「アッっ……! ふぅあっ……はうぅ!」  
 クレスポの体の下から甘く、切ない喘ぎが漏れる。そして赤いリボンでまとめられたポニーテールが揺れていた。  
「くうっ……すごいっスよアイリちゃん!」  
 リズムに乗って腰をガンガン振りながら、クレスポはしっかりとアイリの喘ぎよがる顔を、目に焼き付けていた。  
クレスポの細い肉棒がアイリの花弁をじゅくじゅくとかき乱し、肉ヒダをめくれさせる。  
「はうぅん!」  
 その度にシーツを掴む手に力が入り、アイリは腰を浮かせた。二人を乗せるベッドがギシギシと軋む。  
「……んぅ! も、もう……はぁあっ!!」  
 頭に白い電気が走るのを感じ、アイリはぐっと腰を浮かせ、背筋を仰け反らせて硬直した。  
「やばいっス!」  
 同時にクレスポも達し、絡みつくアイリの花弁から竿を引き抜いて、果てた。  
 ぴゅっ、と飛び散った精液がアイリのお腹にかかる。  
「アアーッ!」  
 一際甲高い声を発し、アイリはお腹の上に温もりを感じて脱力した。  
「はぁ、はぁ」  
 ベッドに沈み込むアイリに、クレスポが横からキスしてくる。  
「んっ」  
 アイリも自ら口を合わせ、くちゅくちゅと舌を絡めた。  
 熱い、長いディープキス。  
 口を離すと粘液が二人を結び、そして微笑み合って、抱き合った。  
 
「ふぅ」  
 一息ついたアイリは、クレスポの意外に逞しい胸に頬を預けながら、お腹を撫でる。  
飛び散ったクレスポの子種を指ですくうと、ぺろっと舐めてみた。  
「やだ。にがーい」  
 顔をしかめるアイリを、クレスポは優しく見つめ、そのポニーテールを手でなぞるように撫でていく。  
サラサラでフワフワの髪の感触が心を落ち着かせた。  
「もう。ナカで出してもよかったのに」  
「えっ?」  
 きょとんとクレスポ。最初交わったときは勢いで中に出してしまったが、それ以降は外に出すようにしていた。  
「で、でも……その、できるっスよ」  
「だからよ」  
 クスッと愛嬌のある笑顔をアイリは近付ける。クレスポの顔に。  
 ドギマギしてしまって、クレスポは胸を高鳴らせた。さっきまで一つに合わさっていたのに。  
「そ、それって……子供が、欲しいって、ことっスか?」  
「あら。クレスポは欲しくないの?」  
 アイリは微笑を寂しそうな顔に変えて、  
「私を抱くのは遊びなんだ」  
「そ、そんなことないっスよ」  
 慌ててクレスポはアイリをぎゅっと抱き寄せる。ふくよかな女体を全身で感じ、血潮が沸き立った。  
「お、俺もっ! アイリちゃんとの子供が欲しいっス!」  
 目にうっすらと涙すら浮かべ、クレスポはより強く深くアイリを抱きしめる。  
虚弱体質の彼は子孫を残そうとする本能が強いのかもしれない。  
「うおーっ! 今日はバリバリやるっスよ!」  
「うん。きて、クレスポ……」  
 そしてまたベッドがギシギシとなった……。  
 
 クレスポがアイリと初めて結ばれてから数日。  
 クレスポはすっかりアイリの肉体に夢中になっていた。盗賊ギルドの幹部とはいえ、まだ少年のクレスポが肉欲に溺れるのも仕方ないのかもしれない。  
 
