「…困りましたねぇ」  
後ろ手に縛られているせいで、メガネをクイクイと動かせないブックが呟いた。  
ロマール盗賊ギルドの拷問部屋に、男性陣は拘束されている。  
「ベルカナとシャイアラどん…大丈夫だかなぁ」  
「今頃は二人とも背中の毛の長さを測られてるんスかねぇ」  
いつもなら笑いが起きる恒例の冗談も、そこはかとなく元気がなかった。  
盗賊ギルドの上司であるバーゼルの左遷を目標として声高に口にする五人組。  
今まではただの冗談であると捨て置かれたものの(そして実際にただの冗談である)、  
彼らは最近、新たな派閥を作るという目立った動きをしてしまっていた。  
バーゼルの不審を買った彼らは、すでに徹底的にマークを受けていた。  
彼らを自分の立場を脅かそうとする危険分子と見たバーゼルは、ついに五人への制裁を開始する。  
ロマール官憲に顔が利く彼は、そのつてを使い罪人として彼ら五人を拘束させたのである。  
拘束された彼らには、ギルドの報復が待っていた。  
ギルドの報復、それすなわち、【背中の毛の長さを測られる】こと。  
「ああ、でも本当にどうなるんかなぁ、俺ら。  
 やっぱアレっスかね。奴隷市に売られて、お金持ちのおねーさんに買い取りとか…」  
「ギルドの報復で、そんないい目に合う筈がないでしょう。」  
溜息をついて、ブックが言う。  
「まあ、クレスポさんならきっとホモの髭オヤジのペットとして払いおろしてもらえますでしょうが。」  
「何でよりによって髭オヤジなんじゃ〜〜!!」  
「藤澤GMをからかってばかりいるから…彼女の趣味と実益を兼ねた天罰です。きっと。」  
「それだったらブック! お前はきっとロリペドのオタクっぽいニートに払い下げッスよ!」  
「グラランがロリペドに需要ありますかねえ。」  
 
言い争いを始める二人を尻目に、マロウは部屋の片隅に座った見張りの様子をチラ見する。  
見張りは両目を瞑ってドシリと構え腕組をしていたが、たまにこめかみのあたりがヒクついていた。  
「まあまあ、落ち着くだよ二人とも。」  
いよいよ本格的にヤバいということを察知したマロウは、二人の間に割って入る…  
のを装い、クレスポに小声で話しかけた。  
「…縄は抜けただか?クレぽん。」  
「ばっちりッスよ。」  
その目に鋭い光を煌かせ、クレスポが言う。  
言うのと同時にすぐブックの拘束が外れる。縄を解いたのはクレスポだった。  
彼は生命力も精神力も無いが、器用な上に盗賊としての力量は高い。  
技術だけで言えば、上司である幹部バーゼルとほぼ並ぶほどである。  
「よし。…だども、問題はあの見張りだな。」  
「最悪、素手で向かうしかありません。マロウさんなら『フォース』が使えます。ボクが囮をして、そのうちに…」  
「そうッス。早くベルカナとシャイアラさんを助けなきゃ。」  
クレスポの言葉に、二人は静かに頷く。  
何とかして見張りを倒す。なるべく気づかれないように二人を助け出す。  
そして、ロマールを出る。  
ファンドリアの盗賊ギルドを頼るのもいいかもしれない。  
いっそ東方まで流れていくのもいいかもしれない。  
ここに実家があるベルカナにとっては辛いことになるかも知れないが――命さえあれば、何でもできる。  
とりあえずは逃げる。それこそが重要事項であり、また、彼らの常套手段でもあった。  
――ガチャリと音がしてドアが開き、二人の男が現れたのは、その時だった。  
 
