2025年2月23日 第47層 フローリア プレイヤーホーム 
 
「あの……キリトさん……無茶しないでくださいね……」 
 
 向かいの席にすわったシリカが、不安げに俺を見上げてくる。初めて出会ったときには、かわいらしくも子供っぽくさえあったツインテールは、いまはストレートへとかわり、服装もどこか大人っぽい。暖色系のロングスカートに暖かそうなセーターだ。 
 いまや俺の奥さんとなった彼女は瞳をうるませながら、俺の食事を見つめている。 
 くくぅ……。 
 テーブル脇に置かれた止まり木の上で、ピナがくるくる鳴く。 
 ピナの視線の先には、どうみても消し炭にしか見えない、黒い固まりが食器の上に載っていた。 
 そして俺はというと――その炭肉のウィークポイントを探るがごとく、フォークをお皿の上でさまよわせている。 
 だだっ、と向かいのシリカが立ち上がり、言った。 
 
「あ、あの! やっぱり食べなくていいです! さすがに……これじゃ、お腹こわしちゃいます」 
「な、なにいってるんだよ……。腹痛ってデバフは無いし、食べるにきまってるじゃないか!」 
 
 ええいままよ、とボスの繰り出すソードスキルへつっこむ時の意気込みで、消し炭――おそらく高級和牛――をフォークでピアース。なにも考えず口に放り込む。 
 
「ぐっ――!?」 
 
 舌先にざらり、消し炭の味。追ってがりがりと香ばしい歯ごたえが続く。 
 
「き、キリトさん……!」 
 
 あわててテーブルを回り込もうとするシリカを手で制止する。このときばかりは憎らしい味覚プリセットと格闘すること数十回。かみ砕かれた炭――牛肉を喉へ流し込むと、炭化し、ざらついた和牛が食道をちくちくさせながら落ちていった。 
 俺は一度天井を仰いでから、右親指を突き立てた。 
 
「……ぐっじょぶ」 
「キリトさぁ――んっ!」 
 
 瞳に涙をもりあげていたシリカが、よろよろと椅子へ腰をおとした。 
 
「……無茶しちゃ、だめですよ……」 
「無茶なんてしてないさ。まだ料理スキル……はともかくの取り方がピナ向きだったんだし、たまにはこういうこともあるさ」 
「でも……」 
 
 顔をうつむかせるシリカに手を伸ばし、頭をぽん、とたたく。 
 肉はなくなっていたが、食卓にまだまだ暖かい総菜類が並ぶ。シリカがテイクアウト可能なNPCレストランから買ってきた、お弁当と総菜だ。 
 なぜあんな肉ができあがったか。これはひとえに、シリカの料理スキル値よりも、選択してきたModが原因だ。テイムモンスター用の食事も、料理スキルで作れるため、シリカはそっち関係のModをとり続けていたらしい。 
 素材がいくら高級食材だとしても、出来上がりには毎度毎度不安がのこる。今回は犀の目が悪い方にでてしまった。 
 
「ま、まあ最初のころからは、圧倒的に料理になってるよ……」 
「それぜんぜん、ほめてもらってません!」 
「そ、そうかな……?」 
 
 ぷくっ、と頬がふくらむ。俺は手を伸ばしてその柔らかいほっぺたをつんつんつっつきつつ、 
 
「ま、経験つめば勝手にスキルは上がっていくさ。次のmodどうするんだ?」 
「えっと……「肉料理成功率5%アップ」にしようかなって……でも、「野菜料理味覚拡張」も捨てがたいです……。キリトさん、あんまり野菜たべないから」 
「ま、まあ任せるよ……」 
 
 難しいそうな顔をするシリカに苦笑しつつ、俺はなんとか肉料理(炭)を食べ終わり、総菜へ手をつける。こういってはもうしわけないが、いま現在は総菜のほうがおいしい。 
 
「むむ……」 
 
 こっちのほうがおいしいよー、オーラは極力隠したつもりだったが、シリカはお見通しのようだ。唇をとがらせつつ、総菜をもぐもぐする俺を見つめる。 
 
「じゃあ……あしたは、カルボナーラに挑戦します!」 
 
 口にのこっていた総菜の味が、いっきに水っぽい小麦粉に変わった。頬がひきつりそうになるのを必死にこらえつつ、がんばれシリカ、と心の中で彼女を応援する。 
 これはこれで本心だ。それが伝わったのか、シリカはえへへと笑った後、総菜へとフォークをのばした。そしてどこか微妙な顔をしつつ、ごめんなさい、とつぶやく。 
 
