「やめてくださいっ」  
 それは、オーファン王都ファンの市街地の一角での出来事だった。  
 甲高い女性の悲鳴が、あたりに響く。  
「そう邪険にすんなよぉ」  
「仲良くしようぜ」  
 その場所は、冒険者の宿『青い小鳩亭』に程近い場所。裏路地ではあったが、表通りか  
ら充分視界の中に収まる場所。  
 夜もだいぶ更けていたが、夜空にかかる満月の光は眩く、割と見通しは良い。  
 3人の、あまり正直者とはいえない風体の青年が、通りがかった若い女性をそこへ引き  
込み、強引に言い寄っていた。  
「スキンシップ、スキンシップ」  
「やあっ」  
 男たちに取り囲まれて、退路を失い悲鳴を上げる女性に、男たちは強引に迫る。  
 その時だった。  
「やめなさい!!」  
 高い声が、その場に鋭く割って入ってきた。  
 男たちが驚いて、声の主の方を振り返る。  
 すると、そこにいたのは、略式のファリス法衣を身に着けた、小柄な少女の姿だった。  
だが、その手には、少女の身の丈を越すほどの巨大なグレートソードが握られていた。少  
女は男たちを威嚇するかのように、鞘に収められたままのグレートソードを未舗装の路面  
に突き立てる。  
「んだぁ〜? ガキはさっさと寝ちまいな!」  
 3人組の、リーダー格の男が、不機嫌そうに少女を睨みつけながら言う。  
 少女はこれでも17歳で、一般にアレクラストでは成人の部類に入ったが、体格や顔つき  
はその実年齢からしてもなお幼く見えた。  
「あ、あの剣、ただ者じゃないんじゃ……」  
 男の1人は、もう1人の男に向かって耳打ちするように言う。  
 
 自らの身長を凌駕するグレートソードを軽々と振るう、ファリス神官の少女──『ファ  
リスの猛女』ことイリーナ・フォウリー。  
 彼らもその名を知ってはいた。しかしいかんせんオーファンでは国教のマイリーが主流  
であり、ファリス信仰はマイナー。その実際の姿を知るものは、ファリス信者でもファン  
のファリス神殿に熱心に通う一握りの人口に限られた。  
 加えて、いかに月明かりが明るいとは言っても、夜の帳の降りた裏路地。顔もそこまで  
はっきりとは見えない。  
「こ、コケオドシだろ」  
 もう1人の男がそう答えつつ、視線を、取り囲んでいた女性に走らせると、その女性の  
姿はなかった。  
「って、あー!」  
 女性は男たちがイリーナに気を取られた隙に、路地の反対側に向かって一目散に逃げ出  
していた。  
「テメーのせいで逃げられたじゃねーか!」  
「やっちまえ!」  
 男たちは、相手がイリーナ・フォウリーと判っていれば、おおよそ暴挙としか言いよう  
のない行動に出た。3人まとめて駆け出すと、一斉にイリーナに襲い掛かった。勿論、所  
詮は街のチンピラ、集団戦としての連携があるわけでもない。  
「汝は邪悪なり」  
 イリーナはファリス神官戦士定番の台詞を男たちに突きつけると、素早く、グレートソ  
ードの鞘の留め具を外すと、その柄を握って引き抜く。  
「覚悟しなさい」  
 そう言いながら、グレートソードを構える事が────できなかった。  
 ────え?  
 ガクン。メートル法換算で数十kg、梃子の原理により実際に柄にはそれ以上の重量がか  
かるグレートソード。イリーナの腕は伸びきり、外見からは想像も出来ないような人間離  
れした膂力を誇る腰と膝は砕けたように折れ曲がり、グレートソードの切っ先は、下を向  
いて路面に着いた。  
 