「入るぜ。」  
「ああ。」  
少し目を上げて、見張りが言う。  
男たちは壁際に転がされている三人をジッと見つめる。  
「なあ、一人借りてっていいだろ。」  
「おいおい。」  
見張りが笑ってそう言う。  
冗談だろう、とでもいいたげな口調だった。  
「順番、ぜんぜん回ってこねえんだよ。生殺しだよ、あれじゃ。」  
順番?生殺し?何の話をしているのだろう。  
それから、借りていく、とはどういう意味だろう。  
三人が首を捻った時、見張りが笑って手をひらひらとさせた。  
「わかったわかった。バーゼルの野郎にゃ黙っててやる。好きにして来い。」  
「よし。…おい、そこのハーフエルフ、来い。」  
「えっ!?」  
マロウは小さく叫び、思わずビクンとその場で跳ね上がる。  
冷や汗が額を伝う。恐る恐るクレスポを見ると、彼は軽く頷いた。  
大丈夫。まだ、拘束は解けきっていないらしい。  
逃走を図っているのをバレずにすんだ事にホッとして、マロウは男の手を借りて言われるままに立ち上がった。  
「んで? オラに何の用事だべか?」  
「………… ……まあ、いい。」  
マロウの口調を聞いてすぐに男は絶句したが、首を振ってそう告げる。  
それから行くぞとばかりに縄の端をもち、部屋の外へ出た。  
 
「さて、お前、何で連れてこられたか分かってんだろうな?」  
男のうちのひとりが口をひらく。  
この展開は…となると、鈍いマロウでもすぐに予想がついた。  
ジットリと汗が滲む。どうあがいても、逃れられようもなかった。  
「…オラの背中の毛の長さを測るつもりだべ?」  
マロウが言う。途端、男たちが一斉にずっこけた。  
「測るか――ッ!!」  
「だ、だども…じゃ、それ以外に何を?」  
瞬きをしながら、マロウが言う。  
察しの悪さが気に障ったのか、チッと舌打ちをし、もう一人の男を向いた。  
「抑えろ。無理矢理ひん剥くぞ。」  
「ひん剥く!?背中の皮をか!?」  
「背中から離れろ! 服に決まってんだろ!!」  
服…?と、頭の中で男の言葉を反芻する。  
まさか。それはまさか…  
「ハーフエルフは比較的華奢だし、男でも毛が薄いからな。」  
「顔もまあ、綺麗だしなあ。」  
「!!」  
耳元で囁かれ、体中が総毛立った。マロウは何とか逃れようと渾身の力を込める。  
すぐにブチンと音を立てて縄は外れた。さきほど、クレスポが解きかけていたせいだろう。  
これ幸いと、マロウは自分を取り押さえようとする男二人にに、右手を翳した。  
 
「寄るでねぇ! 『フォース』打つぞ!」  
その声とともに、二人が素早い動きで背後に飛び、マロウから距離をとる。  
「神官か! あぶねーな!」  
神聖魔法『フォース』は相手と接触状態にいなければ使えない。  
牽制としては充分だが、これ以降は膠着状態となろう。  
乾いた唇をしめらせながら、マロウは二人を睨みつける。  
同性同士の情交など、彼の神であるマーファは決して許しはしない。  
なんとしてでも、貞操は守らなければならない。  
「チッ…清く正しくのファリス神官か? 結界部屋に連れてったほうがいいんじゃねーの?」  
「何言ってやがる。結界部屋は使用中だろ? ルーンマスターの女二人を連れ込んだだろうが。」  
「女…二人!?」  
ベルカナと、シャイアラの姿が頭に過ぎる。それから、先ほどの男の言葉。  
『順番、ぜんぜん回ってこねえんだよ。生殺しだよ、あれじゃ。』  
…まさか…まさかまさかまさか!  
「…ベルカナ…シャイアラどん…!」  
マロウの中で、何かが壊れていくような気がした。  
あの二人さえ助け出せれば、それですべては元通りになると思った。  
希望は、あると思った。  
「そんな…そんな…!」  
力なく倒れこんだマロウは、冷たい石の床を拳で殴る。手に血が滲んだ。  
男二人はそれを見、顔をあわせてニヤニヤと笑う。  
 
