「シャイアラさん」
「んー……あと5分……」
「シャイアラさん、美味しいレストランを見つけたんですのよ。ランチをご一緒しましょう?」
「おひるごはんー? ん、いくー」
もぞもぞ……
「あれー? ベルカナ? ブックは?」
「ドナートさんの家で読書三昧ですわ。たまには女性同士、二人きりで食事でもいかがかと、誘いに来たのですけど」
「めずらしー。うん、いいわよ。どんな店? たのしみー」
「ふふふ……」
「んー???」
「ん……んん……?」
低いうめき声がした。
どうやらお目覚めのようね――読んでいた魔術書を閉じ、ベルカナは簡素な椅子を回して音の方に向き直った。
「おはようございます、シャイアラさん」
悠然と微笑む女魔術師の視線の先には、彼女の仲間であるエルフの姿がある。
鎧こそないものの、衣装は普段どおり。だがエルフにしては豊満な肉体は、×字型の拘束具に手足をがっちりと固定され、
殆ど身動きが取れなくされている。
「ん……え? な、なに?」
しばらく寝ぼけ眼でぼうっとベルカナを見ていたシャイアラだったが、さすがに自分の置かれている状況の異常さに気付い
たか、目を丸くしてきょときょと辺りを見回し始めた。
彼女の視線を追うように、ベルカナも改めて自分たちがいる部屋を見やった。
ランタンの明かりに照らされた薄暗い小さな部屋だ。窓はなく、部屋は鉄格子によって仕切られている。それだけならば地
下牢、という表現が一番しっくりくるだろうが、部屋の隅におかれた三角木馬やその他大型の器具、壁にかけられたムチや焼
き鏝、棚の上の蝋燭や浣腸器は、この部屋の用途が囚人を閉じ込めておくだけなんて生易しいものではないことを物語っている。
「べ、ベルカナちゃん……? こ、ここどこー?」
半笑いでシャイアラが尋ねる。
「盗賊ギルドの拷問室ですわ」
微笑で答えるベルカナ。
「ごっ、拷問室っ?」
「ああ、いえ……今はちょっと違いますわね。調教室のほうがしっくりしますわ」
「調教って――」
シャイアラの頬を、つ、と汗が流れ落ちる。口元はまだ笑顔を保っているが、目には明らかな怯えの色がある。それを見て取
って、ベルカナは満足げに頷いた。
「あのレストラン、私の直営ですのよ。料理に眠り薬をもらせて貰いましたの」
「え? ちょ、直営ってどういうこと?」
「実は私、盗賊ギルドの幹部になりましたの」
「ええっ!」
「私がギルドでの地位を求めていたのは知っていたでしょう? 念願かなって、今ではロマールでも5本の指に入る最高幹部で
すわ」
「そんなっ……こんな短期間にシーフギルドの幹部なんて……」
「とっても簡単でしたわよ? 適当な女の子を見繕って、調教して売り飛ばすとびっくりするくらいの収入になりますの。ふふ
ふ……私、天賦の才があるみたいですわ」
「なっ……」
絶句するシャイアラ。無理も無いだろう、彼女が知るベルカナは、少しは黒いところもあったかもしれないが、一応は立派な
お嬢様だったはずだ。少なくともパーティの仲間には、自分の活動を悟られるようなヘマはしていない。
「うふふふ……驚きました? 表向きはぺらぺらな冒険者、しかしてその正体はロマール盗賊ギルドの最高幹部……この二重生
活、とても気に入ってますの」
「そ、そう……あははは、それは凄いわね」
シャイアラが引きつった笑いを浮かべる。
「し、知らなかったなー、ベルカナちゃんっていつの間にか、そんな偉い人になってなのねっ、あははは! と、友達として鼻
が高いかも……」
「ええ。友人として自慢してくださっていいですわよ」
「そ、それでさぁ、友達をこーんなふうに捕まえて、ど、どうするの……?」
恐怖のせいか、最後の方は聞き取れないくらい小さな声で、シャイアラが尋ねた。
「わかりません? シャイアラさんほどの方なら、今の状況を見れば察しはつくと思いますけど……」
「えー、わ、わかんないなー……えへへへ、ねぇ、とりあえずこれ、はずしてよ……ね?」
言いながら、手首を固定している革の拘束具をぎちぎちと鳴らす。無論、エルフの筋力でどうにかなる代物ではない。
「あら、外したら大変ですわ。精霊魔法の恐ろしさはよく知ってますもの」
