結婚の数ヶ月前に、俺はリーファが――直葉がSAOにログインしていたことを知った。すぐに合流できなかったのは、直葉がこのアインクラッドにいることなど夢にも思っていなかった、という事情もあれば、リーファが表だって俺のことを探さなかった……という理由もある。キャラネームを知らなければ、外見的特徴をヒントに人探しをするのがふつうだ。俺もリーファも現実の顔を知っているので、顔さえ見合わせればすぐさま相手が肉親だと気がつくことができただろう。 
 そうならなかったのは、俺が最前線の迷宮区にいつもいつも籠もっていたからだ。彼女との距離は日増しに増大し、結局再会までに時間がかかってしまった。リアルネームで探し出す……のはアインクラッドにあってあまりにも愚策だ。リアルの絆を誰かに知られれば、有形無形のトラブルに巻き込まれる可能性も高くなる。 
 
 だからリーファと引き合わせてくれたシリカには、感謝しても仕切れない。 
 相棒のピナを復活させたシリカが、おずおずと切り出してきたのだ。 
 いまは別のクエストを受けている一層からの相棒が、キリトさんの話してくれた妹さんにそっくりだ、と。 
 お兄さんをさがしている。キリトさんはその人にそっくりだ――と。 
 
 ややあってリーファと再会したときには、それはもう、口では言い表せないほどの事態が発生した。俺は泣き出すリーファとシリカに途方にくれるばかりだった。 
 
 最初にリーファに告白……ではなく婚約を申し込んだのは、なんのロマン性もない言うなれば俺の自己満足の結果だった。 
 SAOでは結婚することによってアイテムストレージが共通化される。アイテム容量は二人の腕力値の合算にまでとなり、一人のプレイヤーでは不可能なほどの武器やアイテムを所持できる。それはそれで魅力的だったが、俺の目的はほかにあった。 
 
 最前線では、いついかなるときにも死の危険がつきまとう。プレイヤーにとって財産に等しいアイテムは、プレイヤーの消滅とともに、SAOのサーバーから削除される。だが結婚後、共通化したストレージは、一方が死別するともう片方のプレイヤーにアイテムを残すことができる。実際にはキャパシティオーバーしたアイテム類は、足下にドロップするが、死にいくプレイヤーとともに消えさったりはしない。いつかHPを全損したとき俺がリーファ……妹の直葉に残せるのは最前線で得たリソースだけだ。しっかりものの直葉なら、きっとそれらをうまく使ってくれる。そんなことを思いながら、リーファと一度目の結婚をした。本当の目的は隠したままだった。 
 破局は俺の身勝手から訪れた。本当は兄妹ではなく従兄妹であることを、だまっていられなくなったのだ。確か七十層近く……迷宮区のMobが、手強くなりはじめたころだった。 
 俺のために手料理をならべ、精一杯もてなしてくれるリーファに、真実を告げたときあいつは俺の想像を遙かに越えて――いま一緒にいるのが奇跡に思えるほど錯乱した。 
 
 なんで、もっと早く話してくれなかったの――! 
 お兄ちゃんがあたしを避けていたのは、妹じゃなかったから――!? 
 もう……なにを信じたらいいかわかんない! 
 やっと……やっと「キリト君」を諦められたのに! 
 
 リーファはその足で拠点にしていた宿から去り、インスタントメッセージにも応じなくなった上、フレンド登録解除と離婚を申請してきた。 
 シリカと一緒にリーファを探しまわったがどうしても見つけることができなかった。 
 リーファの所在が知れたのは、一週間後のことだ。 
 見つからないはずだった。 
 リーファはかの「閃光」とその親友のところに保護されていた。 
 
 
 
「ごめんね……あたしだけ……」 
 
 やっと絶頂の余韻からさめたらしいリーファが、後頭部を俺の鎖骨へ乗っけてきた。 
 ぼんやりしたままのリーファを抱いたまま、湯船につかったのが五分くらい前。俺はリーファの背中から緩く、彼女の身体を抱きしめていた。 
 その間リーファぶくぶく水面を泡立てたり、恥ずかしそうに顔をそらしたりしていた。先に達してしまったのが恥ずかしいのか、ちょっと緊張状態のリーファをほぐすべく、彼女の薄い肩を両手でつかんで、マッサージをはじめてみる。肩もみしたところで血流がよくなったりはしないのだが、こればっかりは気分だ。それにきめ細かい肌にふれているだけで、陶然とした心地になる。 
 肩を揉んだとたん、リーファはひゃんっ、とかあんっ、とか普段は聞けな色っぽい声を漏らした。 
 
