えくすちぇんじ[らぶ] 〜べつのおはなし〜  
 
 
どこまで、続く?  
どうして、こうなる。  
ありえない光景の、とある1コマ。  
 
 
「さて、改めて【解呪】するぞ」  
「兄さん」  
「わかってる。早々失敗しないって」  
「…信じてますからね」  
「しつこい」  
「色々前例がありますから」  
「…いくぞ」  
 
 
…さて、これで元に戻れます。やっと家に帰れます。  
結局昨日から今日にかけて、ヒース兄さんに振り回されました。  
『アンジェラ』なんて偽名使ってまでみんなを騙すなんて、ねえ。  
しかも夜にはあんなことまで……。  
うう、我に返って見れば、沈み込みたくなるくらいにはづかしい…。  
 
 
…うあー、最後の一仕事っと。正直めんどくせ。  
精神面は寝たせいで充実しとるが、体が痛い。  
初めてはこんだけ辛かったんだな。イリーナが呪文唱えようとしたのも納得だ。  
まあ、しょうがないか。ある意味自業自得だ。  
もう二度と女になる事なんてないだろし、とっとと解除するか。  
 
 
 
 
『うらえくすちぇんじ』  
 
 
 
 
「で、何かいうことはありますか?」  
「アリマセン」  
「昨日も似たやりとり、しましたよね…」  
「したな」  
「マウナたちが予備を用意してくれたからいいものの、どうしてなんですか!」  
「オレサマだって信じられんわ!」  
「何でこの期に及んで失敗するんですか〜!!!!」  
「だから知らん!【眠りの雲いしつじゅもん】以外でこんだけ調子が悪いのは、  
俺様だって初めてだ!」  
「……お願いですからそれと合せて、もう一回導師に教わって来てください」  
「…なんでなんだろうな、マジで」  
「あ、珍しく否定しない。覚え間違いでもしてるんじゃないですか?」  
「……えーっと、これだけ失敗が続くと、こうな、基本部分を一ガメル硬貨分ぐらい間違え  
てるんじゃないかなーっておもう、かも」  
「軽すぎです。たぶん一寸した金属塊分ぐらいは間違えてると思いますよ。……て言うか、  
その例え、判りにくいです。ちょっと違うと思います」  
「お前の弱めな頭でも理解し、解釈し、更に突込みまで出来たんだから問題はナシ」  
 
「兄さん……」  
「イリーナ拳を握り締めるな手を振るわすな腕を上げるな!!」  
「反省してください!!」  
「うごぁ!!」  
「そこですかさず【キュアー・ウーンズ】」  
「うー……痛い。痛かったぞ!」  
「何度でもしましょうか?結構な回数出来ますよ?私もそれなりですから」  
「…ゴメンナサイ。ヤメテクダサイ。もうイッカイショホジュモンをはーふぇんどうしのモト  
でイチからフクシュウシナオシマスので、ハイ」  
「ならいいです。はあ、それにしても今回は疲れました」  
「何にだ?」  
「全部。精神的に。事の発端はともかくとします。けどその後でこんな初歩的な呪文で失  
 敗する……のはまあ、ものすごく腕がたつ人でもまれにあるらしいけど、よりにもよって  
 範囲を勘違いするとは思いませんでしたからね」  
「いりーなサン、声が棒読みです。…そういやオレサマ、範囲間違えたこと、あるじゃん」  
「…ふふふふふ、例のさんだーうえぽん、ですか。結局二回も食らうとは思いませんでし  
 たよ…ふふふふふ」  
「笑いが怖いからやめろ。一回目はともかく二回目は仕方ないだろが。バスのヤツに文句  
 を言ってくれ」  
 
