「なあ。あの二人、いつからああいう仲になったんだ?」  
仲間から距離を取ってひそひそと話し合うライとフィリアンを見やり、ベルモットは首をひねる。  
それを聞いたアラシャの両肩がびくっと跳ねたことに、ベリナスは気付かぬ振りをした。強面に似合  
わず吟遊詩人でもある彼は、人間関係には踏み込むべきではない領域があると知っている。  
「ライのつがいの相手、フィリアンお姉さんの方なのか?」  
納得いかない、と言いたげな表情で、シアが尋ねる。そんな彼女の頭を、ベリナスは大きな手でなで  
た。今は何もしゃべるな、というメッセージを込めて。  
 
「つまり、アラシャお姉様がなんでご機嫌斜めか判んないから、教えて欲しいってのね」  
青年戦士ライシードルのくどくどしい相談を、エルフの少女フィリアンはばっさりと要約した。  
「……まあ、そんなトコだ」  
バツが悪そうに首肯するライに、フィリアンの口から溜息がもれる。  
彼女がライに相談を持ちかけられたのは、街道脇で野営できる場所を見つけた直後のことだった。  
ようやくベルダインに帰り着き、ゲート・デーモン事件を解決した報酬を受け取った彼らは、取りあ  
えずタラントを目指し、北へと旅している。  
少し先に進めば宿を取れる村があるのだが、その村の女領主がしばらく前にドレックノールの暗殺者  
の手にかかった、という噂を知って、誰が提案するともなく野宿が決定した。人様の厄介事を解決し  
て口に糊する身とはいえ、山村に泊まる度に事件に巻き込まれるジンクスなど、たまったものではな  
い。苦労ばかり多くて儲けにならないときては、なおさらだ。  
久しぶりの野宿にはしゃぐシアを嗜めようとしていたフィリアンに、深刻な面持ちのライが「二人き  
りで話を聞いて欲しい」と頼んできたのだった。  
その時、彼女は戸惑いながら、黙々と野営の支度を始める女神官の背中を眺めやったものだ。もとも  
と愛嬌を振りまくタイプではないアラシャだが、このところ極端に口数が少ない。その原因が、一行  
のリーダーである(はずの)青年なのは、フィリアンには明白に思えた。  
そんな気遣いを知ってか知らずか、アラシャはぷいと目をそらした。  
 
「あのさぁ、ライくん。お姉様が、ベルダインのマイリー神殿に残らないかって大伯父さんから勧め  
られてたことは、知ってるよね?」  
「あ? うん」  
アラシャとはこれでお別れかもしれない。そう考えた時のモヤモヤした気分を思い出して、ライは渋  
い顔になる。  
「それって名誉なことだよね? お姉様は、なんで断ったんだと思う?」  
「なんでって、そりゃ…シアへの責任だとか、いろいろあるだろ?」  
「いろいろ、ねえ」  
フィリアンは、呆れずにはいられなかった。その“いろいろ”の中にライ本人がけっこうなウェイト  
を占めていることを、自覚していないのだろうか?  
お姉様とライくんときたら、見ているこっちの方がもどかしくなる。両方そろって受け身の姿勢でい  
たのでは、進展も後退もしようがないじゃないか、と、フィリアンは思う。  
「とにかく、いつ頃からお姉様の機嫌が悪くなったかって、考えてごらんなさいよ。そうしたら、な  
にか見えてくるんじゃない?」  
「ああ。そうしてみる」  
お茶を濁すようなフィリアンのアドバイスに、ライはうなずいた。これでは、なんにも答えてもらっ  
ていないのと同じだ、と彼が気付いたのは、アラシャと二人でその晩の見張りにつく時だった。  
 
