2025年 1月18日 第34層・プロスペロー エアリアル亭

 
 耳元で鳴る起床アラームに覚醒をうながされ、目をあけると窓から降り注ぐ光が飛び込んできた。まぶしさに目を閉じ、ベッドの枕へ頭を押しつける。 
 なんだかやたらと懐かしい夢を見た気がする。内容は細かく思い出せないが、たしか直葉が出てきていた。小学生にあがったころの直葉は、俺がどこにいくにもひっついてきた。俺は俺で友達がいて、妹をあそび場につれていくのは恥ずかしかったが、どれだけそっと家を出ても、とことこ追っかけてくるのだ。邪険にもできないし、泣かれても困る。仕方なく一緒に連れ歩いたことが、何度もある……。 
 なんでいまさらこんな夢を、と思わないでもない。 
 浮遊城アインクラッド――ソードアート・オンラインに閉じこめられてすでに二年以上の時間が経過している。日に日に強さを増すMOB。複雑に入り組む迷宮区……。多くの成長リソースを奪ながら、俺はいまだに「攻略組」としてボス攻略に挑んでいる。現実のことなど思い出している暇がない……のが実状だ。 
 が。 
 
「……原因はやっぱり……だよな」 
 
 俺は右腕をまくらに眠る少女――いや、いまや「妻」になった少女に目をむけた。余談だが、血流が存在しないが故に腕がしびれることはない。それをいいことに、俺の腕枕を毎晩の友として眠るのは――。 
 
「ん……んっ……」 
 
 パーツだけ切り取ってみれば、男の子にさえみえる、凛々しい眉がきゅっとよった。どうやらそろそろ起きるようだ。 
 瞼がうっすらと開き、黒目がちの瞳が俺の姿を捉えた。ふあ――、と口に手を当てながら大欠伸する。彼女の頬を指先でつっつき、言った。 
 
「おはよ……スグ」 
 
 やっと脳内に血流がめぐりだしたのか、リーファはなんどか瞼を瞬かせた後、へにゃっと頬をほころばせた。 
 
「おはよ……今日は、ちょっと寒いね……」 
 
 くっついていい? と瞳で聞かれた。他の女性には決して働かない、女心看破スキルがアクティブ化される。俺は胸を開いて隙間をつくった。 
 
「……えへへ」 
 
 なにが面白いのか、リーファは笑みを浮かべたまま、俺の胸に額を押し当てた。俺の背中に片手をまわし、体をよせて密着する。 
 
「んー……お兄ちゃん、あったか……」 
「いや……体温は平均化されているから……俺とリーファも、体温はあんまり変わらないだろ」 
「……もー。わかってないなー………」 
 
 なにがもーなのかいまいちわからなかったが、リーファはまるっこい頬を再びふくらませて顔をあげた。さらさらの黒髪が頬にかかる。 
 すねるリーファを慰めるべく、コシのある黒髪を指で梳いていると、頬の膨らみがなくなった。機嫌をなおしてくれたらしいリーファは、もう一度しっかりと俺の体を抱きしめた。 
 
「……なんだか夢……みたいだよ」 
 
 小さなつぶやきだったが、俺の耳にはしっかりと届いた。 
 俺も、そう思うときがある。年下のリーファにとっては、この状況はもっと衝撃的だろう。 
 だが、こうなったこと自体には後悔が無い様子だ。俺だって後悔はしていない。ただ時折とまどうことはあったりする。 
 置き去りにした現実ではいっさい動かない、俺とリーファ/直葉の関係性が、SAOでは二歩も三歩も進んでしまっているのだから。 
 一分ほどくっついたあとリーファが言った。 
 