 そんな怠惰な日々を過ごす中、今日はアイリちゃんの店に仲間全員が集まっていた。  
レイド事件を解決した報奨金で買ったアイテムを見せ合う為に。  
「ほら、見てくれっス! この剣!」  
 合言葉を唱え、クレスポが手を差し出す。  
「あら。何も見えないじゃない」  
 シャイアラの目にはクレスポが軽く拳を握ってるようにしか見えない。  
「ふふーん。これは正直者にしか見えないショート・ ソードなんす!」  
「……ふーん」  
 全員視線が疑わしい。  
「ああ。それはシャイ・ブレードですね」  
 クイクイと眼鏡を動かしながら、ブックが説明してやる。  
「合言葉を唱えると、見えなくなる魔法の小剣です」  
「ふっふーん。さすがブックす。俺はこの凄い魔剣と魔法の鎧をを買ったスよ!」  
「あら。てっきり、クレスポが『見えない魔法の剣だ』とか言われて騙されたかと思ったわ」  
「むーっ! そんなことないっすよ。ほら!」  
 クレスポが手を下に向けて突き出すと、テーブルにぴしっと細い亀裂が走る。見事な切り口の細い傷穴が。  
「ほらほら。確かに見えない剣っスよ!」  
「馬鹿っ!」  
と、得意げなクレスポの後頭部をお盆が殴りつけた。  
「うちのテーブルに何するのよ!」  
 アイリちゃんだ。ぷーと頬を膨らませると、殴ったクレスポの頭をよしよしと撫でて、  
「大丈夫クレスポ? 頭痛くない?」  
 優しい言葉をかける。  
「平気っス! あ〜。でも、もっとナデナデしてほしいっスよ!」  
「はいはい。また今度ね」  
とウィンクして彼女は去っていった。  
 そんな二人のやり取りを、仲間たちはにこやかに見守っている。約一名を除いて。  
「あーらら。すっかりラブラブね。ねえベルカナ?」  
「……」  
 シャイアラが呼びかけても返事は無い。ベルカナは蒼ざめた表情で硬直していた。  
「ベ・ル・カ・ナ!」  
「はっ!?」  
 ベルカナは固く握ったままの杖を差し出して、  
「わ、わたしはこのソーサラー・スタッフを買いましたわ!」  
「いや、それは聞いてないけど……。うん、まあ良かったわね」  
「はい! 前から、ずーっとずーっと欲しかった杖です!」  
 ぎゅっと魔法の杖を握り締め、ベルカナは早口で捲くし立てる。  
「ほう。それはまた貴重な杖ですね」  
 ブックがクイクイと眼鏡を動かして、杖を観察していく。それから、思い出した様に、鞄から本を取り出した。  
「ベルカナさん、この本ありがとうございました。とても面白かったですよ」  
とブックが差し出したのは、『巨人族大全』。賢者の学院からベルカナが借りた本を、さらにブックに貸していたのだ。  
「え、ええ……。それは良かったですわ」  
 受け取った本をしまって、ベルカナはやっと本来の調子を取り戻す。  
 
「また、何か読みたい本があれば借りてきますわ」  
「その時はまたお願いします」  
 クイクイと眼鏡を動かしつつも、ブックは好奇心に目を輝かせる。この好奇心の強さはやはりグラスランナーだろうか。  
 本は貴重だ。本好きのブックにとって、賢者の学院は本がたくさんあるというだけで憧れの場所でもある。  
中には貴重で珍しい本もたくさんあるのだ。  
 だが魔術師でない彼には、こうしてベルカナに頼むしかない。  
「それで、ブックさんは何を買いましたの?」  
「ボクはこの魔法の槍と鎧を買いました」  
とブックも購入した魔法の武具を見せてくれる。  
「うんうん。みんな強くなっただべな」  
 笑顔で頷くマロウは何も買っていない。だがこうしてみんなが嬉しそうにしているのを見ているだけで、彼も幸せな気分になれるのだ。  
彼は仲間のみんなが大好きだから。  
 
「はぁ……」  
 今日はそのまま晩餐となり、全員で夕食を摂ることになった。  
「ほらベルカナ。そんなため息ついてると、幸せ逃しちゃうわよ」  
「すみません……」  
 何故か謝ってしまうベルカナ。その視線の先では、食事を運んできたアイリちゃんがクレスポと楽しく語らっている。  
「アイリちゃ〜ん。今夜はどうっスか? たまには野外で」  
「もうクレスポったら。そういう趣味?」  
 楽しく。  
「はぁ〜」  
 それとは対照的に、重い、とても重いため息をベルカナは吐く。切ないほどに。  
「どうしたべベルカナ。元気ないべな」  
「いえ……大丈夫ですわマロウさん」  
 マロウは心底心配しているが原因には気付いていない。  
「そうそう。この病ってのは他人には治せないものよ」  
「何か病気なんですか? この本に載ってますかね」  
 シャイアラは面白がるだけで、ブックは本にしか興味が無い。  
「はぁ〜」  
 三度目のため息。だが今度は決意のため息だった。  
「皆さん」  
 シャンと背筋を伸ばしてベルカナが呼びかけると、マロウ、シャイアラ、ブックが顔を向けた。クレスポだけは遠くにいるアイリちゃんを目で追っている。  
「ごほん」  
 その咳でクレスポもこっちを見てくれた。  
「招待状ですわ」  
 ベルカナが全員に差し出したのは招待状のカード。  
「招待状? 何のだべ」  
 受け取りながらマロウが全員を代表して訊ねる。  
「わたしの、18の誕生日です」  
「へ〜。誕生日だべな。それはめでたいだな」  
 そう言ったマロウ自身は年齢不詳のハーフエルフ。だが他人の誕生日は素直に嬉しい。  
「私の家で誕生日のお祝いを開きますの。皆さんぜひいらしてくださいね」  全員に招待状を渡してニッコリと微笑むベルカナ。視線はクレスポに向けて。  
「ん。それじゃあ誕生日プレゼント用意しなきゃ」  
と言ったシャイアラも、クレスポに視線を向けていた。  
「いえいえ、そんな。特大の魔晶石で十分ですわ」  
 そしてベルカナはしたっぱーずの五人や、この店で住み込みで働くレミィちゃん、そしてアイリちゃんにも招待状を渡していく。  
 
