室内には、重苦しいどんよりとした空気が漂っていた。  
 ベッドに腰掛けたジークとクロノアは、互いに何も話そうとはせず、ただ床を見つめて苦悩の表情を浮かべている。  
 ポイントは、104。  
 念のため、一日様子を見てみようという結論に達し、疲労もあってその場はすぐに寝入ったものの、  
 目が覚めてからは日が昇ってから落ちるまでずっとモニターを注視していたが、文字列が変化することは一切無かった。  
 
 閉じ込められてから今日でもう、6日目が終わろうとしている。  
 大体一週間だ。  
 箱の外では、大騒ぎになっているかもしれない。  
 
 何故、こんな事態になってしまったのだろう。  
 箱を持ち帰った自分が悪いのか、鑑定に失敗したクロノアが悪いのか、箱の製作者を非難するべきなのか。  
 ただ絶望感だけが世界を支配し、思考が上手く纏まらない。  
 
「――――ふ、ふふふ」  
「クロノアさん?」  
 
 と。  
 意気消沈していたクロノアが唐突に不敵な笑い声を上げ始めたので、ジークは驚いて顔を横に向ける。  
 そこには視線を足元に向けたまま、  
 
「ええ――そういうことなら、やってやろうじゃない」  
 
 目を血走らせ、唇の端を三日月状に曲げて不気味な表情を浮かべるクロノアがいた。  
 突然の変化に戸惑うジークの肩を、野生の獣もかくやといった素早さでがっちりと掴んだクロノアは、  
 
「やるわよ、ジークくん」  
「な、何を?」  
「ポイントが足りないっていうのなら、足りるまで稼いでやろうじゃない!」  
 
 そう、高らかに宣言する。  
 唖然とするジークにぐいっと吐息がかかるほどまでに顔を近づけると、  
 
「私たち、ヌルかったのよ」  
「ヌルい……?」  
「理想的夫婦生活への改善計画なのに、指示をしてエッチなことを細々と決めるなんて、そんなの違うのよ!」  
 
 と、力説する。  
 先程までこの世の終わりのような顔をしていた彼女の変貌っぷりに目を白黒させつつ、ジークはとりあえず続きを促す。  
 
「えーと、つまりどういうことだ?」  
「簡単な話だわ。理想的夫婦じゃないから出られないんだとしたら――――『本当に理想的夫婦になってしまえばいい』」  
「――は?」  
 
 ポカンと口を開けて呆気に取られた表情を浮かべるジーク。  
 クロノアは肩を掴んだままの腕に痛いほどの力を込め、決意した――というよりヤケになったような顔で言った。  
 
「私と結婚しましょう、ジークくん!」  
「いやいやいやいや!!?」  
 
 慌てて、ぶんぶんと首を横に振るジーク。  
 
「クロノアさん、もう結婚してるだろ!?」  
「でも、理想的夫婦にならなくちゃ出られないじゃない! 私たちには、まだ夫婦度が足りないのよ!」  
「いや、だからって本当に夫婦になる必要は」  
「偽物の夫婦ごっこじゃ、上がらないポイントもあるかもしれないじゃない」  
「た、確かにそうかもしれないが……」  
 
 クロノアの勢いに気圧されたように、ジークは言葉に詰まる。  
 実際、とんでもない発言とはいえ、その内容は理にかなっているような気がした。  
 ……単に、飲まれているだけのような気もするが。  
 
「ジークくんは、ここで一生を過ごしたい?」  
「それは…………嫌だ」  
「私だって嫌よ。だから、出来ることは何でもやる。ポイントがどのくらい必要かは分からないけど、  
 理想的夫婦に近づけばポイントが上昇するのは今までの経験から確実のはず」  
 
 だから、とクロノアはじっとジークの目を見つめ、  
 
「私はこの屋敷を脱出するまで、カームのことを忘れるわ。そしてジークくん――いえ、ジーク。  
 あなたの『妻』として、あなたを愛することにする――――いえ、愛します」  
 
 真摯な瞳で、そう口にする。  
 昨夜、エッチなことをしたクロノアに間近でそんなことを言われ、ジークはドキリと胸が高鳴るのを感じた。  
 
「そして、ジークも。『夫』として、私を愛して」  
「い、いや……愛するって、よく分からないし……夫って言われても、何をすれば……」  
「この箱の製作者が何を持って『理想的』としているかは、私も分からないわ。  
 でも、今までのポイントの上がり方から見て、私達が何となく想像しているものと方向性は十中八九合致しているはずよ」  
 
