「うぅん……」  
 可愛い顔で寝返りをうつアイリちゃんの顔を、誰かの手がぺちぺちと叩く。  
「起きなさーい。起きなさーい」  
 ぺちぺち、ぺちぺち。  
「うん……」  
 だが微かな息遣いを鳴らすだけで、起きる気配はない。  
「あのお薬……効果強いですわね」  
と少年の声が囁く。  
「でも……やっぱり、可愛いですわね」  
 悔しいがそれは事実だ。  
 ワンピースをしわくちゃにしながら眠りこけるアイリの姿は、とても魅力的で、健全な男子ならそそられるだろう。  
「そうですわ」  
 ちょっと思いついて、耳に口を近付けて、ハァと息を吹きかけた。熱く。  
「ひゃっ!?」  
 ベッドで寝ていたアイリがビクッと飛び跳ね、慌てて周囲を見回す。  
 ゴホン、ゴホンと咳をして、目の前の人物が言った。  
「やっと起きたっスね」  
「クレスポ……きゃっ!?」  
 側に居るのが彼と気付いてホッとし、それから反射的に目を背ける。顔を赤らめて。  
「なに恥ずかってんるんスか」  
 そう言ったクレスポは全裸だった。いつもの鉢巻も外して、髪はボサボサになっている。  
腰からは、びよーんとちんこがぷらぷら揺れていた。それを縮れ毛のような陰毛が覆っている。  
「な、なななな、何やってんのよ!」  
 手で顔を隠して、嫌々と首を振るアイリ。ポニーテールも一緒に揺れる。  
「なにって。ベルカナがアイリちゃんが寝ちゃったからって言うものだから、迎えにきたんスよ」  
「えっ!?」  
 ふとアイリは思い出して、自分の格好を見下ろす。いつもの給仕服ではなく、  
一張羅のワンピース。  
 そうだ。今日はベルカナちゃんの誕生日パーティー。  
 彼女の父親のテイワズさんが早々に酔い潰れたので、部屋に運んで−  
 それからベルカナちゃんも個室に案内した。そう、この部屋だ。  
 ここでベルカナちゃんから、お祝いにとワインを頂いて……  
「そっか、私そのまま寝ちゃって……」  
「そうっスよ」  
 クレスポの顔が迫る。  
「んっ……」  
 赤らめた頬を舌で舐め、そのまま口を重ねて吸った。  
「……んぅ」  
 なんだかいつもより甘いキス。  
 クレスポが口を離すと、アイリはほぅと息をつぐ。  
「ちょっと……ここでするの?」  
 裸でベッドに上がりこむクレスポに、さすがにアイリは意図に気付いた。  
 
 −求められている。  
 
 それは女として嬉しいことだった。キュンと胸の奥が鳴り、股間が熱く湿る。  
「大丈夫っスよ、ベルカナも、使っていいと言ってたから」  
 ぶっきらぼうに言い放つと、再び口を塞いで、彼女の背中に手を回してきた。  
 目を閉じてキスを受け入れ、アイリもまたクレスポの腕をそっと手に取る。  
ひょろひょろのようで意外に筋肉のある腕。  
 そして目を開けた時、瞳は熱く潤んでいた。  
 