「……さて、朝ご飯つくらないとね……今日はなにがいい?」 
「スグが作るならなんでもいいよ……」 
「ええー。それじゃ作り甲斐がないよー」 
 
 リーファが密着していた体を離して半身を起こした。 
 とたん、体温が遠ざかり、惜しげもなくさらされた幼い裸体が、たちまち部屋着に包まれる。簡素なチュニックに、綿入りの上掛けを羽織ったリーファは、ベッドから飛び降りて振り返った。ショートパンツから延びた脚が、朝の光を浴びて、象牙のようになめらかな光を反射させた。 
 俺は中学二年のときに、リーファは中学一年生のときにSAOの虜囚となった。アバターは現実世界の体格を大ざっぱにだが再現しているので、リーファの肩や足……いまは衣服に隠れている胸部のあたりは年相応だ。ときどきそのことでからかうと、きまって「現実の身体はちゃんと成長してるもん!」と返ってくるのが常だった。 
 だがスタイルが悪いわけじゃない。そもそも努力家の直葉は、もやしっこな俺と違って、剣道のため身体を鍛えることに余念がなかった。キャリブレーションを元に作られたアバターにも努力の軌跡は反映されていて、リーファのウエストや太股は、引き締まっていた。幼さと健康美の同居する身体は俺には、もったいないくらい美しかった。 
 俺の視線を感じとったのか、リーファは少しだけ頬をあからめると、 
 
「さ、さー! 今日は気合い入れてつくるよ!」 
 
 照れ隠しのように言ってから、寝室を出て行った。さすがにじろじろ見られるのは恥ずかしいようだ。 
 あいつもやっぱり女の子なんだなー、といますぎないでもない感想を抱きながら、普段着を身につけリーファの後を追った。 
 
 
 
―――― 
 
 
 結婚をしたのが一年前。恋人になったのが三ヶ月前。そして離婚をしたのが半年前で紆余曲折の末、再婚をしたのは四ヶ月前――。 
 すさまじい勢いで経過した一年だったなーっと、述懐しつつ、リーファは朝食用のサラダにとりかかった。SAOでは料理の行程が簡略化されており、現実で磨いた料理スキルは断片的にしか発揮できない。行程はどうにも機械的なので、どうしても思考を持て余してしまう。 
 新居に選んだこの宿屋は、二人で住むにはかなり広い。キッチンにもしっかりとした設備があるので料理をファンブルすることはほとんどない。 
 
 でも、プロポーズの言葉が「アイテムストレージを増やしたいから結婚してくれ……」なんて、誰にもいえないよね……。 
 
 リーファはため息をつきながら、目の前のキャベツを千切りにした。 
 
 兄のいる世界を知りたい。 
 兄がいまなにを考えているのかしりたい。 
 それは剣道の稽古にいそしむ以外にリーファが抱いていた小さな、小さな願望だった。 
 
 珍しく早く帰宅した母と囲む夕食の席で、兄がVRMMORPG「ソードアート・オンライン」のテストプレイヤーに選ばれたと、声をはずませて言ったのをよく覚えている。そして直葉は、兄と久しぶりの会話をかわした。普段は食事のときだって、ろくに話をない兄――和人は、そのときばかりは饒舌で、仮想世界にどんな魅力があるのかを、目を輝かせて語っていた。 
 だが、直葉には飛び出す言葉ひとつひとつが、さっぱりわからなかった。母がところどころ解説をしてくれて、やっと理解できたのは神社のおみくじで大吉を引くのと同じように、幸運な出来事が兄に訪れたというだけだった。 
 だからこのとき、直葉は兄のかたる世界に興味を持った。普段は決して手にしない電撃……なんちゃらというゲーム雑誌を立ち読みし、ソードアート・オンラインの何が、兄を虜にしているのか理解したかった。 
 結果、残念なことに直葉は仮想世界への魅力を、ほとんど感じなかった。少なくとも、なぜ兄がここまで入れ込むのか、さっぱりわからなかった。 
 気持ちが分からない。気持ちに共感できない。 
 事実にじりり、と胸が灼かれた。兄と自分の間にある隔絶を直葉は初めて知ってしまった。 
 昔のように仲良くしたい……という願望のみが先行し、いつの間にか焦りを生んでいた。 
 ソードアート・オンラインのベータテストが終了し、正式版発売の一週間前。 
 ほんの少しだけでいい。兄が仮想世界で得るものの、一片だけでも感じるこごができれば、まだ、希望がもてる気がした。 
 すがりつくような想いで、直葉は母に頼み込み、ナーヴギアとSAOの入手を頼んだ。 
 一般の据え置きゲーム機に比べれば遙かに高額かつ、入手困難が予想された「SAO同梱版ナーヴギア」を母があっさりと用意してくれたのは、直葉の情熱が伝わったのか、あるいは、仲の良い兄と妹「だった」直葉と和人の絆を想ってくれたからなのかは、いまだにわからなかった。もっと単純に、来るべくVR機器時代の家電を、ちょうどいいから購入する……程度だったかもしれない。 
 