「や、やだなー……ベルカナちゃんに魔法なんて使うわけないじゃないのよー。友達でしょ?」
「ええ、友達ですわ」
「ならさ、ほら、友達にこーんなことしちゃだめよね? ね? だから……」
「外せませんわ」
「なんでよぉ!」
シャイアラが絶叫した。
頬を紅潮させ、瞳には恐怖と怒りが入り混じっている。まあ、当然の反応だろう。友人に騙され、調教室なんて部屋で拘束さ
れて、怒らないはずがない。
「お得意様がエルフの奴隷をほしがっていますのよ」
ベルカナは嫣然と微笑み、答えを口にした。
「え、エルフなんていくらでもいるでしょー! アタシじゃなくてもいいじゃないのよ!」
シャイアラの言分も最もだ。身勝手な気もするが、ベルカナ自身が身勝手なことをしているのだから、それを責める筋合いは無い。
「だって……かわいそうですもの」
「かわいそうって……な、なによそれ、アタシがかわいそうじゃないのっ?」
「ええ。そのお得意様、奴隷を猫かわいがりすることで有名ですのよ。凄い贅沢が出来ますわ。怠け者のシャイアラさんにはピ
ッタリだと思いましたの」
「そっ、そんなのっ!」
「酒池肉林ですわよ。ご老人ですし、夜のお相手もそれほどハードではありませんわ」
「い、いや! イヤったらイヤ! そんなジジイの相手してまで贅沢なんかしなくていいわよっ!」
「あら……意外ですわ。シャイアラさんなら喜んで奴隷になると思ったのですけど」
「ふざけないでよねっ! アタシにはプライドってものがあるの。わかったらさっさとコレ外してよ!」
「……プライド?」
シャイアラの言葉に、ベルカナがくすくすと笑った。
椅子から立ち上がり、ゆったりとした足取りでシャイアラに近づく。
「プライドですって? シャイアラさんにそんなものがありまして?」
「な、なに……」
「自堕落で怠惰で高慢ちきで身勝手で我侭で博打好きな女に、プライドなんてあるものですか」
「ひっ――」
ベルカナが腕を伸ばし、シャイアラの胸を服の上から掴んだ。手のひらから僅かにこぼれるほどの柔らかい膨らみは、エルフと
しては十分に巨乳だろう。
人間ですらこれよりも小さなサイズで悩んでいるものがいるというのに――そう考えると、ベルカナの胸の内にふつふつと小さ
な怒りが湧き上がってくる。
「随分と大きな胸ですわね。エルフは華奢なのではなくって? どれほど怠惰な生活をなさったら、こんなぷくぷくになるのかしらね?」
ぎり、と胸を掴む指に力を込めると、シャイアラは苦痛に顔をゆがめた。
「いっ――痛いっ、やめてぇっ」
「ふん。毎日毎日食っちゃ寝食っちゃ寝、私たちがぺらぺらなりに頑張ってる間も、だらだら適当に過ごしてらっしゃるんでしょう?」
エルフのクセに――怒りに任せ、指に力を込めて乳房を捻るようにぎりぎりと締め上げる。
「そっ、そんなことっ……あづぅ!」
「こんな贅肉、いらないでしょう? 贅肉なんか千切り落として差し上げますわ、ええ。エルフらしいスリムな体系にして差し上げますわよ」
「ひぎぃっ……やっ、ほんとに千切れるっ、痛いっ、いや、いやぁぁっ!」
「――ちっ」
シャイアラが涙をぼろぼろとこぼし、狂ったように手足の拘束具を軋ませ始めたのを見て、ようやくベルカナは冷静さを取り戻した。
これから奴隷として売り飛ばすのに、傷物にするわけにはいかない。手を離すと、シャイアラはまるで童女のようにめそめそと泣きはじめた。
「うぐっ、うう……ぐすっ、ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……何を謝ってらっしゃいますの?」
「ひぐっ。ぐす……あ、アタシが悪かったわよぉ。もう怠けないから……ブックにもみんなにも迷惑かけないし、ちゃんと掃除も
洗濯も自分でします。冒険のときもちゃんと働きます……だから許してよぅ……許して下さい……」
ベルカナは耳を疑った。
シャイアラが素直に謝っている? 意外な反応だ。もっと激しく抵抗すると思ったのだが。
泣きじゃくり、必死で謝罪と反省の言葉をつむぐシャイアラの姿は、元からの美しさもあって、ベルカナの庇護欲を疼かせる。
かわいそう――助けてあげたい――ベルカナは首を振り、くだらない迷いを振り切った。相手は海千山千のシャイアラだ。芝居でないと
