カインズ×ヨルコ

※SAO原作8巻のネタバレを含みます。ご注意ください。



 
 
「ねえ……ほんとうに……するの……?」 
「ああ」 
 
 壁戦士として必須ともいえるフルプレートアーマーを脱げば、そこには年相応の青年のからだしかない。その胸板に頬をすりつけ、ヨルコは小さく嘆息した。薄暗い部屋では相手の体温が際立って感じられる。 
 力を抜いてしなだれかかるヨルコの、緩く波立つ黒髪をカインズの指がなでていく。倫理コード設定は解除中なので、ハラスメント警告はポップしない。 
 異性に髪を撫でられる経験などないはずなのに、指の動きには不思議な懐かしさと安心感があった。 
 
「んっ……カインズ……」 
 
 ふたたび頬をカインズの胸にあて名前をつぶやいた。髪をなでていた手がほんの一瞬だけ、彼の指がとまる。 
 
「大丈夫……かな? 私たちだけで……」 
「やるしかないさ。他の連中だってみんな怪しいんだ……」 
 
 計画は明日、決行予定だ。緊張はいまだにヨルコの胸におもくのしかかっているが、髪をなでられるたびに起こる安堵は、その重石を少し軽くしてくれている。 
 
「そうだね……決めたもんね……」 
 
 体を起こしてカインズの首に腕をまわし抱きついた。肌と肌がすべって、仮想の体温を交換する。 
 
「ヨルコ……」 
 
 カインズの指先が、するすると下がっていき弦楽器をつま弾くようなタッチで、ヨルコの胸にふれた。数十分前に一度おわったが、それでもなおふくらみ続ける乳房の先端を、カインズは指先でつまみあげる。しびれるような快感がヨルコを灼いた。 
  
「っ……く……ぅぅ」 
 
 さらに指二本が乳首のしこりをつまみ上げ、きゅっ、きゅっと絞る。カインズの胸の上でうつろな吐息をこぼしつつ、ヨルコはSAOで体感する愛撫の心地よさに酔いはじめていた。 
 現実世界でのセックスをヨルコはしらない。しかし、仮想世界で覚えさせられた性交の魅力は、すでに体に染みついてしまっている。どうやらヨルコは快感に対しての耐性が低いらしく、夢中になるのもはやかった。 
 摘ままれるまま、首から腕をはなして青年の顔をのぞきこむ。付き合っている当時にはなかった距離で視線が結ばれる。 
 黄金林檎が存在した当時、二人はまわりからからかわれるほどプラトニックだった。別段宗教上の理由もなく、ギルドマスターがすでに「結婚」している以上、それを考えないこともなかったが、お互い体を求めたりはしなかった。 
 もしかしたら――。 
 乳房から走る淡い快感に耐えつつ、ぼんやりとした頭でヨルコは考えた。 
 もしかしたら、付き合わなくなったから……こうしているのかな……。 
 付き合っている当時、カインズは顔に出さなかっただけで、こういうことをしたかったのかもしれない。ヨルコの心中にも好奇心は存在したし、倫理コード設定解除の方法も知っていた。 
 それでもことに至らなかったのは、やはり付き合っていたからだ。お互いを彼女として、または彼として大切にするあまり直の接触を避けた。 
 二人はそのまま別れることになった。 
 尊敬していたギルドマスターの死もさることながら、彼女を深く愛していた夫が悲嘆にくれる姿を見て、カインズとヨルコは付き合うのをやめた。お互いのどちらかが死んだときに発生しえるショックを事前に回避するという、利己的な計算の上で。 
 だからセックスはしても、付き合っていた頃のように愛の言葉をささやきあったりはしない。ただただストレス解消のパートナーとして、体を交わしている。 
 乳房をなぶっていたカインズの手がヨルコの秘処をくすぐる。ちゅく……と、予想外に大きな水音が部屋中に響いた。 
 
「ふぁ……ああっ……んっ……!」 
 
 敏感な場所をさわられたことで、神経の集まったそこに快感がはしった。 
 乳房の先端が、流せば腰まであるヨルコの髪に隠される。髪の一房が汗エフェクトにぬれた肌にはりつき、乳房の先端で咲く、ベビーピンクの乳首を波立つ髪のカーテンの向こうへ隠していた。 
 女性としては平均的だが、男性型PCにはないくびれをもつ腹部を、カインズはそっと包み込んだ。わき腹が指の形に沈み込む。 
 重装備をみにつけるべく振られた腕力値が、ヨルコを簡単にもちあげてしまう。 
 ヨルコはカインズの脚をまたぎ、膝立ちになった。腰をささえられたまま、そろそろとそそり立つ肉茎のほうへと引き寄せられる。 
 ヨルコは身震いした。 
 もう何度も経験した結合の瞬間に、胸が高鳴るのを止められない。脚と脚の付け根がじゅん……と潤むのを感じた。 
 