「そういや、こうなるって判ってたから、フィリアンに相談したんだよな……」  
前の見張り番だったベリナスから引き継いだ焚火をかき回しながら、ライは小声でぼやいた。  
野営の見張りに立つ時、ライがアラシャとペアを組むのは、いつからか習慣になっていた。魔法使い  
にまとまった睡眠を取らせること、各組にレンジャーを配すること、リザードマン語を解するベリナ  
スをシアと組ませること、といった条件に配慮すれば、組み合わせは限られてくる。  
「ねえ」  
いきなり声をかけられて、ライは、ぎくりと身をすくませた。  
 
ライが顔を上げると、正面に、表情を押し殺したアラシャの顔があった。いつもなら“凛とした”と  
でも形容すべき相貌が、今ははっきりと仏頂面に見える。  
「昼間は、フィリアンと何を話していたの?」  
素っ気ない(と、口にした当人と相手の男は思った)声で、アラシャが詰問する。素っ気ない声に有  
無を言わせぬ迫力があるという矛盾に、二人とも気付かない。  
「なにって、いや、そんな、たいした話じゃ……いや!」しどろもどろになりかけたライだったが、  
一念発起して毅然とした表情を作る。「きみのことを、相談してたんだ」  
「あ、あたし……の?」  
アラシャは頬を強ばらせた。それにも気付かず、ライは言葉を続ける。  
「きみは、ここんところ妙に無愛想だったろう? それが心配で……で、フィリアンに言われて、考  
えてみたんだが、きみの態度が変わったのって、あれだよ、ほら、なんとかいう村で、デュラハンと  
戦った頃からだろ?」  
だらだらと並べ立てられるライの言葉は、それでも徐々に核心に迫る。アラシャは、ぎゅっと唇をか  
みしめた。  
「なにしろ、俺の腕が足りないばかりに、危うく二人して死ぬトコだったもんな」ライは口惜しげに  
自嘲する。「マイリーの神官様には、俺の不甲斐なさが気に障ったんだろ?」  
「……あなたと一緒だったら『喜びの野』に行ってもいい。あの時、あたしは、そう思ったわ」  
アラシャの静かな宣言に、今度はライが呆気にとられた。  
「あたしより二つも年下で、頼りなくって、勇者だなんて全然似合わないあなたなのに……」  
切なげに、アラシャは言った。後で冷静になって思い出してみればひどい言われようだったが、ライ  
は腹を立てる気にはならなかった。  
「だけど、あなたは……ライは、あたしみたいに可愛くない女と一緒じゃ、死んでも死にきれなかっ  
たわよね? そう思ったら、あたし……」  
その瞬間、ライは衝動的にアラシャの身体を抱きしめ、彼女の言葉を途絶えさせた。  
「アラシャ……きみは、可愛いよ」  
 
可愛い――耳元で囁かれたその言葉は、アラシャの心に、魔法の呪文のように染み通った。  
凛々しいという賛辞なら、何度も受けた。綺麗だと褒めてくれた男だっていた。  
けれど誰も、気丈でプライドの高い彼女を、可愛いとは言わなかった。  
だったら可愛くなくたっていい、と、胸を張って生きてきたけれど、それは「女らしさ」へのコンプ  
レックスの裏返しでもあった。  
自分を抱きしめる男の身体に腕を回し、アラシャは、ありったけの思いを込めて抱きしめ返す。二人  
の唇が、互いに求め合うように重なり合う。間近に設営されたテントの中に仲間がいることなど、ど  
ちらの頭の中からも消えていた。  
ライの手がアラシャの革鎧をはぎ取り、衣服を脱がせてゆくと、彼女は、怯えるひな鳥のように震え  
た。その反応に、ライは困惑する。  
「…? もしかして、きみ、初めてなのか?」  
そう尋ねられて、アラシャは恥ずかしそうにうなずいた。  
「おかしいでしょ? この齢まで経験ないなんて。だって、あたし、可愛くないから…」  
「そりゃあ、おかしいのはきみじゃなくて、世の中の男どもさ。きみみたいな、いい女を放っておく  
なんて、だらしないにも程がある」  
茶化すように言うライの胸を、アラシャは拳の腹で軽くこづく。  
「ん、もう! 年下の癖に生意気を言って。それに、あなただって、こうして手を出すまでにかかっ  
た時間を考えれば、だらしない男の一人じゃないの?」  
笑いあった二人は再び唇を重ね、互いの生命が脈動する様を確かめ合った。  
「……本当に、俺なんかが相手でいいのか?」  
ついにその瞬間を迎えようとして、ライはつい躊躇ってしまう。むしろ、アラシャの方が度胸が据わ  
っていた。彼女は、自分に覆い被さる男の瞳をまっすぐに見つめ、きっぱりと答える。  
「あなたが、いいの。どんな勇者や英雄よりも、あたしには、あなたが似合ってる」  
男冥利に尽きる、とは、このことだろう。感慨の全てを込めて、ライは腰を打ち込む。アラシャは、  
きゅっと眉根を寄せて痛みに耐え、それを受け入れた。  
 
