エアエンド1 goodend 『私がずっとついててあげる』  
 彼――ジークハルトと共に故国ルーフェリアに繋がるアイヤー  
ルの街道を歩く。不思議な事に本来なら旅人達の唄が聞こえてきて  
もおかしくない街道なのだがほとんど人を見かけない。  
 別に急ぐ旅路という訳ではなく、別に危険な街道を通っている訳  
でもない。商人、―――いや隊商もよく使う整備された道だ。故国  
ルーフェリアとは違い水路を主体とした輸送システムが発達して  
いない、いや発達させる事が困難だったアイヤールでは必然的に陸  
運の技術が発達している。そして特に安全性に問題があるという、  
――――つまりは蛮族や魔物などがよく出ると言う訳でもない。  
 そもそも、仮にそんな未舗装の街道や危険な街道なら隊商が寄り  
付く事はないだろう。確かに護衛集団や私達みたいな冒険者を雇え  
ば、そのような街道でも使用することは可能だろうが、いかんせん  
コストがかかりすぎる。  
 詰まるところ、特に心配する要素はない。油断は禁物だが私とジ  
ークの二人なら多少、いや相当の災難が降りかかっても対処は可能  
だ。・・・まぁ、戦力という観点から見れば、斥候としてはヌケて  
いる面は多々あるが、それでも有能と云わざるを得ないポンコツ執  
事メッシュと、宮廷魔術師にも匹敵する魔術の腕と一流の戦士の腕  
前を併せ持つ可愛い妹のソラ(ほんといつの間にそんなに強くなっ  
たのだろうか?)が欠けている事は不安要素だが、そこまで心配す  
ることでは無いだろう。  
 そして、私の隣を歩いている人物の実力に不安が有ると言う訳で  
もない。彼は有能な妖精戦士であり、つい先日も大国アイヤールか  
ら勲一等を授けられた実力だけで云えば折り紙付の人物である。  
――それに、私が頼りにしているヒトでもある。  
にも係らず、  
「はぁっ〜」  
 私――エアリサームは疲れを感じ溜息をつく。最近色々あったからか  
、何時もなら噛み殺せる溜息を止めることは不可能だった。  
「ん、どうした、溜息か。つくと幸せがニゲラらしいぞ、エア」  
立ち止まり、心配してくれているのかこちらをまじまじと観察す  
るジーク。まぁ、その気遣いは嬉しいがその気遣いをされるハメに  
なった元凶に気を遣われると複雑な気分にならざるを得ない。――  
―――あと、なにかおかしなセリフを吐かなかったか?  
「溜息の一つもつきたくなります。ジーク、貴方が女帝陛下にした  
事を思えば」  
「え、俺なにかおかしな事したっけ?」  
 真顔で言葉を返してくるジーク。その顔には一点の邪気も無けれ  
ば悪気も無い。だからこそ性質が悪いといえるのだが・・・  
「しました。アレをナニカしたと言わなければなにを言うんです  
か!?」  
 怒りのせいか、疑問に疑問で返してしまう。考えれば説教をする  
時に感情を荒げるのはルーフェリア神官としてどーかなと思うと  
きも無い訳ではないのが、彼と一緒に居ると必然的にこれがデフォ  
ルトになってしまう。  
 
「―――えーと、俺がしたことは勲章くれるっていうのを断ったの  
と、くれるって言う金を今回の事件の被害者のために使ってくれっ  
て言っただけだよな・・・。なんだエア、金がほしかったのか?そ  
れならそうと言ってくれればよかったのに・・・」  
「ちがいますっ!」  
 見当違いの結論を出すジークに怒りというよりは呆れを感じる。  
しかしここでめげてはぞんざい勇者団ではやっていけない。じゃあ  
なにかほかにわるいことしたかなと小首をかしげて考えている姿  
は、・・・――見方によれば可愛い所作といえるのかもしれない。  
「悪いことはしてないんだけど、してないのだけどっ、ものごとに  
は言い方っていうものがあるのよっ、ジーク!あんな失礼な言い方  
をして、いつ頸を刎ねられると気が気でなかったわっ!!」  
要約するとこうだ。私達はとある事件に関り、そこで勲功を立て、  
彼、ジークはもっとも功績があったということで勲一等を貰う事に  
