ガキンッ、キンッ……  
 ファンドリア宮廷の中庭で、激しい剣戟の音が聞こえる。  
 刃の潰されたバスタードソード同士がぶつかり合う。  
 1人は帝政ファンドリア皇帝、『ファラリスの聖女』イリーナ。  
 それに対抗するのは、梳き上げたショートカットの金髪に、太い眉の少年のような顔を  
持つ少女。  
「あっ」  
 一瞬拮抗したかのようにも見えたが、イリーナの剣が振り下げられた瞬間、その間合い  
に飛び込もうとした金髪の少女の剣が、イリーナの返す刀とぶつかり、弾き飛ばされる。  
 先端を円められたバスタードソードは、くるくると回転しながら弧を描いて、中庭の芝  
生の上に突き立った。  
「はぁ、やっぱり勝てませんか……」  
 獲物を失った少女に、イリーナが剣を向ける。すると、少女は決まり悪そうな表情でそ  
う言って、頭をかいた。  
「でも、前よりはだいぶ強くなってると思うよ。それに、器用に当ててこようとするし。  
最後のはちょっとヒヤッとしちゃいました」  
 イリーナは、降参の姿勢をとる少女──リノンに向かって、そう言った。  
 イリーナの瞳は、ファリスの加護を失いファラリスの啓示を受けて以来の濁ったもの。  
だが、リノンに向けるその表情そのものは、かつてのまっすぐなイリーナのものだった  
 
 ※  
 
 ファンドリア国軍がオーファン・ファン王都に迫った時の事。  
 包囲はファンドリア国軍が担当し、精鋭・『ファンドリア神聖黒騎士団』がファン中枢  
に  
電撃戦を仕掛けた。  
 勇者の丘、オーファン王城への橋頭堡として5大神──本来ならば6大神だが、オーファ  
ンではファラリスは認められていなかった──の神殿のいずれかを占拠し、国軍兵を入れ、  
兵站線を確保する作戦だった。  
 その目標は、当初、オーファン国教であるファン・マイリー神殿だったが、事前の斥候  
により最高司祭のジェニがすでにファンに不在と判ると、黒騎士団はファン・ファリス神  
殿に目標を変更した。  
 ファリス神殿を占拠した黒騎士団は、キリング・フォウリー最高司祭以下の司祭及びそ  
の周囲の人間を軟禁し、防御陣地として構築した。  
 ファリス神殿に人質として捕縛された信者は、一様に驚愕し、そして絶望した。  
 ファンドリア最精鋭にして敬虔なファラリス信徒で構成される『ファンドリア神聖黒騎  
士団』。それを率いるのは、黒いプレートメイルの正面中央にファラリスの聖印を掘り込  
み、不気味な血色のグレートソードを持つ少女騎士──かつてのファン・ファリスの生け  
る伝説、1年ほど前に謎の失踪を遂げた『ファリスの猛女』、イリーナ・フォウリーだっ  
たのだから。  
 
 ※  
 
 ファンドリア宮廷の巨大で豪奢な浴室。  
 現在のその主は、これほどの贅沢を好まなかったが、建設ラッシュで人も資材も足りな  
い状況では、わざわざこちらを改装させる余裕はない。  
 新たに設置された立法評議会、衆議院・選帝院ともに、今は土壁も張られていない木造  
の仮建物を使っているほどなのだから。  
「あの……失礼します、陛下」  
 そう言って、バスタオルで前を隠しながら、リノンがおずおずと中を伺うように入って  
くる。  
「遠慮なんて、しなくていいのに。これだけ広いんですから」  
 浴槽に浸かるイリーナが、振り返って微笑みながらそう答えた。  
「そ、それも、そうですね」  
 苦笑しつつ、リノンは浴室に入ってくる。  
 桶を持って浴槽に近寄ると、湯を汲み上げて自分の身体をざっと流した。  
「?」  
 リノンがふと気がつくと、イリーナがじぃっ、と、そんなリノンを見つめていた。  
「ど、どうかしましたか?」  
 戸惑いつつ、リノンが訊ね返す。  
「えーと……リノンって、私とおない歳って言ってましたよね?」  
「えーっと、はい、そのはずですけど」  
 リノンは意図を掴みかねつつ、そう答えた。  
「マウナ、覚えてますよね? 私がファンで冒険者をしていた頃の仲間です」  
「ああ、あのハーフエルフさん……」  
 リノンは口に出しつつ、その姿を脳裏にリフレインさせた。  
 そして、気付いてしまった。  
「…………」  
「…………」  
「ハーフエルフって、20歳くらいまでは人間と、成長のしかた、変わらないはずなんです  
よね」  
「陛下はまだ、良いじゃないですか……普通に、女の子に見えるんですから。私なんか、  
スカートはいてないと、男に見られるんですよ?」  
 イリーナの言葉に、リノンは苦い顔で言いながら、湯に浸かると、イリーナの隣に腰を  
下ろす。  
 