どうして断言できる? それに本当だとしても――友人を裏切ることなど、盗賊ギルドでの出世を望んだ時点でありふれた選択肢の一つに
成り下がったじゃないか。
「――もう遅いですわ。私の商売を知られてしまいましたし、今更仲間ごっこなんかできません。あきらめて肉奴隷になってくださいな」
シャイアラを肉奴隷にする。それ以外に選ぶべきことなどない。
「やだぁ、やだよぅ……そんなのやだぁ……」
「みんな最初はそういいますわ。でも最後には、男の醜い肉棒を嬉しそうにしゃぶる変態に改造されるんですの。蝋燭を垂らされて喘ぎ、
鞭打たれて悦び、三角木馬で女性器を引き裂かれてるのに愛液を垂れ流し、浣腸されて公衆の面前で糞尿を撒き散らしながら絶頂を迎える
頭のおかしな変態に……あなたもなりますのよ、これから」
「ひっ……そ、そんなのなるわけ……」
「それが、なりますのよ。今は信じられないでしょうけど、3日もすれば自分がどんどん狂っていっていることに気付けますわ。おかしい
でしょう? 馬鹿な男どもは、女には潜在的にマゾヒストの素質があるからだ、なんていいますけど……私は少し違いますわね。嗜虐趣味
なんて、調教で後から植えつけてやるものだと思いますわ」
ベルカナがシャイアラの乳房に手を添える。さっきの責めを思い出したか、シャイアラが一瞬体を硬くするが、ベルカナは指に力を込めず、
優しく乳房を愛撫してやった。
「やっ……やめ……」
「心もそうですけど、肉体も改造できますのよ。例えばこの胸、ドナートさんが開発したお薬を使うと、子供もいないのにお乳が出るよう
にできるんですのよ?」
「なっ……」
「それに……うふふふふふ! 覚えてらっしゃいます? 出あってすぐの頃ですわね、偽物事件。スカートの中の細長くてごつごつしたもの……
今は魔法とお薬で、本当にソレを生やすこともできるんですのよ、ここに……」
そう言ってベルカナは手を下ろし、シャイアラのスカートを捲り上げるようにして下着の上からクレヴァスをなぞった。
「あっ……」
とっさにシャイアラは脚を閉じようとするが、拘束具に阻まれそれもままならない。無防備な割れ目を何度か指で摩ってやると、
下着のその部分がじんわりと色を濃く染めた。
「感じやすいのはいいことですわ」
「ううっ……」
怯えて伏せている長い耳に吐息をかけるようにして囁くと、シャイアラはぞくぞくと身を震わせた。
今のシャイアラは、ベルカナの玩具だ。大事なところを弄り回されているというのに、抵抗も逃げることも出来ない。それだけではなく――
「あ……」
ベルカナが指を止めると、シャイアラは驚いたような目つきで彼女を見やった。
「あら、どうしたんですの?」
くすくす笑ってベルカナが問いかける。
無論答えはわかっている。シャイアラは、ベルカナが愛撫を中止したのが不満なのだ。中途半端に責められた体は激しく火照り、
絶頂を求めて疼いていることだろう。無意識にか、シャイアラはみっともなく腰をもぞもぞと動かしていたりする。だが拘束されていては、
自分で慰めることすら出来ないのだ。シャイアラの全てが、拘束具のせいでベルカナに支配されているのだ。
「いきたいですか?」
「……」
こくん、とシャイアラが頷いた。
「あら。ほんとに素直ですのね。なんだかシャイアラさんの意外な一面を覗けた様で嬉しいですわ」
ベルカナは嬉しそうに言って、再び愛撫を開始した。今度は胸と膣の二箇所同時攻めだ。もちろん服の上からである。直接触ったほうが
感じるのだろうが、布越しのもどかしさも、拘束されて弄ばれているという心理的な快楽を与えることだろう。
「シャイアラさんは私の玩具。それでいいですわね?」
「ん……うん、ふぅっ……」
「あらあら……聞えてませんの?」
くちゅくちゅと音を立て、ベルカナの指がシャイアラの花弁を弄ぶ。溢れる愛液はすでに下着を越して、大腿を伝わって足首までたれていた。
シャイアラの息は荒い。もはや抵抗する気も無くしたか、ベルカナの愛撫を素直に受け止めている。彼女が絶頂寸前なのは明らかで、
ベルカナはちょっと考えてから、素直さに免じてちゃんとイかせて上げることにした。
「うあ、はぁ……いくっ、いくぅ……」
