気がつくと少女は絵画の前にいた。
何処までも続く廊下にその絵画はかかっていた。
絵が動いている。絵の内では鎖で繋がれた男が数人のゴロツキに暴行を受けていた。古代王国では一定の動きをする魔法絵画があったらしいが、それは違った。
暴行を受けているのは死んだ少女の父親だったからだ!
やがて暴行に飽きるとチンピラどもは幼女を連れてくると――――裸にし強姦しはじめた。
(な、何?これ・・・・)
少女の忘れたい記憶の中に同じ光景があった。絵画はそれを正確になぞっている。
赤黒い股間の兇器が幼女の秘所をえぐった。幼い陰唇は裂けまくり痛々しい流血が痛々しい。別のチンピラは股間の兇器を幼女に握らせしごかせる。口を犯さないのは叫び声を楽しむためか、あぶれた一人が自らを握り励んでいた。
(痛いよ! お父さん、助けて・・・・助けて!)
幼女の悲鳴とゴロツキの卑下た笑い、そして父親の叫びが不協和音を奏でた。
どれくらい経ったろうか。狂気の宴は10分とも1時間とも思えた。幼女は精液まみれれにされ股間から流れる血が痛々しかった。それでも父親にすがりつこうとする。
放心していた父親は幼女を見下ろし、手に持っていた短剣を後頭部に向かって振り下ろした。
短剣が深々と刺さりそれっきり幼女は動かなくなった。
少女は走った。回廊を唯逃げる様に走った。
彼女の記憶をなぞっているとはいえ、あんな結末はありえるはずが無い。現に彼女は生きているのだ。
何処まで走ったろうか。また似たような魔法絵画が架かっている。
今度は見覚えの無い構図だった。
金髪の青年と赤髪の女ハーフエルフが愛し合っていた。青年は斜め後ろ姿で顔は見えない。だがハーフエルフは少女の良く知っている人物である。
「まさかちっちゃくて可愛いかった少年がこんなに逞しい青年になるなんて」
女は潤んだ瞳を男の下半身へと移し、隆々とした肉棒を掴む。
「君の胸でしてくれよ」
髪を撫でながら青年は奉仕を促し、女性は豊かな両乳房で肉棒を挟む。胸でしごきながら亀頭をチロチロと這う舌が肉棒の起立を誘発する。
「あなたったら悪い人。可愛いあの子がいるのに私みたいな二回りも年上の女と情を交わすなんて・・・・」
青年が赤い髪を一瞬掴んだ。
「愛し合ってる時に別の女の話は止めてくれよ。それに彼女とは何でも無いんだ、寂しそうだったから親切にしてやっただけだし」
「でも抱いたんでしょ?」
女はさらに胸で締め上げ射精感を誘う。
「僕が愛してるいのは君だけさ、フェニ・・・・いや、本名で呼んだ方がいいかな?」
「あなたのお好きなように」
肉棒が収縮し勢いよく精液が飛び出し女の顔を染めた。かかった精液もそのままに女は美味しそうに肉棒にむしゃぶりついた。頬の動きが劣情を沸き立たせ更なる起立を促す。
呻いて後ろのタオルを取ろうと振り返った顔には――――愛しき恋人の面影があった。
(何で・・・・彼があの女と・・・・)
少女は泣いた。あの人だけは私だけを見てくれていると信じていたのに・・・・。
無論、絵画が幻なのは分っている。だが彼の心を試すために無理難題を課した上、強引に肉体関係を結ぼうとした事もあった。しかも暗黒神ファラリスを信仰している自分だけに彼が愛想をつかし去っていってもおかしく無い。
何の前触れも無く絵画が歪んだ。一瞬涙でぼやけたかと思ったが、実際に塗料を混ぜ合わせた様に歪み別の風景画へと変化していった。
