6年前。ダグニア地方をあまねく統べるライフォス教皇イスマイル・ビスカイノは、ダノス海への新たなる聖戦を発動。  
ダグニア全土から集まった騎士たちは、遠征軍総帥たるセフィリア神聖王国レンシャン伯爵の指揮の下、ダノス海沿岸部に集結。ケルキラ諸島に巣食う蛮族たちと対峙した。  
ナイトメアの魔道技師オルネッラはその軍勢の中にいた。  
 
「――全く!何でアンタはそこまで役立たずなの!」  
陣幕が立ち並ぶ野営地の中。厳しい叱責の声がオルネッラの耳朶を打つ。  
彼の前に立つのは、無骨な甲冑に身を包んだ妙齢の美女二人。一人はうら若い少女で、  
可憐な物腰と鎧を覆う華麗なマントから一目で高貴な貴族だと分かる。もう一人はオルネッラと同じ年頃、同じ身分の女兵士だった。  
少女はセフィリア神聖王国の聖戦士、ウルリカ・アッテルベリ。ライフォス神に仕える司祭であり、名門アッテルベリ家の令嬢でもある。彼女がオルネッラの属する部隊の隊長だった。  
もう一人の女はリーラ。この遠征の間、ウルリカに従卒として使えている女兵士である。  
表向きの指揮官はウルリカである。だが彼女はその身分ゆえに祭り上げられたに過ぎない。ウルリカを動かし、  
実際に部隊を指揮しているのはリーラだった。今も、先の戦闘でのオルネッラの問題行動を叱責しているのは彼女だ。ウルリカはその様子をおろおろと見守っているだけだった。  
「銃を使えないマギテックって何なの?私のいる乱戦エリアに無差別発砲するし!全く、新入りのクリフォードの方がまだしも役に立つじゃないの」  
「まあまあ、オルネッラ先輩も部隊を守るために頑張ったんですし……とはいえ、シューターとしての訓練をしないのはどうかと思いますけどね。全く、姫騎士が傷ついたらどうするんですか」  
傍らにいたクリフが、擁護なのか叱責なのか分からない合いの手をいれる。  
彼はザルツ地方から流れてきた弓兵で、オルネッラを先輩と呼んで魔道技師として技術を学んでいた。  
奇妙な性格で、事あるごとに自分はルキスラ皇帝の影武者だと吹聴していた。そしてその性癖も非常に……ユニークだった。  
「クリフォード、あんたも問題だらけよ。姫騎士がどうとか言って、遠征軍中の女戦士を追いかけて住所を聞き出すのはやめなさい!」  
リーラの叱責がクリフにも飛ぶ。と、クリフはゾクゾクと全身を震わせた。  
「ああっ、リーラたんが蔑んだ眼で僕をみてる……もっと罵ってくださいお願いします!」  
リーラとウルリカが数歩後ずさる。オルネッラも少し引いた。と、その時、  
 
「――探しましたぞウルリカ殿!」  
気障な出で立ちに身を包んだ、香水ふんぷんとした中年男が駆け寄ってくる。彼こそがレンシャン伯爵――  
この遠征軍の指揮を執る、神聖王国の大貴族であった。伯爵は一同を見回し、オルネッラの存在に――  
正確には彼の頭から見える角に――気付いた。  
「何だ貴様は!汚らわしいナイトメアではないか!こちらの御方をどなたと心得ておる?アッテルベリ家のご令嬢にして聖戦士であらせられるウルリカ殿だぞ!本来貴様などが同じ空気を吸っていい相手ではないのだ!  
リーラとやら、そなたはウルリカ様を補佐する立場にありながら……」  
「――申し訳ございません、伯爵様」  
「伯爵様、私がリーラにお願いしたのです。明日の侵攻の前に、兵たちの様子を見て廻ろうと思って……」  
「さよう、明日には蛮王ヴォルクライアめの領土に攻め入り、その島を蛮族どもの血で染め上げ、ライフォスに勝利を捧げるのです。そんな大事なときに、お体に万が一のことがあってはなりません。さあ、早く本幕へお戻りください!」  
最後にクリフとオルネッラを一瞥すると踵を返し、伯爵はウルリカたちを伴い歩き去った。  
 
「まったく嫌な男ですねえ、あのレンシャンって奴は!」  
夕食の席で酒をあおりながらクリフがこぼす。  
「貴族なんてあんなもんさ。係わり合いにならなければ問題ない  
……それより俺たち、毎日リーラに怒られてばかりだな」  
「姫騎士の叱責。我々の業界ではむしろ御褒美です!」  
わけの分からない事を言いながらクリフは酒盃を重ねる。  
オルネッラは苦笑するしかなかった。  
何だかんだ言っても、クリフという男はオルネッラにとっては友といえる数少ない人間だった。  
ライフォスの厳格な信仰が人々を支配し、ナイトメアに厳しい視線が向かうダグニア地方にあって、  
オルネッラは孤独な人生を送ってきた。だがクリフはそうした偏見なくオルネッラに接していた。  
「まあ確かにリーラはいい女だよな。ああいうタイプは……夜は乱れる!」  
「先輩もそう思いますか!もっとも僕の一押し姫騎士は、やっぱりウルリカたんなんですけどね」  
「ウルリカか。ああいうタイプは……世間知らずのお嬢様だから、常識にとらわれない変態だったりしてな」  
「貴様は何を言ってるんだウルリカたんは変態なんかじゃない!!!ウルリカたんは処女なんだけど僕の前では恥じらいながらも  
“初めてだから……優しくしてね?”と言いながら鎖帷子の股間部分を限定解除してくれるんだー!!!  
……は〜、姫騎士っていいな。姫騎士っていいな〜。俺、この戦争が終わったらルキスラ帝宮に戻って  
姫騎士と結婚するんだ……」  
次第に呂律が回らなくなり、やがてクリフはテーブルに突っ伏していびきをかき始める。  
クリフの眠りを見届けて、オルネッラは席を立った。今夜の待ち合わせ――もうひとつの宴に向かうために。  
 