「はあ……ああっ、ああ……あああっ……!」 
 
 先端部をわずかに挿入された格好で体がとまる。腕力補正の効果で体を完全に固定されてしまった。 
 視線をおろすと、カインズの男性器にそって透明な愛液がこぼれ落ちていくところだった。広げられたままのスリットも、カインズの目には露わだろう。 
 
「止めないで……カインズ……! こ、このままじゃ、は、恥ずかしいよ……!」 
「ああ……いくよ、ヨルコ……!」 
 
 支えていた力が一気になくなった。支えをうしなったヨルコの体が落ち、自重で串刺しになる。 
 
「はあっ――!」 
 
 ずるっと膣道を押しのける性器に悲鳴をあげ、背筋を反らす。 
 膣を満たしていた愛液が、のぶとい肉茎の側面を流れ落ち、女性器と男性器のすべりがよくなっていたので、性器は一気にヨルコの膣道をかけぬけていった。 
 
「はあ……くっぅ…………」 
 
 ヨルコの体に対してやや大きめの男根は、膣粘膜を上下左右に強くあっぱくしていた。 
 
「ふあっ、ああっ……んっ、ふっ……!」 
 
 ヨルコは下腹部の熱に思わずあえいだ。 
 下腹部から脳髄へ直接たたきつけられる快感におぼれ、ヨルコは体を上下させはじめた。より動きやすいように脚の先をカインズのわき腹近くによせ、膝をつかって上下に動く。 みずみずしく張った乳房までもが上下に揺れ、ピンクのスリットが男根に併せて乱らに咲き乱れる。そして乱れる様子はカインズの前にあらわだった。 
 ヨルコは目元を妖しくさまわよわせて言った。 
 
「はあっ、はあ……いやっ……そんな目で……みないで……」 
「無理をいわないでくれ……それに、腰がぜんぜんとまっていないよ……」 
「あっ、あっ、いっ、言わないで……っ!」 
 
 じゅぽ、じゅぽと出し入れの水音をさせつつ、ヨルコは腰をふりたくった。羞恥は極限にまで達しているのに、細腰はより深い快感を得ようと勝手にふるえてしまう。 
 思考と矛盾する体は、いつまでも止まらなかった。時折、男性器を膣壁にすりつけるように体を倒す。 
 瞬間、膣壁をこそがれ、子宮口が亀頭でくすぐられた。 
 
「ああああっ――んっ、ふっ、んん――! ふあ、あああっ……カイ……カインズ――!」 
 
 喘ぐヨルコに、カインズは一つ頷いて腰を支え直す。 
 
「……いくよ!」 
 
 ずる――っと、下から突き上げがあった。 
 
「んん――っ!!!!」 
 
 嵐の海に揺れる小舟のこどく揺さぶられつつ、貫かれる快感に酔う。あまりにも強く挿入されたせいで体が背後へ傾いだ。 
 
「あ――」 
「おっ――と」 
 
 背中からベッドへ倒れ込みかけるヨルコを支えつつ、カインズは軽く絶頂する彼女の体へ覆いかぶさる。 
 そのままヨルコの肩を思い切り抱きしめられる。同時につながりが深くなり、「求める」快感が「与えられる」快感に変わる。脚がベッドから離れているので、ヨルコはまったく抵抗できない。脚をかかえあげられ、カインズに貫かれるままだった。 
 
「んっ……ふっ、ん――! あああっ……今の……すごい……」 
「そう……かっ……?」 
 
 カインズがうなりながら腰を進めた。子宮口のそば、へその下あたりをごそっ――と擦られる。 
 
「っ――ふああっ、ああっ……も、もっと……」 
 
 ほろほろと涙をながしつつ、カインズを抱きしめ返す。快楽を最優先に処理するSAOのセックスに、思考はもう八割以上とろけてしまっていた。 
 もっと、深く……深くカインズを受け入れようと、脚をカインズの胴へと絡める。 
 