「ああ兄さん。何で及び腰になったうえに逃げかけてるんですか。私は怒っていませんよ、  
 怒っては。特に二回目は、私が邪悪に堕ちるのを開放してくれた訳ですから、ええそれ  
 はもう感謝してますからね」  
「じゃあ、その手の中に握りこまれてる岩は何だ、その俺様含めたいっぱんぴーぽーには  
 絶対片手でそんな軽がると持って扱えない岩は。そんなんでドツかれたらオレサマ余裕  
 で死ねるからヤメイ!」  
「あら、ばれました?」  
「だからさらっと言うなー!!!」  
「冗談に決まってるじゃないですか、ねえ。……さ、もう帰りましょう?あんまり兄さんを  
 どついてうさばらししても、マウナや小鳩亭の皆さんに迷惑だし」  
「……」  
「にいさん、にいさーん。ひ〜すにいさ〜ん?」  
「……こんの、くそガキャー!」  
「うにゃ!やだ、ヤダ〜。ほっぺたー!」  
「うらうら!!むかつくリズムで呼びやがって〜!」  
「ひうー、指突っ込まないで〜、のばはなひでぇ〜ふきゃ!」  
「おらおら!冗談とは思えないことを平然と言ってンのはこのくちか、この口だな〜!!」  
「ひや〜、いはい、いあひの〜!……はれ?」  
 
「……どした?」  
「……にーさんの、ゆびが…なふれも、なひ、で、ふ…んぁ」  
「――舌が、指に…ほほう、そういうことか」  
「……ヒース兄ひゃん、なひか、たふらんでる……」  
「オレサマは嬉しいぞ。兄貴分ではなく、男として嬉しいから、この辺で外しちゃる」  
「あー、痛かったです…」  
「そらそうだ。ふふふ……イリーナがなあ…くくくくく」  
「……兄さんの笑い声、邪悪です…」  
「そうとなれば、帰る…イヤ、俺の部屋、いくか。ウン」  
「え、ええ、なんで〜!!」  
「だって今の時間なら回りのヤツ、必修授業で大半はいないし」  
「兄さんはどうなんですかー!」  
「俺はもう単位取った。いやー優秀なオレサマ。さーて行くぞ〜!」  
「あう、あぅ〜、イヤなのかどうなのかわからない〜。なんでこうなるのー!」  
 
 
・  
・  
・  
結局ヒースの部屋に引きずりこまれて、今は取り合えずベッドの上。服は着たままブーツ  
を脱いであがりこんでいる。なにやら準備していた兄貴分が手にカップを持って、教本と  
羊皮紙その他もろもろが散らばっている机の椅子に座った。  
片手をイリーナへ差し出す。  
「……ほれ」  
「ありがとう」  
手渡されたマグカップからは、お茶のいい匂い。  
濃い琥珀色の液体がカップを満たしている。  
それを一口飲んで、ふう、と二人そろって息を吐き出した。  
「…甘い」  
イリーナがそう言って、唇をぺろりと舐める。  
「ああ、お前のには砂糖入れた。貰い物なんだが、慣れんとちと苦いから」  
視線だけでそんな妹分を見て、兄貴分が甘味の理由を告げた。  
「ふーん。兄さんのは入ってないの?」  
「ん。飲んでみるか?」  
そう言って口を離して、イリーナへと差し出す。それを無言で受け取って、口をつけた。  
少しだけ喉へ注ぎ込んで、舌奥に広がった渋味と苦味に、思わず顔をしかめる。  
「な」  
なまじ先ほどまでの甘い心地よさが、口の中に残っていたからたまらない。  
 
