午後の陽射し柔らかな10月のある日。
「兄さん、お誕生日おめでとうございます」
イリーナが、ヒースの寮に顔をだした。イリーナが来ることは了承済みだった。
他のケチ臭いメンバーが、ヒースの為に何かプレゼントのサプライズなど、考えはしても実行はされないだろう。
精々、一食浮く程度と読んでいた。
イリーナはというと腐れ縁の幼馴染み。毎年恒例の事だった。
「とりあえず、兄さんがお気に入りの青色のリボンを買ってきましたよ。でも、ホントは何がいいのかわからなかったので、直にリクエストを聞きにきました。何がいいですか?兄さん」
ヒースは首を傾げて考える。
「…そうだな…安心と安眠をくれ」
「……へ?」
イリーナを膝の間に座らせて、後ろから軽く抱き締めた。
頭はイリーナの肩にコテンと乗せる。
イリーナは微妙に顔を赤くしながらも、されるままになっていた。
そのままヒースは、目を閉じて昼寝モードに入る。
イリーナが腕の中にいる内は、安心だった。
イリーナが何処かで飛びはね、トラブルに首を突っ込んでやしないかと。
ただでさえ、隣国ファンドリアの目の上タンコブのような存在のイリーナだ。
いつ暗殺者に狙われるかわからない。
その名声を何か、利用されるかも知れない。
真っ正直さを利用されたりしてないか、騙されてやしないか。
それでなくても、街のチンピラや詐欺師相手に頭から湯気をふいてないか、暴走してないか。
多少、父親のように心配症気味だと思わなくもないが、この癖はおそらく抜けることはない。
イリーナがこうして腕の中にいる間は、安心だった。
この鳥は今だけ、何処へも飛んで行かない。
ヒースはイリーナを緩く抱いたまま、ぽふりと床に横になった。
しばらくしてイリーナの耳に、すぅすぅと、ヒースの寝息が聞こえた。
「・・・・・・・・・兄さんのバカ」
小さく、呟く。しかしイリーナはそのまま大人しく、抱き枕になっていた。
互いの体温が心地良くて、なんだか妙に懐かしくて、次第にイリーナにも眠気が襲ってくる。
いつの間にか、こくりこくりと舟を漕ぎ。
二人でのんびりお昼寝する、そんな麗らかな秋の日の午後。