−いつも通り−
1.暗転
夏のある暑い日。
油断をしていた。
この地方を訪れたのが随分久しぶりだったせいもある。
村に一軒だけの宿屋で食事をしていたら、急に強烈な眠気に襲われた。
薄れゆく意識の中で、
「やっと捕まえたぞ、魔女め」
と言う声を聞いた気がした。
ごろん。
彼女が気付いた時には、手足を縛られ、暗く大きな納屋に転がされていた。
ドワーフや蛮族でもない彼女には広いことと穀物の匂いくらいしか納屋の様子は分からなかった。
両手は後ろ手で、両足は足首を縛られている。
口には猿轡だ。
身動きが取れない。
いきなりにしてはあまりにも手が込んだ拘束だった。
このままでは仕方ないので異貌化をしようと試みる。
ナイトメアである彼女は異貌化をすることによって、詠唱せず念じるだけで魔法を使えるようになるのだ。
「――っ!?」
頭が割れそうになって異貌化を止める。
今まで気付かなかったが、小さな角を覆い隠すように金属製の輪っかが頭に被せられている。
異貌化で角が大きくなろうとした時にそれに押し返され、角と頭蓋骨を刺激したのだ。
咄嗟に角を戻すほどの痛み。
無理矢理異貌化したらどれほどの苦痛か分からない。
彼女は頭の痛みを堪えながら状況を整理してみることにした。
2.恨み
彼女の名前はエレオノーラ。
失恋の後、魔剣の呪いにより死んでも穢れを持ち続けナイトメアとして転生し続けることになった人族の女。
既に4000年以上もの間、転生を繰り返している。
20年ほど前に転生して、『いつも通り』色々あって生まれた地を去り、旅の途中でこの村を訪れた。
転生を繰り返し4000年も生きてきた彼女にとって、行ったことの無い地は少ない。
当然この地方にも幾度となく足を運んでいる。
しかしこの地に来たのは200年ぶり。
人間以外の人族が珍しいこの地方では、自分を知る者などいないはずだった。
だから自分がいくら人族に嫌われる穢れ持ちのナイトメアとは言え、角を隠している状態の初対面で、いきなり睡眠薬を盛られ魔女呼ばわりされる謂れは無い。
となると、何故自分は魔女だと思われたのか?
彼女は訳が分からず、首を捻った。
手足は縛られていたが、首は何とか捻れた。
「不思議そうな顔をしてるな」
納屋の奥から声がした。
芋虫のように身体を捻ってそちらを向くと、一人の男がこちらを睨んでいる。
いや、こちらを見て嘲笑っている。
「もごもごもご」
(何のつもりですか)
猿轡をしたまま唸った気の強そうな返事に、男は嬉しそうに答えた。
その手には羊皮紙があり、ひらひらと暑そうに扇いでいる。
「文句を言いたそうな面だな。お前が193年前にこの村で何をしたか覚えてないのか?」
エレオノーラは驚いた。
年数までははっきり覚えていないが、何をしたかは覚えている。
『いつも通り』自分がナイトメアであると村人にバレ、迫害に合い、復讐をした。
ただそれだけだ。
恐らくこの村の者は恨み辛みを代々語り継いで来たのだろう。ご苦労なことだ。
だからこう答えた。
「もごもっごもごもーご」
(女性の扱いも知らないような男に答える義理は無いわ)
「くっくっく」
男は嬉しそうに笑って答えた。
「そうかいそうかい。自分の思い通りにいかないと癇癪を起こし、注意されたことを逆恨みして村を火の海にした魔女さまには反省という言葉が無いようで」
かちん。
「もぎー! もごもごもーごりー!?」
(誰が癇癪を起こしたり逆恨みをしたですって!?)
彼女は激昂して捲くし立てるが、当然男には通じなかった。
それどころか寧ろ、癇癪もちだと納得しただけだった。
「爺さまから寝物語に散々聞かされてたが、正直俺も、本当にいるとは思わなかったんだがな」
男は手を止め、羊皮紙を広げて見せた。
そこにはエレオノーラの似顔絵が描かれ、注意書きがされていた。
『この女、逆恨みでこの近隣の村々を焼き払った悪逆非道のナイトメアなり。決して許すべからず』
これには流石のエレオノーラも驚いた。
(何故自分がそこまで恨まれなければならないの?)