『でも、もう一口』と思って、再びお茶を飲み込む。  
「癖があるから、お子様なお前にはまだ早いぞ」  
少し慣れたのか、まだまし。だけど、全部飲んでしまうには厳しいので、カップを放して  
ヒースの手の中へと返した。自分の分のカップに再び口をつけて、口直しとばかりに甘み  
のついたお茶を一気飲みする。飲み終わると、ぷわっ、と勢いよく息をついた。  
「ぅう…慣れたらたぶんおいしいと思うんだけど、今は無理」  
「だろ?俺も一回目はすぐに砂糖を入れちまった。二回目からは大丈夫だったけどな」  
そういって、ヒースもマグカップを傾けて、一気に飲み干してしまう。  
喉が動いてお茶を飲み下してゆくのを、その苦さを思い返して、思わず尊敬のまなざしで  
見つめてしまった。  
(ん?よく考えたら、間接キスになるよな。…まあ、今更だな。ちっこい頃からだし)  
そう思ってヒースが、首を傾ける。  
(あら、これって、間接キス…ですか?今更だけど、照れますね。無邪気な頃が懐かしい)  
そう思い立って、イリーナが首を傾ける。  
視線が、交わった。  
「何「何ですか」だよ」  
声が重なる。  
ヒースは視線を妹分が持つカップに落とし、イリーナの頬は、ポっと赤くなった。  
 
兄貴分の大きな手が、イリーナのカップを乱暴に奪い取る。  
「へへ……。兄さん。私と同じこと、考えてました?」  
「……好きに思ってろ!!」  
たぶんそれは照れ隠し。そんな事、互いにわかりきっている。  
「――さて、と」  
首を一つ振り、そうつぶやいた。  
ヒースが二人分のカップを机に置いて椅子から立ち上がり、部屋の鍵が掛かっている事を  
確認する。部屋奥の窓のそばに設置されているベッドに座ってブーツを脱ぎ始めた。  
「……やっぱり、するの?」  
「当然。そのために来たんだろ?」  
素足になると、イリーナの隣に胡坐をかいて座り込む。  
「ひーすにいさんが私を引きずってきたんじゃないですか…」  
「抵抗しなかったし」  
「……」  
イリーナから返答無し。  
ヒースは窓のカーテンに手をかけて閉める。  
部屋を照らすのは、カーテンから漏れる真昼の日の光と、淡いランプの明かり。  
「言っとくが、もうちっとでも抵抗の力が強かったら、さすがに諦めてたんだがな。こう、  
 力加減がいわゆる『嫌よ嫌よも…』てな感じだったし」  
「うう……」  
妹分の顔は先ほどよりも赤い。ようやっと漏れてきたのは呻き声。  
兄貴分は自分の服に手をかける。  
 
「大体本気でダメなら、ここまで上がりこんでこないだろ。お前さんの性格から考えても」  
「うぅ〜」  
年下の幼馴染から更に漏れる呻き声。その頭から蒸気が出掛かっているようにもみえる。  
年上の幼馴染は上のシャツと肌着を一緒くたに脱いで、椅子の上へと放り投げた。  
「ほい、反論は?」  
「……アリマセン。反論、出来ません。ほんのちょっとだけ、期待してました……」  
がくりと肩を落とし、シーツを握り締める。あきらめたように頭を振ると膝立ちになって、  
自分の服に手をかけた。  
「素直でよろしい」  
服をすべて脱いでしまったヒースが、スカートの中へと手を伸ばす。イリーナが上着を脱  
いでいる間に下着を探り当て、器用にするりと下ろし、抜き取ってしまった。  
「兄さん、早い。情緒もなにも無いじゃない……」  
「んー。だいぶ慣れたからな。それに汚れるだろ。下着無しで帰りたいか?」  
「イヤです。ぜったい――ン…」  
拒否の言葉を紡ぐ妹分が、下半身のホックを外す前に、その顔を取って、唇を重ねる。  
よくなれた柔らかい感触に胸を高鳴らせながら、震えてきた指でスカートを、すとん、と  
落とした。真っ白なシーツの上に、さながら華のようにミニスカートがふわりと広がるが、  
その頃にはイリーナも眼を閉じていたので、その光景を見ることは無かった。  
 
