『アイル君の悲劇』もしくは『青い神官の意外な裏面と哀れな末路』  
リプレイ第三話の終盤から。  
 
キーナ達は無事タイデルの街に帰ってきました。  
道の角を曲がって〈緑のさざなみ亭〉が見えたとき…  
「行くよブランシュ!」  
「うんっ!」  
いきなり少女二人が走り出しました。  
「あらあら、おうちに帰ってきたのがよっぽど嬉しいんやねぇ」  
ナジカ先生がおっとり呟くと、ディケイが  
「いや…多分違うと思うぞ」  
「じゃあ何なの? ディケイ兄ちゃん」  
「………」  
「え? 何その『可哀相に』って目は? イアソンさんまで?」  
理由もわからずに、アイルはオロオロしてしまいます。  
「いや…あいつらお前のベッドを捜索するって言ってただろ」  
ディケイが言うと、アイルの顔色がサーッと青くなりました。  
慌てて追いかけるアイル、足がもつれてすっ転んでしまいました。  
 
宿屋に着いたキーナは、バソンさんへの挨拶もなしに自分達の部屋に走ります。  
ドアを開けた勢いのままアイルのベッドに突進、その下を覗き込みました。  
「あった!」  
小さな箱を見つけたキーナが引っ張り出すと  
「どうキーナ? 見つけた?」  
バソンさんにちゃんと挨拶していたブランシュが追い着きました。  
「うん、これだと思う」  
二人はワクワクした顔で箱の留め金をはずして蓋を開けました。  
 
箱の中には小さく丸められた布の塊が幾つかありました。  
覗き込んだ二人から笑顔が消え、表情がこわばってきました。  
「こ、これ失くしたと思っていた私のパンツ!」  
キーナが水色縞模様を広げながら叫びました。  
「私のブラジャーもある…」  
ブランシュがピンク色リボン付きを広げながら呟きます。  
呆然から立ち直ったキーナは他の塊もチェックし始めました。  
「これはミュハちゃんのパンツ! これはレイアちゃんのブラ! パンツも!」  
黄色、青色、黒色と孤児院の妹達のものが続々と発掘されます。  
「このレース付きで横が紐のスケスケは…ナジカ先生?!」  
自分のよりはるかに小さい布切れを広げて、ブランシュは真っ赤になりました。  
頭の中ではいろいろな想像が渦巻いているようです。  
「これはウェービーちゃんの…靴下?」  
どうやらソックスハンターでもあったようです。  
ちなみに所有者がわかったのは『持ち物にはちゃんと名前を書きましょう』という  
ナジカ先生の教育の賜物です。  
勝負下着にまで名前を書くのはどうかと思いますが…  
 
二人が色とりどりの下着を前に呆然としていると、部屋の外からドタドタと  
駆けてくる足音が聞こえました。  
どうやらようやくアイルが到着したようです。  
時既に遅し、ですが…  
キーナは立ち上がると、腰から大剣を鞘ごと外しました。  
さすがに切るのは遠慮して殴るだけにとどめるようです。  
ブランシュは呪文の詠唱準備に入りました。  
こちらはダメージ上昇する気のようです。  
よっぽど悔しかったのでしょう。  
二人の顔色が赤いのは、恥ずかしさのためでしょうか怒りのあまりでしょうか。  
まあ両方なのでしょうが。  
身構える二人の前で、ドアが開きました…  
 
ようやく宿屋に辿り着いたディケイ達は、上から響いてきた悲鳴に思わず顔を  
見合わせました。  
慌てて階段を駆け上がるディケイとナジカ先生を見送りながら、イアソンさんは  
神官らしく神に祈るために手を合わせました。  
ナムアミダブツ、ナムアミダブツ…  
 
 

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