 ────え? グレートソードが重くて持ち上がらない!?  
 イリーナは茫然自失し、一瞬状況を忘れて、グレートソードを地に這わせた体勢のまま  
目を円くして立ち尽くす。  
「なんだよ、さっきの威勢の良さはどうしたんだ? お嬢ちゃん」  
 イリーナに襲い掛かるつもりで駆け寄ってきた男たちだったが、イリーナのおかしな様  
子に、毒気を抜かれたように足を止める。  
「こんなはずじゃ、ふんんんっ……」  
 イリーナは歯を食いしばって全身に力を入れ、グレートソードを持ち上げようとするが、  
一度地を這った刀身はもはやびくともしない。  
「はっはは、そんな馬鹿デカイ剣、巨人でもなけりゃ持ち上げんのなんざ無理ってもんだ  
ろ」  
「そんな……どうして……」  
 リーダー格の男の嘲笑に、イリーナは弱気に呟く。  
「な、なあ、コイツ、近くで見ると……」  
 男の1人が、イリーナに視線を向けたまま、もう1人の男に声をかけた。  
「ああ……ちょっちガキ臭いが、顔はまあまあ……いや、上玉だな」  
「この際、コイツでもいいんじゃねーか?」  
「そうだな……こんな時間だし、今から別の女、通りかかるの見つけるのは難しいだろう  
しな」  
 グレートソードを持ち上げようと、表情を歪ませながら苦闘するイリーナを前に、男た  
ちはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、小声でそう話し合う。  
「…………なっ?」  
 手にグレートソードを握ったまま、伸びきった腕を引き上げようとしていたイリーナの  
手首を、リーダー格の男の手が掴んだ。  
「そう言うわけだ嬢ちゃん、おめぇが逃がした女の代わりだ、俺達に付き合ってもらおう  
じゃねーか」  
「やっ、やめなさいっ」  
 
 イリーナの手首が引き上げられる。右手がグレートソードの柄から引き離された。  
「まあまあ、いいじゃねーか。悪いようにはしねぇよ」  
 もう1人の男が、イリーナの左腕を掴んだ。  
 主を失ったグレートソードが、どさり、と路面に横たわる。  
「放しなさい」  
 イリーナは身を捩り、腕を引いて抵抗しようとする。  
 戦士としての技能も持たない街のチンピラ風情など、本来なら、イリーナにとっては簡  
単に振りほどくことが出来るはずだった。  
 だが、今はそれが出来ない。必死に力を込めているはずなのに、大の男だろうが片手で  
放り投げられる程の腕が、今は男たちに良い様に捉まれている。  
「さて、どーすっか」  
「そこいらだとまた邪魔がはいっかもしんねーしな。またブランドーの空き倉庫でも使お  
うぜ」  
「そうだな」  
「はっ、放しなさい!」  
 右の手首をリーダー格の男に、左腕をもう1人の男に掴まれて、イリーナは強引に引き  
連れられていく。イリーナはじたばたともがいて抵抗するが、歳相応の小娘の如く易々と  
抑え込まれてしまう。男たちは、イリーナの叫びを気にすらかけていない様子だった。  
 その場に、おおよそ人間の持ち物とは思えない巨大なグレートソードだけが残された。  
 
 
 ファンの倉庫街。  
 夜に人通りもあるはずのないそこに連れ込まれたイリーナは、尚も抵抗を続けていたが、  
男たちにはそれは何の障害にもならなかった。  
 物心ついたときから同年代の友人、知人より群を抜いた腕力を誇り、10になる頃にはた  
いがいの大人よりも勝る力を持っていたイリーナにとって、この状況はありえないことで  
あり、対処のしようがなかった。  
「さっさと入れよ」  
「きゃあっ!」  
 やがて、鉄扉の錆びかけた倉庫の1つに連れてこられる。リーダー格の男に背中を突き  
飛ばされて、その室内に押し込まれた。  
 男達の1人が、ギギィ、と不気味な軋みを立てて鉄扉を閉じ、内側から閂をかけた。小  
さな明り取りの窓から仄かに入り込んでいたが、やがてリーダー格の男が、室内に置かれ  
ていた古びたランタンに火をつけ、天井に吊るした。  
 ぼんやりとした灯りが、イリーナを照らす。  
「やめなさい、今ならファリス様もお許しになります」  
 この状況でもなお、イリーナは気丈に男たちを睨みつけ、低い声で言う。  
 だが、男たちが怯む様子はなく、むしろニタニタと下卑た笑みを、イリーナを嘲るよう  
に向けた。  
「この法衣、見慣れねーと思ったらそうか、ファリス神殿の神官様か」  
「そりゃ良い、バージンなのは間違いないだろうぜ」  
 言いながら、リーダー格の男がイリーナの首根っこを掴み、石壁に押し付ける。  
「ぐぅっ」  
 イリーナは一瞬呼吸を阻害される感覚を覚えて、苦悶の声を漏らす。  
「けどよ、こんな短い法衣なんか見たことねーぜ?」  
「しかもスカートもこんなに短くてよ、もしかして誘ってるんじゃねーのか?」  
「こんな体形じゃそれぐらいしねーと、男もちかよらねーだろうからな」  
 