「よ、ヨルコ……!?」 
「ふあっ、あっ、やあぁ……と、くっ、ふぅっ――!」 
 
 密着した肌と肌がすべり、自然とカインズの胸板に擦り付ける格好になった乳首が刺激される。どちらの身体からか吹き出した汗が、肌と肌のすべりを助長する。 
 
「はぁ……う、はぅっ、くっ、ん――!」 
 
 腕力値補正を生かした力強い突き込みに、カインズの下で体をくねらせるが、首を抑え込まれているので衝撃がのがれない。どすん、どすんと奥をつつかれる。 
 
「ぐ……くっ……ヨルコ!」 
「う、うん! 来て……カインズ!」 
 
 カインズが強く突き込んだ瞬間、ヨルコもカインズの背中へ回していた脚を引き寄せた。カインズの腰が密着した瞬間、暖かいなにかがヨルコの子宮をおしあげる。 
 
「ふあああっ、ああああっ、あああ――!」 
 
 カインズの胸の下、目を見開き悲鳴をあげるヨルコへ、どぷどぷと精液が注がれる。熱い粘液を子宮で受け止めている最中にさえ、確かに存在する悦びにヨルコは背筋をゆらし続けた。 
 
「ふああっ、ああっ、ああっ……」 
 
 びくっ、びくっ、と手足を痙攣させるヨルコの姿にいざなわれ、カインズは最後の一滴のこらず放出した。 
 
 
 
「あの……カインズ……こ、こんな格好……恥ずかしいよ……」 
 
 驚いて背中をみる。決して憎く思っていない異性に臀部をさらす――先ほどとは違う羞恥を感じながら、ヨルコは眉をよせた。 
 絶頂のまどろみからさめたとたん、カインズの腕が腰を包んで、ヨルコを上下逆にひっくりかえした。ベッドのシーツに手のひらをつき、お尻を高くして異性の眼前へさらす……というのは、ヨルコに強い羞恥心を抱かせた。 
 
「うう……カインズ……」 
 
 窓の外から差し込むひかりに、真珠のなめらかさをもつ臀部があらわになっていた。 
 月の銀光にさらされたヒップは、腰骨のラインから張りはじめ滑らかな小山を盛っていた。理想的な丸みを持つ臀部と太股の間には、深い谷が刻まれていて、よく引き締まった臀肉をより強調する。 
 二つの白桃の真ん中にいきづくスリットは先の陸み事で潤い、収まりきれなかった精液がヨルコの太股を伝って流れていく。 
 
「綺麗だな……」 
 
 カインズはそっと臀部へ手をのばしつつ言った。 
 それこそ月のように芸術的な曲線をもつ丘の上を、手のひらが這い回った。 
 
「んんっ――!」 
 
 爪弾かれるたび、お尻がぷるん、ぷるんと震えた。カインズはどこか得意げに言った。 
 
「君が……こんなに乱れるなんて…それにここも、ひくひく震えて誘ってるみたいだよ……」 
「つ……ち、ちがうわ……わ、私、そんな……」 
「そうかな……?」 
 
 言いつつ、カインズはさらに五指をひろげヨルコの臀肉をわしづかみにすると、くにくにともみほぐしはじめた。臀部はカインズの手のひらのなかで形を変え、指の隙間からおさまりきれなかった柔肉が、指のすきまからはみだした。 
 
「ふ……は……ぅぅ……くすぐったい……」 
 
 かってに漏れ出してしまう声を抑えるべく、ヨルコは枕に唇を押さえつけた。 
 どちらかと言えば感覚が鈍い部分である臀部に、カインズの体温が浸透してくる。指の圧力がくすぐったく、ヨルコは無意識にお尻をひくひく動かした。臀部をつかまれたび神経が燃え上がった。 
 
「ふあ……あん……くっ……ぅぅ、はぅ……お、お尻……燃えちゃう……燃え、ちゃう……」 
「ふふ……」 
「んっ、カインズ……わ、笑ってるでしょう……」 
 
 しばらくそのまま尻をほぐされ、最後にぐっと左右に開かれた。アインクラッドでは用をなさないうしろのすぼみがひろがり、さらにその前……精液で満たされている秘裂が左右に開いた。 
 
「あっ、やっ……だめぇ……そこ、広げないで……」 
 
 ヨルコは上体をひねって振り返り、カインズへ首をふるう。汗で濡れた首筋に紫紺の髪がからみついた。 
 カインズの視線がそこを舐めとるように移動した。ひくっ、と秘裂を揺らしヨルコはシーツを握りしめる。恥ずかしさで身体に力が入らない。 
 とろ……。膣道の圧力にしたがって、白濁液がこぼれ落ちた。粘液が秘処の縁をつたって落ちていくのがわかる。 
 
