もう何度目になるだろう? この体に組み敷かれるのは。
物憂げにアイシャは薄い暗闇の中、柔らかい寝台の上で恍惚の溜息をついた。
ルーンフォーク。魔法で作られた生命体である彼女の、主人と定められた少年ベルハルト。
その兄、ジークハルトの求めに流されるままに応じて、彼の男性を女身の我が身に受け入れ、少年を男性へと導いた。
初めてのことではない。
少年二人の父親とも、彼女は性関係を結んでいた。
はじめは密やかに。次第に情熱的に。愛欲にまみれ、溺れ、最後には彼の妻の前で絡み合った。
それは生まれて初めての恋。初めての情熱と愛欲と、哀しい確執。
女としての喜びと、哀しみのすべてをアイシャは一度に手に入れて、そして失った。
失い今は亡くなったその面影を、彼女はこの少年に重ねたのかもしれない。
そんな彼女の物思いを覆い隠すように、寝台が軋む音は続く。
少年の体が、寝台に四つん這いになった彼女を、後から突き上げていた。
押し殺し切れない嬌声が、普段は冷静なアイシャの唇から零れ出る。
それが彼女を組み敷く者の性衝動を煽ることを、彼女は知っているのかどうか。
掛けた紅い縁の眼鏡が、火照った吐息に曇り視界を遮る。
邪魔になりつつある眼鏡(それ)を、それでもアイシャは取ろうとはしない。
大きな白い尻に、少年の腰が叩き付けられ、その度に粘液のたてる音が、アイシャの牝の本能を刺激した。
「おい、アイシャ・・もっと腰、使えよっ」
その声は、愛した人の声にとても似ていて、逆らえない。
「・・ハイ、ジーク様」
普段の冷静さと慎みを捨てアイシャは少年の望みに応えて、汗ばんだ体を妖しくしならせた。
赤いあざの浮いた乳房を震わせ、腰を前後にうねらせて、少年のモノを咥える膣を、きつく絞りあげる。
自らも深い快感を味わい、高みに登り詰める。
「ああっ・・・さま・・・・さま・・っ」
快感のうねりに意識を飛ばされ、誰の名前を呼んだのかもわからなかった。
「アイシャ、イクぞ・・」
ジークの熱い精液が、アイシャの作り物の子宮に流し込まれた。
「・・・あ・・・?」
両手を寝台につき、倒れ臥したアイシャの赤いワイン色をした瞳の眦から涙が零れる。
アイシャは己のまだヒクつく股間から、男の体液が溢れ落ちるのを感じた。
これで終わりではない。
若いジークの性欲はまだ治まらないことを、度重なる経験から彼女は知っていた。
彼女の寝台の横に倒れ込んだジークが、アイシャの紅い眼鏡に手を伸ばして、それを掴み取った。
キスをするには邪魔な物だから、だが・・・それでも彼の妖精使いの蒼い瞳が、彼女の韜晦を見透かしているようでもある。
少年の手が彼女の腰に回されて、引き寄せられた。少年の顔が近くなる。
ジークの唇が、アイシャの白く冷たい美貌の上をなぞり、紅く濡れた唇を求める。
ジークの唇が乱暴に、アイシャの唇を探し当てて強く吸う。強引にアイシャの舌を求めて捕らえ、唾液を啜った。
自らも少年の接吻に応えて溺れ、没頭しながら、アイシャは微笑んだ。
こんな、ぶっきらぼうに甘える仕草は、本当に彼の父親に良く似ていて切なくなる。
互いに好きな相手が存在するにも拘わらず、少年はアイシャの体を、浅ましい欲望のまま貪る。
けして関係を断ち切ろうとはせず、体の関係を続けている。
そんな背徳の行為は少なからず、心を掻き乱す。そう、あの時の彼と私のように。
組み敷いた体が、罪悪感を秘めて震える様は、愛よりもずっと生々しく艶かしい。
少年の、裏切りを裏切りとも思わない子供っぽさ。
或いは彼の人の、大人ゆえの達観。
あまりにも違いすぎるというのに、なぜこんな所ばかりが似ているのか。
少年の手が、彼女の乳房を揉みしだきながら、熱い吐息とともにゆっくりと口づけが離される。
ジークは弟の従者に、まだ火がついたままジンジンと震えるアイシャに口淫を促し、アイシャは命じられるまま、ジークの股間に顔を埋めた。
美しく整った冷静なアイシャの顔が、愛欲とエクスタシーに淫らに歪む瞬間。
それこそが男たちを捕らえてやまない理由であると、彼女は知らない。
眼鏡をサイドボードに丁寧に置き、乱れた髪を櫛でとかすアイシャに背を向けて、ジークは衣服を身に着けた。
「ベルのこと頼んだぞ」
ようやく湧き上がった罪悪感からか、一顧だにせずにアイシャにそう命じる。
「ハイ、ジーク様」
感情のこもらない声で、彼女は少年の背中に答える。
あの人もいつも去り際に、そう声を掛けてきた。
こんなところも、変わらないのだろう。ずっと。この先も。
終