ついばむように緩やかに互いの唇を刺激し、舌でちゅるちゅると音を立てて舐める。みず  
みずしい果実のようなそこは、ヒースにとってはとても甘い。  
(ん――、さっきの砂糖か…)  
そして、イリーナにとっては少し苦い。  
(むぅ……お茶のせいですね〜)  
 
いつもに比べればイリーナの動きが鈍いことに、少しの疑問を抱きながらも、ヒースはそ  
の甘さを求めて、その中へと舌を差し込んだ。きれいにそろった歯を舐め、唇の裏を刺激  
する。すぐにかみ締められていた歯がゆるみ、消極的ながらも舌を受け入れた。  
口腔内を探り、そのすべてを蹂躙する。先ほど飲んだお茶の香りとイリーナ自身の匂いと  
砂糖の甘さが交じり合って、いつも以上にその中を探ってゆくのが楽しい。だから、妹分  
が眉根をわずかに寄せて、何かを耐えるような表情になっていることにはまったく気がつ  
かない。とりあえずヒース自身が満足するまでその甘さを堪能すると、ようやくイリーナ  
の舌を絡め、吸い上げた。  
そこでやっと、イリーナの表情がいつものものに戻る。やっぱりこれにも気がつかない。  
ただ、舌を絡めたとたん積極的になってきた幼馴染に若干困惑するだけだ。  
(?まあ、いいか)  
そう思って、唇を重ねたまま体を動かし、イリーナの背後に回ろうとする。さすがに無理  
な動きになるので、移動する途中で唇が湿った音を立てて離れた。互いの唾液が混じった  
ものが間を伝い、体へと落ちる。  
「ぷはっ……少し、くるし…」  
「何やってんだよ」  
背後に回り、イリーナの体を少しだけ持ち上げて、膝立ちの体勢を整えた。勝手に自分の  
体を動かす幼馴染に抵抗はせず、息が乱れて苦しいせいか、口を大きく開けて深呼吸して  
ヒースへと応じる。  
「兄さんには、わかんないよ」  
「はぁ?」  
頬をぷうっ、と膨らませて、イリーナが背後の兄貴分に非難の視線を送った。  
 
「?」  
何が言いたいのかさっぱりわからないまま、目の前の小柄な体を抱きしめて、胸へと手を  
伸ばす。初めて触れた時より固さが消えて、ぽよぽよと柔らかくなった胸を掬い上げた。  
「あ、ハァ……ン…ふ――」  
イリーナから押し殺した声が漏れる。  
いつもに比べれば小さなその声量は、一応ここが学院寮であることを思い出したからかも  
しれない。いつもだったらそれをネタに、散々からかいつくし、大きい嬌声をあげさせようと  
徹底して攻めてみるが、さすがにヒースとしても、後々のことを考えると、それは出来ない  
相談だ。まあ、たとえ小さい声だとしても、自分だけに聞こえて堪能できればいい、そう思考  
を切り替えた。  
 
視線を下げた。  
ヒースの指が、自分のなだらかな胸を自在に操っている。仲間のマウナに比べたら小さい  
この胸に、何気なくコンプレックスを持っていたが、最近は気にならなくなっていた。  
たぶん、皮肉屋なはずの兄貴分が特に何も言わずに、大切に扱ってくれているからだろう。  
自分の両胸に食い込む恋人の指のタッチは優しい。緩やかに揉みほぐし、自分でもわかる  
程張り詰めてきた頂をこりこりと刺激して。その度に慣れたけれどもいまだ落ち着かない  
快感が体を回ってゆく。  
それをもっと感じ取りたくて、きつく瞳を閉じて、体をまさぐるその腕に身をゆだねた。  
「ア……や――」  
視界がヤミになると、触覚が鋭くなる。触れた肌の熱さを強く感じた。  
 
