宿賃代わりに小鳩亭で買ってきた、サンドイッチや鶏肉の揚げ物などで、講義前に腹の中  
を満たす。胃の中がこなれ、落ち着いてきたところで、白墨と小さな黒板、教科書代わりの  
羊皮紙をイリーナの部屋の机上に用意した。  
「じゃあ、はじめるぞ。この間の課題を出せ」  
 幾分大きめの黒板が、生徒から差し出される。それを受け取って、その上に書かれている  
課題の採点を始める。その間イリーナは緊張した面持ちで手の中にある聖印を握っていた。  
この結果で先日の賭けの結果が決まるのだ。自信の有無にかかわらず、緊張するのは当  
然である。  
「……」  
 課題の解答が書かれた、少し大きな黒板の上を、ヒースの手が滑る。その表情は最初こ  
そ余裕のあるものだったが、しだいに引きつってきた。悔しそうな舌打ちが、二回響く。その  
度に、イリーナの体が軽く震え、明るい表情に変わってゆく。そして最後の問題で手が止ま  
り、音が消える。  
 緊張に耐えられなくなって、目を閉じる。  
 しばらくして、黒板の上に、シュッと書き付ける音が響いた。  
「…ほれ、イリーナ。目をあけろ」  
 その言葉に恐る恐る目を開けると、目の前に課題が突き出してある。それを受け取って、  
目を通した。  
 
 丸が続く。  
 最後の問題だけ、無情にも斜めに線が引かれていた。その記号は、間違った課題につ  
けられるもの。何時も見慣れたそれが、今日ばかりは素直に認識出来なくて、ただじっと  
見つめ続けた。  
「……残念だったな。惜しかった。最後の最後で計算間違いしてたんだよ」  
 賭けに勝ったのは兄貴分なはずなのに、ゆっくりとイリーナに語りかける声は、穏やか  
で優しく、そしてどこか沈んでいる。  
「ア……そう、ですか。すっごく、頑張ったのにな……」  
 じわじわと結果がイリーナの思考にしみこんでくる。強張っていた体から力がぬけ、強  
く握り締めていた聖印が硬質な音を立てて、床に落ちた。ヒースが落ちた聖印を手に取り、  
鎖をいじってしゃらしゃらと鳴らす。  
「でも、よく頑張った。応用も3問中2問正解だからな。次に解ければ問題ないさ」  
 そう言って鎖をイリーナの首にかけ、額を軽く叩いた。ほうけていた妹分の瞳が、その  
刺激で光を取り戻す。ごしごしと手で目元を擦って、悔しそうな笑顔で兄貴分の顔を見た。  
「ふう。――賭け、負けちゃいましたね」  
「ふふふふふ。『オレサマ勝利!!』ってな」  
 ……彼女の目の端に残っている涙の潤みに気が付かない振りをして、わざとおどけた  
口調で指を鳴らす。ぱちりという音が部屋の中に響いた。  
「もう、……がっかりしてられないですね。で。どこがどう間違っていたんですか?」  
「ん。じゃあ今日は課題で補足しておきたいところだけをやろう。……まずはな」  
 そんなわけで、なし崩し的に本日の講義が始まった。  
 
 
 時間が過ぎる。一つ一つの問題を丁寧に解説し、『補足』という言葉の通り、正解しつ  
つも足りていなかった部分を補ってゆく。その手際はよく、かつ判りやすい。以前『手馴  
れた先生っぷり』と知り合いから評価されたこともあるが、今はそのときよりもさらに腕  
を上げていた。  
「よし、ちょっと早いが、今日はここまでだ。コツはわかったか?」  
「うん。こうやれば間違えなかったかもしれないね」  
「だろ、まあお前の解法でもおかしくはないんだが、こっちのほうが、計算数も少なくて、  
確実だ。次に同様の問題があったときは、これを使え」  
 そう言って課題の書かれた黒板を丁寧に消し、教科書を閉じる。イリーナがその横で  
大きく伸びをする。負けてしまったとは言え、講義も終わり、それなりに頑張りも褒めても  
らった為か、開放感に満ち溢れた表情だ。その伸びのいきおいもそのままに、元気よく立  
ち上がった……のが大間違い。引ききっていなかった椅子に足が突っかかって、バランス  
を崩す。椅子がどぐわらん! と大きな音を立てて床に転がり、イリーナ自身は机の上に  
盛大に額をぶつけてしまった。  
「――おーい。ダイジョウブデスカー? イキテマスカー?」  
 横にいたヒースはあまりのことにあっけに取られ、突っ伏したままわずかに震えている  
イリーナの肩に手を置く。  
「うぐぐぐ……いきてますよ。い、いたいです……」  
「なにやってん……ぷぷ、はは、どわはははははははは!!!」  
 涙目になりながら頭を上げたイリーナの顔を指差して、はじめこそ何時もの通り皮肉ろ  
うとしたヒースが馬鹿笑いをあげた。  
 
「人を指差すとは邪悪です! 失礼な〜。何かついているんですか?」  
「くくく…えーっと、鏡、鏡っと…。ほれ」  
 机の上に立てかけてあった鏡を手にし、ヒースが妹分の顔の前に突き出した。  
「……え、あああー!ヤダ、なにこれぇ!!」  
「おー♪ いい顔だぞ、イリーナ。コレなら、もう忘れないよな〜HAHAHAHA!!」  
 頬に有るのは文字の連なり。鏡でうつすと、先ほどの課題の解法が読み取れる。つまり  
は机に突っ伏したのではなく、黒板の上に突っ伏してしまったが故に、そこに書かれてい  
た文字がほっぺたに映ってしまったというわけで。白く染まったその顔は、確かに思わず  
笑ってしまっても責める事は出来ないだろう。……ただし、ヒースのように明確なからかい  
が混じっている場合は除く、が。鏡を見たままのイリーナの拳がヒースのみぞおちにめり  
込んだ。  
「うごぁ!」  
「ああ〜お風呂、お風呂〜! 落とさなきゃ!!」  
 叫んで、クローゼットを引っかき回すと、着替え一式を手にばたばたと部屋を出て行く。  
その場に一人、身体をくの字に曲げて苦しむ青年が残された。  
 まさしく自業自得。口は災いの元である。  
 
※     ※     ※  
 
 さてはて、かって知ったるなんとやらとはよく言ったもの。ヒースがフォウリー家の台所  
に立ち、戸棚の中からポットを引きずりだした。  
「あ゛ーもう。本気一歩手前で殴りやがって……」  
 ぶつぶつ小声でつぶやきながらも手はテンポ良く動き回り、二人分のカップとソーサー、  
ティーコーゼも取り出され、居間の机にきっちり並べられてゆく。  
「何言ってるんですか。少しは自嘲してください!」  
 お湯を沸かそうとやかんを手にしたところで、軽い足音と共に、イリーナが湯浴み場から  
もどってきた。  
「開口一番それかお前は…――」  
「どうしたんです?」  
 水分を飛ばすためなのか、髪の毛をタオルで巻き込んで包みあげている。首筋には収ま  
りきれなかった後れ毛がふわふわと落ちていた。着ているのは何てことないパジャマの上  
下だが、お湯で上気した肌に、顎から首筋にかけての滑らかなライン、そしてタオルを取る  
としっとりと肩口に落ちる栗色の髪が、灯りを反射して艶やさを付け加えている。  
「あー、うん、何でもない」  
「そうですか。お風呂、どうぞ。後は私が用意しておきますから」  
 
 イリーナはそう言うと、別の戸棚を開けて中に入っていた籠を取り出した。その上には  
布がかけられていて、ぽこぽことわずかなでっぱりが出来ている。  
「お母さんがお菓子作ってくれたから、お茶と一緒に出しますね〜」  
「ほいほい」  
 妹分が兄貴分に近付いて、その手に持ったままだったやかんを奪い取る。  
「……兄さん。早くしないと、お湯が冷めちゃいますよ?」  
「あー、はいはい。んじゃいってくる」  
「変な兄さん…」  
 そう声に漏らして水を汲みに行く妹分を横目に見ながら、ヒースは台所を出た。顔はほ  
のかに赤く、眉間に深いしわがよっている。左手を腰に当て、右手でこめかみを軽く叩く。  
 
(毎日顔を突き合わせてはいても、風呂上りに会うことなんて殆どなかったわけだから、  
イリーナがイリーナに見えなくて言葉が一瞬途切れたのも無理はないんだ。そうなんだ、  
俺はイリーナに色気を感じた訳では断じてない、ないんだ、ないんだったらないんだーー!)  
 