なったが自身が受け取る理由がないとそれを辞退。それでもという  
事で勲章は受け取ったが、褒賞金の全てを事件の被害者救済に当て  
る事にしたのだ。 ―――成る程、行為だけを見れば何も間違ったことは  
していない。むしろ正しい事を・・・いや、御伽噺の中の騎士もかくやと  
いう行いをしたと言っても過言ではないだろう。だがしかし、  
「『別にアイヤールの為に戦ったんじゃないし、そんなもんもらう  
理由はない』、『仕方ないか、それじゃ貰うけど、金は別にいいや。  
今回の被害者のためにでも使ってくれ』一国の国家元首に対してタ  
メ口を使うのはもちろん、その言い方が最悪すぎるわっ!どう考え  
てもケンカを売っているようにしか思えないわよ!!」  
 足でどたんバタンと地面を蹴りながら説教する。  
・・・確かに私達は、とある依頼者から冒険者として依頼を受けそ  
の依頼を果たす過程で行った行為が結果としてアイヤールの為に  
なったに過ぎず、報酬も大国から出る報奨金とは比べ物にはならな  
いがきちんと出ている。律儀に報酬の二重取りは避けるという行為  
は、依頼人に筋を通すという観点からみれば彼のしたことは正しい  
のかもしれない。  
 しかし世の中には言葉の使い方というものと礼儀作法というも  
のが存在し、公的な場ではそれらが最重要視されるというのが世の  
中の道理というものである。その重要なものを目の前の男はカケラ  
も持ち合わせていない。その状態で式典の場に臨んだ結果があの非  
礼な発言であり、私が今、溜息を吐く原因になっている次第である。  
「そうか、言い方がマズかったか。悪い、そういうこと、よく判ら  
なくてな。今後気をつけてみる」  
 反応それだけ。話は済んだとばかりに再び歩き始める。時刻は逢  
魔が時を過ぎている。夜の帳が落ちる前に宿場につきたいのであれ  
ば確かに急ぐべきなのかもしれない。  
 だが、あの素っ気の無い口調とぞんざいな態度だ・・。――本来  
ならば怒りを通り過して、激怒するべきなのかもしれない。もしく  
は『どう気をつける』かを問いただし、重箱の隅を突く様に、微に  
入り際を穿つように改善点を指摘するべきなのかもしれない。――  
あるいは愛想を尽かし見捨てるべきなのかもしれない。・・・まぁ、  
それだけは自分には無理そうだが・・・。  
 それに私も彼とはそれなりに付き合いが長い。だから彼が悪いと  
言った時は本当に悪いと思っている事は知っているし、気をつける  
と言うのなら本当に『気を付けようとはする』のだろう。  
 ・・・なにより―――彼は『判らない』といった。彼の人柄とし  
てトンでもない冗談を真顔で真実かのようにのたまう男だが、基本  
的に嘘を吐かないという事を考慮すると、本当に『自分の言葉を飾  
る』という事の意味と効果を理解していないのだろう。理解してい  
れば、そこから自身が得ることの出来る利益を考慮すれば、既に彼  
は言葉を飾っているだろう。  
 詰まるところ、彼はぞんざいなのだ。他人にだけではなく自身に  
対しても・・・・。だからそれを理解している私には、これ以上怒  
る事も叱ることも出来はしない。  
 
 怒りは日の光と共に感情から退場し、やがて訪れる夜の闇は清涼  
な空気と共に私の心に余裕をもたらす。平静を取り戻したからか、  
穏やかな風が吹いていることに気付く。風の匂い、草の香り、梢の  
響き、虫の声が、私達が自然の中にいる事を強調する。  
 ・・・いや驚いた。こんな整備された街道のど真ん中にいるとい  
うのに、これほど自然を身近に感じるなんて。優れた建築家の中に  
は人工物と自然を調和させることが出来る者もいると聞くがこの  
街道もそういう匠の製作物なのだろうか?エルフだからという訳  
ではないが、こういった趣向は正直に言って好ましい。  
 だが、如何に隊商がよく使う交易路とは云え、如何に王都に繋が  
る道とはいえ、王都からは充分に離れている場所に、これ程のもの  
を造るのは勿論、維持するにも相当の金額が掛かるのではないのだ  
ろうか?  
