪いけどいまはこれしか思い浮かばない!」  
「……!」  
 アスナのしばみ色の瞳に理解の光が宿った瞬間、アスナの左手が俺の三本目をつかんできた。いきなりの刺激に三本目がズボンのなかで身じろぎする。  
 とたんにハラスメント警告のウィンドウが目の前にポップした。表示されている「確認」ボタンを押し込めば、ハラスメントしてきた相手を黒鉄宮に転送できる。  
 ちなみに俺が現在進行形でアスナの胸を揉みほぐしているのは、システム上で規定されてる「ハラスメント警告有効時間」が解らないためだ。  
 でも揉んでいる間は、ハラスメント継続中になるはずなのでおそらく途中で警告ウィンドウが閉じる、という事故はないだろう。  
 ふうっ、と大きく息を吸ったアスナが毅然と言い放った。  
「いいわ! せーの、でいっしょにタップしましょう!」  
「あ、うん……」  
 場違いな心地よさを三本目から感じながら、俺とアスナはせーので、ハラスメント警告の表示に手を触れ相手を黒鉄宮に転送した。地面が落ちるコンマ一秒前に俺とアスナは、はじまりの町の黒鉄宮に転送された……。  
 
 
 黒鉄宮の監獄は寒々しかった。独居房然とした四条ほどの空間に降りたった俺とアスナは、「ふうぅ」とため息をついた後、お互いの無事を確かめ合った。俺は左手でアスナの肩を抱きしめ、アスナは俺の腰に右手をまわしてくる。  
 心臓の鼓動がおさまらない。ほんの何秒前まで俺とアスナは死地にいたのだ。ひくっ、としゃくりあげるアスナの背中を左手でさすってやった。  
 そこで初めて、右手でおっぱいをわしずかみにしていたことに気がつく。  
 セーターに包まれた乳房の先端がさっきより膨らんでいる気がした。つい、確かめるように手をうごかしてしまうとアスナが「んっ」と可愛い悲鳴をあげながら俺から顔をはなした。もう一度もんでみる。  
 今度ははっきりと、麻の布越しに乳首のこりこりを感じた。見つめるアスナの瞳に涙がもりあがり、形のいい眉が困ったように下がった。  
 頬には朱がゆっくりと浮かぶ。俺の三本目をなでるように刺激しながら、暗闇にあっても色っぽく輝くアスナの桜色の唇がおずおずと開かれた。  
「キリト君……少し硬いよ……」  
「アスナも、先がこりこりしてる……」  
「……」  
「……」  
 一瞬の間が空いて……  
 俺とアスナはどちらからともしれないキスをはじめつつ、今度は生還の体温を味わうように、俺はアスナのセーターを捲り上げ、アスナは俺のズボンのチャックを落としはじめた。  
 恐怖を忘れるために激しくお互いをついばんで――。  
 
 大いに盛り上がってしまった俺とアスナは、身元を引き取りにきてくれたヒースクリフに情事を目撃されてしまい、脱獄後に近くのNPCレストランで三時間におけるお説教をうけることになった。  
 
 ちゃんちゃん。  
 

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