 そう自分自身に言い聞かせて、ヒースは客室へと自分の着替えを取りに走っていった。  
 その足音に苦笑すると、すっとイリーナの表情が寂しそうなものに切り替わる。  
「……本当に勝ちたかったのにな……。勝ったら、私……」  
 お茶の葉をスプーンで掬い上げ、ポットにさらさらと落としながらそう小声でつぶやい  
ていたことなんて、イリーナ本人以外には、誰も、知らない。  
 
 ふわりと居間の空間に、お茶の心地よい香りが漂っている。そんな中、二人は向かい合  
わせに座って話しに興じていた。会っていなかった二日間の出来事様々を。  
「でね、アネットが………」  
「あの娘にしては珍しい事を……」  
 冒険者として、共に旅に出るようになってからは、ほとんど毎日《青い小鳩亭》で顔を  
合わせていたわけだから、それだけ会っていなかったことが、逆に不思議な感じがする。  
講義前に軽食を取ったばかりだというのに、皿の上のお菓子の減りは早い。二人とも話を  
聞いている時は口の中にお菓子を放り込み、それ以外のときは喋っているといった具合だ。  
 わずかな時間の間に、皿の上が空になる。それからは、話すことも少なくなった為、ゆっ  
たりとお茶を飲み始めた。  
 言葉が止まり、心地よい静寂が訪れる。しばらくそれに身を任せ……少しの時が過ぎた  
後、イリーナが口を開いた。  
「兄さん。お願い事は……」  
「ああ、すまんすまん」  
「ちなみに実現不可能なことは言わないでくださいね。言ったら……私の手が光って唸る  
かも知れませんよ?」  
 それを聞いたヒースの額には、脂汗。つい先ほど苦痛でのた打ち回ったばかりだから、  
さすがにそれは避けたいものである。       
「うむ、一つ目はだな、」  
 
一つ目は、溜息をつきながら承諾。懐具合に思いをはせる。  
二つ目は、きょとんとしたあと、意外なようなそうでないような…と思いながら了承。  
三つ目は―――  
 
 
「すまん。実はまだ決まってない」  
「……三日前、私に『絶対勝てっこない』って言い切ってたのは誰ですか?」     
 両手でむにりと兄貴分の頬を取って、軽く引っ張る。ぶにーっとヒースの頬が伸びた。  
「いや〜。確かにそうなんだけど、なぜか思いつかなくてナ。風呂に入ってる時も考えて  
たんだが……」  
「個数指定した本人が、なにやってるんですか……」  
 そうどこか不満そうに言うと、ぱっと両手を離す。軽く節をぱきぽき鳴らし、目の前の  
カップを包み込んだ。傍目には軽く引っ張っていたように見えたが、ヒースにとってはそ  
うではなかったらしい。かすかに赤くなった頬をゆっくりとなでていた。  
「おー痛て」  
「……ねえ、ヒース兄さん」  
「何だ?」  
 そう答えてカップを手に取り、口を付ける。じんわりと舌に広がる芳香とわずかな苦味。  
その調和は美しい。  
 
「好きな人、いますか?」  
 
 不意で唐突な質問に、口内に含んだお茶を噴出しそうになる。それをすんでで押さえ込  
むと、無理やりに奥へと飲み下した。目の前にいるイリーナは対照的に、ゆっくりとお茶  
を飲んでいる。カップに隠れてその表情は伺えない。  
「は?……今のところ、特にいないな」  
「あの、魔術師でお金持ちの……アイラさんだったけ、は?」  
 冒険者になる事を決心し、イリーナを共に引き込んだとき、建前はともかく本音はそれ  
が主目的だったことを思い出した。最近は学院での勉強と、冒険者としての生活で忙しく、  
そんなことはすっかり忘れていた。  
「あーそう言えば。そんなこと言ってたことあるな。もちろん憧れではあるが――前ほど  
じゃ、ないな」  
「カレンさんとか、ルーシィさんは?」  
「……コナかけたのは確かだが、『好き』とは少し違うぞ、多分……」  
「そうですか。いないんですか……」  
 どこか嬉しそうに、でも少しだけ寂しそうにイリーナの表情が変化した。わずかなそれ  
に気がつくが、あくまで気がつかなかった振りをする。そして、鸚鵡返しに聞き返した。  
「ならお前は、好きなヤツ、いるのか?」  
「…あ、えっと、その……います」  
(あらま)と口の中で小さくつぶやき、予想外の答えを返した妹分を見つめ返す。脳裏に  
浮かんだのは、五年前から姿が止まっている金髪のファリスの神官戦士(見た目は幾分  
邪悪気味)だった。  
「そっか。ちなみに『クリスさん』とか『親父さん』いうオチだったら、さすがのオレサマでも  
見捨てるぞ」  
「あのですねぇ。確かにクリス兄さんやお父さんは憧れだけど、違うもん。私が、好きな  
のは、……別の人」  
 ふっとはにかむと栗色の瞳が揺らぎ、表情もわずかに艶を見せる。それは確かに恋をし  
ている乙女のものだった。  
 
「お前も、……大人になったんだな」  
 見たことのない表情を、初めて見せた妹分に戸惑い、幾分動揺の入り混じった声色で、  
ヒースが合いの手を打つ。  
「……すっごく近いのに、遠い人。いつから、だろうね」  
 ソーサーの上においたカップの縁に、つっと指を滑らせる。剣を握っているせいも合って、  
普通の女の子より指先は無骨だが、それでもヒースの指とは比べ物にならないくらい細い。  
「そっか。想い、伝わるといいな」  
「どうだろうね。こんなに、近いのに……」  
 ふと見たイリーナの表情は泣きそうで、内心複雑な思いが駆け巡る。  
(……忘れてたが、こいつも、女なんだな。誰だ、その有る意味不幸な奴……。イヤ、不  
幸なのか?)  
 どうにも反応に困ってしまい、天井を見上げる。  
 
(イリーナはかわいい。死んでも口にはしたくないが、妹分って事を抜きにしても結構か  
わいい部類に入るよな。それがこんな表情をして迫ってきたら? 俺だって、突っぱねる  
自信はないぞ。そうでなくてもあんな賭け事を口に出して、しかも今回みたいにイリーナ  
が負けたら……?)  
 
 ヒース自身にも信じられない意識が、思考をよぎる。  
 
「なあ、イリーナ」  
「何ですか?」  
 その瞬間、確かにヒースはイリーナを【妹】としてではなく【女】としてみていた。で  
もそれには気がつかない。思いつくまま、声を紡いでいた。ヒースの視線が前にもどり、  
イリーナの顔を覗き込む。  
 
「三つ目の願い事。もし俺が『抱かせろ』って言ったらどうする?」  
 
 兄貴分がそういった瞬間、妹分の顔がぽんと赤くなる。  
「『何でも、どんなことでも言うことを聞く』…こんな条件だと、俺様がこう言い出したら、  
どうするつもりだったんだ?」  
 空気が、張り詰める。ヒースは答えを待つ。  
 沈黙が、続く。ヒースが再び口火を切る。  
「――俺が幼馴染でもなんでもない只の雇われ家庭教師で、ろくでもない奴なら、ありえ  
ない話じゃないんだぞ?」  
 どう思っているのかは分からないが、顔を伏せ、彼女の心臓の上に当てられている手が  
きゅっと握り締められた。  
小柄な身体が軽く、震えている。  
「……き「あー悪い! 悪かった!!」よ……」  
 少しの躊躇の後の小さい声が、ヒースのあせった大声でかききえた。  
「え……?」  
「すまん。俺もどうかしていた!だからどつくのはやめてくださいいりーなさん」  
 ヒースは『顔は怒りで赤くなり、手を握ったのは爆発する一歩手前』と解釈したらしい。  
そこまでは思い至らないイリーナは混乱し、握った手に一瞬だけ力が入ってすぐに緩んだ。  
「大丈夫…です。怒ってはいません。いない、いないんだから……」  
「真面目にすまんかった。変なこと言って。でもな、あんな無謀なこと、軽々しく言うな。  
俺だからいいようなものの、お前は時に無防備すぎる。お前だって、もう……」  
 
 はじめこそ、子供に言い聞かせる勢いだったヒースの語尾が、空気に消える。その先  
は、声に出すつもりはないらしい。イリーナの頭に手を載せて、ふいっと横を向いてしまう。  
「ゴメンナサイ。でも、ね。勢いだったの。かっと血が上って。気が付いたら叫んでた。  
さすがに兄さん以外の人だったら、あんなことしなかったと思う。それだけ、私は……」  
「だとイインデスガ」  
「じゃあ、三つ目を改めてどうぞ」  
 イリーナが明るい声を出す。でも表情はどこかうつろで、声調も悲しげだ。ヒースはそ  
れに気がつかない。  
「そうだな……。説教しといてなんだが、今度また課題で賭けをしないか?」  
「それが、お願いごと、何ですか?」  
「そう思ってくれてかまわん。デモさすがにお願いごとは1つにして、メシおごり〜とか  
予算を決めて何か買う〜、あたりにしよう」  
「……現金だとは思うけど、やりがい出ますもんね。だけど……それ―」  
「それが狙いだったりするしな。今回の正答率の高さには正直恐れ入った」  
 小声で言葉を続けかけたイリーナにそう言って、兄貴分がにやりと口をゆがめる。さす  
がの妹分も、言葉の中に含まれる意味を読み取って、ちょっとむくれた表情になった。  
 
 からからとヒースが笑い出し、それにつられてイリーナも笑い出す。そして馬鹿笑いを続  
ける兄貴分の顔の前に、手を持ってくる。そして目にも留まらぬ速さで、額を指ではじいた。  
ヒュカッっと鋭い音が部屋に響く。  
「ぐばはっ!」  
 そして音と同時に、ヒースはのけぞり、苦痛に満ちた奇妙な叫び声があがった。  
「今度は絶対勝つもん!」  
「いたい〜、いたいぞーーー!!」  
「ふーんだ! 知りません! 私を馬鹿にした罰として、テーブルの上、片付けといてく  
ださいね!!」  
「ナンダトー!」  
「あ〜、朝になってもそのままだったら、全力でどつきますのでヨロシク。それじゃ、お  
やすみなさい!!」  
 ばたばたと足音も荒く、イリーナが居間から消える。その場にうずくまり、額から後頭  
部までを抜ける痛みに必死で耐えながら、何時もの通りにもどったイリーナにヒースは  
安堵した。  
「…しかしなんで俺様が勝ったのに、片付けを押し付けられねばならんのじゃ……」  
 理不尽な思いを感じ、それを口にしながらも、のろのろと立ち上がって皿やカップをま  
とめはじめる。  
 ああ、本日二度目の『口は災いの元』。いい加減そのことを学んだ方がいいとはまったく  
思っていない、『大法螺魔術師』の異名を囁かれるヒースクリフ・セイバーヘーゲンであった。  
 
