『目覚めた王女』  
 
1.夢の続き  
 
 夢。  
 夢を見ている。  
 今までに幾度と無く見てきた夢。  
 悪い魔法使いに攫われた自分を、マントを靡かせて剣を掲げた勇者が救い出す物語。  
 どこにでもある英雄叙事詩であった。  
 しかし、あの日から内容が少し変わってしまった。  
 悪い魔法使いに攫われるのも、勇者に助けられるのも同じ。  
 ただ、その勇者の顔が弟…ジークハルトに変わった。  
 弟の姿は夢の中で成長を続けていたが、現実の成長した弟と再会して以来、勇者の姿と重なり出したのだ。  
 父親の面影もあるが、まだ少年と言える背丈にあどけなさの残る顔、けれど強い意志を秘めた瞳。見紛うはずはない。自分の最愛の弟なのだから。  
 今回も弟が悪い魔法使いを倒し、逆光を背に手を差し出して来た。  
 わたくしは自らの手を伸ばし、その手を掴もうと…  
 
「ミスティン!」  
 目覚めると、目の前にはセラフィナ姉さんの姿があった。  
 ベッドに横たわるわたくしの差し伸ばした手を、両手でしっかりと握り締めている。  
「…姉さん?」  
 ぼんやりとした頭で呟く。  
「ああ、私だ! 分かるんだな! 医者は怪我は無いと言っていたが身体は動くか? どこか変な所はあるか?」  
 何やら切羽詰ったように矢継ぎ早に訊ねてきた。  
 頭の中を整理してみる。  
 ……  
 そうだ、自分は皇城領へ行く前に服飾販売の契約へ向かい、その場で契約相手が連れてきた商人仲間に襲われたのだ。  
 契約相手の紫のリルドラケン――弟の冒険仲間――は自分を護る為に自分を抱えて窓から飛び出し、必死で逃げてくれたのだが途中で急に眠ってしまい、自分も続けて眠くなり…  
 目覚めたばかりのせいか記憶が混濁し、その後の記憶ははっきりしない。  
「まさか、何かあったのか?!」  
 わたくしが中々答えないので、姉さんが慌しく問い詰め続けている。  
 姉さんが取り乱すのは姉妹のことでだけ。しかも周りに人が居ない時に限られる。  
 既にその両手は自分の両肩に添えられ揺さぶられている。  
 このまま返事が遅れると答えることができなくなりそうだったので、素早く確認して答える。  
「いいえ、大丈夫ですよ姉さん。どこにも問題はありません」  
 そう答えると、やっと揺さぶられていた身体が止まる。  
「そうか、良かった…」  
 姉さんの顔が安心に染まる。その両目には涙が浮かんでいるが、気付いていないようだった。  
 そっと手を差し伸べてその涙を拭い取ると、漸く気付き、ハンカチを取り出して残りを自分で拭った。  
「心配をお掛けしてしまい済みませんでした。姉さんがわたくしを助けて下さったのですか?」  
「いや、私ではない」  
 ハンカチを仕舞いながら答えてきた。  
 二人だけなので、いつものように自分を妾とは呼ばずに私と呼んでいる。  
「お前の弟たちが救い出してくれた」  
 平静を装いながらも僅かに悔しそうな表情をした。  
 自らの手で助けられなかったことが悔しいのだろう。例え皇族としての立場で動けなかったとしても。  
「でも、今目の前に姉さんがいるということは、姉さんが弟を手助けしてくれたのでしょう? ありがとう、姉さん」  
 姉さんならきっとそうしたはずだと、確信していた。  
 姉さんは常に権力争いの渦中に晒される自分たち妹を、誰よりも愛してくれていると知っていたから。  
 