 くるくる――。 
 俺たちのやりとりを見ていた感想なのか、ピナはどこかあきれたような声で鳴いた。 
 総菜の一つをピナに差しだし、白い羽毛に包まれた白竜は一口でそれを平らげた――。 
 
 
 こんな風に俺とシリカの新婚生活は順風満帆だった。料理が――アレ、以外。 
 
 
 
 
 
 
 
 スポンジでスポンジを洗っているような……不思議な気分で、シリカはピナの羽毛に泡を当てる。猫のピナはお風呂が嫌いで大いに手を焼いたのだが、フェザーリドラの相棒は大人しくしている。長い首はぺたっ、とシリカの肩にあてられ、時折満足そうにクルクル鳴いた。肩のあたりに前脚を置き、後ろ足はシリカのわき腹あたりへむかわせ、オシリをぺたんと太ももに乗せているから、特徴的な尾羽は、彼女の脚と脚の、間に挟まるようにして垂れていた。 
 肌がくっつき合っているので、ゆたんぼを抱えているような温かさだ。 
 あらかた胴体と翼を洗い終わり、シリカはくんでおいたお湯をピナに当てて泡を流してやった。小竜の体や翼が、お湯にひたしたことで一回り小さくなる。羽毛が濡れてしまうと、ピナ本体の体格に戻ってしまうからだ。 
 
「はい、おしまい。お風呂入っていいよ、ピナ」 
 
 シリカはピナを持ち上げ、浴槽の湯面にそっと浮かべてやった。ドラゴンがおっきいトカゲなら、ピナもまたその眷属であるらしい。お湯を怖がる様子はなく、ピナは首を風呂縁に出してのへー、と首から下を浮かべた。すこしジジくさい。 
 
「ふー」 
 
 桧組の風呂椅子に戻ったシリカは、冷えてきた肌にスポンジをあてた。 
 毎日のタスクとしているトリミングが終わり、ピナのことよりも自分のことを考える余裕ができてきた。 
 まずは両腕にスポンジをあてがい、念入りに泡を擦り付ける。続いて――胸ではなく、脚、次に胸、ではなく――腹部、でもなく――。 
 あっという間に、自分のちょっと幼いなぁと思ってる以外の場所を洗い終わってしまい、仕方なくお腹に泡をまぶした。 
 しかし、やがてそれも終わってしまった。 
 目の前の鏡をそっと見てみると、胸にだけ粟をのせていないシリカが映っていた。 
 
「……はあ……小さい……まま……かぁ……」 
 
 しかたなく胸にスポンジを当てる。子供っぽいピンク色を、泡で隠すようにし、体を泡だらけにした。 
 体の隅々に石鹸が行きわたったのを確認し、座パァ――と、お湯をかける。 
 続いて、髪をまとめていたクリップをはずし、上げていた髪を元に戻した。今度は髪にお湯をかけ、瓶詰めシャンプーを泡立てる。ライトブラウンの髪を洗いつつシリカは、胸やお腹まわりが恥ずかしい理由である……キリトのことを考えていた。 
 
 結婚して一緒にいるうち、キリトはただの強くて格好いいお兄ちゃん、ではなくなっていた。それなりに弱音もはくし、時折気弱な表情さえ浮かべる。そのときに感じる心の動きはシリカが感じたことのなかったものだ。優しく包んであげたい……守ってあげたい。そんな気持ちがシリカの胸を満たす。甘くも切ない感情だった。 
 最前線で一緒に戦うことはできそうにないが、せめて自宅に戻っているときは安らかな気持ちでいてほしい。それがキリトの妻となったシリカの一番ののぞみとなっている。成功しているかは、イマイチよくわかっていなかったが。 
 
 そして一つ屋根の下にいる……ということは。 
 
 ――!! 
 