片方がマロウのもとに屈みこみ、その肩をポンと叩く。  
「あの二人、開放してやろうか?…お前次第だけどな。」  
「!?」  
顔を上げたマロウに、男はニヤニヤと笑みを返す。  
「実はお前らな、ギルド内で昇進の話が出てるんだよ。」  
「…昇…進?」  
「そろそろ幹部にしたらどうかってな。まあ、無条件じゃねえみたいだったけどよ。」  
「…バーゼルも、焦ってたってのもあるんだろうなあ。急にマジになっちまって…  
 お前らのおフザケみたいな左遷宣言なんざ冗談だって、今までは笑って聞いてたのによ。」  
うんうん、と頷いて、男が言う。  
「ともかく、これはギルドからのお達しじゃねぇ。バーゼルの独断だ。  
 俺らがちょいと上まで知らせれば、今度同じ目に合うのはバーゼルって寸法さ。」  
「…オラが…あんたたちの言う事を聞けば…」  
マロウがそう呟いた。  
「そうそう。女二人を助け出したくば、な?」  
「………」  
マロウは口を一文字に結び、目を閉じた。両手を下に下ろす。  
…ともかく今は、これ以上あの二人に手を出させないことが先決だ。  
クッと小さく呻き、マロウが顔を上げたその時だった。  
「待ったぁ!」  
叫び声を上げ、もう一人、男が部屋へと飛び込んできた。  
 
「へへ、ちょろまかしてきたぜ!」  
男は、飴玉のような極彩色の薬が入った瓶を誇らしげに翳した。  
「【ムーンライト・ドローン】か? でかした!」  
「ムーンライト…ドローン…?」  
頭の中を探る。その名は聞いたことがあるが、思い出せない。  
「へへ、つれてきたのこいつ? 中々いいんじゃね?」  
呼吸を整えながら、男はグイとマロウのおとがいを掴むと、上に上げる。  
「…んぐ!?」  
口に、【ムーンライト・ドローン】らしき小さな粒が押し込まれた。  
小さな薬の粒は、喉の奥に滑り込むとむせ返りそうな感覚をもって中へ入り込む。  
鼻を摘まれて呼吸を止められると、思わず喉を鳴らして飲み込んでしまった。  
「………!」  
飲み込んで、すぐだった。  
まず、体の芯が必死になって現れようという兆候に反発しているのを感じた。  
それから、それが抑えられなくなり、そして一気に【爆発】する感覚を感じた。  
「な…!」  
ドクン、と心臓がひときわ大きくなる。酔っている時のような高揚感がする。  
眩暈がする。思わずその場に崩れ落ちた。  
「な…何だぁ…?」  
呟いてすぐ、自分の声がやけに高くなっているのに気がついた。  
それから、体の一部がやけに重くなっている事に気づく。  
 
自分の体に、一体何が起こったのだろうか。  
マロウは恐ろしさのあまりに思わず胸のマーファの聖印にふれようとする。  
ふにょ、と柔らかい感触を感じたのはその時だった。  
…胸が、ある。人体で言う胸部ではなく、女性の、胸のふくらみ。  
「!!」  
マロウは思い出した。  
【ムーンライト・ドローン】。  
飲んだ者を性転換させる、魔法の毒薬だった。  
「へへへ、かわいく変身したなぁ?」  
クイとおとがいをつままれ、そちらを向かせられる。  
ニンマリと笑ったその顔に怖気を覚える。これから何をされるのか…考えただけでも、鳥肌が立った。  
「よーし、じゃあ今から一人でやってみろ。」  
「…なッ!?」  
男の言葉に、おもわずマロウは叫ぶ。  
一人で…ということは、自慰をしろということなのだろうか。  
「何言ってるだ! 人前でそんな事できる筈が…」  
「なら、何も準備しないうちに突っ込んでやってもいいんだぜ?  
 こちとら、男の股いじってやる趣味は無いんでねえ。」  
「…………」  
黙り、マロウはぺたんと床に座る。  
 
「…………」  
目を瞑り、ぎゅっと口を引き結んで、マロウは革のベルトを外しかかった。  
そして、服の中に手を入れる。  
…一番最後に、女性と情交を交わしたのはいつの事だっただろう。  
そもそも自分がいま何年、生きてきたか、それさえも覚えていない。  
手探りで、頭の中の記憶の女性の体を思い出す。  
「…っく…」  
薄く毛が生えた恥丘を探り、乾ききった花弁に手を這わせる。  
小さく擦ってみると、痛みがした。唾液で指を塗らしたほうがいいのか?  
そう思った時にふと視線を感じ、マロウはそちらを見やる。  
「―――!!」  
三人が、あのいやらしいニヤニヤ笑いを浮かべ、こちらを覗き込んでいた。  
ドクドクと心臓の音が高鳴り、ジワリとマロウの体の芯が熱くなる。  
(……変態だ……)  
羞恥に、顔面が赤くなる。指を動かす、ぬるりといやらしい液が絡む感触がする。  
(オラ、変態だぁ……)  
指の動きが、止まらない。  
ちゅ、ぬちゅ、と粘液の擦れる音が聞こえてくる。呼吸が、荒くなってゆく。  
「いぃ!?」  
ビクン、と体が揺れた。  
突然、体に走ったその快感に、思わず指が止まる。  
 
