<封印1日目>
「……また、同じような部屋ね」
「そうだな……」
通路を抜けた先にある石造りの部屋を覗き、ジークとクロノアは同時にため息をついた。
これでもう、何部屋目に突入したのだろう。
少なくとも、十は容易く超えたはずだ。
「あー、もう! 何でこんなことになっちゃったのかしら」
「え、それをクロノアさんが言うのか!?」
「な、何よ、ジークくんだって不注意だったでしょうに!」
二人してぎゃーぎゃー言い争う。
だが、どれだけ騒いでも周囲には誰もおらず、ただ静寂だけが満ちていた。
空しさに気付いた二人は、喧嘩を止めて真面目に部屋の捜索に乗り出す。
「こうなったら、なんとしてでも脱出する方法を見つけるのよ」
「分かってるよ」
しかし、本当にどうしてこんな事態になってしまったのか。
いつも従者に任せていたために慣れない探索作業に苦心しながら、ジークはつい数時間前の出来事を思い返す。
ルーフェリア神殿に届けられた、握り拳大の壺のような形状をしたをした魔法の道具。
それにクロノアが興味本位で触れた途端、突然まばゆい光を放った。
近くにいたジークはなんとかしようとクロノアから壺を奪い、その際手が滑って床に落としてしまう。
途端、壺は煙を噴き出し、ジークとクロノア――
そしてたまたま近くにいたエアとソラが巻き込まれ……
気付いたら、四人はこの剣の迷宮のような場所へと封印されていた。
「ま、どの部屋の一角にも食料は無駄に生っているし、飢え死にはしないですみそうだわ」
「メッシュたちも救出手段を講じてるだろうし、何とかなるだろうな」
非常事態のはずだが、二人の精神は気楽なものだった。
当面の食糧問題は解決済みだし、迷宮がどのくらい続いているのかは分からないが、一生閉じ込められてしまうわけでもないだろう。
こちら側から脱出するための手段が無かったとしても、仲間が一部始終を見ていたので、放置されることもあるまい。
出てくる魔物もボガードなどの雑魚ばかりなので、生命の危険を考える必要もない。
ちょっと面倒な事態になっただけ……すぐに日常に戻ることが出来る。
この時は、まだそう考えていた。
と、
「あー、いたいた!」
「お兄さんもお母さんも、無事だったの」
別行動を取っていたソラとエアが現れ、二人に合流する。
「ったく、何でよりにもよってこの女と一緒なんだか……」
「は。それはこっちの台詞よ」
「二人とも喧嘩しちゃ駄目ー!」
ソラのとりなしに、二人はふん、と顔を背ける。
「はぁ……」
「お兄さん、お疲れ?」
「男一人だと、少し寂しい」
「ふふ、ハーレムだね」
「嬉しくない……」
脱出について、特に危機感は抱いていない。
――しばらく、騒がしくなりそうけど。
心の中で、ジークはため息をついた。
この事態が、四人の関係を大きく変えることになるなど、思いもしなかった。