「だーひゃっひゃっ、ちげぇねぇ!」  
「そんなはずない……でしょう!」  
 動きやすさを優先した衣装を、全く別の意味に取られて、イリーナは抗議の声を上げる。  
「ま、そうかどうかはすぐにわかるがな」  
「なっ」  
 リーダー格の男が、イリーナのお尻を撫でつつ、後ろからスカートの中に手を侵入させ  
てきた。  
「ひっ……やめ……なさいっ!」  
 下着越しに、男の熱い手がイリーナの内股をまさぐる。  
 嫌悪感に、イリーナは身を捩る。  
「気の強さは半端ねぇな」  
「けど、そこが可愛いじゃねーか」  
 男たちがニヤニヤと笑いながら言う。彼らにとって、今のイリーナは愛らしい小娘でし  
かない。  
「ひっ!?」  
 スカートの中をまさぐっていた男の指が、ショーツのクロッチ部分をなぞり上げた。流  
石に鍛えようもない敏感な場所に異物感が走り、イリーナはびくっ、と身体を硬くしなが  
ら、短く悲鳴を上げる。  
「いや……やめなさい」  
 不可侵であるべき場所に男の指が迫り、さしものイリーナも、声に恐怖の色が交じる。  
 男の指はお構いなく、下着の上からイリーナの秘所をこねくり回す。  
「っく、ぅぅっ……」  
 そこまでされても、イリーナには嫌悪感しか感じない。身体は無意識に少しでも逃げよ  
うとして、壁をよじ登るかのように身じろぎする。  
「なるほど、さすがに誘ってるわけじゃないみたいだな」  
 リーダー格の男はそう言いつつも、ニヤニヤとした笑みを消さない。その指はイリーナ  
のショーツのクロッチ部分を押し退け、整った秘裂に直接触れてきた。  
 
「嫌、いやぁぁぁっ!!」  
 イリーナはついにファリス神官としての気丈さを失い、歳相応の娘が貞操の危機に瀕し  
た、泣き声交じりの甲高い悲鳴を上げた。  
「けどよ、こんだけちっこいと多少は濡らさねーと、こっちも痛くてしょうがねえぞ」  
「なーに、どんな女だって堪えられねぇ場所はあるってもんだ」  
 別の男の1人が言うと、もう1人がニヤニヤと笑いながら良い、すっとイリーナの横に  
乗り出してきた。  
「な、何を……」  
 イリーナはびくっ、と、反射的に身体を竦めつつ、横に身を乗り出してきた男に視線を  
けめる。  
「おい、パンツ下ろせよ」  
「ああ……お? ファリスの神官様にしちゃ、割と可愛らしいの履いてるじゃねーか」  
 リーダー格の男に、無造作にショーツを引き摺り下ろされる。その色は純白で構造もシ  
ンプルなものだったが、子供向けというには布地の面積は狭い。  
 『ファリスの猛女』と言えど年頃の女性、多少は自意識がないでもない。  
 それに、至高神に仕える神官として、純潔を堅持しているとは言え、いつかは心に決め  
た相手にそれを捧げる……と、思った事がないわけでもない。その相手も、今は決まりか  
けてすらいた。  
「あ……あ……」  
 イリーナが羞恥に顔を染めていると、横に迫ってきた男が、壁とイリーナの間に腕を伸  
ばしてくる。その手が、今度はイリーナの前側からスカートの中に入り込んできた───  
─。  
「ひっ!」  
 イリーナの性器をまさぐっていた男の指が、それを探し当てた途端、イリーナは身体を  
びくりと跳ねさせる。全身を迸る電撃のような感触に、短く悲鳴を上げた。  
「いひっ、あっ、や……あっ、ぁぁっ……」  
 男のごつい指が、女性の1番敏感な突起を、摘まみ、こね回し、嬲る。  
 
