2024.11.06 第22階層 
 
 池の主を釣り上げた後、握手を求める野次馬達に囲まれていたアスナがようやく解放されると、お疲れ様、と労いの声をかけながらキリトに迎えた。 
 だるそうにキリトに肩を抱かれていると野次馬の中から一人の青年が二人に向かって歩いてきた。 
 アスナが困惑気味にキリトの背後に隠れると青年が慌てながら口を開いた。 
「ご、ご迷惑をおかけしてすみませんでした!せっかく新婚生活でゆっくり休まれていたのにすみません!」 
 憧れのアイドルであるアスナに迷惑をかけるつもりはなかった、と平謝りの青年に、二人は苦笑しながらいいですよ、と手を振る。 
「ちょうどさっきギルドから連絡が来たんです。どうせ明日からはまた前線に戻りますから」と言うキリトに青年はとんでもない迷惑をかけてしまったとショックを受けたように青ざめていた。 
 せめてもの償いに、と彼が口にしたのは、攻略から戻ったら22階層の代わりにここに似ている別の層でほとぼりが覚めるまで隠れていないか、と言うものだった。 
 第3X層。そこはこの第22階層のようにモンスターが出ない階層ではないが、主街区とフィールドの区別がないためあまり人が出入りしないのだと言う。 
 第3X階層の様子を覚えているかとキリトに尋ねると、前の階層でボス攻略した直後にエギルに武器の修繕を頼み、話し込んでいる間に攻略組に第3X階層が攻略されてしまっていたので覚えていないと言われ苦笑した。 
「その様子じゃ何も心配はないわね」 
 今日のように自分が武器だけいつでも取り出せるようにしていれば問題は起きないだろう。 
 アスナは第56層攻略でパニの町にボスを誘導するかでキリトと揉めた事をふとしたきっかけでいつも思い出してしまう。アスナにとってキリトに限りなくマイナスのイメージを与えたであろうあの出来事は未だに胸のつかえになっていた。今回はあの苦い思い出を払拭するいい機会かも知れない。さすがにまだ第56階層に二人で訪れる気持ちにはならないが、それは今後時を重ねて消していけばいい――。 
 青年がその階層にはある驚く光景が広がってるので足を運ぶべきだと熱弁するのでこれは渡りに船とアスナは愛する夫に甘え声で―この休暇中何度目になるかわからない―おねだりをした。 
 言い出したら聞かないことをわかってるキリトは仕方ないなと苦笑しながら「日が高いうちに足を運ぼうか」と頷く。青年が喜んで二人を案内しますよと言い出したが夫婦水入らずでいたいので、と丁寧に辞退した。 
青年は引き下がらず、それではその階層にある別荘を使ってくださいと言い出したので二人は驚いた。 
 ホームを借りる冒険者はそれなりに多いが遠い階層に別荘を持つ者は多いとは言いがたい。見かけによらずこの青年は一端の冒険者なのかも知れない。だが驚いた様子の二人に青年は、「いえ、実は訳あり物件で…かなり格安で買えたんです。物好きだなって言われましたけど…」と頭をかきながら、行ってみればわかりますけどね、と苦笑いしていた。 
――確かにモンスターが出る階層でフィールドと区別のない物件を買う人はいないか。 
 はじまりの街の様子を思い出して二人は軽く相槌を打った。逆に言えばこの目の前の人物はそれぐらいの事は危険だと思っていないのだろう。 
 もしかしたらそのうち最前線で顔を合わせる事も、と考えながらアスナは「ボス攻略が控えてるのでゆっくりしている余裕はありませんが、そのお気持ちだけ受け取ります」と丁寧に断った。 
 ボス攻略が終わったらそのうちお借りしにいきますねと微笑みながら伝えると青年は背筋を伸ばし敬礼をする。そのままの形で固まってる彼に手を振りながら二人は転移門に向かった。 
 
2024.11.06 第3X階層 
 
「なん…だと…」 
「うわぁ…すごいね!」 
 二人は目の前に広がる光景に思考が追い付けずにいた。目を閉じここはどこだったかもう一度思い直す。 
 アインクラッド内部。第3X階層。巨大な天空に浮かぶ城−のはずだった。二人はもう一度目を開き確かめるがそれは変わらずそこにあった。 
「海だねぇ…」「海だよなぁ」 
 そこには白浜に波打つ音と風に乗り漂う潮の匂いがあった。岬から果てに目を凝らしても水平線が続くばかりだった。 
「キリト君!海だよ海!うわぁ二人で海が見られるなんて!うわぁ素敵!夢みたい!」 
 白浜へ降りる広い道を手を繋ぎ歩弾んでキリトの周りを踊りながら歩くアスナの目にはうっすら涙が浮かんでいた。 
 キリトは何を言っても無駄だなと思いながらも、このデスゲームをクリアするまでは叶わなかったであろう夢がかなった奇跡に感謝した。 
 第22階層で出会った青年に。そして、この世界を創りあげた神に。 
 
