ロマールには多種多様な店が立ち並んでいる。高名な『闇市』の奥を除けば、  
そのほとんどはごく普通の店で、市民や旅人で賑わっていた。  
 その一角。女性専用の衣服店では、少女たちの賑やかな声が聞こえていた。  
「このマントなんてどうですか? とってもよく似合いますよ」  
「でもアタシ、エア・クロークあるし。ジーンちゃんどう?」  
「ええっ!? はわわ〜」  
「い、いいんですか、これ?」  
「いいのですよ。この前のお礼です」  
 所狭しと並べられた衣服をとっかえひっかえしながら、キャッキャとはしゃぐ少女たち。  
 ベルカナ、シャイアラに、部下のジーンちゃん、それにお世話になってるお店のアイリちゃんとレミィちゃんの女性陣の五人だけで、買い物に来ていた。  
 エルフのシャイアラさんが少女かはともかく、雰囲気はとてもよく合っている。  
 お店の前では、唯一の荷物持ちのブックが、本を開いたままドッシリと腰を落ち着けている。  
もうそのままの姿勢で三時間ほど過ぎているが、彼は全く不満に思っていない。  
ゆっくり本を読めて逆に満足している様子。  
 
 事の始まりは、マロウが故郷のモーブ村に里帰りするので、他の四人もそれに付いて行くと決めた事に発する。  
どうせなら新しい旅衣装を揃えようとシャイアラさんが言うと、ベルカナも、  
「この前の誕生日のお礼がしたいですわ」と他の三人も引っ張ってきた。  
 そしてあちこちの店を回って粘ること数時間が経過。女性の買い物はとても長い。  
 買い物に付き合ってるのが本好きのブックだから良いものを、大抵の男は値を上げているだろう。  
逆にここで辛抱できれば株を上げるのだが。  
 そんなこんなで結局、アイリとレミィちゃんは新しいお仕着せの給仕服をお揃いで買ってもらった。  
それに何故かジーンも同じ給仕服。このほうがクレスポが喜ぶらしい。  
「本当にいいの? こんなの、申し訳ないよ」  
とアイリが言うと、ベルカナはニコニコと笑顔で、  
「よろしいのですよ。ギルドから報酬をいただきましたから」  
「そうそう。アイリちゃんにはいつもお世話になってるからね」  
 シャイアラもうんうんと相槌を打つ。  
 彼女たちはレイドで国家間トラブルを解消した褒美に、盗賊ギルドから多額の報酬を貰っている。  
 もっとも、ベルカナはソーサラー・スタッフを買う為にマロウから借金しているのだが。  
 そのソーサラー・スタッフは今も大事に抱えている。  
 ちょっとお花摘みにと言って皆から離れて、"センス・ライ”の呪文を唱えたり。  
「ほらブック。皆の荷物持って」  
 ベルカナが戻ってくると、ブックが全員の買い物袋を持たされて、逆に荷物に埋もれていた。  
子供のように小さく非力なグラスランナーの悲しさか。  
「あー……。これなら、クレスポも連れて来たほうがよかったわね」  
 何気ないシャイアラの呟きに、ビクッとアイリの肩が震えた。  
 その肩に手を置いて、ベルカナが耳元で囁く。  
「アイリさん。アレからクレスポさんとは何かありました?」  
「う、ううん。何もないわよ。抱きついてくるから殴り返すだけ」  
 はにかんだ笑顔でアイリは言った。  
 嘘はない。"センス・ライ”で確かめたのだから間違いない。  
 ホッとしたベルカナは、ニッコリとアイリに微笑んだ。  
「困ったものですわね、クレスポさんも」  
 
「そうね」  
 うふふ、と笑い合うベルカナとアイリ。  
 それから全員アイリちゃんのお店まで戻って、ベルカナは早々に店を出た。  
今日は賢者の学院に用があるそうだ。  
 だがアイリちゃんの店を出たベルカナの行き先は賢者の学院ではない。さっきの衣服店。そこでアイリたちが買ったのと同じ給仕服を購入した。  
 "シェイプ・チェンジ”は服までは変わらない。  
 