新たに出現した風景画は地獄という以外、形容しようの無い物だった。
積み上げられた白骨、毒々しい花々に血の池、大木の吊り篭には盗賊ギルドの頭領と幹部が拘束されている。
先程の女ハーフエルフも首を括られ晒されていた。執拗な拷問、特に下半身へ異常な程集中しており顔は無傷なのがそれらを引き立ていた。
まだ新しい死体もあった。武装した神官らしき男とダークエルフの二人は抉られた胸以外取り立てて外傷は無く、さしたる抵抗もできずに殺されたと思われる。
嘔吐しそうな惨状の最中で肉欲に耽る者がいた。
悪魔の如き禍々しい翼を生やした魔女が血達磨で横たわる金髪の青年を犯していた。
金髪の青年は既に虫の息であった。神官とダークエルフ同様に胸に無残な傷が刻まれている。
魔女は息も絶え絶えの青年のズボンを脱がし肉棒を取り出すと瞳を潤ませ舌を這わせた。肉棒は死闘の繰り返しで勃起しており中性的な顔立ちに似合わぬ剛健ぶりだ。久しく女を抱いていなかったのかもう先走り汁が滲み出ている。
魔女の舌が尿道口を塞ぐが如く汁をなめると青年が呻いた。
「・・・・君がこうなってしまったのには僕にも責任がある」
青年の口調は今まで死闘を演じていたとは思えぬ淡々とした物だった。
一瞬、魔女は青年の方を見たがすぐに肉棒へと興味を戻した。口に咥え込み舌と唇をいっぱいに使って扱き上げる。頬のこけ方から強力は吸い込み具合が伺えた。
「今でも変らない。僕は君を愛している」
愛している――――美しい言葉は虚しく響いた。
既に魔女の興味は肉棒をむしゃぶり尽くす事に注がれていたからだ。やがて肉棒が僅かに膨張し精液が口内を打つ。喉を鳴らし飲み込む音が青年にもはっきりと聞こえた。
翼を震わせて魔女が立ち上がりドレスの裾を捲った。下着は無い。ただ陰唇から太腿にかけて伝う愛液が光るのみ。
肉棒に手を添えて青年に跨る。二、三度股間を締めつけて再び勃起させると彼の頭を抱える様に覆いかぶさり唇を重ねた。
唇も肉棒同様に貪る。舌を入れ、歯を舐め、唾液を飲ませた。唇を離した時には唾液が糸を引き青年の口へと消えていった。
「今も私の事、愛してるって言ったわね」
一瞬、魔女の顔から殺意が消え少女の様に見えた。
「私も貴方を愛している。でも・・・・もう遅いの。だからせめて」
腰の動きが活発になり肉棒が更に締めつけられる。
「快楽の中で逝って、私の愛しい人――――」
「クウ!」
射精と同時に青年の胸から血が噴出し魔女の顔を赤く染めた。再び魔女は腰を振る。あたかも青年の生命を吸い取るが如く。
「そうか・・・・遅い、か。だけど君を放置しておくわけにはいかない・・・・!」
「だから私を倒す? 無理だわ、今の貴方には」
再び唇を重ねんと魔女の顔が迫る。
「それはどうかな?」
最後の力を振り絞り右腕が魔女の首を絡め取る。同時に左手が懐から赤く輝く水晶を取り出した。青年の口から呪文か放たれる。
「まさか炎晶石!?」
「すまない・・・・僕は君を――――」
青年の最後の言葉は衝撃と爆音によってかき消され噴煙が全てを包んだ。
(どうして・・・・・何故私が彼を? いえ、でも・・・・)
少女の頭の中は混乱の極みであった。
魔女の殺されたとおぼしき赤髪のハーフエルフ、神官、ダークエルフはかつてパーティを組んでいた冒険者仲間である。
金髪の青年にいたっては成人した姿だが自分の恋人である少年に間違い無い。
そして魔女は――――自分自身!