「ふふ。ほんとにいやらしいエルフですわ」
クレヴァスの頂上辺りにある、小さな突起を見つけ出し、ベルカナは容赦なく指先で挟み、こりこりと擦り上げてやった。
「ひぐぅ! あひいいいいいいいいいいああああ!」
突然の強烈な刺激に、シャイアラが奇声を上げて身悶えた。ギシギシと拘束具が悲鳴をあげる。
「あはははは! シャイアラさん面白ーいっ」
クリトリスをぎゅ、と指で潰すように力を込めると、シャイアラは一際高く悲鳴をあげてビクビクと全身を震わせ、それからがっくりとうなだれた。
「ふふふ……イってしまわれたのね。可愛い……」
ベルカナがシャイアラの頬を両手で挟み、そっと持ち上げた。
紅潮した頬に、痛々しい涙の後。虚ろな切れ長の瞳を見つめながら、ベルカナは彼女の唇に自分の唇を重ねた。
軽い、ついばむようなキス。ただそれだけのことなのに、シャイアラが身悶える。
「……あら? キスで感じました?」
何も特別なことはしていないのに――だが次の瞬間、シャイアラはベルカナの想像を完全に上回るようなことを口にした。
「ファーストキス……ベルカナに取られちゃった……」
「――」
ぼんやりと、虚ろなままの心で何気なく発したのだろうが、それだけに彼女の告白は衝撃的だった。
(ファーストキス?)
心の中で今の言葉を繰り返す。
(ファーストキスですって?)
「しゃ、シャイアラさん……あなた、まさか……」
「……?」
「……処女なの?」
ベルカナの問いに、何を思ったか、シャイアラは突然顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ちょっと、何をいまさらカマトトぶってやがりますの。あれだけ藤澤GMやクレスポさんのセクハラ発言に絡みまくってたくせに、処女ですって?」
こくこく。
恥ずかしそうにシャイアラがうなずく。
「……はぁー。経験豊富なふりをして実はオボコでしたとは……これが耳年増ってやつですのね」
ベルカナが溜息をつく。
「こんな派手な格好であんな怠惰な生活してたら、誰だって遊んでると思ってしまいますわよ……それにしても200年以上も生きてきて、
一度も経験が無いなんて。まさか初めては文字通りの初夜、なんて夢でも見てるんじゃないですわよねっ?」
「そんなの当たり前じゃない! 初めては旦那様にささげるに決まってるでしょ!」
「……」
「な、なによ……」
「……あなたといい、あの方といい……エルフというのは、貞操観念が硬いのですね」
「……? あの方、って……?」
「ダークエルフですわ。ほら、ミノタウロス消失事件の」
「ああ……自害したって……ま、まさか……」
「ええ。あの方、顔もスタイルも抜群でしたし、調教して売り飛ばそうとしたら、”あの人以外に抱かれるくらいなら死ぬ”と言って……
愚かですわ、死んだら何もならないというのに」
「な、なんてことを……」
「うふふふ……エルフの知恵というのも底が知れてますわね。裸男魔術師のレナさんや、私たちが始めて会ったときの女盗賊さんは、賢く生きてますわよ」
「ベルカナっ! アンタぁッ……!」
「いいじゃないですか。所詮、連中はギルドの掟を破った犯罪者ですもの。本当なら晒し首ですわよ? そうそう、ほら、あの遺跡にいたスキュラ、
死んだと思ってたら気絶していただけだったんですのよ。本を読みに行っていたブックさんが教えてくれたので捕まえたんですの。
まあ……あの方に関してはあそこで死んだほうがマシだったような気がしますわ」
スキュラは現在、鬼畜獣姦ショーの見世物にされている。グールの群れだの魔法生物だのデーモンだの、ろくでもないのに輪姦させ
られるという低俗な内容だ。ショーのたびに泣き叫び、助けを請う姿はあまりに哀れだが、彼女のようなモンスターの方が、へたな奴隷
よりも高く売れるのだから仕方ない。恐らくアソコがズタズタになるなり、精神が壊れるなりして使い物にならなくなるまで、ゴミクズ
のように扱われるのだろう。
「くっ……ベルカナ、どうしちゃったの……? 昔のアンタは……確かにちょっと腹黒だったかもしれないけど、人のいい世間知らずの
お嬢様だったじゃない……」
シャイアラがベルカナを見つめて涙を流す。