「ちょ、ちょっと待って。私も脱ぐから……」  
 アイリは一旦ベッドから降り、もう皺になったワンピースを脱ぎ出す。  
「俺も手伝おうか?」  
「いいわよ。クレスポったら、スカート脱がせるのだけは上手いんだから」  
 ボタンを外し、サラッとワンピースを脱ぐアイリを、クレスポは全裸でベッドに寝そべって、ニヤニヤと笑ってみていた。  
だが目は笑っていない。その彼女の下着をしっかりと目に焼き付ける。  
「はい、いいわよ」  
 アイリは脱いだ服をきちんと畳んで、ベッドに戻ってきた。この部屋にクレスポの服はないが彼女は気付いていない。  
「うん……。ちょっとそのまま立ってて」  
「え?」  
 じっとクレスポはアイリちゃんの裸体を凝視しながら言ってきた。  
「見たいんスよ。アイリちゃんの体」  
「もう……やだ……」  
 恥ずかしさに赤くなりながらも、アイリはすっと立ったまま、モジモジと裸体を晒してくれる。  
 少女らしい可憐さと女らしいふくよかさを兼ね備えたボディライン。  
 胸はよく盛り上がり谷間を形成し、その頂点の蕾は桜色に色付き。  
 しなやかに伸びた脚の付け根は、頭髪と同じ色の茂みに覆われ、乙女の園をひっそりと隠している。  
 その全てを、クレスポは真摯な眼差しで見つめていた。  
「やぁだ……そんな、見ないでよぃ」  
 キャッと飛び跳ね、アイリは照れたように抱きついてきた。  
「きゃっ」  
 思わず黄色い声を出してしまうクレスポ。ふくよかな胸が顔を包み、そのままパイズリに持ち込む。  
「ふふぅ……おっぱい気持ちいい?」  
「あ、ああ……最高っスよ」  
 顔に触れる柔らかな脂肪を感じ、内心メラメラと炎が燃え上がった。  
 腰に手を回し、クレスポは彼女をベッドに寝かしつける。  
「きゃん」  
 上を向いた乳房をわざとらしく手で隠し、アイリは潤んだ瞳で彼を見上げる。  
 クレスポはアイリの顔の横に手を置いて、上から優しく見下ろしてきた。  
 いつものギラギラした荒々しい目ではなく、とてもとても優しい眼差し。  
 アレ? とアイリは思った。いつもの荒い呼吸も感じない。  
 クレスポも慣れてきたのだろうか?  
「キレイだよ。アイリ」  
 だがその疑問も、クレスポの囁くような言葉がすぐに吹き飛ばす。  
「……ふはぁ」  
 歯の浮くようなセリフだが、アイリは胸の奥からジンと痺れた。今までのクレスポからは考えられない言葉。  
「うん……」  
 彼の胸に手を伸ばし、甘い香りが鼻をつく。  
「え?」  
 ふとアイリは内心首を傾げた。この匂いは……?  
「こっちも、よく見せてよ」  
 考える間もなく、クレスポが白い太股に手を這わせ、ゆっくりと内股を開かせる。そしてそこに顔を下げて見つめてきた。  
「へー、こうなってるんですのね……のか」  
 柔らかい太股に置いた手を、茂みの奥に伸ばしてみる。  
「きゃっ!?」  
 花弁に直接手を触れられ、アイリが微かに腰を揺らした。  
「感度はイイようだな」  
 そして割れ目左右の肉を摘むと、むにゅっと拡げてナカをしっかり凝視する。  
「やだっ……そんな、見ないでよ〜……」  
 