 落ち着いてくると周囲の様子に気付く。  
 ここは姉さんの飛空船『純白の風』の一室。周りには船内とは思えないほどの花が咲き乱れていた。  
 窓から見える景色は青嵐領のようだった。  
「弟たちは無事ですか?」  
 自分を助ける為に無茶はしなかっただろうか?  
「ああ、安心しろ、全員無事だ。お前に聞いていたより、ずっと優秀な者たちだったよ。私もあのルーンフォークにはしてやられた」  
「メシュオーンに?」  
 初期設定や性格を知っていると、若くして皇位継承権を得た現役皇帝の姉さんを驚嘆させるとは信じ難かった。  
「ああ。眠り続けるお前の傍に居た時、気付かぬ内にハンカチを置いていかれたよ」  
 くすっ  
 つい笑ってしまった。  
「何か可笑しかったか、ミスティン?」  
「いえ、それは多分、弟の代わりをしたかったのです、あの子は」  
 メシュオーンは弟を英雄にしたがっていると聞いていた。だから弟に対する姉さんの覚えを良くする為にしたことだろうと想像がついた。  
 ――流石のミスティンも、まさかセラフィナとの恋愛フラグを立てる為とまでは想像できなかったが。  
「ふむ。主人に不遜な軽口を叩く割りに主人思いのルーンフォークなのだな。いや、あの男がそうさせるだけの器なのかもしれんな」  
 何やら納得している様子なのを見て少しむっとする。  
 それが自分の知らない弟を知っていることに対する嫉妬だと気付いて隠す。  
「何かあったのですか?」  
 くっくっくっ  
 姉さんは何かを思い出して楽しそうに笑った。  
「何、ただ、お前を救うのに力を貸せと、貸さないと王城に乗り込んで殴りかかると脅されただけだ」  
 ふふっ  
 思わず笑みが零れる。  
「弟ならやりそうですね」  
「そうだろ? 中々に将来が楽しみだ」  
 二人の笑う声が部屋を暖かい空気で満たす。  
 
 
2.たった一つの想い  
 
 ……  
 暫く談笑をした。  
「それでは私は戻る。今日は皆には伏せておくから、ゆっくりと休め」  
 夜ももう遅い。心配している者もいるだろうに、わたくしを気遣っての配慮だった。  
「ええ、本当にありがとう、姉さん」  
 セラフィナ姉さんは鏡で涙の後が残っていないことを確認して部屋を出て行った。  
 再会が嬉しくても、皇帝と言う立場上いつまでもそうしている訳にはいかなかったのだ。  
 
 静かな部屋で一人になると色々と思い出す。  
 目覚めた時、夢の中の弟が現実の姉さんに入れ替わった時、少しショックを受けた自分がいた。  
 最初に会いたかったのは弟なのだと再認識する。  
 でも実際に弟だったらどうしたのだろう?  
 慌てふためいてしまうだろうから、何をしてしまうのか想像もできない。逆にその光景を想像するだけで恥ずかしくなり自分の両肩を抱いて身悶えしてしまう。  
 
 こんこん  
 ノックの音がした。  
 誰だろうか。  
 佇まいを正し、深呼吸をしてから返事をする  
「はい。どうぞ」  
 間もなく、一人の男性が入ってくる。待ち焦がれていた弟だった。  
 どくん  
 心臓が早鐘を打つ。  
 弟はベッドの足元まで来ると立ち止まった。  
 わたくしは勤めて平静に声をかける。  
「……ジークハルト、迷惑をかけてしまったようですね……わたくしの不注意で、ごめんなさい」  
 先ほどの深呼吸のお陰で何とか詰まらずに言うことができた。  
 弟は正視し辛そうにこちらを見て、忙しなく視線を漂わせている。  
 確かに自分は今、攫われた時とは違うゆったりとした室内着を着ているが、弟はそんなことを気にするような性格ではなかったはず。  
「ね…」  
 僅かに目を合わせて何かを言いかけるが、言い淀んでしまい、そっぽを向いて言い直した。  
「ミスティン姫は偉いんだから、友達は選べよな」  
 ああ、そういうことなのですね。  
 弟は自分が姉であると知ったのだろう。だから自分にどう接して良いか迷っているのだ。  
「ジークハルト…」  
 軽く手を差し出して小声で呼び寄せる。  
 弟はベッドの横へおずおずと近付いて来て、その手に両手で添えようとする。  
 身を乗り出して、そんな弟の頭を、自分でも驚くほどの力で胸元に抱き寄せた。  
「――?!」  
 弟はびっくりしたようだが、構わずその頭を撫でながら言った。  
「ありがとう、私の大切な弟」  
 一瞬弟の体がビクッとするが、その後はされるがままに胸の中で頭を撫でられていた。  
 吹きかかる息が少しくすぐったい。  
 不意に漏れた言葉に固まる。  
 