(クリフに言ったことは……憶測じゃなくて事実なんだよな)  
オルネッラ個人用の天幕。その片隅の簡易ベッドの上で、今夜も艶めかしい二つの裸身が踊るように絡み合っている。  
「はあっ、んっ、あんっ……き、来たのね、オルネッラ……」  
「あふっ、……オ、オルネッラ様……私とリーラ、もう待ちきれなくて……二人で始めてしまいましたわ……  
あああっ、そこいいっ!」  
オルネッラの姿を見て、絡み合う二人の女――リーラとウルリカが悦びの声をあげる。  
女兵士が寝台に横たわり、その上に聖戦士が覆いかぶさる――そんな体勢だった。  
二人は互いに抱き合って、キスと愛撫を繰り返す。互いの股間はぴったりと密着し、  
触れ合ったピンクの小陰唇たちがお互いをむさぼる様に吸い付き合い、妖しく収縮していた。  
「貝合わせという奴か。まるで海の軟体動物みたいにマンコ同士が交尾しているな」  
オルネッラはしゃがみ込み、二人の秘所が妖しく交わる様を観察する。  
(一応この天幕を中心に《ライフセンサー》――見張りの魔法を施してはあるが……この光景が  
誰かに知られたらえらい事になるな)  
なにしろ女の一人はセフィリア神聖王国が誇る聖戦士なのだ。そんな女性がナイトメアの兵士の元を訪れるなど、  
本来あってはならないことだろう。  
 
天幕の片隅に二人の衣服が畳まれていた。黒いフードに、麻のスカーフ、薄くひらひらした扇情的なショール。  
二人はいつもの鎧を脱ぎ、娼婦の格好に身をやつしてオルネッラの天幕を訪れたのだった。  
この遠征軍の野営地を賑わす大勢の人間。そのうち兵士や騎士といった純粋な戦闘要員はわずかな割合だ。  
大部分の人間は軍隊相手の需要を当て込んだ人足、商人、手工業者。男たちの無聊を慰める娼婦たちも大勢いた。  
兵士の天幕を娼婦が訪れるのはおかしなことではない。そういうわけで、二人には彼の天幕を訪れるときは  
娼婦に扮するよう言い含めていたのだった。  
 
「さて……それじゃお二人がお待ちかねのモノをくれてやるか」  
オルネッラは懐からマギスフィアを取り出した。思念を集中し、魔道機術を発動させる。  
マギスフィアが変形し、卑猥な形になった。  
それは両端が男根の形状をした長い棒だった。その表面には無数のイボ状の突に覆われ、女の膣内を  
快楽で責めさいなむように設計されている。  
女たちが吐息を漏らす。  
「すごい……魔導ダブルディルド……それを私とリーラの中に入れるのですね……」  
「はあっ……また私、エッチな機械でウルリカ様と一つにつながっちゃう……」  
オルネッラは魔導ディルドウの先端を、リーラの愛液滴る秘所にあてがった。  
「早く入れて欲しくて、下の口がひくひくしているな。――これだけ濡れていれば簡単に入りそうだ」  
「ああっ、先端が当たってる……お願い、早く入れて欲しいの……」  
リーラの懇願に応えるように、オルネッラは一気に人造の男根をねじり込んだ。  
ズブズブとリーラの胎内へ異物が挿入され、奥まで埋没した。  
「はうんっっ!し、子宮に当たってるぅ……イボイボが膣内をぐりぐりして、とっても気持ちいい……!」  
「すごい……リーラのここ、オチンチンが生えちゃったみたいです……じゃあ……挿れてもいいですか……?」  
「ああ。マンコを広げて、リーラの上にまたがりな」  
魔道機術によって生み出された双頭の淫具はその半分がリーラの胎内に埋没し、もう半分はむき出しのまま天へと  
突き出している。それはリーラの体から異形の男根が生えたようにも見えた。  
ウルリカはリーラの上にまたがった。両手の指で秘所を押し広げる。鮮やかなサーモンピンクの肉が露出する。  
腰を下ろし、ウルリカは自らの秘肉の中に男根を沈めていく。  
「はああっ……お、奥まで入りましたぁ……」  
「ううっ……す、すごい、ウルリカさまの中に根元まで……はああんっ……ウルリカ様が動くたびにぃ、  
あたしのなかでもグリグリきちゃうのぉっ!!!」  
魔導淫具で一つにつながり、リーラとウルリカは互いの動きで相手に快感の律動を送り込み合う。その様子をみたオルネッラは、  
「頃合いか……よし。動かすぞ」  
ヴイイイィィィイ……二人の胎内で魔道淫具が激しく律動を始めた。  
「ひううぅぅっ!き、来たぁぁぁ!!!」  
「はああぁっ、奥でっ、体の奥で激しくうごいてるのぉぉぉ!!!」  
淫具が二人の胎内で激しく蠢く。そのたびに女たちは快楽の叫びをあげた。  
「ああああっ、イ、イクゥゥゥウっ!!!」  
「はああッ、リーラ……わ、わたくしも、イっちゃいますゥゥゥッ!」  
やがてひときわ大きな叫びと共に、リーラとウルリカの意識は快楽の中にかき消された。  
 
