「あら、ずいぶん男前になったじゃない?」
「おねえさ……姉貴」不意に食卓に現れた美女に、ギュスターヴは思わず昔の呼び方で呼びそうになって慌てて言い直した。「あんたの策略か?」
「ふふん。昔みたいに『御姉様』と呼んでもいいのよ、ジュシー?」
ギュスターヴは異母姉の首に手を掛けて壁に叩き付けた。鼻が触れるほど顔を近づけて脅す。
「殺されてえなら、そう言ってくれて構わないんだぜ御姉様? 昔のお礼をたっぷりしてやるからな。俺がいつまでもチビな弟だと思うなよ!」
しかし姉は不適な笑み。
「やあねぇ。愛情表現よ、愛情表現。気持ち良かったでしょ?」
そう言って口付けてきた姉の首を掴んだまま、ギュスターヴは床に叩き付けた。
「きゃん!」
「触るな売女! 顔しか取り柄がねえクセしやがって。親父にケツでも振ってろ!」
「あいたたた。その傷はエイニーに?」
「あぁ、へなちょこアンセルムの野郎。生意気にも《魔力撃》を使えるようになってやがった。ゼッテー赦せねえ!」
「それもいいけど、先に傷の手当したら? 痕が残るわよ?」
「で、何の用だ? まさか今頃になって出世街道まっしぐらな俺様に色目使いに来たわけでもねえんだろ?」
「いやん♥ それもあるんだけど、エイニーがまだ生きてるって聞いたから顔を見に来たのよ。まさか出世街道まっしぐらなギュスターヴ様に手傷を負わせてるなんて吃驚仰天よぉ」
ギュスターヴが手を振り上げると、ぱっと伏せる。
「ふん」ギュスターヴは鼻を鳴らすと椅子に座った。「裸になって靴を嘗めた方がいいんじゃないか?」
いぶかしげな顔で見上げる姉に、ギュスターヴは宣言した。
「リリオを落とせたら、爵位がもらえることになった」
黙って服を脱いで跪いた姉を見ながら、征服感に浸った。だが……
「せっかくの前祝を! へなちょこアンセルムの野郎!」
全裸で靴を嘗めている姉のことは、もう頭には残っていなかった。