「はい、わたしの18の誕生日です。ぜひ、アイリさんもいらしてください」  
「えっ? でも……ごめん、店があるし」  
「どうしても休めませんの?」  
 きゅっと悲しそうに眉を中央に寄せてベルカナが寂しげに言う。  
「う〜ん……」とアイリも思い悩んでいると、  
「それなら、この店でやったらどうっスか?」  
とクレスポが横から声を挟む。  
「この店で、ですか?」  
 その発想はなかったのか、ベルカナはしばし腕を組んで考えた。  
 いつもの策を練る顔で。  
 ベルカナとしては自分の家でパーティーを開くつもりだった。その方がいろいろとやり易いから。  
「そうですね……。お父様もこの店や皆さんを見たいと仰っていましたし。お願いしてよろしいでしょうか?」  
 ベルカナの父親は高名な傭兵だ。無数の戦場を駆け回った父親なら、酒場には慣れているだろう。  
「任せて。腕によりをかけるから」  
 きゅっと手を握るアイリに、ベルカナはドキンっと胸を高鳴らせた。  
 仕事で荒れているはずなのに、柔らかく暖かい手。その手を、ベルカナも握り返す。震えを悟られないように。  
 そして心にしっかりと刻み付けた。  
 アイリの顔と瞳、髪、触れる手の感触も……。  
 
 そしてベルカナの誕生日まで各自準備を進めていく。  
 
 昼間から賑わうアイリちゃんの店。  
「う〜ん」  
 クレスポは珍しく悩んでいた。同時に自分がいくら考えても答が出ない事も悟る。  
「アイリちゃん、アイリちゃん」  
 分からなければ分かりそうな人に聞けばいい。素直に他人を頼るのはクレスポの良い所だ。  
何が出来て何が出来ないか分からないようでは生き残れない。  
「何よ」  
 お盆を片手に忙しく立ち回りながらアイリがやって来る。嫌そうではなく、心底嬉しそうな笑顔で。  
「ベルカナの誕生日なんスけど。プレゼントは何がイイっスかね」  
「……それを私に聞く?」  
 見る間に笑顔が微妙になる。  
「聞いちゃいけないんスか?」  
「もういいわ。自分で考えるのね」  
 ぶっきらぼうに突き放して、アイリは行ってしまう。  
「むむ」  
 何が何だか分からないがアイリちゃんに聞くのは不味いようだ。  
 仕方なしに別のツテを当たる。  
 シャイアラさんは同じプレゼントが重なるといけないからパス。  
 クレスポは盗賊ギルドに向かった。体術の長の懐刀にして愛人 コルネリアさんの所へ。  
 何から何まで大人のコルネリアさんなら女の子の誕生日プレゼントも熟知しているはずだ。  
 そのコルネリアさんの答はシンプルだった。  
「女の子に誕生日プレゼント? それはやっぱりヒカリモノよ」  
「ヒカリモノっスか?」  
「そうよヒカリモノ。良い店紹介してあげる。特にエンゲージリングとか喜ぶわよ」  
「それって、婚約指輪!?」  
 
「ふふ。そうよ。クレスポ君も盗賊ギルドの幹部なんだから、女の子をキープしとかないと」  
 クスッと妖艶な笑みを浮かべながら、コルネリアはふわふわした髪を掻き揚げる。その耳を美しいイヤリングが飾っていた。  
「そ、そうっスね! ロマール中の看板娘を手中に!」  
「その意気よ。頑張って」  
 チュッと投げキッスをもらい、クレスポは有頂天になって、コルネリアさんから教えてもらった宝石店に向かった。  
 山の手にあるロマール有数の高級宝石店は完全会員制で部外者は立ち入ることも出来ない。  
コルネリアさんの紹介で入れてもらったクレスポは、店員の従者が主人に接するような敬うような物腰に内心動揺し、照会される数々の宝石に目を奪われた。  
だがこれも盗賊ギルドの幹部の修行と気を引き締める。幹部ともなれば、こうした高級店に物怖じしてはいけない。  
 そして指輪を一つ買ったクレスポはすっかり所持金が無くなってしまった。  
シャイ・ブレードと魔法の鎧を買ったばかりで持ち金がほとんど無かったのである(それもシャイアラにお金を借りている)。。  
これでは誕生日プレゼントは買えない。  
「うーん、うーん……ヒカリモノ、ヒカリモノ。おっ、そうだ」  
 ピンと思いついたクレスポはロマールを離れ、久しぶりに漁に出た。彼は元々漁師だ。  
「待ってるっスよベルカナ。俺が大物を釣って来るっス!」  
 