ふくらみから離れたヒースの手が、体を伝って下半身へ動く。それを漏れる声では否定し  
ながらも、心の中ではそれを求めてからだが熱くうずく。いつもだったら、ここで肝心な  
ところを外して、太腿や他のところへ行ってしまうヒースの指。でも今日はすぐに先ほど  
からのキスだけで自分でもわかるくらいに濡れてしまっていた場所へと、素直に進んだ 。  
「――っあ!―――ふっ!!」  
(ここは寮。ここは寮だから、ダメ。声出しちゃ、ダメ!)  
そう強く思いながら、自分の指をくわえ込んで、必死に声を抑える。  
「ふう…ん……。今日、すごいな」  
繊細に動き花芯をなでる指先を、毛をかき分け奥へと進んで中を刺激する指先を、きつく  
目を閉じたまま強く感じる。  
いつの間にか、口にくわえ込んでいた自らの指先が、ヒースの指と同期するように、動き  
始めていた。熱くぬめった口の中を、兄貴分に比べれば少しばかり不器用な指先で激しく  
かき回す。そんな指を口内全体を使って強く吸い上げ、舌で繊細に舐めあげた。  
下からの刺激が強くなれば、上も強く。弱くなれば、上も弱く。  
指先の繊細な感覚はそれを拾い上げ、ますます思考はほうけて行く。  
自らで自らの上を犯し、下は想い人に犯される。  
だから、目の前にあるものに気がつかない。気がつく訳、無かった。  
 
イリーナの体を持ち上げたまま、胸と秘所を指で刺激する。ヒースとしても指先を伝って  
シーツや自分の足の上に零れ落ちる蜜の熱さに、自身のモノは張り詰めて、痛いぐらいだ。  
「……」  
中に深く入れたままの指を浅いところまで戻して、ぐっと左右に割り開くと、湿った音が  
二人の耳へとかすかに届く。自分の腰とイリーナの体の重心を腕で無理やり移動させて、  
怒張を食い込ませた。  
 
「……ひっ!」  
不意に感じた熱いものに、イリーナの体がびくりと跳ねる。ヒースがそのまま体を支えて  
いた腕の力を抜いていく。指で与えられていた快感で足の力が抜けていたイリーナの体は、  
ずるずると下がってヒースのものを簡単に、貪欲に飲み込んでいった。  
「にぃひゃん……ひいさん…ひーしゅ、にいは、ん――」  
中へと遠慮無しに食い込み、深い所をつく刺激に、イリーナが指を咥え込んだまま、繰り  
返し繰り返し夢見心地で幼馴染の名をつぶやく。  
大きい声ではないのに、不明瞭なその音は、思考と体の両方に響いた。  
熱いその中にくらくらとする思考を無理やり押さえ、ヒースが視線を上げる。目の前に見  
えるのは身支度用に、寮の備品としておいてある細い姿見。つながる自分とイリーナ  
の姿がその中にある。しかし、今は横向きにしか映っていない。  
「……よし」  
少しの間逡巡すると、イリーナの体を膝の上に抱え込んだまま、真正面に移る方向へと向  
き直る。イリーナの膝裏に手を当て、ぐっと持ち上げて大きく開かせた。  
「イリーナ、目、開けてみ?」  
「…んぁ?」  
ヒースの声に導かれ、ゆっくりとまぶたをあげたイリーナが、視界の中に肌色の、何かを  
捕らえる。  
それは刺激のせいでゆれていて、すぐにはわからない。  
それでも徐々に思考の中にしみこんでいった。  
目の前にある鏡。目の前にいるのは自分と兄さん。  
そして自分はとろけた瞳で鏡の中の自分を見つめている。  
その表情は見たことの無いもの。快楽を求めて、熱く上気した、女のもの。  
信じられなくて、心が拒否しようとするが『コレハゲンジツ。コレガシンジツナノヨ』と  
奥底で囁く自分の声が聞こえた気がした。  
 
