「ホーリィお姉さま、お顔に汚れが」
小さく首を傾げたシルフィの絹糸の黒髪がさらさらと流れる。
ポーチから取り出したハンカチを水筒で濡らして、そっとホーリィの返り血で汚れた頬に当てた。
戦闘の昂りに熱くなった身体に、その冷たさが心地よく、ホーリィは思わず目を閉じる。
「うむ、感謝するぞ、シルフィ」
感謝の言葉とともに、そっとシルフィの手に自らの掌を重ねる。
ほんの僅かな間、今この時だけ許される触れ合いに、心臓がトクトクと脈打つ。
瞳を開ければ、シルフィの白皙の美貌もまた、薄紅色に染まっている。
ずっと、互いの気持ちには気づいていた。
「ホーリィお姉さま……」
「シルフィ……シルフィード」
その名は、ホーリィの“妹”として皇族入りを果たしたシルフィーナに対して、本来決して呼びかけてはならぬ名前だ。
誰かにも聞かれてはならない、その秘密。
それは、シルフィーナの真の名前。
齢13歳にして、緑の黒髪とたおやかな美しさで近隣に名高い皇女が、今や先帝の血を引く唯一の男児であること。
だが、今この時に限れば、誰もいない、この時に限れば……。
ホーリィは、この名前を呼ぶことができる。
妹ではなく、弟でもなく、一人の男として。
二人の指が絡みあい、濡れたハンカチがその掌から滑り落ちる。
次の瞬間には、貪るように唇と唇を合わせあっていた。
シルフィのスカートを下から持ち上げる昂りの形を、ホーリィの繊手がそっとなぞる。