「…固い…」  
 ごんっ  
 気付いたら撫でていた頭を拳骨で殴っていた。拳骨を使ったのはいつ以来だろう。  
「…悪かったわね、ジークハルト。姉さんみたいに大きくなくて」  
 自覚はあった。  
 セラフィナ姉さんには全く及ばない、女性の象徴。  
 病弱で食が細く、あまり運動もしないので仕方ないと思っていた。  
 まだ成長期のジャスティや、膨らみ始めてもいないホーリィとは比較もしていないが。  
「い、いや違うんだ、そうじゃないっ」  
 慌てふためいて弁解しようとしているが今更遅い。  
「な・に・が・ち・が・う・の・か・し・ら?」  
 半分冗談、半分本気で問い詰める。  
「あ、その…懐かしいなって思ったんだ」  
「?」  
 何のことか分からず首を傾げる。  
「俺、母さんの記憶はあんまり無いんだけど、頭を撫でられてた記憶ははっきりあるんだ。その時もこう、頭を抱きかかえられていたけど、柔らかくなかったんで今まで不思議だったんだが…姉ちゃんだったんだなって」  
 顔が赤くなるのを感じる。  
 弟が幼い頃に会った自分を覚えていた。思い出してくれた。  
 そして…  
「初めて、姉と呼んでくれましたね」  
 嬉しくてまた弟の頭を抱きかかえていた。今度は頭を撫でるのではなく、両手でしっかりと。  
「姉ちゃん…」  
 弟も照れながらも応え、されるがままになっていた。  
 腕の中の温もりに、懐かしさが溢れ出す。セラフィナ姉さんやジャスティ、ホーリィを抱いている時と同じ安寧と幸福感。  
 しかしその中で一筋の違和感が、存在を主張している。  
 だから聞いた。  
 覚悟をもって。  
「ジークハルト。もし、わたくしが貴方の姉では無かったとしても、助けてくれたのかしら?」  
 答えるため、わたくしの胸元から離れようとする弟を解放する。  
 視線が絡み合う。  
 先ほどとは違い、弟は視線を逸らすことも戸惑うこともなくはっきりと答えた。  
「当たり前じゃないか。ミスティン姫が姉ちゃんじゃなくても助けたさ」  
 欲しい答えはそこでは無かったから質問を続ける。  
「ジャスティやホーリィでも?」  
「当たり前じゃないか」  
 間を置かず返答が返ってくる。  
 まだ先。  
「セラフィナ姉さんでも?」  
「必要なさそうだけどな」  
 苦笑混じりの遠回しな肯定。  
 もう少し先。  
「貴方の冒険者仲間でも、見知らぬ相手でも…」  
 ここ。  
「…あの少女でも同じ様に?」  
「…」  
 弟の言葉が詰まる。  
 彼の性格上、困っている人を助けることには何の抵抗も無い。それを自然とできる――助けたいという思惑すらも無い――からこそ皆に好かれ愛される。  
 しかし。  
 そこに序列を求めた。  
 最近認識したばかりの姉、その姉妹、苦楽を共にした仲間、見知らぬ相手…そして最愛と思われる少女。  
 意地悪な質問だ。  
 優しい弟が、病み上がりの自分の前で言えるはずもない。  
 