寝台は飛び散った愛液でぐしょぐしょになっていた。その上で荒い息をつきながら重なり合う二人の女。  
快楽の余韻に浸りながらリーラとウルリカは互いの肢体をゆっくりと愛撫しあう。  
その様子を微笑ましく見つめながら、オルネッラは二人の秘所を繋ぐ魔導淫具に手をかけた。  
ずぶり……と音を立てて、愛液にまみれ人肌に温まった双頭のディルドウが引き抜かれる。  
(……こいつらとこんな関係になって、もう何日になるんだろう?)  
魔導機術を解除し、ディルドウをマギスフィアに戻しながら、オルネッラは思い出す。  
 
二人が初めてオルネッラの天幕を訪れたのは、遠征軍の進軍が始まって何日かしたときだ。  
オルネッラにとっては雲の上の人物の来訪。あっけにとられるオルネッラに、リーラはさらに驚くべき事を  
口にした。  
――魔導機術を使い、私たちを調教してほしい。  
「私がリーラを説得したんです。オルネッラさんが優れた魔道技師だって聞いて。本当に、リーラも一度  
あの快感を知れば病み付きになりますよ!」  
「と、ウルリカ様はおっしゃっているけど……どうなのオルネッラ?マギテックの技を使って、その  
……女を悦ばせるような道具を作ったりできるの?」  
リーラの問いに、オルネッラはうなずいた。  
魔導機術。それは数百年前、人間の最盛期であるアル=メナス文明期に誕生したものだ。  
魔術の才能を持たない大部分の人間に魔法の恩恵をもたらす――そんな目的で生み出された。  
マギスフィアという球体を様々な形状・機能に変化させ、それによって魔法を使うのと同じ現象を生み出す。  
この技術によってアル=メナス文明は支えられ、人々は熱心に魔導機術の利用方法を追求した。  
そして人間は、常に技術を二つの用途に転用する。戦争と――性の道である。  
 
「マギテックによって作り出せる性淫具は何千、何万種類も存在する。その大部分は低レベルの魔導機師でも  
作れるものだ。こうしたバイブレーターの類は、構造が比較的単純だからな」  
 
リーラの肉穴をバイブレーターでかきまわしつつ、オルネッラは説明してやった。  
「はああっ……すごい……まさかこんな……」  
半信半疑だった女兵士も、やがてすぐに魔導機術の虜になっていった。  
 
「しかし何だってウルリカ様は魔導機術のこういう使い方を知ってたんだ?  
ライフォスの神殿でこんな事を教わるわけないし、神殿に入る前は  
箱入りお嬢様だったんじゃないのか?」  
ある時、リーラにバイヴレーターを咥えこませながら、傍らで彼女を愛撫する  
聖戦士にそう尋ねたことがある。  
三人の関係――その提案者が彼女だったことは、オルネッラはずっと不思議に  
思っていた。  
「長い話になりますわ。確かに神殿に上がるまで、私はアッテルベリ家の姫として  
屋敷の中で育てられました……」  
幼い頃からウルリカは神の声を聞くことが出来、アッテルベリ家の声望をさらに高めた。  
だが彼女が神殿に入ることを、父であるアッテルベリ家当主は決して認めなかった。  
 
(そりゃ娘は政略結婚の大事な駒だ。手放すわけには行かなかったんだろうな)  
オルネッラは納得した。  
「……そんな私でも、ある日、恋に落ちました。  
その人は舞踏会で歌っていた吟遊詩人。美しい殿方でした。  
私は彼と目と目が合ったものの、そのときは何も会話をすることは  
できず……  
それから数日後の夜のことです。ベッドに入ろうとしていると、どこから  
ともなく不思議な歌声が聞こえてきました。  
その音色を聞くと、何も考えられなくなって。とにかく誰が歌って  
いるのか知りたい一心で、私は引き寄せられるように屋敷の外へと出て行きました。  
そして……あの人と再会したのです。  
月明かりの下、あの人は言いました。ずっと私のことが忘れられなかったと。  
私を遠くへ連れ去って、そこで女の悦びを教えてあげよう、と」  
 
(〈キュアリオスティ〉の呪歌か。吟遊詩人なら使ってもおかしくないな。  
それでお嬢様は、その優男にやられちまったのか。しかし……)  
一つの疑問があり、オルネッラは尋ねてみた。  
「貴族の令嬢が夜中にお屋敷を一人で出られるものでしょうか。  
警備のものがいるのでは……?」  
それに対するウルリカの答えは、オルネッラの想像の斜め上を行っていた。  
「私を待っていたのはあの人一人ではありませんでした。あの人には  
仲間がいたんです。三人も。  
一人は大男の戦士。一人は魔法使い。そしてもう一人は魔導機師でした。  
四人で冒険者のパーティーを組んでいたんです。  
屋敷を守っていた衛兵や使用人は、魔法使いさんの眠りの魔法で  
眠らされていたんです。  
私は目隠しをされた上で歩かされました。しばらく歩いていくと、  
やがて何かの乗り物の荷台に横たえられました。おそらく運河を航行する船に  
乗せられたんだと思います。  
何も見えないまま、私は自分の衣服が男の人たちの手で脱がされていくのを感じました。  
むき出しになった体に、いくつもの手や舌が這い回るのを感じました。  
胸やクリトリスを愛撫されるたびに私の体はビクンと震え、  
今までに感じたことのない感覚が全身を駆け巡りました。最初は戸惑ったものの、  
次第に私はその快感をもっと欲しいと思うようになりました。……  
やがて船が止まり、私は全裸で再び歩かされ、そしてたどり着いた場所で目隠しを外されました。  
そこは地下室でした。窓が無く、ランプの明かりだけが頼りの部屋。  
そこで私は、淫らな女へと調教を受ける、めくるめく快楽の日々を送ることになったのです……」  
 