 そしてこれからは、それらの行動を『ポイントを稼ぐために』行うのではなく、  
『愛する人を尊重し、その人のために何かしてあげたいという気持ちで』行おう。  
 何故なら、『言葉』『行為』『態度』だけではなく、『心情』も汲まれてポイントになるかもしれないから。  
 そういうことを、クロノアは説明した。  
 
「――正直、カームさんに悪いし、エアやソラにもなんて言えば分からないけど」  
 
 ややあって、ジークは小さな声で――だがはっきりとクロノアの目を見つめ返しながら、答えた。  
 
「それしか方法が無いって言うなら、やろうと思う」  
「ええ――私とジークで、『理想的夫婦』になりましょう」  
「……ハッキリ言って、俺の得にしかなってない展開だから、クロノアさんに悪いって気持ちがまだ強いんだけどな」  
「ふ。優しい子ねえ」  
 
 クロノアは微笑むと、ジークの肩を掴んでいた両手をスライドさせて背中側に回し、  
 その柔らかな唇を、自らの意思でジークの唇へと重ねる。  
 ジークはビクリと体を震わせ、反射的にクロノアの身体を突き飛ばそうとするが、  
 意志の力で無理矢理押し留め、逆にクロノアの身体を、恐る恐るといった様子で抱き返した。  
 ――嬉しいわね、早速実践してくれてる。  
 クロノアは満足すると、ちょっとした悪戯心を発揮し、ジークの唇を舌でなぞってみた。  
 
「んぐっ!?」  
 
 仰天して目を白黒させるジーク。  
 その初々しい反応にクロノアは微笑を浮かべるが、すぐにそれを驚きへと変じさせることになる。  
 
「っ、んぅッ!?」  
 
 ジークも舌を出し、絡ませてきたのだ。  
 ぴちゃぴちゃと水音を出し、軟体生物のように這いずり回る舌の動きに、たまらずクロノアは舌を口内へと戻す。  
 だがジークの舌はそれを許さないかのように後を追尾し、強引に引きずり戻された。  
 かつてないほどにイヤらしく舌を弄ばれ、クロノアは自信の体温が徐々に上昇していくことをハッキリと自覚する。  
 そのまま何十秒、舌だけで交合を行っただろうか。  
 ようやく唇を離したとき、二人の舌の間に一筋の糸が引かれ、クロノアは背徳感と興奮から赤面せざるを得なかった。  
 このような情熱的な接吻、カームとしたことなんてない。  
 
「ぷぁっ…………こ、こんなエッチなキスの仕方、どこで覚えたの?」  
「メッシュがどっかから持ってきた本」  
 
 対するジークも顔が真っ赤だが、その瞳には強い意思が宿っている。  
 
「キスって、気持ちいいものなんだな」  
 
 もう一度キスをしながら、そのまま倒れ込むようにクロノアをベッドに押し倒すと、  
 背中に回した腕を戻し、寝巻き代わりに着ているバスローブの隙間から、クロノアの掌に収まり切らない豊かな乳房に触れた。  
 
「ちゅっ、んっ、くちゅっ、ふっ、んむっ」  
 
 互いの唾液を交換しながら、両のバストを鷲掴みにし、若い情熱のままにこねくり回す。  
 エルフとは思えぬ肉感的な、熟れていてもまだまだ張りのある双乳が、縦横無尽に姿を変え、  
 その度に乳腺が強く激しく刺激されて、クロノアは自分の中の女の部分が高まっていくのを感じた。  
 
「気持ちいいか?」  
「うん、気持ちいい……」  
 
 一旦キスを中断して尋ねたジークに、クロノアは甘えるような声で答える。  
 そこにいたのはもはや義務で夫以外の男と身体を仕方なく重ねる清廉な妻ではなく、  
 愛する男にその身の全てを捧げようとする、純情な乙女だった。  
 無論、それまでの態度に演技も混じってはいただろうが、それでもジークには、今のクロノアは  
 半分以上――いや、8割以上が自分が与えた快感に純粋に酔いしれている、と感じられた。  
 