「んん――。あ……んっ……そ、そういえば」 
 
 マッサージがくすぐったかったのか、それとも再び良くなってしまうのを警戒したのか、リーファが浴槽の反対側まで待避した。といっても、外国の豪邸のように、何十メートルも縦幅のある浴槽ではないので――実際に何十メートルも幅のある浴槽があるのかどうかは別として――リーファののばした脚は、俺のふくらはぎあたりにひっついていた。 
 お湯の向こうに透ける薄桃色からなんとか目を引き剥がして、なにやら深刻そうな顔をしたリーファと目線をあわせる。 
 
「シリカちゃん……から聞いたことがあるんだけどね……わたしたちってそんなに似てたかな? お兄ちゃんと初めてあったときに、そんなこと言われたって……」 
「あー……」 
 
 おそらくシリカと初めてあったときの話だろう。 
 
「えー……あー……そのー……」 
「なーに?」 
 
 首を傾けるリーファに促され、決心して白状した。 
 無二の相棒をロストし、迷いの森の暗がりにうずくまって涙をこぼすシリカの姿が、県大会の緒戦で負けて涙を隠すように庭のすみっこで泣いていた直葉の姿と重なったからだ――と。 
 話してしまってから、よく考えれば隠すような話じゃなかったな、と思い直した。リーファの方のリアクションも「ふーん、そうだったんだ」とワりとあっけないものだった。 
 が……ひく、と心細げに眉がさがった。 
 
「でも……そのあとの対応ってずいぶん違わない? あたしのときにはチューペット投げで、シリカちゃんにクエストに協力で……」 
「え? 俺ちゃんと二つに折って渡したろ? チューペット……」 
「……?」 
「……?」 
 
 俺と直葉の間で記憶の混乱が起こっている。 
 たしかに二つに折ったチューペットの、ヘタの膨らんだほうをリーファへ手渡した記憶があるのだが……。リーファは首をかしげていた。 
 
「まあ……いいかな。アイスくれたのは確かだし……それで、ね……お兄ちゃん」 
「ん?」 
「戻ったらね……あたし、やっぱり剣道続けたい。なんだか……あのときの悔しさ、思い出しちゃった」 
「……」 
「だから……お兄ちゃんもつきあってね? SAOでこんなに強いんだもん……。きっと、あたしなんかより、ずっと強くなれるよ」 
「……スグにそう言われると、なんだかできそうな気がするな……」 
「でしょ……?」 
 
 にっこりと微笑むリーファ。 
 とはいえ、道は厳しい。 
 現実に置いてけぼりの身体は、どこかの病院でケアされているだろうが、運動はいっさいしていない。筋肉や身体の機能は衰えていくばかりだ。 
 元通りに剣道ができるようになるには、きっと気が遠くなるほどのリハビリとそれに見合う時間が必要なはずだ。 
 一日でもはやく、直葉を現実に返してやりたい。それこそがいまの俺を攻略組の一角へのしあげる、唯一無二のモチベーションになっていた。 
 
「俺もがんばらないとな……。戻って……スグに剣道教えてもらわないと」 
「ん――そ、それでね……おに――キリト君」 
「な、なんだよ突然……」 
 
 いきなり呼び方を変えられるとこっちまで驚く。リーファは水面を指先でぽちゃんとたたきながら言った。 
 
「……な、なんとなくだけど……ね……。なんだか呼びたくなっちゃった……。それでね……キリト君……もう、いいよ」 
 
 なにが……とは、さすがに聞けなかった。 
 耳までを赤くしたリーファがえい、と勢いよく立ちあがった。生まれた波紋が顔にかかり、驚いて目をつむる。 
 水滴をぬぐって目を開くと、十五夜の月のようなお尻が目の前にあった。おもわずおののく俺をしり目に、リーファは両手を浴槽の縁にかけて、自分の肩越しに俺を見つめる。 
 熱っぽく潤んだ瞳が色っぽい。 
 
