フィルゲンは「女は同族がいい」と言った。確かにそれは事実だった。
「だが、オレの手下どももそうだとは限らん。言い忘れたがな」
ドレイクの子爵は首を竦めて去った。
残されたのはエアと愛する妹、そしてニヤニヤと嘲笑を浮かべる無数の蛮族ども。
不潔な藁クズが転がる洞窟の中、エアとソラは薄布一つまとわぬ姿で拘束されている。頑丈な柱に鎖で繋がれ、手足には枷をはめられた。武器も、魔法の発動体も取り上げられた。
おまけにやつらは、やつらは、気高きルーフェリア神の聖印を、こともあろうに便所の糞壷に投げ捨てやがった!
醜い牙を剥き出したオーガとボガードどもが、妹を嘗め回すように見ている。ソラは気丈にも冷たく睨み返した。だが蛆虫より汚らわしい蛮族どもは、意にも介さずソラの太腿を撫で回し、乳房を弄り回す。そして汚い指で、純潔たる妹の、その奥まで……!
エアはルーフェリアの名を心で唱えながら、痛ましさに目をつぶった。
――オレの部下にならんか? 悪いようにはしない……。
そう言ったフィルゲンの顔がエアの瞼の裏に浮かぶ。
口ではなんと言おうと、蛮族などやはり信用に足る相手ではなかったのだ。
お姉ちゃん、いやぁっ、お姉ちゃんっ、と助けを求めて叫ぶ妹の声。
――と、突然妹に群がっていたボガードたちがぐぎゃあっと悲鳴を上げた。
目をハッと開けば、ソラが”異貌”を発動して、<ライトニング>の呪文を放ったところだった。
「このクソ人族が! 舐めた真似しやがって!」
手傷を負わされたオーガがソラの顔をしたたかに打つ。
「姉妹かわるがわる可愛がってやろうと思ったが、気が変わったぜ……。いたぶって殺してやる」
「その前に、あんたが黒焦げになる方が早いと思うの」
額から青白い角を生やし、不敵な戦意を湛えてオーガを睨むソラ。エアは妹のために加護を祈った。自分には、他にできることがなかったからだ。
「ソラ……! あんたは昔から無茶ばっかり! いくらなんでも、敵の数が多すぎるわよ!」
「でも、だって」
フィルゲンとかならまだしも、と妹は口を尖らせた。
「いくらなんでも、こんな不細工は我慢できないと思うの」
「あぁ? 言いやがったなぁ、猿くせえ人族の分際でぇ!」
オーガが腰の剣を抜いた。ソラが身構える。オーガはニヤリと笑うと、エアに向かって剣先を突きつけた。
刃が蝋燭の明かりを反射してギラリと光った。
「逆らうとこいつを先に殺すぞぉ?」
公用共通語だった。エアにも聞かせるために、オーガはそうしたのだ。
エアはソラを見た。ソラは逡巡していた。
「知ってるぞ。姉なんだろぉ? いいのか、見捨ててぇ? いいか、少しでも抵抗してみろ。お前の目の前でこのションベン女神の神官の腹を掻っ捌いてハラワタを貪り食ってやる!」
「ちょっと! いまあんたルーフェリア様のことをなんていいやがっ――!」
――ザクリ。
オーガの剣が、エアの右の乳房に鮮やかな紅の筋をつけていた。
「口を開くな。神臭え」
ポタリ、ポタリ、と血の滴が垂れる。命に関わるほどではなかった。だが、冒険の最中でも滅多に傷を受けることがない後方支援役であるエアは、痛みに身が竦んでいた。
「おねえ、ちゃん」
「ソラ……」
妹は蒼白になっていた。こんな時なのに……妹がやっぱり自分を大切に思ってくれていたんだと思い、エアは胸が切なくなった。
しゅん、と異貌化が解ける。
「何でもいうこと、きけばいいのね?」
覚悟を決めた目だった。そうだ、こういう顔をした妹は、やめなさいといくら言っても絶対に聞きやしないのだ。知ってる。ずっと、ずっと一緒にいたんだから……!