 いつの間に入手していたのか―共有化されていたとはいえ衣類のチェックはしていなかった―水着姿になったアスナがくしゃみをするとキリトがそっと肩を抱き庇うように包む。 
 風邪引くぞ、と注意するキリトにアスナは「こんな事じゃバッドステータスになんてならないわよ」と言い返し、さらにへへへと笑いながらどう?と白いビキニの紐を軽くつまんでみせた。 
 キリトは顔を真赤にしながらそのまま「寒いから行こう」と浜風を遮ろうと林の方へ歩きだした。小さな声で「…似合いすぎてびっくりした」と呟きながら。アスナは顔がにやけるのが止まらなかった。 
 素足で砂浜を踏み込んでみるが現実世界のように足の裏に砂は付かなかった。そのことが二人をVR世界に引き戻す。波打ち際で手を入れてみると突き刺す冷たさに手がしびれた。 
 アインクラッドの季節はもう初冬である。二人のHPは自動で回復するので多少海の中に入っても問題はなかったが冬の海にはしゃぐ行動に風情の違和感を覚えたので止めることにした。 
 砂浜の近くの林に入ると地形効果があるのか浜風による寒さは感じなくなった。樹の側でキリトに寄り添いながらアスナはそっと自分を抱くキリトの手に指を這わせる。「あったかい…」 
「そう思うなら服を着ろよ…」とため息をつくキリトにアスナは、「キリト君に見せるために買ったんだからね」と身体を回転させてキリトと向かい合い、どう?と笑みを浮かべながら挑発するように胸を張った。 
 そんなアスナを勢いよく抱き寄せキリトは唇を重ねる。 
(…んくっ…んん…ん…ぁっ) 
 口内を荒々しく犯しながらアスナの背中にゆっくりと手のひらで体温を伝わせる。唇を話すとキリトが我慢出来ないよと囁くと黙ってアスナは頷いた。 
 背中からそのまま下にキリトの指先が移動する。首元にキスをしていたキリトはそのまま鎖骨から胸元を辿り屈めながら谷間に顔を埋め、腰の上付近を抱きかかえたままアスナを彼女の後の樹に背中から寄りかからせる。水着の間から膨らみの頂上にある突起をいじるとキリトの頭上から甘い声が漏れた。 
(…ぁんっ) 
 もう片方の手を背中から離しアスナの片方の足を上げさせると太ももを撫でながら足と水着の隙間から指先を内部に向かわせた。あれから何度も何度も触り形を覚えてしまったアスナの秘部に指先が届く。ビクっと反応したアスナは我慢できずにキリトの唇に貪りついてきた。キリトが指でなぞる度に荒々しく舌を絡ませてくる。 
(っ… ん……っ!ぁっ…んぁんっんっん〜…ぁん…) 
 キリトの人差し指と薬指によって茂みの奥をゆっくりと開かれて無防備な谷底に中指が分け入っていくとアスナの身体が大きく震えた。唇を離すと力が抜けて樹に息も絶え絶えになりながらもたれかかる。何度も抜き差しする度に反応する。そのうち足が震え出しても続けていると腕をキリトの首に回し必死にしがみついた。カクンと力が抜け座り込みそうになったところをその腕にしっかりと止められた。 
「だめ…もうたえられないよ、…早く……。キリト君…ねぇお願い…」 
 後ろを向いて、と囁かれるとアスナは樹に捕まりながら後ろ姿をキリトに向けた。「挿入るよ?」「ん…」 
 ゆっくりと胎内にキリトの熱が侵入してくる。身体の奥底からジンジンと幸福感が広がっていくのがわかりブルブルっと身体が震える。愛される度に感じる抗えない刺激。彼が腰を前後させる度に声があがる。段々と抑えていた声のボリュームがあがっていく。 
 どうして自分はこんなに変わってしまったんだろうか?と思いながらアスナはそんな自分が嫌いではなかった。 
「あっ!あんっ、はぁっくっ…ん、あんっ、あ、あっ!」 
 初めて結ばれた夜からずっと忘れられない多幸感に、はしたないと思い顔を赤らめながらも毎晩彼を求めてしまった。彼が拒絶することはなかった。むしろ何も言わずとも抱き寄せ愛撫してくれた。その優しさにアスナは溺れた。どこに遊びに足を運んでも笑い声をあげても心ここにあらずと夜のことしか考えられなくなった。 
 かつて親友にVRでの性交がどんなものか興味本位で尋ねた事があった。親友が語るには元々諸事情により致せない者に経験させる医療ツールとして導入する計画があったとか。そのため現実世界のそれよりもデジタル信号に変換されダイレクトに五感が伝わるVRでの性交は数倍、十数倍にも増すため試験者が中毒になってしまい、封印されてしまったという。 
 パンドラの箱だとアスナは思った。 
――もう引き返せない。これは麻薬だ――わかっていても逆らえない…。アスナは身を持って知った。そして愛する者に愛される事がどんなに幸せなのかを。 
「あっ!っ、っ、あぁっ!あん!…くっ…はぁん」 
 端から端まで敏感になった全身をあの求めてやまない感覚が覆い始めた事を察し、アスナは顔を呆けさせた。だらしなく開きっぱなしだった口が降参の声を上げた。 
「…ダメっ。い、イっ!…ごめんなさい…。もうイッちゃ…!」 
 絶頂にアスナが両の太ももを痙攣させ背筋を伸ばし、意識を失いそうになるのとほぼ同時にキリトの分身が爆ぜ、膣の中を満たしていった。 
 悲鳴を上げるアスナをキリトは抱えて下腹部をつなげたまま後ろに座り込む。肩で息をしながらキリトは余韻に浸っていると身体をねじって対面するアスナの顔が近づいてきた。 
 そしてそのまま唇を吸う。舌と舌が絡みあい、粘液と粘液が踊り合う。 
 キリトが唇を離し、アスナの片足を持ち上げるとつながった部分を軸に回転せアスナを抱き寄せた。アスナは再び口づけをするとそのまま舌を首筋に向かって伝わせた。 
 ゆっくりと唾液で濡らしながら胸板にたどり着くと笑みを浮かべ頬を寄せ、彼の鼓動を感じた。 
 キリトの胸に手を置き、腰を浮かせてキリトのモノを引き抜かせると中から零れそうになった白濁液を左手で受け止めた。中腰の姿勢のままで右手の指を自らの秘部に忍ばせ奥から精液を掻き出し左掌に落とす。 
 愛しそうに愛の証を見ると「いっぱい出たねぇ…」と囁いて口元に運び、静かにすする。ゴクンと喉を鳴らすと笑みを浮かべながら言った。 
「ねぇ。あのパンにつけたクリームを思い出さない?」 
 もうあれは食えないなと心の中でキリトは呟いた。 
 