 
 良く日に干された毛布は心地よい。真っ白に洗濯されたシーツからも太陽の匂い。  
フォウリー家に泊まるのは、郊外の村から礼拝に通っていた頃を除けば、指折り数えるほどしかない。  
でも久しぶりの客室は以前とあまり変わっておらず、懐かしさと安堵の気持ちを呼び起こす。  
そんな優しさに包まれながら、ヒースはとろとろと浅い眠りに落ちていた。  
 眠りについて、いったいどれくらいの時がたったのだろうか。きー、と扉がなった。  
浅いところを彷徨っていたヒースの意識が、ゆっくりとではあるが表面へと浮上をはじめる。  
身体を軽くゆすられ、ベッドがきしむ音と振動が響く。ぼんやりと聞こえる小さな呼び声。  
消え去る毛布の暖かさとは対照的な、空気の冷たさ。ふわりと感じる、頬へのぬくみ。  
そして、まだ睡魔で曇ったままの瞳を開けたとき、目の前にイリーナの顔があった。  
「ん……どうした〜?なんかー、ようか〜?」  
「兄さんの、三つ目のお願いごと……」  
「はぁ〜? なんで、次の賭け事を、いまなんだ――って!!」  
 三つ目のお願い事。それは次回の賭けの約束だったはず。  
拡散し、空に揺らめいていた思考が収束し、現実へと立ち返えりはじめる。  
視界の中にあるイリーナの姿を見てそれは一気に進み、半分に落ちていた瞳が見開かれた。  
「三つ目に言ったのは『抱かせろ』…ですよね」  
「……は?」  
 イリーナがヒースの上にいる。頬に手を添え、顔同士の距離は少し厚めの本数冊分くらいだ。  
 
兄貴分の眠っているベッドの上で自分の身体を足と片手で支え、顔を上から覗き込んでいた。  
「ファリス様に誓ったんだもの。『どんなことでもする』よ、私」  
「何、言ってるんだ? それになんて格好してるんだよ、おい」  
 格好はパジャマなのに代わりはない。  
ただし、下のズボンははいておらず、上着も胸元ぎりぎりの一つしか止まっていない。  
だから顎から首筋、鎖骨にまろやかな曲線を描く胸元がヒースの瞳に映る。  
さすがに肝心な部分はかろうじて布地の下に収まっているが、少し動けば見えてしまってもおかしくない。  
しかも、今視界にある限り、キャミソールなどもつけていないだろう。  
「ちっこい頃とは違うんだ、少しは恥らえ!」  
 下のほうはギュッと鍛え上げられながらも薄く脂肪がのった下腹部がわずかに見え、  
更に下には大事な部分を覆う薄いピンクのシンプルなショーツがちらちらと見え隠れする。  
そこからに伸びる足はしなやかで、うっすらと筋肉のラインが浮かびあがっていた。  
「私は、十分恥じらってますよ?」  
 そうイリーナがつぶやくと、その顔が落ちてくる。  
 
 何が起こるかわかった時にはもう手遅れで、唇が重なっていた。  
 それに思考が対応できなくて、軽く押し付けられた後すぐに離れても、  
ただ呆然とイリーナの表情を見つめてしまう。  
「ヒース、兄さん……唇って、柔らかいんですね……」  
 顔を赤くして、イリーナがつぶやく。その声に、やっと思考が追いついた。  
「何を……お前、何てこと!」  
「だって、一応乙女ですから。キスに夢見ちゃだめですか?」  
 ふしぎそうに、そう問いかけてきた。自分がしたことに、特に疑問を感じていないようだ。  
「違う! 俺が言いたいのはそうじゃなくて」  
 それがヒースの心を苛立たせ、すぐに怒りへと摩り替わる。  
「兄さん、気づいてないの…?」  
「何がだよ!! こんな事は俺じゃなくて……好きなやつとしろよ、いるんだろ?」  
「――やっぱりわかってないっ!! 私が、キスしたいのは!」  
 ぐっと兄貴分の頭を持ち上げて、再び何か言いかけた唇をふさぐ。  
一回目とは反対に、今度は反論を封じ込めるようにきつく、押し付けた。  
「ん、ふ………コレが、私の答えです!」  
「ぁ……む――イリーナ!!」  
 
 離れると同時に二人が叫び、声が絡まる。  
「だって、三つ目。後のは私から『またしよう』て言うつもりだったの。だから、無効です!」  
「らしくない屁理屈言うな。大体はじめに言ったのは本気じゃない。なんて言うか、純粋な疑問だ。  
もしくは言い聞かせ? 本気で心配だったからだよ!」  
「兄さんの馬鹿……言い聞かせる為にとか、心配だったからって、あんな事、言わないでください!   
私、嬉しかったのに! 本当に嬉しかったのに!!」  
 思考が、止まった。頭の中で『嬉しかった』と言うイリーナの声が木霊する。  
「え、今、ナンテイイマシタ?」  
「だから、兄さんに『抱かせろ』って言われて嬉しかったの。大声に消されちゃったけど、  
あの時『きくよ』って私は答えたの!」  
 いま言われた事が、素直に認識できない。  
何とかして思考から排除しようと心が動くが、それを目の前で涙をためる少女が許してくれなかった。  
「……嘘だろ?」  
 呆然と、只一言つぶやく。  
「嘘じゃない! ……嘘じゃ、ないもん…。夜になると、すっごく切なくて。体、一人で慰めて」  
 ぱたぱたと激情のせいで瞳からあふれた涙が、頬を伝って、ヒースの顔に落ちている。  
 
それは落ちてすぐは暖かいが、すぐに冷たくなった。  
「お前…!」  
 イリーナが言っていることがわからないほど、性に関して無知じゃないし、察しが悪いでもない。  
だからこそ事実と現実を否定しようとする。  
しかし、冷徹な自分が『ひていするな』と停滞しそうな思考を理解へと導こうとする。  
「でも、止まらないの。慰めれば慰めるほど、心がつらいの。そんな自分が嫌なの。  
……そのくらい、兄さんの事……」  
 いつの間にか、二人の顔の距離は近くなり、妹分の握り拳もはいらない。  
「……ヒース兄さん。私じゃ、ダメですか? 私は、やっぱり幼馴染で、妹なんですか?」  
 イリーナの声は震えている。甘い吐息が、肌をくすぐる。  
涙で潤む瞳は真剣で、不退転の決意が伝わってきた。  
「――わからん。俺は、お前を……」  
「なら、今夜だけでいいです。私を、ただの女の子としてみてください」  
「俺は、おれ……ぁっ」  
 答えあぐねていると、業を煮やしたイリーナが、もう一度唇を重ねてくる。  
一度目と二度目はただ触れるだけだったが、今度は唇を強く押し付け、ゆっくりと擦り付ける。  
「ん……ふぅ」  
 空気を求めてわずかに口を開き、少しだけ荒れたヒースの唇を甘噛みした。  
舌をちろちろと這わせて、繰り返し繰り返し刺激をする。  
つっとヒースの顎にイリーナの唾液がつたった。  
 初めても二度目も三度目もイリーナに奪われて、そのことに少しでも怒りがわいてくるかと思えば  
そんなことはない。むしろ弾ける寸前の弾力と、どうにも形容できない柔らかさに心を奪われる。  
イリーナの舌が隙間に入り込んでくる頃には、ヒースからは抵抗の意思は消えていた。  
口腔内を恐る恐る探る舌から逃げることなく、イリーナの動きをそのまま受け入れる。  
妹分の身体に回ろうとする腕が空を彷徨い、結局はシーツの上に落ちた。  
 
 
 どのくらい、キスをしていたのか。  
 互いの息が上がっているのだから、たぶんそれなりの時がたっているのだろう。  
 やっとイリーナが唇を離すと、ヒースの口に収まりきれずにこぼれた唾液を吸い取った。  
そのままゆっくりと首筋へ顔を落としていく。  
「ちゅ……ん」  
「もう、やめろ」  
 息苦しいのか、力なくヒースが声をあげる。でもイリーナの動きは止まらない。  
首筋にキスを落として時折吸い上げながら、かろうじて引っかかっていたパジャマの最後のボタンを外して、  
身体からゆすり落とす。緩やかに隆起した双球が現れて、身体の動きに合わせて軽くゆれていた。  
続けてヒースのシャツの下に手を差し込む。布地の表面に小さな手の形が浮かび上がった。  
「……男の人、どこが、いいの? わかんない……」  
 ゆめうつつを彷徨っているようにぼんやりとイリーナがつぶやき、素肌に触れた手を動かし始めた。  
動きに合わせて浮かび上がる形はひどく淫猥で、なまじ見えてしまうよりも遥かに神経を突き刺してゆく。  
「う……ぁあ――イリーナ、イリーナダメだ……ダメだから……」  
 じりじりとした刺激が身体の上を這う。  
不器用で、経験もないイリーナの稚拙な指先は、それでもヒースの神経を麻痺させる。  
 