「お母さん……結構適当なところもあったからな…」 
 
 こうなれば直接聞くしかない。脳内の「向こうに戻ったらやりたいこと」リストにさっきの一文を足しつつ、サラダを盛りつけ、テーブルに運んだ。 
 作った朝食の出来を俯瞰してみる。 
 バターをほどよくのせた焼きたてのパンにサラダ。あと目玉焼き。朝食なら十分なメニューがテーブルにそろった。現実世界でもたびたび桐ヶ谷家の朝食ならんだメニュー構成だ。食材レベルはまあまあだが、リーファは料理スキルをグランドマスターしているので、これくらいの料理なら失敗することなく作ることができる。そもシリカと一緒に暮らしていたときから、料理はリーファの役目だった。 
 ああ……でも、もうちょっと手が込んだもの作りたいなー。マヨネーズほしいなー。醤油もほしいなー。 
 
 SAOのシステムにグチをこぼしていると、おいしいモノの匂いをかぎ当てたのか、リビングスペースで新聞を読んでいたキリトが、自然とテーブルについた。あまりのグッドタイミングっぷりに、吹き出しながらキリトの向かいへ座る。 
 
 兄と昔のように仲良くなりたい……。 
 最初に抱いていた気持ちは、紆余曲折を得て結実した。お兄ちゃんと結婚した。恋人になった。などと当時の直葉が聞いたら、驚いてへたり込むだろう 
 
 キリトと一緒にいただきます、をしながらトーストを口に含んでいると、サラダを飲み込んだキリトが申し訳なさそうに言った。 
 
「いつも悪いな。俺も料理できればいいんだけど」 
「んー……気持ちはうれしいけど、スキルスロットも余裕ないでしょ? スロット遊ばせていると、またアスナさんに怒られちゃうよ?」 
「それはそうなんだけどな……スグにばっかりやらせてるのは、悪い気がしてさ」 
「あ……。だったら食材とりにいくの手伝って。五十二層においしい山菜が生えてるんだって」 
「……それくらいなら、シリカといけるんじゃないか?」 
「……」 
 
 お兄ちゃんと!行きたいの! 叫びたくなるのをこらえ、パンにかぶりつくキリトを眺める。 
 たしかにシリカと組めば、どんなクエストも怖くはない。 
 
 ビーストテイマーのシリカは、はじまりの街を飛び出した時からの相棒だ。両手剣使いで腕力値優先型のリーファと、短剣使いで敏捷値優先型のシリカは、お互いを支えあえるようにスキルをのばしてきたのだ。目をくばせひとつでスイッチのタイミングをつかめる。コンビネーションなら攻略組にだって引けを取らないと自負している。 
 が――それとこれとは話がべつだ。乙女心をさっぱり理解しない兄に「思い知らせるべく」澄まし顔でサラダを口に運ぶ。 
 突然だまったリーファの顔を、キリトはちらちら盗み見ているようだ。 
 数秒後、パンを咀嚼し終わったキリトは、罰わるげに言った。 
 
「……そうだな。たまには一緒にクエストいこうか。今日はオフなんだし」 
「――うん!」 
 
 察しの悪い兄に想いが伝わったのがうれしくて、思わずほほえんでしまってから、リーファは自分のパンにかぶりついた。 
 
 
 
―――― 
 
 
 目的の山菜とりを終えた俺たちは、雨の中を全力でダッシュしていた。敏捷値補正を全開状態にしたまま、もはやプレイヤーホームと言っても過言ではないほど、長期滞在している宿へ飛び込む。磨きに磨かれた木製カウンターの受付には、初老のおばあさんがひとりいるだけだ。実はこのおばあさん。特殊なアイテムを所持していないと、安楽いすに腰掛け眠ったままぴくりとも動かない。特殊アイテムはクエストで手に入れられるのだが、わりと難易度が高いため、いま宿を借りているのは俺とリーファだけだ。 
 おばあさんを起こさないように――前述の理由から、いくら騒いだって起きやしないのだが、リーファが律儀に足音を潜めるので俺も従った。 
 やっとこ二階の一室にたどりつき、扉をしめると、リーファが白いタオルを放ってきた。しばらくすれば乾くのだが、シャツは濡れて肌に張り付いてて気持ち悪い。コートをアイテムストレージに格納してから、タオルを投げてよこしたリーファに視線を向ける。そしてほんの少し視線をそらした。 
 リーファはいま、薄手の剣道着のようなものに、袴のようなものを装備している。ブレストプレートやアーマー類は一つも身につけておらず、小柄な身体をまもるのは、頼りなさな道着だけ……に見える。だがソードアート・オンラインでは、防御力の優秀さと見た目の頑丈さは必ずしも一致しない。一応は高級品だ。 
 じゃあなんで俺が目をそらしたのかと言えば……道着の布がリーファの肌へ張り付いていたからだ。濡れた布地の向こうにうっすらと薄桃色が見える。 
 と――。 
 