「VRでどんなに愛されても子供は出来ないんだよね…」と胸元で呟かれてキリトは妻の顔を覗きこんだ。 
 人によってはいくら性交しても子供を授からない事はメリットになる。アスナは知らなかったがキリトはエギルの店で噂話なっていたことを知っていた。アインクラッド第1階層では春を売る事を商売にするギルドがあり、それは侮れない規模になっていることを。SAOの世界は確かに男性ユーザが多いが元々の分母が大きい為、極小数とは言いがたかった。そして木から落ちる実を待ち金に変えるような世界で彼女らが自らの身体を売り物にするようになるまでにはさほど時間はかからなかった。 
 黙ったままそっとアスナの胸元に輝く宝石を手に取るキリトに、アスナは「そんな世界で娘を授かった私たちは幸せなんだよね…」とキリトの手にそっと自らの掌を添える。 
 そんな彼女を見ながらキリトは、向こうに戻ったらいつかユイの弟か妹を作らないとな、と顔を真赤にしながら言った。 
 ふふ、と満面の笑みを浮かべながら、ただ頷いてアスナは愛する人の首にすがりついた。 
(向こうに戻ってもずっと一緒だよね…) 
 
 再びアスナがキリトのものを愛撫し膨らませ下でくわえ込むのを何度か繰り返し、満足した二人が元来た道を戻り歩く頃にはもう夕方になっていた。 
 ログハウスに戻り今日はゆっくり休もう。前に進む為に十分に英気を養えた。そう互いの顔を見つめあい手を繋いで歩いていると離れた所から人が歩いてくることに気づいた。 
 用心しながらアスナがいつでもランベントライトを出せるように構えていると相手が声をあげ手を振ってくる。その顔は第22階層で会った、この第3X階層を教えてくれた青年のものだった。 
 歩きながら二人がこの階層を教えてくれた事に礼を言うと気に入ってもらえて良かったと喜んでいた。そしてせっかくまた会えたのだから別荘に寄らないかと言ってきた。迷ってると青年はキリトの顔を見ながら、実はツテからレアなワインを手に入れたんですよと囁いてきた。 
 現実世界では飲酒が許される年齢ではないが、キリトはエギルから融通してもらい口にしていた。アスナもまた同じく調味料を大義名分として仕入れ、味見を言い訳としてこっそりと味わっていたので、青年が口にしたワインの名前を聞いた時には「まぁ遅くなる前に帰ればいいか」と二人の意志は簡単に折れていた。 
 青年に別荘まで案内され、踏み入れた先を見るとリビングにノッキングチェアが一脚、円形のテーブルの周りに木製の椅子が数脚。奥に向かってソファー。そしてその先には場違いにも見えるキングサイズのベッドが鎮座していた。青年は立ち止まる二人に「実は中のいいパーティで購入したんですよ」と説明する。迷宮の中で面白くない事があったり休みたくなった時にここを尋ねるのだと。仲間の中には女性もいて、カップルが休憩に使ったりもするんだと言った。 
 少しは羽を休めたくなる時もある――その事をすでに知ってしまった二人は、ただ何も言わずに頷く。 
 青年がテーブルの周りに椅子を並べ二人を促す。用心する癖は抜けず二人は入り口側の椅子に並んで座った。苦笑いしながら青年は「今、酒とツマミを持ってきます」とダイニングらしい部屋に向かった。 
 青年が席を外した間にキリトが気配を探るが彼の索敵能力に青年の他には何もかからなかった。その事を伝えられるとアスナは「悪い癖よね」と苦笑いしてた。 
 戻ってくると青年は用意した三つのグラスにワインを注ぎ、二人の手前と自分が座る椅子の前に置いた。「この階層で採れた珍しい食材ですよ」と中央に皿を置き椅子に腰掛ける。もっと食材があるんですが先に乾杯しましょうと言われて三人でワインを口に含む。もちろん先に青年が口にするのを見届けてから。 
「わぁ美味しい!こんなの初めて飲んだよ!キリト君!」 
 ワインを飲んでアスナが声をあげる。第74層でのS級食材以レア食材にありつけていなかったのでキリトはちびりちびりと慎重に口にしていた。ワインの味はわからないが上質のものだろうと言うのはわかった。 
 そんな二人の様子を見て笑いながら、青年は実はもっと珍しいお酒もあるんですよ、今お持ちします、と立ち上がってダイニングに向かった。しばらくするとダイニングの方から「キリトさん、その皿の料理もおすすめですよ。あの海で釣り上げた魚を使った料理なんです。お先にどうぞ!」と聞こえてきた。 
 二人分の受け皿にアスナが取り寄せて片方をキリトの前に置く。青年が戻り、二人の間から小皿に盛られた料理を置いた。目を輝かせるキリトの姿に笑い、腰を下ろし食べようとした時、背後から腕を取られ椅子越しに後ろ手に押さえつけられてしまった。 
(な、何?彼のカーソルは緑色だったわよ!?誰か潜んでいたの!?) 
 椅子に座ったまま押さえつけられた為、後ろに誰がいるのかはわからなかったがキリトが黙っている訳がない。そう思って隣を見るとキリトは椅子にもたれかかったままの姿でいた。口元が動く。に、げ、ろ、と。ひと目で彼が動けない原因はわかった。(――麻痺!)そして今食べた食材に含まれていた事にやっと気づいた。 
 離しなさい!と怒鳴るアスナに背後の人間は何も答えない。そしてアスナは自分の索敵範囲にいくつか反応があることに気づいた。明らかに罠だった。 
 背後の人間はアスナが歯ぎしりをすると笑い出した。その声の主はやはりあの青年だった。そして彼は続ける。 
「ぎゃーっはっはっは。ホントに攻略組のトッププレイヤー様かよ、あんたら!自信過剰じゃねーの?ひっかかるかね普通!ギャハハハ!」 
 嘲笑にアスナは顔をしかめる。早く彼の麻痺を解除しないと、と焦るが両手をがっちりと固定されていてメニュー操作が出来ない。 
 沈黙するメニューにアスナはおかしいことに気づいた。なぜハラスメント警告が出ないのだ、と。これほど触っていれば警告が出るはずなのに。 
 笑い終えると彼は言った。 
「22階層でお前らが結婚したって知った時は小躍りしたよ!今時そんな馬鹿がいるのかってよ。世間しってりゃ隠すぜ?お前の正体知った後、ファンを装って触りまくった時、確信したよ、俺は」 
 訝しんでいるアスナに彼はこれ以上ない邪悪な笑みを浮かべて続けた。 
「おめえ、倫理コード解除設定の再設定してねぇだろ?」 
 
