深夜、とある城の一室、寝台の軋む音だけが響いている。  
耳の尖った男が金髪の女を組み伏せていた。規則正しく刻まれる律動は、決して激しい物  
ではなかったが、女は眉間に皺を寄せて耐えるような表情を作っている。  
「なんで声を堪える」  
女は尚も無言である。時折、せつなげにためいきを漏らしてはいるけれど。  
「いつまで持つかなー」  
実際のところ、彼は彼女が声を出さない訳を知っている。敬虔なファリスの信徒である  
彼女は、快楽に身を委ねることに罪悪感やら羞恥心やらがあるらしい。  
エルフである彼の目には、それが非常に馬鹿馬鹿しく映る。──気持ちがいいなら素直に  
鳴けばいいのに。  
しかしそんな彼女の正義やら信仰やらをぶち壊すのが楽しいのもまた事実。とりあえずは  
自制心を打ち砕くためにもっと快楽を与えてやろうと、律動を少し早めた。  
「……ん、あ」  
小さく声が漏れはじめた。  
「や……あ、駄目……」  
「何が駄目なんだ?」  
「声、出ちゃいます…あっ……」  
一度発してしまうともう抑えられないらしく、小さな喘ぎは断続的に漏れてくる。  
エルフは女の体温が上がっていくのを感じた。絶頂が近づいているらしい。息が上がり、  
喘ぎの間隔が狭まる。  
「あ──」  
 
ところが、今まさに、というところでエルフは動きを止めてしまった。  
彼女がとろんとした目でエルフを見上げると、彼はにやりと口を歪め、もう一度責めはじ  
めた。  
すぐに彼女の身体は昇りつめる。……が、またしても男は動きを止めた。  
数回同じようなことを繰り返すと彼女も焦らされているのに気がついたらしく、弱々しく  
不満を述べてきた。  
「なぜ……そんな」  
「なんでだろうね」  
言いながら、彼女の弱い部分を突ついては休む。  
「や、ああん……虐めないで、ください」  
上気した顔で目を潤ませながら、彼女は訴えた。同時に下から腰を押しつけてくる。  
「あーあ、至高神の神官様とは思えない、みだりがわしい仕草だ」  
「ち、ちが…」  
「さあ、どうして欲しいんだ」  
「……」  
今にも泣き出しそうな顔で、エルフを見上げ、また目をそらす。  
 
「……せて」  
「聞こえないな」  
「いかせて、いかせてください……!」  
エルフはその言葉を聞くと、満足そうに邪悪な笑みを浮かべた。  
彼女の膝を折り曲げ、深く突き入れると、「いやぁ!」とあられもない嬌声が上がる。  
激しく腰を打ちつけながら、エルフは悦に入っていた。この生真面目な女神官の、平常時  
からは想像もつかないほどに乱れた姿は、彼に大きな優越感をもたらした。──もともと  
セックスなんて好きでも嫌いでもなかったが、彼女を屈服させると、あのいけすかない神  
から寝取ったような気分になった。  
満足した彼は、目的は達成したとばかりに行為を終わらせようとしていた。  
「さっさと達してしまえ」  
つぶやき、彼女の弱点を突き続ける。  
「あっ、も…ダメぇ…!」  
背を反らし、ひときわ高く鳴いたかと思うと、次の瞬間彼女はエルフの名を呼びながら  
絶頂していた。  
同時に体内が収縮し、エルフの自身を締め上げる。襲いくる強烈な快感に抗い、慌てて  
身体を離そうと身を起こした──はずだった、が。  
「お、おい、離せ!」  
背中に回された女の腕は、がっちりとエルフの痩躯をホールドしている。下半身には  
すらりとした脚が絡みつく。  
 
達したばかりの惚けた顔に妖艶な笑みを浮かべ、  
「離れちゃ、嫌です!」  
ぎゅう、と中も外も捕らえられ、なす術も無く彼女の中に全て放ってしまった。  
 
エルフの精を全て受け止め満足したのか、彼女はくたりと脱力し、そのまま気を失って  
しまった。  
「なにこの敗北感………」  
身体を離し頭を抱える。  
抜いた箇所から自分の放った物が溢れ、現実だと思い知らされた。  
「いや、必ず妊娠すると決まったわけでもないし……いやしかし……」  
この女と自分のなら、たいそう見目の良い子供が生まれるだろう──、そんな下らない妄想を  
頭を振って払いのけた。  
彼女の穏やかな寝顔を見やると、首から下げたファリスの聖印が目に入った。  
「神から寝取っただなんてとんでもないな……行き遅れの娘を押し付けられたに違い  
ない。」  
エルフはためいきをついた。  
 
 

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