ヒースだって、経験はない。  
だからこそ、女の指で肌を弄られているという事実は、例えそれが妹分であろうともどうしようもなく  
本能を燃え盛らせる。  
「ん……」  
 シャツの下にもぐった手が抜かれ、安堵の気持ちがよぎったのもつかの間。  
「ヒース兄さん、もっと、もっと…」  
 イリーナの手が、シャツを強引に捲り上げる。背の下を無理矢理に布が滑っていく感触が痛かった。  
鎖骨の下辺りまでがむき出しになり、夜の空気が肌にふれる。  
知らず知らずの内に汗が浮き出ていた肌なのに、それは奇妙なほどに暑く感じた。  
「……んぁ、ふ……ちゅ……」  
 そしてぺたりと感じる、熱くて冷たくて柔らかいもの。それが胸板の上を舐って行く。  
「ぐ……うぐぁ――」  
 指が、興奮と刺激で固くなった胸の先端をつまみ、遠慮がちに転がした。  
すぐに舌も反対の先端の周りをゆっくりとなぞる。  
びくびくとヒースの背が跳ねて、逃れたいのかゆるく首を振っているのを胸元からイリーナが見上げる。  
大きな手はシーツを固く握り締め、不自然なしわがベッドの上に波紋をかいていた。  
(……感じて、くれてるのかな?)  
 見たことのない幼馴染の切羽詰った表情に、穏やかな満足感と申し訳なさを覚えながらも、指と舌は動く。  
互いの肌からにじみ出る汗の味はイリーナの心を高ぶらせる。  
どうしようもなく興奮していることを、妙に冷静な心が見つめていた。  
でもその思考も波に飲まれ、徐々に削られてゆく。  
 
夢中で兄貴分の身体を舐るうちに体勢が崩れてしまいそれを慌てて立て直した。  
片足が、その両足の間へと入り込む。  
「――っふっ―ぁひ!!」  
 太腿に当たる固いもの。熱いもの。うごめくもの。  
 当たると同時にヒースの口から声にならない悲鳴が漏れた。がくんと首が仰け反って、軽く震える。  
「え、これ、その……」  
 女友達同士の猥談で、知識としては頭の中にあっても、本物を見たことなんて  
――それこそ本当に小さい子供で、一緒にお風呂に入っても性別なんて気にならなかった頃以外――  
まったくない。  
上半身を滑らせていた手を下ろして、その熱いものに布越しに触れた。  
腕や足、胸板首筋とは違う熱と固さに素直に驚く。  
そして心の命ずるままに、すっと手で優しくさすった。  
「や、やめ、ろ……そこは、そこだけは――!」  
 再びヒースが声をあげ、愛撫から開放された上半身がはねる。  
布地を押し上げるソレが痛々しく見えて、片手で自分の下にある身体を押さえ込んだまま、  
解放しようとズボンを緩め始めた。  
「だから、だめ、だ!!」  
「……にいさん、兄さんの……」  
 うわ言の様につぶやきながら、必死で布地を弄り続ける。  
なかなか上手くいかなくて、手や指先が何度もモノに触れる。  
そのたびにヒースは顔を引きつらせ、時折声をあげて妹分の行動を止めようと腕をあげようとする。  
しかしイリーナの手は動き続け、止まる事はない。  
若干不器用でも、確実に段階を進めていく。  
 
 ヒースの抵抗むなしく、ついに下半身が布地の覆いから解放され、空気に強張りが触れる。  
冷たいのに熱い空気はそれだけで新たな刺激となった。  
「ア……」  
 イリーナが好奇心のままに手元に視線を送る。  
だが見たことのない男のものに純粋な恐怖が好奇心を上回って、思わず視線をそらせてしまった。  
「……」  
 それにほっとすると同時に、軽い落胆がヒースの心によぎる。  
(何だって!……おれ、いま、なんて、おもった?)  
 予想外の心の動きに気がついて、思考に戦慄が走った。  
その衝撃で、いま自分の真上で起こっている事から注意がそれる。  
(俺は、イリーナを? こんな事になって、何かを、期待してるのか?)  
 疑問がぐるぐると回り、思考は狂騒の体を帯びてくる。  
だから身体の上の妹分が最後に残っていた下着を脱いで、全裸になっているのに気がつかない。  
そして刺激を求めて猛る自身に、熱く潤む場所が押し付けられるその直前まで、  
イリーナが乗っていることすら失念していた。  
「ぁあああ!ん……あ」  
「ひはっ!!」  
 小さな叫び声が、イリーナとヒースの両方からあがる。  
イリーナは感極まって、ヒースは純粋な驚きで。  
「…いりーな、お、ま、え……」  
 わずかにイリーナの腰が動き、自らの秘所にヒースのモノをすり付ける。  
そのたびに二人の口からと息がこぼれ、空気を震わせる。  
ヒースはますますシーツを固く握り締め、必死で耐える。  
イリーナはヒースの体にしがみ付いて下半身から伝わる切ない刺激に、我を忘れていた。  
・  
・  
・  
 いつまでその状態に溺れていたのだろうか。イリーナがふと動きを止めて、体の上から起き上がる。  
やっと止まった刺激を少しだけ名残惜しくは感じながらも、それ以上に安堵の気持ちのほうが勝っていた。  
目を閉じたまま、只ひたすらに、荒い息をつく。  
 
 でもその気持ちは長くは続かない。唐突にそれまでとは違う感触が脳髄を駆け抜ける。  
先端が熱いものに包まれたことが、触覚だけでもわかった。  
「ぐ……ンン!――い、った!!」  
 引きつった声が、耳へと届く。  
とっさに下半身に目を送ると、イリーナが自分の強張りを体内へと押し入れようとしていた。  
初めてのせいで十分に潤みきっていない為なのか、それとも痛みに対する本能的な恐怖なのか、  
いまだ先端がわずかに入り込んだのみ。大きく息を吸って、覚悟を決めようとしているのがわかる。  
その姿に理性――イリーナを『妹』という枠にはめていた意識――を支える糸が切れた。  
「くそ!!」  
 そう、毒づいて、はき捨てる。  
 枠が崩れ落ち、その下に隠されていた『女』としてみている本能がむき出しになる。  
わずかな理性は残ってはいたが、激しい胎動を始めた激情がすぐにそれを振り落とすだろう。  
「ダメだ。やめてくれ!」  
 いままさに落ちようとしていたその小さな身体を抱きしめると、持ち上げる。  
食い込んでいた先端が抜け、ずくりとした痛みが走った。その衝動を、必死で耐える。  
「ぁ……なんで、何でよ。私を……やっぱり私じゃ、私じゃぁ……!」  
「違う! 違うから……違うんだ」  
「なら、何で? ダメなら、放して! 放してください!!」  
 イリーナの腕がヒースの腕を力任せに掴み、爪があっさりと皮膚へと食い込んだ。  
ぷつりとかすかな振動があり、血が流れる。  
握り締められたことによる軋みと、鋭い痛みが神経を刺激する。  
でもそれにイリーナは気がつかない。  
拒否されたと思ったことで冷静さを失って、ヒースの腕の中から逃れようと、  
涙を流して身体を捩じらせている。  
それを全力で押さえこみ、抱きしめ続けた。  
 
……自分より力の強い幼馴染を何とかとどめておけたのは、幸運の賜物だったのかもしれない。  
やがて、抵抗が徐々に弱くなる。  
激しくきしんでいたベッドの音が消える頃には、残っているのはわずかな衣擦れと、  
しゃくりあげる泣き声のみとなった。  
「……落ち着いたか?」  
「……」  
「傷を…つけるな。身体だけじゃなくて、心にまで傷を残すつもりか? お前は!!」  
 声が徐々に荒くなる。  
「……いいんだもん。のこっても、いいんだもん……」  
 まぶたを伏せ、視線を手元に落としたまま、イリーナがぽつりとこぼした。  
「大馬鹿者!!」  
「――っ!」  
 部屋の中に、ヒースの怒声が響いた。  
皮肉屋ではあるが、めったに怒らない幼馴染の激しい勢いに、思わず身をすくめ声を失う。  
「この、たわけ。そんなことになったら、俺は一生顔向けできん。俺自身にも、お前にも」  
 威勢の良かった声はすぐに小さくなり、ますます強くイリーナを抱きしめる。  
「……ねえ、私は、どうすればいいんですか? 兄さんが他の人を好きになるのを、抱くのを、  
妹分の立場で見守るしか出来ないの?」  
「――イリーナ」  
「やだよ。そんなの、いやだよぉ」  
 力なくヒースの胸を叩いて、精一杯の反抗をする。  
でもその普段の腕力とは程遠く、軽い振動しか生み出さない。  
 
「わかった」  
「え…?」  
「お前を、抱く。女として。体を、大人にしてやる。ユニコーンなんぞに、近づけなくしてやる」  
 かすれた声が、ヒースから漏れた。  
それは低くて、聞きなれた兄貴分の声とはまるで違う。  
「兄さん……」  
「いいんだろ、それで。それで、いいんだろ? それがお前の望みなんだろ?」  
 切羽詰ったその声は、確かに男のもので、低い振動が耳と心の両方に響く。  
「そうです。私は、兄さんに抱いて欲しい。たった一度だけでいいです。いいですから…」  
「言い切ったな。なら――逃げるな」  
「逃げません。絶対、逃げません」  
 まっすぐにヒースの瞳を見つめて、イリーナが断言する。  
その口調に迷いはない。  
「……そこまで言われちゃ、俺ももう止まんないな」  
「私は――私は、はじめから、止まるつもりはないです」  
 そういって、イリーナがヒースに唇を寄せる。  
ヒースは体重をかけて、そっと小さい体を押し倒し、組み敷いた。  
妹分の頭をとり、かき抱く。  
イリーナも兄貴分の首に腕を回し、引き寄せる。  
重なった唇の隙間で舌が絡まって、湿った音が互いの耳へと伝わってきた。  
それはとても卑猥で、下品で。  
……でも、どこか心地よい音だった。  
 