「なんか、クロノアさん…………クロノアのこと、可愛いって思えてきたぞ」  
「何、それ?」  
「うーん、これが夫の気持ちってやつなのかな」  
 
 もっと気持ちよくさせてあげたい。それも、自分自身の手で。  
 ジークは唐突に、メッシュのことを思い出した。  
 あの従者に対する気持ちが何十倍、何百倍も強くなったような感覚だ。  
 自らの所有物に対する征服欲や庇護欲とでも言おうか――成程、確かにこれはきっと、夫の気持ちに違いない。  
 
「段々分かってきた。俺が、俺の意思でクロノアを気持ちよくさせたいってことが」  
 
 それは多分、『クロノアだから』という個人を指定したものではなく、親しい女性なら誰でもこうなるような予感はあったが、  
 少なくとも今のジークにとって、この強い衝動を覚える相手は、エアやソラではなく、  
 彼女たちの母親で人妻、そして今は自分の妻ということになっている、このエルフの熟女ただ一人だった。  
 
「あんっ、ひゃっ……うんっ、ふぁぁっ!」  
 
 ゆっくりと顔を唇から下方に移動。  
 うなじに息を吹きかけ、鎖骨を舐め、乳輪を舌でなぞり、膨らんだ乳頭に吸い付く。  
 同時に右腕もまた同じ速度でクロノアの身体を下り、パンティをずり下ろすと、薄く柔らかい恥毛に隠された秘部に到達し、  
 徐々に姿を現そうとしていたクリトリスを絶妙な力加減で引っ張り出し、指で丹念に転がし始めた。  
 
「やぁぁっ、すごいっ、しびれちゃうっ、あふんっ!」  
 
 上半身と下半身、双方を同時に攻められて、クロノアが切羽詰まった声を上げる。  
 ジークの愛撫は押しの一手といった感じで、強引で激しい。  
 かといって乱暴なほどでもなく、まさにクロノアの好みに直球で答えるような力強さだった。  
 まさにジークハルトという人間を体現したかのような、エネルギッシュでありつつも優しさを忘れない、そんな愛撫。  
 
 カームはとにかく穏やかで、優しかった。  
 対峙する敵に対して吹き荒れることはあっても、守るべき者にその気勢を向けることは無い。  
 とにかく繊細で、水面に波が立たないような、緩やかな愛撫。  
 
 喩えるならば、静と動。  
 クロノアの心は、静を求めた。疲れたときに羽を休められる止まり木を欲した。  
 だが、クロノアの身体は、動を求めていた。熱く激しいぶつかり合いを欲した。  
 そして今、  
 
「ひぅ、やっ……はぁっ、あんっ、んん〜!」  
 
 クロノアは動の極地にいた。  
 カーム相手では本気になれなかった肉体が、全力を出して快感を貪ろうとわなないている。  
 クロノアは昨夜の晩に理解したことを、再びまざまざを思い知らされた。  
 即ち、自分の心はカームと添い遂げるためにあったのだとしても。  
 このエルフとは思えぬ肉感的な身体と、そして男性エルフの性器と比較して広く幅のある膣内は。  
 
 夫であるカームではなく、この目の前の赤毛の少年と交わるためにあったのだと。  
 
 カームに対する罪悪感は強い。  
 だが、ならばこうして身体を火照らせ、感じるままに悦楽を享受している自分は何だというのだ?  
 罪の意識がちっぽけに思えてしまう、より巨大な感情のうねり。  
 愛より強い、愛だけでは満たされない、女として生まれた者が抱える絶対的な本能。  
 即ち、クロノアの『雌』の部分が、ジークハルトの持つ『雄』の強大さに屈服したがっているのだ。  
 
「はぅっ、アッ、ンッ、〜〜〜〜〜〜!!!」  
 
 クロノアは軽い絶頂に襲われた。  
 シーツを握りしめ、全身を貫く甘く痺れるような快楽を享受する。  
 身体を流れる汗の雫。  
 酸素を求めて荒くなる呼吸。  
 痙攣する膣の上で、物欲しそうにキュンキュン鳴っている子宮。  
 上半身の熱さも凄いが、下半身の切なさが、今までのカームとのセックスとの比ではなかった。  
 朦朧とする意識の中で、ジークの下腹部を見やる。  
 乱れたバスローブの隙間に見えるトランクスの隙間から、はち切れんばかりに肥大化したペニスが覗いていた。  
 
「やっぱり、大きい……」  
 
 カームのものとは違うそれを見て去来した感情は、恐怖ではなく、期待だった。  
 言いようのない喜びと、胸のときめきだった。  
 ふらふらと身を起こしたクロノアは、ジークのバスローブとトランクスを脱がし、  
 雌を惹きつけて止まないペニスを露わにする。  
 