「……キリト君の……いいよ……」 
 
 ちゃぷん……。 
 
 まあるいお尻から水滴が落ちて、湯面を揺らした。 
 
 
―――― 
 
 
 キリトの優しい指先の感覚は、まだ内側に残っていた。弱点はキリトに知り尽くされているし、おかしなところで器用なキリトには、いつもいつもリードされてしまっている――。 
 風呂の縁に手を当てながら、お尻を兄に向ける――という行為は、頬がゆであがるほど恥ずかしかったが、いつも先手をとられることへの、ささやかな抵抗だった。 
 恥ずかしい体勢を続けているのに、キリトはなにもいってくれない。脚の間がすーすーした。一気に心細くなった。 
 
「……な、なにか言ってよ」 
 
 肩越しに振り向きつつ、キリトの様子をうかがうと、キリトはにやりとシニカルに笑ったあと、湯面を割って立ち上がった。 
 
「綺麗なお尻だな……」 
「……そ、そういうんじゃなくて!」 
 
 昔はもっと細くてたよりなかったキリト――和人の身体は、大人っぽくなっている。線の細さは相変わらずだが、昔じゃれあっていたころの幼さはすっかりなくなっていた。 
 ぼんやりとした頭のまま、リーファはついついつぶやいてしまった。 
 
「……キリト君……ちっちゃい頃とぜんぜんちがう」 
「な、なにがだよ……」 
「え、えっと……そ、そことか……もっとちっちゃかった記憶が……」 
 
 ちらっ、と眺めた股間からは、槍のようなモノが生えていた。少なくとも、幼い頃には絶対になかったモノだ。 
 やっぱり大人になったんだよね……。 
 直葉が不思議な感慨にとらわれていると、キリトの指がリーファのわき腹に添えられた。入り口を探すように腰がうごめき、ちゅく、ちゅく――、秘処をさすりあげる。 
 
「んっ……うっ……」 
 
 ただ触れられただけなのに、一度達した身体は過敏になっていた。入り口に触れられただけなのに、しびれるような快感が下腹部をみたしていく。 
 やがて性器の頭が、秘孔の入り口にしっかりとあてがわれた。 
 興奮しているのか、キリトの男性器は細かにふるえていた。 
 
「ぅ――スグ……俺、もう……」 
「――うん……いいよ。あたしも、キリト君の――ほしい」 
 
 なんてことをいってしまっているのだろう。 
 口に出してから後悔する。後悔するが本心だった。 
 複雑な心境を隠すように顔をふせていると、秘処と密着していた性器がゆるゆると肉扉を割りはじめた。 
 
「んっ……うぅ……っ!」 
 
 みちみちと普段は閉じていなければならない場所に、キリトの性器が侵入してくる。ぼっこりとした亀頭が、内側を押しのけてくる。 
 
「ふっ……ああっ……はいっ、て……くっ、る……」 
 
 思わず浴槽の縁を握りしめつつ、熱の塊を受け入れ続けた。 
 
「はあ……ああ……」 
 
 かなりの長い時間をかけ、リーファの膣道に性器が挿入された。お尻のあたりにキリトの太股が接触していた。 
 肉茎でめいっぱい満たされている膣の壁に、じわ……性器から生まれた熱さが伝わってくる。こじあける役目を終えた亀頭は、いまは子宮口をちょんちょんとつっついていた。 
 
「ふっ、んっ……奥……あたってる……?」 
「じゃあ……この……こりこりしてるのが……リーファの……」 
「ひっ――!」 
 
 キリトが無造作に腰を動かした。先端が円を描き、密着していたリーファの奥を刺激する。甘い痺れが背骨を走っていった。体の真芯をくすぐられる。思わず目を閉じて、甘美な快感に身をゆだねた。 
 
「あ…ぅぅ……急に動かないでよ……。びっくりしちゃった……」 
「ああ――悪いな」 
 
 ちっとも悪ぶれずに言うキリトをかるくにらみつける。 
 だが一応は反省したのか、キリトは性器を最奥へ突き込んだまま、ぺたぺたとリーファの身体をなで回した。 
 指の一本一本がしっかりと肌にうずまってくる。 
 
