逃げようとするソラの背が壁に当たった。……追い詰められた。この部屋の出口は一つしかない。その時、ソラに取れる選択肢は限られていた。  
 追跡者がにじり寄ってくる。右に逃げれば右へ。左に逃げれば左へ。退路を塞ぐように、徐々に距離を狭めてくる。  
 すでに、その間合いは一歩の距離。  
「…………っ!」  
 ソラは姿勢を低くして脇をすり抜けようとした。だがその動きは敵に読まれていた。服の裾をつかまれ、力任せに壁に押し付けられる。その拍子に帽子が落ち、サラサラの銀髪と、その髪に隠された小さな角――ナイトメアの証が露わになった。  
「ソラ。もう諦めなさい」  
「……やめて。何考えてるの」  
 敵対者の手がソラの服にかかった。乱暴に衣服を捲り上げようとする。ソラは腰を引いて、両手で身体をかばった。  
「……大声出すから」  
「出せばいいわ。ええ、出してみなさいとも。それでこの姉の手から逃れられると思うならね」  
 ソラを壁に押し付けたまま、エルフ族の姉は挑戦的な瞳を向けてくる。  
 にや、と唇をゆがめるエアの手がわきわきと蠢いた。  
「さあ、今日こそ私の愛を受け入れてもらうわよ!」  
「あっ、……嫌っ!」  
 エアの指がソラの服のすきまに差し込まれ、くすぐるような動きで柔肌を蹂躙する。ソラはその感触にピクッ、と反応し、膝が砕けたように尻もちをついた。  
 お気に入りのリボンを剥ぎ取られ、胸元を割り裂くように脱がされる。細い肩も、白い首すじも、小ぶりな乳房も、姉の手にかかってすべて暴かれてしまった。  
「おとなしくしてるのよ、ソラ。私が全部してあげるからね……っ!」  
 やけに熱っぽいエアの声が耳朶を打つ。  
 ソラの肌を這い回る細い指――穢れのしるしである痣を執拗に撫で回され、ソラは我知らず頬を染めた。  
「やだ……やだ……やだぁ」  
 ソラの目に涙がにじむ。駄々っ子のように振り回す腕をエアが捕らえ、後ろ手に極めてしまう。  
 いつのまにかスカートが奪われ、むき出しになった細いふとももがエアのそれと絡み合う。肉の薄い尻が震え、エアのむちむちした股の間に組み敷かれる。  
「お、お姉ちゃん……い、痛いっ!」  
「え、ウソっ?」  
 エアがハッと力を緩めた。  
「うん、ウソ」  
 その隙にソラは背筋力で起き上がり、実の姉を躊躇なく蹴倒して逃走を図る。  
「こ、こら――っ!」  
 だが抵抗もそこまでだった。とっさに出したエアの手にソラのぱんつがひっかかり、結果、すてーんと転んでしまったのだ。  
「もうっ。油断も隙もないんだからっ!」  
「う、ううー……」  
 エアは今度こそソラをしっかりと押さえ込み、身体じゅうをまさぐりまわした。  
 折れそうに細い腰のくびれや、骨の浮き出たあばら、わきの下、お尻の谷間、膝の裏まで丹念に指を滑らせる。  
「やん……変なところ、触らないで」  
「観念しなさい。もうこんなにびしょびしょになってるんだから……」  
 ソラは、はぅ、と甘いため息をつき、姉の手に撫で回されるままになる。ぐったりしたその顔には、為すがままにされるしかない惨めな表情が浮かんでいた。  
 エアはその表情を嬉しそうに見つめ、たっぷりの濃い愛情を込めて髪を撫でた。  
「はぁ……はぁん……。お姉ちゃん、ひどい……」  
「あーら、ようやく素直で可愛くなったわね。最初からそうしてればいいのに」  
 嗜虐的に微笑むエア。  
 清く敬虔であるはずの神官の瞳には、一片の慈悲すらもなかった。ただ妹を嬲る悦楽と、「自分は正しいことをしているのだ」という狂った信念だけが輝いていた。  
 ソラは絶望し、両目を閉じる。  
「さあ、とどめよソラ」  
 
 
 
 ざばー  
 
 
 
 エアは桶をひっくり返し、ソラの頭からたっぷりの水を浴びせた。  
「もう、いくら言ってもお風呂に入ろうとしないんだから」  
「だって……水怖い……。お風呂、嫌い」  
 しくしく泣くソラに、エアは「ゴメンね」と呟いてほっぺにちゅーをあげた。  
 
 

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