「る〜らるる、らぁ、るありぃいぃら〜〜♪」  
軽やかな葦笛の音色に伴わせて、少女の喉から歌声が流れ出る。  
ここ――『空に近い街』タラントにお似合いな、小鳥がさえずるようなソプラノ。  
透き通るような歌声に引き寄せられた酔狂者たちは誰もが、最初にそうすると約束が出来ているかの  
ように首をひねった。  
どっかと腰を下ろして葦笛を奏でる巨漢と、彼に寄り添いながら歌声を響かせる美少女、という奇妙  
な組み合わせに。  
いや。本当のところ、聴衆たちが思っているのよりも、ずっと奇妙なコンビだけれど。  
「るるぅ、らりぃ、るぅ、いあぁる〜ぅ♪」  
可憐な歌姫が口ずさんでいるのは、ハミングではなく即興の歌詞なのだ。  
それに気づいた者は、聴衆の中に一人もいない。リザードマン語を耳にした経験なんて、誰も持って  
いなかったから。  
やがて、葦笛を吹き終えた巨漢が悠々とお辞儀すると、少女もぎこちなくそれに倣う。  
賢人ガメル伯爵の肖像を刻んだ小さな円盤たちが宙に舞い、二人に報いた。  
 
「これがお前の分だ。アラシャかフィリアンと相談して、大事に使うんだぞ」  
宿屋へと帰る道すがら、ベリナス・ブレストは稼ぎをきっちり二等分して、少女に分け与えた。  
「うぅぅ……」  
ベリナスに気づかれないように注意しながら、シアは不愉快そうな唸り声をもらす。  
いくら世間知らずなシアだって、きちんと修練していない“さえずり”でお金が貰えるだなんて思わ  
ない。だからこれは、お小遣いみたいなものだ。  
お姉さんたちならともかく、ベリナスから子供扱いされるのは、何故だか無性に寂しかった。  
「じゃあ、おやすみ」  
そんな葛藤も知らぬげに、ヤツデみたいに大きな手で彼女の頭をなでると、ベリナスは男性陣にあて  
がわれた部屋へと入っていった。  
 
素っ気なく閉ざされた扉を前に、シアはつまらなそうに溜息をついた。そして、隣に並んだ女部屋の  
扉に、最近ようやく使い方を覚えた鍵を差し込む。  
その扉を開いた途端――  
「あン、あ、ああーーーっっ!!」  
ほとばしるような叫び声が、シアの鼓膜を叩いた。  
嬌声の主――アラシャ・クリューワが、黒髪を振り乱す。ベッドの上に四つん這いになった彼女の尻  
をライシードル・アレリーがぐっとつかみ、荒々しく腰を振って攻め立てる。  
「いや、こんなの! こんな、獣みたいな格好で! ああ、でも……き、気持ちいい……」  
後ろから女芯を貫かれた神官戦士が、弓のように背中をしならせた。  
「……アラシャお姉さんたら『喜びの野』に行ってるんだ」  
敬虔なマイリー神官が聞いたら卒倒しそうな台詞を吐きながら、シアは、フィリアンお姉さんの仕草  
を真似して肩をすくめた。  
リザードマンの雌は、交尾の時に叫び声を上げたりはしない。そんな社会で育ったシアには、男女が  
快楽のために交わる情景に、今ひとつピンと来ない部分がある。  
邪魔しないよう扉の陰で息を潜める少女に気づかぬまま、二人は『喜びの野』を右往左往していた。  
「うぉっ! あ、アラシャっ! そんなに尻をゆすったら……また、出ちまう」  
「また、くれるの? ああ、もっとちょうだい! そうしたら、あたし、あなたの赤ちゃんを……」  
どうにか会話と呼べる遣り取りは、そこまでだった。  
言葉をなくしたアラシャは、さらに激しく腰を揺らすことで自分の望みを伝える。  
「お姉さん、ライの子供を産むの?」  
そう呟いた時に初めて、シアはその行為が生殖活動なのだと実感した。  
――子供を……産む……  
それがキーワードとなって、眼前で繰り広げられる交合と、幼馴染みだったリザードマンたちの繁殖  
儀式の記憶とが、シアの頭の中で混濁する。  
そしてその混迷の中に、自分が雄の生殖器を受け入れ、子を孕む妄想が紛れ込み……  
 
ぶるっと背筋が震えたことを、シアは自覚した。  
『お前は、雄の賢い尻尾なしと交尾し、すぐれた子孫を残すがいい』  
自分を育ててくれたリザードマン――仮面の魔術師との戦いで死んだ族長――から教え諭された言葉  
が、どこか遠くから聞こえたような気がした。  
まるで心臓がそこに移動したかと思えるくらい、下腹の奥がドクンドクンと脈打ちだす。  
もしもシアが、この昂奮をなだめる手段を知っていたなら、人目をはばかりもせずに実行していただ  
ろう。なんの躊躇いもなく、この場で自分をなぐさめていたに違いない。  
「助けて……助けてよぉ」  
我知らず呟いたシアは、絡み合う男女に背中を向けて逃げ出していた。  
 
