『悪夢』  
 
 バルコニーから国民に向かって手を振る。  
「セラフィナ陛下、ばんさ〜いっ」  
「皇配殿下、ばんざ〜いっ」  
 隣に立つ男はいつもの笑顔で手を振っている。  
「どうしたのだジーク。いつに無く緊張しているようだが?」  
 いや、私には分かる。  
 その顔は笑顔なのではなく、引きつった笑顔が張り付いているだけ。  
 この男でも緊張くらいはするのだ。  
「意地悪だな、セラフィ。俺だって、流石にこの状況じゃあ緊張くらいするさ」  
 彼は私の夫となったのだ。  
 大国アイヤールの女帝の夫として、国民への初お披露目。  
「いつもは私が苛められているからな。その仕返しだ」  
 満面の笑みを浮かべて、少しだけ彼の方を向く。  
「それなら、今晩も苛めてやるよ」  
 彼はまだ緊張を残した笑顔を返しながら、私の腰に手を回し、僅かに抱き寄せてきた。  
 私は抵抗せず、彼の首に両手を回して口付けを交わす。  
 歓声にどよめきが混ざる。  
「嬉しいのだが、無理はできんぞ」  
「?」  
 彼の不思議そうな顔を満足げに見ながら答える。  
「私達の子供に無理はさせたくない」  
 喜びで彼の顔が緊張ごと崩れさる。  
 彼から、もう一度口付けと熱い抱擁をされる。  
 長い、長い抱擁。  
 国民たちが更に盛り上がる。  
 私達とアイヤールの未来を祝って。  
 
 
「…という夢を見ました」  
 ミスティは厳かな声で告げた。  
「あ、悪夢だ〜!」  
 ホーリィが頭を抱えて身悶えをした。  
「姉上までジークを好きだったなんて〜〜!!」  
 誰もそんなことは言っていない。  
 だんっ!  
「酷いよ、姉さん! ジークは私のこと責任取るって言ってたんだよ!」  
 ジャスティが机を叩いて抗議している。  
 先の配下の暴走で謹慎中なのだが、抜け出して来たのだ。  
「そうですよ。ジークはわたくしが一番だと断言しています。ですから、これはただの悪夢なのです。決して予知夢ではないのです!」  
 ミスティが珍しく強い口調で熱弁している。  
「……」  
 セラフィナは頭が痛くなってきた。  
 私にどうしろと言うのだ。  
 だが、自分からジークと深い関係になったと言う事実もある。  
 しかも妹は三人とも彼を好きらしい。  
 妹達の喧騒を他所に、セラフィナは小さく呟いた。  
 
「本当にジークを婿にしてしまおうか…」  
 
 
 
Fin?  
 
 

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