「ふえ……ふえ……ぶぇっくし!」 
 
 リーファは、まるで男の子のような豪快なくしゃみをしたあと、寒そうに自分の身体を抱いた。袴のすそから一滴、二滴と立て続けに水滴が落ちていく。 
 俺は彼女の頭をタオルでゴシゴシぬぐってやりながら言った。 
 
「スグ……お風呂入ってこいよ。肌感覚リセットしないと、消えないぞ……寒いの」 
「ん……でも、お兄ちゃんの手も冷たいよ……」 
 
 リーファがタオルをつかんでいた俺の手を包んだ。 
 くるっ、とこちらを向くリーファは、前髪を雨ではりつかせたまま、小さくつぶやいた。 
 
「だから……いっしょに、はいろ」 
 
 
 
 まさかこの年になって、直葉と一緒にお風呂へ入ることになるとは思わなかった。 
 俺は不思議な心地で真っ白な背中を見つめた。 
 こちらに背をむけたままうつむくリーファとは、まだ一言も会話を交わしていなかった。無言で湯船につかり、洗い場に出てきたのが三十秒前のこと。リーファは木組みの風呂椅子にすわって、じっとしている。髪から落ちた雫が、背筋を伝って落ちていく。 
 それにしても小さな背中だ。 
 俺にしたって性別を間違えられるほどの体格しか持っていないが、リーファの背中はそれに輪をかけて小さい。当たり前と言えば当たり前なのか。中学一年生といえば、小学六年生の一つ上でしかない。 
 ……裸をみるどころか、その先にまで至っているにもかかわらず、不思議な感慨を抱いてしまうのは、アインクラッドで生きている時間よりもずっとずっと長い間、兄妹でいたからだ。 
 いくら――結婚し、立場を変えたとしても、過ごした時間の長さは消えない。 
 だが、いま俺は「キリト」で直葉は「リーファ」だ。言葉にするのは恥ずかしいが、最愛の人……でもある。 
 俺は白磁の置物のようになめらかな背中へ触れた。肌に残っていた寒さは、湯船に一定時間浸かったおかげで消え去っている。いまはぽかぽかと暖かいくらいだ。 
 温泉が一室に用意されている……というのは、やっぱりありがたかった。掛け流しなのでいつでも暖かい。 
 
「んっ……」 
 
 肩胛骨のあたりをさすってやると、髪を振ってリーファが首をめぐらせた。なにかいいたげに口をぱくぱくさせるが、結局一言も発しないまま前を向いてしまった。 
 内心で首を傾げつつ背骨の線をすーっと、指で引いてみた。 
 
「んん――っ!」 
 
 さっきよりも大きくふるえたリーファが、とうとう振り向いた。 
 
「お兄ちゃん……さわり方がやらしいよ……」 
「そんなこと言ってもな」 
 
 意識していやらしく触れたわけじゃない。 
 じゃあとばかりに、リーファの肩をつかんでこちらに向かせる。 
 ちらりと胸のさきのピンクが見えた気がするが、とりあえず見ない振りをしておいて、ぷるぷるとさわり心地良さそうな唇を奪う。 
 
「んぅっ――!?」 
 
 接触したさきから柔らかさと暖かさが伝わってくる。目を見開いたリーファだったが、そのうちどこかあきらめたかのように瞳をとじた 
 押しつけあうだけの接触をより深くしようと、舌先でちょんちょん唇をつっつく。 
 
「んっ……ふぁ……んんっ――」 
 
 そうして柔らかさを味わっていると、リーファがおずおずとではあるが唇から力を抜いていった。わずかに開いた口の間に、すばやく舌をすべりこませる。いきおいがありすぎたせいで、リーファが頭をひこうとするが、肩をつかみっぱなしにしているから、おのずと限界がある。 
 