理不尽な仕打ちに泣いてるわけでも、助かるために哀れみを誘おうと泣いてるわけでもないだろう。
彼女は――多分、本気でベルカナのことを思って泣いている。
それが――不快だった。
「……あなたに何がわかりますの?」
ベルカナがすっと目を細めた。
いままでのからかうような視線ではない、殺意にも似た暗い感情が瞳に宿る。
「私、もうお嫁にいけませんの」
「え……?」
「ネィプ……あの人形好きの変態っ……あいつが……あいつ、金の力ですぐに釈放されて、それで、私っ……!」
思い出すだけで寒気がする、体が震えだす。
震えを止めるために、自分の体を抱くように両腕を回して、袖をしっかり握る。
涙が止まらない。嗚咽が漏れる。
だって、だって……
ベルカナの胸をどす黒い炎が焼く。萌える。萌やされる。あいつに萌やされる。
「べ、ベルカナっ、どうしたの?」
「私、あいつに捕まって……初めてだったのに! 私だっていつか好きな人に抱かれたかったのに、助けてってお願いしたのに、あいつ、
あんな……化け物……下賎な庶民の相手は化け物が丁度いいって、前も後ろも、口も! 全部塞がれて! 泣くしかなかった! 痛かったのに!
必死で助けを呼んだのに! クレスポもマロウもブックもシャイアラも、誰も助けてくれなかったぁ!」
「ベルカナっ、そんな……嘘でしょ、あいつ……ちくしょう……あのとき殺しとけば……!」
「誰も……誰も助けてくれなかった……怖かったのに……痛かったのに……」
「ベルカナ……」
「子宮……取られちゃったの……」
「えっ……」
ふふふふ。
自分でも知らないうちに、ベルカナの口元には笑みが浮かんでいた。
ふふふふ。
この話をするのは初めてだ。
ふふふふふ。
なんで笑えるんだろう。
うふふふふふふ。
涙はまだ止まらないのに。
「悟ったっていっていた。リサの代わりを作ればいいって……人と同じ人形を作るために、女性のパーツが必要なんだって……だから私、子宮、取られちゃった」
うふふふ……
笑える。
なぜか知らないけど、笑える。
おかしてくしょうがない。
だって……今の私には子宮が無い。子供が作れない。こんな女の子、誰もお嫁さんに貰ってくれないよ。
ねえ。
「さっき……殺せばよかったっていってたけど……シャイアラさんは優しいですもの、そんなこと無理ですわ」
「ベルカナ……?」
涙はまだ止まらない。
口元はまだ笑っている。
「ええ。ですから私が殺しましたの。だってあの人、何度も私を呼び出して、虐めるんですよ。苛いと想いません? ですから、
メイスでね、後ろから。ぐしゃーって。ふふふ……死体は処分しましたから、表向きは失踪ですわ。人形好きの変態、しかも前科
ものですものね、官憲もそれほど必死に捜査はしませんわ」
それでも私の子宮は戻らない。
私の恋は戻らない。
「もう……こんなことしか、することないんです。こんな私なんか、盗賊ギルドの幹部になるくらいしか夢もてないんですの。私、
何もなくなっちゃったから……だから……」
シャイアラさんは、
怠惰で、
我侭で、
高慢ちきで、
なのに綺麗で、
純潔で、
ブックという使い走りがいて、
クレスポに慕われてて、
マロウと仲良くて、
私は真面目に学院で頑張ってきたのに、
「持ってる人が……むかつきますわ」
シャイアラを睨むと、彼女は「ひっ」と声を上げて身悶えた。
涙はもう止まった。
微笑みも消えた。
今は、嫉妬と憎悪だけがある。
「予定は変更ですわ、シャイアラさん。お得意様には、別なエルフを見繕いましょう。あなたは――」
さあ、どうしよう。
女エルフの肉感的な肢体を見つめ、ベルカナは無表情のまま考える。
結末は一つしかない。考えるのはどうやってそこに至るか。
早すぎてはいけない。遅すぎても、ブックやマロウに気付かれるかもしれない。じっくり、だけど効果的に。
「た、助けてくれるの?」
「――まさか。ですけど、肉奴隷なんて生ぬるいこともしません。ズタボロに犯しつくして、萌えた後どころか……萌えカスにしてさしあげますわ」
そこまで言って、ようやくベルカナは――心の底から嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。