「やめっ、あっ、あぅ……いやぁっ……!!」  
 連続して与えられる強い刺激に、イリーナは為す術もなく弄ばれる。  
「お、さすがに利いてきたみたいだな」  
 リーダー格の男が言う。その間も、後ろ側からイリーナの股間をまさぐり続けていた指  
に、ねっとりとしたものが絡みつき始めた。  
「うう……嫌ぁ……」  
 イリーナは涙を滲ませ、いやいやとするように首を振る。  
「口ではそう言ってても、身体の方はその気になってきたみたいだぜ?」  
 リーダー格の男はそう言いながら、イリーナの秘裂にゆっくりと指を押し込む。ゆっく  
りとだが拡げる様にかき混ぜ、わざと、ぐちゅぐちゅとした水音を立てる。  
「う、嘘です……そんな、事……っ」  
 イリーナは誰にも見せたこともないような、涙でぐしょぐしょになった情けない表情で、  
首を左右に振りながら、男の言葉を否定する。  
「嘘と言われてもな。ほら、溢れ出して来るのはなんなんだ?」  
 リーダー格の男は一度指を引き抜くと、イリーナの目前にそれを突き出した。  
 人差し指に絡みついた淫液を、親指を擦り合わせながら見せつける。  
「嘘です……そんなの……っ」  
 イリーナはそれから視線をそむけるようにして、涙を流しながら否定する。  
「高潔なファリスの神官様には認めがたいだろうな。まぁ、いいか」  
「!?」  
 リーダー格の男はヘラヘラと笑いながら、イリーナの秘所から一旦手を離し、その腰を  
がっしりと抑えた。  
「そろそろ、つっこませて貰うからな」  
 そう言ったかと思うと、イリーナの内股に、熱い、肉感のある棒のようなモノが入り込  
んできた。  
 いかに情事に疎いイリーナと言えど、それが何であり、何を意味するのかは判った。  
 表情が、恐怖に青ざめる。  
 
「や……やめなさい! こんなこと……ファリス様がお赦しになりませんよ!」  
 リーダー格の男を振り返り、口では気丈な言葉を投げかけるものの、その声は恐怖に震  
え、顔からは血の気が失せていた。  
「なに、ファリス様が赦さなくても、マーファ様ならお赦しになるさ」  
「そうそう」  
 リーダー格の男の言葉に、別の男がそう言った。  
 勿論、マーファに強姦を許す狭義などあるはずがない。イリーナはファリスと、個人的  
に神官戦士と付き合いのあるマイリー以外の教義には疎かったが、いくらなんでも常識的  
に考えてあり得るはずがなかった。  
 そうしている間にも、リーダー格の男の剛直が、イリーナの秘所に宛がわれる。  
 陰核攻めでしとどに濡らされたそこは、ぐちゅり、と淫猥な水音を立てた。  
「嫌……いやぁっ! 助けて、ファリス様! ヒース……兄さん!」  
 イリーナは、甲高い声で、恐怖に染まった悲鳴を上げる。  
 だが、その最後の抵抗も虚しく────  
 ぐちゅり、ずっ、ずぷっ……  
 イリーナの秘裂に、膣の中に、男の剛直が埋まって来た。  
「ひっ、ぎぃっ!」  
 純潔を男の剛直に引き裂かれ、イリーナを強烈な痛みが襲う。  
「へへっ、やっぱり初物だったぜ」  
 リーダー格の男はぐへへと下卑た笑い声を上げながらも、まだ破瓜したばかりのイリー  
ナの女陰(ほと)を、強引に突き上げていく。  
「ちっ、良いなぁ」  
 別の1人が、うらやましそうにその後姿を見る。  
「ぐぅ……ぎぃ……痛い……痛いぃぃっ!!」  
 高潔さ故に半ば無理矢理こじ開けられ、股間を引き裂くような、強烈な痛みがイリーナ  
を襲う。  
 だが、イリーナを犯す男の動きは、留まるどころかむしろ激しさを増していく。  
 
「すげぇキツキツだぜ。こりゃ身体が小さいからってだけじゃねぇな」  
 ぐいぐいと、絶叫を上げるイリーナに乱暴に突き込みながら、男は何処か恍惚そうな様  
子で言う。  
「ひぎ……痛い……痛いぃっ! 助けて、ファリス様ぁ……父さん、兄さん、ヒース兄さ  
ん!!」  
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、イリーナは絶叫しつつ、尚も救いを求めて親しい者  
の名を呼ぶ。  
「もう諦めろよ。昼間ならともかく、こんなところこんな時間にやってくるやつなんかい  
ねぇって」  
 先程、イリーナのクリトリスを嬲っていた男が、イリーナの顎を掴んで強引に自分の方  
を向かせながら、絶望させるようにそう言った。  
「ぎぃぃっ、ぎっ、ぎぃぃっ……ぎぃぃっ……」  
 イリーナはいやいやをする様にしながら、顎を掴まれて歯を食いしばった状態になりつ  
つ、苦悶の声を漏らし続ける。  
「だめだ……こいつ……すげぇ! もう、出ちまう……」  
 リーダー格の男は、自分もまた呻くような声で言った。  
「!?」  
 その言葉に、イリーナの顔から血の気が失せる。  
 男性の精を胎内に受ける、それが何を意味するのか。  
 本人は色恋沙汰や情交とは無縁のイリーナとは言え、知識がないわけではない。  
「やだ……いやっ、いやぁぁぁっ!! やめて、やめてください!」  
 イリーナは自分を犯している男を振り返り、それまでにも増して、裏返りかけた声で絶  
叫する。  
「ああ、すげぇ……こんなの、我慢できるかよ」  
 迫る射精感に、男がぶるるっ、と身震いする。  
「やめてください! それだけは! 許してくださいぃっ!!」  
 その感触がなんであるか、本能的に感じたイリーナは、絶叫と共に最後の抵抗を試みる。  
もがいて逃げようとするが、男たちに抑え付けられた身体は、やはりそれを振りほどくこ  
とは出来ない。  
 