 そしてクレスポが戻ってきたのはベルカナの誕生日当日だった。  
「ちょっと。どうしたのよクレスポ」  
 アイリちゃんの店に戻ると、姿が見えないので心配していたアイリちゃんが早速駆け寄ってくる。  
「へへ。ちょっと、プレゼントを釣りり」  
 鼻をすするその顔は実に清清しかった。大勝負を乗り越えた男の顔。  
「もう。みんな準備してるわよ」  
 店では今夜貸し切りにして、ベルカナの誕生日パーティーが行われることになっていた。  
 その為の準備はもう済ませてある。ベルカナ自身の準備も……。  
 もう食事や飲み物は並べられてあった。後は主役のベルカナが父親と一緒に来るのを待つだけ。  
マロウ、シャイアラ、ブック、レミィちゃんやしたっぱーずもきちんと用意して待っている。  
「おっ。それじゃあ俺も着替えを」  
とクレスポは自分の部屋に戻って、顔を洗って服を着替える。以前、貴族のノアさんにもらった紳士服に。他の仲間もその時の服装をしていた。  
 
 そしてクレスポがすっかりパーティー会場になった一階に戻ってくると−  
「ようこそ、いらっしゃいました」  
 父親に手を引かれるドレス姿のベルカナが店に到着していた。  
 お辞儀して出迎えるアイリも、いつもの給仕服ではなく青いワンピース姿。  
「うんうん。キレイっスよ」  
 クレスポの目は主役のベルカナではなく、アイリちゃんに向けられていた。  
 
「皆さん。今日はわたしの誕生日にわざわざありがとうございます」  
 ベルカナがぱぺこりと挨拶して、誕生日パーティーが始まった。  
「おめでとうだよベルカナ」  
「おめでとうベルカナ」  
「おめでとうですベルカナさん」  
 仲間たちが口々にお祝いを述べて、誕生日プレゼントを渡していく。  
 マロウはモーブ村名物モケケピロピロの干物のセット、シャイアラは希望通りの魔結石、ブックはやっぱり本(同じものをもう一冊持っている)。  
 
 レミィちゃんはよれよれの手編みの手袋渡し、したっぱーずもそれぞれプレゼントを渡していく。  
 そしてアイリちゃんも。  
「おめでとうベルカナちゃん」  
「ありがとうございますわ、アイリさん」  
 二人の少女は手に手を取ってにこやかに微笑み合う。アイリのプレゼントは青いリボン。ベルカナの長い髪に良く合うお洒落なデザインをしていた。  
 それからクレスポも。  
「おめでとうっス、ベルカナ」  
 サッと差し出したのはちょっと大き目の木の箱。  
「取れたてのヒカリモノっスよ」  
「まあ。ありがとうございます」  
 ベルカナが目を輝かせて箱を開けると−  
 
 サバが入っていた。ぴかぴか光る魚のサバ。  
 
 漁師のクレスポにとって、ヒカリモノといえばやはりコレだろう。  
「まあ。よく光るサバですわね」  
「いやー。このサバを釣るのは苦労したっスよ」  
 ベルカナは取りあえずサバを受け取ると、言った。  
 一緒にせーの、  
 
「サバじゃねえっ!」  
 
 そんなこんなでパーティーは和やかに進む。  
「やあ。キミがクレスポ君か」  
 ごつい男に呼びかけられ、クレスポはわずかに緊張する。父親のテイワズだ。  
「ど、どうもっス」  
「いつも娘がお世話になってるようで」  
「いやいやいや。とっても頼りになるっスよ」  
 テイワズの目の奥、ちらちらと力強い意志を見て、クレスポは背筋に冷や汗が流れるのを感じた。  
 有名な傭兵とは聞いていたが、やはり娘のことになると父親の顔になる。すなわち、娘に近づく悪い虫を追い払う父親に。  
「やあ、どうもだべ、ベルカナのお父さん」  
 そこにクレスポにとってはタイミングよくマロウが話しかけてくる。  
 父親の相手はこの純朴なハーフエルフに任せよう。その方が父親も安心するっス。  
 クレスポはそっとその場を離れ、食事が並んだテーブルに向かった。そこにアイリちゃんがいるから。  
「どうっスかアイリちゃん?」  
と言われても。  
「何がよ」  
「楽しんでるっスか?」  
「うん。クレスポは?」  
「楽しいっスよ」  
 普段と違うワンピース姿のアイリを上から下まで見て、  
「今日はとびきりキレイなアイリちゃんが見れたっスから」  
「もう。そういうのは主役に言ってあげるの」  
 そのベルカナは、レミィちゃんやジーン、シャイアラと一緒に談笑に耽っている。女の子同士の話なのだろうか。  
時折キャッキャとはしゃぐ声が聞こえる。シャイアラさんの声だ。  
「な、なあ……」  
「ん? 何」  
 首を傾げて見上げるアイリちゃん。ポニーテールも一緒に傾く。  
 その顔はいつもより輝いて見えて……。  
 