この苦痛は永遠に続くのではないか、と、アラシャには思えた。彼女の痛みを少しでも減らそうと気  
遣ってくれるライだが、逆に行為を長引かせる結果となっている。  
いっそ、一気に終わらせてくれ、と叫びかけた時、彼女はぞくっとするような刺激を覚えた。  
「え? な、なんなの? あ、ああっ……!」  
初めての悦楽に戸惑うアラシャに、もう大丈夫だと判断したライは、遠慮なくスパートをかける。  
「あうっ! あああっ!」と、押し殺した悲鳴を上げるアラシャの内股に、ギリギリで引き抜かれた  
ものが、白濁した粘液を浴びせかけた。  
破瓜の儀式を終えた二人は、しばらく草の上に寝そべったまま抱き合っていた。  
「あ?」自分の腹に当たる固い物を感じて、アラシャは顔を赤らめる。血に染まった戦槌は、早くも  
次なる一戦を求め、猛っていた。  
「これは、その……もう一回いいかい、アラシャ?」  
どことなく申し訳なさそうに訊かれれば、彼女には、うなずく以外の選択肢はなかった。相手の顔か  
ら視線をそらし、付け加える。  
「今度は、あなたの好きなようにしていいのよ。さっきより激しくしてくれて、大丈夫だから」  
「だったら…」と、ライは耳打ちした。そのリクエストに息をのんだアラシャだったが、おずおずと  
立ち上がり、近くにあった樹の幹に両手をついて、尻を突き出すポーズを取る。  
「こ……これでいいの?」  
羞恥に頬を染めながら、アラシャが尋ねる。ライに向かって突き出された尻が、彼女が振り返る動作  
に合わせて、ふるふると揺れた。  
自分から望んだ光景でありながら、期待をはるかに越えた扇情的な姿に、ライはゴクリと唾を飲み込  
んだ。次の瞬間、彼女の尻に飛びかかり、撫で回し、鷲づかみにし、そして揉みしだく。  
「そんな風にしたら痛いわ、ライ……」  
悪戯っ子をたしなめるように、アラシャは言った。むせかえるかと思うほどの艶めかしさが、ライに  
向かって吹き寄せる。もはや我慢ならず、ライは己が戦槌をアラシャにたたき込み、欲望が命ずるま  
まに腰を突き動かした。  
 