・・・あるいは政治的意図が有るのかも知れない。見るべき人間、  
一定の力量を備えた商人等が見ればルーフェリアは勿論、カインガラ  
やリオスといったフェイダン地方の街道より格段に優れている事  
は明らかである。つまり、巨額の費用を掛け自身の技術水準を見せ  
付けることで国威を表そうとしているのかもしれない。  
 ・・・そう考えると、好ましいと考えていたものが少し好ましく  
なくなった。私の信仰、つまりルーフェリア信仰は清貧を旨とする  
信仰であり、基本的に贅沢は禁忌とされている。勿論敬虔な信者で  
ある私もその戒律は遵守している。もっともそれにも限度はあるし、  
それに他者に振舞うことはむしろ推奨されている事でもあるのだ  
が・・・  
 そう考えていると、ふと疑問に突き当たった。彼、私の横を歩い  
ている男、ジークも特に贅沢をしているといった様子はなく、蓄財  
家というわけでもない。そして気前もいい。ルー様にも出会った時  
も、彼女が女神ルーフェリアの分体で在る事を知らないにも拘らず、  
欲しそうだったからという理由だけで気軽に自身の持っていた宝  
石をあげていたっけ。  
 私は一応神に仕える身だから、別にそれでも問題は無い。だが、  
彼はそうではない。そう云えば、彼が何か自分だけのモノを欲しが  
っている所を見たことが無い。信仰と言うモノが在るという訳でも  
なく、信念というものが在るという訳でも無いだろうに・・・。  
 
――――それは―――何かが――歪だ。  
 
―――――だから、つい前々から思っていた  
「ねぇ、ジーク。ちょっと聞いてもいい?」  
「ん、ホントにさっきから二十面相してどうしたんだエア。おれで  
答えられることなら答えるぞ。ちなみにお説教ならきちんと聴いた  
ぞ?」  
 あっ、さっきから歩きながらでも、私のことを心配して気遣って  
くれて居たんだ。・・・それは正直かなり、いや凄く嬉しい。  
「いや、そういう事じゃなくて、ジーク、貴方って何か欲しいモノ  
とかないの?」  
          余分なことを口走ってしまった――――  
 
「なんだ、やっぱり褒賞金が欲しかったのか。別に金をほしがるこ  
とは別に恥じることではないと思うぞ、俺は。欲しいなら貰えばい  
い」  
「そうじゃありませんっ!私が聞いているのは貴方が欲しいモノ  
の事ですっ!!」  
「俺の・・・ほしい・・もの?」  
 再び彼は立ち止まり、うーんと唸りながら考え始める。  
「そうです。勲章という名誉はいらない、褒賞金というお金もいら  
ない、権力を求める訳でもない。あまり色を求めているようにも思  
えないし、正義とか理想とか云うものを求めているようには思えな  
い!!じゃあ何故戦うの!?いったいなにがほしいのよっ!!?」  
 今日一番の大声に虫の音は止まり、木々で羽を休めていた鳥がま  
もなく夜になろうとしている空にばさばさと飛び上がる。鳥達には  
悪い事をしたが、それでも私は後悔をしていない。――それにこれ  
は、これから彼と生涯を共にするかもしれない者として、いずれ一  
度は聞いておく必要があったことだ。  
 私の剣幕に圧されたのか、ジークは地面に座り込み腕を組ながら、  
さらに考え込む。私は彼が答えを出すのを待つ。相当の時間が流れ  
たのか再び虫が鳴き始め、飛び去った鳥も木々に戻ってきた様だ。  
既に時刻は夜だが、それでも私は彼が返答するのを待つ。こうして  
彼が悩んでいるのを見ると心が痛む。  
 ・・・別に彼を困らせたいという訳ではない。だが自分の言葉の  
せいで悩み苦しんでいるのを見ると、私は―――  
「うん、いくら考えても今、特にほしいものはないわ、俺。だって  
全部持っている」  