 今日も元気に営業中アイリちゃんのお店。  
「アイリちゅわ〜ん!」  
 ダイブしてくるクレスポをさっと避け、アイリはお盆ブーメランの一撃を顎に食らわせてやる。  
さらに巨大杓文字「父想い」で床に叩きのめす。  
「ぐえっ」  
 潰れたクレスポを尻目に、アイリはお尻を振ってプリプリと去ってしまう。  
「アイリちゃん……あんまりっスよ〜」  
 朝からいつもの光景。だがクレスポには理解できなかった。  
 アイリちゃんから誘われて恋人になって、ベルカナの誕生日に指輪を渡したときは凄く喜んでくれてたのに……  
これではまるで元通り。  
 でも、  
「その新しいメイド服もい素敵っス!」  
 レミィちゃんともども新調したアイリの給仕服を、クレスポは嘘偽りなく賞賛する。  
「さ、クレスポ様。お酌をどうぞ」  
 ズタズタに戻ってきたクレスポに、したっぱーずのジーンちゃんがお酌をしてくれる。  
彼女も同じデザインの給仕服を着ていた。  
「お、悪いっスね」  
 ジーンの入れてくれたビールを飲み、クレスポは上機嫌で彼女の肩に手を回す。  
「朝から何をなさってますの」  
 そこに不機嫌な声。  
「あ、おはようございます」  
 クレスポに肩を抱かれたままジーンが挨拶する。目に見えて不機嫌なベルカナに。  
「お、ベルカナもどうっスか」  
「結構です。朝からそんなに飲んで。ビール腹になりますわよ」  
「嬉しいスね。心配してくれるっスか」  
「誰があなたの心配なんて……」  
 そっと嘆息し、ベルカナはジーンに目を向ける。その視線が合った時、ジーンはビクッと肩を震わせ、クレスポにもその怯えが伝わった。  
 ベルカナはとても冷たい瞳をしていたから。だがすぐにニコッと笑い、  
「さ、行きますわよジーンさん」  
「は、はい!」  
 クレスポの手をさっと払い除け、ジーンはすぐに立ち上がる。  
「どこに行くっスか? 俺も行きたいっス」  
「賢者の学院ですわ。ユリィ師匠のお手伝いですの。クレスポさんも、古代書の写しを手伝ってもらえます?」  
「え、遠慮しとくっス! そういうのはブックに任せるっスよ」  
「ええ、ブックさんにお話したら、ぜひ手伝いたいと仰っていましたわ。それではジーンさん参りましょう」  
「は、はい! 頑張ります!」  
 おどおどとした目でジーンはクレスポにお辞儀して、そそくさとベルカナの後を付いて行った。  
 同じ女の子ソーサラーだがベルカナとはずいぶんと違う。  
 
「すまなわいわねぇ、ベルカナのお友達にまで手伝ってもらって」  
「いいえ! こんな、未知の本がいっぱい見られて、ボクは幸せです!」  
 挨拶もそこそこに、早速ブックは大量に、しかし慎重に並べられた古書に向かっていった。  
 ある冒険者が遺跡から発掘した古代書を、賢者の学院が買い取り、その解読をベルカナの師匠のユリィは行っていた。  
 だが量が量だけに、門下生だけでは追いつかず、ベルカナはジーンとブックにも手伝いを頼んだのだ。  
古代書は下位古代語で書かれているので、誰でもというわけにはいかない。一応はクレスポも下位古代語は読めるはずだが。  
「じゃあ、みんな。まず写本をお願いね」  
 遺跡から発掘された古書はかなり傷んでおり、まずは解読作業と一緒にそのまま書き写すことになった。  
 本を愛し、慣れてるブックと、ソーサラーのジーンなら、下位古代語の写しは大丈夫だろう。  
 そして地味だが、貴重な時間が黙々と過ぎていく。  
「こ、こんなに本がいっぱい……生きてて良かったですよボク! ベルカナさんありがとうございます!」  
 やはり持つべき者は賢者の学院の知り合い。  
「いいえ、どういたしまして」  
 ブックの喜びように、ベルカナはつい苦笑してしまう。  
「あら。あなた、なかなか筋がいいわ」  
「は、はい。ありがとうございます」  
 ジーンちゃんはというと、ユリィ師匠に見初められ、恐縮しきっていた。  
「どう、うちに来ない? ベルカナのお友達なら大歓迎よ」  
「そ、それは……はい、お願いします」  
 ベルカナのにっこりとした微笑を受けて、ジーンは慌てた様子で申し出を受ける。  
「それはよいですわ。ジーンさんも、師匠の下で一緒に学びましょう」  
「は、はい〜!」  
「ふふ……。こんな可愛くて優秀な生徒が増えて、私も嬉しいわ」  
 未だに給仕服姿のジーンの頭を撫で、ユリィは目を細めて笑う。小皺を寄せて。  
 そしてブックは黙々と本を読み漁っていた。  
 