「っ……んっ、んっ――んっ……ちゅ……」 
 
 差し込んだ舌で舌の腹をつっつく。最初は遠慮がちにのばされてきた舌を一気に巻き上げ、さそってみる。すると――リーファが俺の首へ手をのばしてきた。互いに互いをだきよせ、深く唇をつなげる。 
 本当に幼い頃、直葉は「お兄ちゃんのお嫁さんになる!」などと言ってくれていた。テレビドラマの影響で、大人のすることに憧れる……。なんでもない、幼少期の想い出だ。年をとるにつれて忘れていく記憶。だが――。 
 
「んっ――んっ、ちゅっ……んっ――!」 
 
 一生懸命に舌を絡めてくるリーファに答えるべく、深く深く唇を奪う。直葉とこんなキスをするようになるなど想像もしていなかった。 
 淡くとろけて、むさぼるように唇をあずけあったと、リーファの背中をちょん、ちょんとたたいた。やや息苦しくなった。 
 
「……ん」 
 
 おとなしくリーファも従った。顔がはなれる。 
 吐息がかかるような距離でリーファの表情をながめる。頬が赤い。 
 俺をみつめたまま、リーファが言った。 
 
「ふう……あのままされてたら、舌がしびれちゃったよ……」 
「それは、気持ちよかった……って意味か?」 
「……そうかな? そうかも……ね、もういっかい……して」 
 
 断る理由がない。もう一度、今度は口腔をむさぼるような激しい口づけになった。 
 唇をつなげたまま、リーファの肩から手をずらして手探りで――さっきちらっと目撃したピンク色の突起を探した。 
 わずかに隆起した乳房のさきにしこりをみつけた。 
 
「んむっ――」 
 
 親指の腹でそこに触れていると、リーファがびくっ、とふるえる。 
 あまり強くすると痛そうなので、自分でもじれったくなるほどの速度で突起を押しつぶしてみる。 
 
「スグ……どう?」 
「あ――んっ……ふっ、んっ……お兄ちゃん……」 
「言ってくれないとわからないぞ?」 
 
 少し強めに、指の真ん中で突起を転がした。 
 
「あうっ……」 
 
 リーファが背中を丸めるようにして悲鳴をもらす。 
 
「あうっ……んんっ――! んっ、ああっ……うう……気持ちいい……」 
 
 その一言をだすのに力を使い果たしてしまったのか、リーファが全身の力を抜いた。 
 しなだれかかってくるリーファの乳首をいじめてやりつつ、右手をはずしてさらにおろしていた。プリンのように柔らかそうな腹部を越え、幼さの中で明確に女性な部分を目指す。 
 
「あっ――、ま、まだだめ――」 
 
 乾いた音とともに、手首を太股にはさまれた。 
 思わずリーファの瞳をのぞき込む。当のリーファは、瞳をうるませたまま小さな声で言った。 
 
「ま、まだだめ……なの……」 
「……そ、そうか」 
 
 そういえば泣いた直葉には一度も勝てたことが無かった気がする。 
 手は挟まれたままにしておいて――手首を挟む太股の弾力が心地よいせいので――、片手でリーファの肩をだきしめ、キスを再開する。そのまま太股をなでまわしたり、乳房をつねったりしながら、リーファを促す。 
 
「はう……んっ、んっ……! は、恥ずかしいよ……」 
 
 ぶるぶる太股をふるわせつつ、リーファはすこしずつ脚から力を抜いていった。俺は太股の間から手首を引き抜いて、リーファが開いた脚の付け根をみつめた。 
 ぴっちりと一本筋のようなスリットと柔らかそうな太股、幼い腹部が一緒に視界へ入り込んだ。 
 お湯よりもほんの少し粘度が高そうな液体が、スリットの隙間からとろとろともれだしているのが見えた。SAOのフォーカスシステムの恩恵で、しっかりと目撃することができてしまう。 
 俺は無意識に指を向かわせていた。 
 