 そのことに考え及ぶと頬が、熱くなってしまう。鏡のむこうのシリカも、お湯にあてられたのとは意味あいの違う赤で頬を染めていた。あわててシャンプーの泡を落とすべくお湯を吸くって髪にかける。こうすると、顔が赤い理由がかわる気が……ほんの少しだけ、した。 
 
 ――だって……キリトさん、エッチなんだもん……。でも……。 
 
 しかしどうせお風呂からあがったら、「する」ことになるのだ。そもそも、肌と肌をすりあわせる行為は心地いいし、夢中になるのが常になのだが、行為は裸で行うもので……。そうなれば……。 
 自身の乳房に目を落とし、今日何度目かのため息をつく。結局のところ、原因はこの小さい胸にある。 
 だが、シリカはそこで立ち止まることを、ずいぶん前からやめていた。 
 
 ――ないものねだりしてても仕方ないよね……。 
 
 ないものは工夫でカバーするしかない。 
 シリカは右指を振って、メイン・メニュー・ウィンドウを開いた。そのままキリトと共通化したアイテム欄を表示し、フィルターリングでF型アバター用装備一覧を出力する。そのなかにはキリトに内緒で集めた大人アイテムが多々あった。 
 
――えっと……これは……。猫耳と尻尾のセットで……。 
 
 文字列を見てぶんぶん振る。恥ずかし過ぎる。 
 
――つ、次、次……。えっと裸エプロン……は……。だ、だめ! この小悪魔ルックも……ぬ、布面積少ないよー! 
 
 着ただけで卒倒してしまう気がした。あれやこれやと勢いで買ってしまった布製品の数々だが、そのときは可愛いと思っても、とてもじゃないが着る勇気は持てなかった。 
 ちなみにキリトが最前線で稼いでくるコルは莫大な量だが、この手の嗜好品は、シリカが日中、クエストで稼いできた――所謂内職の稼ぎでまかなっている。自分の趣味にキリトのコルを使いたくなかった。 
 頭を混乱させながら、使用予定のないアイテム群を眺める。 
 その内の一つを凝視し、動きをとめた。 
 
 ――あ……これなら……。コスチュームじゃないし……。 
 
 指を止めた先には、ちょっと大人っぽすぎるかなぁ、と思って買ったワンピースドレスと揃いのショーツがあった。ワンピースのほうはシルク地にレースがあしらわれている、実はちょっと高級品だ。これならなんとか……着られそうだ。 
 
――そ、それにキリトさんも下着、黒だし! だって黒の剣士だもん……喜んで……くれるよね……? 
 
 自分でもわけがわからなくなってきたが、とりあえず覚悟はきまった。中途半端にのこっていた泡をはらい落とし、えいっと湯船に浸かる。 
 途端に湯船に浮いていたピナが、いぬかきをしながらにじりよってきた。相棒を改めて抱きしめつつ、シリカはよ――しっ、と思いを新たにした。 
 
 
 
 
 
 
 シリカより先に湯船をつかわせてもらった俺は、ベッドに腰掛け、帰り際ストレージへつっこんだ号外新聞に目を通していた。傍目には羊皮紙にみえる新聞には、今日の……第八十層ボス攻略についての詳細が載っている。戦死者の数とともに。 
 死んだのは有名ギルドのリーダーとメンバーだ。ボスのまき散らすデバフを打ち消せず、ひとり、またひとりと命を散らした。 
 攻略階層は、九十の大台に乗ったばかりだ。七十五層の骨ムカデ型ボスモンスターのときにも思ったが、この戦死者の数では、百層へのぼったときボスと対峙できるのは一人きり……ということも考えられる。そしてその一人が俺である保証はどこにもない。 
 