 研究室に篭もって本と睨めっこしていると、時間の経過が分かりにくい。  
 いつの間にか、外はすっかり夜になっていた。  
「みんな、ご苦労様。あとは明日続けましょう」  
「いえ、ボクは夜通し続けます。今日は泊まって行きますよ」  
 本から一時も目を離さず、ランタンの灯りの中でブックが言う。  
「それはありがたいけど……無理はしないでね」  
「ジーンさんはどうします?」  
 ベルカナに訊ねられ、ジーンはおたおたとペンを握りながら、  
「は、はい。残らせてもらいます!」  
「あら、感心ね。それじゃあ、今日は私の部屋で泊まっていくといいわ」  
 ふふっ、とユリィ師匠はジーンを見て、微かに目を輝かせていた。  
「では、わたしは先に失礼させてもらいます。お父様が心配いたしますので」  
 嘘だ。一旦家には帰るつもりだが、父が心配するなどというのは口実だ。  
「ええ、今日はありがとう。気を付けて帰って」  
 だがセンス・ライを唱えているわけもなく、ユリィは少し残念そうにベルカナを見送った。  
「では皆さん、お先に失礼します」  
「はい、また明日」  
 ベルカナを見送ったユリィ師匠は、ジーンに向けて笑みを向ける。  
「さ、ジーン。私の部屋にいらっしゃい」  
 そしてユリィ師匠は連れ込んだジーンに……。  
 
「お父様。今夜は賢者の学院で泊り込みで、大事な仕事がありますの。今夜は帰りませんから心配なさらずに」  
 一旦家に帰ったベルカナは、部屋から着替えを入れた荷物を持って父親にそう言うと、すぐに出て行った。  
だが彼女の向かう先は、賢者の学院ではなく、アイリちゃんのお店。  
 
 アイリちゃんのお店のすぐ近くにある宿屋に部屋を取り、そこでベルカナは着替えて、シェイプチェンジを唱えた。  
それからアイリちゃんのお店に入っていく。  
 
「クレスポ様〜」  
 いつものように酒を飲んだくれているクレスポに、ジーンの姿に変身したベルカナがしなを作って、しだれかかっていく。  
着ているのは新品の給仕服。アイリちゃんやレミィ、それにジーンが買ったものと同じ。  
「お〜。ジーンちゃん、待ってたっスよ〜」  
 最近のクレスポはアイリちゃんのお店に入り浸り、酒ばかり飲んでいた。  
 今日も一日中飲んでばかりいたのか、大分顔が赤い。  
「もうクレスポ様ったら。飲みすぎですよ。お酒くさ〜い」  
 自らクレスポの胸に指を這わせ、ジーン(中身はベルカナだが)は潤んだ瞳で、クレスポを見上げた。  
「うっ」  
 下から見上げられ、クレスポはついドキッと胸を高鳴らせてしまった。  
「うぅん、わたしがどうかしましたぁ?」  
 口から蕩ける様な甘い声。  
「ど、どうしたんスか……。今日は」  
「嫌ですわ。敬愛するクレスポ様に尽くすのは当然の事です」  
 ビビクンッ、とクレスポが小刻みに震える。  
 尽くす、という響きが、何かに触れたらしい。  
 ジーンはそっと手を重ね、その柔らさと温もりを伝えて、クレスポの腕に胸を押し付けていった。  
「んふふ……。もうわたしはクレスポ様のものですから」  
 耳元で囁かれる甘い声に、背筋が連続でビンビンと伸びる。  
「だ、駄目っスよ……。俺には…」  
 アイリちゃんが、と言おうとして口が止まった。  
 ベルカナの誕生日、指輪をプレゼントしてからというもの、何故かアイリちゃんの態度が冷たい。  
いや元に戻っただけだが、以前は何度も体を重ねたのが嘘のようだ。  
 手に触れるジーンの温もりに、若い血潮がカーッと熱くたぎる。酔いのせいだろうか。  
「あの……いいんです、わたし。クレスポ様に、他に恋人がいても」  
「えっ?」  
 潤んだ瞳を間近に、真摯な声で告げられ、クレスポは胸が熱くなるのを感じた。  
「いいんです。ただの一夜の慰みでも……。クレスポ様のお役に立てれば、それで……」  
「ジ、ジーンちゃん……?」  
 たじたじに気圧されるように、クレスポは視線を店内に向けた。  
 ふと忙しく駆け回るアイリと目が合う。アイリも、クレスポと彼に引っ付いているジーンに目をやった。  
そしてべっと舌を出して、アイリは厨房の奥に駆け込んでいく。  
「アイリちゃん……」  
 今にもぐすっと泣き出しそうなクレスポに、ジーンが慰めるように腕を絡める。  
「クレスポ様……。わたしに、お情けをください……」  
 ぐらっとクレスポの頭が揺れた。もう我慢できない!  
 