 私の思索を遮り、いつものように真顔でトンデモナイ事を彼は  
のたまった。  
 
「全部もってるって・・・」  
「いや、だってそうだろ?俺は五体満足でどこにでも歩いて行く事  
が出来るし、メシを食う金に困っている訳でもない。ウマの合う仲  
間もいるし家族もいるだろ?」  
「確かにその通りだけど、それはあまりにストイックな・・・」  
 それは間違ってはいないのだけど何かが間違っている。私がどう  
言葉を繋ごうか思索をしていると、彼は今日、いや私の人生の中で  
最大の  
「それに何より、俺の傍にエアが居てくれてる。ほら、これ以上何  
を望めばいいのさ?やっぱり全部持ってるだろ、俺」  
 トンデモナイ事をサモトウゼンのヨウにアッケラカンとノタマ  
ッタ。  
「えっ、あれっ、ちょっと、それって、いやまって、あの、その、  
へ、だって、だからって、えーと」  
 思考はフリーズ。にもかかわらず心音は今にもはちきれそうな勢  
いで拡大し増加している。意味のない語彙を羅列し、ポンコツ執事  
もかくやという勢いで反応用のランダムリアクション機能を駆使  
し、発音を続けている。傍から見れば、さも滑稽な光景だろう。  
 ・・・幾分の時間を費やしたのか、何とか微かに冷静さを取り戻  
す。気付くと土の匂いと舗装された道路の感触を間近にする。どう  
やら何時の間にか地面に蹲っていたようだ。  
「・・・いつまでも蹲っていると風邪ひくぞ。聞かれたことに答え  
ただけなんだけど、俺、またなにか変なこと言ったか?」  
 うん、言ったよ、今。いや参った、ホント。言葉を飾らないって  
性質が悪すぎるわ、うん。  
「別に。いや、今の言葉、結構嬉しかった。・・その、ありがと」  
 立ち上がると共に返答する。いや、だってアンナコトを言われて  
どう反応すればいいのだっ?私もジークと居られて嬉しい、ぶちゅ  
ー。とでもすればいいのか!?そんなことは恥ずかしくて出来ない  
し、何より断じてわたしのキャラじゃないっ。  
 とっ、とりあえず、話を逸らそうとしてか、それとももう一度同じ  
言葉を聞きたいからか  
「でも、本当にほしいモノとか、やりたいこととかってないの?」  
 そんなことを愚かにも訊いてしまった。―――それが、後の喜劇  
になるとは露知らずに・・・。  
「あっ、ヤリタイことならあるぞ、今」  
 おっ、予想外の返答。なんとなく残念ではあるが、そこはかとな  
く甘酸っぱい会話の流れを変えてしまおう。  
「それって何?わたしにも協力できること?」  
「うん、できるできる。俺、一回エアと一緒に風呂入ってみたい」  
―――今度は先ほどとは逆に心音がフリーズ、思考はエキサイトし  
ナニガナンナノカワカラナイッ。  
「えーと、それってどういうイミ?」  
「だからそのままの意味だってば。男なら好きな女と一緒に  
風呂に入りたいと思うのは当然だろ?」  
 イヤー、そんなローカルでマイナックで極めて個人的な嗜好をさ  
も当然のヨウにいわれても困る。「だめ?」と首をかしげながらこ  
ちらを見るジーク。そりゃ、確かに私達はいわゆる『ごにょごにょ』  
な関係ではあるのだが、それにしてもしかしっ!・・・あと、私が  
聞いたやりたいことというニュアンスとは何かが違う。しかも、人  
気はないとは言え天下の公道のど真ん中で・・・  
 だから私の返答は決まっている。当然のように私は―――  
「その、ジークは最近一杯頑張ったから。そのご褒美にだから。だ  
から、別にだめじゃない」  
 本来のたまわないことをノタマッテシマッタ・・・。  
 
本来、野営時において温泉は勿論、風呂に入ることさえ不可能に  