「ア……ぅぁあ……っ――」  
少し口を動かすと映った自分も口を動かす。指を咥えた唇の隙間から唾液がこぼれる。  
身を動かして快感が走ると、同じように反応した。  
視界が、色鮮やかに広がっていく。  
カーテンから漏れる真昼の光が、体の上をまだらに照らし、上気した二人の肌を映し出す。  
ヒースの優しい口付けが、自分の首筋に落ちている。湿った音が聞こえると、唇が離れた  
ところが紅く浮かぶ。  
回っている兄貴分の頑丈な腕。それは胸に食い込み、ピンクの頂を強調している。  
そして下半身は重なり、見ているだけで熱く脈打っているのがわかる『ナニカ』を介して  
つながっている。  
下半身に伸びているヒースの手がその根元で動き、染まった部分をもてあそぶ。  
その度に強い快感が体を伝ってきていた。  
思考が踊る。興奮と歓喜で跳ねる。同時に浮かび上がる耐え難い羞恥。  
相反する感情に掻き回される。  
「ほら、見てみ?お前が、俺のを咥え込んでるのが、はっきり見える」  
興奮した低い声が、目の前の事実を補強し、逃げ場をふさぐ。  
それが完全に浸透すると、一気に羞恥心と快楽中枢を刺激して興奮と歓喜を覆い尽くした。  
「……――――ぁっ!や、ヤダ!ヤダヤダ!やめて!イヤぁー!」  
口に入れたままだった指を離し、叫び声をあげる。ここが寮だということは、それよりも  
強烈な現実に吹き飛んでしまっていた。  
 
その声の大きさに慌てたヒースが、片手を持ち上げていた膝から外して、その口をふさぐ。  
「むー!――んん、ん――!!」  
「悪い!悪かった。俺様が悪かった!やめるから、声、抑えてくれ。頼む!!」  
一寸した好奇心から起こったことに慌ててしまい、体を動かしてイリーナの中から自身を  
抜き取る。勢いと他に場所が出てこなかったとは言え、寮室で幼馴染を抱いているなんて  
知られたら、特待生仲間になんて言われた上にどこまで尾鰭がつくかわからない。普段の  
自分が自分なだけに、自業自得ではあるが、はっきり言ってそれはそれは恐ろしい。  
押さえつけたままの口から、叫びとは別の声が上がり、しゃくりあげる音が手に響いた。  
強張ったその体を自分の胸の中に抱き込み、そっと口を覆っていた手を離す。  
手はイリーナの唇の端からこぼれた唾液で濡れていた。声は既に収まっている。  
ふっと胸の中の体から、力が抜けた。イリーナの両手がヒースの首に伸びる。  
(アー…ヤパッリオコッテルカナー。ソウダヨナー。オレサマアシタイキテルカー?)  
そんな思いがヒースの心に周り、イヤな汗が染み出してくる。しかしその手は首を通り越  
して、その後ろで組まれた。  
(え、あ……?――!!)  
 
イリーナが自ら体を持ち上げ、蜜で艶を帯びているヒースの剛直を沈めていく。ヒースの  
ほうは、自分の視線の真下で起こっている出来事が上手く把握できなくて、ただ呆然と、  
その光景を見つめた。  
「いりーな、さん?」  
キュッと抱きついてくるイリーナを反射的に抱きしめ返し、ヒースがぽつりとつぶやく。  
きつい刺激が襲ってきているのに、それがどこかへ吹き飛んでしまっていた。  
「大きな、声、ごめん、なさい…。あのね、……さっきのより、こっちがいいの。兄さん  
 の顔が、ちかくて、キスができる―――これが、すきなの……。」  
「あ、ああ。そうデス、カ――」  
寄り添った体の間でつぶれるふくらみが柔らかく、剛直を覆う体内は熱い。  
「さっきのは、よかったけど、恥ずかしいの――。私は、こっちが……嬉しいの……。  
 きもち、いいの――しあわせ、なの。にいさんは…しあわせ?」  
ふわふわとした甘く小さい声で、イリーナがつぶやいた。そのまま唇を兄貴分の首筋へと  
落とし、チュッと吸い上げ、赤く残った跡に熱い舌を這わす。軽く腰を動かして、陶然とした  
表情で吐息を漏らし、恋人の淡い色の髪を揺らした。  
 