「い、いいんスね? 本当に」  
「はい……」  
 クレスポの部屋。そきおで二人きりになったジーンはもじもじと身をくねらせ、恥ずかしそうに赤くなった顔を伏せる。  
「や、や〜ん……。でもやっぱり、恥ずかしいですぅ……」  
 イヤイヤと首を振るジーンに、クレスポの胸がきゅーんと鳴った。  
「はぁ、はぁ……」  
 血走った目で荒く息を吐き、手をわきわきと近づけるクレスポに、ジーンはきゅっと身を抱きしめて、  
「ダ、ダメですぅ……。焦らないで」  
 くるっと背中を向けると、給仕服のエプロンがぱさっと落ちた。  
「背中……向いててください」  
「ういっス!」  
 言われるまま背中を向いて、クレスポもすいすいっと服を脱ぎ出した。  
 酔った頭で大胆になっているのか。クレスポは細い裸体でド−ンと仁王立ちし、もじもじと服を脱いでいるジーンちゃんを待ち受ける。  
「……やぁん、恥ずかしいですぅ」  
 白い裸身を手で隠し、振り返ったジーンはくねくねと身をよじらせる。  
脱いだ服をキチンと畳んでおくのはお約束。  
「やぁん」  
 クレスポの裸を見ないようにしながら、ジーンはちょこんとベッドに座る。  
「むっはー」  
「きゃあっ!」  
 そのジーンにすかさず飛びつき、クレスポは抱きつくと同時、ベッドに押し倒した。  
 
 はぁ……ハァ……  
 
 酒臭い息がまともに顔に掛かりジーンは顔をしかめる。それも一瞬。  
 クレスポの頭に手を回して抱き寄せ、  
「やぁん……優しくしてくださぁい……」  
 鼻にかかった甘い声で囁き、ちゅっと頬にキスする。  
 それに応えるように、クレスポは彼女の唇にキスした。  
「んっ……」  
 酒臭い息が口いっぱいに広がり、ジーンの胸に苦い思いがよぎった。  
「ういっス! 優しくするっスよ」  
 すぐに口を離したクレスポは胸に顔を埋め、ちゅぅと乳首を口に含んだ。  
「あんっ」  
 ビリッと痺れ、ジーンの太股が緊張で固くなる。  
 淡い桜色の乳首は甘く、そのふくよかな胸を揉みながら、搾り取るようにクレスポは乳房を吸っていった。  
「はっ……ああっ」  
 口に手を当て、切ない声が漏れる。体の下のジーンの身が小刻みに振動するのを感じながら、クレスポは口を離した。  
唾液で濡れた乳首はもうプックリと尖っている。  
「あ……」  
 感じ始めたばかりで愛撫を中断されたジーンは物足りなさそうに、潤んだ目で訴える。  
「まだまだこれからっス」  
 さらにクレスポは顔を下げ、股間に舌を伸ばしていった。  
「アアアーッ!」  
 瞬間、ビクッとジーンの腰が浮き上がる。  
 股間に顔を埋めて、クレスポが淡い茂みの奥、肉豆を舌でねっとりと舐めていった。  
「あううぅ! やああっん! やめ……ダメーッ!」  
 ガクンガクンとジーンの体が大きく飛び跳ね、ベッドをギシギシ揺らしていった。  
 
