「それじゃあ、結婚しましょう」  
 湖の国ルーフェリアの本神殿。  
 大司祭の執務室で、ご本尊の女神が屈託なく笑う。  
 部屋の主であるバトエルデンは、眉間の皺を渓谷にして問いかける。  
「誰が?」  
「あなたが」  
「誰と?」  
「わたしと」  
 バトエルデンは手近な書類の中で一番厚い束を取ると、ルーフェリアの顔面に叩きつけた。  
「いったぃ! なにするのよ」  
「これまでの人生で一番の戯言だからな。それなりの対応をするのは当然だ」  
 大司祭は前にも増して不機嫌な顔になった。  
「それで、なにが狙いだ」  
「考えてみたら、これまでずっとバトには蛮族の侵攻を凌いだり、この国を支えてきたご褒美をあげてなかったなって思って」  
「俺はこの国の守護神に仕える人族の責任者で、功を上げた者に俸禄を与える側だぞ。  
 持ってないのは王位継承位ぐらいだが、そんなものは王子二人の方が適役だ。不似合いな権威などいらん」  
「だからよ!」  
 若い女神が幼馴染みを正面から見据える。  
 ルーフェリアの瞳は湖面のように僅かな揺らぎをたたえていた。  
 それはいかなる感情か。慕いか、憂いか、感謝か、願望か。  
「バトにご褒美を上げられるのは、わたししかないんだから」  
 だから受け取りなさい。  
 この国で一番の宝を。  
 

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