「くっ、出すぞ、出るっ……くぅぅぅっ!!」  
 ビュク!  
 イリーナの膣内で、挿入された逸物が爆ぜた。  
 ビュク、ビュク、ビュルルッ、ビュッ、ビュッ  
 灼熱の粘液がイリーナの胎内に注がれる。  
「いやっ、いやぁぁぁぁっ…………」  
 声では悲鳴を上げながらも、イリーナの顔は正面を向いて仰ぎ、虚ろになりかけた表情  
で口を大きく開けている。  
 ずるり、と、イリーナの膣内から男の逸物が引き抜かれた。  
「くっ、う……」  
 イリーナは惨めな表情で嗚咽を漏らし、すすり泣く。男たちが自分を拘束している腕が  
離れたが、逆に身体は脱力したように、自分の体重を支えることも出来なくなって、その  
場に崩れ落ち、四つん這いになるような姿勢になった。  
「ファリス様……お赦しください……私は……私は……穢されてしまいました……」  
 掠れるような声で呟きながら、すすり泣く。  
 一方の男たちは、そんなイリーナの様子など気にもかけないかのような会話を交わす。  
「ひでぇな、アニキ。1発目で中出ししちまうなんてよ」  
「わりぃわりぃ。けど、我慢できねぇ程良かったんだよ、コイツ」  
「そんなにか?」  
「マジだったら、コイツの方を捕まえられて正解だったかもな」  
「おう。体つきでがっくりするところだったがな、とんでもねぇ。お前らもヤってみろよ。  
マジ、すぐイっちまうぞ」  
「そうなのか? それじゃ早速……」  
「折角だから、その間俺は口の方でも使わせてもらうぜ」  
 リーダー格の男の言葉を聞いた2人の男は、四つん這いになったイリーナを腰を掴んで  
引き寄せる。  
「ひっ!」  
 
 腰を掴まれた瞬間、イリーナはそれまで上げたことのないような、恐怖に折れた悲鳴を  
上げた。  
「あ、く、あっ!」  
 別の男の逸物が、秘裂に挿入された。まだ破瓜の痛みの残るそこに剛直をねじ込まれ、  
イリーナは口を開いて声を上げる。  
 その瞬間、もう1人の男の逸物が、イリーナの口にねじ込まれた。  
「おっと、歯ァ、立てるんじゃねぇぞ」  
 言いながら、イリーナの口にねじ込んだ男は、イリーナの頭を撫でる。  
 頭を撫でながら、逸物でイリーナの口腔を、喉の入り口まで蹂躙した。  
 
 ※  
 
「マウナさん、マウナさん!」  
 朝、食堂の開店の準備をしている『青い小鳩亭』。  
 早朝の軽い鍛錬に行っていたはずのエキューが、血相を変えて飛び込んできた。  
 マウナは最初、またいつもの自分、というより自分の身体的特徴に対する執着から来る  
行為かと思ったが、その表情と、切羽詰ったような口調に、只事のなさを感じた。  
「どうしたの?」  
「それが、その、すぐそこの路地に……」  
 ハァハァと息を切らしながら、エキューはその方角を指差し、言う。  
「グレートソードが落ちてたんです。イリーナのグレートソードが、それも、鞘から抜か  
れて、まるで捨てるみたいに、乱暴に!」  
「なんですって!?」  
 マウナの表情も一変する。  
 武器フェチで、何よりグレートソードに強い愛着を持つイリーナが、それをそこいらの  
路地に投げ出していくなど、到底考えられない。  
 何かの事件に巻き込まれたのか。だが……────  
「あつつつつつ……でけぇ声だすんじゃねぇよ」  
 奥の方のテーブルで、突っ伏すようにしてうずくまり、氷嚢を頭に当てて呻いているの  
は、ヒースだった。  
 昨日、イリーナが一足先に帰った後、ヒースとエキューは些細な事から言い合いになり、  
その決着をつけようと、酒の呑み比べを始めてしまった。  
 結局、ヒースもエキューも酔いつぶれてしまった。もともとここで寝泊りしているエキ  
ューに加え、びくりとも動かなくなったヒースも、この店の客室に放り込まれた。  
「ここがヤスガルンだファンドリアだってんならともかく、ファンの街中だぜ? チンピラ  
や強盗の類にあの猛女がどうこうできるかっつーの」  
 