「…あぅ…」  
恐る恐る再度触れてみると、しびれるような感触がした。  
ぐちゅ、と音をたてて、潤んだ秘裂が愛液を吐き出す。  
見つけ出した突起に、掬った愛液を何度も擦りつける。  
「…んう、ん、っふ…」  
気持ちがいい。もっと、このままここで弄っていたい。  
今自分がどこで何をしているか、マロウが忘れかけたその時だった。  
急に、腕をグイとつかまれる。思わず男を見上げると、そのまま腕を引っ張り上げられた。  
ぬぷっ、と音がして、愛液まみれの指が服の中から引き抜かれる。  
「なーにチマチマやってやがるんだよッ! さっさと服全部脱いで指突っ込んじまえ!」  
叫び、後ろからマロウを羽交い絞めにした男が、彼の上着を捲り上げる。  
目にした二つのふくらみに、残る二人が口笛を吹いた。  
「なんだ、あの二人よりでけえじゃねえの。」  
「あっちはガキとエルフだからな。まあエルフの方は思ったよりはでかかったみたいだけどよ。」  
「……!!」  
一番聞きたくなかった話に、思わずマロウは手の母子球で耳を覆う。  
背後からチッと舌打ちの音が聞こえた。  
「何やってんだ! そら、まじめに弄るンだよ! こうやって、指突っ込んでズボズボやれッ!」  
ぐちゅっ、ずぶっ…  
愛液の音がして、指が膣内に入り込む。二本とも抵抗も無くぬるりと中に入り込んだ。  
突起を転がしていた時よりも良いとは思わないかったが、  
じわじわと足元から湧き上がる快感に、いつの間にか夢中になってゆく。  
 
「んん、ん、んう…!!」  
ぐちゅっ、じゅぶっ…  
愛液の音が部屋中に響く。充満する雌の匂い。それが自分の体から発されている。  
「…あぁ!?」  
急に腕を引っ張られ、ちゅぷ、と音を立ててマロウの指が抜かれる。  
「へへ、もういいだろ…」  
気が付くとむき出しの太腿に男の男根が押し付けられていた。  
気持ちが悪い。生理的な嫌悪感しか感じないが、それでも目を瞑り、懸命に堪える。  
「……?」  
目を閉じて、覚悟はしたが、果たして何も起こらなかった。  
マロウがおそるおそる目を開くと、三人はまたもやあの笑みをうかべている。  
「なっ…何を…」  
「馬鹿なヤツ。こういう時にはお願いしねーとなあ。」  
「…お願い?」  
「自分でマンコ広げて、チンポ突っ込んでくださいってな。」  
「!!」  
マロウは思わず絶句した。  
都合で勝手にこんな体にされ、散々自慰させられて、何故そこまでしなくてはならないのだろう。  
…それでも、不利なのは自分だった。  
あの二人を助けなければならない。ゆっくりと、マロウは口を開く。  
 
「…い、入れて…」  
「ああ。んで何を? どこに?」  
「だ、だからオラの中…その…」  
「ああ、そろそろあいつら飽きたとこかな。本物の女犯しに行くかー」  
「待って、行かないで入れてっ、オラの中にチンポ突っ込んで、出し入れしてぇ!」  
「ひゃーはははははッ!!!」  
歓声が上がる。  
(変態だ…)  
頭の中で、そう呟く。  
(変態だ…)  
目頭が熱い。眼前がぼやける。  
「よし。入れるぜ。ご希望通り、入れてやる。」  
ニヤリと笑って男は、マロウの体の上に圧し掛かる。  
秘裂に男根を押し当て、それから一気に挿入した。  
ズブッ…  
「ぐあぁっ!?」  
男根が挿入されると同時に、強烈な痛みが、体を襲った。  
体の内側が裂けてゆく。壊される。殺されてしまう!  
「い…い、痛いッ!!」  
「いーい声だなぁ…」  
目の前でこちらを見つめている男の目がヤバい。  
「痛いっ、後生だぁ、い、一回抜いて…」  
「ひゃははッ、んな事してやるかよ!」  
 