「は……や……やだ……で……出てきちゃう……」 
「大丈夫さ……いくよ、ヨルコ」 
 
 ヨルコのおしりを左右にひろげたまま、カインズは性器を押しつけた。背中へながれるヨルコの髪へキスした後、秘門を一気に押し開き、奥まで性器を挿入する。 
 
「んっ――!」 
 
 あっという間に膣道を最奥までカインズがわり込んだ。再び生まれる性感にヨルコの身体が震える。入り口近くにまで流れていた白濁液は、ヨルコの奥底へと押し込まれていった。 
 
「ほら、大丈夫だろう……?」 
「はあっ、あああっ…………」 
 
 カインズはヨルコを串刺しにしたまま、今度は背中をなで回した。汗で張り付いた髪を梳きつつ、小さくつぶやく。 
 
「こんな……君のこんな姿が見られるなら……俺は……あのとき……君と別れ話なんて……」 
「だ、だめ……」 
 
 秘処をうがたれつつ、ヨルコは振り向いた。そのままゆっくりと首を横に振る。 
 いま、そんなことを言われても、どうすればいいのかわからない。 
 
「はあ……だめ、カインズ……いま、いまそんなこと……言わないで……」 
 
 ヨルコの言葉に我に返ったのか、カインズは唇を引き締め言葉を飲み込んだ。 
 
「……ああ。そうだな……全部終わってからにしような……」 
「……うん。もうすぐ……終わるから、そうしたら……だから、いまは……いまは……気持ちよく……して……」 
「ふっ――」 
 
 カインズが吹き出した。きょとんとするヨルコに、弾んだ声をかける。 
 
「いまの台詞、録音結晶にとっておきたかったな……」 
 
 カインズの言葉の意味がわからず、ヨルコは首を傾げた。頭のなかで自分の言葉を反芻する。はっとした。 
 
「え……。ま、まって……そういう意味じゃ……なく……て……」 
 
 焦るあまりとんでもないことを口走ってしまったことにいまさら気がついた。頬が熱い。 
 
「じゃあ……遠慮なく……」 
「え、ち、ちがうの――! カインズ、聞いっ、てぇ――!」 
 
 制止にかまわず、カインズは律動を再開した。 
 腰がうちこまれるたび、お尻の肉が波立っていく。新たに生まれた愛液とさっき吐き出された粘液がベッドへと散らばっていった。 
 そのうちカインズの手がヨルコの胸まで伸び、充血した先端を指でくすぐられた。その合間にも腰の動きは止まらない。膣内をむさぼりつくすようにかき混ぜてくる。 
 
「ふああっ、あああっ、んっ――!」 
 
 四つん這いの状態で、背を大きく反らしたヨルコは唇をかみしめる。その表情は切なげで、自分の体から湧きでてくる激しい快感に耐えるようでもあった。 
 続いて行われる挿入で、さらに子宮を押し上げられる。びりびりと腰から伝わる電撃に目がくらんだ。 
 ばしっ、ばしっ、とたたきつけられたカインズの腰が、ヨルコのお尻をぶるぶるふるわせた。 
 
「ふああっ、ああ……」 
 
 おもわず両手から力が抜ける。 
 挿入される角度がかわり、男根が膣壁をこそいだ。 
 
「あああっ、んっ、ひっ……くぅ――!」 
「ぐっ……! ヨルコ――! そんなに締められたら――!」 
 
 カインズが唸った。 
 力強くヨルコを自分へ引きつけようとしたが、挿入の角度が変わったことで性器がはずれてしまった。 
 
「んっ、ふぅっ――くっ――んっ……ふ……!」 
 
 汗で濡れ輝く臀部に、どろどろの白い液体がま塗りたくられ、自重に従って流れていく。くすぐったさを感じつつも、シャワーのように降りかかってくる精液の熱さすら、いまのヨルコには快感だった。 
 
「ああ……あんっ……」 
 
 膣内はまだ、激しい律動にふるえ、カインズを求めてわなないていた。膣に残る熱い肉茎の残留感覚がいとおしい。 
 体中を満たす脱力感に身をまかせ、身体を横たえる。 
 しばらくなにもする気がおきなかった。裸身をさらしている恥ずかしさに気が付いたのは、一分ほどたったあとのことだった。 
 なにせお尻を高く突きあげたままだし、背中や髪にはカインズの精液が絡まっている。淫らなことこの上ない自分の姿に、ヨルコは再び額を枕におしつけて顔を隠した。 
 