「はぁ〜」  
「はぁ〜」  
 まもなく19になろうと言うのに、相変わらず小柄につるっぺたんな2人は、そろってた  
め息をついた。  
 …………──  
 しばらく、沈黙が流れる。  
 流石に、かぽーん、なんて日本式の浴場の擬音は聞こえてこない。  
「……ねぇ、リノン。1つ聞かせてもらって良いですか?」  
 やがて、イリーナの方から切り出した。  
「はい、なんでしょう?」  
 リノンはイリーナの方を向いて、聞き返す。  
「なんで、リノンは私についてきてくれたんですか? 私はこんなに、変わってしまったの  
に」  
 ファラリスの強い加護を受け、変貌を遂げてしまった濁った瞳でリノンを見つめ、イリ  
ーナは問いかける。  
 かつてファンの街で名を馳せたパーティーは今はバラバラだ。ファリス信者だったヒー  
スは奴隷身分(と言っても、オーファンや王政ファンドリア時代とは奴隷の形態が大きく異  
なるが)。ガルガドは、リジャールの庶子を連れてラムリアースに落ち延びたジェニに代わ  
り、ファン・マイリー最高司祭。マウナは『青い小鳩亭』の若女将として働きつつも、3  
人の求婚者に言い寄られてちょっと大変な状況。エキューはその1人で、その為に中央フ  
ァン自治国警邏隊に所属。バスは流しの吟遊詩人を続けているらしい。ノリスだけは雇用  
主と被雇用者として、関係は今でも続いている。  
 だが、その問いかけを聞いて、リノンはクスクスと苦笑した。  
「変わったと思ってるんですか?」  
「え?」  
 リノンの言葉に、逆にイリーナの方がキョトン、としてしまう。  
「私は、陛下は以前と変わっていないと思いますよ」  
「え…………?」  
 その答えにイリーナは困惑したが、リノンがまっすぐにイリーナを見つめる瞳には、一  
点の曇りもなかった。  
 
 ※  
 
 『ファンドリア神聖黒騎士団』の士気は高く、統率も完璧だったが、徴兵制の国軍兵は、  
まだ創設から日が浅い事もあり、必ずしも均一な質を保てていなかった。  
「きゃあっ!」  
 ファンドリアの陣地と化したファン・ファリス神殿の大聖堂。  
 そこで、ファンドリア国軍兵の1人が、運悪く軟禁されたアネットに、強引に迫ってい  
た。  
「いいじゃねぇかよぉ、ちょっとだけ、触るだけだからよぉ」  
「い、嫌ですっ! 汚らわしい! この、邪教徒が!」  
 アネットは気丈な言葉で怒鳴り返すも、身体はすくみ、脚はガクガクと震えてしまって  
いた。  
 そのとき、リノンが丁度、厨房や居住区に繋がる廊下から、そろりと顔を出した。  
「アネット!」  
 無理矢理に迫られているアネットと、ファンドリア兵の間に、素早く割って入る。  
 が────  
「なんだ? 嬢ちゃん? こっちの嬢ちゃんと、俺が付き合おうっての、邪魔しようっての  
か?」  
 ファンドリア兵は不機嫌そうな表情になり、リノンを睨みつける。  
 一方のリノンは、反射的に背中に手を伸ばそうとするが、  
「しまった、丸腰!?」  
 と、黒騎士団によって武装解除された今、愛用のバスタードソードは勿論、寸鉄すら帯  
びていない事に、今更になって気付く。  
「それとも、嬢ちゃんの方が、後ろの嬢ちゃんの代わりに、良い思いしたいって事かな? ま、  
程度は落ちるが、ご希望だってんなら、嫌とはいわねぇぜ?」  
「何を……」  
 リノンはファンドリア兵を睨みつける。  
 だが、ファンドリア兵はむしろそれに興奮したかのように、下卑た笑みを浮かべながら、  
リノンの細腕を掴んだ。  
「ぐぅっ」  
 腕力では同年代の男性にも決して劣っていないリノンだったが、体格差から、大柄なフ  
ァンドリア兵に簡単に吊り上げられてしまう。  
「リノン!」  
 アネットが同僚をの危機に声を上げた、次の瞬間だった。  
 