「ぎっ、あぐぅーッ!!」  
騒げば騒ぐほど、男の動きは激しくなった。加虐心を刺激されたとでもいうのだろうか?  
いや、元々この男の特性なのかもしれない。  
血走った目で自分の中をザクザクと出入りする男を涙目で見ながら、マロウは弛緩した頭の中でそう思っていた。  
首を横に向けられ、目の前に男根を押し付けられたのは、その時だった。  
「ほらほら、せっかく大口開けて叫んでんだ。こいつを咥えろよ」  
マロウは驚愕した。まさか、このような事を強要されるとは思ってもいない。  
黙って口を閉じていると、頬にピタピタと押し付けられる。  
「口利きしてやんねーぞ」  
「…………」  
コクンと息を呑み、恐る恐る、舌を突き出す。  
フルフルと震えながらも、グロテスクな男根に舌をつけた。  
ぺちゃ、ちゅぷっ…  
男根の表面を、舌で撫で上げる。必死になってした行為だが、お気に召さなかったらしい。  
すぐに男はマロウの頭を押し込み、男根を喉の奥に突っ込む。  
「んぐーッ!!」  
「へへッ、歯ァ立てんなよー…」  
男が力任せに頭を押し引く。舌の先から喉の奥を男根が出入りする。  
…自分の身には、一体何が起こっているのだろう。  
女の体になり、男たちの思い通りにされるのは、囚われのベルカナとシャイアラを助け出す為だ。  
覚悟はしていた。それでも、まさか男性器を口で咥えねばならないとは…  
 
「歯ァ立てんなって言ってんだろうがッ!!」  
パアン、と小気味よい音がして、頬が張られる。  
「っぐ…」  
「男に遠慮なんかしねえからな。」  
「くぅ…」  
今は無いとはいえ、元々自分の体にも存在していたものに舌を這わせ、  
奉仕しなくてはいけない事に嫌悪感を覚える。  
嫌悪感を覚えながら、それでもマロウは必死になって男根を舌でねぶる。  
「…へへ、そろそろ出すぞ」  
下半身の痛みが麻痺し切った頃に、膣に男根を出し入れしていた男が言った。  
腰の動きが激しくなった。裂かれていたものが今度こそ本当に真っ二つにされる。  
マロウは痛みから逃れようとするが、それでもガッシリと腰を捕まれていて動く事はできない。  
「あぐっ、っが、あ、あ!!」  
痛みに目頭が熱くなる。マロウの意識が遠のいた、その時の事だった。  
びゅるッ…  
熱い欲望の塊が、膣内に吐き出される。  
男根はビクビクと奮えながら、その残滓を最後まで注入した。  
「あっ、てめえ…気持ち悪くなるから出すなってんだろ!」  
一人が、膣内射精をした男に抗議した。  
誤魔化し笑いを浮かべつつ、男はマロウの膣内から男根を引き抜く。  
ぬぷっ…  
音がして、わずかに痛みが引いてゆく。  
 
「…はー…はー…」  
マロウは絶え絶えに呼吸をする。  
空虚な痛みだった。未だ腹の中、太腿の間に何かが挟まっているような感触がした。  
「あーあ。ドロドロじゃねえか…」  
呆れたような声で、一人がマロウの太腿を持ち上げ、脚を開かせる。  
「!?」  
マロウは自分の血と精液が交じり合った秘裂の惨状に、思わず目を瞑る。  
「…いッ!?」  
次の瞬間、指が挿入された。処女を失った秘裂ではない。  
「そっちは…そっちは関係ねぇだよッ!」  
あろうことか尻穴の入り口に指を差し込まれている。  
「おいおい、こいつ元々は男だぞ。」  
苦笑しながら、さきほどまでマロウを犯していた男が言った。  
「俺だって初物食いたいもんね。こうなりゃケツでもいいさ。」  
秘裂から流れた精液を掬う。指が、再度挿入された。  
「ひッ…!」  
ただ、気持ち悪かった。直腸を、指が進んでいく。  
嫌悪感と物理的な気持ち悪さがそろって体を襲う。  
鳥肌が立った。こみ上げる吐き気に、口を押さえる。  
それでも抑え切れなくて、吐き気を堪え、叫び声を上げる。  
 