「きっと……」 
 
 カインズは、ヨルコのとなりに横たわりつつ荒い呼吸のまま、言った。暗がりで顔がよく見えない。 
 
「きっと――大丈夫だ。きっと……俺たちは真相にたどりつけるから……」 
「……うん」 
 
 疲労感に導かれ、目をつむる。すべては、事件の真相を確かめてからでいい。 
 カインズと新しい道を歩めるかどうか。 
 グリセルダ、グリムロックのような仲むつまじい夫婦になれるかどうかは、真相にたどり着いてからでいい。 
 ちょうどそのとき、背中から、りりり――鈴の音が聞こえた。メインメニュー・ウィンドウを開くときに聞こえるサウンド・エフェクト。 
 なんだろうと思って振り返ったヨルコの視界に、ハンカチを持ったカインズの姿が写った。そしてあろうことか純白の布を、ヨルコの臀部へおしつける。 
 
「ひあっ――!」 
 
 お尻に乗っていた粘液が、ハンカチによってふき取られた。 
 後ろの嵌り――SAOでは一度も機能したことのない菊座にすら、カインズは手を伸ばしてきた。 
 
「はああっ、ひっ……く、くすぐったい……」 
「でも拭かないと……ここも……拭こうか」 
 
 ちょん、と太股の、付け根部分に触れられた。 
 
「やっ、だっ、だめ! そこは自分でするから!」 
 
 あわててカインズの手からハンカチを奪い取り、カインズから隠すようにして秘処を拭った。 
 恥ずかしかったが、異性にされるよりもずっとよかった。 
 
「ほら……ヨルコ」 
「うん……」 
 
 あらかたの粘液をぬぐいおわったところで、カインズの隣に身体を横たえる。カインズから伸ばされてた手を腕に抱きつつ目を閉じた。 
 疲労感と安心感で、眠りに落ちるのは一瞬だった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
「準備はいいか……?」 
「……うん」 
 
 ぎゅっ、とつかんでいたカインズのマントから手を離す。 
 全身鎧に身を包んだカインズは、何度目かになる手順の確認を終えると、通りの向かいにある教会へ歩き出した。ヨルコはその背中をさりげなく見送る。 
 最後の最後、肩越しに振り向いたカインズへ、ヨルコは不安を押し殺しながら微笑んだ。 
 カインズは片手をあげると、マーテンの雑踏へ紛れる。すでに金褐色の光で包まれつつある町並みは美しく、道をあるくPCを明るく照らす。 
 ただ強すぎる斜光のせいで、カインズの姿はオレンジ一色の人波にまぎれてしまった。 
 ――っ。 
 不安にかられ、通りに足を進める。ちらり、と教会へ足を踏み入れるフルプレートの姿が見えた。 
 人を探すふりをしながら、視界の端で教会の二階をとらえ続ける。トリックを成立させるためには第一発見者である必要が――。 
 
「ああ、お姉さん。これどう? やすくしとくよ」 
 
 背中からかかった声に、ヨルコは鋭く振り向く。圏内PKの偽装――に対する緊張で、神経が過敏になっていた。 
 ただ売り込みをしただけなのに、まるでカタキを見るように驚くヨルコを不審げにながめた商人は、いまいちど手に持った何かの肉を売り込もうと、口を開いた。 
 ちょうどそのとき、気にかけていた教会の二回から黒い影が飛び出した。 
 はっと目を向く。 
 SAOの物理演算に従い――落下した人影は、しかし、途中で止まった。 
 教会の窓縁から延びた縄のロープがカインズを空中で押しとどめた。 
 ぐけっ――。 
 そんな音が聞こえて来そうなほど、ロープはカインズの首へ食い込んでいる。縄にからめられたまま、カインズの身体がぐらぐらと揺れて――。 
 
「き――」 
 
 いくらトリックだと理解できてはいても、昨晩体温を交わしあった友人が首をつり、胸に槍を突き刺しながら落下する様は、ヨルコから平常心を奪うのに十分だった。 
 
「きゃああああああ――!!!」 
 
 演技は演技ではなくなってしまった。無意識に目をみひらき、自分でも驚くほど声が喉から響いた。 
 

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