 青年の言った言葉の意味に気づきアスナは青ざめた。背筋を冷たい汗が流れ、身体が震え出す。 
「倫理コード解除設定は接触に関する設定の中で最も優先される項目だ。その設定が解除されたままってのは、だ。つまり、お前の身体は触られ放題って訳よ。アンダスタン?」 
 受け手の判断に委ねられるハラスメント警告と異なり、強制される倫理コードの解除設定はもっともユーザーの手の届きにくい場所に表示される。 
 それはアインクラッドに住むすべての者の身を守るためにあった。 
「再設定されてりゃハラスメント警告も元通りで結婚相手しか触れなくなる。だから普通は再設定しなおすか、結婚そのものを伏せるんだよ」 
 と男が続けたその時、入り口のドアが開いた。入ってきた男の姿にアスナは目を見開いた。 
「…ラ、ラフィン・コフィン(笑う棺桶)!」 
 見た覚えのあるフードを被った男二人と他に数名、男が上がり込んできた。フードを被った男にアスナは今まで会ったことはないが知っている。そのうちの一人は間違いなく犯罪者ギルドのボス、PoHに違いなかった。 
「愛欲に溺れるうちにトッププレイヤーの座からも堕ちてしまったようだなぁ、血盟騎士団副団長さん。そして黒の剣士さんよ」 
 アスナが睨むのも意に介さず続けた。 
「ずっと最前線で戦ってきたんだ。実に魅惑的だったろう?快楽に、欲望に身をまかせるのは。とうとう我々の仲間入りだ。――おめでとう!」 
 PoHの拍手に周囲の男達が大きな笑い声をあげる。 
 歓迎するよアスナ君、と言いながらPoHはアスナの首筋に手を触れ、下顎をくいっと持ち上げた。アスナがつばを吐きかけようとする前に手を放し後ろの男に合図すると乱暴にアスナの両腕が引き上げられ、その拍子に椅子が背後に転がった。そして小刀を取り出すとキリトの首元に添えて言い放つ。 
「愛する人を守りたければおとなしくしていることだな」 
 部下の一人がフードを被った男からナイフを預かるとキリトの背後に立った。そして本性を表した青年におとなしくなったアスナを腕を上げさせ押さえたままベッドの前に連れさせると、PoHはベッドの上に腰掛けた。あっちを向かせろと合図をすると男はアスナをキリトの方に向かせPoHの間に立つ。アスナが不思議に思っているとPoHが言った。装備を全て外せ、と。 
 近くにいたもう一人の部下が側に寄りアスナの指を無理矢理動かし装備の設定を解除していく。 
 一糸まとわぬアスナの裸体を見て男どもが奇声をあげた。 
(いやっ!) 
 目を伏せ羞恥心で真っ赤に染まる。両腕とも二人の男に抑えられて動かせない。胸も下腹部も隠せずアスナはただ内股にするしかなかった。 
 不意に背中に冷たい指で触れられてアスナは飛び上がりそうになった。 
「や、やめてっ……っ!! っひゃんっ」 
 背中から尻に指が降り、そのまま割れ目から前に進むとそのままクレバスに勢いよく指先が沈む。 
「色っぽい声出すじゃねぇか」と囁きながらPoHは乱暴に指を動かした。 
 愛撫とは言えない、蹂躙といっていい指先の動きにアスナは身を捩らせる。 
「倫理コードを再設定し忘れるぐらい毎日毎日セックスに明け暮れたんだろう?どれぐらい開発されたかね?実は隠れステータスでな。回数を重ねるごとに感度がよくなる。よく出来てると思わないか。――まるで現実(ほんもの)の身体のように」 
 うううとアスナは顔をしかめる。目尻から涙が零れ出していた。 
「自分がどれだけ成長したか愛する夫に披露してみたいと思わねぇか?」と言うとPoHは自分の装備を全て外す。 
 そこには黒光りした男性器がヘソまで反り返っていた。 
 横目にそれを見下ろすとアスナは絶望に顔を歪める。 
「うそでしょ…無理無理無理無理!そんなの入らないわ!無理止めて!壊れちゃう!赤ちゃん産めなくなっちゃう!お願いだから止めて止めて止めて止めて止めてやめてェ!」 
 PoHは入り口にあてがうと「大丈夫だ。ここじゃ元々ガキは産めねぇ。壊れてもヒールで治るさぁ!」と言い放つとアスナの腰骨を両側から押さえ、己の武器に向けて一気に落とした。 
「か、はっ!」衝撃にアスナは意識を飛ばされ絶句する。離れたところから掠れ声で叫ぶキリトの声はもう彼女には聞こえていなかった。 
 痙攣しているアスナに「ほう?馴染みやすそうじゃねぇか」と言いPoHはさらに腰を跳ね上げる。その度にアスナは息が出来なくなるが咳き込む猶予も与えてもらえずただ翻弄されるままでいた。 
 何度も乱暴に一番奥が叩き上げられその度にアスナはひぐぅ!と悲鳴を上げる。だがPoHのものの先が子宮の入り口に届いても尺にはまだ余裕があった。空いた両手でアスナの豊満な胸を握りながら先端を転がして遊ぶPoHはふと悪戯を思いつき腰の動きを止めた。 
 息も絶え絶えになりながらもアスナは意識を取り戻し怪訝な顔をする。 
 両の腕でアスナの太ももを抱え上げると目の前で顔を歪めさせ殺気立たせたキリトに聞こえるようにPoHは言った。 
「いいとこの令嬢かと思ったら随分使い込まれてるじゃねぇか?なぁ。突っ込むたびにキュンキュン鳴ってるぜ?これが本性だってのは毎晩相手してたお前は知ってたよなぁ!ハハハハ」 
 顔を背けようとするも麻痺で動けないキリトは目を閉じるしかなかった。そんな彼に容赦なくPoHの言葉が続く。 
「見ろよ何分も経ってねぇのにもう子宮が下がってきてるぜ?俺様の種を受け入れる気満々だ。あんた好きもの過ぎだよ、ハハハ」 
 青ざめて何度も首を振り違う違うと否定するアスナに、「ほら見ろよくわえ込んでる下の口をよっ。子宮が下がり切って俺のものが全部入り切らねぇぜ?」 
 PoHがアスナの首を後ろから前に突き出させ下腹部を覗かせた。恥丘の陰で侵入した男性器を見ることは出来ないが身体の一番奥まで感じるこの男の熱源に自分のある感覚が伴ってきているには気づいていた。――実際にはこの男の性器が人並みはずれた大きさを誇っているだけで最初なら入り切りはしなかったのだが。 
「…うそよ…うそよ…うそよ…うそよ…」 
 か細い声で呟くアスナに満足すると再びPoHは腰の動きを再開し加速させていく。いやいやと首を振るアスナから大粒の涙が溢れ止まらない。ここまで耐えていたのに、せまるてつもない不安に押しつぶされそうだった。愛する夫に包まれてきた大切な思い出。愛されているという実感。それと近いものが身体の奥底からじわじわと広がっていくのが解ってしまった。これを受け入れてはいけないと本能が警告するのだが、下半身の疼きと広がる痺れに抗えない。必死に堪えてきた防壁がもう耐えられそうにない。ここにきてアスナの口からはこれまでけして出てこなかった言葉が漏れ出した。 
「…た………けて……けて…たす…けて…キリトく…ん……たすけ…て… 」 
 永遠にも思えるほど時間が経ってるよう感じるのにキリトの麻痺は切れそうになかった。キリトは震えて唇を噛みしめるしか手だてがなかった。 
 
