<封印二十一日目>
「ちゅっ、んっ、れるっ、はむっ、ずずっ、れろっ、んちゅっ」
「ずずずっ、ちゅっ、んむっ、ずずっ、んっ」
広い室内に、淫らな水音が響き渡る。
ジークとクロノアは互いに何も身に付けていない状態で、お互いの性器を舐めあっていた。
いわゆる、シックスナインと呼ばれる体制である。
「んふっ、あっ、あんっ……」
覆い被さる形で己のイチモツをしゃぶるクロノアの口の端から、小さいながらも嬌声が漏れ出る。
それに気を良くし、ジークは股間の気持ち良さに惚けそうになる脳を叱咤しながら、クロノアを攻め立てることに集中した。
秘裂の中に舌を進入させ、内側の肉を丹念に舐め上げる。
溢れ出る蜜を飲み込み、ぷくりと浮いた淫核を舌で弾き、弄ぶ。
その度に、身体全体でクロノアが快楽に身体を震わせるのが伝わった。
クロノアも勝気な性格ゆえか、負けていられないとばかりにジークのペニスをより一層強く愛撫する。
ねっとりと包まれる感触に、とうとう我慢の限界が訪れようとしていた。
「くっ、そろそろイきそうだ……」
ジークが言うと、心得たとばかりにクロノアの速度が更に上昇する。
あっという間に競り上がってくる射精感。
ジークもクリトリス一本に狙いを定め、クロノアを絶頂へと導く。
「くぅぅ、イく!!!」
「ん〜〜〜っ!!!」
びゅー、びゅびゅびゅ、びゅるるるるるる!!!
ジークの肉棒が膨張し、弾けた。
同時に、クロノアもまた達し、びくんびくんと汗に濡れた裸体を大きく揺り動かした。
水鉄砲のように勢い良く発射された白濁液を、クロノアは絶頂に思考を放棄しながら、喉を鳴らして無意識に飲み込み続ける。
「……ふぅ」
愛液の飛沫を受けて塗れた顔を拭いながら、ジークが一つ息を吐いた。
クロノアとこんな関係を持って、もう幾日となるのだろう。
相変わらずギリギリの位置を保ったまま、禁忌の愉悦に身を浸している。
「んくっ……相変わらず、凄い量ねぇ……」
全て飲み干したクロノアが身を起こす。
彼女も毎日続けているこの行為に慣れつつあるのか、羞恥が薄くなりつつあり、元の強気な性格を取り戻していた。
生娘のような反応も良かったが、こちらのほうがクロノアらしいと、ジークは嬉しく思う。
「ふぅ……身体洗わないと」
汗に塗れた身体を見下ろし、クロノアが言う。
昨日までは、ジークがその言葉を受けて外に出て、いつものように交代制で水を浴びていた。
だが、今日のジークは少し違っており、軽い口調で提案する。
「なぁ」
「ん?」
「今更裸がどうこうじゃないし、一緒に入らないか?」
「あぁ〜気持ちいい〜」
「日々の疲れが吹き飛ぶわね〜」
老人めいた言葉を呟きながら、二人は裸身を水の中に浸す。
探索と夜の行為で疲れ果てた肉体に、冷たい水は活力を取り戻させてくれた。
「んで……これから、どうしようか」
「そうよねぇ……」
互いに全裸だが、見慣れたのと先程イったばかりなこともあって欲情することもなく、真剣な顔で相談する。
というのも、二人の間には大きな壁が立ちはだかってしまったのだ。
――七百七十七。全ての部屋が、探索終了した。
脱出するための手段として使えそうなものは、何もない。
後はただ、メッシュたちによる救出を待つしか無かった。
「ジークくんの不注意が無ければねぇ」
「え、今更蒸し返すのか!? だったらクロノアさんだって!」
「な、何よ!」
ぎゃーぎゃー言い争う。
いつかの時のように。
「ぶはっ、やったな!」
「おほほ、かかってきなさい!」
言い争いは、いつの間にかお互いに水をかけあうという子供の遊びに発展していた。
水飛沫を撒き散らし、無垢な子供のように両手を力任せに振り回して、ただ水を相手に浴びせるだけ。
それだけの行為に、無駄に必死になる。
「ぜー、はー、ぜー、はー」
「はぁ、はぁ……」
五分後、力尽き果てた二人がそこにいた。
普段、あまり体力を使わないクロノアは立ちくらみを起こし、ふらりとジークへ寄りかかる。
「おっと」
ジークはしっかりとクロノアを抱き止めた。
腕の中、荒い呼吸のクロノアが、顔を伏せてぼそりと呟く。
「……本当にここから出られるのかしら、私たち」
「なに言ってるんだよ」