「はじめからそうしてりゃいいんだよぉ……バカな雌ガキが。ご褒美に姉貴の前で辱めていたぶってやるぜ。ほら、嬉しがれ。ぎゃははは!」
オーガは黄色い舌でベロンと牙を舐めた。
身を縮こまらせた妹の乳に、オーガが爪を立てる。痛みに顔を歪めるソラの表情を眺めて、オーガはキシキシと嘲り笑った。
安全だと見たボガードどもがぞろぞろとにじり寄っていく。
エアの方には一匹たりとも近づいては来ない。
オーガいわく、「神臭え」からだ。
「人族の雌は久しぶりだぜ。壊れるまで遊んでやる。キヒヒヒ! もっと喜べよ! オレ様のナニは糞デカいぜ! こいつの味を知ったら、人族の男なんざツマヨウジに思えてくる」
「早く済ませて」
ソラは懸命に泣くのをこらえているように見えた。歯を食いしばり、嫌悪感に顔をしかめている。
「イヤだね。タップリ後悔させてやる。……生まれてきたことをな! キヒヒヒヒ!」
そして陵辱が始まった――。
まず、ソラは四つんばいにさせられた。オーガが背後に立ち、その尻たぶをグイッと押し広げる。ソラの初々しい局部が丸見えになった。
オーガが無造作に指を挿し込んでいく。
ソラは唇を噛んだ。土をつかむ拳が、ぎゅうっと握りしめられる。
……声は、漏れなかった。
「イヤぁぁぁぁあああああああああ!! やめてっ! ソラの代わりに私を自由にしていいからぁっ!」
「ケッ。神官なんざお願いされても触りたくねぇ」
オーガはもぞもぞと指を動かす。中をかき回されるたびに、ソラは不快感に身もだえした。
やがて、オーガの指は体内に何かを探り当てる。
「こいつか。――それにしてもさっきはたまげたぜ。まさか脚おっぴろげてこの穴から雷出すとはな」
引き抜いたオーガの指に、べとべとの粘液と指輪が絡まっていた。指輪はソラが隠し持っていた魔法の発動体だ。
「いっそ傑作だったぜ。食らったのが自分でなきゃ大笑いしてたとこだ」
オーガは指輪を拭きもせず、自分の小指にはめなおす。そして股間の逸物をソラの陰部にあてがった。
「い……やっ。痛っ」
ソラが小さな声で呻いた。その声が耳に届いた瞬間、エアは理性を失いそうになった。
「やめなさいよっ! 妹に手を出さないでぇっ! やめ、やめてぇぇえええええっ!!」
「キヒヒヒ。それにしてもイイ声で鳴くなあぁ、お前のねえちゃんはよぉ。お前もあのくらい泣き叫べよ。それとも犯されて嬉しいのかぁ?」
ソラの膣の入り口に、テラテラと赤黒く光る忌まわしい亀頭がズブズブとめり込む。
「ぅ……ぐぅ……んっ」
「なんだ、処女じゃねえんだな。ケッ」
蛮族に前戯という文化は浸透していなかった。食い物も女も力で奪う。それがバルバロスだ。
このオーガもその例に漏れなかった。きつい肉穴に無理やりにねじ込み、ソラが痛みを堪えて涙をこぼすのを嗜虐的な嘲笑を浮かべながら眺める。エアの上げる悲痛な金切り声さえも、オーガたちにとっては愉しみの一つでしかなかった。
「ぃ……ぎぃ……ぅぅ……っ」
「ああん? どうだ、俺の道具はよぉ? 太えだろ。気持ちいいか? あぁん?」
「気持ち……わるいの」
キヒヒヒ! とオーガは声を裏返らせて哄笑した。ソラの尻をつかみ、ギッシギッシと乱暴に腰を打ち付ける。大きすぎる陰茎はソラの肉体に収まりきらず、突くたびにソラの奥をめちゃくちゃに殴打した。
「オオ……ッ! 締まるゥ! 具合がいいぜ、キヒヒヒ! もっと言えよ、『気持ち悪い』『嫌、やめて』ってな! その位の時期の方がおもしれえからなぁ! 最後は抵抗する気力もなくなって、『もう殺してくれ』って言うようになる!」
「ぐっ……ぅ……ぐっ……ぅ……ぐっ……ぅ……!」
出し入れされるたびに、ソラの喉の奥から押し殺した悲鳴が漏れた。悔しげに歪んだ表情。涙をためた瞳から、つうっと一筋きらめきがこぼれた。
