階段を(略)  
 
「エギル! 俺だ! 開けるぞ!!」  
 
 黒茄子のような(略)  
 <<コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ>>によってエギルのアイテ  
ムが実体化する。その一番上に、女性用下着が一枚。たしかに装備品として有効でなくと  
も、アイテムとして所持するのであればシステム上は問題ない。  
 倫理的、精神的には大いに問題がある気がするが。俺が呆然としているとエギルが言う。  
「ち……見られちまったか。まあいいさ。これがこれからのトレンドアイテム、女性アバ  
ターの使用済み下着だ」  
「し、使用済み下着……?」  
 エギルはとくに悪びれる様子もなく、ああそうだ、と言った。俺は首をかしげる。  
「べ、べつに、その、匂いとか……そもそも前所有者の履歴が表示されるわけじゃないん  
だぜ? ただの中古品だろ……?」  
「ふっ。これだから商才のないやつは……あのなあ、キリト。アイテムの所有権ってのは、  
何秒継続する? たとえば、なんたらペチコートやら……」  
「ペチコートって下着なのか!?」  
「そうだが……? いや、それはいま問題じゃない。たとえばそのペチコートを装備した  
アバターがいるとするだろう? 装備状態のペチコートをディスアームするとどうな  
る?」  
「は……そりゃ……装備武器のドロップ状態になるだろ……?」  
「ああ。そしてそのディスアームしたペチコートをそのまま持って行ったらどうする?」  
「……それはもう、ドロップ状態じゃないよな。スナッチアーム状態――場合によっては  
ハンドオーバー状態だ。でもそれがどう……? いや、まさか……」  
「そうだ。確かに所有権の欠損するの三百秒では短すぎだが、装備者情報保持は三千六百  
秒、つまり一時間だ。それなら買いたいってやつもいるのさ。確かに前所有者の履歴は残  
らない。だが、装備車情報が有効な間に、オタノシミをしたがる連中はたくさんいる。な  
にせ……考えようによってははまだ『装備中』の下着だからな!」  
「いや、でもその間、下着を提供したアバターってノーパンでいてもらわなきゃいけない  
んじゃないか? 下着を装備したら、所有者属性が上書きされるだろ」  
「そりゃ、一時間は装備更新しないでくれって頼むに決まってるだろ! ちなみに、この  
下着はつい十五分ほど前にスナッチした――アルゴのものだが」  
「あいつなんでもかんでも売りすぎだろ!じゃあいつ、いま……ノーパ――」  
「そういうことだ。まあ、あいつも商売人だからな。渡世、渡世……」  
「……」  
「ところでおまえ、俺になにか用があったんじゃないか?」  
「……いや、もういいや。その下着、売れるといいな」  
「ああ。俺はもっと手広くやるぞ。スナッチスキルビルドのギルドを作ってだな。最終的  
にはオークションを――」  
「……まあ、がんばってくれ」  
 
 俺はエギルの部屋から出ると、フレンド登録されている「アルゴ」にメッセージを送る。  
あいつもベータテスト出身だから、俺の意図するところはわかるだろう。  
 俺はエギルの計画を破綻させる事にした。  
 なにせ、奴がねらっているのは女性の下着だ。そしていつかかならず、あの美貌の細剣  
使いのものを求めるだろう。それが――。――なぜだかそれが無性に嫌だった。  
 
 止めるなら、今のうちだ。アルゴへのメッセージはこうだ。  
『パンツをはくまえに、<<コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ>>し  
ろ。そのあとパンツをはけ。あともう、パンツ売るなよ』  
 俺がアイテムを<<コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ>>をした意  
味をエギルは理解していなかった。だからいまアルゴが<<コンプリートリィ・オール・ア  
イテム・オブジェクタイズ>>すれば、下着はアルゴの元へと戻る。  
 ――きっと消えた下着の下に、ネズハに奪われたエギルの斧が出てくることだろう。  
 だが、この恐ろしい計画は今日で潰える。  
 エギルが「…………うそ…………」とか言っている気がした。  
 

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