「ごめ…」  
「…分からない」  
 反省して、冗談だと誤魔化してしまおうと思ったが、その前に答えが返ってきた。  
「ジャスティは放って置けない感じだし、ホーリィは手の掛かる妹みたいなもので、セラフィナ陛下は何となく危うい感じだ」  
 突然の切り出しに、何を言いたいのか分からなかった。  
「ソラはいくら素気無くしても甘えてくるし、エアは逆に構わないと直ぐ拗ねるし、ニゲラも頼ってくれる」  
 黙って聞く。  
「メッシュもムーテスもイスミーも居ないと寂しいし、会ったばかりの相手でも不幸だと悲しい」  
 次だ。  
「そしてルーは……俺では力不足かもしれないけど、一生を掛けて愛し続けたい相手だ」  
 ずきん  
 心臓が痛いほど締め付けられる。分かっていたことだけれど辛かった。何度も夢に見て知っていたはずなのに…  
「でも姉ちゃんは…」  
 …わたくしは?  
「唯一甘えたいと思った人だ」  
 我知らずに握っていた拳から力が抜ける。  
「だからそんな姉ちゃんを守りたい、助けたいと思った。こんな答えじゃ駄目か?」  
 ぽろぽろ  
「って、どうしたんだ姉ちゃん?! どこか痛いのか? それとも、俺、何かおかしいこと言ったか?」  
 弟は心配して、ベッドに両手を突いて乗り出してきた。  
 言われて初めて、自分が泣いていることに気付いた。  
 零れ落ちている涙は頬を、首筋を伝って胸元を濡らしていた。  
「…ううん。大丈夫」  
「本当に大丈夫か? 医者を呼ぼうか?」  
 弟は更に身を乗り出して顔を近付けて来る。  
「大丈夫……ただ、嬉しかっただけ」  
 涙を拭いながら微笑むと、弟の顔が真っ赤に染まる。  
 そんな弟の顔に手を添える。  
「姉だからでは無いのでしたら、ここに居るのは囚われていたお姫さまと救い出した勇者さま…」  
 もう片手をベッドの上の弟の手に重ね、目を閉じて私も顔を近付ける。  
 ジークも目を閉じる。  
 二人の距離は徐々に縮まり、やがて唇が重なる。  
 もうそこからは止まらなかった。  
 血の繋がりも、場所も、女神の微笑みさえも、お互いを想う気持ちの前では無意味だった…  
 
 
3.重なる心と体  
 
「んっ…」  
 唇を離すと、ジークは名残惜しそうなミスティンをベッドに横たえる。  
 美しい。  
 それが率直なジークの感想だった。  
 薄っすらと桃色に蒸気した白い肌、流れるように広がったさらさらの金色の髪、未来を見通すとされる深く吸い込まれそうな瞳からジークは目が離せなかった。  
 着ている服は救出時のドレスではなく、セラフィナが選んだだろう室内着だった。  
 四つん這いで覆い被さったままのジークの首に、ミスティンが両手を伸ばし引き寄せる。  
 ジークは引き寄せられるままに唇を重ね、右腕をミスティンの頭の下に回して自分の体重を支えながら、鎧を脱ぎ捨てていった。  
「んん……」  
 お互いの唇を甘噛みする。  
 柔らかい感触が押し返してくる。  
 まるで美味しいものででもあるかのように飽く事無く繰り返していると、深く甘噛んだ際に舌が相手の唇に触れる。  
「ちゅぷっ」  
 するとジークの舌がミスティンの口の中に割って入り、彼女の歯茎をなぞる。  
 ミスティンが首を振って口を離した。  
「嫌だったか?」  
 ジークは気遣って訊ねた。  
「…匂わないかしら?」  
 それは乙女にとって重要なことだった。  
 身体は蘇生後に侍女が拭いてくれたようだったが、寝起きである。それに寝ている人間の口の中までは上手く洗えない。  
 自分では分からないからこそ気になった。  
「そうかな?」  
 ジークは首を傾げ、  
「姉ちゃんのいい匂いと花の匂いしかしないぞ」  
 事も無げに言った。  
 ミスティンは火が点いたように頬が火照る。  
 彼女は部屋中の花に感謝して、照れ隠しのように彼の唇に右手の人差し指を当てて言った。  
「今は姉ではないでしょう、ジーク?」  
 ジークは驚いた顔をしたが、指が離れると、  
「ああ、…ミスティン」  
 応えた。  
 ミスティンは満足そうに微笑むと唇を重ね、今度は自分から舌をジークの中に入れた。  
「…れろ…」  
 ジークは一瞬呆気に取られたが、口に入ってきた舌を自分の舌で突付き、舐め、絡めた。  
 お互いの舌や歯茎など、口内を存分に味わう。  
 唇を離すと、最後まで名残惜しそうに唾液の橋が架かり、途切れる。  
 ジークがミスティンの背中に手を回して服に手を掛けると、彼女の手伝いもあってすんなりと脱がせることができた。  
 彼女は視線に気付いて左手で胸元を、右手で秘所を覆い隠す。  
「ごめんなさい。物足りないかも知れませんけれど…んっ」  
 ジークは短い口付けで彼女の言葉を遮った。  
「綺麗だ、ミスティン」  
 ミスティンの頬がまた一瞬で蒸気する。  
 ジークは彼女の両手をそっと広げた。  
 彼女は気にしていたが、その肢体は決して貧相なものではなかった。  
 細身の割りに座っていることが多いお尻はそれなりの肉付きがあり、コルセットでより抑えられた腰からの曲線は艶かしかった。  
 運動をしないが食も細い太腿は合わせれば隙間が埋まるくらいであり、ヒールによって鍛えられた脹脛はすらりと適度な曲線を描く。  
 セラフィナやエアには劣るものの、横たわって尚存在を主張するに足る、細身には余りある柔らかく豊かな二つの膨らみ。  
 食器や衣類より重い物を持ったことが無いような腕は言うに及ばず。  
 その完成された美しさは、まるで御伽噺のお姫様か美の女神のようであった。  
 