 ザシュッ……  
 
 血色のグレートソードが、リノンに襲い掛かろうとしていたファンドリア兵を切り裂い  
た。  
 ブンッ、剣の主は、自らの背丈を超えるその大剣を、まるでショートソードのように振  
り、刀身についた血糊を払った。  
「理性なき暴力を以って個の自由を奪うもの、すなわち邪悪なり」  
 そう言いつつ、大剣を鞘に収める。  
「ファラリス様の名を貶める者は、これからのファンドリアには不要です」  
 淡々とした口調で言いながら、剣の主──イリーナは踵を返し、リノンとアネットに背  
を見せて、その場を去っていった。  
「イリーナさん…………」  
 
 ※  
 
「ちょっと冷たいって印象は受けましたけど、それ以上の違和感は全然感じませんでした。  
むしろ、ああ、やっぱりイリーナさんなんだなって……あ、すみません、失礼しました、  
陛下」  
 リノンははにかみながらそう言った。  
「イリーナで、いいですよ」  
 苦笑気味に笑って、イリーナは言う。  
「ありがとうございます」  
 元々ファリス神官志望と言っても、イリーナ個人への崇拝がその動機だったリノンは、  
そんなイリーナの姿を認めると、あっさりとファラリスに宗旨換えした。  
 今では神官戦士としての技能を身につけ、黒騎士団の一員となり、同時に、普段はイリ  
ーナの引き立てで専属の侍女に取り立てられている。  
「…………リノン」  
「はい?」  
 不意に笑みを消し、イリーナはリノンに呼びかける。  
「本当に、私は変わってないように見えますか?」  
 イリーナはちゃぷ、と水音を立てて、リノンを浴槽の縁に追い詰めるように、正面に向  
き合う。  
「え……?」  
 僅かにおののいたように、リノンは身をすくめつつ、口元で引きつった笑みを浮かべな  
がら、イリーナを見つめ返す。  
「リノン……私が、なんでファン出身のリノンを、無理を言ってまで私の傍に置いたか、  
解かりませんか?」  
 イリーナは口元で妖しく微笑みながら、リノンに更に迫る。  
「え……? それは……」  
 問いかけられたリノンは、一瞬答えに戸惑い、言葉に詰まる。  
「リノンは私についてきてくれたでしょ? だから、私はそれが嬉しくて」  
 イリーナは濁った目でリノンを見つめ、言う。  
「そりゃ、私は、イリーナさんの行くところでしたら、何処だって……イリーナさん?」  
 リノンは困惑しつつもさらりと答えたが、イリーナの妖しい微笑みにおずおずと名前を  
呼び返す。  
「私は嬉しかったんだよ、リノン」  
 イリーナは一気にリノンに迫ると、その唇を奪う。  
「んっちゅ、んんっ……?」  
 