「あの、なんというか……どうも聞いてると逢引というより  
誘拐事件のように思えるんですが」  
オルネッラは呆然と問いかける。どう考えてもその連中は計画的犯行で  
貴族の令嬢を連れ去ったんだ。  
 
「あの人たちの目的が何だったのか、今となっては知りようがありません。  
ただ、あの地下室で暮らした日々は、私にとってこれまでにない幸福なときでした。  
女が処女を失うときは苦痛を伴うといいます。でも私の場合は吟遊詩人と  
幸せな恋人同士のキスをしながら、仲間の人たちの手で秘所とお尻の穴に  
高価な媚薬をたっぷりと塗りこめられたのです。  
体内の粘膜に媚薬が染みとおっていく感覚。体が奥底から熱くなり、  
腸と膣の置くから愛液がひとりでにあふれ出す……それはたとえようの無い幸福でした……  
私の二つの穴から愛液と腸液があふれ出すのを見て、魔導機師の男が2個のマギスフィアを  
取り出しました。それは淫らな形の玩具へと変形しました。男はそれにたっぷりと媚薬を塗りこめて  
……私の二つの穴にあてがいました。  
ずぶずぶと音を立てて、ゆっくりと淫具が私の胎内に入っていきます。  
私は体内を駆け巡る快感に頭がおかしくなりそうで、あられもなく絶叫していました。  
膣内から破瓜の血が溢れましたが気づきませんでした。  
こうして私は絶頂の中で処女を失ったのです。  
しばらくはマギスフィアによる調教が続きました。そして私の体が  
媚薬なしでスムーズに挿入を受け入れるようになると、  
男たちは服を脱いでオチンチンをとり出し、本当の交尾が始まりました。」  
ウルリカの告白はなおも続く。  
「結局私は一ヶ月ほどもその部屋で暮らしたようです。そして幸せな日々にも  
終わりが来ました。  
私が連れ去られたことに父は激怒していました。  
そして高名な冒険者たちに私の奪還と、犯人の生け捕りか抹殺を依頼していたのです。  
その日も私は戦士の男に抱きかかえられてお尻にオチンチンを挿入され、  
前の穴には吟遊詩人のを受け入れていました。  
そこへ冒険者たちが突入し、男たちは不意をつかれて……  
こうして私は解放され、屋敷へ戻りました。医師たちによる長い検査の後、  
父は私をライフォスの神殿に押し込めました。――許してもらえなかった神殿行きが  
こんな形で適ったのです。人生って分からないものですね。  
今でも私は、あの時の快感が忘れられません。  
とりわけ私を夢中にさせたのが、あの魔導淫具による責めです。  
確かに生身のオチンチンも素敵です。私が男たちのオチンチンで一番好きだったのは、  
たくましい戦士の人のそれでした。あの野太いオチンチンで子宮をつつかれたり、  
腸の奥深くまで出し入れされたり、口の中でで果ててもらい、熱くて濃い精液を  
のどの奥に放たれるのは確かに素晴らしい。  
でも、それすらあの玩具の挿入には及びません。  
女の体を悦ばせるための形状・機能、私の快楽を絶妙なタイミングで引き出してくれる責め……。  
オルネッラさんが魔導技師だと知ったとき、あの快楽が頭の中で甦ったんです。  
貴方ならまた私にあの快楽を与えてくれる。そう確信したんです」  
「本当にウルリカ様は淫らな方だ」リーラが起き上がって言った。  
「淫らで……そして賢い方だ。私も男についてはそれなりに経験してきたつもりだったが、  
ウルリカ様に教えられるまでこんな快楽があるとは知らなかった。  
そしてオルネッラ、あなたのことも。  
ウルリカ様がいなければ、私はあなたをナイトメアというだけで軽蔑していたと思うわ」  
 
「――ねえオルネッラ。貴方のココ、はちきれそうになっているわ」  
リーラの声がオルネッラの意識を回想から引き戻す。  
女兵士はズボンのチャックを下ろし、彼の陽物をまろび出そうとする。  
「挿れるのはまずいけど、口で抜いてあげる。それとも手でしごいてあげようか?」  
「あっ、それはいいですね。リーラのお口にたっぷり精液を出したあと、  
私にキスしながら口移しで飲ませる、というのはどうでしょう?」  
ウルリカも目を輝かせてオルネッラの股間に顔を近づける。  
「――いや、俺はいい。お前らの姿を見るだけで充分に楽しませてもらってるし……」  
オルネッラは二人から離れ、ズボンを元に戻す。  
「術に集中したいので、気をやるわけにはいかない。天幕の周囲の警戒もしているからな。  
……少し夜風に当たってくる。二人で楽しんでいてくれ」  
 
天幕を出ると、目の前には夜の海が広がっていた。かつて“神々の栄光”と謳われたダノス海の風景。  
(……俺と彼女たちは、所詮は行きずりの関係だ)  
オルネッラは一人ごちた。  
これまで女たちを攻め立てていても、自分自身の欲望を女たちに吐き出したことは無い。  
自分はあくまで奉仕者であり、彼女たちに欲望を処理させる立場ではない――そう思ったからだ。  
(所詮、住んでる世界が違う。戦争が終わったら、俺たちはそれぞれの日常に帰っていく。  
彼女たちが俺のことを思い出すことはないだろう。  
だが、俺は二人が好きだ。戦争が終わるまでは、二人を守り抜こう)  
 