「い、いや、その……」  
 クレスポの手は懐の箱に伸びていた。  
「どうしたの?」  
 急にアイリちゃんが顔を寄せるものだから、クレスポはうっと息が詰まってしまう。やっぱりいつもと違う。  
「ちょ、ちょっとこっちに」  
 その腕を掴むと、すぐさま裏口に向かった。人目から逃れるように裏口から出る二人を、猫のイガーだけが見ていた。  
ベルカナの使い魔のこの猫は最初からクレスポに張り付いていたのだが。  
 
「何よ……こんな所に」  
 薄暗い裏庭。夜闇がうっすらと周囲を包み、アイリの見上げるクレスポも暗くなっていた。  
いや暗闇のせいばかりではない。緊張した彼の顔が暗く見せているのだ。  
「アイリちゃん……」  
 クレスポの手が背中に回り、彼女の細い腰を抱き寄せる。  
「んっ」  
 アイリはそのままクレスポに身を預け、胸に顔を埋め、ハァと息を吐いた。  
そして彼に顔を向け、目を閉じる。  
 クレスポは黙って唇を重ね、サラサラの甘い口を味わい、舌を絡めていった。  
 くちゅくちゅ……  
 淫らな音が静かな闇に広がり、すぐに消えていく。  
「はぁ……」  
 口を離し、クレスポは熱い吐息を吐いて、アイリの服の上から胸に手を置いた。  
 欲しい。どうしようもなくアイリが欲しい。  
 ズボンの下の男根が固く伸び、アイリのスカートに当たっていた。  
「……うん」  
 胸の中でこくっとアイリが頷く。クレスポは大事な話も忘れて、彼女のスカートの中に手を伸ばして……。  
「アイリさーん」  
 声にピクッと二人は離れた。  
「アイリさん。いますかー?」  
 ベルカナの声だ。  
「あっ。はいはーい」  
 さっとクレスポから離れたアイリが裏口に向かう。その裏口の扉からベルカナが声を出していた。  
「あ、アイリさん。申し訳ありませんけど、お部屋を用意してもらえますか?」  
「部屋?」  
「はい。お父様が酔い潰れてしまわれたようで、今夜はお泊めしていただこうかと。私の部屋もお願いします」  
 ベルカナから渡されたワインを飲んで、テイワズはすぐに寝てしまったのだ。  
いつもなら酒には滅法強い父なのに。  
「うん、分かった。それじゃあ個室を二部屋ね」  
「はい。お願いします」  
 女の子二人が中に入るのを確認し、クレスポははぁ〜と深く息を吐いた。  
 そしてズボンの中で膨張したちんこが静まるのを見ながら、懐から取り出した箱を弄ぶ。  
 
 ようやくちんこも収まり、クレスポが店内に戻ると、ベルカナを除く仲間が全員揃っていた。  
「クレぽん。オラ、ちょっとモーブ村に里帰りするだよ」  
 ベルカナの父親と話しているうちに、親が恋しくなったのだろうか。  
「アタシもついてくの。久しぶりにゆっくりしたいし」  
 マロウの腕に手を絡み付けてシャイアラが甘い声で言う。モーブ村の特産モケケピロピロは彼女の好物だ。  
 
 シャイアラが行くならもちろんブックも一緒だ。  
「ボクもお供しましょう。久しぶりにポチの相手もしないと」  
 モーブ村のすぐ近くの遺跡の守護者であるスフィンクスのポチは、彼らの友達だ。  
「あら。いいですわね」  
 階段を降りながら、ベルカナが頭上から声をかける。  
「わたしも久しぶりに話がしたいですわ。一緒にまいります」  
「あー。みんなが行くなら俺も行くっス!」  
 予想通り付いてくると言ったクレスポに、ベルカナは内心ほくそ笑む。  
ロマールから離れたモーブ村なら余計な邪魔は入らない。そしてロマールでもいろいろと出来る。イロイロと。  
「あれ、アイリちゃんはどうしたっスか?」  
「アイリさんならお父様を部屋に運んで見てもらってますわ」  
 ベルカナはそそくさとクレスポの耳に口を寄せ、  
「アイリさんからの伝言です。後でクレスポさんの部屋に行きますからと」  
 ビビクンっとクレスポの細長い体が震えて、ブラブラと頭が揺れた。  
「あら。どうかしました?」  
「い、いや……」  
 頭を振って気を落ち着けると、クレスポは皆に言う。  
「悪いっス。それじゃあ俺、先に上がらせてもらうっス」  
 うきうきと今にも浮かび上がりそうな足取りで、クレスポは部屋に上がっていった。  
 ベルカナがニヤッと笑っているのも気付かず。  
 