 アスナの絶頂が近いことに気づいたPoHがグラインドを、アスナの腰を動かす手を、荒々しく加速させた。膣の入り口から子宮口まで一気にえぐる。引き戻す度に襞と言う襞がせり出した堅い首の段差に削られる。無防備に口を開けた奥底をこじ開けようと叩く力が増していく。そして悲しい叫び声と共にアスナが果てた。 
 もうその両腕に男の手を振りほどく力が戻る事はなかった。 
 PoHは部下に命令し両腕を釣り上げさせると全身から力が抜け落ちたアスナからまだ衰えない男根を抜いた。ニヤニヤ笑みを浮かべながら後ろから、これまでとはまったく違う優しげな手つきでそっとアスナの胸を愛撫する。 
 高レベルプレイヤーが持つその耐久力と精神力によってかアスナの精神が平静を―ホンの少しづつではあるが―取り戻し、意識が戻りはじめた。 
 目を開けるとそこには麻痺したまま、号泣しながら自分を見るキリトの姿があった。 
(見られたっ…! 彼に、キリト君に見られた!他の人にいかされるところを見られちゃった…こんなの、こんなのってないよっ!) 
 打ちひしがれる二人を見てPoHはさらに追い打ちをかけるように言った。 
「まだ終わりじゃないんだぜ?勝手にお前だけ幸せになられちゃよ。こっちも気持ちよくならせてくれないと、なぁっ!」 
そして巨大な分身をアスナの秘部にあてがい、今度はゆっくりとそして更に深々と差していった。指先で秘部の入り口を開きながらしっかりとキリトに結合部分を見せつけて。 
「ヒグッ!」 
 アスナが下腹部に異物感を感じ出すと、再び全身を覆う感覚が蘇ってきた。 
「…っ!イヤァ!イヤァ!こんなのイヤァだぁ!」 
 ブンブンと首を振り回すアスナに構わずPoHの突き上げが加速していく。 
「イヤァイヤァ…イきたくない…イきたくない…こんなのいらない!どうして!?どうして!?イきたくないよぉ!…」 
 ほら旦那が観てる前でいっちまいな、と囁かれアスナは目の前で自分の痴態を目にしているだろうキリトを恐る恐る見た。 
「動けぇ動けぇ動いてくれ!なんで動かないんだよ動け動け動け動いてくれ動いてくれ」と細い声で言い続けていた。 
(そうだよ。彼の麻痺が解ければ必ず助けてくれる。武器がなくても彼ならば。それまで耐えるんだ。イったりしない。負けるもんか…) 
 そんな意志を込め歯を食いしばるアスナに容赦なく再び絶頂が襲いかかった。 
「こんなの…こんなのない…うそだぁ…なんでイっちゃうのぉ…ぅぅぅ…嫌だよぉ…返してよ……」 
 弛緩し再び意識が戻ったアスナは自分の言うことを聞かなくなってしまった自分の身体を呪った。 
「うぉぉぉぉぉぉ!」とキリトの咆哮を聞きアスナは彼の姿を見た。だが無情にも麻痺が解けた様子はなかった。 
「…何故だ…もう麻痺が解けても…」 
 理解できない様子の彼の首もとにナイフを突きつけていたフードを被った男が口を開く。 
「お前らに用意した毒は特別製でよぉ。麻痺そのものは仕様は変わらないんだけどよぉ。解毒しない限り、麻痺中に攻撃を受けると麻痺の開始時間が初期化されるんだ。つまり…こうしてナイフでつつくと…また最初から麻痺が続くんだよぉ?ははははは!便利だろぉ?」 
 その言葉にもはや二人は何も言えなかった。 
 