近い。いくら安全な街道を通っていても襲撃の危険性がゼロという  
訳ではなく、何より大量のお湯を用意することが困難だからである。  
 よって、せいぜいが川や湖の水を使い水浴びをして汗を流すに留  
まるのが通例である。そう、通例なら。実は私ならこの二つの問題  
点をクリアーする事が可能なのである。まず、魔物などの襲撃なら  
私がまず危険を感知することが出来る。蛮族に対しては『セイクリ  
ッド・フィールド』を張っておけばまず近寄ってこれないし、さら  
に念を入れて操霊術師の知識を齧った時に習得した『クリエイト・  
ゴーレム』で周囲を警戒しておけば万全に近い態勢を取ることが出来るのだ。  
 これだけ警戒しておけば仮にこの状況を突破されても、服を着て  
武器をとる時間くらい稼ぐことは充分可能だろう。  
 次に、大量のお湯を用意することについてだが、これもルーフェ  
リア様に仕える神官が使うことの出来る特殊神聖魔法の中に小さ  
な温泉を作り出すことが可能な『ファンティン』という奇跡が存在  
していたりするのである。 つまり条件はすべてクリアー。そして神  
官であるこの私が一度言ったコトを反故にする訳にもいかないだろう。  
―――その結果が・・・  
「ふうっ、いいお湯ねぇ〜。やっぱり疲れたときは温泉に限るわ。  
それに星が凄く綺麗よ、ジーク」  
 大気が澄んでいるのか星がとても綺麗だ。満天のこの星空を見上  
げながら、少し街道から離れたとことにあった人があまり訪れそう  
にない森の小さな広場に作った温泉にジークと一緒に温泉に浸か  
っている次第である―――  
「・・・あぁ、それは同感だが、一つ聞いていいかエア?」  
 うぅ、来た。彼の方を出来るだけ見ないように私は答える。  
「何、出来るだけ手短にお願いね。出来れば10文字以内で」  
「なんで水着きてんの?」  
   
うん、予想していた質問をこちらのリクエスト通りに返してくれ  
た。相変わらず妙なところで馬鹿律儀だ。  
「ほら、その、これはあれよ、色々と大人の事情が在るというか・・・  
それにほら、これ。少し前に手に入れた『酒の種』。けっこーおい  
しいお酒の種らしいし、前にツクッタ鳥(ラプテラス)の燻製もあ  
るからそれで酒宴でもしよーかなーって。その時裸だといろいろこ  
まるでしょ!?あっ、別に酔ってしまっても大丈夫よ!その時は  
『キュア・ポイズン』で酔いを醒ましてあげるからっ!!」  
 矢継ぎ早に捲し立てると共に、水辺に用意しておいた燻製とカッ  
プに酒の種を入れて手早くジークに手渡す。  
「おっ、それいいな。じゃあ、まずは飲むかっ。・・・あとで脱が  
せばいいし(ぼそ)」  
 ふぅ、一時はどうなる事かと思ったが、ひとまずの合意を得られ  
た様で何より。最後に何やら不穏な単語が聞こえたような気がする  
が、きっと気のせいだろう。うん。ちなみに『酒の種』とはこれ  
をカップなどにいれ、水を注ぐと中に入れた水がお酒に変わってし  
まうというマジック・アイテムである。尚、作れるお酒の質によっ  
て販売価格はピンからキリまでだったりする。  
 さて、ではのんびりまったりとお酒を楽しみますかと口を付けた  
所でジークは、  
「んぐっ、んぐっ、ハァ〜っ。うまいなこの酒。それにエアの作っ  
た燻製もうまい。気も利くし、いい嫁さんになるな、絶対」  
という爆弾発言をかまして下さいました。  
「ぶッ、ぐぅうっ、ゴクン」  
 何とかお酒を噴出すことだけは阻止できた。だがその代償に口の  
中に入っていたお酒とカップの中の酒を一気に嚥下してしまった。  
あっこのお酒結構度数強い。  
「にゃっ、にゃにをいってるにょよう、ジーク〜」  
 顔の赤さはきっとお酒のせいだ。あと何故かナ行がニャ行になっ  