クリフにシューターの技を教えてもらえばよかったな。あのガンという武器は  
どうも苦手だったけど。  
もっとも、オルネッラが戦うようなことはもはや無いだろう。  
明日にはすべてが終わる。ダノス海に浮かぶ、名も無い無人島を占領するだけで。  
何の意味も無い占領。だがそれでも一応は「蛮族の領土をもぎ取った」という事実にはなる。  
そうして遠征はつつがなく終了し、俺たちは勝利の凱旋をするはずだ。  
 
“――来ましたか、資格者よ”  
オルネッラの心の中に、不思議な声が響き渡ったのはその時だった。  
「?何だ?」  
熱い。彼のマギスフィアに膨大な魔力が溢れ、輝きを放ち始めた。  
「何が起きている……?くっ、この変な声の仕業なのか?」  
“私と貴方は近いうちに出会う……オルネッラ……忘れないで……”  
声が遠ざかっていく。  
やがてマギスフィアの異変も収まり、オルネッラの周囲は再び静寂を取り戻した。  
あたりには波の音だけが響いていた……。  
 
――その広間は夜よりも深い瘴気の闇に包まれていた。  
ここは暗黒の王の間。その主の前に対峙しても、  
女ドレイクの戦士――イザベラの不敵な表情は変わらない。  
「我らの手勢、アンタの望みどおりの場所に配置したよ」  
「ご苦労であった。我らが人族の侵攻にさらされたこの危機にあって、  
あれほどの援軍を送っていただいたこと、  
そなたの主君、“紫闇の王”ギュスターヴ殿のご厚意には心より感謝いたす」  
微塵も有難いとは思っていない淡々とした口調で、ダノス海の王・ヴォルクレイアが謝辞を述べる。  
その慇懃無礼さにイザベラは唇を噛んだ。ダノス海の蛮王から見れば、  
彼女の率いる手勢は雀の涙だろう。  
だがこれでもギュスターヴ――彼女の主君にして恋人――にとっては出しうる全兵力だった。  
イザベラ、側近たる 「四札将」、さらにはギュスターヴの“出来損ない”の弟までも  
送り込んでいる。全てはヴォルクライアに自らの 存在を示し、盟友として認められるためだ。  
ギュスターヴがこれほどにまで”ダノス海の蛮王”の歓心を買おうとするのは切実な理由がある。  
 
4年前――大陸南部の蛮族の勢力図に激変が起きた。  
“滅びのサーペント”――太古の強大な魔法剣を手に入れるため、  
名だたる蛮王たちが大軍勢を率いて人族の小国へ侵攻した。  
そして、その大部分が帰ることはなかったのである。  
巨大な権力の空白が生じ、そこに若い蛮族たちが名乗りをあげた。  
ギュスターブもまたその一人だった。  
若輩の彼が紫闇の森の蛮王として認められる。そのためには  
古く強大な蛮王の後ろ盾は絶対に必要だった。  
 
話題を変えよう。そう思い、イザベラはかねてから思っていた疑問を口にした。  
「しかし分からないねぇ。どうして人間どもはアンタの首を取ると息巻きながら、  
実際にはアンタの城から 遠く離れた無人島に侵攻しようとしてるんだい?」  
「無論、人族には我らと戦って勝利する意志などないからだ」  
セフィリアの教皇が思いつきで始め、レンシャン伯爵が音頭をとって  
寄せ集められた遠征軍。彼らには蛮族を 滅ぼすための具体的な戦略などもっていない。  
そうヴォルクライアは言う。  
そして大軍勢を維持するための兵站は凄まじい戦費を要求する。もはや遠征軍が崩壊するまでに残された時間は  
わずかなのだった。  
「それまでに何とか勝利を得たい。そこで彼らはあの小島に目を付けた。占領したところで何の価値もない島だが、  
一応は我らの領土ではある。  
“蛮族の領土に侵攻し、これを攻め取った”――形の上ではそうなる。  
そのように言い張ることで、民に対して 面目を保ち、  
不満を持たせないようにしようというのだろう」  
「まったく人間ってのは面倒くさいね。支配者が奴隷の不満を恐れるのかい」  
「我ら“イグニスの種族”と違い、人間は力ではなく法によって社会を維持しているのだ。  
余も不死者となる前は人間だった。だから彼らの考えていることは良く分かる。……  
これまでダノス海に人族が侵攻して来た事はあったが、余はなるべく無用な争いを避けてきた。  
人間たちはそのことを知っている、こんな小島を落としたところで余の怒りは買わない――そう思っているのだろう」  
「――で?なんでそんな戦う気の無い人間どもを、島で待ち伏せして皆殺しにしようってんだい、  
お優しいヴォルクライアさまは?」  
玉座の主の顔に、初めて苦渋めいた表情が浮かんだ。  
「……あの島には、一つの遺跡が隠されている」ヴォルクライアは言う。  
「アル・メナス文明期の遺跡だ。そして、そこに残された遺産は途方も無いものだ。  
もしそれが人族の手に落ちたら ……“イグニスの種族”全てにとって破滅的な事態が訪れるであろう」  
玉座から立ち上がり、苛立たしく歩き回る。  
「余はこれまで、なんとかあの遺跡が人族に見つからぬよう努力してきた。  
配下に守らせず、島を無人にしたのは 、  
あの島に”イグニスの種族”が守るだけの何かがあるのだと悟られ、  
冒険者どもを呼び寄せられるのを避けるためだ。  
何の変哲の無い小島。そのように思わせてきた。それが今回は見事に裏目に出てしまったのだ。  
イザベラ殿、どうか我が配下ゼルドラスと協力し、入念に事に当たって欲しい。  
島に上陸した者は一人も生かして帰さぬように。捕虜にして連れて帰るというなら構わぬ。  
大陸の反対側、“紫闇の森”ディルフラムで 朽ち果てるというのなら、それで良し」  
「そいつは有難い。実はお気に入りだった奴隷が壊れちまってね。この戦でいいオスが  
手に入らないかと思っていたのさ」  
女ドレイクは歩き去った。広間に残された蛮王はそっとため息をつく。  
「むごい事だがやむおえん。あの遺跡は決して人族の手に触れてはならぬ。  
伝説の操霊術士、レギン・レイヴの研究所には……」  
 