「ねえ、そろそろ……」  
「……ああ」  
 
 濡れた瞳で見つめられ、ジークは小さく唾を飲み込み、頷いた。  
 そろそろ、というのは、つまり本番――挿入してほしい、ということだ。  
 だが、挿入は妊娠の危険を孕んでいる。  
 ここまでなら誰にも言わなければ隠し通せるかもしれないが、妊娠は浮気をした動かぬ証拠となるのだ。  
 勿論、それに伴う責任やらなんやかんやの問題もある。  
 
 しかし、ジークはクロノアに覆い被さった。  
 責任を全て背負う覚悟を決めたから――ではない。  
 
「い、挿入るぞ」  
 
 震える声は緊張と興奮から。  
 ジークは単に、もっと気持ちよくなりたかっただけだったのだ。  
 性経験のないジークは、これまでのやり取りで、すっかり発情しきっていた。  
 いちいち『その後』の雑事を考える余裕なんてない。  
 頭にあるのは、『今』を最高のものにしたいという欲望だけ。  
 ジークは別に聖人君子でなければどんなときでも冷静な判断を下せる完璧超人ではなく、  
 誘惑されれば(それが露骨なら))心を揺るがせ、こうして(見える位置に)据え膳があれば手を伸ばしてしまう、ただの若い男なのである。  
 クロノアもそうなのだろう。そもそも、チンコを入れろと今しがた催促したばかりだ。  
 ジークよりもっと大切なものを抱える彼女の中では、既に決着がついているに違いない。  
 
 ジークの両腕が、クロノアの股を開く。  
 人妻エルフの蜜壷は既に愛液で溢れ返り、太ももや臀部を伝って下のシーツをビショビショに濡らしていた。  
 肌に浮かんだ玉のような汗と、乱れた吐息、時折ヒクリと震える肌と、立ち昇る淫らな『雌』の匂い。  
 頭がどうにかなってしまいそうだった。  
 いや、既におかしくなってしまっているのか――――  
 
「ん……もうちょっと下」  
「ここか」  
 
 亀頭をあてがうと、クチュリと粘液性のある水音が響く。  
 いよいよだ、とジークは奥歯を噛み締めた。  
 心臓がガンガンと早鐘を打っている。  
 期待や不安、様々な感情の奔流で、身体が爆発してしまいそうだ。  
 ジークは小さく長い吐息を漏らすと、その巨大な肉棒をクロノアの秘裂の中へと進めた。  
 
 グヂュッ……ズニュ……  
 
「すげっ……狭っ……」  
「ひ――何これ、広がっ……んっ、くっ――あふっ」  
 
 徐々に埋没していくペニス。  
 クロノアの、男エルフに対して緩いと思われていた――その実、人間……否、ジークの特大男根専用の膣壁が、  
 優しく包みこむのではなく、押し潰すような圧力をかけてくる。  
 それでいて接した部分の感触はとても柔らかく、愛液でヌルヌルしていた。  
 
「あ、あ……入った、の……?」  
「ま、まだ、半分くらい……」  
「ひっ、はっ――お、大きくて、苦しい……けど、やっ、内側から、溶けちゃう……ッ!」  
 
 膣壁がウネウネと蠢き、ジークの肉棒を更に奥へと飲み込んでいく。  
 やがて、根本までスッポリと入り込んだとき、二人は今まで味わったことのない悦楽の境地を体感した。  
 
「おおっ、な、なんだこれ……狭いのと、柔らかいのと、気持ちいいのが同時に来て……くっ、力が抜けそうだっ」  
「やぁぁぁっ、これ凄いっ! 奥まで埋まって……足りなくないっ、全部に触ってる――!」  
「わ、悪ぃ、我慢出来ない、一旦抜くぞ!」  
「ひっ!? ちょっ、今はまだ、待っ――――ひぅぅぅぅんっ!!!」  
 
 すぐにでも射精してしまいそうな膣内の感触から逃れようと、ジークは腰を戻そうとする。  
 だがその動きすらクロノアには強烈すぎる快感で、それに呼応したかのように膣癖が収縮し、  
 さながら蟻地獄のように肉竿を引き戻そうと蠢動した。  
 