 二日酔いの頭痛に苛まれながら、面倒くさそうに言うヒースの言葉は、しかし確かに説  
得力はある。  
 イリーナ程の戦士をそんじょそこらの犯罪者がどうにかできるとは思えない。  
 その筋力とそれによって支えられるプレートメイルから、物理攻撃に対しては全くの無  
敵。一方で魔法攻撃には弱い、というのは、その物理攻撃に対する鉄壁さから来るイメー  
ジによる相対的なものであって、水準からすれば決して脆弱ではない。  
 ドラゴンのような伝説級の魔物ならともかく、おおよそヒト(人間、エルフ、ドワーフ、  
グラスランナー)ならば、ノリス=クランズクラスの、高レベルのソーサラー・シーフでも  
ない限り、イリーナをどうこうできるはずがない。  
 ただし、イリーナが普通の状態なら……の話だが。  
「ちょっとヒース、幼馴染の妹分に、ずいぶん冷たいんじゃない?」  
 ウェイトレス姿のマウナは、腰に手を当てて、少し憤ったように言う。  
「ほっほっほ、まぁ、冷たいというよりは、信頼してるんですな」  
 ヒースの対面に座り、リュートの調律を行っていたバスが、いつものように笑顔で言う。  
「ケッ」  
 ヒースはそう、短く声を上げた。  
「でも、あの子があれだけ執着してるグレートソードを投げ出していくなんて、信じられ  
ないわ。心当たりぐらいは当たってみた方が良いと思う」  
「僕もそう思う、マウナさんの言うことだからって訳じゃなくて、やっぱり何かあったと  
しか思えない」  
 マウナとエキューは、険しい表情でそう主張する。  
「そうですな。盗賊ギルドの方にも探りを入れておきましょう」  
 バスはいつものように、心の内の読めない笑顔のままながら、吟遊詩人を本業と主張す  
る彼にとって、命とも言えるリュートの調律を中断し、立ち上がった。  
「ごめん、おかあさん、ちょっと出てくるから!」  
 マウナは、厨房の方にいる養母にそう告げてから、エキューと共にバタバタと飛び出し  
ていく。続いて、バスも急ぎ足に店を出て行った。  
 だが、イリーナの身体の異変を知らないマウナ達は、イリーナの消息の手がかりを掴む  
ことは出来なかった。  
 
 ※  
 
 マイリー神殿で合流したガルガドを加えた仲間達が、迫る夜の帳に徒労を感じて、『青い  
小鳩亭』に再度終結した頃。  
 イリーナは昨晩陵辱を受けた古倉庫に、未だに監禁されていた。  
 古びた椅子に、縄で雁字搦めに縛られている。  
 イリーナはスカートとショーツを脱がされた下半身裸の姿。上半身のファリス法衣は着  
けさせられたままだ。だが、それも含めて、イリーナの全身いたるところが、男達の精液  
によって汚されていた。  
 こうした犯罪は、被害者を口封じに殺すことも多い。ましてイリーナはファリスの神官  
だ。どのような制裁を加えられるか判ったものではない。  
 だが、それでもイリーナは殺されずに、監禁され続けた。それほど、男達はイリーナの  
身体が気に入ったのだろう。  
「ううう……助けてください、ヒース……兄さん……」  
 今のイリーナにはすすり泣くことしか出来ない。  
 明り取りの窓の外から朱が消えていき、薄暮の淡い青灰色に変わっていく。迫り来る夜。  
やがてまた、男達はここに現れ、イリーナの身体を弄ぶのだろう。  
「嫌……ぁ」  
 発狂してしまいそうな程の、凄惨な陵辱。それが、今日も行われるのかと想像しただけ  
で、イリーナの意識を恐怖が支配した。  
「嫌、嫌ぁぁぁぁっ!」  
 イリーナが絶叫を上げ、無駄と頭ではわかっていながら、拘束する縄を力任せに解こう  
とする────  
 ブチブチブチブチッ、メキャッ!!  
 縄はいともあっさりと引き千切られ、縛り付けられていた椅子の背もたれも砕けた。  
「え……」  
 イリーナは驚いたように、自分の腕を見回す。  
 