栗色の髪が頬を擦り、背筋を駆ける快感に、やっとヒースの思考が動き始めた。  
包み込まれるような愛しさと強烈な衝動。  
あまりにも自分を頼りきり、無条件に信頼している妹分に、嗜虐心がわずかに浮上した。  
 
「…ああ、『しあわせ』だ。…でもそんな事言われると、無性に―――いじめたくなるな」  
そう言い捨てて、体の間に腕を差し込むと、つぶれた胸を乱暴に揉む。イリーナのあごを  
取り、無理矢理開かせると、そこにすかさず唇を重ねた。舌をすぐに入れてぐちゃぐちゃ  
に掻き回す。収まりきれなかった互いの唾液が、重ねた口の隙間から伝った。  
イリーナからの抵抗は無い。急に強くなった愛撫に素直に答え、走る狂おしさを全身で受け  
止めているのがわかる。そんな妹分に、衝動は強くなっていった。  
鼻で呼吸することを忘れ、息が空気を求めて上がっていく。それにぎりぎりまで耐えてか  
ら、唇をやっと外した。べたべたになった口の周りを手で拭い取る。イリーナの口の周り  
に舌を這わして、舐め取った。  
苦しそうな呼吸で息を継ぎ、それでも固く自分に抱きついているその体を、引き剥がす。  
ぐっと力をこめ、シーツへとその肩を押し付けて、さらに攻め始めた。  
「や、だめぇ………ギュッと、してぇ……。いじわる、しないでぇ…」  
引き剥がされた手が、幼馴染を求めてさまよい、ぼろぼろと涙がこぼれる。  
悲しそうな表情の中に、紛れもない快感が浮かんでいる  
「なあ、こんなこと、シテ、お前をいじめる、俺が…イヤか?…怖いか?」  
ヒースは彷徨う妹分の腕を取り、自分に抱きつかないように、頭の上へ二本まとめて固定  
した。腕から力が抜けているイリーナは抵抗しない。  
 
「あ、やぁ、そんな事、ない……そんな事、いわないでぇ……」  
「なら、なんだ?」  
首をふって、涙をこぼし、小さく言葉を続ける。  
「ひっ、…だめなの、消えちゃいそう、な、の。いくのが、怖いの。だからぎゅっと、して、  
 ほしいの。手がかりが、ないまま、一人でいくのは、嫌なの……」  
そんな様子のイリーナを見て、もっといじめてみたくなる。  
「……ならいっちゃえよ。俺がいかせてやるから!だきしめて無くても、俺で、イカセテ、  
 やるから!!……俺は、ここに、いるんだからな!!!」  
そう耳元で低く鋭く言うと、腰を強く動かした。  
「うあ!に、いさ、ん。いいの、キモチ……ヨスギ、な、の――や、な……」  
そう途切れ途切れに、苦しそうにイリーナがつぶやくと、剛直を覆っている襞が、きつく  
締め上げ始める。  
「…ヤバ!」  
思ったより早く来たそのきつさに、気をどこかやりそうになって、慌てて中から引き抜こ  
うとした。  
「やあ、やだぁ……」  
逃すまいと絡んでくるイリーナを振り切ると同時に、ヒースの背にも鋭い快感が走る。  
「ウァ!――は、ぁ」  
きつく閉じてしまった眼を開けたときには、幼馴染の下腹部に白いものが広がっていた。  
快感の余韻をじっとその場で待ち、ようやく体が落ち着いたのを、軽く肩を動かして確認  
する。虚脱感のせいで力が入らない体を叱咤してのろのろと起き上がり、手を伸ばして  
近くにかけておいたタオルを取った。  
 