「んっ……んっ……」 
 
 背中やわき腹を指が通過した。 
 性器から伝わる快感もさることながら、肌の上を滑りいく感触すら心地よかった。柔い快感におぼれそうになる。 
 
「は……あっ……んっ……キリト君……くすぐったい……」 
「指だけでも、良かったりするの?」 
 
 答えるのも恥ずかしい問いを口にしたキリトは、そのまま身体を倒した、リーファの脇したから腕を通し、五つの指で膨らみかけの乳房を包む。 
 
「――っ! はあ……うん……気持ちいいよ……もっとなでて……」 
 
 返事はなかったが、キリトがさらに指をうごかしはじめた。指の間にリーファの乳首をつかみ、開いたり閉じたりとせわしなく動かす。さらには、乳房全体にマッサージするように、上下左右へ手のひらを移動させる。膨らみかけ、という言葉が似合う乳房を、キリトは優しく愛撫してくる。 
 
「んっ……くっ、んっ……」 
 
 痛みはなかった。乳房の神経が愛撫によって燃え上がっていくのを感じた。乳首を頃がされる度に、鋭い電撃が腹部や脳髄へ伝播する。 
 反射的に下腹部へ力がはいり、埋められたままの男性器をしぼってしまった。 
 後頭部の直ぐ後ろで、キリトのうなり声が聞こえた。 
 
「くっ……リーファ……」 
「あん――っ、んっ、キリト君の……動いてる……」 
「リーファが締めてくるからだろ……」 
「うん…それキリト君がえっちにさわってくるせいだもん……」 
 
 乳房に当てられていた手のひらが律儀に止まった。 
 つい吹き出してしまってから自分の頭の上に手をまわした。思った通り、キリトの髪へ指が埋まる。 
 わしゃわしゃとかき混ぜながら、しばらくキリトと高めあった。びくん、びくんとキリトの性器が、膣道で跳ね上がる。 
 キリト君……。お兄ちゃん……。 
 さざ波のような快感に身を任せつつ、ほんの少し――リーファは、腰をキリトへ押しつけた。 
 
「ふあっ――ああっ――!」 
 
 ほんの数センチ腰を寄せただけだが、そもそも奥へ密着していた亀頭は、リーファをさらに押し上げた。カサの段差が愛液をしたたらせた膣壁をくすぐり、子宮をつつかれるのとは違う快感をリーファに与える。 
 背骨に伝う甘い電撃に腰をしびれさせたまま、リーファは往復をはじめた。 
 
「んっ――ふっ……あんっ……くっ……んっ、ふぅ……」 
「リーファ……!」 
「はあっ――あっ、キリ――お兄ちゃん……! お、おなか……溶けちゃうかも……」 
 
 ずる……ずる……。 
 男性の律動にくらべれば、数段つたなく勢いもない腰遣いだったが、キリトを誘うには十分だったようだ。 
 ごくりと喉を鳴らす音がした。 
 乳房から手のひらをはずしたキリトは、今度はわきばらに手を添えた。リーファの腰遣いにあわせるように、腰をゆらしはじめる。 
 
「ふあっ……あうっ……くっ……んっ……お兄ちゃん……気持ちいい……?」 
「……ああ……スグ……。でも……すごいな……出入りしてるところ、丸見えだ……。っ、それに……奥も、壁も……」 
「はあっ……ああっ……あ、あたしも……んっ、お兄ちゃんの……感じてる……」 
「あっ……ぐっ……スグ……!」 
「はああっ――!」 
 
 身体と身体が離れた瞬間、リーファは腰をつよく引きつけられた。ぴちん! 臀部に肌がぶつかり、浴室のタイルに反響する。リーファは背をそらしながら突き込みを受け止めた。 
 
「はっ、あっ…は……うっ――あんっ!」 
 
 縁に手をつき、壁にすがりつくようにしながら、リーファは内側に生まれた快感をうけいれた。たった一突きされていただけで、目がくらんだ。脚から力が抜け、脚に力がはいらなくなる。 
 