ているがわたし気にしにゃい。  
「いや、今回は俺絶対に間違ったコトいってないぞ。これは自分の  
気持ちだし、もうエア相手に礼儀作法とか気にする必要はないだ  
ろ?あと、猫語を喋ってる今のエアに言葉遣いうんぬんを言われ  
たくない」  
 うっ、反論しようのない正論。あ〜言葉飾らない相手が正論を喋  
るのって世界で一番最始末に負えない組合わせじゃないのかなぁ  
〜。  
 とっ、とりあえず飲んで誤魔化そう。今の話題とかこの状況とか  
あと自分の気持ちとか。  
 
・・・体感時間で10分経過、私はジークに  
「だから、じーくはあんまり深く考えずに思ったことを口にしちゃ  
うからそれって誤解とトラブルの元なんですよ〜まったく。だいた  
い嫁とかぜんぶおれのだからとか言ったら色んな意味で誤解され  
るんですよーまったく〜」  
お説教をしていた。  
 私は別にカラミ酒という訳でもないし、そもそもほとんど酔って  
いない。  
(注1、酔っ払いの自己申告ほど当てにならないものはこの世には  
存在しません。信じちゃ、ダメ。ゼッタイ。)  
 ただ、気まずいから酔った振りをしているだけだ。いっそ本当に  
酔ってしまえれば色々とラクになれるのだろうが、いくら飲んでも  
まったく酔えない。くっ、『ぱっつんぱっつんエルフ』などと言わ  
れているこの身に宿る生命力が今だけは恨めしいっ。  
 ジークは時折相槌を打ったり、疑問を返したりしてきちんと話を  
聞いてくれている。なんでこんな時には馬鹿律儀なのかっ、酔っ払  
いのたわごとなど適当に流してくれればいいのに!これではまる  
でこっちがわるものみたい・・・・、  
―――いや、違う。悪者みたいではない。暦とした悪者なのだ、こ  
れでは。  
 私は別に子供というわけでもない。そして彼とは既に『ごにょご  
にょ』な関係になって久しい。当然成人した男性が女性と一緒に風  
呂に入ればナニをするのかくらい識っている。別に彼とそういう事  
をするのが嫌だという気持ちは欠片もない。  
 それに私は確かにこう言った。『そのご褒美にだから。だから、  
別にだめじゃない』状況と私の発言から考えると、つまり今日は彼  
を受け入れる、いや私を好きにしてもいいと言ったのと同じではな  
いのか?  
 その挙句の果てがこれか?まぁ、水着は色々あるから良しとして、  
酒を飲みながら酔ってもいないのにジークに絡んで説教すること  
か?ハッ、本当に巫山戯ているッ。もし目の前に自分が居たら無礼  
討ちで頸を刎ねてやりたいくらいだ。我ながら自己嫌悪に押し潰さ  
れそうで涙が出てくる。  
「おいッ、何で目になみだ浮かべているんだよ?まさか泣き上戸な  
のか?そんなにぱっつんぱっつんなのにっ!?」  
「そうじゃなくてぇ、そうじゃなくてぇっ、ジーク、こんなに口煩  
い女、嫌じゃないのっ?」  
 こんな状況で泣き喚くという事は、最後の矜持を総動員して何と  
か堪えた。そこまで彼に迷惑は懸けられない。でも、もし、いやだ、  
なんていわれたら、きっと、たちなおれそうに、ない。  
「そりゃ、確かにエアは口煩いし、たまにウザいと思うときもある  
けどさぁ・・・、でも相手の為を思って言ってくれてるんだろ?だ  
から別に嫌とかじゃないぞ。それにおかげで、俺、自分がすこしぞ  
んざいなんだなぁって気付けたし。だから、いろいろ助かってる」  
「っつ!、すこしじゃない、すこしどころじゃないわよぅっ〜」  
 ・・・どうやら最後の矜持も決壊してしまったようだ。―――だ  
から、あとは泣くしかない。彼の胸に縋り付いてただひたすらまる  
で子供のように泣きじゃぐる。ジークは何も言わず軽く抱きしめて  