「ちゅ……」  
 リノンを抱きしめるイリーナの腕は緩めだったが、リノンが反射的に逃れようとしても  
イリーナの腕は全く動かず、振りほどく事は出来ない。  
「い、イリーナさん……」  
 一瞬だけ怯えた目で、リノンはイリーナを見る。  
「嫌ですか? リノン」  
 イリーナはキスを離すと、リノンを見つめて訊ねる。  
「はぁ……ぁ……」  
 リノンは肺の中の空気を全部入れ替えるように息を吐き出すと、  
「その……嫌じゃ……ないです」  
 と、少し俯いた姿勢から、上目遣いでそう答えた。  
「ん……」  
 イリーナは押し倒すようにしてリノンに覆いかぶさると、再度唇を重ねた。  
 重ねるだけだが、しっとりと唇を押し付けたまま、右手の指先で、つつつ、くすぐるよ  
うに、背中から腰元、下腹部を伝って、リノンの股間に手を這わせる。  
「ん、ぅぅっ……!!」  
 口をキスでふさがれたまま、リノンは身悶え、鼻から声を漏らす。  
 イリーナの指が、リノンの秘裂をゆっくりと割る。浴槽のお湯がイリーナの人差し指と  
ともに侵入し、敏感な粘膜に熱を与える。  
「ぷは……」  
「んはぅ……イリーナさん……っ」  
 キスが離れると、リノンはイリーナの左腕で支えられたまま、身悶えして身体をくねら  
せる。すがるように、イリーナの身体に緩く抱きつく。体格差のほとんどないはずのイリ  
ーナは、しかしそれにびくともしない。  
 イリーナの指が、ゆっくりとリノンの奥へと入っていく。指先が、膣口を舐った。  
「はぅ! ぁ……」  
 ビクビクッ、と、リノンの身体が収縮するように跳ねた。  
「リノン……男の人に、抱かれた事はないですよね?」  
 リノンの性器を指でかき混ぜるようにしながら、イリーナはリノンに訊ねる。  
「は……はい……あ、ありません……」  
 リノンはか細い声で、萎縮したような口調で答えた。  
「それじゃあ、こっちをこれ以上、指でしちゃ悪いですね」  
 イリーナは呟くように言うと、ゆっくりとリノンの秘所から指を引き抜く。  
 引き抜かれた指には、明らかに水ではない粘液質のものが、たっぷりと絡み付いていた。  
「!?」  
 リノンが目を円くし、次の瞬間ビクッ、と、再度身体を萎縮させるように跳ねさせた。  
 
 イリーナの指が、リノンのクリトリスを探り上げる。包皮からはみ出した部分を指先で  
刺激する。  
「イリーナ、さ、そ、そこは……っ、ひっ……!!」  
 リノンは荒い息をして、身体をビクビクと何度も軽く跳ねさせる。  
「リノンは特に敏感みたいですね……いいんですよ、いつイっちゃっても」  
「でも、わ、たし、あ、ひっ……あっ、あぁっ!」  
 リノンが何か言い返そうとしたとき、イリーナの指がリノンのクリトリスの包皮をつっ、  
と剥き上げた。  
「あっ、ひゃっ、あひっ、はひっ……ぃいぃぃぃっ!!」  
 イリーナの指が──あくまでリノンの主観で──少し強めにリノンのクリトリスをつね  
り上げた。  
 リノンは呂律も回らない状態で絶頂に導かれ、じゃぷん、じゃぷんと浴槽を波立たせな  
がら、身体を跳ねさせる。  
「ふふ……イっちゃいましたね、リノン」  
 イリーナはうっとりした様子でリノンを見つめながら呟くように言うと、三度、リノン  
に軽くキスをした。  
「ふぁぁ……イリーナさん……」  
 リノンは絶頂の余韻でとろんとしているが、全身が過剰に紅く染まっている。  
「ん……これ以上浸からせると、湯あたりしちゃいますね。残念だけどここまでにしてお  
きましょう」  
「あ、ふぅ……」  
 イリーナはそう言うと、のぼせて意識が飛びかけたリノンを肩につかまらせて、ざばり、  
と浴槽から上がった。  
「今度は寝所で、お互いに、ね?」  
「はふぅ……はひぃ……」  
 リノンはのぼせた体の熱に苛まれながらも、何処か夢見心地の様子でそう答えた。  
 

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