 周囲の男達の嘲笑が響く中、凍っていたアスナの時間を動かしたのは自分の艶声だった。 
 再びPoHが動き出していた。全く遠慮がなくなったPoHの加速にアスナは何度も連続で達した。全身を痙攣させるアスナに構わずPoHのものが蹂躙する。 
「お前だけ気持ち良くなるのも悪いからな。そろそろ俺も終わらせてもらうぜ。ちゃんと漏らさず受け止めろよっ」 
終わる?という言葉に反応するが、すぐにその言葉の意味に気付きアスナは失った力を取り戻して暴れたが、きつく握られ斜め上方に釣り上げられた両腕はびくともしなかった。 
「それっ、一緒にイケっ」と言うPoHの言葉に従順に、快楽の刺激が覆い尽くしていく。拒絶したい心を身体は裏切り、全てを受け入れなりそうになる。 
 絶頂を迎えようとしたその時、子宮口に押し付けられた黒い亀頭から大量に熱がほとばしり、一番奥に隠れた大切な部屋に余さずそそぎ込まれていった。 
 PoHのそれが引き抜かれると子宮に入りきらず膣から溢れ出した白濁液が床に落ち青白いエフェクトと共に四散したが、アスナの胎内に残ったそれはいつまでも変わらずドロリとした形を保ったままだった。 
 PoHがぐったりしたアスナの身体をどかして乱暴にベッドに横たわらせる。 
 その両腕は戒められたままで彼女は脚をベッドにあげて身体を丸め泣きじゃくった。ヒクヒクと動く下腹部から精液が滴り落ち太ももを伝っていった。 
「……うう…汚されちゃった……汚されちゃった……キリト君の…キリト君の前で汚されちゃった……汚されちゃったよ…ひどいよ…」 
不意に周りに気配を感じると複数の男が大泣きするアスナを見下ろしていた。恐怖に顔を歪めるアスナの股を強引に開き、覆い被さっていった。悲鳴をあげようとする口を男の唇が雑に塞ぐ。アスナの全身を複数の掌や舌が犯していく中、終わりを告げる声がした。 
「まだまだこれからが本番だぜ?夜は長いんだ。思う存分楽しんでくれたまえ。――イッツ、ショォウタァイム!」 
 