 今度はヒースの唇が、イリーナの体を降りてゆく。  
大きな手のひらは、鍛えられていてもどこか危うく女らしい体をすべり落ち、  
緩やかな隆起を描く胸を軽く揉み解していた。  
ヒースへの愛撫で興奮しきっていた体は、初めてとは思えないほど敏感に快感を返し、  
そのたびに甘い溜息が漏れて空気を伝う。  
「ン……ぁ、ふ」  
「柔らかいんだな……」  
鎖骨から胸のほうへ、紅い跡を残しながら、ヒースがつぶやく。  
「あたり、まえ、です…。私は、一応、女の子……っ、です…」  
「そうだった、な。妹、じゃない。女、なんだよな」  
 そこで会話は途切れ、絡み合う二人の荒い息遣いと、わずかにきしむベッドの音、  
絶え間なく続く衣擦れが部屋の中を支配した。  
兄貴分は体を探って快感を引き出し、妹分はその手と唇と舌に意識を集中して、  
より深いものを求めて体を擦り付ける。  
ヒースが張り詰めた胸の頂にふれ、歯で甘噛みすると、くっとイリーナの背が反った。  
その下へ腕を差し込み、わずかに体を持ち上げる。  
手は更に下へと進んでいく。  
わき腹や臍の周り、硬いのに柔らかいお尻や太腿を優しくなでる。  
しだいにイリーナの体が動き、無意識の内に太腿同士をゆるく擦りあわせていた。  
それに気がついて、悪戯っぽい笑い声をあげると、妹分の体が少しだけ強張る。  
それをあえて無視して、指先で柔らかい茂みを掻き分けた。  
秘められた部分へと、イリーナ自身以外には誰も触れたことのない場所へと進める。  
そこは身体のどんなところよりも熱を秘め、敏感な指先はそれを鋭敏に拾い上げる。  
独特のぬめりを持つ雫がこぼれ始めていた。  
「んぁ!……兄さん、兄さん…」  
 ぬるりと指に液体が絡みつく。  
わずかに開き始めていたスリットに食い込ませると、イリーナが肩へと強くしがみ付いてきた。  
 
背に軽く爪を立てられ、痛みが伝わるが、それに気がつかない振りをする。  
ゆっくりと指を回して重なる襞をほぐし、滑らせると湿った水音が部屋の中へと響き始めた。  
「ん、あんまり、音、立てないで……はずか、しいよう……」  
「それは、無理。……なあ、いつも、こんなになるのか?」  
 恥ずかしそうな懇願をあっさりと一言で切り捨て、変わりに浮かんできた疑問をつぶやく。  
「あ、んハ…ぁく…、ちが、違う、もん。自分だと、こんなに……よくないし、ぽーっとは、しないもん…」  
 イリーナからは途切れ途切れながらも否定の言葉が返ってくる。  
「――たぶ、ん…兄さんに、いじってもらって、いるから……だと、おもう、の」  
「……嬉しいこと、あっさりと言ってくれるな、お前は」  
 胸元へと唇を落とし、空いた手で胸を握ってわざと強調させた頂を転がす。  
下半身と胸と、その両方から来る強い衝動と刺激に、イリーナの閉じたまぶたの裏に火花が散った。  
喉を仰け反らせ、快感の中へと身を沈める。  
白い喉からデコルテにかけて、まるでナニカの証のように、紅いあざがいくつも浮かんでいた。  
 イリーナの敏感な部分を探るうちに、ヒースの指先は沈み込む部分を見つけ出す。  
その部分からあふれてくる蜜を中指全体にまとわせると、そっと内へともぐりこませていった。  
体内は、表面よりも、もっと熱い。  
「いた!! 痛い、兄さん、それ、痛い……」  
 イリーナからは、それまでとは打って変って鋭い声が上がる。  
動かそうとした指を止めて、顔を覗き込んだ。眉が寄せられ、少しだけ苦しそうな表情。  
その眉間へと音を立てて軽くキスを落とすと、そのしわがほんの少しだけ浅くなった。  
 
「おまえな、指を入れただけで痛いのなら、なおさらさっきは無茶しすぎだ」  
「だって、だって…そうでも、しないと――」  
 それを確認して、ゆるゆると指を動かし、穏やかに中を広げ始める。  
指をきつく締め上げる粘膜が、少しづつ緩み始め、徐々に動きは大きくなっていった。  
「ん、あ……そこ、もっと、もっと……」  
「……こうか?」  
 もぐりこませた指をくっと鍵型にまげて、腹で少しだけ強く擦る。  
そうすると、イリーナは戸惑ったように首を振って、その癖あからさまな嬌声をあげた。  
「ん、うん。ひあ、何か、すっごく、いいの」  
 外に残った別の指で、スリットの縁をを浅くなぞる。  
そのうちの一本が、固くなった華芯を掠めた。  
「ひう!!」  
 大きく体が跳ねる。  
半開きになった瞳は潤んで際に涙をたたえ、乾いてしまった唇を潤そうと何度も舌で舐めて、  
それらが共に甘やかな輝きを返してくる。  
そんな表情をもっと見たくて、指を好きなように、無茶苦茶に動かしてみた。  
他の指も、華芯を強くいじり、時折押しつぶす。  
そのたびに息も体も刺激で跳ね回って、どんな果物よりも甘い声でヒースの名を繰り返す。  
そしてそれがとてもかわいくて、自分の指で躍らせているという事実が、  
ヒースの劣情を更に燃え盛らせた。  
 
 求めて猛る下半身が痛い。  
でも、もっともっとはじめての刺激に戸惑い同時に溺れるイリーナを見ていたくて、  
指で性器を刺激し続け、汗が浮かんだ体を唇と舌でなぶる。  
一際跳ねたイリーナの足が、ヒースのモノに触れた。  
「うぁ!!」  
下半身から、頭頂までを一気に走りぬける痛みと刺激。  
何とか達してしまうのだけは押さえ込んだが、その代わりにイリーナをなぶる指に力が入る。  
「あ、ぁぁ―――!!」  
ぎゅうっと入れたままの指が締め付けられ、ふわりと力が抜ける。  
二人でそろって荒い息をつきながらも、ヒースの指は中をほぐすように、穏やかに動き続けた。  
「イッた、のか?」  
「う、うん……。そう、みたい。……や、ぁふ……兄さん兄さん…お願い、おねが、い」  
「でも、まだつらいんじゃあ、ないのか?」  
「いいの。兄さんを、もっと、もっと深いところで……んあ!」  
「ああもう! そんなこと言われたら…」  
 そうつぶやいて、指を抜き取る。  
「くぁ、は……!」  
 イリーナからはそれだけで声が上がるが、かまわない。  
膝裏に手を当て持ち上げる。  
両足の間に体を割り込ませ、細い腰を引き寄せた。  
妹分からの抵抗はなく、されるがままとなる。  
顔を覗き込んでみればわかったかも知れないが、その大きな瞳には歓喜が浮かび、  
口の中で繰り返し想い人の名を呼んでいた。  
しかし、衝動に飲み込まれたヒースは気がつかない。  
視界にさらされたイリーナの秘所に己自身をあてがい、彼女へ問いかけもせずに、  
ぐっと押し込んだ。  
 
 『がこっ』と言う何かがぶつかる鈍い音がひびく。  
その音にかまわずに体重をかけると、思っていたよりは簡単にイリーナの中へとモノが埋まってゆく。  
「―――っ!!」  
 体内は彼女の腕力を反映してか、きつくて痛い位だ。  
奥へと進めば進むほどその抵抗は強くなるが、ある時を境に緩やかに沈んで行く。  
男を受け入れるのは初めてがゆえに、完全に埋まりきることはないが、  
ヒースのものの大半が体の中へと埋まっていった。  
イリーナの体は衝撃のせいか軽く震え、その震えは直接モノに伝わって、  
ヒースの体と心の両方を本能の深みへと叩き落とそうとする。  
「うぁ……すご……」  
 敏感な部分の殆どを覆うその熱い粘膜に、思わず溜息にも似た言葉が漏れた。  
「い……イタ……いです……」  
 かすかに聞こえる細い声。その言葉にわれに返り、結合部に注いでいた視線を、妹分の顔に移す。  
その顔は確かに痛みで歪んでいたが、同時に頭頂部を片手で押さえ込んでいた。  
反対の手はヘッドボードに当てられ、これ以上頭が押し付けられるを、かろうじて防いでいる。  
「エーと、その……ダイジョウブか?」  
 そこでようやく、さっきの鈍い――何か固いもの同士がぶつかったような――音がした事を思い出した。  
「――どっちが、ですか〜……」  
 くらくらするのか、どうにも言葉は間延びして、目の焦点もふらふらとしている。  
「どっちも」  
「大丈夫な、わけ……ないでしょ。嬉しいのに、嬉しい、のに。何で頭まで……うぅ――」  
「……今日二度目だモンナ。痛いよな」  
 つまり体内へと押し込むと同時に、ベッドのヘッドボードに頭を痛打させてしまったというわけで。  
かなりの音がしたから、イリーナに伝わった衝撃は結構なものだろう。  
 