「なんてこった…」  
ボーとの櫂を握り締めながら、呆然とオルネッラは呟いた。  
その視線の先にあるのは、オルネッラ達が海を渡るために乗り込んできた船。  
その巨船が今や眼の前で傾き、沈没を始めている。  
振り返ると、島の中からは間断なく叫び声が響き渡っている。――仲間たちの断末魔の叫び。そして……  
殺戮にふける蛮族の雄たけび。  
 
戦いなど起こらないはずだった。  
その日の朝、オルネッラの部隊は軍船に乗り込んで沿岸を離れ、何事も無く島に上陸した。  
総大将であるレンシャン伯爵は高らかに島の領有を宣言し、午後にはライフォスへの  
感謝の祈りを捧げることになった。その日のうちに我々は勝利者として凱旋できる  
――そんな楽観的気分が皆の間に漂っていた。  
宴の準備が始まり、武具を脱いで浜辺で遊ぶ者もいた。  
 
島の奥の森から蛮族の大群が襲い掛かったのはまさにその時だった。  
ボガードが、オーガーが、油断しきった騎士たちに襲い掛かる。  
オルネッラ達の目前にも、小山のような巨体の蛮族が迫ってきた。――ダークトロールだ。  
ダークトロールが錬技を放つ。そのたびに兵士たちは粉砕され、肉片へと化してゆく。圧倒的な強さだ。  
オルネッラはクリフと共に必死の思いで逃げ出した。  
命からがらボートに乗り、浜辺を離れる。沖合いで停泊している軍船を目指して。  
 
軍船から水柱があがった。あっという間に傾き、浸水してゆく。  
周りの水面には異形の影があった。どうやら海の蛮族も動員されていたようだ。  
自分たちを乗せてきた船が沈む様を、オルネッラ達は呆然と見守るしかなかった。  
 
(それにしても……偶然とはいえ、まさかコイツと一緒になるとは思わなかったな)  
三人乗りのボートは満席だった。オルネッラとクリフ、そして……  
「どうします、先輩?ここにとどまっていては危険です。このボートなら漕ぎ続ければ  
なんとか大陸に戻ることは可能です。でも……」  
「島を離れてはならん。戻れ」  
三人目の乗客が重々しい声でさえぎった。レンシャン伯爵の目は焦燥で落ち窪み、  
瞳には剣呑な光が宿っている。  
「貴様たちに重大な使命を託そう」  
伯爵は二人をにらみながら続ける。  
「ウルリカ嬢のことだ。ライフォスの祭壇にふさわしい場所を探すと言って  
島の反対側に単独で行ってしまわれた。  
あの方は聖戦士、しかもアッテルベリ家の御令嬢でもある。――貴様たち、  
何としても彼女をここまでお連れしろ。  
わしはここで踏みとどまっておく」  
「閣下。このボートは三人乗りですが」  
クリフが問うと、伯爵はじろりとオルネッラを一瞥した。  
「クリフとやら、貴様はボートに乗ってもよい。だがそこのナイトメアは……  
オルネッラとやら、よく聞け。そなたは前世で忌まわしい罪を犯し、  
そうして汚らわしい角を生やして生まれてきた。  
そして今、罪を償う機会を得たのだ。ライフォスの聖戦士を救い出すことによって。  
さあ、ウルリカ様の御為に、見事散って見せよ。そして罪を洗い流して  
来世では真っ当な人間に生まれるがよい」  
「……つくづく不快な人間ですねえ、あなたは……」  
クリフはトラドールを構えた。その照準はぴたりと伯爵に向けられている。  
「大体あなた、自分がボートに乗れるという前提で話さないでもらえます?  
我々にはあなたを助けてやる 義理なんてこれっぽっちもないんですから」  
「ひいぃぃっ!?わ、わしは遠征軍の総大将なのだぞ!わしが死んだら  
だれが沿岸に残る部隊に撤退命令を出すというのだ!それだけではない、  
総大将が死んだとなれば敗戦の事実を誤魔化しようがなくなるぞ!  
そのことは教皇睨下の権威失墜につながり、やがてはダグニア全土、いや大陸全土に戦乱を  
もたらすことに……!」  
「軍組織における指揮官の戦略的・政治的役割。そんな初歩の講義をこの私にかますなんて  
いい度胸してますねえあなたも……  
――いざとなれば余が真の名を明かし、即座に軍の指揮権を掌握しても良い。  
血塗られし宿命より逃れるために玉座を捨てたが、  
今の人族の世が護るに値しないのならば、予言の成就を行うのも一興か……」  
「――もういい、クリフ」  
オルネッラはクリフの肩に手を置いた。  
「行こう。こんな男と話している時間が惜しい」  
 