くれ続けた。  
 その気遣いと彼の体温がとてもあたたかかった・・・。  
 
―――泣き始めてからどのくらい時間がたったのだろうか、星の位  
置から推測するとだいたい30分くらいだろうか?こんなに泣いた  
のは子供の時以来だ。  
 今思い返すととても恥ずかしい事をした。だがしかし、不思議と  
後悔はない。  
「ん、落ち着いたか、エア。なんか色々溜まってたみたいだけどそ  
の、いろいろ悪かった。これからはもっと考えて行動する」  
「違うわよ、別にジークのせいじゃない。わたしは自分勝手な理由  
でかんしゃく起こしてただけ」  
 もう少し考えて行動して欲しいのは事実だが、この件で非は間違  
いなく私にある。それで反省などされたら立つ瀬がない。なにより  
この件のせいでもし彼のいいところが消えてしまったら、後悔して  
もしきれない。  
「えーと、それとさ、俺、いま少し嬉しいんだぜ」  
「えっ、なんでよ?」  
「だって、エアってめったに泣き言いったりとか、俺を頼ったりし  
てくれないだろ?でも、今日は少しは頼ってくれた。だから嬉しい  
んだ。俺でもすこしは役にたてたんだなぁって」  
―――それは違う、確かに私は人を頼るより人に頼りにされる方が  
多い。だがまったく人を頼らないというわけではないし、ジーク達  
には一杯感謝してるし、頼りにしている。  
 ・・・もし、ジーク達と会わなかったら、私は首都カナリスの街  
から出る事はなく、広い世界の一端も識ることはなかっただろう。  
 妹のソラもどうなっていたか分からない。冒険者達の間では比較  
的ナイトメアに対して寛容であるとは言え、果たしてジークのよう  
に『気にしてないからもうずっと異貌してろよ』と受け入れてくれ  
る人はいたのだろうか?・・・そういえば、結構早い段階でお兄さ  
んって懐いていたなぁ、あの子。事故でワイバーンに乗ったままエ  
イデルに飛んでいった時も仲間だからって無償で救出に力を貸し  
てくれたっけ。ポンコツ執事の記憶を取り戻す事も諦めて。  
 ルー様も蛮族に攫われたままだったかもしれない。結果ルーフェ  
リアの国が大変な事になっていた可能性もある。  
「かもね、でもわたしもジーク達には結構助けられているし、いち  
おうこれでも感謝しているのよ、たぶん。まあ確かにかなり迷惑は  
かけられているし、たまにジークはパーティー・リーダーなのに、  
本当に何も考えていないんじゃないかってしみじみ思うことがあ  
るけど」  
 口に出たのは微妙に憎まれ口、流石に自分でもこれはどーかなぁ  
と思わなくもない。言い直そうかと考えていると  
「ほら、エア。だからこそ自分がいなきゃって思うだろ?」  
 いつか、どこかで聞いたことのある言葉を再び口にした。あの時  
と今では状況も二人の関係も何もかもが違う。この男一体どんな意  
味で言って・・・いや、考えるのはよそう。そもそもこれ相手に駆  
け引きなんて時間の無駄だ。  
―――だから誓いの言葉はそっけなく。  
「そうね、だからわたしがずっとついててあげる」  
 ぞんざいにど真ん中直球の玉を放ってみた。  
 
「ええっ!!、それってつまり、その、どゆことなの!?」  
 珍しく彼が戸惑っている。いつもはこっちが驚かされているのだ  
からこれはなかなか新鮮だ。手を下したのが私自身だから尚更。  
「そのままの意味よ、一生涯ずーっと傍にいてあげるって言う意味。  
こういう直球勝負、ジークとくいでしょ?で、わたしにいて欲しい  
の欲しくないの?」  
「そうかっ!、それは、うれしい・・かな、うん!!」  
 微妙に照れているのか、はっきりと答えを返してくれないが。  
あまり見ない興奮している様子をみると返事はイエスなのだろう。き  