 
2024.11.07 第3X階層 
 
「ほらよっ全部受け止めろよッ」 
 男が自分自身を引き抜きアスナの顔面に浴びせつける。まぶたの上を覆い、鼻の中に入り込み、唇と舌にかかる。その味をもう彼女は覚えてしまった。もう彼女の身体で生臭い液体がかかっていない所はなかった。穴と言う穴を全て犯され奥まで男達の体液が染み込んでいっていた。その小さく痙攣する身体にはもう抵抗する様子はなかったがそれでも彼女の両腕は束縛されたままだった。違ったのは腕を押さえる人間は何度も何度も代わっていったことだけだった。 
 アスナは投げ出された身体をそのままにして大きく息をし目をつむったまま呼吸を整える。男達の接触が少なくなると自然と回復していく自分の身体が恨めしかった。たとえ回復してもまた男に犯されるのが分かっていたから。 
――いっそ本当に壊れてしまえば楽になるのに。 
 しかし彼女の高ステータスがそれを許さなかった。 
 男が果てたのに次の男が被さってくる気配がなくてアスナは薄く目を開けた。 
 ロッキングチェアにPoHが煙草をふかしながら座っている。テーブルの方には椅子にフードの男が腰掛けてテーブルの上の食材をつまんでいた。 
 キリトの姿は部屋の中にはなかった。その事にアスナは少しだけホッとした。彼の知らない処まで犯された―そして何度も果てた―姿を見ただろう彼の顔を正面から見る自信はなかった。 
 窓から光が入り込んでいた。もう昼を回っているだろうか? 
 いつになったら解放されるんだろう、と目尻に涙を滲ませまぶたを閉じようとした時、入り口のドアが開いた。 
「まだやってたんすか?もう昼っすよ。皆二桁やってんのにまだ俺五回しかやってねぇし。こいつの手抑えるの代わってくださいよ」 
 アスナをどん底に落とす元凶になったあの青年だった。 
「しゃーねーだろぉ。筋力強い奴じゃねーとこいつ抑えられねーんだからよぉ」とナイフ使いが相手をする。 
 アスナの側に座った青年にPoHが「どうだった?」と聞いた。 
「へい。予定通りボス攻略に向かったみたいですね。探すかどうかはまだなんとも」 
 自分達が参加するはずだった第75階層のボス攻略の様子を探ってきたのだとアスナは知って起き上がる。 
「ねぇ…もういいでしょ?前線に戻してよ。私達がいなかったらそれだけ現実世界に帰るのが遅くなるのよ…?」 
 訴えるアスナにフードの男が「まだ解放されると思ってたのかよぉ」と笑ってダメだと言った。 
「私はいいからキリト君だけでも解放して。どこに連れて行ったの?団長と互角の彼がいないとクリア出来ないわ!…それに団長は私達が必ず戻ってくると思ってる。連れ戻すために必ず連絡をよこすはずよ」 
 彼女の説得に男達は一瞬ポカンとしたが再びニヤニヤ笑い続けるだけだった。PoHがため息をついて言う。 
「メニューを開けないから気づかなかったか。トッププレイヤーなら気づいていた欲しかったがなぁ…。ここは主街区とフィールドが一体化した所だ。つまりダンジョンと同じでメッセージは届かないし送れない。直接ここまでこないと人が住んでいるのかも分からん」 
 攻略組がこんな初期の階層まで虱潰しに探しに来ると思うか?と続く言葉にアスナは返事が出来なかった。 
 そしてフードの男がいった。「おめぇ気づいてなかったのかよ」と。訝しむアスナに続ける。 
「いくら俺達のテクに満足げにヨガってもよぉ。自分で股を開いて欲しがって一晩中何本も咥えまくっても、さすがにダンナまで忘れちゃダメじゃねぇ?」 
 どんだけ好きなんだよ、とあたりを失笑が包みこむ。 
 アスナは昨夜の途中から何も考えられなかった事に気付いた。覚えのない言動も否定できず顔を赤らめた。 
 休憩は終わりだよ、と青年が自分のものをアスナの目の前にさらけ出し咥えろと命令する。 
 アスナは諦めの溜め息をつき、やむなく彼のモノを咥えてくびれの周りに舌を這わせた。両手を掴んだままの二人の男達がアスナの手を自分の分身に添えさせる。諦めてアスナはそれを握った。喉まで届きそうになってむせかけるが唇と口内全体で竿をしごきあげると青年は膨張したそれを抜き、アスナを四つん這いにひっくり返して尻を上げさせた。 
 青年は指先でアスナの秘部を広げるとアスナの唾液で濡れたそれをねじり込み、アスナの口から桃色の吐息が漏れると笑みを浮かべた。 
 そんな様子を見て思い出したかのようにフードの男がアスナに向けて言った。 
「そうそう。全然覚えてないみたいだけどさぁ。あんたがずっと放置していたあんたの旦那さん。あんたが早々と陥落して俺達につっこまれて大声で喜んでるうちにサクッと殺しちゃったからねぇ?」 
 俺達のギルドを壊滅させた恨みもあるしねぇ。スカッとしたよぉとナイフをくるくると回しながら続ける言葉をアスナは理解出来なかった。 
――殺しちゃった?誰を?――陥落されて喜んだ?誰が?――求めた?何を? 
 フレンドリストを開こうにも抑えつけられて手が動かない。必死に指先を動かしてメニューを出そうとするも震えてままならない。 
(うそだ。そんなはずない。必ず向こうに自分を帰すって約束してくれたんだ。必ず最後まで傍にいるって約束したんだ。君は必ず私が守るって…) 
 PoHがお前等でフレンドメニューを開けてやれと指示した。自分の亀頭を握らせていた男がアスナの手を動かしメニューを表示させる。階層をたどりフレンド一覧を表示させる。 
 そこに愛しい彼の名前はなかった。 
 しばらく呆けたままでいたアスナはようやくその事が意味することに気がついた。もう彼がこの世界から消えてしまった事を。 
 知ってしまった。もう彼と共に向こうの世界に戻ることも、向こうで彼の隣を歩むことも叶わなくなってしまったこの現実を。全てを失った事を。 
 魂が砕かれ、絶叫あげるアスナにうるせえよ、とフードの男が頭を掴み、シーツに抑えつけた。 
 わぁわぁとタガがはずれたようにアスナは泣きじゃくった。背後から青年が突き上げてもお構いなしに泣いた。 
 うるせえ!と目の前の男がアスナの口に分身を突っ込んで両頬を抑える。ううううううううとそれでも彼女の嘆きは止まらなかった。 
 呆れた顔で後ろで青年が腰を動かしながら言った。 
「すぐ忘れるさ。俺達が忘れさせてやるよ。昨晩みたいにあっと言う間だよ。時間はたっぷりあるんだから。ああ、そうだあの22階層のログハウスで乱交しようよ。他にもたくさん呼んで。ニシダさんも呼んだら面白いな。喜ぶぞー」  
 プツンと何が彼女の中で切れた。 
(もうどうでもいい…) 
 その後はもうされるがままになっていた。 
 
 何の反応もなく虚ろな顔で男に抱かれているアスナの姿を見て「ふん、堕ちた」かとPoHは呟いた。 
 このギルドに対してアインクラッドの他のプレイヤー達は「何を考えてるんだ、遊びじゃないんだ。人が死ぬんだ止めろ」と非難する。だが、本気で考えていないのは果たしてどちらだろうか?とPoHは考える。この世界と現実世界。両者を分けて考えるから甘い言葉が出るのだ。ゲームの中だから何をしてもいいのか、と。違う。ゲーム中ではない。本質的にはどこでだろうと人間は何をしてもいいのだ。とそうPoHは思っていた。 
 人間が本来の姿で解き放たれるべき世界。その先をPoHは欲しただけだった。 
 リアリティを心のどこかで感じていないからこそ、行動に枷をつける。自分自身の限界を決める。滑稽だろう。――この何でもありのアインクラッドの世界で。 
 人間には無限の可能性がある。すべてをさらけ出し、この世界(舞台)を観よ!! 
 三人の男に身体を突き上げられても喘ぎ声の一つもあげなくなった目の前の女を見て彼は苦笑を浮かべる。 
(お楽しみはこれからなのにお前はもう脱落するのか?攻略組の『閃光』よ) 
 