初めての経験とは言え、まったく気がつかなかったのが情けない。  
それだけヒース自身も一杯一杯で無我夢中だったのだが、初めてのときの負担は、  
知識の中にある限りでは女の方が重いのだから、もう少し注意を払っておくべきだった。  
「あー、すまん。ダブルで痛いところ申し訳ないが、少しだけ、動くぞ」  
「え、うん。ううっ……ったぁ…」  
 つながったまま、細い腰を支えて、ゆっくりとずり下がる。  
イリーナはもちろん、ヒースにも強烈な締め付けと快感が襲ってくるが、何とか耐えて押さえ込む。  
妹分の頭がヘッドボードから十分に距離をとったのを確認すると、覆いかぶさって、優しく抱きしめた。  
「コレで頭を打つことはもうないだろ。……悪かった」  
 先ほどぶつけたばかりの頭を軽くなでて、髪の毛をかき分けて指先でこぶが出来ていないか確認する。  
うっすらと熱を持っている気もするが、互いに熱を帯びている状態だと、ハッキリとはわからなかった。  
「……よしよし、よく耐えた。すまんな、結局は辛い思いをさせて……」  
 顔を覗き込んで、講義後にぶつけていた額に、優しくキスをする。  
イリーナが照れたようにはにかみ、上にあるヒースの顔を両手でとった。  
「そんなの……兄さんもでしょ?」  
「はい?」  
 意外と言えば意外な返答に、語尾が上がって奇妙な響きになってしまう。  
「ヒース兄さんだって、つらいでしょ? さっき、そんな顔してた」  
「……バレテマシタカ。」  
「はい、ばればれです。……少し、落ち着きました。動いて……いいですよ」  
「――確かに今のこの状態は俺様にとって生き地獄に近い。  
しかしお前が苦痛を感じてるのに、俺だけが……」  
イリーナの眉間には、いまだ軽いしわが刻まれ、額には脂汗もわずかに浮いている。  
まったく動かしていない状態でこうなのだから、これで自分が動いたら、  
かなりの痛みが彼女を襲うのは間違いない。  
 
絶対にその痛みを感じることは出来ないが、そうヒースは考える。  
「いいの。だって初めては痛い事、知ってるもん。簡単には気持ちよくなれないのだって」  
「――でも辛いだろうが…」  
「だから、いいですよ? 無理しないでください。……ねえ兄さん。  
女の子って、心も大切なんです。想いを寄せてる人に抱いてもらって……それだけでも、  
幸せなんです。まあ痛いのには変わりありませんけどね」  
 そう言い切って、痛みがある中でもにぱりと笑うその表情は、心の奥底まで照らし出す。  
 深く。深く。  
 深くなればなるほど消えていく輝きは、ごまかしの感情に覆われていた感情を、  
わずかな光にもかかわらずあぶりだした。  
「『想いを寄せてる人』か――はぁ……負け。俺様大敗退。――いくぞ?」  
 この妹分と知り合ってから初めて認識した自らの想いに、嬉しいような、  
情けないような気分になってしまう。  
そして広がる愛しさの感情。それはヒースの予想以上に暖かいものだった。  
「えと、何に負けな……ん……うく、ですか……?」  
「わからんのなら、…それでいい。今は、まだ今は考えるな」  
「ひ……あ、ふ……」  
 鈍い痛みがイリーナの体に響く。  
それをいたわっているのか、中を動くヒースの動きは緩やかだ。  
じわじわと苦痛が広がるが、同時に奥底で形容できない刺激も体へ響く。  
指での刺激よりはるかに強いそれは心を支配し、徐々に痛みを覆って行く。  
リボンから零れ落ちた淡い色の髪が、身体に落ちて、細やかな刺激をつけくわえていった。  
 
体力の割りにたくましい首に腕を巻きつけ、その顔を引き寄せて、自分からキスをする。  
本当はヒースの方からキスが欲しいが、頑なな兄貴分はまだしてくれない。  
だから、自分から舌を伸ばす。ほぼ同時にヒースも舌を伸ばし、絡めてくる。  
それにイリーナは驚きつつも、深く深く互いを求めた。  
ヒースの動きがおおきく、早くなってくる。  
揺さ振られる振動にリズムを合わせながら、背に爪を立てないように何とか力を制御しようとする。  
それで精一杯。  
ヒースの方も息苦しいのに、それをこらえて唇を離そうとはしない。  
むしろより強く押し付け、絡めて。激しい動きでイリーナを攻め続ける。  
二人とも初めての快感に必死で、指を絡めた手を握り締めて、  
どこか遠いところへ行ってしまいそうな意識を全力で食い止めていた。  
重なった唇の奥で、互いの名を呼んで、呼んで、呼んで。  
そして求めているのが、くぐもった声でもはっきりと聞こえる。  
でもそれに長くは耐え切れない。  
「ん……ぁ、いりーな、いりーな!」  
熱い衝動が、身体を走った。  
兄貴分の身体が震えて体の中へ、暖かいものが勢い良く広がっていく。  
それを認識すると、イリーナの心に穏やかな戦慄が走り、その身体も軽く震えた。  
指のときのように、激しく達してしまったわけではない。  
「にいさん………、ひーす、にぃ、さ…」  
でもそのとき以上の幸福感で視界が白くなり、大好きな兄貴分の名をつぶやきながら、  
イリーナの意識は深いところへ沈んでいった。  
 
 
 
 身体が、温かかった。良く知っている毛布の肌触りと、他に触れる何か。  
ぼんやりとまぶたを上げると、見えるのは肌色。  
状況が把握できなくて、身じろぎすると、身体に回っていた熱いものが、少しだけ緩んだ。  
「ぁ……」  
少しづつ、霞がかった思考が晴れてゆく。  
顔を上げれば見える、瞳を閉じた兄貴分の顔。  
やっと、自分が意識を飛ばしてしまっていたことに気がついた。  
恥ずかしさで、思わず顔が赤くなる。  
これ以上抱きしめられているのが何だか申し訳なくなって、  
ゆるく背で結ばれていたヒースの腕を解き、毛布の中から抜け出した。  
一歩、足を進めると、下半身からの鈍い痛みが身体に響く。  
至高神へと祈りをささげようとするが、背後から聞こえた声で、それを中断した。  
「やめておけ」  
「うん……そうだね。痛いのが、身体の、印……だもん」  
 背後でしゅりっと布をする音、ベッドのきしむ音が響く。  
「いつからだ?」  
 ハッキリとはわからないが、兄貴分が身を起こしたのだろう。  
そしてイリーナに向けられる質問。  
「何が?」  
 言葉が少なすぎて、どう答えればいいのか、よくわからない。  
だから出来る限り何時もの通り軽く返す。  
 
ぎこちなく足元に合った服を手に取ると、再び響く鈍痛。  
それを押し殺して、散らばっている二人分の服を集めはじめた。  
「俺を、異性としてみたの」  
「……んー。気が付いたら、兄さんが兄さんじゃなくなってた」  
 服を手にし、ギュッと抱きしめる。胸と腕の間で擦れる布地の感触が、切なかった。  
「そっか。気が付かなくて、悪かったな」  
「いいの。今夜だけでも、兄さんが答えてくれたから」  
 たん、と床に下りる軽い音。特に何をするでもなし、イリーナの後ろで静かに立っている。  
「……今夜だけ、か」  
「無理言って、本当にゴメンナサイ」  
「――俺は」  
「はは、寂しいけど、朝になったら、また幼馴染だね」  
 そう言ったとたん、大きな瞳の端から涙がこぼれそうになって、慌てて目を擦った。  
大きい手がイリーナの細い肩を取り、腕まで落ちる。  
「それじゃあ、イヤだ」  
 無理矢理に反転させられ、手から服が落ちた。  
バランスを崩した身体が一瞬だけ空を彷徨い、すぐに抱きとめられる。  
小さいからだが、ヒースの胸の中にすっぽりと納まっていた。  
「え?それって――んっ――」  
 兄貴分の腕に力が入り、片手が小さい頤をつかむ。  
思わず漏れた言葉が、全て音となる前に、ふっと唇がヒースの唇でふさがれた。  
「――!」  
 舌がイリーナの唇を舐り、その隙間をこじ開ける。  
中にある舌を探り出し、ちゅっと軽く吸い上げると離れた。  
 
半開きになっている唇から湿った舌がわずかにはみ出し、  
その間を互いに唾液が混じったものが伝っている。  
それがすぐに消えて途切れるのが、視界の端に映った。  
「…ふ、ぁ……、にぃさ…ん?」  
「ん――…。コレが俺の答えで、三つ目のお願いごと。反論は許さん!」  
 そう言い切った兄貴分の顔は、見たことがないくらい真剣で。思わずまじまじと見つめてしまう。  
「うそ、じゃないんだよね」  
「至高神に誓って」  
 すぐさま返ってくる一言。喜びがじわじわと浸透してくるが、身体は動かない。  
イリーナから明確な反応がない事に疑問を持ったのか、真正面にあるヒースの顔が訝しげに曇る。  
(やだ、うれし………)  
 そんな顔を見て、ふわりと笑うと、頬を両手で包み込む。  
(――ヒース兄さん、私すっごく幸せです)  
 ヒースの両手もイリーナの頬を取り、互いの顔を引き寄せて瞳を覗きこむ。  
(でもね、兄さんから証の『言葉』も欲しいな)  
 二人の唇が重なって、ヒースの手がしなやかな体の上を這い回る。  
(だから、私からは簡単に『好き』って言ってあげない!)  
 その手の動きに半ば陶然としながら、イリーナはヒースの首に手を回し、体の全てを預けた。  
 