「だって……もう三週間よ。いくらなんでも、救出が遅すぎるわ」
「それは……」
それはジークも薄々思いつつも、決して口にはしまいとしていたことだった。
外には、小神とはいえ神格を持つルーがいるのだ。
この程度の魔法道具、どうにかなるはずなのである。
まさか、神の力を持ってしても封じ込められた者を解放出来ない代物というわけでもあるまい。
つまり、何らかの手違いで、メッシュたちの手から離れたか……
「もしも、永久に閉じ込められたままだとしたら、年老いて死ぬまで二人きりってことになるわね」
「クロノアさんはエルフだろ。俺は人間だから、先に死ぬよ」
「じゃあ、私一人っきり? 嫌よ、そんなの」
冗談めかしてくすりと笑う。
だが、その目に若干の恐怖が混じっているのを、ジークは見逃さなかった。
そう――もしかしたら、それは現実となるのかもしれないからだ。
一人きり、死ぬまで孤独。
それは、どんな地獄なのだろう。
「じゃあ……じゃあ、人数を増やせばいいんじゃないか?」
「増やす? どうやって?」
「どうやってって、そりゃあ……」
ジークが口を噤む。
それで、クロノアもジークが何を言いたいのか分かってしまった。
「……」
「……」
無言。
身体の半分を水に浸して抱き合ったまま、互いの荒い息遣いだけが耳に届く。
「クロノアさん……」
ジークは腕を伸ばし、クロノアの柔らかい身体をぎゅっと抱きしめた。
びくり、とクロノアが身体を震わせる。
「ふ……な、なに、何するの、ジークくん」
「俺、クロノアさんとセックスがしたい」
「!!!」
あまりに直接的な言葉に、クロノアの頬が瞬時に紅潮する。
「ば……馬鹿言っちゃいけないわよ。私、結婚してて、娘が二人もいるのよ?」
「関係ない」
「わた……私が、そんな……簡単に身体を許す、軽い女だと思ってるわけ?」
「今までだって、カームさんのじゃない、俺のチンコを扱いてくれた」
「あ、あれは単に性欲処理なだけで……!」
「俺がクロノアさんをイかせるのだって、抵抗しなかった」
「う……」
「しかも、一回だけじゃなくて、それから何日も」
「そ、それは……」
言葉を詰まらせ、視線を彷徨わせるクロノア。
閉じ込められて数日だけだったなら、ジークが自分の肌に触れることすら許さなかっただろう。
だが、今ではもう違う。
最後の一線を越えなかっただけで、既にジークを受け入れていたから。
「……これが、いけないことだって分かってるよ」
「だったら……」
「だけど、もう耐えられない。我慢出来ないんだ」
少し考えれば、分かるはずだった。
性欲処理という名の下、どんどん行為をエスカレートさせていき、お互いの心の距離を近づけていけば。
いずれ破綻し、最終的に何処に行き着くことになるのか。
「俺、クロノアさんが欲しい」
「……セックス出来るなら、誰でもいいんでしょ?」
「そうかもしれない。だけど、今はクロノアさんがいい。クロノアさんとしたい」
「わ……私、私は……」
カームの顔を、思い出そうとする。
何十年と連れ添った、夫の顔を。
だが――浮かぶのは、この三週間の出来事ばかり。
心の奥底でずっと隠し続けていた、膨張し過ぎて破裂寸前の不満――性欲を刺激する、ジークとのやり取りだった。
「私は……カームを愛しているわ。それは、変わらない……」
「俺は別に、クロノアさんとカームさんの仲を引き裂きたいわけじゃない。ただ、クロノアさんとセックスしたいだけだ」
「何、それ……獣みたいじゃない」
「ここにカームさんはいない。いるのは、俺たちだけだ」
「……卑怯よ、そんなの」
「最初に手を出したのは、クロノアさんのほうじゃないか」
「う……」
巨根につられ、先に手を伸ばしたのは――確かに、クロノアが先だった。
「こ、こんなおばさんがいいなんて、趣味が悪いわね」
「クロノアさんは綺麗だよ」
「っ……よ、よくもそんな恥ずかしいこと、簡単に口に出来るわね!?」
「だって、事実だからな」
ジークはにやりと笑う。
何もかも吹っ切れたような、晴れやかな表情だった。
「本当に嫌なら、ファイアボールをぶち込んでくれればいい。とにかく俺は、クロノアさんとするって決めたから」
「き、決めたって……きゃっ!?