「おわっ、戻される!? お、女のオマンコって、こんなに凄いのか!?」  
「ひっ、はっ、ひはっ、ひはふ……」  
 
 違う、と言おうとしたクロノアだったが、呂律が回らず正確な発音を刻むことは出来なかった。  
 ただじっとシーツを握る手に一層の力を込め、下半身から広がる猛烈な陶酔感を耐える。  
 そうやって身を固めないと、クロノアという存在が四散して消えて無くなるような、そんな説明のつかない恐怖があった。  
 
「ハァ、ハァ、ヤバい、本当に気持ちいいぞ、これ……!」  
「あひっ、ふぐっ、はっ……ンくっ、ふっ……ひぅんっ!!!」  
 
 じっとしていられず、ジークは再び腰を動かす。  
 ペニスが離れる空白の出来た寂しさと、ペニスが突き入れられて再度充足する喜びが交互に訪れ、クロノアは快感の大きさに怯える。  
 ジークもまた、陰茎から広がる甘さと熱さに追われるような、不思議な脅威を感じていた。  
 このまま行為を続けることも怖いが、止めることも怖い。  
 もはや正常な判断を下せぬまま、二人は情熱的に睦み合う。  
 と。  
 
 こつん。  
 
「っ!?」  
「ひぐぅっ!!?」  
 
 亀頭の先端が先程までは無かった何かにぶつかった。  
 突然の衝撃と、それによる予想外の快感に、ジークとクロノアは息を荒げさせたまま目を白黒させる。  
 
「なんだ、今の……?」  
「……た、多分、子宮口だと思うわ……」  
「チンコを入れられるところの限界か? でもさっきまでは」  
「私も知識でしか知らないけど、女は気持ち良くなると、体の中の子宮が降りてくるものだって――――きゃん!」  
 
 ジークがぐいっと腰を突き入れて再び子宮口をつつくと、途端にクロノアは甲高い声を上げた。  
 
「要するに、気持ちいいんだろ?」  
「あっ、やぁっ、コツコツ叩くのダメ、おかしくなっちゃう、馬鹿になっちゃう!」  
「馬鹿になったほうがいいと思う。俺も、クロノアも、そのほうが――」  
 
 ジークのピストンの速度が上がる。ガンガンと腰を打ち付け、目の前で揺れている大きな乳房を掴み、乳首に吸い付く。  
 クロノアはもはや耐えることも出来ず、泣き声とも鳴き声とも取れぬ喘ぎを響かせる。  
 どうしようもないほどだらしなく緩んだ顔、焦点の合わない瞳、汗と涙と涎でグチャグチャの顔。  
 
 ヒクヒクと蠢く膣壁の収縮が短いサイクルのものへと変わっていく。  
 ジークのペニスもまた、時折大きく跳ね上がってみせる。  
 互いの限界が近いことが、互いに理解出来た。  
 
「し、子宮が――はふっ、降りてくるのには……あんっ、り、理由がっ……あって…………」  
「な、なん、だよ!?」  
「精子……精子をより多く飲み込んで、赤ちゃんを作りやすくしようと……」  
「――――!!!」  
 
 それを聞いた瞬間、ジークの脳髄を駆け巡った感情は。  
 人間関係のしがらみや、赤ん坊の養育にかかる金銭の問題といった『人』としての理性ではなく。  
 眼の前の雌を孕ませたい、自分との子を産ませたいという、『獣』の本能だった。  
 
「ひぁぁぁぁっ!!! ジーク、はげ、はげしいぃ、やっ、んくぅぅぅぅぅっ!!!」  
 
 更に速まる抽送。エアと同じ金髪が乱れ、ソラと同じ顔があられもない表情を見せる。  
 獣と化したのはジークだけではない。  
 クロノアもまた、全てを忘れ、ただ眼前の『雄』の子種で受精すること一点に思考が集約される。  
 高みを昇っていく身体と身体。  
 弾け飛ぶ汗、荒い呼吸、卑猥な水音、いつの間にか重ねられた掌。  
 
「いぐっ、ひっ――――イグぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」  
 
 もはや奇声にも似た嬌声を上げながら、クロノアが全身をピンと張り詰めさせて、絶頂に達した。  
 これまで経験したことのない、最大級のオーガスム。  
 無意識に両足がジークの腰に絡み、奥へ、もっと奥へとペニスを迎え入れる。  
 激しい収縮を繰り返しながらも、イッたことで大きく開いた子宮口まで運ばれる、亀頭の先端。  
 子宮口の柔らかな肉が、キスをねだる唇のように亀頭を捕らえ、吸い付く。  
 
 全ては、この男の精子で確実に孕めるように。  
 
 そして、それを心得たとばかりに、その絶妙なタイミングで、  
 
「あッ、ダメだ――――射精る!!!」  
 
 ビュグッ! ビュルルルルルッ!!!  
 