「言っておきますが、僕だってあのボートに乗って帰る気はありませんよ。  
助けるべきなのはウルリカたんだけではなく……」  
(――リーラ)  
オルネッラは心のなかで女の名を呼んだ。  
 
岸辺には兵士たちの武具と死骸が散乱していた。蛮族たちの姿は無い。ここからは離れたようだ。  
島のあちこちから、戦闘の続く音がかすかに聞こえてきた。  
「くっ、早く二人を探さなければ……しかし、どうやって……?」  
――それが貴方の望みなのですか?  
不意にオルネッラの心に響き渡る“声”。同時に、マギスフィアが激しく明滅を始めた!  
五感がマギスフィアを通して肉体の外へ広がっていく。周囲へ――島全体へ。  
たちまちにしてオルネッラは、島に息づく全ての生物の存在が知覚出来るようになった。  
「これは……《ライフセンサー》か?いや、そんなものじゃない!」  
まるで千里眼を持ったかのように、島のあらゆる生命を個々に識別できるのだ。  
どんな高レベルの魔導機術でもありえない魔法だ。  
二人の姿も瞬時に捉えられた。ここから数キロ先、小さな洞穴に身を寄り添い隠れているのが分かる。  
「二人の居場所が分かった!行くぞクリフ!」  
「先輩にもあの“声”が聞こえていましたか」  
とクリフ。その手にあるマギスフィアも膨大な魔力に輝いている。  
「この島には何かがあるようです。僕らには想像もつかない領域にまで  
マギテックの魔法が進化している……  
とにかく、一刻も早く二人の下へ向かいましょう」  
 
「オルネッラ!」  
リーラとウルリカが駆け寄ってくる。胸に飛び込み、涙のにじんだ笑顔を見せる。  
俺は今どんな顔をしてるんだろう、とオルネッラは思った。  
「うすうす気づいてはいましたが、やはり先輩と二人は……  
やれやれ、僕は新しい姫騎士との出会いを求めなければなりませんね……」  
三人の様子にクリフがそっとため息をつく。――と、その顔が緊張でこわばった。  
「――来ます!蛮族の群れがこちらに!追い込まれます!」  
四人は慌てて物陰に隠れる。  
 
蛮族の群れが迫ってくる。群れを率いているのは女のドレイクだ。  
「このあたりにいるぞ!絶対に逃がすな!」  
女ドレイク――イザベラが叫ぶ。  
「まったく、人間どもがこんなにやわだとはね。  
ゼルドラスの手勢だけであらかた片付けられちまったじゃないか。  
わずかなりとも手柄をあげないとねぇ……アンセルム!お前が先頭だ。  
お前は普段から兄上に恥をかかせてばかりだからな。少しは役に立て!」  
 
声に応じて一人のドレイク――いや、角は生えているものの、ドレイクが持つはずの剣や翼は無い――が  
こちらにやってくる。  
(どうする……戦ってもとても勝ち目はない。ここは俺が囮になって、なんとか皆を……)  
オルネッラは覚悟を決めた、と、その時、彼の肩を叩く手があった。クリフだ。  
「ね、先輩。……あの敵の指揮官が分かりますか?」  
「ああ、女のドレイクだな……それがどうした?」  
「そう!女のドレイクです!つまりは姫騎士!もう僕は辛抱たまりませんよ!」  
クリフの表情は決意に満ちていた。そこにはオルネッラの知る、いい加減でおかしな  
後輩の面影は無かった。  
「……クリフ……?」  
「僕はここでお別れです、先輩。お二人を必ず守ってください」  
懐から何かを取り出し、オルネッラの手に握らせる。  
子供が作ったような、粗末な木彫りのペンダントだった。  
「どこかで“ゆん・ゆん・たむ”と言う名前のグラスランナーに会ったらこれを渡してください。  
そして伝えて欲しい。――“友達のしるしを返します。ユリウスは血塗られた宿命から解放されました”とね」  
 
オルネッラが止める間もなくクリフは茂みから飛び出した。驚くドレイクの脇を潜り抜け、  
一気に女指揮官のもとへ駆けてゆく。  
同時にオルネッラも、女たちを連れて駆け出す。クリフと反対の方向へと。  
一目散に海岸を目指す。背後からは「ドレイクの姫騎士キタ――!!!」「な、なんだ貴様は?」という声。  
それがオルネッラとクリフの別離だった。  
 
「おおウルリカ殿!生きておられると信じておりましたぞ!ささ、こちらへ!」  
浜辺にたどり着いた三人を見て、レンシャン伯爵が声をあげた。  
さっそく舟にウルリカを招きよせる。  
「お前も乗れ、リーラ」  
オルネッラは女兵士に促し、ウルリカに続いて舟に乗り込ませた。  
「あの、オルネッラさんは……?」  
とウルリカは言いかけて、言葉が途切れた。  
糸の切れた人形のように、リーラとウルリカはボーとのへりに倒れ伏す。  
 
