「あれは確か……16年と、数ヶ月前の事だ…」  
 
フラリと立ち寄った店のテーブルで、手にした木製のジョッキからエールをチビりと飲んで、舌を湿らせたクリストファーが、そうきりだした。  
 
その日、ファリス神殿の聖堂で。  
朗々と低く響く声で、聖典を朗読していたキリング司祭の声が、不意に震えて止んだ。  
聖堂に集まり礼拝をしていた人々が訝かしげに、固まったキリング司祭と、その視線の先を追って、その光景を目にした。  
 
そこには……  
 
 
クリス「1才にもならない赤ん坊の我が妹と、狩人の息子である所の某君が、互いに抱えられていた母親の腕から身を乗り出して、その意味も知らず『チュー』をしている光景だったのである。まる」  
8つ年下の妹分と同じ茶色の目は、当時を思い出したように据わっていた。  
 
ヒース「…そ、そそ、それは、な、ナニカの冗談デスカ…っ!?」  
同時に同席していた『狩人の息子の某君』である所の、ヒースクリフ・セイバーヘーゲンの声は裏返っている。  
 
クリス「冗談? 冗談で、こんなちょームカつく事が言えるか! そもそもお前、俺様を何様だと思ってるんだ?! 仮にも清廉潔白なファリス司祭様だぞ。あぁん↑?」  
金髪に黒い鎧の男は、まるで街のチンピラの如く肩をそびやかし、その口を尖らせた。  
 
「…………(ジト目)」  
「ヴ──ッ!(ジタバタ)」  
 
弟分の疑いの目と、テーブル下で暴れる布袋の中身に否定され、クリストファーは明後日を見やりつつ、テーブル下の麻袋には軽く蹴りを入れた。  
 
「あー、うー、スマン。悪ぃ。言い過ぎた。ちょっとは清廉潔白なファリス神官の俺様だということにも吝かではなく。やむにやまれぬ事情がある時以外は極力、嘘はつかん」  
 
言い訳にならぬ言い訳をして、目付きの悪い金髪黒づくめの青年が言葉を続ける。  
 
まあ、ともあれ。  
一部を除いて、聖堂には微笑ましい空気ってヤツが流れた訳だが、やはりムカついていた若い俺様は、ガキのお前らを殴ってひっぺがしてやろうとしたんだ。  
したんだぞ?!  
それを両側からジェラルとアリスが、止めやがって。  
俺様がジタバタしているところをオヤジが、説教台から降りてきて、これ以上ナイくらい丁寧にイリーナとお前をひき剥がして、オフクロ達を引き離した。  
 
キリング「男女の仲はファリス様の御心のまま……とは言いますが。まだまだ、幼い子供たちですからね。  
この神前の誓いはノーカウントという事にしておきましょう…。…ふ、ふふ、ふふふ……」  
 
 
クリス「あん時のオヤジ。一見、優しい笑顔だったが、聖堂に真冬のブリザードが吹き荒れたような寒々しさだったな……」  
 
 
まあ、その後でオヤジは、お袋にキューキューに絞められたらしいが。  
 
クリス「…つまりだな。アレだ」  
 
幼い頃、お前とイリーナがファリス様の前でしちまった誓いのファーストチッスを、大きくなって成就させちまうのかどうか。  
周囲のヤツらはずっーーーっと、生暖かぁ〜く見守ってきた訳だ。ウチの家族も、お前の家族もな。  
赤ん坊同士の「暫定婚約者」の「暫定」が、とれちまうのかどうか。  
ジェラルやアリスや俺も、その一件をお前らに言わないように、クソ親父に釘を刺されてたしな。  
あん?  
どうしたヒース。何、突っ伏してやがる。  
だから俺様わ、お前とイリーナを残して旅に出る時にも「万が一、イリーナに手ぇだしたらプチ殺ース!」のたぐいの、脅し文句スカシ文句その他諸々、言わないでおいてやったんだぞ?  
ありがたく思いやがれ?  
 
ヒース「そ、そもそも、俺様、そんな1才ん時の記憶なんてアリマセンし…」  
 
クリス「記憶がなけりゃ責任とらなくていーのか? あ↑あーん↑?」  
クリスは親指で、店のカウンターで店主と談笑しながら買い物をする妹、イリーナの白い背中を指し示した。  
 
言外に『なんで貴様ら、仲良く二人で旅なんかしてやがる』と、非難のニュアンスを含んでいる。  
 
ヒース「あー、あ、い、いや、そ、それはデスネ…」  
正確にはイリーナのサーガ目当てに自称アーティストもくっついて来ていて、けっして二人旅ではない。  
二人旅ではない……のだが……。  
 
クリス「んー?」  
 
「言い逃れする気か」と言わんばかりの物騒な笑顔で首を傾げ、かつフレンドリーにクリスは弟分の肩を叩いた。  
 
ヒースは背中に冷や汗をかいて平伏した。  
 
はい。まったく言い逃れできません。  
オニイサマが察した通りでゴザイマス。  
俺様、オニイサマに言えないようなコトオニイサマの妹のイリーナとイロイロしました。  
 
「……ス…スイマセン」  
 
平伏しながら、ヒースは懸命に考える。  
うっかりと姉の婚期を危うくした、この黒い鉄塊への逆襲方法を模索する。  
 
 
「ヒース兄さーん。クリス兄さーん。お待たせしましたー。出発しましょー?」  
 
買い物を終えたイリーナが振り返り、酒場の片隅で小声で話こみながら飲んでいた2人に、屈託なく笑顔全開で手を振る。  
気がつけばテーブルの上、まるで二人同じように手を挙げて応えている。  
 
 
アノスへの旅の空。  
 
偶然、イリーナの兄クリストファー・フォウリーと出会った彼らは思い出話に花を咲かせ、旅の道連れになっていた。  
 
 
───この旅、まだまだ終わらない。  
 
 
終  
 

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