やがて噴煙がはれ立ち尽くす魔女の姿が現れた。青年の姿は無く、魔女の足元の肉片がそれだと分る。
「何なのよ・・・・」
沈黙を破り少女の口が開いた。
「何よ! こんな幻を見せて何が面白いの!? 一体何が言いたいの!?」
少女は叫んだ。その叫びが聞こえたのか、絵画の中の魔女の肩が動いた。
「何が言いたいの、ですって・・・・?」
ゆっくりと魔女は振り向く。その顔は返り血にまみれ右頬から胸にかけて火傷が目立つ。
「私はね、未来の貴女なの・・・・そしてここで起こった事は実際に起こる事なのよ!」
友を、上官を、そして恋人を殺す自分――――十代の少女には重すぎた未来視だった。
「・・・・ル、デル!」
誰かが自分を呼んでいる。
少女が目を開くと愛しい金髪の少年が心配そうに見下ろしていた。
「・・・・サーラ!」
少女――――デルは思わず恋人の名を呟き少年に抱きついた。
「デル・・・・」
「・・・・夢を見たの・・・・怖い夢、私が殺されたり誰かを殺したりするの! サーラが他の女と愛し合ったり私が貴方を犯したり殺し合ったりするの! それも未来の現実だって・・・・」
「デル・・・・」
サーラと呼ばれた少年はデルの唇に自分のそれを重ねた。取り乱していたデルもしだいに落ち着きを取り戻していく。
「落ち着いた?」
サーラの問いにデルは頷いて答えた。ふと我に返り彼女の肩越しに周りを見渡す。
密林育ちの野生児少女はぐっすりと眠っている。
ハーフエルフの精霊使いの少女はだらしない格好で爆睡している。自称“お姫様”というのは嘘もいい所だ。
もう一人のハーフエルフ、彼の場合ダークエルフとの混血だが――――は油断無く樹木を背に臨戦態勢で眠っている。
サーラは今の見張り番が自分だった事を五代神に感謝した。
「サーラ、このまま抱いていて。ひとりじゃまた悪夢を見そうだから・・・・」
腕の中でデルが小さくなっている。年上とはいえ彼女も繊細で壊れやすい少女なのだと再認識した。
「僕の腕の中お休み。悪夢は僕が払ってあげるから」
数分後、彼女は心地よさそうな寝息を立て始めた。
愛しい娘の寝顔――――愛と友情以外の何も持たない少年サーラにとって最高の宝物であった。
割と質の良い椅子に腰かけ青年は報告書に目を通していた。
青年の顔色は見る者に病的な印象を与えるが別に健康を害しているわけでは無い。
「いるかい、王子サマ」
扉の向こうから横柄そうな声がきこえる。青年も面倒くさそうに入れ、と返事をする。
入ってきたのは全身を外套で覆った奇妙は人物だった。男か女かも不明だ。
「相変わらずいい趣味をしている」
外套の人物は机を一瞥して鼻で笑った(様に見えた)。実は机に隠れて外からは分らないが青年の肉棒を少年が口内に銜え込んでおり、指摘されて肩を震わせていた。
「で、デル・シータへの働きかけは如何に?」
何事も無かったかの様に青年は報告書に目を通し続けた。
「あんたに言われた通り過去と、これから起こりうる惨劇の幻を見せておいたよ。しかしなあ、こんなまどろっこしい事をせずとも我輩が金髪の坊やと一緒に拉致ってやってもいいんだが?」
「あの少年を甘く見ない事だ」
青年の瞳が鋭く外套の人物に刺さった。
「彼は腕利きの盗賊の亡霊が憑依したとはいえ、貴様の同族である先任を葬っている。私の許可無しに手出しは無用だ」
「おお怖い」
外套の人物はわざとおどけて見せた。
「まあご苦労だった。下がってよい」
青年は外套の人物を下がらせる再び報告書に集中する。丁度タラントの王子に関する情報を読んでいた時、口奉仕させていた少年の喉に性欲を吐き出した。
THE END