「はああっ……ああっ……あああっ――!」 
 
 下腹部をたゆたう快感が過ぎ去るよりも早く、キリトはもう一度腰をぶつけてきた。わずかにためらいのあった、最初の一突きよりも強く、子宮を押し上げられる。 
 
「ふっ、あっ……あああっ、んっ――っ!」 
 
 上半身だけで振り向いて、すがるように兄を見つめる。 
 幼いころから見続けたキリト/和人の瞳は、見たこともないほど情熱的だった。性欲にかられた男性の顔を、見つめリーファは力なく微笑んだ。 
 自分との関係が「従兄妹」なのか「妹」なのか「恋人」なのか――。まだはっきりしていないが、キリトはどこかリーファに遠慮しているところがあった。いままで一番近いところにいた肉親……だったので、当たり前といえばあたりまえだったのだが、リーファにとっては、それがもどかしかった。大切にされているのを幸せに感じる反面、一人の男性であるキリト/和人を見てみたかった。だから精一杯に「誘って」みた。 
 結果は……。 
 
「くっ……ぐっ……スグ!」 
「っ――ああっ、くっ――んんぅ――っ!」 
 
 いままでで一番強く、情熱的な腰遣いで責め立てられる。リーファは次々に押し寄せる快感にながされはじめた。 
 
 
 
―――― 
 
 
 一般的なカップルとは逆になったものの、相思相愛といっていい間がらになってから、リーファとはたびたびくっついたし、からかって反応をためしてみたりした。 
 だがそれはたぶん、入り口に過ぎなかった。倫理コード設定解除を知って以来の――もしかしたら、生まれて初めて得る強い性衝動にかられるまま、俺はリーファを貫き続けた。 
 
「ひっ――はあっ、あぅ――!」 
 
 いつの間にかつかんでいたリーファの腰骨を引きつけると同時に、強く腰を送り込む。入り口付近から侵入をはじめた性器の表面を、膣壁がなでまわしていく。尿道口が子宮口のなめらかなクッションに到達すると、快感がまっすぐ腰の後ろまで伝わる。一突きするたびに新たな蜜があふれてくるようで、抜き差しする性器は、愛液で輝いていた。接触部から散った水滴が、湯面にぽちゃん、ぽちゃんと波紋を立てる。 
 
「はっ、あっ、んっ――っ!」 
 
 浴室に反響する声に頭がくらついた。白い首筋に張り付く黒髪がなまめかしい。 
 もっともっと、その快感を味わいたい。普段は理性がじゃまして浮かばない、凶暴ともいえる情動をひたすらリーファにぶつけていく。小さなお尻が腰をぶつける度に柔く波立ち、リーファは貫くたびに腰をくねらせた。 
 現実世界では聞いたことのない色っぽい嬌声を浴室いっぱいに響かせるリーファは魅力的すぎた。複雑な俺とスグ/リーファの関係性は、嵐にもまれる木片のようにどこかへ吹き飛んだ。 
 そこを保護するように閉じている肉ひらが、出し入れする度にめくれ上がっていた。愛液で十分に濡れているにも関わらず、締め付けがはげしいので出し入れする度に、柔肉が甘えるようにからみついてくる。 
 
「あああんっ、んっ、ふっ、はうっ……あんっ……あああっ――!」 
 
 貫く時も、抜くときも反応するリーファがいとおしくて仕方がなくなった。ぬめりをもった柔筒がせばまり、伝わる刺激が、肉茎の根本に射精感をもたらしていく。 
 
「スグ……!」 
「はあっ……ああぁぁんっ――! いっ、んっ――!」 
 
 小刻みに背をふるわせたリーファが、肩越しに俺をみた。 
 潤んだ瞳は、もっと、もっと――せがんでいるように見える。 
 そそられるままに、腰を突き込み射精感を解放した。尿道を粘液が通り抜けていく感覚があった。 
 
「あっ、ああああっ! お兄ちゃん!」 
 
 熱いしぶきのほとばしりをリーファにぶつける。鋭い悲鳴をひびかせたリーファは、射精の刺激でさらに柔筒を狭めてきた。精液のとおりみちである尿道をぐいぐい押さえてくる。 
 
「ふあああっ、あああぁっ……ん……」 
 
 どこかかわいらしい言葉をこぼしながら、精を受け止めてくれるリーファに誘われ、俺は残らず欲望を吐き出した。最後の一滴を注いだときには、入り口の隙間から粘液がこぼれ落ちてしまった。 
 