 舌にじゅっと熱い愛液を感じながら、クレスポは振り落とされないようにしっかりと顔を埋め、太股に手を置いて、秘所を舐めていく。  
「アアッ! はうっ! はうううっ! イヤッ、イヤですわ!」  
 頭を振り乱し、ジーンは下半身からの刺激に翻弄されながら、乱れるがまま喘いでいった。  
「すご……すごすぎますわっ、こんな……! イヤーッ! ヤメテ、もうヤメテーっ!」  
 ジーンの腰がガッと上がり、硬直し、プルプルと震えた。  
 内側から溢れる愛液が一段の噴き出し、その奥からさらにシャーと黄金水が漏れる。  
「ぶっ!?」  
 驚きつつもクレスポは顔を離すことなく、黄金水を飲み込んでいった。じゅーと音を立てて。  
「だめーっ! ダメですわ、こんなーっ! イヤアアアアアアっ!!!」  
 恥ずかしさで狂いそうなほど身悶えながら、ジーンはとうとう最後まで、黄金水をクレスポの顔にかけていく。  
 
「あ、アアァ……」  
 ガクッと脱力して腰を落とし、ジーンは真っ赤になった顔を隠して、泣きすすった。  
「ふー。美味しかったスよ。ジーンちゃんのおしっこ」  
「ばかぁ……」  
 顔を上げ、囁くクレスポについ悪態をつく。  
「ジーンちゃん、すごく感じやすいっスね」  
 開いたままのジーンの股間に、今度はクレスポの腰が突き出される。  
「ひゃっ!?」  
 入り口に肉の感触を感じ、ジーンは隠していた手をどけて見た。  
 正常位で今まさに、クレスポが侵入しようとしていた。愛液とおしっこで濡れた秘所に。  
「ま、待って。待って、ください……」  
「もう無理っス」  
 
 ズン! と勢いよく、花弁を貫き、胎内に衝撃が突き進んでくる。  
「はぁあーっ!」  
 ぎゅっとシーツを掴んで、ジーンは背筋を仰け反らせた。  
「イイッス! イイッスよ、ジーンちゃん!」  
 肉竿が狭い肉壁を掘り進み、ギチギチと音が鳴る。  
 ジーンの中は狭く、そして暖かかった。  
「いやっ! くぅん! ……あううぅ!」  
 クレスポの肉竿が内壁を抉る度、鼻にかかった甘く切ない喘ぎ声が漏れ、ジーンの体が振動した。  
 クレスポは上から彼女に抱きつき、全身で柔らかい少女の肉体を感じる。  
「はああぁっ! はぐううっ!」  
 喘ぎながら、ジーンもクレスポの背中に手を回し、ぎゅっと爪を立てる。背中に痛みが走ったが、クレスポは気にしなかった。  
「ふはああっ! ああっ! ああう! あひっ!」  
 ジーンの脚が上に伸び、クレスポの腰に合わせて、ゆらゆらと揺れる。  
そしてピンと硬直した。  
「アアーッ!」  
「くっ」  
 不意に強烈な締め付けを感じ、クレスポもしっかりとジーンを抱きしめた。  
「出すっス! 出すっスよ!」  
「ああっ、きて! きてくださいクレスポさん!」  
 そして胎内に熱い衝動が放たれ、クレスポとジーンは同時に果てた。  
「あああーっ! イヤーッ!」  
 確かな絶頂を感じながら、ジーンはクレスポの背中に爪を立てて…。  
 
「ご、ごめんなさい……」  
 情事が終わり身を離すと、息を整えたジーンが、横に並ぶクレスポの背中を撫でながら謝る。  
「痛かったでしょう?」  
 その背中にはしっかりと爪の引っ掻き傷が走り、血が流れていた。無我夢中でジーンが付けた傷。  
「イイッスよ」  
 実際ヤってる最中は夢中でクレスポは気付かなかった。  
「それより俺こそ悪いっス。ナカに出しちゃって……」  
「いいのですよ」  
 ニコッと至近距離で笑顔を向けられ、クレスポはドキッとなった。  
「わたしが望んだことですから」  
 言って、お腹を撫でる。その仕草に、クレスポはますます緊張した。  
 その腕をジーンちゃんにまた伸ばして−  
「あ、用事を思い出しました」  
 するっと避けられる。  
「申し訳ありません。大事な用がありますので」  
 するするとベッドから降りたジーンは、畳んでおいた給仕服を着て、ぺこりとお辞儀する。  
「それではクレスポ様。今日はありがとうございました」  
「う、ういっス」  
 名残惜しそうな顔を隠そうともせず、クレスポは部屋を出て行くジーンを見送った。  
 