「んっ……」  
 ジークの手が、彼女の両の胸を触れるか触れないかのところでゆっくりと撫でる。  
 少しずつ、その形を確かめるように触れる。  
「はふっ…」  
 緊張と共に、ミスティンはジークを感じるべく瞳を閉じた。  
 ジークは一通り撫でると、今度は柔らかく包み込むように揉み始めた。  
 手に吸い付くような柔らかい乳房は力を入れずとも容易に形を変える。慎重に力加減を確かめながら力を入れ、次第に大きく動かす。  
「ん……ふあっ…」  
 艶を帯びた呼気が漏れた。  
 それが聞こえたのか否か、ジークは右の乳房を舐め上げる。  
「…はぁっ」  
 思ったより大きな反応に一瞬動きが止まるが、直ぐに再開する。  
 重力に押しつぶされている胸を持ち上げ、先ほどのように、胸の形を確かめるように付け根から全体をなぞるように舐め上げる。  
 舌で乳房全体をかたどると、今度は乳首を舌で転がし、吸い上げた。  
 母乳は出るはずもないが、汗ばんだ体液と乳房自体の触感が美味しい物でも食べているかのようにジークを錯覚させた。  
 ミスティンが身悶えを始める。  
 その手は片手でシーツを掴み、もう片手はジークの頭に退けるでも押し付けるでもなく載せられていた。  
 ジークは左手を胸から脇腹、更に下へと這わせる。  
 ミスティンの身体が震えるが、その間も口で右胸を、右手で左胸を攻める手は止めない。  
 左手が腰を伝い太腿の外側まで降りると、太腿を伝って内股への接触を図る。  
「んん……んあっ」  
 ミスティンが緊張して両足を閉じかける。  
 ジークは乳首を強く吸い上げて両足から意識を逸らし、間髪を入れず、自分の足をミスティンの足の間に潜り込ませた。  
 場所を確保すると、左手の人差し指と中指でゆっくりとその秘所をなぞる。  
「……んくっ」  
 固く閉じられた未開の秘所は、穴ではなく亀裂だった。  
 右手で左胸、左手で内股の愛撫を続けながら、乳首から胸、胸からお腹、へそを経由して秘所まで舐めながら身体を移動させる。  
「ひうんっ!」  
 舌が秘所に触れた瞬間、ミスティンの身体が跳ね上がる。  
 しかし、ジークは構わずに何度も何度も繰り返し舐め続けた。  
「ぅん……んん……ぁっ」  
 やがて秘所から体液が零れ出し、僅かだが固さが解れてきた。  
 指先で更に解すように撫でながら、口は再び上を目指す。  
 秘所からへそ、お腹、胸、そして今度は首筋を通り、唇を重ねた。  
 閉じていたミスティンの目蓋が開き、視線が交わる。  
 ジークは気付いていなかったが、行為の全てが誰を相手にした時よりも慎重で丁寧であり、そして愛しさに満ちていた。  
 その無意識から出た想いは当然ミスティンにも伝わり、ジークが触れる度、動く度に身体を振るわせていたのだ。  
 だから言葉は要らなかった。  
 全身を伝わっていた快感で潤んでいた彼女の瞳の端が下がる。  
 それが合図だった。  
 