「力……戻った……?」  
 しばらく立ち尽くしていたイリーナだったが、ふとその視線を扉に向ける。  
 頑強なつくりではあるが、錆付きかけた扉は、イリーナの渾身の蹴り一撃で、蝶番ごと  
外れて倒れた。  
「…………」  
 自身で信じられないというようにしばらく呆けてしまったイリーナだったが、やがて我  
に返ると、あたりに人の気配が消えていることを確認してから、床に打ち捨てられていた  
スカートを拾い上げて履き直し、慌ててその場を逃げ出した。  
 取り戻した力と自由。だが、イリーナの受けた心の傷は晴れるはずもない。  
 流した涙を背後に散らしながら、イリーナは一目散に倉庫街から逃げ出した。  
 
 イリーナは、『青い小鳩亭』には向かわず、直接実家であるファン・ファリス神殿に帰っ  
た。  
「あ、イリーナさん!」  
 イリーナが、聖堂から居住区画に向かおうとすると、その廊下の途中、厨房の前で声を  
かけられた。  
 年恰好はイリーナと同じくらい、ショートカットに太い眉、少年のような容姿の少女。  
「どこ行ってたんですか、昨日の夜からずっと姿が見えないって。マウナさんがこっちに  
まで探しに来たんですよ!?」  
「え……ああ、うん、ちょっと……ね」  
 詰め寄るようなリノンの口調に、イリーナは忌むべき記憶を掘り起こされながらも、健  
気に苦笑をつくってはぐらかす。  
「なんでもなかったんなら、良いですけど……」  
 キョトン、として、少し怪訝そうに言うリノンだったが、  
「あ、それより丁度良かった」  
 はっと気付いたように良い、ちらと背後に視線を向ける。  
「え、何?」  
 イリーナが聞き返すと、リノンの背後からアネットが出てきて、その傍らに立つ。アネ  
ットは、左の指先を、右の指先で抑えていた。そこから、血が滲んでいる。  
「アネットさん、包丁使ってて、指切っちゃったんです。私もアネットさんも、まだ、神  
聖魔法は使いきれませんし」  
「うん……そんなに痛いわけじゃないんだけど、さっきからちょっと出血が止まらなくて」  
 リノンの説明を受けて、アネットは苦笑しながら補足する。  
「あ、うん、判った、アネット、手、出して」  
 ようやく日常に戻ってきた……そう思いかけて、イリーナはアネットの左手に自分の右  
手をかざす。  
「偉大なる至高神の名において、この者を癒し給え、“キュア・ウーンズ”」  
 
「え……?」  
「あ、あれ?」  
 イリーナも含めて、3人ともがキョトン、と気が抜けたように目を円くする。  
 癒しの光は舞わず、アネットの指の傷はふさがらない。  
「おかしいな、もう1回……」  
 イリーナはそこはかとない不安を感じつつ、今度は気合を入れるように両手で構えて、  
呪文を詠唱する。  
「──“キュア・ウーンズ”」  
 しかし、やはりぽうとも癒しの光は現れなかった。アネットの指の傷も、出血が止まる  
気配もない。  
「あ、あはは、い、イリーナさん、こういう時もありますよ」  
「そ、そうよイリーナ。傷は薬でもつけておくから、気にしないで」  
 気まずさを感じたリノンとアネットは、引きつった笑みを浮かべてしまいつつ、イリー  
ナを気遣ってそう声をかけた。  
 最も2人とも、リノンの言葉通り、“たまたま”だと思っていた。  
 だが、当のイリーナの心には、どうしようもない、巨大で重い不安がのしかかってきた。  
「い、イリーナさん!?」  
 リノンが気付いて驚いたような声を出す。イリーナは駆け足で聖堂へと引き返していた。  
 聖堂の正面、中央。ファリスの石膏像の前に跪くと、イリーナは首から下げている聖印  
を握り、祈る。  
「ファリス様、私はファリス様の忠実なしもべです。この身は穢されてしまいましたが、  
その敬意は決して変わらず、挫けません。どうか、赦しの言葉を下さい」  
 神官の必須資格、神の声を聞き、その啓示を受けること。  
 だが────  
「ファリス様、どうか私をお赦しください……」  
 