 股間に顔を埋めるクレスポの頭に手を置いて髪をぎゅっと掴み、アイリは潤んだ瞳を振って哀願する。  
 だがクレスポは全く聞いていなかった。  
「ふふ……。とってもキレイだよ」  
 まださほど使い込まれてないアイリの秘肉はピンクに輝き、膣の内部もドクドクと健康的に脈打っている。  
その上にちょこんと付いている肉豆を爪先でちょんと突付いてみた。  
「ヒイイイイイィっ!!!」  
 ビリビリとアイリの全身が振動し、クレスポにも伝わってくる。  
 予想外の敏感な反応に驚きつつ、クレスポは舌を伸ばして直接舐めてみた。  
「やっ……ふはぁ! だめ、ダメ、ダメダメ〜……やぁ!」  
 早速身悶えしながら、アイリがベッドの上で飛び跳ねる。髪を掴んでいた手はシーツに移り、ぎゅっと引っ張る。  
緊張して軽く上がった太股はバタバタと揺らめき、柔らかな感触で何度もクレスポの頬を打った。  
(ふふ……)  
 アイリの官能を直に感じながら、クレスポは目を煌かせ、花弁を舐め、舌でくすぐり、そして突付いた。  
「アーッ! あうっ、あうっ、あうっ!」  
 ガクガクとアイリの腰が大きく上下に揺れ、クレスポの顔も一緒に揺れた。悪酔いしそうだ。  
 そして内股からじゅっと熱い液を感じ、クレスポはようやく口を離した。  
「ほら……もうこんなに濡れてるじゃないか。この雌犬」  
 ハァハァと真っ赤な顔で息を乱すアイリを見据え、ちゅっと上から深くキスしていく。愛液の付いた口で。  
さらに唇を重ねながら、指は尚も肉壷を掻き回し、クチュクチュと愛液を付けていった。  
「んんっ……! んふぅー!」  
 口に彼を感じ、肉壷を指で掻き回され、上と下からの刺激にアイリの真っ赤な全身が、クレスポの体で硬直して脱力した。  
「ぷはぁ……」  
 口を離すと、クレスポは満足したかのように唇をぺろっと舐める。  
「美味かったぜ。アイリのここ……」  
 肉壷から引き抜いた指をぺろっと目の前で舐めてみせる。そこにはアイリの愛液がしっかりと付いていた。  
「はぁ……」  
 恍惚とした表情でアイリはその指を見上げていた。  
「ほら。お前も欲しいだろう」  
 差し出された指を言われるまま、ちゅっと口に含む。  
 自らの愛液がたっぷり付いた彼の指は甘く、口をすぼめて強く吸い出した。  
「……んぅ…はぁ…」  
 敏感な指の先端を舐められ、むず痒い感触にクレスポも切ない息を吐いてしまう。  
 
 ちゅっ、ちゅっ  
 
 うっとりとアイリが指を舐める度、クレスポもジンと腰の奥に痺れを感じた。  
「はぁ……もういいぞ」  
とクレスポは己の腰を見下ろす。  
 そこから伸びた肉竿はすでに限界まで勃起して反り返り、痛いほどだ。  
「わぁ……男の人ってこんな感じ……」  
 思わず思ったことが口に出る。それから真摯な声で言った。  
「こ、今度は……俺のを頼む」  
「うん……」  
 こくっと小さく頷き、アイリはすっとクレスポの腰にしゃぶりついていった。  
そこにある男の象徴に。  
 
「わぁ……クレスポ、なんだかいつもより大きい」  
 赤黒い亀頭を手でなぞると、それだけでビンビンと震えてしまう。  
「そ、それは……今日はいつもより特別だからさ……」  
 予想外の腰からに快感に、クレスポは歯を食い縛りながら言う。  
「うん……そうだね」  
 ふと寂しそうに切ない表情を見せ、アイリはぱくっと男根を咥えた。  
「ふはぁ……」  
 思わず感激の声が出る。  
 アイリの口はとても暖かくて狭くて……クレスポの肉竿を余すことなく包み、そして締め上げる。  
さらに先端をチロチロと舐める舌。  
「おおぅ!」  
 ガクガクと腰が前後に揺れ、アイリのポニーテールも揺れていった。  
「はぁはぁ……うっ」  
 慣れない刺激に、たちまち頭が真っ白になる。  
 クレスポは限界を感じ、アイリの口からサッとモノを引き抜いた。  
「ア、アイリ……いいか」  
「きて……」  
 求められている。その歓喜に身を委ね、口を唾液まみれにしたアイリは腰を開いた。  
そこに飛び込むようにクレスポは腰を割り込ませ、一直線に彼女の花弁を貫く。  
「あっ……アアアアーッ!」  
 瞬間、アイリの奥底から絶頂の波が押し寄せ、官能が全身を包み、クレスポの背中に回した手がぎゅっとしがみつく。同時に膣もきつく締め付けた。  
「イクっ! イクーッ!」  
 ギリギリまで腰を叩き付けたクレスポも、アイリをしっかりと抱きしめ、同時に達した。  
「アーッ!」  
 アイリの胎内でクレスポは果て、ドロッと無色透明の液を吐き出していく……。  
 