「――ウルリカ様はお優しい方だ。貴様のようなナイトメアであっても、  
この島に置き去りにすると聞けば一悶着起きるだろう」  
呪文をかけ終えて伯爵が言う。  
〈ホーリー・クレイドル〉。眠りをもたらす神聖魔法である。伯爵はライフォスの  
高司祭でもあった。  
「さてオルネッラとやら。最後にお前にも礼を行っておかねば、なっ」  
伯爵の突き出した手から気弾が放たれる。〈フォース〉の魔法が胸に直撃し、オルネッラは地面に吹き飛ばされた。  
「ぐっ……がはっ!」  
オルネッラを尻目に、伯爵はリーラたち二人を乗せたボートを漕ぎ始める。  
「安心せい、二人はわしが岸まで送り届けてやる。お前はそこで蛮族どもの生餌になるがよい。  
――ほれ、お迎えがきおったぞ」  
 
ボガード、オーガー、その他大勢の蛮族が浜辺に姿を現した、人族の残党を狩っているのだろう。  
オルネッラの姿を認め、にじり寄ってくる。だがオルネッラにもはや逃げる余力はなかった。  
空が青い。オルネッラはぼんやりと思った。ああ、ここで死ぬんだ。そう思った。  
悪くない人生だった。まだまだやるべき事もあった。だが仕方ない。オルネッラは覚悟を決め、目を閉じた。  
 
轟音。  
 
大音響と共に火柱が上がり、蛮族たちを粉砕した。  
何事かと顔をあげる。そしてオルネッラは信じがたいものを見た。  
小山のような鋼鉄の巨獣。魔導機文明時代のゴーレム、〈ドゥーム〉だ。  
“――危ないところでした。候補者を二人とも失うわけにはいかないと思い、お迎えにあがりましたよ”  
マギスフィアを通じ、あの”声”がオルネッラの心に響く。  
「お前が……助けてくれたのか?そこにいるのか?」  
“ええ。いま姿を見せましょう”  
 
ドゥームの頭頂が開く。ハッチを開け、その人物は姿を現した。  
それは黒髪の――幼い少女だった。  
「私は躁霊術師レギン・レイヴ……いえ、正確には彼の知識と記憶を受け継いだルーンフォークです。  
さあオルネッラ、私と共に研究所へ。そして大事な、大事な話をしましょう……」  
 
大遠征は終了した。生還したレンシャン伯爵は直ちに撤退命令を出し、残された軍勢は帰途についた。  
ライフォスの教皇庁は必死に遠征の結末を糊塗し、それが成功であったと主張し続けた。  
最後の決戦の場となった名も無き小島は人族も蛮族も立ち去り、再び無人の島となった。  
――ただ2名を除いては。  
 
「ご主人様、お腹が空きました。……魚も取らずに一体何をやっているんですか?」  
レギンの視線の先。そこではオルネッラが一心不乱に森から切り出した木材を  
縄でしばりつけているところだった。  
「見れば分かるだろ。舟を作ってるんだよ。こんな島からは早くおさらばだ。  
まったく、あのゴーレムを使えばこんな海くらいすぐ渡れるだろうに」  
「沈みます。鉄の塊ですから」レギンの返答はにべもない。  
「伝説の操霊魔術師とかいう割りに。お前の魔術は大したことないしな。空を飛ぶとか、  
向こう岸まで瞬間移動するとかできないのか」  
「私の中にあるレギン・レイヴの知識と記憶は、そのほとんどがロックされています。  
ロックを解除するにはご主人様が研究所で10年ほど学び、魔術の奥義を会得してですね……」  
(10年もこんな場所にいられるか。……ょうじょは守備範囲内だが、コイツは中身男だしな……)  
オルネッラはため息をつく。  
「俺は魔術の奥義とやらを学ぶ気はない。英雄になるとか世界を救うとか、俺には無理だ。  
それより俺は外の世界に未練がある。リーラとウルリカにまた会いたいんだ」  
「ほほう。リーラとウルリカ――女の人、ですか?」  
急にレギンが食いついてくる。興味津々という様子だ。  
「ああ。俺の魔導機術にメロメロな女たちさ。おれはもっとマギテックの能力を磨いておきたい。  
そして〈マギスフィア・大〉を手に入れたい。……アレがあれば、もっとすごい調教ができるぞ」  
「――素晴らしいですご主人様!!!その時はぜひ私を助手としてお使いください!!!」  
レギンは瞳を輝かせて懇願した。  
「私は――つまり生前のレギン・レイヴは――女の人が大好きだったのです。記憶を残す器として  
幼女型のルーンフォークを選んだのもそのためで……つまり自分自身が幼女であれば、いかなる時も  
幼女の肉体を楽しめるという発想です」  
「そ、そうか……とにかく、そういう事なら舟を作るための材木を集めてくれ」  
「はい!」  
再び二人はイカダ作りを再開する。その姿を一羽の鳥が木の枝からじっと見守っていた。  
 
「……やれやれ、ひとまず危機は去ったと見てよいか……」  
使い魔を通じて二人の会話を聞きながら、ヴォルクライアは安堵の吐息を漏らす。  
「レギン・レイヴの遺産。野心ある者がそれを手にすれば、我等にとっては  
憂慮すべき事態になっただろう。  
だがこの度の候補者は、そのような物に関心はなかったようだ。それで賢明だろう。  
あまりにも強大な力はそれを得たもの自身をもやがては滅ぼす。……  
それにしても、セフィリア王国の振る舞いはもはや看過できぬ。  
これまではセフィリアとラ=ルメイアとの離反工作に力を入れてきたが……冗長に過ぎる。  
やはり、あの王子の計画を実行に移すしかないようだ……」  
ヴォルクライアは玉座から立ち上がり、闇の中へ歩き去った。  
 
――ダグニア地方に新たな暗雲が立ち昇る。  
オルネッラとレギンは、二人を待ち受ける運命をまだ知らない――。(了)  
 

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