夜の数学準備室で、ボクはマナ先輩を待っていた。
MANA部のみんなはもうとっくに解散して家に帰っているのに、
なぜかボクだけがマナ先輩の命令でここに待機させられていた。
全裸で。
ちなみにMANA部というのは、モルゲンシュテルン・アンド・ノイマン・アカデミー同好会と言って……へっくしょん!
寒いから詳しい説明は省略するけれど、つまり一言で言うとマナ先輩が作ったTRPG同好会だ。
ボクはある日、押しの強いマナ先輩にこの数学準備室に連れられて、気がついたらMANA部の一員になっていたのだった。
で、どうしてボクがこんなところで全裸で待たされているのかと言えば……そういえば、なんでなんだろう?
マナ先輩のことだからTRPGに関係あることは間違いないんだろうけど。
と、そんなことを考えていると、
「待たせたわね」
と数学準備室のドアがガラッと開いた。
弱い蛍光灯の光に照らされた唯我独尊的な微笑をたたえたポニーテールの美少女が戸口に現れた。
マナ先輩だ。
マナ先輩は手のひらに収まるぐらいの小さな四角い袋(?)を見せつけるようにぴらびらと振って、ボクのところに歩いてくる。
よく見ると、袋の表面にはリング状の内容物が浮き出て見えた。
「これを取りに行ってたのよ。ダイスがないとTRPGができないように、これがないと何も始まらないわよね」
「あの、それどう見ても……コンドームですよね。なぜそれが必要なんですか?」
「わからないかしら? コンドームに裸の男女に人気の無い校舎ときたらすることは一つに決まってるじゃない」
マナ先輩は制服をバサバサと脱ぎながら言った。
「セックスよ!」
何が何だかわからない。
マナ先輩の突拍子も無い言動には慣れていたつもりだったけど、そ、その、セックスだなんて。
大体、ボクとマナ先輩はMANA部の先輩後輩というだけで、それ以上の関係ではないわけで。
そりゃ、マナ先輩のことは魅力的な人だなと感じてないわけではなかったけれど……。
いくらなんでも。
何かいいたげなボクの視線に気がついたのか、マナ先輩は控えめな胸を張った。
「勘違いしてもらっちゃ困るわね。これはより良いTRPGライフを送るための実地訓練なのよ。わかる?」
「わからないです」
「分からないなら分からないで、あたしに任せてくれればいいわ」
いつの間にかショーツ一枚になった先輩がボクに抱きついてくる。
そして、首に腕を絡めてボクの頭を引き寄せると、
「例えば、これは特殊効果:絡みで命中箇所:首よ。わかる?」
と耳元で囁いた。
マナ先輩はいい匂いがした。むせそうなぐらい甘くて、しっとりとした匂いだ。
ボクは顔をそらしてぷはあと息をついた。
「あの、マナ先輩。息苦しいです……」
「しゃべっちゃダメよ! 絡みが首に命中してる時は発声が出来なくなるんだから!
それとも何? キミは、種族リザードマンだと言い張るつもり?」
「いえ、人間ですけれども」
「だったら黙ってあたしの言う通りにしてなさい。でも少し締めすぎたかもしれないわね。
いいわ、1d点の魔法ダメージはなしにしてあげる。その代わり……」
と、マシュマロみたいな感触のものが、ボクの口に押し付けられる。
これは、マナ先輩の唇? マナ先輩とキスしてる?
そう気づいたときには、もう、マナ先輩のぬめぬめした舌が割って入ってボクの舌に絡み付いていた。
ええと、これは……命中箇所:特殊、でいいのかな?
6ラウンドぐらいの長い長い濃厚なキスをしたあと、マナ先輩は絡めた腕を緩めた。
「ふふふ、なかなか気持ちよかったわよ。キミ、なかなか上手じゃない」
「えっ。ど、どうも……」
「まさか初めて?」
「う」
ボクはうつむいた。
顔がなんだか熱いから、赤くなっているんじゃないかな、と思う。
マナ先輩はあきれたような表情を浮かべると、
「……全く、初めてでこれなんて、恐ろしい子。GMの才能だけじゃないなんて、ね
それにしても初めて、ねえ……うふふふふふふ」
と笑った。
漏れ聞こえる笑いが、いつもの邪悪な感じ。
「じゃあ、こういうことされるのも初めてってことよね」
と半勃ちのボクのモノを、ダイスみたいに掌の上で転がしはじめた。
<続かない>