「お、おまたせしました……」 
 
 と、隣の浴室からシリカが飛び出してきた。お休みモードのピナをベッド脇の鳥の巣クレイドルに寝かせ、ぱっと振り返る。 
 
「し、シリカ……?」 
「は、はい? なんですか!?」 
 
 明らかに照れまくっているシリカに苦笑しつつ、微増している「女心看破」スキルでシリカの格好を指摘する。 
 
「そ、その格好……に、似合ってる……ぞ」 
 
 ほめ言葉を盛大にファンブルしつつ、改めてシリカの全身をみる。 
 裾や胸元にレースをあしらえつけた黒いワンピースが、湯上がりで薄桃色の肌の上に、くっきりと浮かんでいる。細い肩紐からは、ライトブラウンの髪を乗せた丸い肩が露出し、太股の半分を隠した裾下からは、白い脚がのびていた。 
 
「そ、そうですか……。お、大人っぽい格好だったんで、悩んじゃいましたけど……」 
 
 言いつつ、シリカは俺のとなりにちょこん、とすわる。俺は新聞をストレージ欄へ投げて格納し、細い肩をだきよせた。 
 
「……」 
「……」 
 
 無音の静寂が部屋に満ちていく。 
 時折虫の声が聞こえるくらいで、プレイヤーの気配はない。 
 花の都フローリアはいまも恋人たちであふれているだろうが、そのばすれにある一戸建てプレイヤーホーム近辺には、大した観光名所もなく、夜になれば人っ子ひとりいなくなることもめずらしくない。 
 シリカの小さな肩をそっと抱き寄せた後、ベッドの外へ放り出されていた脚を抱き寄せた。 
 俗にいうお姫様だっこでシリカをベッドに寝かせる。 
 とたん、抗議の声。 
 
「うう……ま、また子供扱いしていませんか……? あ……っう――!」」 
 
 仰向けのシリカを力の限りだきしめる。腕にすっぽりと収まってしまう小柄な彼女の体温が、生還の実感を与えてくれた。むき出しの腕や肩、それに布地を通して伝わってくる熱が、肌を通してしみ入ってくる。 
 
「あう……んっ、キリトさん……? どうか……したんですか……?」 
 
 耳元でシリカがつぶやいた。優しく、柔らかい声音だった。 
 
「今日も……死んだヤツがいるんだ」 
 
 ひくっ、とシリカが小さく震えた。 
 いま言うべきでないのはわかっていても、どうしても口に出してしまう。シリカの体温に安心を覚えるが故に、甘えてしまう。 
 
「キリトさん……」 
「あと……何人死ぬんだろうな……クリアまでに……俺だって、いつまで――」 
 
 いつになく弱気になってしまうのは、シリカとのやりとりに幸せを感じているからだろうか。 
 シリカがそっと俺の胸を押した。シリカとベッドの上で向かいあう。 
 そっとのばされた手が、俺の胸に当たった。シャツの表面をつかみつつ、シリカが言った。 
 
「あたしは……なんの、力にもなれないです。キリトさんのつらさも、本当はわかってないかもしれません……それが辛い……です」 
 
 シリカの肩が小さくふるえた。 
 
「キリトさんを待ってるときの……寂しくて、せつない気持ちが、あと何十回も続くなんて……耐えられません……。キリトさんが……安心して戻って来られる場所を守るのが、いまの……役目、です。あたしがSAOにログインした意味は……たぶん、いま……このときの……」 
「シリカ……」 
 
 小柄な体から顔をはなし、シリカを見つめる。 
 瞼には強い意志の光が瞳に宿っていた。そこには出会った頃――ピナを失い、瞳から宝石のような涙を流していたシリカはいなかった。あれからもう一年近い時間が経過しているし、シリカの強さを目にする機会も何度かあったが、初対面の泣き崩れる姿が脳裏にやきついているせいで、ときおりギャップを感じてしまう。シリカなりに俺との生活で感じるところがあって、日々それを乗り越えているのだ。 
 
「強いな……シリカは。会ったときは、泣いてたのにいまは俺が慰められてる……」 
「……いまはキリトさんの奥さんですから……」 
 
 満面の笑みをうかべたシリカが、ぎゅっと首筋に抱きついてきた。 
 
「だから、いくらでも強くなれちゃいます。だって黒の剣士の奥さんだもん」 
 
 もう彼女もただ守られるだけの小さな少女ではない。それがうれしくも――なんだか寂しくもあるのは、どうしてだろうか。 
 
「シリカ……」 
「はい……」 
 
 生死をかけた戦闘を経たせいだろう。気がつくと神経が高ぶったままだった。 
 情欲に押されるがまま、シリカをベッドへねかせ、彼女のワンピースの肩ひもを、指ですくって落とした。そのまま肘のあたりまで、胸をおおっていた薄布をおろす。 
 視線を向けるとなだらかに広がる乳房があらわになった。ふくらみの頂点には、桜色の愛らしい突起が乗っていた。 
 