自分の思った通りにならない世界を恨み、復讐を重ね、自分がナイトメアだから一方的に嫌われてると責任逃れしてきた彼女にはその理由が分かるはずも無かった。
3.報復
「じゃあ、そろそろ始めるか」
男はそう言うとエレオノーラに覆い被さり、上着を剥いだ。
「んぐーー?!」
服の下から豊満な胸が曝け出される。
仰向けの状態でも綺麗なお椀型が崩れない、綺麗な乳房だった。
その彼女の胸を、男は餅でもこねるように力強く揉みしだく。
「んぐっ、んぐっ」
彼女は逃れようと身を捩るが逃れられない。
両手両足を縛られた体勢で体重をかけられてはどうしようもなかった。
初めは力任せだった手の動きが、やがてその動きを変えていく。
胸の形をなぞる様にさすりながら、親指と人差し指は軽く乳首を摘む。
「んっ」
もう片方の胸も軽く揉みしだきながら、乳輪に沿って舌で舐め上げる。
「んんーっ」
両の胸を強く、柔らかく、潰すように、撫でるように愛撫が続く。
「んっ、んっ、んんっ…!」
猿轡をされた口から荒い吐息が断続的に漏れる。
いつの間にか片手が彼女の股の間に滑り込み、その秘所に指が触れた。
ゆっくりとその割れ目を往復し、時たま、小さな突起を弾く。
「ん…」
指が一本、割れ目に入ろうとするが、狭くて奥まで入らない。
それでも無理矢理二本目を入れ、中をこすりあげる。
「――っ」
エレオノーラはあまりに強い刺激に仰け反って達した。
身体中の筋肉が弛緩し、男の腕の中でぐったりとする。
男は直ぐに彼女の下半身からも服を剥ぎ取り、自分のモノを当てがって挿入を開始した。
「んんーーーっ!!」
達した直後の余韻の最中に入れられた。
彼女の身体が快感に震える。
(そんなはず…ないっ)
彼女は自分の身体の反応を否定する。
性交の経験は決して初めてではない。
過去何度も人族に殺された中には、殺される前に犯されたことは一度や二度ではない。
けれどこれは転生してまだ経験の無い身体だ。
自慰も知らぬその身体がこうも容易く快楽を求めるとは思えなかった。
彼女は知らなかったが、実は最初の睡眠薬には多量の媚薬が混ざっていて、感覚が著しく敏感になっていたのだ。
「んっ、んっ、んっ」
(いやっ、感じてないっ、感じたくなんてないっ)
自分が次第に腰を振り始めていることに気付き驚愕する。
いつの間にか足の拘束は解かれていて、自ら男の腰を両足で挟んで離そうとしなかった。
ぐぃっぐぃっぐぃっ。
「んぁ、んぁ、んぁっ」
小刻みに入り口付近を突かれ、声に甘い物が混ざり始めた。
(何とか…しないとっ、…何とかし…ないとっ……)
心では否定しながらも身体は突き上げられる度に喜び、既に手も自由だと言うのに無意識に男の首にしがみついて猿轡を外そうともしない。
「んあっ! …はっ……ぁぁっ……!!」
もう訳も分からず呼気を吐き散らしている。
出すぞ。
男が耳元で囁くと、お腹の中がきゅっとなり膣がきつく締まった。
ずずんっ。
それを待っていたかのように男のモノが深く深く突き刺さり、子宮を押し上げる。
「んんっ…!」
どくっ、どくっ。
間も無く、大量の精液が流し込まれた。
「はあぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
感覚が研ぎ澄まされた子宮に注ぎ込まれた熱い感触が染み渡る。
エレオノーラの意識はその快楽に押し流されていった…
4.宣告
「んっ、んっ」
エレオノーラは喘ぎ声を上げながら目を覚ました。
まだ甘い気だるさの中にいる。
気絶していた間も最初の男の後、何人もの男に代わる代わる犯されていた。
「…ぁあっ」
また膣内に射精された。
直ぐに膣から溢れ出して、もうかなりの回数中出しされていることを物語っていた。
ずんっ
「…はぁんっ……――っ?!」
次の男は入れると同時に彼女の首を締めだした。
「ぐ…うぁ……」
苦しさで気だるさから意識が覚醒する。
本来なら死んで転生するのも構わないところだが、あまりに突然のことで困惑した。
「おっと、それはやりすぎだ」
最初の男が止めた。
「かはっ! ……はあはあ……」
解放されると猿轡をされたままの口で目いっぱい呼吸をする。
「お前の気持ちは分かるがな…」
入れている男の顔には奇妙な痣があった。
普段の彼女なら気付いたかもしれない。
その男が、かつて彼女がナイトメアにする呪いを実験した男の子孫だということに。
普段の彼女なら考えたはずだった。
何故恨んでいるはずなのに最初の男は首を絞めるのを止めたのかを。
だが今の彼女にその余裕は無く、助かったとだけ思った。
しかしそれは間違いだった。
「殺したら転生してしまうらしいからな。死なない程度にしとけよ」
彼女は自分の耳を疑った。
まだ朦朧としていて聞き違いをしたのではないか、と。
誤って、自分から死んでも必ず記憶を持ってナイトメアに転生できることを口にしたのだろうか。
「驚くほどのことじゃない。何千年も馬鹿やってりゃ嫌でもあちことで噂が残る。種族が同じで外見そっくり、やってることも同じで常に一人とくれば転生を疑うのは当然だろ?」
彼女はそんな簡単なことではないと思う反面、言われてみれば同一人物だと考えるのも自然なことだと納得した。
「安心しな。お前はずっとここで飼ってやる。ずっと、だ」
それが何を意味するかは媚薬と快楽に溺れていた今の彼女にも理解できた。
しかし、彼女はその宣告をどこか恍惚とした表情で受け入れていた…
5.望んだ結果
エレオノーラは念願叶って自分を受け入れてくれる大勢の人族と暮らせることになった。
もう二度と怖れられることもないだろう。
しかし本当に彼女は幸せだったのだろうか?
無理に異貌化を試すこともできた。
成功すれば村人をいなして逃げることもできたし、失敗して頭部の損傷で死ねば転生によって解放された。
しかし。
都合の悪いことや嫌なことを全て誰かのせいにして逃げ続けた彼女にとって、今の快楽を捨ててまで命を懸けることなどできなかった。
やがて口が自由になっても、彼女が逃げ出すことはなかった。
それが快楽に溺れたからなのか、魔法も使えないほど心壊れたからのかは神のみぞ知る……
そして彼女は今日も、新しい『いつも通り』に男たちと身体を重ねる。
終わらない、永遠の呪いの若さで……
Bad End Or Happy End?