「なあ、頼むよ!こんな失敗したことがバレたら……ヤバいんだよ」
ある日の夕暮れのこと。賢者の学院から帰るベルカナが、しきりに懇願されている。
二日ほど前の魔導書盗難事件の際に、盗賊ギルドで彼女らの交渉相手になった男だった。
話を聞くに、ガンスをアジトから動かす際に、情けなくも逃げられてしまったらしい。
「頼むよ、今夜だけでいいから。奴が顔を出しそうなところには心当たりがあるんだ」
「なんで、私があなたのお手伝いをしなくてはいけませんの?」
「あんたもアイツの顔を知ってるし……。なあ、奴が姿を現したら、
俺に知らせてくれるだけでいいんだ。危ないことはさせないよ」
両手を合わせて、拝むようにして頼み込む男。
「間抜けな失敗の尻ぬぐいをするのは、気が進みません」
「手伝ってくれたら300払うよ。見つけてくれたら、もう300出すから」
(こんな仕事で600ガメルは魅力ですね。また、闘技場で損してしまいましたし……)
脈有りと見たのか、男は畳みかけてくる。
「酒場で何時間か、奴が来ないか見張っててくれればいいんだ。たいしたことじゃないさ」
「私は忙しいんですの。合わせて千ガメル頂かなくては、割りに合いませんわ」
「……せめて、400ずつで勘弁してくれよ……。まったく、この前といい足元を見て……」
「何かおっしゃいました?では、その酒場とやらに行きましょう」
いい小遣い稼ぎができそうですわね……不満げな男を尻目に、くすりと笑う。
いささか頼りなげにも感じながら、夜闇が忍び寄る街を、男の案内に従って進んだ。
しばらくして、すえた臭いの漂う裏通りにある、一軒の建物に辿り着いた。
看板すら出ていない、古ぼけた扉があるだけの店構えが、怪しい雰囲気を漂わせている。
こんな場所に来た経験の少ないベルカナは不安を感じたが、見透かされないように虚勢を張った。
「随分、みすぼらしいお店ですね。私の服が汚れてしまいそうです」
「そう言うなよ……こういう所だから、ヤバい奴等も来るのさ。
……ああ、そこからじゃなくて、裏に廻るんだ。先に、店主に話を通しておくからな」
男に促されるまま、裏手にある扉から中に入る。
店員の控え室や物置替わりに使われているのだろうか、雑然とした部屋に、店主らしき男がいた。
奥の方には垂れ幕のかかった通路があり、喧噪が漏れ聞こえてくる。
「ちょっと待ってな」
男はベルカナを入口に待たせたまま、店主とひそひそ話を始めた。
何やら袖の下を渡しているようだ――店主が、こちらを見て何度か頷く。
やがて話がついたらしく、男が振り返って呼んだ。
「待たせて悪かったな。その垂れ幕の向こうが酒場だから、目立たないように隅にいてくれないか」
「そうですか。いいですけど、せめて飲み物くらいは出してくださいね。……っ?!」
ひとまず、中を覗こうとして近寄ったベルカナの背中が、強く押された。
思わずよろめき出た先は、大きなホールの中の、粗末な柵に囲まれた舞台のような場所だった。
さして広くもないそこを、男達が十重二十重に取り巻いている。
店中に酒や獣脂の臭気が充満し、下品な笑いや喋り声がこだまする。
そんな中、男達のギラギラとした目は一様に、中央にいる少女へと注がれていた。
訳もわからず立ちつくす娘に、下卑た声が投げつけられる。
(今晩は随分と華奢なお嬢ちゃんだな……いつものアバズレとは物が違う……)
(たまんねえ、あの肌の白さ……何してる、さっさと脱げ……早く見せろ……)
(そうだ、脱がねえか……何を澄ましてやがる……この売女が……)
いったい何を言われているのか、理解できずに混乱するベルカナ。
しかし、お嬢様育ちの彼女にも、徐々に自分の置かれた状況が飲み込めてきた。
(……ここは、まさか……)
耳の端まで真っ赤にした少女は、憤然と奥へ戻ろうとする。
しかし、そこには先程の店主が立ち、低い声で難詰した。
「客を待たせているのに、どういう了見だ」
「と、通して頂けますか。こんないかがわしい所に、用はありませんから」
精一杯強がってみせるベルカナの首筋に、抜く手も見せずナイフが突き付けられた。
「このまま喉を掻き切ってやろうか、お嬢さん?どちらが望みだ、素直に舞台に立つか、それとも」
先日相手にしたチンピラとは比べ物にならない、凄まじい殺気。ちくり、と切っ先が喉に当たる。
(ほ、本当に殺すつもりですわ、この人……)
もし、逆らったら……。こくりと頷いて、後ずさるしかなかった。
仕方なく舞台に戻って辺りを見回してみても、誰一人助けてくれそうな人はいない。
むしろ、焦らされた男達の、容赦の無い罵声ばかりが響く。
(こ、こんなに沢山の男の人が……目を血走らせて、女性の……私の裸を見たがっているんですの?)