「……あんまり……みないで……ください……」 
 
 恥ずかしいのか、俺の視線をさけるように首をかたむけた。動きにあわせて茶色の髪がさらさらとゆれる。 
 しかし、俺の目はシリカの身体に釘付けだった。 
 彼女の体はたしかに、幼い。 
 乳房はまだ膨らみかけ、腹部は女性的なくびれがやっと生まれたばかり。結婚してから何度も行為を行っているにも関わらず、いまだにシリカとの行為を倒錯的なものにとらえてしまうのは……しかたないのかもしれない。 
 とはいえ、せっかくシリカが勇気を出して俺を元気づけようと頑張ってくれているのだ。俺にはそれに答える義務も、理由もある。 
 
「シリカ……いい?」 
「はい……。あの、まだいろいろ小さくて、その……キリトさんは満足できないかもしれないですけど……」 
「そんなことないさ。十分――」 
 
 大人っぽいよ、といいそうになり、口をつぐむ。よくよく考えれば、女性型アバターの裸体なんて、シリカ以外に見たことがない。 
 これはこれでシリカが傷つきそうなので、やんわりとごまかし、マシュマロのように柔らい腹部を、薄布越しにくすぐる。 
 
「はふっ……んっ、キリトさん、いまなにかごまかしませんでした……?」 
「な、なんでもない……」 
「っ……んっ……嘘……絶対になにか隠してる……。はう……んっ……く、くすぐったい……」 
 
 シリカが瞳を潤ませた。なんだか泣かせてしまったようで罪悪感にかられる。そのまま糾弾を続けられると、あらわすべきでない本音をついつい答えてしまいそうで――俺は顔を近づけ、彼女の唇を奪った。 
 
「んっ――!」 
 
 驚いて身体を緊張させるシリカを誘うように、舌で口腔を刺激してやる。 
 
「ふあっ……んっ……んっ……ちゅ……んっ、んっ……」 
 
 シリカの口内をなめ尽くさんばかりに舌を動かしていると、おずおずと……シリカも舌を絡めてきた。差し出された舌をなめとり、舌を舌で刺激する。 
 
「んちゅっ……んっ、んっ、はうっ……んっ……んっ、ちゅ……」 
 
 ディープキスを続けたまま、腹部においていた手を移動させ、膨らみかけた乳房にあてる。 
 
「んっ……むっ! むふう……!」 
 
 手のひらをたわめて乳房をもみほぐすたび、シリカがんんっ、とくぐもった悲鳴をあげる。 
 乳房を存分にいじりまわして、シリカのかわいい反応を堪能したあと、手を下の方へとおろしていく。ワンピースは、もう何の下着的意味合いをもってなかった。俺の手首にあわせてズレていき、シリカの肌を滑っていく。 
 滑らかな腹部を這ってすすんだ指先に、下着の感覚があった。 
 口をはなし、視線をさげてソコを確認すると……ワンピースと同じ色、かつレースをあしらった下着がシリカの大事なところを守っていた。 
 
「お、大人っぽいな……」 
「は、恥ずかしかったんですけど……久しぶりですし……。よ、よろこんでもらえたら……う、嬉しいです……」 
「……」 
 
 気持ちが嬉しい。 
 白い肌に彩りを添える黒い下着に、なぜだか胸の奥を焚きつけられる。 
 下着の内側へ指を進ませると、すぐに恥丘へと指がかかった。体毛がないが故に、つるりと滑るそこをくすぐる。 
 スリットの頂点へ指がかかりそうになるたび、唇から吐息を漏らすシリカが、潤んだ瞳で見上げる。瞳に浮かんだ期待の色を見て取り、指先で包皮につつまれたクリトリスをはじいた。 
 