「それからオレがどうするかわかるか? あぁん? ……キヒヒヒ! そこで殺してあげるわけねえだろうッ!? そこからだよ、お愉しみはなぁああああッ!?」
叫びながら、オーガはソラの膣に精を放った。どくんどくんと震える陰嚢の動きと、オーガの暗い愉悦に満ちた顔を、エアは一生忘れられないだろう。
口の中に血の味がした。エアは怒りで頭の血管が切れて、口の中に落ちてきたのかと思った。違う。無意識に、下唇を噛み切っていたのだ。
ソラがくたりと地面に倒れる。
たっぷり注ぎ込んだオーガが、満足そうにソラから離れる。
そして……次はボガードたちの順番だった。
延々と、延々と……ソラは道具みたいに使われて、射精され続けた。肉襞が赤く腫れ、穴がぱっくりと開きっぱなしになっても、蛮族たちは暴行をやめなかった。
ソラもエアも、涙でぐしょぐしょになっていた。
エアを決定的に打ちのめしたのは、せめてもの抵抗に悲鳴を堪え続けるソラの声に――何てこと、ルーフェリア様――微かに甘い喘ぎが混じってきた時だ。
「……う……ん! ぐ、ぅ……あぁぁんっ」
その時、エアの心の片隅に、何か得体の知れない、真っ黒なものが忍び寄った。
汚らわしいボガードのチンポを次々と咥え込みつづける妹に……エアは、殺意に似た激しい感情を抱いた。ある種の”疑念”が湧いた。明確な言葉にならない――しいて言えば、「もう妹は、妹じゃないんじゃ?」といったような混乱した疑念だった。
「ソラ……?」
エアの愛する妹は、声を堪えたまま地面にしがみついていた。その視線が一瞬、交錯し――エアは、ソラは確かに感じてしまっているのだということを悟った。
犯されて。妹は。蛮族に。
気持ちよく。させられて……。
「キヒヒヒ。そろそろ殺してほしくなったかぁ? どうだ? 今言えばさくっと殺してやるぜ?」
「……誰が」
ソラは、キッとオーガを睨み上げた。
だが、エアは我知らず、こう口走っていた。
「殺して……殺してあげて……もう……」
「お、ねえ、ちゃん……?」
ソラの顔に驚愕が張り付いた。エアはうつむいて、妹から目をそむけた。
「キヒヒヒ。どうやらあっちのほうが先に参ってきたみたいだなぁ。んん? どうするよ、ねえちゃんはお前に死ねって言ってるけどよ」
エアは家族のことを思い出していた。過保護すぎて鬱陶しい父。天敵みたいな母。だが、二人とも娘たちを愛していた。エアも両親を愛していた。間違いなく、愛していた。
ソラのことも。
もちろん、愛している。
だけど――。
「殺して、あげて……」
この先、妹とどんな顔をして付き合っていけばいいのか、それがエアにはわからなくなっていた。
「イーヤーだーね」
オーガはキシキシ笑いながら、にくったらしくそう言った。
「お愉しみはこれからだって言っただろぉ? ほぉら」
オーガはなにやら細かな意匠の凝らされた薬瓶を取り出した。中には不気味な緑色の軟膏が詰まっている。オーガはそれを自らの巨根に塗りたくると、「ヒャッハー、連続射精……!」とかやっているボガードを押しのけてソラに跨った。
獣のように四足で這い蹲らせて、尻を突き出させる。疲労と屈辱でぐったりと力の抜けたソラは、オーガになすがままにされるしかなかった。
「キヒヒヒ。前の穴はもうガバガバだからな。コッチにするぜえ」
「あうぐぁっ――――――――――――――――――――――――――――!!」
オーガの、女の腕のように太い陰茎がソラの尻の穴にめり込む。暴れるソラ。オーガは怪物的な腕力でそれを押さえつける。
信じがたいことに、その太いものは、ソラのすぼまった尻にずぶずぶと沈み、亀頭までをすっぽりと収めてしまった。あの軟膏がすべりをよくしているものらしい。
「あ……ふぁ……ひっ……ぎぃ……っ!!!」