ジークは抱きしめていた腕を解くと、クロノアをお姫様抱っこで持ち上げた。
驚くクロノアを無視して、湖を出ると地面に横たわらせる。
「ほ、本当に、する気なのね?」
「ああ、するぞ」
ジークは腕を伸ばし、クロノアの胸に触れた。
優しい、と表現するには些か乱暴な手付きで、柔らかなそれをぐにゅぐにゅと揉み解す。
「んっ……あっ……」
カームの恐る恐るといった消極的なやりかたとは違う、情熱的な触り方に、クロノアの口から自然と吐息が漏れる。
先程のジークとのやり取りで既に勃ちあがっていた乳首を指でこりこりと弄ぶと、クロノアの息もまた荒くなった。
「へへっ、クロノアさんも気持ち良さそうじゃないか」
「だ、だって……ひぅん!」
ぴん、と乳首を弾かれ、クロノアの喉から甲高い悲鳴が上がる。
その声に気分を良くし、ジークは顔を寄せて左胸に吸い付いた。
「ちゅうー、ずずっ!」
「んあぁ! へ、変な音立てないでぇっ」
乳を吸われ、乳首を舌で転がされる感触に、クロノアは恥ずかしそうに悶える。
ジークは左胸を口で、右胸を左手で刺激しながら、空いた右腕を移動させた。
臍を下り、薄い茂みを越え、先程の池だけではない湿り気を帯びた秘所に到達する。
「あくっ、ひぁぁぁぁっ!」
ジークの指が容赦無く狭い膣口の内に進入し、くちゅくちゅと音を立てて掻き回された。
卑猥な水音が響き渡り、淫靡な蜜を吐き出して、ジークの指を食いちぎらんばかりに締め付ける内壁。
「あんっ、あっ、んんぁっ」
下半身をくねくねとくねらせ、クロノアが快楽で悶える。
ジークの指はどんどん速度を増していった。
だが、ある瞬間を境に、ぴたりと動きが止まってしまう。
「……ふぇ……?」
どうかしたのか、と愛欲に塗れた瞳のクロノアがジークを見上げる。
これ以上ないくらいにペニスをギンギンに勃起させたジークが、真剣な顔で言った。
「そろそろ……挿れるぞ、クロノアさん」
「あ……」
両足が開かれ、その間にジークが入り込む。
いよいよ、その時が近づいてきたのだ。
クロノアは真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠し、いやいやするように首を振る。
駄目、止めて。
懇願する声は、彼女自身が驚くほど小さい。
さしたる抵抗もなく、ジークは激しくいきり立った肉竿の照準を、秘裂の中心へと定めた。
「はぁ、はぁ……」
ジークの息は、クロノアと同等に荒い。
目が血走り、心臓は爆発しないのがおかしなくらい爆音を立てていた。
早く犯してしまえという欲求に必死に耐えて、冷静になろうと努めている。
くちゅり……
亀頭が、今か今かとずっと待ち侘びてひくひく震えていた秘裂を押し開けた。
途端、ジークの股間に、唐突な刺激が瞬間的に広がった。
「!?」
ジークは慌てて、腰を少しだけ戻す。
まるで亀頭を引っこ抜かれたような感触だった。
唾をごくりと飲み込み、暴発しそうになったペニスを落ち着かせる。
長い時間はかけられない。
そう判断すると、ジークはもう一度位置を調整し、一呼吸置く。
「……一気に、行くぞ」
「んんっ……」
最後の抵抗とばかりに、クロノアの右腕がジークの胸を押す。
だが、まるで赤子か病人のようにまるで力の篭っていないそれは、ジークの身体を押し退けるに至らない。
形だけ。
それはつまり、ジークを受け入れても構わないという、明確な合図。
「……!」
もう、迷わなかった。
ジークの亀頭が膣の入り口に触れる。
裸の自分が組み伏している、裸のクロノアの淫蕩な視線を真っ直ぐ見返し――
一気に、貫いた。
「おぉ……ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「んあっ……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
挿れた。
ついに、挿れた。
ぬるりと滑るように、何の抵抗もなく、あっけないくらいに、ジークのペニスがクロノアの秘裂の内側へと差し込まれた。
禁忌、背徳、その他諸々の感情が爆発しては流れ行く。
だが、そんなことは関係ない。
クロノアが身体を許し、ジークが挿入した。
その事実だけが真実だった。
「す、すげっ……何だ、これ……っ!?」
「ああっ、んぅ、おっ……きぃ……っ!」
ジークが呻く。