っと。まあ、それはこれからの事で判断していけばいいか。私の寿  
命は彼より結構長いのだし。  
 ・・・ところで、これがプロポーズだすると、果たしてどっちか  
らしたことになるのだろうか?えーと、いて欲しいって言ったのは  
ジークだし、でもそれがそういう意味じゃなければいてあげるって  
言ったのは私の方だし、いやまてよ、そもそもその前に・・・・・  
 乙女の一大事である重要なことを考える為にと思索に耽ってい  
ると、突如ジークの唇が私の唇に吸い付いてきて、舌を絡め、私の  
口内を刺激してくる。いきなりの事だったので、流石に対応しきれ  
ず、私はバランスを崩して湯船の中に仰向けに倒れた。勿論ジーク  
も巻き込まれている。だが、これはどう考えても彼の自業自得だろ  
う。  
「ちょ、ちょっと。いきなりナニするのよっ。初めてじゃあるまい  
しそんなにがっつくなんて、一体ナニ考えているわけ?」  
「いや、エアはかわいいなって思ったらがまんできなくて、つい。  
こう、かーっとなってやってしまった。反省はしていない。あと、  
俺の子供を生んでもらいたいって考えている」  
 こっ、こっ、こっ、子供っっっ!!?  
 そりゃ、こーゆーコトする一番の目的はそうなんだけどっ!!  
間違ってないんだけどっ、こっちにも心の準備っていうものがっ。  
いやなにより・・・  
「いくらなんでも気が早すぎでしょう。そういう事はもう少しゆっ  
くりと・・」  
―――いや、そうでもないのか。ジークと私は同じ人族だが、ジー  
クは人間、私はエルフ。お互いが寿命を全う出来ると仮定するなら  
――――ジークは間違いなく私より先に死ぬのだ――――  
 成程、そう考えれば確かに早くもなんともない。むしろこれから  
は私がジークのライフスパンにあわせる様にする必要があるのか  
もしれない。  
「・・・なんか今日は考え事多くないか?こっち見てくれよ〜」  
「これだけ一日に色々起これば、考え事が多くなるのはあたりまえ  
です。たしかに別に早くはありません。でもその前にしておくべき  
事があります」  
「んっ?なにを」  
―――私は厳かに  
「え〜と、その前にまず子供の名前を決めとかなきゃ。ジーク  
なにかいい案ある?」  
大切な未来の事を二人で決めようとした―――  
「いや、そっちの方が気が早すぎだろう!!大体、男の子か女の子  
か判んないしっ。あと、双子とかだったらどうするんだよ!?」  
「あっ、確かにそーか」  
 珍しく私が突っ込まれた。いや、そっちの方の意味じゃなくて。  
「まぁ、どうでもいいや。とにかく、エア、お前を抱くぞ、いいな」  
 満天の星空、微かに満ち始めた月だけが二人を見守る中、ジーク  
は私の返答を待たず、私を荒々しく求め始めた。  
 
 私とジークの事だ。これからもきっと御伽の冒険談顔負けの厄介  
ごとに巻き込まれてもおかしくない。きっと喧嘩もするのだろう。  
 ジークのぞんざいさに呆れ返る事があるのは間違いがない。不安  
要素は結構ある。  
 でも、それ以上に楽しい事があると信仰することが今の、いやき  
っと未来の私も信仰することが出来る。少なくても今私は幸せだ。  
 とにかく今は彼の求めに応え、この身を委ねることにしよう。所  
詮は神ならざる人なる身。判るのは今と少し先の未来だけなのだか  
ら。  
―――だからこの日の誓いだけは忘れないように自身の魂に刻み  
付けておくことにしておきましょう―――  
 
 
エアエンド1 goodend 『私がずっとついててあげる』  

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