「はうっ!」 
 
 シリカは肩にかかった髪を踊らせつつ、かすれた悲鳴をあげた。 
 指の腹をすりつけると、あわせてシリカが身体を踊らせる。 
 さらに指をすすめると、すぐさま湿った感触がした。シリカをキスでぬいとめつつ、入り口あたりをふにふにと刺激してやる。 
  
「あんっ……んっ……そこ、くすぐったいです……」 
「くすぐったい……だけ?」 
 
 もう一度、クリトリスをつついてみる。 
 
「……あっ、んっ……き、気持ちも……いいです……」 
 
 十分に湿ったのを確認して、俺はシリカの足元へと移動した。 
 
「……」 
 
 足先でもじ、とシーツの表面を蹴るシリカ。でも動きはそれだけだった。脚を閉じようともしない。 
 緩いM字に開かれた脚の付け根に残る、黒い下着のクロッチ部は、シリカの愛液で色濃く濡れていた。そのせいか薄布が肌にぴっちりと張り付き、スリットの輪郭があらわになっていた。 
 
「シリカ……ここ、いい?」 
「っ……はい……」 
 
 シリカは泣き出しそうな表情で、手元に開いたウィンドウを操作する。本人以外にウィンドウの表示は見えないが、おそらくは下着の装備解除ボタンを押そうとしてるのだろう。 
 
「い、いきます……」 
 
 ふるえる指先が、ウィンドウへそっとふれた。装備解除で下着の装備が消え去る。ついでに、おなかのまんなかあたりに引っかかっていた、ワンピースも消えた。 
 暗闇に輝かんばかりの肢体が現れた。直前までまとっていた黒の衣装のせいで、体の白が美しかった。 
 脚をすこしでも閉じてしまえば、入り口をぴっちりと閉じてしまうほど小さなそこは、わずかにしめっているようにみえた。 
 
「……濡れてる」 
「はい……だから……どうぞ……」 
 
 ぼうっとした瞳で俺をみつめるシリカに答えるべく、しとどに濡れそぼる秘処へ男性器を押しつけ、入り口を左右に押し広げる。 
 シリカが、わずかに体を逃がしてつぶやいた。 
 
「あっ……はぅ……んっ……入り口……当たってます……」 
 
 狭苦しいそこ亀頭でこじあけつつ、もう一度シリカの頬をなでた。際限なく指がうずまってしまいそうな柔らかな頬の感触を手のひらに味わう。 
 
「いくよ……」 
「は、はい……」 
 
 一声かけると、シリカがうなずきかえした。俺の手に手を重ね、ぎゅっと目をつむる。 
 もう片方の手で最後の照準を行って、思い切り腰をすすめた。 
 
「んっ――!」 
 
 シリカの手が、俺の手の甲を掻いた。すがるものを求めるように握られた彼女の手を握り返し、さらに腰を進める。 
 ぬるっ、と暖かい筒に性器が包まれた。まだ入り口なのにも関わらず、すさまじい締め付けだった。亀頭の平らな部分が、愛液の絡んだ膣襞にくすぐられ、反射的に背筋が震えた。 
 
「ああっ……あ、んっ……キリト……さん、はいってきてます……」 
「ごめん……もう少し、がまんして……」 
「は、はい……がんばります……!」 
 
 荒い吐息をはきながら、気丈に俺を受け入れ続けるシリカを早く楽にしてあげたかった。意を決して、腰を強く進めると、再びずるっ、と包まれる感覚が強くなった。今度は――根本まで性器を埋めるつもりで、性器を押しつけていく。 
 
「んんっ――はうっ!」 
 
 シリカが体をちぢこませた。 
 想像よりも愛液に満ちていた膣道は、狭苦しさに反比例して、ちゃんと奥まで導いてくれた。こつん。終点の感覚がし、とりあえず力を抜く。 
 
「はあ……はあ……はいり……ました……?」 
 
 ブラウンの瞳をめいっぱい開いて、シリカが聞いてきた。俺は、汗のせいで額に張り付く彼女の髪を払ってうなずいた。 
 
「全部はいってるよ。根本まで……いっぱい濡れてたから、思ったより早かったな……」 
「ぬ……濡れてる……なんて……い、いっちゃだめです……そんなこと……キリトさんのエッチ……」 
「そんなのいまさらだと思うけど……」 
 