猛烈な勢いで収縮するクロノアの膣内は、襲い掛かる獰猛な獣の牙と同等だった。
先程亀頭で感じたものより何倍もの力強さで、食い千切らんばかりにペニスをぎゅうぎゅうと締め付ける。
しかも恐ろしいことに、蕩けるような暖かさが、同時に襲い掛かってくるのだ。
圧倒的なまでの暴力と、幸せを感じるほどに溶かされゆく快楽。
矛盾に満ちた未知なる体験の中で、ジークは気が狂わない自分が不思議なくらいだった。
クロノアもまた、喘ぐ。
己の内側へ侵入した巨大な異物に、身体はおろか魂まで侵略されそうになって。
射抜いて打ち貫かんとばかりに、ぐいぐい押し退けて入ってくる暴力。
だが、同時に感じるのは、今まで欠けていたピースが埋まったような、そんな幸福感だった。
カームとのセックスとは何もかもが違う、頭の中がごちゃまぜになってワケが分からなくなる感情のうねり。
矛盾に満ちた未知なる体験の中で、クロノアも気が狂わない自分が不思議なくらいだった。
「マ、マジか……うぐっ!?」
「あんっ、駄目、来るっ、来ちゃうぅぅぅっ!!!」
「ぐ、ぐおぉぉぉぉ!!?」
収縮が更に強まり、ジークが悲鳴を上げた。
クロノアが絶頂したのだ。
初めてジークの巨根を目撃してから十日間、ずっとずっと欲しかったものが手に入って。
ただそれだけ、ただ挿入されただけで、彼女はイった。
夫のことや、娘たちのことを一瞬で忘却し、クロノアはびくんびくんと身体を跳ね上げた。
「す、すわれっ……あぐっ、ぎっ、がぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
もはや人としての言葉もなく、ジークは咆哮した。
視界が真っ白になって、爆発する。
脳も、ペニスも。
そして――
――何の予備動作も、相手に対する配慮もなく、射精した。
びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!!!!!!!!
「あぁ!? いっ、あつっ、あっ、いぃあぁぁぁぁあああぁああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
答えるクロノアもまた、人の言葉をなしていなかった。
それほどまでに、膣内に受けた衝撃は大きかった。
射精されたジークの精液の勢いは今までの比ではない。
例えるなら今までの射精が水鉄砲なら、今回の射精は大型のバリスタに変化したようなものだ。
びしゃ、びしゃ!!
穴を穿つがごとく、膣壁のあちこちに叩き付けられる強大な暴力の塊。
しかも、灼熱の炎かと疑わんばかりに、火傷しそうなほど熱く、そして永遠に続くかのように長い。
……そして、それが圧倒的に気持ち良い。
クロノアはイったばかりだというのに、再び絶頂を迎えた。
「はぁー、はぁー、はぁー……」
蛮族と死闘を繰り広げた後のような――いや、それよりも深い疲労を感じ、ジークは荒い息を吐く。
己の生命力を全て吸い尽くされたかのようだった。
今の自分は、体力はおろか寿命さえも奪われて老人と化したのではないか――そう疑ってしまうほど、強烈な体験だった。
「んふぅ……んあぁ……ぁん……」
脱力したクロノアが、未だに夢うつつといった様子で虚空を見つめている。
その顔は汗に塗れ、とても淫靡で――何処か、満ち足りているようだった。
「クロノアさん……」
「ぁ……ジークくん……」
「……ついに、しちゃったな」
「えぇ……凄い、気持ち良かった……」
お互いに見つめあう。
そしてふと――手コキから始まり、セックスまでやっておいて、大切なことをしていないことに気付いた。
「……ちゅっ」
「んちゅっ……んふぅ……」
二人は自然にお互いの顔を近づけ、唇同士で触れ合った。
外への脱出。カーム。エア。ソラ。
そんな余計なものは、全て思考から消え失せていた。
そこにはもう、二人だけの世界しか残されていない。
それほどまでに、このセックスはとんでもない麻薬だった。
「凄い量を、出したわねえ……」
「今まで、ずっとしたくてしょうがなかったから……その分を、一気に放出したって感じだ」
「ふふっ……子宮の中がいっぱいになるくらい注がれて……危険ねぇ。中出しじゃないと満足出来なくなりそうだわ」
「じゃあ、構わないな。人数を増やすには、丁度いい」
「あら……まだまだする気なのかしら?」