「嫌だぁ、止めろ、止めろーッ!!」  
「血まみれのほうに突っ込んでやってもいいんだぜえ?」  
「……っく、う、う…」  
いつの間にか、指は引き抜かれていた。代わりに固いものが押し当てられる。  
男の腰に力が入り、ずぷ、と一気に挿入される。  
裂ける。裂けてしまう…  
と思ったが、しかし処女を奪われた時とは違い、その動きはゆっくりだった。  
思ったよりも、痛くない。少なくとも、破弧の痛みよりは格段に。  
「…気…使ってくれてるだか…?」  
呟くようにマロウが問いかける。  
「さぁなぁ」  
ニッと男は笑った。  
実際にはアナルセックスは激しくするものではなく、ゆっくりと、征服していくように行うものである。  
ただ、女性経験はあるものの大地母神の信者であるマロウは、それを知らない。  
男の指が、秘裂に伸びる。思わずビクンと反応したが、痛みの残る膣内には触れないよう男は突起を指で摘んだ。  
「ひうぅ!!」  
やがて奇妙な感覚が起きた。ゆっくりと出入りする尻穴の男根が、微弱な快楽をもたらしはじめる。  
「ん、ん、んう…」  
気持ちがいい。なのに、惜しいところで快楽が届かない。  
恐る恐る、マロウは秘裂に手を伸ばした。  
現在マロウを犯している男の手に触れる。  
かまわず、指でつっと秘裂を撫でる。  
…我慢が、できない。  
 
ぐちゅぐちゅと音を立て、自分の指が出入りする感覚をマロウは堪能していた。  
せめて男の体では無かったほうの場所を、意識できるようにしたい、というのは建前の話。  
ただ、欲しいだけ、男が欲しい、それだけなのかも知れない。  
「何だコイツ、自分で弄ってやがる。」  
覗き込むようにしてもう一人が言った。  
「なんだ、せっかく気ィ使ってやったのに。…チンポほしいのか?」  
背後から、マロウのわずかに尖った耳元で、声がする。  
マロウは思わず、コクリ、と首を縦に振った。  
「…欲しい…」  
口に出した言葉に、おお、と三人の口から驚きが漏れる。  
「なあ、俺の体の上に乗せてやれよ。」  
「よしよし、口にも突っ込んでやろうな?」  
一人の男の体の上に、うつぶせになるように落とされる。  
同時に、秘裂が男の男根を咥え込む。  
「んあぁッ…!!」  
飲み込む際に痛みはしたが、すぐにゾクゾクと下半身から快感がわき上がった。  
前面と後面、双方からガツガツと責められて、気が狂いそうになる。  
「奥に…当たってる…当たってるだ…よぉ…」  
気持ちいい。頭の中がしびれてくる。  
もっと、もっと突き上げて欲しい。  
 
マロウは首を動かし、頬にピタピタと叩きつけられている男根にしゃぶりついた。  
ちゅ、ちゅと音を立てて吸う。口の中に苦い味が広がる。  
「うぅ…」  
目の前が虚ろになる。目の奥が突っ張る。  
ボロボロと自分の頬を伝い、涙が流れ出るのを感じていた。  
それは、男たちへの怒りでも羞恥でもない。自分に対する嫌悪感だった。  
同性に散々に犯されて、それでもまだ欲しいと思ってしまう。  
それだけならまだしも、あろうことか生殖に関係のない部位で、  
それがどうしても現在の女性の体ではなく男であった時の自分を想像してしまい、余計に吐き気がした。  
なのに。  
「っく、あぁ、あうぅ…」  
…なのに、体の奥が反応している。  
ガツガツと子宮を突き上げられるたびに、体が疼く。  
「あぁ!? あう、あうぅ…」  
嬌声を上げながら、マロウは微笑をうかべていた。  
最早、自分が何をしているのか、何をされているのかが分からない。  
口と膣内と直腸で男根を受け入れて、ただ達することだけを望んでいた。  
「あっ、はひっ…はひィ…」  
「よし、出すぞ!」  
「こっちもだ!!」  
ドクン…  
マロウの体の中で熱い精液が弾けるのと同時に、  
【彼】は自分の中の何かが壊れていくのを感じていた。  
 