 なにせ、これ以上ないほど重なってしまっている。 
 さらに言えば、これ以上「えっち」なことはそうそう存在しない……はずだ。性知識については、俺もシリカも疎すぎるほどなので確定はできないが。 
 
「うう……キリトさん……はぅ……」 
 
 逸れそうになった思考を、シリカに戻した。 
 ほんの少しだが、シリカの呼吸が妖しくなっていた。 
 包まれた性器は、狭苦しい膣壁に刺激され、それだけで気持ちがいい。自宅へ帰れる日は、かならずといっていいほど重なっているが、いまだにシリカのここには飽きそうにない。 
 性器の半分くらいをシリカから引き抜いた。体を起こして、愛液で濡れ輝く性器と乱れるスリットを見つめつつ、抜いたときと同じ早さでシリカへ挿入する。 
 何度かそれを繰り返すと、にちにち……という、水音が室内へ響きわたるようになった。 
 
「――んっ、あ……くんっ、やぁ……」 
 
 奥をこづくたびにシリカは小さな体を震わせる。まだまだ丸みを帯びている腹部が内側へへこむたびに、膣道がせばまり、膣壁と密着した性器は、絶え間なく快感を伝えてくる。 
 
「ああっ……んっ、くっ……や、やさしいです……キリトさん……奥のほう……こつん、こつんって……」 
「普段やさしくないみたいじゃないか、それじゃあ……」 
「そ、そんなことないですけど……んっ、んっ……とけちゃいそうです……。なんだかお風呂に入ってるみたい……」 
「お風呂か……それはあとでちゃんとするとして……」 
「はい……。え? あの……お風呂で……するん……ですか……?」 
 
 そんなことされたら、ホントにとけちゃいます……。呟き、顔を真っ赤にするシリカが可愛い。 
 シリカは、それこそ波間で揺れる小舟のように揺れながら――揺らしているのは俺だ――時折かすれた悲鳴をもらした。 
 
「ああっ……んっ、でも……もう……!」 
 
 俺の瞳をのぞき込みながら、シリカはゆっくり首を振る。瞳はすでにとろん、ととろけていた。いまにも落ちそうな涙を見つめつつ、俺は彼女の両足を胸の前にかき抱いた。こうするとより深くつながれる。 
 そのままがつん、と腰を進めた。 
 
「や、やだっ、キリトさぁん――!」 
 
 脚をだきつつ、さらにシリカをゆらしつづける。膣壁と性器の間に愛液がしたたり、ヒダがからみついてくる。引き出すとすぐに閉じてしまう膣道を強引にわり、シリカを貫く。 
 
「くっ――ふぅ、ああああ! んっ、ひっ、ぅぅ――!」 
 
 本能的に腰をひねって逃げようとするシリカの腰を捕まえる。腰が逃げなくなったせいか、シリカの震えが一段と増した。 
 
「ふぁっ! んっ、んぅっ、んっ、くぅ、うぅ! だめぇ――! い、いっちゃうっ! いっちゃうっ! いっちゃう――!」 
 
 小さい体のどこにそんな力があるのか。抑え込む腕を弾き飛ばそうと暴れるシリカ。 
 とたんにいままでなかったくらい強い締め付けがあって、俺は簡単に関を越えてしまった。 
 
「あああっ、あっ――んっ――!」 
 
 足先すら震わせて、シリカが俺の体の下で背をそらす。瑞々しい唇を噛みながら到達するシリカの姿は、視覚的な刺激として十分だった。いつになく狭苦しい秘処が根本から先端まで、ぎゅうぎゅうに締め付ける。 
 
「あああっ、はあっ……ああっ――! おなか、おなかが……とけ……て――っ」 
「あ……ぐう……シリカ――!」 
 
 激しい締め付けにあらがえず、性器の先から粘液が吹き上がる。尿道をのぼった液体がシリカの奥底へ殺到していく。制御不能なほとばしりをシリカにぶつける。 
 ひっ、とシリカが息を吸い込んだ。 
 