 つぷっ…  
「んっ…」  
 服を脱ぎ捨てたジークは覆い被さるように自分自身を宛がい、濡れていた互いのモノが触れ合う。  
 ず…ずず…  
「…く…ふ…」  
 切っ先が僅かに潜り込み、  
 み゛り……み゛りり…  
「…んんっ……ぁはっ…」  
 狭い亀裂を引き裂いて、  
 …ず……ずず……  
「…い……っって………!!」  
 奥へと入り込んだ。  
「…んはっ……はっ………はぁっ……」  
「…大丈夫…か?」  
 ミスティンは破瓜の痛みを逃すかのように、空気を漏らすような吐息を吐く。シーツを握り締めた手の平に爪が食い込む。  
 ジークにしても余裕は無かった。ミスティンが呼吸をする度に膣が締め付けられ、内の柔らかい感触が圧迫してくるのだ。  
「…だ…い丈夫……ですから………続け…て……」  
 声は大丈夫そうでは無かったが、潤んだ瞳でそう言われて待てるほどジークは優柔不断では無かった。  
 ずず…  
「ん…ふ…」  
 ゆっくりと引き抜かれ、  
 ずぶうぅぅぅぅ…  
「んんんんんんんんっっっっ……!」  
 また入っていく。  
 …っとん  
 奥まで入り込んだジークのモノが子宮を小突き、聞こえないはずの音を聞いた気がした。  
「…当たってる…」  
 ミスティンは下腹部を擦りながら呟いた。  
「…温かい……お腹全た…いで、ジークの形を…感じています……」  
 自分の中にあるそれをさも愛しそうに。  
 それを聞くとジークのものがビクンッと脈打ち、更に大きくなった。  
 それでも直ぐに動く事無く、ミスティンの反応を待つ。  
 ミスティンの膣内もまた、大きくなり内から押し広げてくるモノに戦慄き、小刻みに締め付けていく。  
 
「…もう良いですよ。ジーク…もっと、続けて下さい…」  
 その言葉でジークは動きを再開する。  
「ミスティン…」  
 ずぷぷぷぷ…  
「あぁあああ…ジークぅ……」  
 ずっ、ずっ、ずっ  
「ミス…ティンっ、…ミスティンっ」  
「んは……ぁ…ジ、ークっ…あ…あぁ……ジー…クぅっ……はっ、はぁっ…」  
 お互いの名を呼び合い、身体を重ねる。  
 どれほど繰り返しても飽きなかった。  
 初めてであったミスティンも間もなく、快感が痛みをもその一部としていった。  
 近親と言う名の媚薬。  
 血縁の姿が似るように、血の濃さはその血肉の近さ。  
 人が自分の考えを元に相手に教えるように、身体が男を、女を感じさせる機能もまた血縁にこそ相性が一致する。肉親こそ禁断の美酒。  
 頭のいかれた医者の俗説だ。  
 真相は分からないが、ミスティンの内の狭さとジークの大きさと言う差こそあったが、二人にとっては真実であった。  
「…あ…たまが……真っ白にな、って……」  
 内から広がる快感にミスティンの意識が点滅する。  
「俺も…もうすぐ…」  
 ジークも限界が近いことを感じて彼女の中からモノを抜こうとしたが、止められた。  
「構いま…せん。ジー…ク、あな…たを…下…さいっ……!」  
 ミスティンの両足がジークの腰を挟んで離さない。  
 それは決して強い力ではなかったが、ジークもまた、同じ気持ちだった。  
「イク…ぞっ!!」  
 ずずんっ  
 最後に強く奥まで突き入れ、  
 どぷっ、どぴゅっ  
「…はぁあああああぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」  
 ミスティンは注ぎ込まれた大量の精液を子宮に感じ、絶頂に達して気を失った。  
 ぬるっ、…こぽ…  
 ジークもまた、ミスティンの中からモノを引き抜くと、余韻に浸りながら浅い眠りに落ちていった。  
 ミスティンの内股からは、溢れかえった精液が零れていた…  
 