信じられない。理解できない。戸惑う少女の目に、盗賊ギルドの男が店内に入ってくるのが見えた。
助けて……恥も外聞もなく願ったベルカナの顔を、嘲るように眺めた男は、ゆったりと席についた。
「……!」
騙された……。絶望に青ざめる少女。膝がガクガクと震え、男の口車に乗ったことを激しく後悔する。
今日まで磨いてきた魔術の知識も、戦士の心得も、ここでは何の役にも立たない。
怯えて足をすくませる娘に、卑猥な言葉が次々と浴びせられた。
野獣のような男の群れに囲まれ、逃げ道は何処にも無い――
やがて、観念したようにうつむいたベルカナは、おずおずとブラウスの襟に指を添えた。
一つ、また一つとボタンが外され、腕から抜きとられた上衣が、はらりと床に落ちる。
剥き出しになった少女の白い肩に、生殺しに遭っていた男達の興奮が掻きむしられた。
――自分の手で、服を脱いでしまった。もう、引き返せない。
衆人環視の中で脱衣を強制される屈辱に、抑えきれず涙がこぼれた。
その姿すら、男達にとっては嗜虐心を掻き立てる絶好のスパイスでしかない。
客席から上がる歓声に包まれながら、少女は諦めたように腰のホックを外す。
僅かな逡巡の後に手を離れたスカートは、ふわりと足元にわだかまった。
真っ白な下着姿になった少女が、ゆらめくランプの明かりに照らし出される。
ソックスも脱ぎ、キャミソールとショーツだけを身に付けたベルカナに、男達は息を荒くした。
(これを……これを脱いだら、本当に裸になってしまいますわ……。まだ、満足して貰えませんの?)
哀願するように後ろを向くと、店主は冷たく首を振り、僅かな希望を砕いた。
(最後まで……脱ぐしか、ないんですね……)
目を閉じて、肩紐に手をかける。激しい羞恥心に苛まれつつ、少女は薄布を脱ぎ捨てた。
下着に覆われていた形のいい乳房と、可愛らしく尖る薄桃色の乳首が姿を現し、野卑な口笛が飛ぶ。
焦らされ続けた男達の興奮は、頂点に達しようとしていた。
張り詰めた股間をなだめようと、さする音が方々から聞こえ、獣じみた息遣いが酒場中に満ちる。
猥雑な視線に晒された少女が、最後の下着に手を伸ばすと、彼等は息を飲んで目を凝らした。
(これで……全部、見られてしまいますわ……私の、一番大事なところまで、全部……)
脱いでしまえば、見せてしまえば、この悪夢は終わる。たとえ、どんなに後悔するとしても。
狂いそうになる程の恥辱に身を灼かれながら、ベルカナは一息にショーツを下ろした。
淡い栗色の茂みと、その下の割れ目があらわになる。
その瞬間、彼女は心細さと同時に、切ない開放感を覚えて躰を震わせた。
儚げに全裸でたたずむ少女の姿に、観衆は獣性をあらわにして、舞台に詰め寄った。
胸を、腰を、彼等が舐め回すように見ている。
いたたまれない程に恥ずかしい……それなのに、躰の奥で秘やかに生まれた劣情は、
大勢に見られることに胸を高鳴らせ、性器を刺激した。
(こ、こんな所で裸になっているのに……。何を考えてますの、私?)
認めたくないと思う程に女の部分は熱くなり、股間にいやらしい蜜が滲む。
思わずしゃがみ込んでしまった彼女に、男達が叫ぶ。もっと見せろ、股を開け、と。
それに従ったのは、早く終わらせたいという意思なのか、はしたない欲望故なのか、
もはや自分にも判らなかった。
床に腰をついて、大きく股を開く少女。男達はそれでも足りずに、濡れ光る割れ目を両手で開かせる。
あられもない姿で、発情した証を見られているかと思うと、ベルカナは顔も上げられなかった。
しかし、彼女の思いと裏腹に募る官能は、更に股間を濡らして、自尊心を打ちのめしていく。
育ちの良さそうな女が感じているのを見て取り、男達はますます猛り狂う。
我慢しきれずに、硬直を取り出しこすり立てていた男が、少女を招き肉棒の前へ座らせた。
生まれて初めて見る男性器に、思わず魅入られた娘の眼前で、鈴割れが弾けて欲望を撒き散らす。
父親と同じくらいの年格好なのに、自分の裸を見て射精している……
その背徳感に、普段なら嫌悪を催す筈の理性は、為す術もなく崩れた。
少女は我知らず舌を出して、ぬるぬると頬を伝う雫を舐め取る。
美しい顔を白濁で汚し恍惚とする娘に、たがの外れた男達は、我先にと白い飛沫を浴びせかけた。
胸のふくらみに、白い腹に、まだ男を知らない股間に……躰中に、精液が飛び散る。
むせ返るような雄の臭いに、ベルカナは生殖器を痙攣させ、糸を引く程に愛液を滴らせた。
(これで、あのお嬢様も身の程が判っただろうよ。まあ、余り酷いことにならない内に助けてやるか)
客席で成り行きを楽しんでいた男が、ほくそ笑みながら立ち上がる。
(もっとも、これをあの綺麗な顔にぶちまけてからだけどな……)
生意気な口を叩く唇も、人を小馬鹿にした目も、全部、俺の汁で汚してやる……
ぎりぎりといきり立つ肉棒をしごきながら、男は舞台へと向かった。
数日後。盗賊ギルドの前に立つ、少女の姿があった。例の男が出てくるのを認め、走り寄る。
「お、あんたか。この前は大変だったな。ま、いい社会勉強になっただろ?」
人ごとのように言い放つ男に、顔を赤くして首を振る。
「それは、いいんです。あの」
「なんだ?ああ、あのネタで脅すようなセコい真似はしないよ、安心しろ」
「そんなことではありません。あの……」
「はっきり言ってくれねえか、こっちも忙しいんだぜ」
「私を、また……舞台に、立たせて頂けませんか……?」
ベルカナの唇に、隠しようもない淫蕩な笑みが広がった。
〜Fin