「はぁ、ハァハァ……」  
 抱き合ったまま絶頂の余韻に浸り、二人は顔を見合わせフッと笑い合った。  
「すごかった……。なんだか、いつものクレスポじゃないみたい」  
「ふふっ、そうさ」  
 動揺を悟られないように、汗を浮かべた顔をニヤケさせ、クレスポは彼女の髪を撫でながら、  
「アイリちゃんと二人きりのときだけは普段の三倍カッコイイんス」  
「またまたぁ……」  
 クスッと笑い、彼の胸に顔を寄せる。そして大きく鼻で息を吸った。  
 鼻の奥をくすぐる甘い香り……。やっぱり。  
「どうしたんスか?」  
「ううん……。何でもない」  
「嘘っス。言いたいことがあったら言ってほしいっスよ」  
 きっぱりとクレスポはアイリの嘘を見抜いていた。魔法でも使ったように。  
「それじゃあ……」  
 クレスポの上に顔を上げ、見下ろしながらアイリは言うその瞳は怯えたように震えていた。  
「何で……あの女の匂いがするの?」  
「あの女?」  
「ベルカナちゃんよ。この香水の香り、あの子しか使ってない」  
 ドキン! ……とクレスポの胸が高鳴る。それも一瞬。  
「はぁ……仕方ないっスね」  
 まさか香水の香りでバレるとは。クレスポは鉢巻のない頭を掻き揚げ、一瞬で考えをまとめて、口を開いた。  
「そう。俺とベルカナはできてるっスよ」  
 
 アイリの目が真ん丸くなる。矢継ぎ早にクレスポは続けた。  
「いやー。ここに来る前にちょっとベルカナとヤってきたんスよ。今まで黙って悪かったス」  
「どうして……ベルカナとは何でもないって……」  
 さっきまでの高揚は消え、震える唇でアイリは掻き消えそうな声を出す。  
「そりゃー、俺たちは盗賊スからね」  
 クレスポはニヤッと唇の端を歪ませ、  
「お互いにいろいろと立場があるから、関係は黙ってる事にしたんス。悪いっスね。  
アイリちゃんを目くらましに使って」  
「何よ……それ……」  
 いよいろアイリはぷるぷると震えだす。目には涙さえ溜まっていた。  
「ベルカナちゃんとの仲を隠す為に……私と付き合ってたわけ?」  
「そうっスよ」  
 事も無げにクレスポは言ってのける。  
「でも、アイリちゃんもなかなかよかったス。ベルカナには遠く及ばないスけどね。  
どうスか? 今なら愛人一号にしてやるっスよ」  
「誰が……愛人よ!」  
 ぎゅっと噛み締めた唇。その頬を涙が伝っていく。  
「ふふん。この盗賊ギルドの大幹部クレスポ様の愛人になれるっスよ? 光栄に思ってほしいっスね。  
それに楽させてあげるっスよ。こんな湿気た酒場じゃなくって、もっと大きな豪邸に住まわせてやるっス。アイリちゃんも最初からそれが目当てでしょう?」  
「ふざけ……ないで!」  
 遂に堪忍袋の緒が切れたか、アイリはパンとクレスポの頬を平手打ちし、ベッドから降りた。  
そしてワンピースを大急ぎで身に付け、さっさと部屋を出る。  
「サヨナラ!」  
 涙で震えた声でそう言い残し、バタンと扉を閉めた。  
「くくっ……」  
 一人残されたクレスポは叩かれた赤い頬をそのままに、クスクスと身を曲げて笑い出す。  
と、裸のその身が変わっていった。  
 髪は長く伸び、四肢はまろやかになる。ちんこが引っ込み、胸はわずかに盛り上がった。  
 一瞬にして、クレスポはベルカナに変わった。  
 今アイリが交わっていたのは、"シェイプ・チェンジ”の魔法で変身したベルカナだったのだ。  
さらに"センス・ライ”の呪文も併用して、嘘を見抜くようにしていた。  
「ふふふ……」  
 身をくねらせながら、ベルカナは会心の笑みを浮かべる。  
 最初は抱いた後で悪口を言いまくって別れさせるつもりだった。アイリに香水の香りがばれたときは内心冷や冷やしたが、上手く騙せたらしい。  
あの時の彼女の涙ながらの言葉に嘘はない。  
「はは……あはは……」  
 ひとしきり笑ったあと、うんと背伸びして、腰をトントンと叩く。  
「やっぱり……初めてで二連続は辛いですわね」  
 アイリの姿でクレスポと交わり、クレスポの姿でアイリと交わり−  
 今夜が初めてだったベルカナはすっかり疲れてしまった。そして腰が痛い、  
だが心地いい疲れ。  
「今日は最高の誕生日ですわ」  
 ベッドから立ち上がり、衣装棚に隠していた衣服から下着だけを身に付ける。  
そして服のポケットに入れていた指輪を取り出して左手の薬指に填めて、またベッドに戻る。  
 それはクレスポがアイリに贈った指輪。  
 
