髪の長い制服姿の少女が道を歩いている  
紺のブレザーの腰元はきゅっとすぼみ、胸元は三角になるような感じで飛び出ている  
名を直葉。キリトの妹だ  
「お嬢さん、この薬はいらないかね」  
須郷は足を止め、声がした方に視線をやった  
紺の布で覆われた机の上に置いてあるのは透明な液体が入った瓶  
便の奥には人がいる  
前身はフードで覆われ、顔をうかがい知ることができない  
「いらないわ」  
「そうか…これを飲ませれば恋とやらもかなうんだがな…」  
フードの男は眉ひとつ動かさず、瓶をつかみ、地面に置いてある鞄にいれようとする  
(恋もかなう…もしかしたら…)  
キリトの顔が浮かんだ  
これを飲ませれば  
「く、ください」  
カバンに入れようとしていた男の手が止まった  
「よく聞こえないんだが、なんて言ったのかね」  
「そ、その瓶をください!」  
少女の後ろを歩いている群衆が少女のほうを一斉に見た  
「お題はいらないよ」  
フードの男は瓶を置いた  
少女は瓶をつかみ、駆け出して行った  
頬は赤く赤く染まり、口からは白い吐息が漏れている  
 
「これでアスナは俺のものだ」  
少女がいなくなったところでフードの男はにやりと口角を歪ませた  
 
金の髪に白の胸当ての少女が籠中のベットで座っている  
金の髪に緑のローブをまとった男が籠のカギを開けた  
少女が一方後ろに後ずさり、視線を向ける  
その視線は氷のように冷たく鋭い  
男はそれを察し、足を止める  
「別にどうこうする気はない」  
男は笑みを浮かべ、透明な球を置き去って行った  
 
籠の外で小鳥が鳴いている  
雲は流れ、髪が風でなびいている  
白いシーツの上にシミが広がり、嗚咽の声が籠の隙間から漏れる  
水晶玉に映し出されているのは黒短髪と黒の長髪の絡み合い  
手と手は絡み合い、口と口の間に遮るものはもう存在しない  
黒の長髪の胸が上下左右に揺れ、「キリト、キリト」とうわごとのように叫んでいる  
キリトは白の胸当てを身にまとった少女のことという存在を忘れ去っているのはもう明らかだった  
 
 

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