 今のイリーナに、ファリスはついに語りかけなかった。  
 
「い、イリーナさん!」  
「イリーナ!」  
 心配そうな表情の、リノンとアネットがかける声はまるで聞こえていないかのように、  
イリーナは虚ろな表情を軽く俯かせ、聖堂の正面口を出て行く。  
 既に夜の帳の下りた夜道を、イリーナは歩く。  
「どうして……ですか、ファリス……様」  
 幼い頃から、決して利発とはいえなかったイリーナにとって、生まれつきの神官能力は  
重要なアイデンティティだった。  
 それを今、失ってしまった。  
 しかも、他者からの暴力によって。  
 ファリスの教義には、確かに『汝、姦淫することなかれ』とある。  
 確かに昨日の行為は、所謂不義の姦淫、それ以外の何者でもなかっただろう。  
 だが、イリーナはそれを望んだわけではない。純粋な被害者だ  
 それでも、赦されないというのか。  
 何処に向かうわけでもなく、イリーナは通りをトボトボと歩いていた。  
 『青い小鳩亭』に向かうことはなかった。  
 あそこに行けば、ヒースに出会うことになる。  
 ヒースは神官の能力こそ持たないが、敬虔なファリス信徒だ。  
 ヒースは幼馴染で兄のような存在あり、そして同時に───────────────  
──。そのヒースにまで拒絶されたら。イリーナはその恐怖に身を震わせた。  
 ファリスの御名の元、困窮する人があれば自分の力の及ぶ限り助けてきた。多少は自惚  
れもあるかもしれないが、少なくとも偽りではないはずだ。それに、仲間の窮状を救う為  
だったとは言え、結果としてこのオーファンの国家に関わる事件を解決したことだってあ  
る。  
 
 それなのに……イリーナには、女性として、死より辛い苦しみと屈辱を受けながら、そ  
の救済はないというのか。  
「私は」  
 ポツリと呟き、同時に足が止まる。  
「私は、これから何を信じて生きれば良いんですか!!」  
 繁華街でもない夜の街中。1人、声を上げて慟哭する。  
 
 ────救いが欲しいというのか?  
 
 その直後、イリーナにその声が聞こえてきた。  
 それは、これまでのイリーナからすれば、最も忌むべき存在。  
 
 ────ならば、汝の為したいように為すがよい。  
 
 だが、今のイリーナには、その声の魅力に抗うことは出来なかった。  
 
 ※  
 
 リノンとアネットが、ファリス神殿を出て行くイリーナを見送ったのが、オーファンと  
いう国での、イリーナの最後の姿だった。  
「どうして、無理に捕まえてでも話を聞きださなかったんですか、私は!」  
「イリーナ……役に立てるかどうかは判らないけど、話を聞くことぐらいはできるよ…  
…?」  
 後悔する2人は、『青い小鳩亭』に集まったイリーナの仲間達と共に、ファン中を探し回  
った。それこそ、虱潰しに。  
 ファンドリアのオーファンに対する姦計を未然に防いだとして、官憲も動き出し、その  
捜索範囲はオーファン全土に広がった。更には隣国ラムリアースにまでその範囲は広がっ  
た。  
 だが、とうとうイリーナの消息はつかめなかった。  
 ただ、倉庫街で、斬殺された、かろうじてそうとわかる男性の遺体が3人、発見された  
だけだった。  
 やがて、オーファンは国内で起きたある重大事件のために、イリーナの捜索は限定され  
たものになっていかざるを得なくなり、そのうちに、自然解消的に打ち切られた。  
 
※  
 
 その、オーファン官憲によるイリーナの捜索が止んだ頃。  
 突如、ファンドリアはオーファンとの国境を突破し、大規模な侵攻を開始した。  
 そのファンドリアの先鋒には、軍事的上の精鋭にして、新興ながらファンドリア最大の  
権力機構となった、『ファンドリア神聖黒騎士団』。  
 数に勝るオーファン兵を、意図も簡単に蹴散らす。  
 その先頭に立つは、胸の正面にファラリスの聖印の彫られた黒いプレートメイルを身に  
つけ、血色に鈍く光るグレートソードを持つ、神聖黒騎士団々長本人の姿。  
 その刃は、ただのひと薙ぎで数十人のオーファン兵を絶命させた。  
「我が神ファラリス。彼らの魂が自由でありますように」  
 プレートメイルの中にうずもれかけたようにも見える少女の口から、感情のない声でそ  
う唱えられた。  
 
 それから1年と経たぬうちに、オーファンはファンドリアの軍門に下ったのだった。  
 

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