「お休みなさい。クレスポさん」  
 指輪にキスし、ベルカナは眠りに就く。  
 
 翌朝。  
「おはようございます」  
 朝早く起き出したベルカナは、階段を降りなが挨拶する。昨日のドレス姿で。  
 昨日の誕生日パーティーの後片付けをしているアイリに。  
「お、おはよう……」  
 アイリも挨拶を返した。震える声で。目の下に黒いクマが見える。  
「あの……」  
 何か言おうとするアイリを制して、ベルカナがぎゅっとその両手を握る。  
「クレスポさんから聞きましたわ。わたしたちの関係をお聞きになったとか」  
 ビクッ、と握るアイリの手が震える。悲しげな顔は下をうつむいていた。  
「すみません。わたしは嫌だと言ったのですが、クレスポさんがどうしてもというので」  
 よよよとベルカナは顔を下に向ける。わざとらしく。  
「ですが、アイリさんとはこれからもお友達ですわ。ですわよね」  
「う、うん……」  
 促されるまま頷くアイリ。  
「クレスポさんもあんまり邪険にしないで、これまで通り、仲良くしてやってください。蹴飛ばして結構ですから」  
「うん……そうよね」  
 クスッと笑い、ようやくアイリは顔を上げる。  
「あんな奴なんか……こっちから願い下げよ……。あっ、ごめんなさい」  
「お気になさらず。その意気ですわ」  
 クスクスと笑い合う少女二人。  
 その時、  
「アイリちゅわ〜ん」  
 タイミングよく、起き出して来たクレスポが飛びついてくる。  
「はぁ!」「この!」  
 すかさずやっと避け、二人してパンチパンチキックを食らわせ、クレスポを叩き伏せる。かつてのようにピッタリ息を合わせて。  
「あ、あれ……?」  
 ズタボロにされて、床に伏せるクレスポに、  
「はい。クレスポさんはこれで」とベルカナは麺棒を握らせてやる。  
「そんな〜。あんまりっス」  
 そんなクレスポを放っておいて、二人の少女はキャッキャと行ってしまう。  
「それじゃ、わたしはお父様を起こしてきます」  
「うん。またいつでも来てね」  
 
 そしてベルカナは父親のテイワズと一緒に帰路に着く。貰った誕生日プレゼントは全てテイワズに持たせて。  
「どうしたんだベルカナ? やけにご機嫌だな」  
 やたらご機嫌な様子に、父親もニコニコと笑顔で訊ねる。  
「はい。昨日は最高の誕生日でしたから」  
「そうか」  
 娘の嬉しそうな様子に、テイワズも目を細めた。だが彼は気付いていなかった。  
ベルカナが痛む腰を隠しながら歩いていることに。  
「ふふ」  
 そしてベルカナは、ジクジク痛む腰を気取られないように歩きながらも、確かに上機嫌だった。  
 懐に納めた指輪を撫でながら、一人呟く。  
「さて。最後の仕上げですわ」  
 
(つづく)  
 

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