 ついに臨界点を突破したジークもまた絶頂を迎え、大量の精液を吐き出した。  
 放たれた精液は一滴たりとも逃すまいと待ち構えていた子宮口に飲み込まれ、勢い余って子宮内の壁にぶち当たる。  
 
「ッ、アア〜……!!! あ、あついぃ……熱いの、すごい入ってくるぅ……!」  
 
 まだ続く。まだ注ぐ。  
 昨晩、風呂場で見せた射精よりも更に長く、精巣内に残っている全てを射出するように迸らせて。  
 その衝撃で、クロノアはまたイった。  
 
「ヒッ、ハッ、ッ〜〜〜、……ッ!!!」  
「〜〜〜〜〜〜〜ッ、………………‥ふぅ」  
 
 呼吸を忘れていたジークがようやく長い射精を終えて一息入れるころには、  
 クロノアの顔は絶頂のし過ぎで人前に出せないほどに崩れたものになっていた。  
 
「だ、大丈夫か……?」  
「…………こんなセックス、はじめてよ…………」  
 
 しばらくするとクロノアの瞳に理性の光が戻り始める。  
 しかし、その表情は心憎からず想っていた相手に告白された少女のような、完全な幸福感が漂っていた。  
 
「ええと……俺はすげー気持ち良かったけど、クロノアは……」  
「……見て、分からない……?」  
「いや、うん…………」  
「完全に相性バッチリみたい……愛撫も抽送も、何もかもが完全に私の好み………」  
 
 言いながらクロノアは、己の下腹部を撫でる。  
 その下には半萎え状態ながらも未だに膣道に鎮座するジークの男根と、精液で満たされた子宮がある。  
 
「……三人目、出来ちゃった」  
「い、一発で確実に妊娠するわけじゃ、ないんだろ?」  
「バカねえ。あんな恐ろしく濃い子種を、水鉄砲みたいな勢いで、しかも大量に注がれたのよ?  
 子宮も降りてたみたいだし、完全にお腹が大きくなっちゃうコースまっしぐらじゃないの」  
「や、やっぱりか」  
「まぁ、こうなることは想定済みで、エッチすることを望んだんだけどね……」  
 
 想定よりももっともっと気持ち良かったけど、とクロノアは目元を細めて笑い、  
 
「でも、何故かしら。私は今、凄い幸せなのよ。  
 勿論、後で冷静になったら、胃の底がズーンってなっちゃうんだろうけど……  
 少なくとも、今は全然後悔してない。  
 射精されてる最中も、『この男に孕まされたい』って強く感じてたわ。  
 変ね……エッチなことをしなくちゃいけないって知ったときは、こういう関係になることに凄い拒否感があったのに」  
「いや……俺もそうだ」  
 
 ジークもまた、真剣な顔で頷く。  
 
「俺の場合、エッチなことを他の人としたことないから、比較は出来ないけどさ。  
 でも射精するとき、こう……『この女に俺の子を産んで欲しい』って気持ちが膨れ上がった。  
 エッチする前は、カームさんとかエア、ソラのことでどうしよう、って考えてたのに」  
「それだけ……私たちの身体の相性が良かったのよ」  
「そうかもな。だって……」  
「あっ……」  
 
 膣内の男根が再び硬さと大きさを取り戻していくのを、クロノアは感じた。  
 はぁ、と甘く官能的な吐息が漏れる。  
 
「その……もっかい、いいか?」  
「遠慮はしないの。私達は……『夫婦』、なんだから」  
 
 ジークの背中に両腕を回し、クロノアは唇を耳元に寄せ、淫靡な表情で囁く。  
 
「『あっち』では、クロノアはカームの妻だけど。『こっち』では、クロノアはジークハルトの妻よ」  
「――――!」  
 
 ペニスを突き入れた。上がる嬌声。重ねられたままだった掌に、再びギュッと力がこもる。  
 
「子供が出来たら、どれだけのポイントに、なるんだろう、なっ!?」  
「あんっ、高得点は……ひくっ、んゥッ! か、固いわね……ああっ、やあ―――ッ!?」  
「どうせなら、何処までポイント上げられるか、挑戦してみるか!」  
「あぅッ、くぅん、きてぇ、ジークの……あなたのあかひゃん、あかひゃんほしいのぉぉ――!!!」  
 