「当たり前だろ。今まで我慢してた分、遠慮なくやらせてもらうぞ」
「あんっ」
射精して萎えていたジークの男根が、再び力を取り戻していくのを膣の内側で感じ、クロノアは歓喜の表情を浮かべる。
「脱出は、諦めたの?」
「勿論、可能ならそれに越したことはない。でも、クロノアさんを独り占め出来るなら、このままでも構わない、かな!」
「ひぅっ、んはぁっ!」
ジークが腰を突き出し、クロノアが身体がびくんと跳ねる。
そのまま、二人は二回戦へ突入した。
肉棒を突き入れるたびにクロノアは嬌声を上げ、ジークも強い締め付けに快感を得る。
一切の余計な思考を放棄した、獣の交わり。
二人は夢中で、その行為に没頭した。
世間的には、許されざる行為なのかもしれない。
度重なる不運の連続で、こうなった。
もし、神殿に届けられていたのが別のアイテムだったなら。
もし、この迷宮に封印されたのがジークとクロノアではない、別の誰かだったのなら。
もし、ジークがクロノアの裸を見ることがなかったら。
もし、冷凍ガスの罠に引っかからなかったなら。
あるいは、必然だったのかもしれない。
ジークの男性器が、規格外の巨根であることも。
クロノアが、エルフらしからぬ性欲を持っていたことも。
クロノアの夫であるカームが、平均的なエルフの性欲とペニスしか持ち合わせていなかったことも。
クロノアの女性器が、いわゆる名器と呼ばれる逸材であったことも。
そして――ジークとクロノアの身体の相性が、素晴らしく良かったことも。
二人は溶けて一つになるかのように交じり合い、互いの肉体を貪った。
ジークは『初めての』セックスを体験して。
クロノアは『本当の』セックスを実感する。
新しい玩具を手に入れた子供のように純粋で無垢な心のまま、淫らにまぐわいあうのだった。
結局、二人が疲れ果てて動かなくなったのは、ジークが五度目の射精を終えたときだった。
ジークは全ての射精をクロノアの膣内で行い、クロノアも狂ったように何度も何度も絶頂した。
結合したままの穴から、ごぼりと白濁とした液体が零れ落ちる。
塗れた地面の汚れの酷さが、行為の濃密さを如実に表していた。
「も、ダメ……限界……」
数を数えるのも億劫なほどに昇天したクロノアは、息も絶え絶えといった様子で呟いた。
勝気で奔放なエルフの人妻は、外気に曝け出された両胸を上下させて、
汗まみれの身体を未だに快感の残る残滓の中にたゆたえている。
性格的にあまり性を感じさせない普段の彼女とはまるで違う、男を誘い入れるかのようなエロティックなその姿を見て、
初見で二児の母だと判別出来る者はいないだろう。
「ああ、俺も……空っぽだ」
答えるジークも、体力を全て使い果たした有様だった。
まるで何かに取り憑かれたかのようにクロノアの身体を貪欲に求めていたジークだったが、
流石に連続して五発、その前のシックスナインを含めると六発もの射精を終えて、極度の疲労を感じてしまう。
「セックスって、こんなに気持ちのいいものだったんだな……」
「そう、ね……」
何十年もの長きに渡った不満を完全に解消された形となったクロノアは、うっとりと微笑んだ。
猛烈な睡魔が襲い掛かる。
無理も無い。日々の探索疲れに加えて探索終了してしまったことによる精神的ストレス、
更に後先を考えない全身で感じるセックスを長々と続けたのだ。
実際、クロノアは何度も気絶し、その度に膣を突かれる快感で目覚めることを繰り返していた。
「あー、駄目だ……眠ぃ」
それはジークも同じようで、目がうとうとしている。
ジークは最後の力を振り絞ると、クロノアの身体を持ち上げ、ぐるりと反転させて己の身体と位置を入れ替えた。
「?」
ジークを下にしたクロノアが、きょとんとした顔をする。
はにかんだ顔で、ジークは答えた。
「まだ、繋がってたいからさ……このまま眠ろうぜ。俺が上だと、クロノアさんが苦しいだろうからさ」
ジークのペニスは萎えているとはいえ、未だにクロノアの内側へ侵入したままだ。
同様に、ジークとずっと繋がっていたいと感じていたクロノアは、淫蕩に微笑する。
「殊勝な心がけね。じゃあ、夢の中でもたっぷり搾り取ってあげるわ」
「望むところさ」
そして、二人は眠りの淵へと誘われる。
ついに、禁忌の一線を越えてしまった二人。
その先に待つのは破滅か、それとも――