 
4.愛されている真実  
 
 翌朝ミスティンが目覚めた時、ジークの腕が頭の下にあった。  
 まだ眠っている愛らしい弟の顔をいつまでも見ていたかったが、そうはいかない。  
 ちゅっ  
 昨晩の行為からすると控えめな、余りにもあっさりとした口付けをする。  
「ううん…」  
 ジークが寝返りを打つ。  
「ジーク、そろそろ起きないと人が来ますよ?」  
「うぅ…姉ちゃん、もう少し……」  
 弟は再び寝返りを打った。  
「ジークハルトは姉さんがどうなっても良いのですね? 姉さんは悲しいです…ぐすっ…」  
 がばっ  
 小芝居を打った途端、弟は跳ね起きた。  
「敵か?! 何があった!?」  
 くすくすっ  
 裸のままベッドから飛び降りて身構え、周囲を伺う姿に笑ってしまった。  
 弟も寝ぼけていたことに気付いたようで、こちらを振り返って笑う。  
「脅かすなよ、姉ちゃん…」  
 笑い合う。  
 でも、もう少しだけ意地悪をしてみる。  
「本当に心配してくれるのですか?」  
「当たり前だろう」  
 間髪入れず返事が返って来る。  
「それでしたら、責任を取って貰えますか?」  
 
「は?」  
 普通に責任を取ると言えばそういう事なのだが、今一つ訳が分からないようだった。  
「…身体の弱いわたくしは、皇帝になることはありません」  
 真面目な話だと思った弟は口を閉じてじっと続きを待つ。  
「かと言って、予言の力を持つ以上、政略結婚として他国に嫁ぐこともできません」  
 他国に強力な予言の力が渡ることは、国内の誰もが恐れる事態である。  
「故に、その力を維持する為、いずれは国内で政略結婚を迫られることでしょう…」  
 必ずと言う訳ではないが、魔法の素質などの特殊な能力は子に引き継がれることが多い。  
 ミスティンとジークの母親の家系は強い予知の力を持ち、ジークもまた予知夢を見たことがあった。…本人は忘れているが。  
 ミスティンの予言は今まで何度と無くアイヤールを救ってきた。  
 国家の命運を左右するほどの力、できれば何時までも利用したいと思うのは致し方無いことだろう。  
「ジークハルト。貴方に責任を取って貰えますか?」  
 そして先ほどの言葉に戻る。  
「…」  
 ジークは答えられなかった。  
 昨晩よりも意地悪な質問だったから諦めていたが答えて欲しかった。  
 そうすれば…  
「俺は、ルーを愛し続けると決めている」  
 …諦められるから。  
「…だけど、姉ちゃんを守り続けると言った言葉にも嘘は無い」  
 それでも欲しかった言葉。  
「俺が何とかする。姉ちゃんを嫌な奴と結婚なんてさせない。嫌な思いなんてさせない」  
 嬉しすぎて涙が溢れる。  
「貴方は馬鹿です、ジーク…。わたくしは貴方以外の誰も愛せない。そして一人であることに耐えられるほど強くもありません」  
 弱音を吐く。  
「分かってる。だから責任は取る」  
「あっ…」  
 ジークはベッドに座っていたわたくしの肩を掴み、唇を重ねた。  
 
 彼らが姉弟だと知る者は少ない。  
 ジークはアイヤール王家の関係者にとっては攫われたミスティン姫を救い出し、軍部の内乱を潰した英雄である。  
 ましてやミスティンとその力が他国に渡らず引き継がれるならば、祝福される婚姻と言えよう。  
 姉弟だと言う事実も、それを知る王家の一部の者たちにとっては、二人の意思が固いなら騒ぐほどのことでもない。  
 血縁を守るための近親婚は、世界中の歴史でいくらでも前例があるのだから。  
 