 バタン。  
 クレスポの部屋から出て扉を閉め、ジーンの姿をしたベルカナは周囲を確認する。  
 誰も居ない。呪文を使うなら今のうち。  
 そしてベルカナはシェイプ・チェンジの呪文を唱えて再びその姿を変えた。  
 アイリへと。アイリちゃんもジーンちゃんとお揃いの給仕服。わざわざ着替える必要は無い。  
 
「クレスポーっ!」  
 ジーンちゃんが出てすぐに部屋に入ってきたアイリちゃんに、クレスポはぎょっとベッドの上で飛び上がる。全裸で。  
「どういうつもりよ! わたしというものがありながら、他の女の子と! ちゃんと見てたんだからね!」  
「うっ……」  
 険しい剣幕で矢継ぎ早に怒鳴るアイリに、クレスポは口をぱくぱくとさせるだけだった。  
 ついさっきまでジーンと寝ていたのは本当なのだ。どんな言い訳も通用しない。  
「もう、見損なったわ! あなたとはこれまでねっ!」  
 バタンッ! と勢いよくドアが閉められる。  
「ア、アイリちゃん……」  
 さっきまでの高揚感はどこへやら、ショボーンと萎びれるクレスポ。  
「あっ、でもクレスポ」  
 そこに扉の向こうから声が掛けられる。クレスポは微かな希望を胸に顔を上げた。  
「看板娘としてはこれまで通り付き合ってあげる。これまらもお店はよろしくねっ」  
 それだけ言うと、アイリちゃんはドタドタと走り去ってしまった。  
「しょんな〜……アイリちゃん……」  
 再びガクッとうな垂れ、クレスポはそのままベッドに沈み込んだ。  
 まだ微かにジーンちゃんの温もりが残っている。  
 
「ふふ。上手くいきましたわ」  
 クレスポの部屋からわざと足音を大きくして走り、数歩してとまると、ベルカナは誰も見ていないのを確認して呪文を唱えた。  
なお発動体は指輪。アイリの姿から再びジーンに変わる。  
 夜遅いとはいえ、ここはアイリちゃんのお店。いつばったり出会うか分からない。  
 そして夜遅くでも賑わう一階の酒場を抜け、ジーンの姿のベルカナは部屋を出た。  
 ロマールの暗闇が、高揚した体を冷やしてくれる。  
「ふー」  
 呪文の連発で疲れた頭も冷やし、ベルカナは物陰に隠れて、本来の姿に戻った。  
そして取ってあった宿屋の部屋に戻る。  
「やれやれ。さすがに疲れましたわ」  
 でもそのおかげで上手くいった。  
 ベルカナは給仕服を脱ぐと、下着姿になってベッドに座り込む。  
「……ん」  
 じゅるっと内股に熱い液を感じ、指で掬い取る。  
 ヌルッとした粘液が指に付き、それを目前で掲げ、舐めてみた。  
 
 −塩辛い。  
 
「あはは……」  
 クレスポの精液を味わい、ベルカナは至福の表情で横になった。  
 内股に熱いものをなおも感じながら。お腹を撫でながら、そっと呟く。  
「おやすみなさい。クレスポさん……」  
 
 それから数日後。  
 クレスポ、ベルカナ、マロウ、シャイアラ、ブックの五人はロマールから旅立っていた。  
 マロールの里帰りに全員で付き合い、モーブ村まで。  
「はぁ……」  
「やぁねぇクレスポ。せっかくの良い旅立ち日和にそんな暗い顔しちゃって」  
 シャイアラさんに笑顔を向けられても、クレスポはなおも下を俯くばかりだった。  
「あらクレスポさん。ケンカでもしましたの?」  
 髪を掻き揚げ、横に並ぶベルカナも声をかける。  
と、その右手の人差し指に填まっている指輪にクレスポは気付いた。  
「あれ……? その指輪……」  
「ああ、これですか。アイリさんから頂きました」  
 ベルカナが指に填めている指輪は、確かにクレスポがアイリにプレゼントした指輪だった。  
「もう要らないからとくださいましたが。どうかしました?」  
「い、いや……何でもないっスよ。何でも」  
と言いながらも、クレスポはさらにガックリと肩を落とした。  
「もう、クレスポさんたら。せっかくのバカンスなんですから楽しみませんと」  
 この世の終わりのように暗いクレスポに、ベルカナは上機嫌でニッコリと微笑んだ。  
 
 ニッコリと。  
 
 そしてモーブ村での楽しい楽しいバカンスが始まる。  
 
(おしまい)  
 

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