 部屋に戻ると、クレスポは動きにくい紳士服を脱いで、いつもの格好に戻ってベッドに飛びついた。  
そしてモフモフと布団に顔を埋める。  
「よーし。今日こそ決めるっス」  
 手に握った箱を握り締め、しっかりとクレスポは腹を据えた。  
 しばらくゴロゴロしてると、  
 
 コンコン  
 
 扉が小さくノックされる。  
 きた!  
 逸る心を落ち着かせ、クレスポは出来るだけ平静な声で言う。  
「ど、どうぞ」  
 そっと扉が開かれ、人影が飛び込んできた。  
 部屋に入ってきたアイリはマントですっぽりと体を覆っていた。そしてすぐに扉を閉める。  
   
 閉められた扉の向こうの廊下では、一匹の猫がトコトコと歩いて来て、扉の前に座り込んだ。  
 
「ふふっ。きちゃった」  
 顔をほころばせると、アイリはバッとマントを脱ぎ捨てる。  
「ぶっ」思わずずっこけるクレスポ。  
 その下はエプロンしか身に付けていなかった。いわゆる裸エプロンです。  
「ア、アイリちゃん……」  
 呆然とするクレスポに、アイリはモジモジと指を絡めて、身を震わせ、  
「へ、変かな?」  
「全然っ! OKっスよ!」  
 ビシッ! とクレスポは親指を立てる。裸エプロンのアイリに鼻血を出しそうになりながら。  
 ふと真顔になって、  
「ア、アイリちゃん……その、大事な話があるっスよ」  
 
「話はあと」  
 跳ねるようにクレスポの胸に飛びつき、アイリは囁いた。  
「暖めてよ……寒いんだから」  
 むはー!  
 鼻息荒くクレスポはアイリを抱きしめ返す。手にした箱は横において。  
 熱い鼻息が頬にかかり、アイリは嫌そうな顔をする。それも一瞬。  
 そっと目を閉じて、クレスポに口を突き出した。  
 勢いよくクレスポも口を突き出して、むちゅっと強く重ねる。  
 瞬間、アイリの体がプルッと震えた。  
「……」  
 ツーと目の端から涙がこぼれる。  
「アイリちゃん?」  
 流れる涙に気付いて、クレスポは顔を離した。  
「へ、平気ですわ。嬉しくって、つい……」  
「何度もしたじゃないっスか」  
「今日は特別ですわ」  
「そうスね」  
 サラサラした感触のエプロンの上からアイリを抱き寄せると、しっかりとふくよなか肉感が返ってくる。  
 クレスポはそのまま抱きしめたアイリをベッドへと寝かせて、上から覆いかぶさった。  
「やん……あ、慌てないでください……」  
 腕の中でアイリが身じろぐ。  
「お、俺……もう我慢できないっスよ」  
 アイリに胸の谷間に顔を埋め、エプロンの上からふにふに揺すると、胸もぷるるんと震えた。  
「やっ……あうぅ……」  
「ふはぁ……。なんか、いつもより胸が大きいみたいっス」  
「エ、エプロン効果ですわ」  
 うっすらと汗を浮かべながら、アイリは恍惚とした表情で胸に顔を埋めるクレスポの頭を手で包む。  
「ク、クレスポさん……胸ばっかりじゃなくて」  
 クレスポの頭を持ち上げたアイリは、素早く身を捻ってうつ伏せになる。  
 白い背中、丸々としたお尻が眼下に広がり、クレスポは嫌がおうも無く、昂ぶりを覚えた。  
「きゃっ!」  
 背中から勢いよく抱きつき、エプロンの隙間から手を入れる。直接揉んだ乳房は、やはりいつもより柔らかく感じた。  
「ああっ……! ふぅん! やだ、そんな、急に……」  
 アイリの反応もいつもより過敏に思えた。  
「ア、アイリちゃん……可愛いっス!」  
 背中に舌を走らせると、甘酸っぱい汗の味。そして白い背筋がビクンッと仰け反った。  
「やんっ」  
 エプロン内の手がモゾモゾと蠢き、二つの突起を摘む。  
「アゥ…アッ、アッ……」  
 コリコリと乳首をしごくと、アイリの白い背中が仰け反り、丸いお尻が揺れた。  
 ごくっと生唾を飲み込んだクレスポは、そのお尻にしゃぶりつく。  
「きゃんっ」  
 噛まれた丸い尻がガクガクと震えた。クレスポはそのまま果実に舌を走らせ、尻を二つに割る、穴まで舐めていく。  
「やっ……! ダメ、そんなところダメですわぁ……!」  
 太股に力を入れながら、喉を仰け反らせてアイリちゃんが喘ぐ。クレスポの舌の動きに合わせて、尻を突き上げ、ガクガクと震えていた。  
「やっ、いきなりこんな……すごすぎます……!」  
 