他の男どもの帰りを待ちながら、ベリナスは重々しい溜息をついた。  
じゃれつくシアの艶めかしい感触を思い出して、ヘソの下がかぁっと熱くなる。無理矢理に押さえ込  
まれていたそいつは、我慢を重ねた分だけ猛々しさを増していた。  
リザードマンに育てられた少女は、日毎夜毎に色づいてゆくようなその姿態とは裏腹に、あまりにも  
天真爛漫であった。女性として意識することに罪悪感を覚えるほどに。  
吟遊詩人の奥歯が非音楽的な音を立てのと、乱暴なノックの音が轟いたのは、ほとんど同時だった。  
「ライ? それともベルか?」  
どちらにしても、夜遊びから帰ってくるには時刻が早すぎる気がした。それとも、気付かないうちに  
そんなに長い時間、物思いにふけっていたのだろうか?  
のっそりと立ち上がり、扉を開ける。その瞬間――  
「べ、ベリナスぅ……」  
切ない声と共に、少女は眼前の巨体めがけて飛び込んだ。  
「助けてよ、ベリナス……」  
丸太のような両腕の間で息を荒げたシアが、熱っぽく潤んだ瞳で彼の顔を見上げる。  
「苦しいの……シアのからだ……身体じゅうが、熱くて……産卵孔が、ムズムズするの」  
 
「シア? どうした?」  
状況を飲み込まないまま、ベリナスは少女の両肩をつかみ、引きはがそうとする。けれどシアはその  
腕を振り払い、いっそう強くしがみついた。  
「あ? ベリナスの生殖器……シアのお腹に、当たって……お願い……これで、シアを……」  
男の胸にすがりついて、彼女は恍惚たる表情を浮かべる。それは無邪気なだけの少女には真似できっ  
こない、発情した雌の表情だ。  
「熱い……熱いの……」  
うわごとのように呻きながら、シアは着ているものを脱ぎ捨ててゆく。熟した果実を思わせる乳房が  
ぷるんとふるえて、戒めから解き放たれた悦びを誇示する。  
最後の布きれが膝まで下ろされた時、ベリナスの自制心は敗北を喫した。  
「シ、シアっ!」  
左腕一本で少女の身体を抱え上げ、桜色をした唇をむさぼる。思う存分にむさぼる。  
重戦士の剛健さと吟遊詩人の繊細さとを兼ね備えた指で、柔らかい――シア本人に言わせれば、ぶよ  
ぶよとみっともない――脂肪の塊を、パン生地みたいにこねくり回す。  
「ち、違うよぉ……ムズムズしてるトコは、そこじゃないんだよ……ぉ」  
切ない抗議の声も聞こえぬげに、ベリナスは膨らみの頂上でつんと尖った乳首にむしゃぶりつく。彼  
女が哺乳動物である印を、左右交互に舌で転がし、傷つけない加減で噛みつく。  
「ひぃあ! あ、あン……やめて、よぉ。シア、変になっちゃうぅ!」  
全身至る所を駆けめぐる快感に、シアは悲鳴を上げた。淡い茂みの奥からあふれ出す滴りが内股を流  
れ落ち、しくしくと泣いているようだ。  
「まだ……まだだ」  
「あゥん! あ、ハぁん……アぁっ、あはぁっ! くぅぅン。あ、あん……ああァーーー!!」  
まるで肉でできた楽器みたいに、シアは淫らな曲を奏でる。  
リザードマンの雌は快楽の声を出したりしない。その艶めかしいさえずりは、彼女が人間だという確  
かな証明だった。  
 
腰が抜けたみたいに床にへたり込むシアの眼前で、ベリナスは凶暴な雄獣を檻から解き放つ。  
子供の腕くらいある逸物を見やって、少女の喉がごくっと音を立てた。畏れと期待とを半々に。  
「は……はんしょく……」  
ふらつく足取りでベッドにたどり着いたシアは、腹這いに横たわって男を待ちかまえる。彼女にとっ  
てそれは、ごく当たり前に選ばれた交尾の姿勢だ――けれど。  
逞しい両腕がシアの腰をつかんだかと思うと、彼女の身体は仰向けに反転させられていた。  
「……べりなす?」  
真正面から向かい合った傷跡だらけの顔を不思議そうに見つめるシアを、落ち着いた声が諭す。  
「シアは人間だろう? だから初めての時には、これが正しい形なんだ」  
「うん。シアを……わたしを、人間にして……」  
実の両親と離ればなれになる前の幼い頃は知らず、シアは初めて自分を『わたし』と呼んだ。  
そして――  
「いっっ! たぁ……あ、ああぁぁっ!」  
太杭でえぐられるような激痛に、シアは絶叫した。両目いっぱいの涙が、ぽろぽろこぼれる。  
獲物の血を浴びて猛り狂う雄獣は内側から媚肉をむさぼり、さらなる悲鳴を絞り出す。  
「ううむ!!」  
裂帛の気合と共に、ベリナスはとどめの一撃を送り込み……シアの最深部で炸裂させた。  
「ああ……あ、ああ、あ……」  
精を注ぎ込まれてぐったりするシア。彼女の頭を、ベリナスは幼子をあやすみたいになでてやる。  
「痛かったか? よく我慢したな」  
「それじゃ、やだ……」  
自分を子供扱いする手の平を払い落とすように、シアはかぶりを振る。  
そして、唇を突き出してキスをねだった。  
 
終  

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