「ふあああっ……ああっ……はあっ……」 
 
 ほとばしりを受けるうち、自分もイってしまったのだろう。目元があやしいリーファを抱き寄せ、浴槽に座り込む。 
 
「はあっ……はあっ……お兄ちゃん……」 
 
 ほほえみながらふうっ、とため息をこぼして身体をよせてきた。瞳をのぞきこむとリーファは熱っぽい視線を絡ませてくる。 
 再び胸の奥に火が点いた。 
 
「スグ……もう一回……」 
「……うん」 
 
 リーファが俺の首に腕をまわしてひっついてきた。探るように腰をひきつけ胸元が接触する。俺の脚を跨いだリーファがおずおずと腰を落としてくる。俺はリーファを両腕で抱きしめ、唇を奪う。再び一つになった俺たちは湯面を激しく揺らしはじめた。 
 
 
 
 
「明日はまた、迷宮区?」 
「そうだな……。今週中にはボス部屋を見つけないとな」 
 
 お互い意識をしぼりつくすむさぼり合いのあと、俺とリーファは改めて湯船につかっていた。隣り合って肩を寄せ合う。 
 
「じゃ……あたしもがんばる。足りないものがあったら言ってね。シリカちゃんと一緒に、取ってくるから……」 
「ああ……そう言えば、そろそろ防具も新調しないとな……スグ、協力してくれる?」 
 
 うん――。小さく、でも確かな答えが隣から帰ってきた。 
 返ってきたが、そのあとがいっこうに続かない。おそるおそるリーファの方へ視線をむけると……。 
 思わぬ至近距離で目があった。 
 リーファは照れたように小さく笑うと、俺の手をとって自分の頬に当てた。お湯で濡れた肌はしっとりとしていて、手のひらが吸いつくようだった。 
 
「明日も……絶対、戻ってきてね? あたしを一人にしないでね……。お父さんとお母さんに、話さなきゃいけないことがいっぱいあるんだから……」 
「ああ……大丈夫。約束するよ……」 
 
 リーファは全幅の信頼を寄せてくれている。 
 小さな身体を抱き寄せて、ちゃんと親父たちには話さないとなぁ……と現実世界へ帰ってからのタスクを胸に刻みつけた。あの二人が俺たちのことをどう理解してくれるかはわからないが、俺と直葉はもう普通の兄妹にはもどれないだろう。 
 ふと、リーファはいつから俺のことを異性と認識していたのかが気になった。一度目の結婚のときは、リーファはまだ俺のことを本当の兄だと思っていたはずから、二度目の結婚をしたときから、恋人になるまでの間の期間――いや、それとも一カ月ほどアスナのところにいた頃から、俺を想ってくれていたのだろうかな。 
 ちなみに俺自身は結構あやふやだ。リーファに真実を告げたあたりから、心境の変化がはじまったはず……だが。いやもしかしたら一回目に結婚したあとあたりから思いがくすぶっていたのかもしれない。 
 全力で甘えてくるリーファに問いを投げてみると、んー、と小さくうなった。なにやら迷っているようだ。やがて決意したような表情でじっとみつめたあと呟いた。 
 
「あのねーお兄ちゃん、あたしはね……」 
 
 耳元に唇をよせたリーファは、もっともっと小さい声で俺の耳にささやいた。 
 おそらくは結婚してからずっと、リーファ/直葉が抱えていた思いの一片が耳朶を揺らした。 
 
「な……」 
 
 驚いて目を見張る。リーファはいたづらっぽく笑って言った。 
 
「……晩ご飯の支度、してるね」 
 
 俺は勢いよく立ちあがったリーファを、呆然としながら見送った。頭の中でさっきの甘いつぶやきがハウリングしている。 
 
――あのねーお兄ちゃん、あたしはね……。初めて結婚した時から、お兄ちゃんのこと、大好きだったんだよ。 
 
 お湯をぱしゃぱしゃと顔にひっかけた。 
 しばらくリーファの顔をまともに見えそうになかった。あいつは俺なんかよりもずっと強く、大人だった。 
 これは現実に戻った時大変だぞ……。思いを新たにしながら、湯船から上がった。 
 

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