 
※   ※   ※  
 
 
「うぃーっす」  
 ヒースのかったるそうな声が、朝の小鳩亭に響く。  
「おはよーございマース」  
 何時もよりは幾分小さめなイリーナの声も、それに続く。  
ドアにつけられた鐘が控えめに音を奏でた。  
「あら、おはよう、二人とも」  
 店内を軽やかに舞う、ウェイトレス姿のマウナ。  
「ああ、マウナさん。今日も素敵だ……っとおはよう」  
 エキューはマウナの耳にうっとりと熱い視線を送っている。  
慌てて付け加えられた挨拶が、激しくむなしい。  
「アア〜♪ 今日も喉は絶好調ですな。お早うございます。お二人とも」  
 自慢の喉の調子を試しつつ、リュートを調律していたバスが視線を送る。  
その先にはふわふわとした足取りで歩く  
イリーナと、空いた椅子に突っかかって盛大に転んだヒースの姿があった。  
「……ヒース、何やってんの。椅子、壊してないでしょうね?」  
「俺の心配は無しか! 俺の!!」  
 転んだ兄貴分にイリーナの手が差し出される。  
「当然。壊してたら修理代を請求するわ!」  
「まったく朝っぱらからけち臭い言動しやがるウェイトレスだ……」  
 その手をとったヒースが、マウナへと文句をぶつけた。  
 
「お約束だよね。とまあ、それは置いといて…。いくらヒースでも珍しいね?」  
 立ち上がってぱたぱたと服を叩き、倒れた椅子を戻すヒースに珍しくエキューがいたわりの質問を返す。  
ちらちらと心配そうな視線を送る妹分に、かるく手を振ってこきこきと体を動かした。  
「確かに、めったに転ばんからなぁ…。あーカッたる」  
「……もし怪我してたら治すつもりだったけど……この様子なら大丈夫そうね。  
あ、二人とも朝食セットでいい? 追加はある?」  
「兄さん、気をつけてくださいね。あ、マウナ、普通のセットでお願い」  
 先に席に着いたイリーナが、頭に載っていた帽子を椅子の背に引っ掛けて、隣の椅子を引く。  
「同じく」  
 その椅子に当然のように座りながら、ヒースも手にしていた杖を壁に立て掛けた。  
そんなふたりを交互に見て、バスが調整の終わったリュートを膝から下ろす。  
「お二人とも、眠そうですな」  
「確かに俺は眠いが……」  
 机に頬杖をついて、生あくびをかみ締めているヒースはともかく、イリーナは何時もの通りに見える。  
バスとヒースの二人(エキューはマウナの耳)の視線が集まった。  
瞳を開けて、確かに二人分の視線を受けているはずなのに、彼女からの反応はない。  
「――っえ?何ですか?」  
 少しの間の後、イリーナが目をぱちりと瞬いて、二人の顔に視線を返した。  
「…コレは瞳を開けたまま寝てたな…」  
「ま、少なくとも心はココにあらず、といった所かと」  
「?」  
「お待たせ〜。朝食セット二つね」  
 そんな事を言っているうちに、すぐにマウナがセットを持ってくる。  
それを受け取って、二人は無言で食事を開始した。  
 
 
 二人の間に流れるいつもとは違う様子に、この連中にしては珍しく話の弾まないまま食事が終わる。  
小休憩をもらい、自分用の賄いと食後のお茶を持って同じテーブルについたマウナも、  
卓の雰囲気に違和感をもって、どうにもすわりが悪そうだ。  
「賭けの結果はいかがでしたかな?」  
 あいまいな空気のまま流れていた時間をバスが断ち切る。エキューとマウナも気になっていたのか、  
口にこそ出さないが、視線で回答を求めていた。  
「大方予想はしてると思うが、俺の勝ち」  
 何の躊躇もなく、あっさりとヒースが答える。  
「ははは、最後の最後の問題で間違っちゃって…負けちゃいました」  
 イリーナも、負けた割には明るい声で、それを補足した。  
「そっか。あんなに頑張ってたのに残念だったね。でも最後、って事は、残りは正解だったの?」  
「ああ、そうだよ。応用問題が2問正解してて、俺様ひやひやしたぞ」  
 ヒースが苦笑しながら、イリーナの頭をくしゃくしゃと撫で回す。  
イリーナも軽く笑って、その手をキュッと掴んで押しのける。  
その仕草はいつもの通りのようで、なぜか少しだけ違っているように見えた。  
「…一昨日から夜に来なかったのは、課題をやってたからなんだ。イリーナ、お疲れ様」  
「ありがとう、エキュー。あれだけ頭使ったの初めてだったから、疲れちゃった」  
「あははは、イリーナらしいわね。ヒース、もうお願いごとって決めてあるの?」  
「ああ、もう言ってある」  
「……凶悪なこと、言ってないでしょうね」  
「断じてない」  
 ジト目でねめつけるマウナの疑問に即座に答えて、イリーナへと視線を送る。  
「……大丈夫だよ。そんなこと、なかったから。    ……私にとっては」  
 イリーナも視線を受けて、ニコニコとしながら答えた。  
ただし最後の言葉は小さくて、小鳩亭の喧騒の中に紛れて消えてしまう。  
 
「……あー、もし差し支えなければ教えて下さりませんかな?  
前にも言いました通り、無理にとは言いませんが」  
 細い目をきらりと光らせたバスが懐から帳面を取り出して、書き込む準備をする。  
言葉とは裏腹に、聞く気満々だ。エキューと マウナも身をわずかながらも乗り出す。  
 そんな仲間たちの様子に苦笑すると、ヒースが口を開いた。  
「一つ目は10日間メシ代おごり。ちなみに今日からナ。二つ目は――」  
「二つ目はね、兄さんとフレディとジェイミーとBB達に、おそろいのリボンを買うこと。  
兄さん、動物とかには優しいよね〜」  
 二つ目で言葉を濁しかけたヒースの後をついで、イリーナがあっさりとネタ晴らしをする。  
ばらされて、どうにも気恥ずかしい兄貴分は、そっぽを向いてしまった。  
「ホントね。この優しさとかを少しでも違う方向へ向ければいいのに」  
「捻くれ者だね」  
「まったくです」  
 口々に同意されてしまい、ヒースの表情はますますゆがむ。  
そんな兄貴分を見て、妹分はおかしそうに笑った。  
「兄さんは、とっても優しいですよ? 捻くれてるからわかりにくいだけ」  
 続けてさらりと爆弾発言。  
「よくそんな恥ずかしいこといえるな、おい。それは大いなる勘違いだぞ」  
 ヒースは慌てて否定し、マウナたちは凍りつく。  
「……あ、まあ確かに。ほら吹きと皮肉を除けばそうかもしれない、けど……」  
「お、幼馴染だしね。この中では誰よりも付き合いが長いんだから、  
わかってて当然といえば当然だよね……」  
 エキューとマウナは何とか言葉と考察をひねり出し、『ははは』とどこか虚ろな笑い声を上げた。  
 ひとしきり笑った後、その場が静まる。そこに再び、バスの声が続きを促した。  
「三つ目は、何ですかな?」  
 ヒースの目がすっと上を向く。  
イリーナの目も伏せられる。  
バスの瞳はわずかに開き、普段は隠れている鋭い眼光が除いていた。  
 
「……三つ目はな、……教えてやらん」  
 
 ぼそりとヒースがつぶやいた。  
どうにも視線は天井付近を揺らめいて、みんなの顔を見ようとしない。  
イリーナをよくよく見てみれば、どこか恥ずかしそうにはにかんでいる。  
ついでに二人の顔は、ほのかに赤くなっていた。  
「「……?」」  
「…!」  
 少しの間のあと、二人は顔に疑問の表情を貼り付け、もう一人は何かに気がついたように、  
一瞬だけ目を見開く。しかしそれはすぐに消え、いつもの柔和な表情に戻った  
「ねえ、イリーナ。いったいなんだったの?」  
「でも、兄さんが教えないなら、私が言う訳にはいかないでしょ?」  
「確かにそれが人としての道理だろうけど…………もしかして、そう言うこと?   
あー、ならまあいいや」  
「そうですな。教えたくないと言うのに、無理矢理に聞き出すのも野暮なものです。  
少しもったいないですが、『あーてぃすと』のする事ではありませんな」  
「…? 二人ともわかったの? わからないの、私だけ? いったい、なんなのよ〜!」  
 理解した様子の男性陣二人にたいして、何もわからないマウナが叫ぶ。  
ヒースはお茶を口に運んであさっての方向を向いているし、  
イリーナのほうはただニコニコと照れたような笑みを浮かべている。  
そんな二人の表情だけで願い事の内容を推し量るなんて、  
訳のわからないマウナでは簡単に出来はしない。  
頭を抱える勢いそのままに、ピシりと魔術師に指を突きつけた。  
「ヒース、いつかイリーナから聞き出すからね! なんで私だけ〜 」  
「は。好きにしろ」  
 そう言って、変わらない笑顔をむける神官戦士に視線を送り、にやりと笑う。  
「えーと、そのうち、ね……」  
 イリーナも、それに答えてどこか艶っぽい笑みを返す。  
二人の笑みには、今まで無かった色が含まれているが、わからない悔しさで、  
頭に血が上ってしまったマウナは気がつかない。  
イリーナの手をとり「絶対よ!」と叫び、エキューは申し訳なさそうな視線をマウナへと送っていた。  
 