 尻に触れる舌にジュッと熱い液が感じられる。先走りのおしっこだ。  
 それをクレスポはちゅーと音を立てて啜る。  
「はあぁーっ! やぁ、いやっ!!」  
 あまりにもお尻を大きく振るものだから、つい顔が離れてしまう。  
「はぁ……あぁ」  
 お尻を高く掲げたまま、アイリちゃんは顔をシーツに埋め、涙目で息を整えた。  
エプロンからこぼれるその花弁はすでにしっとりと濡れている。  
 背後からまざまざと凝視し、クレスポは呟いた。  
「アイリちゃん……ここ、剃ったんスか」  
「え?」  
 陰毛が生え揃っていた茂みは、今はほとんど毛がなく、しっかりと割れ目を晒している。  
「は、はい……クレスポさんの為に……」  
 言いながら、さらに尻を掲げ、アイリは腰を振るわせた。  
「そんなことより……早く、ください……」  
 はしたないと思いながらも先を急いだ。恥ずかしさを覚えつつも、はしたなく尻を差し出す。  
「いくっスよ……」  
 しかしクレスポに依存があるはずもない。ズボンを脱ぎ捨て、細長い肉竿を取り出すと、腰をしっかり両手で抱えて、背後から狙いを定める。  
四つん這いで尻を掲げるアイリちゃんに。  
「ハアァーッ!」  
 クレスポが背後から肉竿を埋めた瞬間、ポニーテールがゆらゆらと揺れ、アイリちゃんは背中を仰け反らせた。  
「いたっ……! 痛い、ですわっ……!」  
「はぁ……アイリちゃん……アイリちゃん!」  
 背中を向けて、苦痛に歪むアイリの顔はクレスポには見えていない。そして太股を流れる赤い血には気付かなかった。  
ただ背後から突き上げ、夢中になって腰を振る。  
「はがあぁっ!」  
 狭い花弁が抉られ、細長い肉竿がギチギチとした狭い肉壷をかき回す。そして与えられる刺激と痛みに膣が収縮し、さらにクレスポを締め付けた。  
「はぐうぅ! がぁ……ああっ、アーッ!」  
 四つん這いで舌を向くアイリの目から涙が飛び散り、唇を固く噛み締めるが、苦痛に歪んだ喘ぎが漏れる。  
手はしっかりとシーツを握り、エプロンは汗を吸い、尻はクレスポの動きに合わせてゆらゆらと揺れていった。  
「いいっス! 最高っス!」  
 まるで初めてのときのようなぎこちない肉壷と狭さに、クレスポはガンガンと腰を打ちつけ、パンパンと肉を打ち合わせた。  
「はがああっ! あがああっ!」  
 四つん這いになったアイリが背筋を仰け反らせ、ゆらめく白い背中をクレスポは血走った目で凝視する。  
手が柔らかい肉尻に食い込み、花弁に突き刺さった肉竿は遠慮なく肉の花を開いていった。  
「はぁ……アアアアァーッ!!」  
 一際甲高い声と共に、アイリの腰がガクンッと落ちる。そのままクレスポも腰を落とし、同時に精を放った。  
「アアッ!? はぐううううぅっ!」  
 腰を落としても繋がった性器は離れることなく、子宮に向けて精子を流し込んでいった。  
「熱い……熱いですわーっ!!!」  
 顔を上げたアイリは涙を飛び散らせ、熱い射精の衝動を受け止めて、達した。  
「……こんなの…凄すぎますわぁ…」  
 口からハァと熱い息が漏れた。  
 