……………………  
………………  
…………  
 
これで何度目か、最早認識できないでいた。  
またしても、体中の穴で精液を受け止めて、マロウの体がわななく。  
「ひ…う…」  
まだ、まだだ。…まだ、下半身が熱い。  
「あ、あぁ、あー…」  
…あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。  
時間も回数も分からないほどに、マロウはこの三人に犯されていた。  
いや、最早、犯されている訳ではない。  
マロウ自身も立派に、男たちの男根を受け入れるのに喜びを感じるようになっていた。  
「まだ…まだぁ…」  
だらしなく笑みを浮かべ、マロウが男たちに更なる快楽をねだる。  
三人はそんなマロウを眺めながら苦笑した。  
「イッたばっかのくせにもうこんなんなってるぜ。…神官様じゃなかったっけ?」  
「あぁ? ただの色キチ●イだろ」  
小さく笑みが漏れる。何のことやら分からないまま、マロウも笑う。  
 
「ほれ、ご希望のチンポを突っ込んでやったぞ。嬉しいだろ。」  
「は、ふぅ、う、嬉しい…気持ちいいよぉ…」  
体を揺らされながら、マロウが呟いた。  
焦点の合っていない目で、虚空を見つめ、笑う。  
「よし、後ろにも入れてやる」  
「しゃぶらせてやるよ。とっとと綺麗にしな、このメスブタ。」  
前後から突かれ、体の奥が快楽で埋め尽くされる。  
ジュブ、ジュブと音を立てて舌の上を男根がスロートされる。  
「ん、んん、ん…」  
「男のくせに、男にチンポ二本突っ込まれて、口でしゃぶりながら喜んでやがんの。」  
「変態だな、変態。」  
罵倒も嘲笑も、もはや快楽を増長させる手段でしかない。  
「いく、いく…いっちゃ、いっちゃうよぉ…!」  
叫び声を上げ、マロウはビクンとひときわ大きく震えて、絶頂に達した。  
 
「…あー、やったやった。」  
たった今膣内で射精した男は、やっと満足がいったのか、そう呟く。  
マロウの体を持ち上げると、その場に打ち棄てた。  
どさり、と仰向けになった状態で、マロウの体が床に落とされる。  
同時に、顔に、髪に、白濁した液体がかけられた。  
「ひゃはは、きったねーなあ!」  
精液でどろどろになったマロウの体を見て、男たちは下卑た笑い声を上げる。  
当のマロウはというと、絶頂の余韻に浸りながらも、  
ヒューヒューと音を立てて、絶え絶えの呼吸を繰り返した。  
体が震えると同時に顔の隆起部を伝って、口の端からどろりとした白濁の液がマロウの口内に流れ込む。  
快楽が欲しい。それだけを思うようになったマロウは片手で体をまさぐりはじめた。  
カチリと音がして、胸につけたままのマーファの聖印に手が触れたのは、その時だった。  
「…マーファ様…」  
マロウの両目が見開かれた。それから、一瞬にしてその瞳は生気を取り戻す。  
同時に、悲しそうな表情が、浮かんだ。  
「…マーファ様…」  
精液でべとべとになった手で聖印を握り、【彼】は信教の神の名を呼んだ。  
 
自然であることを教える豊穣の女神。もう、自分にその声は聞こえやしないとも同時に思う。  
男たちの手による薄汚い欲望の渦に塗れて、与えられる快楽から、最早抜け出せなくなっていた。  
「マーファ様…」  
それでも、助けを請う。  
…声は、届かなかった。  
「なんだこいつ、ファリスじゃなくてマーファか。」  
「ああ、じゃ丁度いいじゃねえか。これだけ中出ししてやりゃ、ご待望の子供がボコボコ産めるぜ。」  
「生めよ、ふえよ、地に満ちよ!…よかったなあ、神官様。」  
男たちは知らない。ムーンライト・ドローンの変身では、妊娠することはできない。  
これは、生殖でも何もない。ただ欲望を満たすだけの、意味のない行為だった。  
一斉に、笑い声が上がる。  
曖昧にぼやけたマロウの視界の中で、それは過去での仲間たちと重なる。  
もう戻れないと、分かってはいた。  
それでも、マロウの頭の中でかつての彼と四人は、笑いあい、楽しい時を過ごしていた。  
 
 
おわり  

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