 壁に立てかけていたリュートを手にとる。調律具合を確かめるように、軽く爪弾いた。  
店の中に音が響き、まだ店に残っていた、余裕のある客たちの視線が集まる。  
「いやいや、面白い話を聞かせていただきました。今はまだですが、いずれ、この勝負について、  
歌としてまとめてみることにしましょう」  
 言葉の後、そのまま歌い始める。内容はよく知られた、ありふれた祝福の歌。  
バスの声が窓から入る日の光に包まれた店の天井へ、そして窓から外へと響いていった。  
 
 
 
 
 
――――そして変わる二人の関係。  
 
    気が付きつつも、そ知らぬふりを決め込む仲間。  
    けちんぼハーフエルフにとがり耳マニアな元傭兵と派手好き歌い手。  
    どこにいるやら、悪ガキシーフにストッパーなドワーフ神官。  
   
    前向きな至高神の神官戦士に面倒見の良い大法螺魔術師。  
    それは近すぎたがゆえに互いの思いに気が付かなかった幼馴染。  
    そんなふたりのはじめての体の交わり、思いの交換。  
 
    さてさて、この二人がこれからどのような愛を育ててゆくのか。  
    仲間たちはこの二人をこれからどのようにちゃかしてゆくのか。  
    まだまだ語れることは数多くありますが、今宵はこれまで。  
    おなごり惜しくは感じますが、本日はこれにて終演とさせていただきます。――――  
 
 
 
『ギャンブリングナイト〜Another』  END  
 
 
『 〜interval〜 』  
 
 
 
 
 
ついさっきまで勉強をしていた自分の部屋にもどった。  
机の端には黒板が寄せられ、白墨も箱にしまって重ねられているのが見える。  
私は顔に文字が映ってしまったことに慌てて、馬鹿笑いを続ける兄さんをどついて  
すぐにお風呂場へいったわけだから、残った兄さんが片付けてくれたんですね。  
それについては感謝です。けど笑ったことについては許しません。  
思いっきり殴っちゃったから、たぶん回復するのに時間がかかったはず。  
そのことに気がついたのはお風呂で人心地ついた時だったから、  
その頃には何とか動けるようにはなっていたの、かな?  
お風呂に誘導する前に、開口一番謝るつもりだったのになぁ。  
でもまったく懲りていない兄さんの独り言をきいて、謝る気が失せてしまったのは、  
何時ものことと言えば何時ものこと。  
今戻ってくる前も、全力でデコピンした上に、片付けを押し付けてきちゃったし。  
兄さん、いっつもそうなんだから。  
 
そんな事を思いながら、ころんとベッドの上に転がる。  
今日兄さんが泊まることになって、お母さんが客間のシーツを干すついでに私のも干したから、  
真っ白なシーツからは、太陽の優しい匂いがする。  
 
賭けをしてから三日間。今までになく机の前にかじりついて、課題を解いて。  
何回も何回も繰り返し、わからない所は、今までやった教科書を見直して。  
答えが見つかるまで、熱中した。  
難しくても、答えが導きだされたのが嬉しくて、苦にはならない。  
計算問題は繰り返し、繰り返し検算して。  
最後の問題は二つでた検算結果に迷って……、結局書き換えない方が正解だったわけ。  
ヒース兄さんの補足でそれを知ったとき、とても悔しい思いをしたな。  
 
「はぁ……負けちゃったんだよね。くやしいなぁ〜」  
 
一人きりになって、思わず愚痴がこぼれ出る。ぽふりと枕に顔を埋めた。  
 
「でも、次の賭けだと、もう……チャンス、ないよね」  
 
自分が勝ったら、あることをお願いするつもりだった。  
それは、兄さんの口にした条件からは、大きく外れる。  
大体今回の賭けで言っても、聞いてくれるかどうか、ワカラナイ。  
それだけ大きくて、重いお願いごと。  
私を妹分としてしか扱ってくれていない兄さんは、『とんでもないことだ』と拒否する可能性も大きい。  
 
「にいさんの、ばか。何であそこまで言って、気がついてくれないのかな?  
…やっぱり私って、兄さんにとってはいつまでたっても妹なんだよね。直接言わないとダメなのかな…」  
 
ギュッと枕を抱きしめる。コレが、兄さんだったらいいのにな。あ、こんなに力入れたら骨折れるか。  
もう少し力抜いて柔らかく……。って、何考えてるんだろう、私。  
そう思うと、本当に『近くて遠い』存在だよね。兄さんは。  
 
ヒース兄さんはお母さんのお友達の息子で、時折来ると私はその後についてまわってた。  
もちろん、クリス兄さんやお父さんの後についていることの方が多かったけど、  
毎日いるわけじゃないヒース兄さんが、一緒に遊んでくれるのがすっごく楽しかった。  
だからヒース兄さんが12歳になって、賢者の学院の特待生としてファンの町に住むことになって、  
とっても嬉しかった事を覚えてる。  
今思い返せば、その頃から特別な存在として、兄さんを意識し始めたのかも知れない。  
その特別な存在が、いつから恋心に変わったのかは、良くわからない。  
 
 
 
そう――私はヒース兄さんが、ヒースクリフ・セイバーヘーゲンが好き。大好き。  
 
 
 
ほら吹きでも、皮肉っぽくても、しょっちゅうこの腕力についてからかわれても、  
かわいい女の人を見るとすぐにコナかけもーどに入っても……。  
あれ? こう列挙してみると、何だかろくでもない人みたいですね。  
えーと、頭いいし実はかっこいいし、時折優しい所とか、実は動物と子供が好きとか、  
さりげなく私を支えてくれている所とかもあるし……ああ、なんだか自信がなくなってきた。  
……でも、好きなんだよね。  
いいところも悪いところも全部、ぜーんぶ好きなんだよね。  
たぶん理屈じゃないんだ。  
だから、今の関係に満足できないんだよね。  
だから、こんなに体も、切ないんだよね。  
先の、ずっと先まで、行ってしまいたいんだよね……。  
 
「どうして、好きになっちゃったのかな。今のままだって、十分大切にしてくれてるのに…」  
 
兄さんの事を考えると、心が痛い。そして同時に、体がうずく。  
それはとっても心に甘くて、だからと言って慰めると心が痛くて、それがイヤで仕方がない。  
何時もはそれだけで終わるけれど、今日は兄さんと二人きり。  
ぐるぐるとどこまでも思考は回って、止まらなかった。  
 
どのくらいそんな状態で、ベッドの上を転がっていたのだろう。  
ふと、とあることを思いついた。  
 
「あ、でも…どうしよう、どうしよう〜」  
 
冗談だったのかもしれないけど、兄さんは、三つ目のお願い事で『抱かせろ』と、言ってくれた。  
すぐに訂正されてしまったけれど、あれは兄さん本来の性格を考えてみても、ほんの少しだけ、  
私を女の子として見てくれたからかも知れない。  
なら、私から求めてしまえば……。  
恥ずかしいけど、私から兄さんを襲ってしまえば――でも、でもそれは、やっぱりなあ……。  
一応乙女として、それはちょっとやめた方がいいのかな……。  
あーもう。――ええい、イリーナ・フォウリー、心を決めなさい!  
どうせ勝っていたら『抱いてほしい』ってお願いするつもりだったんでしょ。  
 
「拒否されたら……仕方がないです。でも、たぶん、大丈夫」  
 
だったら、今実行しても、同じ。  
しかも、今日なら何とか三つ目のお願い事にかこつけることも出来る。  
後悔するくらいだったら……兄さんが他の人を好きになる前に…今なら、まだ間に合うから。  
繰り返し、繰り返し自分を説得する。  
確かに兄さんに拒否されて、今の関係が崩れてしまうのは怖い。  
だけど、どうせ今のまま一生を過ごすことなんて有りっこないんだから、後悔するのは絶対にいや。  
それに、兄さんが私を拒否することはない…兄さんは優しいから、それは絶対にないって確信も心の片隅にある。  
それが事実なのか、私の思い込みなのかはわからないけれど、確かめてみないことには、ね。  
 
転がっていたベッドから起き上がって、パジャマのズボンに手をかけると脱いでしまう。  
ひやりとした空気が足をなでて、ふるりと軽く震えてしまった。  
ショーツの中に手をさしこむと、そこは既に軽く湿っている。  
兄さんの事を考えて、ただそれだけで、濡れてしまっていた。  
それを確認して、完全に心が決まった。  
布で手を拭うと上着のボタンを外す。胸元の一個だけを残して、全部。  
今日は私達以外誰もいないから、こんなはしたない格好でも大丈夫。  
兄さん以外に見られることはない。  
枕元においていたランプを手に取ると、ゆっくりと自分の部屋を抜け出した。  
向かう先は、ヒース兄さんが眠っているはずの、客室。  
 
 
 
 
 
 
 
そして結局、私達の関係は変わる事となる。  
 
あの時決心しなければ、いつまででも幼馴染のままだっただろう。  
すっごく恥ずかしかったけど、兄さんに迫ってみてよかったと、心から思う。  
捻くれ者の兄さんの本音を引きずり出すことが――言葉はなくても――出来たのだから。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ふと、考える。  
 
あの賭けの時、私が勝っていたら、どんな風になっていたか。  
拒否されていたのか、同じように受け入れてくれたのか。  
負けてしまった今となってはわからないし、これからわかる事もない。  
 
今と同じようになってくれていれば……いいな。  
賭けに勝った私も、兄さんと恋人同士になっていれば、いいな。  
 
 
 
閑話休題 ―― 『ギャンブリングナイト〜Another』へ  
 

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