 短い射精を終え、クレスポは背後から貫いていた肉竿を抜く。そして既に萎んだそれをしまうと、ハァハァと息を吐くアイリの頬にキスした。  
彼女はがっくりとベッドにうつ伏せのまま沈み込み、痛みに耐えるように顔をしかめている。  
だがすぐにニッと微笑むと、くるっと反転して仰向けになり、顔を上げた。  
「すごい……良かったですわ」  
「俺も」  
 顔を引き寄せ、再びクレスポは口を重ねる。  
 そして横に置いていた小さな箱を差し出した。  
「はい。アイリちゃんにやるっス」  
「これ……よろしいのですか?  
 もちろん、と言うように頷くクレスポ。  
「開けてみて」  
 言われるまま開けると、指輪が入っていた。  
 純銀製の輝く指輪。一目で高価なものだと知れた。  
「こんな……これって」  
 思わずアイリの口がパクパクと開閉する。  
「へへっ。俺からのプレゼントっスよ。受け取ってくれないっスかね」  
 照れたように鼻をすするが、クレスポの目は本気だ。  
「はい……喜んで頂きます」  
 神妙な顔つきで指輪を手に取ると、アイリはそれを左手の薬指に填める。  
ピッタリとアイリの指に収まった。  
「サイズはぴったりスか?」  
「はい……」  
 指に輝く指輪を胸に抱きしめ、アイリはうっとりと目を閉じた。その瞳から涙がこぼれる。  
「ア、アイリちゃん…?」  
「心配しないでください……。これは嬉し涙です」  
「へへ」  
 照れたようにに笑うと、クレスポはそっと頬にキスして、流れる涙を舐めた。甘酸っぱい味がする。  
「ありがとう……ございます」  
 か細い声でそう呟くと、アイリはするするとベッドから降りる。  
「今日はもう失礼します……」  
 脱ぎ捨てたマントに裸エプロンの体を包むと、扉に向かった。  
 クレスポはちょっと残念そうな顔をしながらも、笑顔になって見送った。  
「ん。お休みなさいっス」  
「はい……お休みなさい」  
 そっと扉を開け、アイリはすぐに出て行く。  
 バタン。扉が小さな音を立てて閉まった後、  
「やったー!」  
 クレスポは両手を上げてバンザイした。  
 
「ふぅ」  
 部屋から出たアイリはホッと安堵した息を出す。その足元では猫のイガーが擦り寄っていた。  
「ご苦労、イガー」  
 誰か来ないか見張りをしていた使い魔に声をかけ、彼女は自分の部屋に向かう。アイリちゃんが用意してくれた部屋に。  
 誰も見ていないのを確認して部屋に入ると、マントを脱ぎ捨て、魔法を解除する。  
 その姿が変わっていく。  
 髪は長くなり、チョコレート色になる。胸は小さくしぼんでいた。  
 アイリは一瞬にしてベルカナの姿になっていた。いや、本来の姿に戻っただけ。  
 ベルカナは"シェイプ・チェンジ”の魔法で変身していたのだ。アイリに。  
 
 そして本物のアイリは、この部屋のベッドでぐっすりと眠りに就いている。  
「ふふ。ブックさんからもらったお薬。よく効きますわ」  
 この日、ベルカナはブックに頼んで眠り薬を持ち込んでいた。  
『賢者の学院から貴重な本を借りてきてあげますわ』  
 そう約束すれば、ブックはすぐに眠り薬を調達してくれた。おそらくは読書仲間のドナートさんから貰ったのだろう。  
彼は毒物・薬物学の権威だ。それを見越してブックに頼んだから。  
 眠り薬をどう使うかブックは詮索しなかった。本が読めればそれでいいから。  
 その効果は抜群だった。ワインに入れて父テイワズに飲ませると、たちまち眠ってしまった。屈強な傭兵でも薬には弱いらしい。  
そしてアイリと一緒に父を部屋に運ぶと、次にこのベルカナのためにに用意してくれた部屋で、アイリにワインを飲んでもらった。  
『わたしの誕生日を二人だけでお祝いしてください』  
 そう言うと、アイリは何の疑問も持たず、ワインを飲んで、そしてぐっすりと眠り込んだ。魔法の眠りの雲ではこうはいかない。  
「ふふふ……」  
 暗い笑みを浮かべ、エプロンも脱ぐ。  
 "シェイプ・チェンジ”で変身したとはいえ、裸を完全に真似るのは難しい。  
そこで裸エプロンプレイということで、体を隠したのだ。  
 結局、細部はやはり違ったようだが、何とか誤魔化せた。元々交尾中で発情した男など注意力が散漫になるもの。  
「んぅ……」  
 痛む内股に手を差し伸べ、指を引き上げる。そこにはねっとりと濃い液体が付着していた。  
クレスポの精液だ。  
 そして今日、ベルカナは処女を彼に捧げた、誕生日プレゼントとしてはまずまず。  
「これは……なかなか良い指輪ですわね」  
 左手の薬指に填めた指輪を眺め、ベルカナはぺろっと舌を舐める。全裸で。  
 コルネリアさんの紹介してくれた店で購入した指輪は確かに逸品だった。  
 ベルカナは一目で気に入った。もう手放す気はない。彼も。  
 ちゅっと指輪にキスし、目は眠ったままのアイリに向けられる。  
 
「さて。これからどうしましょう?」  
 
(つづく)  
 

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