 互いが互いの身体を貪る。もはや、今の自分たちには外の世界のことなんてどうだっていい。  
 ここで、二人でこうしていられれば。  
 
 歪な形で完成した夫婦の睦事は、その晩、遅くまで続いたのだった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――――そして、二人の『夫婦生活』が始まった。  
 
 朝起きて、セックスする。  
 朝食を食べて、セックスする。  
 舌に吸い付き、舌を絡め合うキスを一時間ほど続けた後、セックスする。  
 昼食を食べて、セックスする。  
 お昼寝をした後、セックスする。  
 夕食を食べて、セックスする。  
 一緒にお風呂に入って、セックスする。  
 テラスで夜景を見ながら、セックスする。  
 寝る前に、セックスする。  
 
 フェラチオ。パイズリ。手コキ足コキ、オナニーの見せ合い。  
 正常位で中出し。後背位で種付け。騎乗位で膣内射精。  
 
 ポイントはどんどん上昇した。  
 セックス以外でも、二人は互いを想いやる行動を自然に取るようになっていった。  
 その姿は、まさに理想的な夫婦と呼べるかもしれない。  
 セックスの肉体的な愛から派生した、副産物だというのに。  
 これではまるで、『理想的夫婦生活への改善計画』ではなく、『理想的夫婦生活への精製計画』ではないか。  
 なんだかおかしくて、二人は笑った。  
 
 
 
 六日後。  
 クロノアがジークのことを「あなた」と呼ぶようになって、それが当たり前に感じるようになったころ。  
 ポイントを確認しようとした二人は、壁の文字が変化していることに気付いた。  
 そこには、『計画成功』の文字が。  
 
 
 二人は、この『箱』からの脱出に成功した。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……エッチする必要は、なかった?」  
「ええ」  
 
 口をぽかんと開いて唖然とした表情を見せるジークに、クロノアはこめかみの辺りを押さえながら、告げる。  
 
「100ポイント以上を一週間維持。それが脱出の条件だったわけね」  
「じゃあ、風呂場のアレだけで、事足りたってわけか?」  
「それどころか、本当に改善不可能な夫婦のために、30ポイント以下を三日だけでも脱出出来たみたいだわ」  
「はぁ……なんだそれ」  
 
 ジークが疲れた顔で息を吐いた。  
『箱』を脱出して、一週間が経過していた。  
 どうやら『箱』の中では時間の進み方が異なっていたらしく、箱の中での一日は、こちら側ので10分でしか無かったようだ。  
 そのおかげで混乱が起きなかったのが、二人にとっての救いだった。  
 
「まぁいいか。無事に戻れただけで、良しとするかな」  
「こっちは色々と忙しいわよ。カイン・ガラに戻ることが決まったんだから」  
「まぁ、いつまでも生徒を放って置くわけにはいかないだろうしなぁ」  
「だから、ね?」  
 
 クロノアがひょい、と背中に隠していたものを取り出す。  
 それは、金の装飾が施され、赤と青の取っ手が付いた、黒い『箱』だった。  
 思わず、ジークは体をのけぞらせた。  
 
「お、おいおい!」  
「だって、しばらく会えないって思ったら、どうしても我慢出来なくて……」  
 
 頬を赤くして、肌を上気させ、濡れた瞳でクロノアはジークを見つめる。  
 ジークも、心臓がドキリと高鳴った。  
 
「ね、お願いよ」  
「……仕方ないな。あっちじゃ、俺たちは『夫婦』……だからな」  
「ふふ。ありがとう、『あなた』」  
 
 二人は、それぞれの取っ手を握る。  
 そしてまた、表に出来ない秘密の関係へと、戻るのだった。  
 
 
 
 
 余談だが。  
 その後、クロノアは娘たちに「歳を考えろ」「自重しろ」と文句を言われつつも、3人目の子を出産する。  
 その『祖先の血を蘇らせて』生まれた『赤毛』の赤ん坊を、同じ赤毛繋がりとして、ジークは非常に可愛がったという。  
「実は浮気したんじゃないの?」という冗談に、冷や汗を垂らしながら。  
 

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