「ふあぅ、やっ――だめぇ――!」 
 
 いままでとは比較にならない快感が尿道を走っていく。勢いよく吹き出した液体が、シリカのなかを跳ね回っているのを感じる。同時にびくびくとわななく膣道の感覚もまた、射精を誘う。 
 
「ああ……くっ……ふっ、んっ……!」 
「ああ……だめだ……シリカ――!」 
 
 さらに数回大きく体をふるわせたシリカに、腰を突き立ててそそぎ込む。ただでさえ狭苦しいそこが、ぎゅうっと縮まり、性器の表面を擦る……。なまめかしい気持ちよさに、性器はもう一度、大きくふるえて最後の一滴まで出し尽くそうとする。 
 
「ふああ……っ、ああっ……まだ、まだびくびく、して……暖かいのが……あばれて……」 
 
 膣道をわななかせたまま、シリカが俺の頬へと手を伸ばす。 
 
「ああ……キリトさん……キリト……さん……」 
「シリカ……」 
 
 目の前に白い火花が飛び交うなか、身体を折って甘い呼びかけに答える。その拍子によりふかくつながってしまい、再度シリカが震え上がった。 
 
「くっ……んっ……んっ……!」 
 
 シリカは緩慢に俺の背に腕を回してきた。 
 頭のすぐそばから、甘く……俺の名前を呼ぶシリカの頬にそっと唇をおとす。 
 紅潮した頬は柔らかかった。シリカがいまだおさまらない荒い呼吸の中、呟く。 
 
「はあ……はあ……大好き……キリトさん……」 
 
 間近で視線と視線が絡んだ。潤んだ瞳も、額にはりつく前髪も色っぽい。 
 気がつくと、いつもなら照れで口に出せない文句をつぶやいていた。 
 
「俺も……愛してる……シリカ……」 
 
 俺の言葉に、シリカは華やぐ笑みを浮かべて――しずかに瞳を閉じた。 
 
 
 
 
 
「あの……シリカ?」 
「はい?」 
 
 二の腕に頭をのせていたシリカが俺をみあげた。すこし瞳がとろん、ととけている。もしかしたら眠いのかもしれない。これで本当に獣耳でも生えていたら……ひだまりでウトウト、睡魔と戦う猫そのものだ。 
 安らかな心地のまま、茶色の髪をなで回す。 
 
「んんっ――んっ……なんですか……?」 
「いや、シリカが料理をマスターするまでは死ねないな……って」 
「そ、そんなの……」 
 
 眠たげだった瞳を見開き、シリカが頬を俺の右肩へ乗せて言った。顔と顔が、恋人にしか許されないだろう距離まで縮まる。 
 
「そんなの、いつになるかわかりませんよ。もしかしたら、そのときにはもう……キリトさんがSAOをクリアしているかも……」 
「じゃあ競争だな。攻略が先か、シリカが料理スキルをグランドマスターするのが先か……」 
 
 ブラウンの髪をくしゃくしゃになでまわす。シリカはくすぐったそうに身をよじったあと、俺の耳元でささやく。 
 
「……絶対にクリアまでにマスターして、キリトさんをびっくりさせます……だから、いつもちゃんと、戻ってきてください……。あたしの……ご飯食べて、ください」 
「ああ、俺も頑張る。だから、シリカも……頑張ってくれ」 
「はい……」 
 
 シリカの頭をもう一度抱き寄せて目をつむる。かき抱いたシリカが、安らかな寝息をたてはじめたのを確認して、俺は甘い眠りへと意識を落と――。 
 
「そうだ……大事なこと忘れてた」 
「はい?」 
 
 シリカが顔をあげる。俺は方頬を釣り上げたあと、つぶやいた。 
 
「ストレージに入ってるあれ……あっちも、頑張ってくれよな。期待してるからさ……」 
「――!」 
 
 ぼっ、と頬が赤く染まる。染まるのをみて、俺は瞼を閉じた。なんだか抗議の声が聞こえた気がしたが――応えてやるよりも早く、安らかな眠りへと意識が落ちてしまった。 
 
 

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