 ならば何が問題かと言えば…  
 
「ジーク、姉上と貴方の仲間たちを呼んでいただけますか?」  
 涙を拭き、部屋を片付けた後に告げる。  
 ジークは深刻な表情のわたくしに訊ねた。  
「何があるんだ?」  
「わたくしの、夢の話を」  
 わたくしが予知夢の内容を伝えるために青嵐領を出ようとしていたことは既にジークも知っていたようだ。  
「分かった」  
「それと…」  
 早速部屋の外へ出ようとドアに手を掛けたジークを呼び止める。  
「わたくしたちの関係は当分内緒にしましょう、『ジークハルト』」  
 ジークは理解したようで、素直に頷く。  
「ああ、ミスティン姫…いや、『姉ちゃん』」  
 これで良い。  
 責任を取ってくれるのは嬉しいけれど、まだその時ではないのだから。  
 彼の冒険が落ち着いた時、帰って来てくれる。  
 わたくしはただ、その時を待つだけで良い。  
 今まで七年も待ったことに比べれば、確かな証を得た今、どんなに長くても待てると自信を持って言える。  
 温かい気持ちでジークが部屋を出て行くのを見守っ…  
 
 ごんっ、どたっ  
 
「?!」  
 ジークがドアを開けた途端、何かがぶつかって倒れたような音がした。  
 具体的に言うと、聞き耳を立てていた人間が空いたドアにぶつかって倒れ、尻餅をついたような…  
「姉さん!?」  
「げっ、セラフィナ…さま!!」  
 わたくしとジークは驚いた。  
 床に尻餅をついているのは誰あろう、アイヤール皇帝セラフィナ陛下その人であった。  
「…姉さん、一体そこで何をしているのですか?」  
 分かってはいる。分かってはいるけれど、つい確認の言葉が口を突いた。  
 姉さんは部屋に入って弁明を始めた。  
「あ、いや、これはだな、心配になって来たら妙な雰囲気だったもので、邪魔が入らないように見張っていただけなんだ。ほ、本当だぞ?」  
 多分、嘘では無いだろう。  
 姉さんのシスコンぶりは宮廷中でも有名で、自分の政略結婚も姉さんが全部潰してくれているのは知っている。  
 だけど、この場合は…  
「出刃亀するならメッシュだと思ってたんだけどなあ…」  
 セラフィナの服装も髪型も、昨晩、私のお見舞いに来た時と同じだった。  
 いや、少しだけ髪や服装が乱れ、目の下にも少し隈ができている。  
 
「私がどうかしましたか?」  
 メシュオーンが飄々と部屋に入ってきた。  
「メッシュ、何時からいた?」  
「つい今し方です。まさか一晩中帰らないとは思わなかったもので、姉弟水入らずにするために大変でしたよ」  
「誰も来ないと思ったらそういうことだったのか」  
 そうこうする内にジークの他の仲間たちも入ってきた。  
「一晩中二人っきりで…まさかあんた、実の姉弟で間違いなんて犯していないでしょうね?」  
 エルフの視線が冷たい。以前見た時より5割増しくらいだろうか。  
「大丈夫ですよ、ジークさんは女の子には手を出しませんから。あ、これ朝食です」  
 朝食を運んできた鎖帷子の少女は、フォローになっていないフォローを入れる。  
「あ、姫さま、この前は事件に巻き込んで済んません。それで、あの時の契約の話なのですが…」  
 事件の発端に関わった紫のリルドラケンが、謝辞に続けて商売の話を始める。  
「こら、オクタン、そっちじゃねぇっす」  
 足元で盆の上に飲み物を載せた小さな魔導機械が壁際の花に向かい、それを赤いタビットが追いかける。  
「もう何がなんだか…って、姉ちゃん楽しそうだな」  
「うん?」  
 知らず知らずの内に笑っていたらしい。  
 こんな賑やかな仲間に囲まれているのだ。弟が皆に愛されていることが嬉しくなる。  
 でも自分が一番愛している。  
 そして愛されたい。  
 夢の中のハッピーエンドを実現するために。  
 だからできることから始めようと思った。  
 まずは予言を伝えて実現を阻止すること…ではなく、この場を収めることから。  
 
「―――っ」  
 
 誰も話を聞いてくれず、結局予言の話が始まったのは近衛の一人がセラフィナ姉さんを呼びに来てからだった。  
 …前途多難です。  
 
 
 
Fin?  
 
 
 

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