「結局この女どうするんで?ヘッド。客取らせんすか?」 
 アスナを犯し終え満足気なが窓の外を眺めるPoHに聞いた。 
 別の男が「血盟騎士団の頭をおびき寄せる餌に使えないか?」と聞き返すと、PoHが駄目だと釘を差した。 
「あの男は異常だ。手を出すな。それにあの男には俺達の代わりに最上階をクリアして貰わねば困る。奴一人でたどり着けるだろうから他の攻略組は狩っても構わんがな」 
 チラリとアスナの様子を見るが、攻略組を刈る、と言う言葉に何の反応もなかった。 
(壊れたな。まったく、守るものがある人間は弱く脆いもんだ) 
 一人とまた一人とアスナの中に精を放ち、犯し終えた男が立ち上がりテーブルの上に置かれた食材を手に取る。 
 青年が運んだこの食材は回復アイテムであり、精力剤でもあった。 
 そのうちアスナの両手を持って後ろから一心不乱に突いていた最後の男がようやく果てた。白い背中をたっぷりの精液で汚していった。アスナが倒れ込むと男もそのまま座り込んだ。 開かれた性器と尻の穴から精液を垂れ流したままで横たわっていたアスナはそのうち動かなくなった。 
 
「まずは最前線のボス攻略がどうなってるのか探りにいかせる。そして――」 
 その時PoHはベッドに座り込んでいた部下がアスナから離れて目の前で食材を頬張っている事に気づいた。部下のいなくなったベッドに目をやると女の手元にランベントライトが現れていた。 
(まずい!あれの相手が出来るのは俺とジョニーだけだ!) 
 PoHとフードの男、ジョニーブラックが得物を構え、一呼吸遅れて部下の男達が抑えようと向かっていく中。 
 アスナはランベントライトを自分の左胸に突き刺した。 
 貫いたランベントライトがアスナの命を吸っていく。ライフゲージがレッドゾーンに達し点滅し死亡を意味する文字列が浮かぶが、アスナの他にそれが分かる人間はいなかった。 
 男達が唖然と立ち尽くしている中、アスナは涙で顔を濡らしながら笑みを浮かべ四散する。 
 愛する男を追って。この世界から消えた。 
 馬鹿じゃねぇのか、と誰ともなく呟かれる。ゲームなのによ、と言う言葉にPoHは苦笑する。 
(なるほどな。この世界を本当の世界として感じ、生きていたのは俺だけじゃなかったか。まぁあの世で二人慰め合ってろ――俺達が甘いお前らの代わりに戻ってやる) 
 
 
2024.11.07 第75階層 
 
 その頃アインクラッド第75階層のボスエリアでは、主力の二人が欠けた事により戦線が崩壊していた。 
 一撃で致死ダメージを与える鎌を防げる者がヒースクリフただ一人ではなす術がなかったためだ。 
 数少ない攻撃ポジションのクラインが致命傷を与えボスが消滅する頃には生存者の数は一桁になっていた。 
 不甲斐ない結果にヒースクリフは溜め息をつくと、残った者達に正体を明かし、最上階に消えていった。 
 最強の盾でもあった精神的支柱を失った攻略組は続く第76階層のフィールドエリアすら攻略できずにいた。 
 追い詰められた彼らには、結婚して最前線から引退した黒の剣士と元血盟騎士団副団長にすがるしかなく、残った全員でダンジョンの中を隈無く探した。 
 だが二人を見つける事は出来なかった。 
 第1階層の生命の碑に刻まれた死亡者の名前の中に二人の名前を見つけたのはクラインだった。 
 クラインはその場に座り込み号泣した。 
 一日中泣き尽くし、涙が枯れ果てると彼は決意を秘め最前線に戻っていった。 
 
 その後、アインクラッド最上階にたどり着いた者はただの一人もいなかった。 
 
SWORD ART ONLINE  
-GAME OVER- 
 
 
It's SHOWTIME [完] 
 
 
 
 
 
 
 
 
おまけのぶち壊しSS 
 
 
 全天燃えるような夕焼けだった。 
 気づくとアスナは不思議な場所にいた。どこまでも続くような真っ赤な夕焼けの中、何もない天空の円盤に風が吹いていく。 
 風に踊る髪を押さえて円盤の縁まで歩く。足元にはアインクラッドの天空城が浮かんでいた。 
 自分の身体を確かめると薄く透き通っていた。命が失われた事を知った。 
 後悔はない。あのまま生き恥をさらすなんて自分が許せない。何より彼がいない世界で生きる気もなかった。ただ、彼に謝れなかった事だけが気がかりだった。 
「アスナ…」 
 背後から声がした。振り返ろうとして身体が止まる。今すぐ声の主を確かめたい。 
 なのに自分を見る目が怖かった。拒絶されるのが怖かった。それでも心の欲求には逆らえなかった。 
(今の声が幻じゃありませんように…) 
 振り返るといつもの彼が優しく微笑みながら立っていた。アスナは目尻に涙を浮かべ、苦笑いして言った。 
「ごめんなさい…。私も死んじゃったわ」 
「バカだな…」 
 彼は一言だけいってアスナを抱いた。 
 長い長い抱擁と、長い長いキスの後、静かに「ごめんなさい」とつぶやくアスナにううん、と首を振るキリト。 
 二度と逢えないと思っていた彼に抱かれ、――もうこれでいい。アスナはそう思った。 
 満足したかのような表情のアスナを見てキリトは静かに彼女を座らせ、そして押し倒した。 
 訝しげにキリトの顔を見て目を逸らす。 
「ダメよ…汚いから…」 
「いや汚くない。汚くないよ。綺麗だよ。あのアインクラッドよりも、この風景よりもずっと」 
「…お願い。消し去って。忘れさせて…。私達の命が消えるまでの短い間でいいから…」 
 ああ、と頷いてキリトは彼女の身体を余すところなく舌で愛撫し下半身に手を伸ばしていく。 
 下半身を結合させるとキリトは一心不乱に腰を打ち付けた。アスナも彼に必死に抱きつき、その温もりを忘れぬよう必死に刻み付ける。 
 そうして荒れ狂い二人が身も心も一体になり絶頂を迎えかけたその時、不意に傍らに人の気配がした。 
 男は情事の様子を舐めるように見ながらこう言った。 
 
「なかなかに絶景だな」 
 
It's SHOWTIME 
- TRUE(?) END-

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