「えっ――ちょっ、ちょっと――!? んっ――!」 
 
 かぎりなくそっと触れたつもりだったが、リーファは強く反応した。同時に、ひくっ――スリットがふるえる。 
 
「う――ぅぅ…………い、いきなりっ……」 
 
 再び脚を閉じてしまいそうな気配があったので、少し手の置き場を変えた。太股をつかむようにしてたあと、ぐっと左右に押してみる。 
 咲ききった桜の花の色合いだった。見事なまでに健康的で、淫靡な秘処を目にしたとたん、性器が熱くたぎるのを感じた。こぽこぽと蜜のしずくをこぼし、誘うようにわなないている。 
 脳裏にはいまだに小さくて泣き虫な直葉の姿がプリセットされているので、この淫靡な 
部分は意外に思えてしかたない。思い出せば、こんなに明るい場所でここを見たことなど一度もなかった。 
 
「ふああっ……ああっ……みないで……」 
「いや……とっても可愛いよ、リーファのここ」 
「……んっ……くっ……ばっ、かぁ……」 
 
 脚を閉じようとぐいぐい力を入れてくるリーファ。現実やられればあっという間に負ける綱引きでも、SAOならほぼ互角だ。 
 リーファをなだめつつ、蜜をこぼす部分に指を当てた。つぷっ……。濡れそぼったそこは、意外にもスムーズに指を受け入れた。 
 
「っ――あああっ……っ、んっ……はぁ……はぁ……指っ、はいってる……」 
 
 肩で息をするリーファだが、実のところ指はまだ第一関節くらいしか入っていない。小柄な身体にあわせて構成される女性器はただでさえ狭苦しいのに、リーファの反応でさらにせばまっていて、人差し指がきゅっ、きゅっ、と締め上げられる。 
 粘膜を傷つけないように気をつけつつ、奥を目指して手を進ませる。肌ごしの体温よりも数度高い、柔肉の感触を楽しみつつ、第二間接、付け根……。 
 にちゅっ――。指の質量をうけて、膣道を満たしていた愛液が隙間からこぼれはじめた。 
 
「……んっ……くぅ……」 
「……もう、ずいぶん濡れてるな……」 
「う……んっ、だ、だって……お兄ちゃんの指が……入って……はあっ……んっ――!」 
 
 指をくっ、曲げてやるとリーファが背筋をふるわせた。頬から広がった薄桃色が首筋や胸元までを染めていく。 
 
「お、音ならしちゃだめ――! あんっ、くっ、ひっ――だめっ! だめぇ――!」 
「し、しかたないだろ……」 
「あぅ、くぅっ――んっ、お腹のなかぁ……あっ、あっ、だめっ……あんっ――、んぅぅ――」 
 
 浴室の陶器タイルに悲鳴が反響した。 
 くの字にまげた指先をそのままに出入りの速度を早くしてみる。膣道のつぶつぶを指でさらい、 
リーファをかき乱す。 
 
「ふあっ……ああんっ、だめっ、だめぇ……!」 
「スグ……」 
 
 丸さを残す頬がとろけきっていた。行為に夢中で、くちゅくちゅという音さえ、もう気にならないのかもしれない。締め付けははじめたときより強くなっているし、かつてのリーファからは考えられないほどの強い嬌声が口からこぼれて浴室に響く。 
 
「あああっ、んっ、だめっ、もうだめぇ――お、お兄ちゃん……!」 
 
 リーファは、ぎゅうっと俺の背にまわした手を引き寄せる。 
 
「ふああっ、あああっ、いくっ……いっ、ちゃうっ――!」 
 
 眼前あったリーファの眉がくっ、と切なげにゆがんだ。 
  
「ふあっ、あああああっ、んっ――!」 
 
 続いてびくん、びくん。小柄な身体がけいれんした。包まれたままの指先は、新たに生まれた透明な液体ごと締められた。まるで奥へ奥へと誘うようにヒクヒクわななく。 
 
「はあっ……はあっ……ああっ……」 
 
 息も絶え絶えな様子でリーファはへなへなと俺の胸へ頭を預けた。 
 
「はあっ、ああっ……だめって、いったのに……」 
 
 ほんの少し恨めしげな声が聞こえてきた。 
 指先を秘孔から抜き出し、リーファの背中へ腕をまわす。 
 
「……はふっ……んっ……」 
 
 額をあずけたまま、リーファはおずおずと俺の背中へ手を伸ばしてきた。そのままぎゅっ、とお互いを抱きしめる。しばらくそうして、肌と肌で交換される体温を楽しみ続けた。 
 

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