「私としたことが───」  
 
木洩れ日が、ちらちらと緑の光を投げ掛けていた。  
遠くでアーチボルトとフィリスの声が聞こえる。またフィリスが何かやらかしたらしい。  
 
「───はとこー」  
 
木立から離れた場所にある白いテーブルセットに座ったぐランナーが、起き出した私に気づいて、やたらと元気に手を振った。  
 
「お茶とお菓子があるにゅ──…」  
それにかるく片手を振り、必要ないと伝える。  
そのグラスランナーとみずからの中程にある木立の根元に、横たわる人影に気づいた。  
金髪に白い装い。離れた場所の木陰で眠るクレアの姿を捉える。  
目付きの悪い灰銀の髪のエルフは皮肉気な笑みを浮かべた。  
 
「───甘い夢を見たものだ…」  
 
ほんのひととき。午睡の幻でしかなくとも、それは確かに幸せな夢だった。  
 
ならば───それは、私の望みか?  
スイフリーは自問した。  
 
クレアが傍で笑っていた。  
100年後も500年後も同じように、二人で。  
傍らに私達二人の子供達がいた。  
みな笹の様に尖った耳をしていた。  
そして───夢の中のクレアも。  
自嘲する。有り得ない。  
そもそも私とクレアが、夫婦になるなど……あり得ないのだ。  
アレはファリスの神官だ。  
人間だ。  
エルフ達とは違う刹那的思考を持ち、違う時間の流れの中で住んでる人間だ。  
いずれ不幸になるだけの関係なら───『イラナイ』。  
 
そんな予防線を、今もずっと張り続けている。  
 
アレがエルフだったら。人間ではなかったら。  
私はアレをどう扱っただろう。  
 
アレが人間ではなかったら。  
ふと、幾通りかの手段で、アレを『人間ではなくする方法』に気づいてしまい頭を振る。  
 
アレは…承諾するまい。  
 
そもそも私に聞けるハズもない。  
お前は『人の生』を捨てて、私と過ごすつもりはあるのか、と。  
 
スイフリーは手を自らの見やる。  
夢の中で幼い子供の髪を撫でた感触を、まだ思いだせる。  
アレの身体を抱いて、アレの匂いに包まれて眠った昼と夜。  
夢の中では、500年を共に生きたというのに……。  
 
どうして現実は───こんなに儚い。  
 
 
 
スイフリーは頭を一振りし、睡魔を払った。  
感傷も逃避も──微かな未練も──これで終い。  
そうするべきなのだ。  
 
少し離れた木陰で眠るクレアの姿を捉える。  
短い金髪が僅な風にそよぎ、木漏れ日に輝いていた。  
 
───有り得ない。  
 
自分自身にいい聞かせるように。  
目付きの悪い灰銀の髪のエルフは皮肉気な……悲しい笑みを浮かべた。  
 
───残酷な……甘い夢を見ただけだ。  
 
 
 

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