背後から力任せに揺さぶられて、アラシャは樹の幹にしがみつき、かすれた悲鳴を上げる。  
「ああっ、死ぬっ、死んじゃうっ……あたしっ、死んじゃうぅぅ」  
「それじゃあ『喜びの野』が見えるかい?」  
自分より歳上の美女に嬌態をさらさせているという興奮が、ライの口から、ふと思いついた不遜なジ  
ョークをはき出させた。さすがにそれは、マイリーの神官であるアラシャにとって、聞き捨てならな  
い言いぐさだった。  
「ラ、ライ! あなた、なんて、ことをっ……か、神を、冒涜するなんて……あ、あ、あン……」  
不心得者をなじる言葉は、喘ぎ声へと変わってしまう。アラシャの耳元に寄せられた唇が、熱い吐息  
とともに囁き声を送りこむ。  
「俺にとっちゃ、マイリー様は恋敵みたいなものだからな。せめて俺と一つになってる間くらい、神  
様のことを忘れてくれたって、いいだろう?」  
「だめっ! だめよぉ、そんな。ああ、マイリーよ。ど、どうか、お赦しくださ……あ、あぁ!」  
耳たぶを甘がみされた時、彼女の懺悔は中断した。身体じゅうを駆けめぐる痺れるような快感に、引  
き絞られた弓のように背中が反ってゆく。  
「あぁーーっ! 許して、ライ!……お願い、もう許してぇっ! ライぃぃ」  
「いいや、許さない。激しくしていいって言ったのは、きみの方なんだからな」  
鍛えられた両腕がアラシャを背中からぎゅっと抱きしめ、二人の肌が密着する。突き込まれる腰の動  
きはさらに荒々しさを増し、結合部がぐちゅぐちゅと音を立てる。  
「ライ、ライ……ライぃ」  
アラシャはもはや、自分を支配する男の名を呼ぶことしかできなかった。その切なげな響きに神経を  
直撃されて、ライのやせ我慢も限界を迎えようとしていた。  
「くっ! 俺も、もう! イクぜ、アラシャ!!」  
「来てっ! あたしの、なか、にぃ……。一緒に! いっしょに、いってぇっ!!」  
懇願されるままに、ライは灼熱の塊をほとばしらせる。その奔流に自らの内を満たされて、アラシャ  
もまた、絶頂に達したのだった。  
 
 
山あいから太陽が顔を出した頃、革鎧を着込んだ二人は、テントから出てきた仲間達を、何事もなか  
った風を装って出迎えた。  
みんなに朝食を配って回るアラシャの姿を追いかけるライの視線は、どうしても彼女の尻に吸い寄せ  
られてしまう。さっきまで、アレを……そう思うと、ついさっき空っぽになるまで中身をはき出した  
はずの股間が、むずむずと落ち着かなくなる。  
「なあ、アラシャお姉さん」  
アラシャからスープの入った碗を受け取りながら、シアが無邪気な笑顔で話しかけた。  
「今度から、野宿する時の見張り、お姉さんがライとペアを組むのは無し、だね」  
唐突な言葉に、きょとんとするアラシャ。  
「だって、二人が『喜びの野』に行ってる間にモンスターに襲われたりしたら、大変」  
あっけらかんと言われて、アラシャは青ざめ、ライは噛んでいた干し肉を吹き出した。  
「これ、シアちゃん! さっき、覗いてたことは内緒だって言ったでしょうに!」  
フィリアンが、慌ててシアの口をふさごうとする。それは、彼女もシアと一緒に覗いていたことを自  
白したのも同然だった。  
「あ、その……シアちゃん、野外の気配に敏感だから。で、調べに行ったら、二人が……」  
フィリアンは、乾いた笑いを浮かべて、ごまかそうとする。  
女性陣のやりとりを眺めて、レンジャー技能を持っていないベルモットとベリナスも、自分たちが惰  
眠を貪っている間に何があったかを察し、下卑た(しかし、祝福を込めた)笑みを浮かべた。  
「こりゃあ……マイリーを冒涜した罰が当たったってことか?」  
嘆くライの頭を、アラシャは拳で殴る。ごん、という鈍い音がした。  
「マイリーはそんなに狭量じゃないわよ。あたしのオトコなら、それくらい知っときなさい!」  
「あ、開き直った」  
こういうトコ、お姉様らしいよなあ――フィリアンはそう思った。  
 
 完  
 

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