「ケツの方は処女だったな。あぁ……やっぱ締まるぜぇ」
ズン、ズン、と遠慮もなく腰を使う。その度にソラは絶叫した。もう堪えてなどいられなかったのだ。
「……あぐ……ひぐぅ……っ……あ、んんんぅ……!!」
そして。
痛みを堪える悲鳴は、だんだん……そう、明らかな快楽の色を帯びてきたのだ。
「キヒヒヒ。どうだ、ソーンダークの媚薬の味はぁ!? 我慢しないでキモチイイ〜って叫んでいいんだぜ? 六歳の雌でも発情して自慰を始めるシロモンだからな!」
ソラの瞳が潤んでいく。
これまで強固に抵抗を続けていた妹は、いともあっさりと、オーガの言葉に落ちた。
「やだ……気持ちいいの……お尻……。……気持ち、いいの」
ソラは苦痛には屈しなかった。屈辱にも。だが、快楽には極めて弱い。エアはかねがねそれに頭を痛めていた。賭博、浪費、おいしい食べ物……そして今度はセックスの快楽に、妹は流されたのだ。
「ブハァッ! キッヒヒヒヒヒ! おい、ねえちゃんにも聞かせてやれよ! ほらぁ」
「あっ、あっ、ああんぅぅっ! お、お姉ちゃん……だめ……これ気持ちよすぎるの、お尻すごいの」
ソラは股を大きく広げさせられ、オーガの上になって腰を使っていた。汚らしい蛮族どもの精液を膣から溢れさせながら、きもちいい、さいこうなの、と酔った口調で叫んでいた。
「こんなの初めて。お姉ちゃん、お尻が変なの。お尻で感じるの」
――だから、
とエアは思った。
「だから言ったのよ……! もう殺してって……!」
そう呟いた時、エアの股間からも、つぅっ……と透明な液が伝った。
その淫らな汁が地を汚したとき、エアは、ようやくにして自らの心に湧いた黒い欲望を自覚した。
それは、嫉妬だった。
情欲だった。
雄に犯されて感じ続けるソラへの、絶望であり恨みであり愛着であり怒りであり、そして何よりもねじ切れそうな愛情だった。
嬌声を上げながら、尻の中に大量の精液を受け止めるソラ。絶叫すら枯れ果てた、その姉。
「…………ルー……フェリア……様……………………」
「ぁん……オーガの蛮族ちんぽ最高なの。もっとお尻ほじってほしいの。壊してっ壊してっ」
ソラは自分の糞のついた男根を舐めさせられながら、そう言っていた。前の穴も後ろの穴も精液便所にしてほしいとねだっていた。この、姉の目の前で。
――神は、
「どれ、神臭えねえちゃんにもサービスしてやるかな」
「やだ、やだ。お姉ちゃんの分も私にして」
「意地悪してやるなよ、キヒヒヒ」
――なぜ、
「お姉ちゃんにはこれで十分なの」
ソラは精液まみれの姿で、股間から滴る液を手ですくった。それを手のひらの上に載せて、エアの方へ伸ばしてくる。
「ほら、舐めていいのよ?」
エアは、痺れたような頭でおずおずと舌を伸ばす。
――こんな、
黄色く濁った、こんもりと盛り上がるような精液。
エアの舌がそれに触れようとする。
「くす。やっぱりダメ」
と、ソラが取り上げて自分の口に入れる。美味しそうに。なにかいいものみたいに。……正気じゃ、ないみたいに。
――非道を、許されるのですか……?
エアはもどかしさに鎖を引きちぎらんばかりに暴れた。ソラがくすくす笑いながら飛び跳ねて避ける。雄叫びを上げて、エアはガチャガチャと鎖を鳴らした。だが、どうやってもエルフの女の腕力でどうにかなるものではなかった。エアは涙をすすった。
――ルーフェリア様の声が、聞こえない。
「お願いします……私も犯して……妹みたいに犯してぇっ!」
廊下を歩いていたフィルゲンは、地下から響くその声を聞いて、ふと足を止めた。軽く肩をすくめ、端正な顔に「しょうがないな」といった感じの微笑を浮かべる。
「――だから言っただろう、悪いようにはしないって、な」
フィルゲンの足音が遠ざかっていく。
地下の宴は遠く。
やがて、すべてが沈黙に閉ざされた。