快感の残滓から冷めないイリーナの下腹部を優しくふき取る。  
「ン……ぁ、ありが、とう……。でも、嫌だよ…さびしいよ……」  
「いいから、無理するな。後で抱きしめてやるから…少し待て」  
夢見心地のまま反応し、起き上がろうとするイリーナを押しとどめて、いまだヒクツいて  
いる秘裂を、刺激を加えないように注意しながら、そっとなでた。  
(昨日言われたことがあるとは言え、ちときつかったかな…)  
「う、んん……」  
軽く声が漏れるが、先ほどまでとは違う色を映している。それにほっとしながら、最後に  
自分のほうの処理をした。タオルを椅子に引っ掛けると、かけた言葉の通りにその小柄な  
体を抱きしめて、小さい頃にしたように優しいリズムで頭を叩く。  
ぼんやりとしたイリーナが視線を動かして、兄貴分の顔を見る。  
かすかに笑うと、手を伸ばして、ヒースの首筋に頬を擦りつけた。  
その表情は満足げで、すごく幸せそうだった。  
・  
・  
・  
 
 
再びカップを満たす、先ほどのお茶。  
「今度は入っていないぞ。いいんだな」  
「ええ。では……イリーナ、いきます!」  
そう言って、お茶を口にする。  
「おい、茶ごときに気合入れすぎ」  
ヒースの茶化しなんて気にしない。  
口の中に広がる苦味と渋み。それはあいも変わらず。  
「ん……?」  
もう一口。今度はさほど感じない。  
むしろ、その味と鼻を抜けていく心地よい香りに、癖になりそうなものを覚えた。  
「あ、大丈夫みたい」  
「そうか。結構早かったな。正直もう少しかかるかと思ってた」  
「……たぶんさっきのキスの味で、慣れたのかな?」  
「あー。オレサマは甘かったが、お前さんは苦かったか」  
「ええ。言いませんでしたけど、すっごく苦かったです。兄さんずるい」  
そう言って、カップをテーブルに置く。  
ヒースの頭を引き寄せて、チュッと唇にキスをし、かすかに開いていた唇の隙間から  
舌を差し入れる。兄貴分の舌を探り当て、自分の口内に入ってくるように軽く吸うと、  
すぐに開放した。  
今度はヒースの顔が不意打ちできた苦味で引きつる。  
「うあ、確かに苦いな。エーと、悪かったです」  
「でしょ?」  
晴れやかに笑うイリーナとは対照的な、ヒースの顔。  
 
 
 
……結局はこういう展開になるんですね。昨日今日連続はさすがに辛いです。  
でも、最近すごく気持ちがイイんです、よね……。  
だからこう、恥ずかしいけど、することに関しては特に、ねえ。  
ヒース兄さんの事は大好きだけど、あの尊大な態度、やっぱり何とかして欲しい。  
お母さんは気がついてるみたいだけど、お父さんがなあ。  
 
 
……あーあ、慣れてなかったせいで疲れてるのに、勢いでイリーナを抱いちまった。  
イヤ、あいつのことは好きだし、そのことについてはいいんだけど…。  
正直これだけのめり込んじまうとは思わなかった。  
となるとまっずいな〜。このままの関係、やっぱりまずいよな〜。  
クリスさんはいないから後回しにするとして、親父さんが最大の難関、だな。  
 
 
 
「ねえ、兄さん。お茶まだあるの?」  
「ん。まだ結構残ってるぞ」  
「また飲みに来てもいい?」  
「いいぞ。……覚悟は、してる?」  
「してる。と言うか、それもセットで」  
「あー。そうか」  
「うん。そう」  
「今度は、俺も砂糖入りだな」  
「兄さんもお子様の仲間入りですね」  
「…うるせ!」  
 
 
戻ってきた日常の、とある1コマ。  
いつもの、じゃれあい。  
いつまで、続く?  
 
 
 
えんど  
 

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